(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985683
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ロボットシステム、ロボットシステムの制御方法および処理システム
(51)【国際特許分類】
B65G 47/90 20060101AFI20211213BHJP
B65G 21/20 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
B65G47/90 Z
B65G21/20 A
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-548053(P2018-548053)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公表番号】特表2019-509234(P2019-509234A)
(43)【公表日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】EP2017055499
(87)【国際公開番号】WO2017153504
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2019年10月11日
(31)【優先権主張番号】102016002812.2
(32)【優先日】2016年3月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518052049
【氏名又は名称】クベー アーゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】518052050
【氏名又は名称】ハダディン サミ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハダディン,サミ
【審査官】
小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−249175(JP,A)
【文献】
特開平07−164367(JP,A)
【文献】
特開昭61−178259(JP,A)
【文献】
特開平09−225871(JP,A)
【文献】
特開2005−118930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 47/90
B65G 21/20
B25J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのロボットアーム(7)と、前記ロボットアーム(7)の動きを制御する制御ユニットと、を備えるロボットシステム(1)であって、
前記ロボットアーム(7)は少なくとも一つのエフェクタ(8)を含み、
前記ロボットシステム(1)は、処理ライン(19,22,26)の領域内の所定の位置に所定の向きで設置することが可能であり、対象物(10,11,15,24)または前記対象物(10,11,15,24)が載置された搬送装置(12,14)が前記処理ライン(19,22,26)の上を移動可能であって、
前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)は、
・ 前記エフェクタ8が前記対象物(10,11,15,24)を処理することができるように、前記ロボットアーム(7)が、前記ロボットシステム(1)に配置された作業スペース(9,17,27)の領域内の前記対象物(10,11,15,24)と相互作用可能であり、
・ 前記ロボットアーム(7)が、前記エフェクタ(8)を用いて前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)を前記作業スペース(9,17,27)の中に入れるか、および/または、外に出すかガイド可能である、ように構成され、
前記ロボットシステム(1)はコンプライアンス制御で制御され、
前記制御ユニットはさらに、前記ロボットアーム(7)が、前記作業スペース(9,17,27)の少なくとも一つのガイド手段(18,20,23,29)に対して相対的に前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)を動かすように構成され、処理のために配置された前記ロボットシステム(1)に対して正しい位置に自動的に配置されるように前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)をガイドし、
前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)は、前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)をガイドするタイミングが前記ロボットシステム(1)によってのみ決定されるように構成される
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記作業スペース(9)が前記処理ライン(19,22,26)の領域に設けられて、前記ロボットアーム(7)がエフェクタ(8)を用いて前記対象物(10,11)または前記搬送装置(12)を二つの互いに離間したガイド手段(18,20,23)の間の前記処理ライン(2)上にガイドできるように前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)が構成される
ことを特徴とする、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記作業スペース(17,27)が前記処理ライン(19,22,26)の外部に設けられて、前記ロボットアーム(7)が前記対象物(15)または前記搬送装置(14)を前記処理ライン(19,22,26)から二つの相互に近づいていくガイド手段(18,29)の間にある前記作業スペース(17,27)の中に入れ、および/または、これらのガイド手段(18,29)の外へ出して、その結果として前記作業スペース(17,27)から前記処理ライン(19,22,26)まで戻されるように前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)が構成される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)は、前記ロボットアーム(7)がエフェクタ(8)を用いて引張力および/または押力を前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)に加えることができるように構成される
ことを特徴とする、請求項2または3に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記エフェクタ(8)は、前記作業スペース(9,17,27)の領域にある前記対象物(10,11,15,24)と、非接触の状態で、接触した状態で、または前記対象物(10,11,15,24)に何らかの変更を行うことで、相互作用できるように構成される
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のロボットシステム。
【請求項6】
少なくとも一つのロボットアーム(7)と、前記ロボットアーム(7)の動きを制御する制御ユニットと、を備えるロボットシステム(1)を制御する方法であって、
前記ロボットアーム(7)は少なくとも一つのエフェクタ(8)を含み、
前記ロボットシステム(1)は、コンプライアンス制御で制御されて、処理ライン(2)の領域内の所定の位置に所定の向きで設置可能であり、対象物(10,11,15,24)または前記対象物(10,11,15,24)が載置される搬送装置(12,14)が前記処理ライン(2)の上を移動可能であって、
前記ロボットアーム(7)は、前記ロボットシステム(1)に配置された作業スペース(9,17,27)の領域内の前記対象物(10,11,15,24)と相互作用し、
前記作業スペース(9,17,27)には前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)をガイドするための少なくとも一つのガイド手段(18,20,23,29)が備えられ、
前記方法は、
・ 前記エフェクタ(8)を使用して前記対象物(10,11,15,24)を処理するステップと、
・ 前記対象物(10,11,15,24)を処理する目的のために、前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)が処理用の前記ロボットシステム(1)に対して正しい位置に自動的に配置されるよう前記ロボットアーム(7)によって前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)を前記作業スペース(9、17、27)の少なくとも一つのガイド手段(18,20,23,29)に対してガイドするステップ、および/または、
・ 前記対象物(10,11,15,24)の処理が完了した後、前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)を前記ロボットアーム(7)によって前記ガイド手段(18,20,23,29)から外へ出して、その結果として前記作業スペース(9,17,27)から外にガイドするステップと、を含み、
前記制御ユニットおよび前記ロボットアーム(7)は、前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)をガイドするタイミングが前記ロボットシステム(1)によってのみ決定されるように構成される
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
複数の前記ガイド手段(20,23)は、前記処理ライン(19,22)の領域に設けられて互いに離間しており、前記ロボットアーム(7)は、前記対象物(10,11,24)または前記搬送装置(12)を前記ガイド手段(20,23)同士の間に、その結果として前記処理ライン(2)の上にガイドする
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ロボットアーム(7)は、前記対象物(15)または前記搬送装置(14)を処理ライン(2)から二つの互いに近づいていく前記ガイド手段(18,29)の間に、および/または、これらのガイド手段(18,29)から元の前記処理ライン(19,22)にガイドする
ことを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガイドするステップは、
・ 前記エフェクタ(8)を用いて前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12、14)に接続せずに接触することと、
・ 前記エフェクタ(8)を用いて引張力および/または押力を前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)に加えることと、を含む
ことを特徴とする、請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ガイドするステップは、
・ 前記エフェクタ(8)を用いて前記対象物(24)または前記運搬装置(12,14)を捕捉した状態で把持することと、
・ 前記エフェクタ(8)を用いて前記対象物(24)または前記搬送装置(12,14)に引張力および/または押力を加えること、または、
・ 前記エフェクタ(8)を用いて前記対象物(24)または前記搬送装置(12,14)を持ち上げ、作業位置に移して、この作業位置に前記対象物(24)または前記搬送装置(12,14)を降ろすことと、を含む
ことを特徴とする、請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
対象物(10,11,15,24)またはこれらの対象物(10,11,15,24)用の搬送装置(12,14)が移動する処理ライン(19,22,26)と、
前記処理ライン(19,22,26)の領域に配置されたロボット(1)と、を備える処理システムであって、
前記ロボット(1)は、一つ以上の軸を有し、コンプライアンス制御で制御されるように形成されて、少なくとも一つのガイド手段(18,20,23,29)が前記処理ライン(19,22,26)の領域に配置されて、前記ロボット(1)の動きによって前記対象物(10,11,15,24)の処理をさらに行うために設けられた処理位置に前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)を移動させるように構成され、
前記ロボット(1)は、前記対象物(10,11,15,24)または前記搬送装置(12,14)をガイドするタイミングが前記ロボット(1)によってのみ決定されるように構成される
ことを特徴とする処理システム。
【請求項12】
前記ガイド手段は、前記対象物(10,11,15)または前記搬送装置(12,14)のための離間したガイド面(20,23)で形成される
ことを特徴とする、請求項11に記載の処理システム。
【請求項13】
前記ガイド面(20,23)は直線構造または非直線構造の処理ライン(19,22,26)の上に配置される
ことを特徴とする、請求項12に記載の処理システム。
【請求項14】
前記ガイド面は、前記処理ライン(19,22,26)上をガイドされる前記対象物(10,11,15)または前記搬送装置(12,14)に対して隙間(S)を有して設置される
ことを特徴とする、請求項13に記載の処理システム。
【請求項15】
前記ガイド面は、前記処理ライン(19,22,26)の領域にある作業スペース(9,17,27)に、または前記処理ライン(19,22,26)の隣に設けられる
ことを特徴とする、請求項12に記載の処理システム。
【請求項16】
前記作業スペース(9,17,27)および前記処理ライン(19,22,26)は、互いに略同一の平面上にある
ことを特徴とする、請求項15に記載の処理システム。
【請求項17】
前記作業スペース(9,17,27)および前記処理ライン(19,22,26)は、互いに異なる平面に配置され、前記ガイド手段(29)は、前記処理ライン(19,22,26)の平面に対して直交するかまたは傾斜して配置される
ことを特徴とする、請求項15に記載の処理システム。
【請求項18】
前記ガイド面(18,29)は、意図する前記処理位置に向かうにつれて互いに近づいていく
ことを特徴とする、請求項16または17に記載の処理システム。
【請求項19】
前記ガイド手段(18,20,23,29)は、柔軟性を有して設計される
ことを特徴とする、請求項11乃至請求項18のいずれかに記載の処理システム。
【請求項20】
前記ロボット(1)は、可動性ロボットである
ことを特徴とする、請求項11乃至請求項19のいずれかに記載の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム、ロボットシステムを制御する方法、およびロボットシステムを使用する処理システムまたは作業ステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットシステムは、様々な設計で知られている。いわゆる「ピックアンドプレース」ロボットシステムは、特に製造ラインまたは処理ラインの領域で使用され、処理・機械処理、仕分、および/または、梱包のための対象物が、能動コンベヤベルトまたは受動コンベヤベルトを介し個々のワークステーションや製造機械の間で連続的にガイドされる。
【0003】
これらは、少なくとも一つのロボットアームを有し、例えば、処理されたり仕分されたりする対象物や製品をある位置から別の位置に移動させる。ロボットアームの端部はグリッパまたはエンドエフェクタとなっていて、例えば、容器から対象物を取り出して工作機械などに装填したり、この工作機械から対象物を取り出して輸送目的のために別の容器に送り出したりする。
【0004】
従来技術として知られている、コンベヤベルトに載って移動する対象物の自動フロー式・連続式の処理装置や処理システムは、その周辺に、それぞれに対応した、部分的に駆動される、対象物の供給装置および排出装置を提供する必要があるため、高い投資コストが付随するのが常である。また、このようなシステムは、異なる種類の製品や対象物を処理するという点で柔軟性が低いという特徴がある。
【0005】
さて、例えば、対象物を包装したりパレットに載せたりする目的で、このような古典的なフロー式・連続処理装置の領域に「ピックアンドプレース」ロボットシステムを配置することを望む場合、いくつかの問題が生じる。このような「ピックアンドプレース」ロボットシステムは、比較的高速で正確に単調な適用業務を実行するように設計されている。しかし、そのためには、このようなフロー式処理装置のコンベヤ装置は、物の移動に関して正確にタイミングを取らなければならず、当然のことながら精度とプログラミングの面で高い投資を必要とするが、依然としてエラーに対して脆弱である。
【0006】
正確に明示されたタイミングが必要となることから、ロボットシステムは、稼働している組立てラインまたはコンベヤでしか「学習させる」ことができないので、このような学習プロセスはロボットシステム全体でより複雑になり、設置コストを増加させる。このようなフロー式処理装置の運転中に、動いているコンベヤとロボットシステムの動きを同期化させるには、ロボットアームがコンベヤベルトに追従することができる、いわゆる「コンベヤトラッキング」が必要であり、そのために、追加の制御手段と、センサと、ロボットシステムの学習に加えてシステム全体の適切な制御プログラミングと、が必要となる。
【0007】
例えば、対象物が端から端まで勝手に移動する傾斜面に複数のローラが配置された受動的なフロー式連続処理装置の場合、物の受動的な移動は、例えば人間や追加の技術的装置によって常に外部から開始される必要がある。これによりクロッキングが行われるので、ロボットシステムの動きとの同期がより困難になる。
【0008】
従来技術として知られている「ピックアンドプレース」ロボットシステムは、対象物を取り出したり、機械に供給したり、これらの対象物を容器に詰めるか梱包するかするために専用として使用される。したがって、対象物の位置、機械の位置、梱包する位置などを正確にパラメータ化する必要がある。つまり、関連する処理ラインが通り過ぎる対象物、容器、搬送機器などは、常にロボットシステムに対して正確な相対位置に存在する必要がある。したがって、「ピックアンドプレース」手順は、対象物、容器、搬送機器などの予期せぬ位置ずれが生じると非常にエラーを起こしやすいことが分かる。
【0009】
基本的に、一方では、移動する対象物の位置を正確に決定し、他方では、静止状態およびこうした移動に伴って発生する動きの両方についてロボットまたはそのエフェクタに正確に対応付けを行うためには、多数のセンサと、これらに対応する、時には複雑な分析用電子機器が必要となる。センサは、どのような形であれ、ロボットが相互作用する対象物の位置偏差を検出することができるだけであって、誤差が完全に除外されることはない。それどころか、移動を検出し、必要とあれば機械処理される対象物の種類を検出するセンサが機能するためは、これらの対象物が、少なくとも一つのロボットを含む、対応するフロー式処理装置や処理システムの所与の経路つまり処理ラインの上を、できれば直線的に厳密に調和した状態で、ガイドされる必要がある。そのためには、これに対応して、対象物のための処理装置、コンベヤベルトなどや、これらの対象物のための容器や搬送装置の高精度設計が必要となる。一方では、移動運動の枠組み内でこのような完全なシステム内に設置された対象物や搬送装置の異なる位置および位置シーケンス、他方では、実行される処理工程は、位置制御式や位置調節式のロボットシステムでしか実現できない。もちろん、こうするには、使用するセンサの分布に関連してプログラミング作業がかなり増加する。ロボットシステムは、単純なやり方でこのような環境を学習させられない。
【0010】
また、組立てロボットのような、指定された作業空間の領域で対象物を処理するように設計された従来のロボットシステムは、その動力学、寸法や設計および使用されるエフェクタに起因して、異なる位置間でこれらの対象物を同時に輸送することができない。これは、通常、処理空間が機能的かつ空間的に処理ラインから切り離されていて、当該ライン上で処理対象物を別々に移動させるか駆動されるコンベヤによって移動させるためでもある。名目上の作業スペースは、しばしば、製造機械や仕分機械のすぐ近くに配置される。
【0011】
製品の仕分および/または製造における自動化を改善することによって、コスト削減に結び付くサイクル時間を短縮するために、製造ラインごとの製品および派生品の多様性を増やすことは、製造技術における一般的な取り組みである。できれば、一つの処理ラインの上をいくつかの異なる対象物が移動し、これらが、処理ラインに応じて一つ以上の機械処理デバイスによって異なる機械処理が行われるべきである。しかし、これには、関与する装置、特に対象物を輸送または処理するためのフロー式処理装置に使用されるロボットシステムに、ある種の柔軟性および適合性が必要となる。
【0012】
また、従来技術である「ピックアンドプレース」ロボットシステムは、小部品の組立て、構成部品の組立てや挿入、マテリアルハンドリング、測定や検査などのような別の処理工程用には設計されていない。しかしながら、高度に自動化された製造ラインでは、経済上の理由から、これらの処理工程のいくつかを組み合わせることが望ましい場合がある。
【発明の概要】
【0013】
こうした現状に基づいて、本発明は、製造ラインの領域に配置することができ、そこでさらに自動化を向上させつつ、処理ラインでの使用を目的とした対象物用の対象適用業務や作業プロセスを簡素化することができるやり方で柔軟に使用することができる、ロボットシステムおよびこのようなロボットシステムの制御方法を作成することを目的とする。また、本発明は、上述した意味でのロボットまたはロボットシステムを使用することによって、意図した処理操作が行われる位置への対象物の配置がさらに簡素化される処理システムを提供することを目的とする。このような発明によって、移動する対象物用の経路および処理ラインを企画し設計する努力は、さらに最小限に抑えられるはずであり、エラーの可能性があるセンサの使用は、大部分が回避されるかまたは完全に排除されるはずである。
【0014】
これらの課題は、請求項1に係るロボットシステムと、請求項6に係るロボットシステム制御方法と、請求項12に係る、発明関連のロボットシステムを使用した機械処理/処理システムまたは作業システムと、を用いて解決される。
【0015】
したがって、本発明は、第一の態様において、少なくとも一つのロボットアームと、前記ロボットアームの動きを制御する制御ユニットと、を備えるロボットシステムに関係し、
前記ロボットアームは少なくとも一つのエフェクタを含み、
前記ロボットシステムは、処理ラインの領域内の所定の位置に設置可能であり、
対象物または前記対象物が載置された搬送装置が前記処理ラインの上を移動可能であって、
前記制御ユニットおよび前記ロボットアームは、
・ 前記エフェクタが前記対象物を処理することができるように、前記ロボットアームが、前記ロボットシステムに配置された作業スペースの領域内の前記対象物と相互作用可能であり、
・ 前記ロボットアームが、前記エフェクタを用いて前記対象物または前記搬送装置を前記作業スペースの中および/または外にガイド可能である、ように構成され、
前記ロボットシステムはコンプライアンス制御で制御され、
前記制御ユニットはさらに、前記ロボットアームが、前記作業スペースの少なくとも一つのガイド手段に対して相対的に前記対象物または前記搬送装置を動かすように構成され、処理のために配置された前記ロボットシステムに対して正しい位置に自動的に配置されるよう前記対象物または前記搬送装置をガイドする。
【0016】
本発明に係るコンプライアンス制御は、インピーダンス制御、間接力制御、力制御、またはこれらの制御手段の組合せを意味する。
【0017】
これに関連して、本発明に係る前記ロボットのコンプライアンス制御は、以下に説明するように、できれば、前記対象物をガイドすることで移動が近づいていくようなものであるべきである。
【0018】
また、コンプライアンス制御のための挙動は、前記ロボットによるガイド中に前記対象物と前記ガイド手段との間に生じる力が前記対象物に損傷を与えないように構成されるべきである。
【0019】
したがって、本発明は、エフェクタを用いて対象物と能動的に相互作用するロボットシステムの提供を目的とする。本発明の文脈において、前記ロボットシステムは、例えば従来技術の「ピックアンドプレース」ロボットシステムのような純粋な輸送を超える、または通常は常に同じようにプロセス内で繰り返される組立てロボットの単純な組立工程を超える、前記対象物との能動的な相互作用を行うように意図して設計することもできることを理解すべきである。
【0020】
前記ロボットアームは、この目的のために設けられた前記作業スペース内で前記対象物を「処理」するだけでなく、少なくとも一つの前記ガイド手段を用いて、前記対象物または前記対象物用の搬送装置を前記作業スペース内に能動的に別々にガイドしたり、前記ロボットアームの前記エフェクタが意図された目的のために前記対象物と相互作用する前に前記作業スペースに置くか、および/または、必要であれば、前記処理の完了後に、少なくとも一つの前記ガイド手段を用いてこの作業スペースから外に出したりする。したがって、本発明は、この目的のために意図された前記処理操作をかなり単純化し加速することができるという利点を伴う。サイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【0021】
これに関連して、本発明は、それに限る訳ではないものの、軽量のロボットシステムを対象とする。このようなロボットシステムは、前記ロボットアームの各関節にトルクセンサおよび/または力センサを有する。この力センサ/トルクセンサシステムは前記ロボットシステムのプログラム制御可能なコンプライアンス制御となるので、より簡単でメンテナンスが少なく、その結果としてより安価なツールまたはエフェクタを使用することができる。
【0022】
コンプライアンス制御は、インピーダンス制御または剛性制御としても知られており、原理的には、前記ロボットシステムの前記関節の間接的な力制御であって、例えば、外部から加えられた、または作用するトルクおよび力に関連する線形ばね質量ダンパーシステムとして機能する。換言すれば、例えば、グリッパによって対象物に加えられる所望の接触力は、既に接触している場合には「所望の動作」を介して間接的に生じるのであって、規定された制御目標を考慮しつつロボットシステムによって加えられる接触力またはトルクを指定する従来の力制御の場合のように指定することはない。
【0023】
一実施形態では、前記ロボットシステムは、前記作業スペースが前記処理ラインの領域に設けられて、前記ロボットアームがエフェクタを用いて前記対象物または前記搬送装置を二つの離間したガイド手段の間の前記処理ライン上にガイドできるように前記制御ユニットおよび前記ロボットアームが構成される。前記処理ライン、例えば受動コンベヤベルトは、前記ロボットシステムの直近に配置されるのが好ましい。原理的には、このような「受動」コンベヤベルトは平坦な処理ラインのみで構成され、その進路は、この処理ラインの側方に設けられるガイド面またはガイド壁の形態を有する二つのガイド手段によって決定される。前記対象物または前記搬送装置は、前記ロボットアームによってこれらのガイド壁の間にガイドされ、いわば外壁として作用する。コンプライアンス制御が統合された前記ロボットは、前記対象物がガイド手段を通ってガイドされる間に、基本的には、プルかプッシュのいずれか前記対象物を動かすのに必要な力のみを加え、いくつかの軸を有する前記ロボットは、前記ガイド面と前記対象物または前記搬送装置との間に相応の隙間が設けられた状態で、コンプライアンス制御に則り前記ガイド手段によって前記対象物にもたらされる移動の方向に従う。このようにして、本発明によれば、前記ロボットによって駆動される前記対象物または前記搬送装置は、実質的に線形の処理ラインおよび任意の湾曲した処理ラインの移動に従うことができる。
【0024】
前記ガイド面は、摩擦係数が低いように設計するのが好ましい。これは、前記対象物をガイドするための基本的な利点であるが、基盤として使用する前記ロボットシステムの前記コンプライアンス制御を設計する際に、前記摩擦係数したがって前記ガイド面とその上を移動する前記対象物との間の摩擦対は適切なやり方で考慮するので、絶対に必要という訳ではない。
【0025】
別の実施形態では、前記ロボットシステムは、前記作業スペースが前記処理ラインの外部に設けられて、前記ロボットアームが前記対象物または前記搬送装置を前記処理ラインから二つの互いに近づいていくガイド手段の間にある前記作業スペースの中に入れ、および/または、これらのガイド手段の外へ出して、その結果として前記作業スペースから前記処理ラインまで戻されるように前記制御ユニットおよび前記ロボットアームが構成される。前記ロボットアームは、前記対象物または前記搬送装置を、前記処理ラインから取り出し、前記ロボットアームまたはその端部のエフェクタによって実行される追加の処理工程のために前記作業スペースに供給する。意図した作業工程が完了した後、前記ロボットアームは前記対象物または前記搬送装置を例えば能動コンベヤベルトである元の前記処理ラインに戻すと、処理された前記対象物は自動的にさらに搬送される。
【0026】
近づいていく前記ガイド手段は、前記対象物の最終処理位置に向けて近づいていく二つの漏斗状ガイド面の形に設計することができる。前記ロボットは、前記対象物を二つの前記ガイド面の間に置き、終端位置の方向に引っ張るか押すと、前記対象物を取り囲む前記ガイド面がだんだん狭くなり最終的に中心に位置させる。本発明によれば、これはコンプライアンス制御に則った動作でのみ可能なので、前記対象物と前記ガイドとの間の過度な接触力は生じることがない。
【0027】
本発明によれば、前記ロボットアームは、例えば取り出したり載置したりするための「ピックアンドプレース」ロボットアームが行うような、様々な位置の間にある前記対象物または前記搬送装置を持ち上げたり載置したりする行為は行わず、その代わりに、平面または表面上にある前記対象物または前記搬送装置を、前記処理ラインの前記平面または前記表面のいずれか、および/または、前記作業スペースの前記平面または前記表面の上に引っ張るか、または、この平面または表面の向こう側に押すように設計されていることが特に好ましい。それぞれの面は、必ずしも共通の平面を形成する必要はなく、ある程度互いにずれていてもよい。これは、本来のプログラムされたコンプライアンス制御を使用した、および/または、それに相当する力制御と組み合わせた本発明に係る前記ロボットシステムは、不規則な表面でも物が移動することを可能にするからである。
【0028】
本発明によれば、前記ロボットアームが端部に保持し、前記対象物と相互作用するかまたは前記対象物を処理するエフェクタの種類にかかわらず、前記制御システムおよび前記ロボットアームは、できれば前記エフェクタを備えた前記ロボットアームが、例えば横方向に前記対象物または前記搬送装置と単純に係合して、わずかな推力を加えることによって前記対象物または前記搬送装置をさらに押すように構成することができる。
【0029】
あるいは、前記制御ユニットおよび前記ロボットアームは、前記ロボットアームがエフェクタを用いて引張力および/または押力を前記対象物または前記搬送装置に加えることができるように設計される。
【0030】
特定の実施形態では、前記ロボットアームは、例えば前記対象物に追加の構成要素を装填するために、前記対象物と相互作用することも意図した、エフェクタとしてのグリッパを有する。これによって、前記グリッパは、前記対象物または前記搬送装置を能動的に把持したり引き込んだりして、前記対象物または前記搬送装置に見合った軽い引張力を加えることで前記処理ライン上の前記対象物または前記搬送装置を前記作業スペースに引っ張るようにも作用し、またそのように設計されている。
【0031】
これに関連して、本発明によれば、前記ガイド手段が、四つのテーパー形状の壁で形成され、これらの壁が、前記ロボットが前記対象物を上方から挿入する一種の漏斗を形成することによって、前記対象物が漏斗の壁を通って最終位置までガイドされることも可能である。このようにして、例えば、この目的のために設けられたホルダまたは容器に前記対象物を挿入する組立てプロセスは、プログラミングの点でかなり単純化することができる。
【0032】
搬送装置が使用されるとき、当該搬送装置は、例えばハンドル、小穴、突出部など、前記グリッパと係合するように設計された要素を含むことが多い。
【0033】
前記ロボットアーム上に設けられた前記エフェクタは、例えば検査目的で前記対象物を端から端まで移動するカメラのように、非接触で前記対象物と相互作用するように設計することができる。
【0034】
しかし、これは、前記対象物に接触するエフェクタ、例えば、構成要素を前記対象物に挿入する測定ピンまたはグリッパであってもよい。
【0035】
また、工具として設計され、前記対象物を物理的に変えることができるエフェクタ、例えば、はんだごてや構成要素を固定する機能を有する工具も考えられる。
【0036】
本発明によれば、前記エフェクタの設計または前記エフェクタの意図された使用にかかわらず、前記エフェクタは、前記処理ラインの領域内の定められた位置の間で前記対象物またはその搬送装置を能動的にガイドするのに常に使用することができる。
【0037】
したがって、本発明に係る前記ロボットシステムの主な利点は、前記機械処理プロセス/作業プロセス自体のタイミングまたはクロッキングを決定できることである。これによって、常に自動化されたコンベヤベルト、およびトラッキング、すなわちコンベヤベルトとロボットシステムとの間での動作の同期化の必要性がなくなる。
【0038】
受動搬送システムでは、本発明に係る前記ロボットシステムは、前記処理ラインから前記対象物を自動的に取り出して、処理後に前記処理ラインに戻し、必要に応じて、再び自動的に前記処理ラインの上を移動するように元の前記処理ラインの上まで押す(hit or push)ことができる。
【0039】
コンプライアンス制御を行うロボットシステムは少なくとも一つのガイド手段との相互作用で対象物をガイドできることが本発明によって実現され得るので、当該制御に対応するロボットが単純にテーブルや作業台の領域内に配置された後に前記ガイド手段が前記テーブルの表面に動かないよう固定される機械処理システムまたはワークステーションを形成することができる。これによって、意図した用途のための多種多様な構成で処理システムまたはワークステーションを製造することが可能になり、ヒューマンロボット協調(HRC)型ワークステーションにも特に好適である。
【0040】
本発明はまた、第二の態様において、少なくとも一つのロボットアームと、前記ロボットアームの動きを制御する制御ユニットと、を備えるロボットシステムを制御する方法であって、前記ロボットアームは少なくとも一つのエフェクタを含み、前記ロボットシステムは、コンプライアンス制御で制御されて、処理ラインの領域内に設置可能であり、対象物または前記対象物が載置される搬送装置が前記処理ラインの上を移動可能であって、前記ロボットアームは、前記ロボットシステムに配置された作業スペースの領域内の前記対象物と相互作用し、前記作業スペースには前記対象物または前記搬送装置をガイドするための少なくとも一つのガイド手段を備えられ、
前記方法は、
・ 前記エフェクタを使用して前記対象物を処理するステップと、
・ 前記対象物を処理する目的のために、前記対象物または前記搬送装置が処理用の前記ロボットシステムに対して正しい位置に自動的に配置されるよう前記ロボットアームによって前記対象物または前記搬送装置を前記作業スペースの少なくとも一つのガイド手段に対してガイドするステップ、および/または、
・ 前記対象物の処理が完了した後、前記対象物または前記搬送装置を前記ロボットアームによって前記ガイド手段から外へ、その結果として前記作業スペースから外へガイドするステップと、を含む。
【0041】
複数の前記ガイド手段が前記処理ラインの領域に設けられて互いに離間している場合、前記ガイドするステップは、前記ロボットアームが、前記対象物または前記搬送装置を前記ガイド手段同士の間に、その結果として前記処理ライン上に引っ張るか押すことを伴う。
【0042】
複数の前記ガイド手段が前記処理ラインから離れている場合、前記ガイドするステップは、前記ロボットアームが前記対象物または前記搬送装置を処理ラインから二つの互いに近づいていく前記ガイド手段の間に、および/または、これらのガイド手段から元の前記処理ラインに戻すことを伴う。
【0043】
本発明に係る前記方法の一実施形態では、前記ガイドするステップは、
・ 前記エフェクタを用いて前記対象物または前記搬送装置に接続せずに接触することと、
・ 前記エフェクタを用いて引張力および/または押力またはこのような力に相当するトルクを前記対象物または前記搬送装置に加えることと、を含む。
【0044】
本発明に係る前記方法の別の実施形態では、前記ガイドするステップは、
・ 前記エフェクタを用いて前記対象物または前記運搬装置を捕捉した状態で把持することと、
・ 前記エフェクタを用いて前記対象物または前記搬送装置に引張力および/または押力を加えること、または、
・ 前記エフェクタを用いて前記対象物または前記搬送装置を持ち上げ、作業位置に移して、この作業位置に前記対象物または前記搬送装置を降ろすことと、を含む。
【0045】
言い換えれば、プログラムされたコンプライアンス制御を必要に応じ規定の力制御と組み合わせて用いた、本発明に係るロボットシステムを使用する、本発明に係る前記方法は、一般に、製造ラインの領域に設置された前記ロボットシステムが、機械処理される被処理物を押したり引っ張ったりするステップに関するものであって、機械処理を行うことは、名目上の前記作業スペースの外側にあって前記ロボットシステムの前記ロボットアームが届く位置から、その作業スペース内にあってそこに設けられたそれぞれの前記ガイド手段と相互作用する規定された位置まで非接触状態で測定するという意味で理解することも可能であり、前記作業スペースは、直接に前記製造ライン上にまたはその隣に位置することができる。次いで、前記ロボットシステムは、前記対象物に対して意図された前記処理ステップを実行する。前記処理の完了後、必要に応じ再びガイド手段を用いて、前記ロボットアームは、自らのエフェクタを用いて、被処理物を前記処理ライン上か、または当該ライン上の意図された製造方向に向けて、必要に応じさらに次の製造ステーションまで、押す。
【0046】
本発明に係る前記方法の特別な利点として、前記制御ユニットおよび前記ロボットアームは、前記対象物または前記搬送装置をガイド中のクロッキングが前記ロボットシステム自体によってのみ指定されるように設計することもできることである。
【0047】
前記ロボットシステムによって前記クロッキング指定すると、前記処理ライン上の前記対象物の移動が前記ロボットシステムによって実行される前記処理工程から切り離されるため、基本的にサイクル時間を短縮することができる。システム全体のプログラミングおよび前記ロボットシステムの学習もかなり単純化される。
【0048】
別の重要な利点は、ランダムな順序で移動するいくつかの異なる対象物を一つの同じ処理ラインまたは製造ライン内で処理できることである。前記ロボットシステムは、前記対象物に応じて当該対象物に対して様々な操作を実行できるように設計することもできるので、前記ロボットシステムは、例えば、適切な外部センサシステムを用いてリアルタイムに、またはイベント処理プログラム内で前記対象物を互いに区別することができる。
【0049】
前記対象物または前記搬送装置をガイドする際に軌道を画定するために、ユーザは、この目的のために設けられた名目上の作業スペースに向けられたそれぞれの前記ガイド手段を考慮しながら、できれば学習手順を用いて、機械処理されるべき被処理物か搬送器具の開始位置および対応する進入軌道を、把持位置または接触位置とともに、前記ロボットシステムに格納する。さらに、前記作業スペース領域内の前記被処理物の終了位置および対応する戻り軌道が前記ロボットシステム上に設定される。
【0050】
これによって、前記ロボットシステムにとって、いわば、事前にプログラムされた機械処理工程または作業工程を実行するために、前記対象物または前記被処理物またはそれらを担持する前記搬送装置を自らの方に取ってくることが容易になる。
【0051】
前記ガイド手段は、前記ロボットまたはその個々の軸の動きと相互作用して前記対象物を実際にガイドするので、前記ロボットシステムが横断する移動経路は、画像処理または追跡システムなどの複雑な外部センサを複数用いて高精度に規定して、すなわち正確に位置制御または規制し、または監視して、保証することをしてはならず、むしろ、一定の公差および偏差を考慮してこれらの移動経路を格納したり学習させたりすれば十分である。したがって、プログラミングの労力が大幅に簡素化される。
【0052】
前記対象物が前記処理ラインの延長部分上を移動する受動搬送システムの場合、前記ロボットシステムは、前記ロボットアームを介して常に次の前記対象物または次の前記搬送装置を引っ張ったり押したりし、さらに、前記ロボットシステムによって、以前の最終的に処理された前記対象物またはそれに対応する前記搬送装置を前記処理ライン上の次のステーションに自動的に搬送する。あるいは、前記ロボットシステムは、機械処理された前記被処理物自体を次のステーションにガイドすることができるので、ユーザは、対応する前記軌道もまた前記ロボットシステムに格納しなければならない。両方の場合において、前記対象物の最終ガイドは、常に前記処理ラインの領域に設けられた前記ガイド手段によって行われる。
【0053】
第三の態様では、本発明は、対象物またはこれらの対象物用の搬送装置が移動する処理ラインと、この処理ラインの領域に配置されたロボットと、を備える処理システムを提供し、前記ロボットは、一つ以上の軸を有し、コンプライアンス制御で制御されるように構成・設計されて、少なくとも一つのガイド手段が設けられ、前記処理ラインの領域に配置されて、前記ロボットの動きによって前記対象物の処理をさらに行うことを意図した処理位置に前記対象物または前記搬送装置を移動させるように設計される。
【0054】
前記機械処理システムまたは処理システムの一実施形態では、前記ガイド手段は、前記対象物または前記搬送装置のための離間したガイド面からなり、前記ガイド面は設計上直線または非直線の処理ラインの上に配置される。
【0055】
前記移動、いわば前記処理ライン上にある前記対象物の駆動は、前記ロボットのコンプライアンス制御された動きによって発生するが、実際のガイドは前記ガイド手段自体を介して発生するので、前記ガイド面は、前記処理ライン上をガイドされる前記対象物または前記搬送装置に対して一定の隙間を有して設置され得る。こうすれば、例えば、前記対象物の寸法の公差偏差を補償することができる。規定された隙間または遊びを設けることによって、前記ロボットが特定の偏差つまりある程度の曖昧さを伴って継続すべき動作をプログラムすることが可能になり、より容易になる。
【0056】
処理ラインは、必要に応じて、いくつかの作業ステーション間で、処理すべき対象物が連続的または不連続的に移動することができる製造ラインまたは任意に設計されたラインである。しかし、その上に適切なガイド手段が固定された簡単な作業台の表面もまた考えられるので、前記ロボットは単にテーブルの領域内に配置されるだけである。原理的には、それ自体はテーブルに対して正確な位置に配置することができない可動性ロボットをこの目的のために使用することもできるが、可動性ロボットがこのような不正確な位置に配置されるのは、本発明に係る、コンプライアンス制御とガイド手段との組合せによって容易に補償できる。
【0057】
前記処理ラインは、例えば、前記対象物が自重で移動するようにいくつかのローラを傾斜面上に備えた受動搬送システムであってもよく、それに従って、前記ロボットシステムの前記作業スペースの領域または近くに前記対象物または前記搬送装置のための少なくとも一つの停止手段を設けることがある。前記対象物は前記停止手段に衝突し、前記ロボットアームが処理される前記対象物をそこから直接取り出す。
【0058】
前記機械処理システムの別の実施形態では、前記対象物または前記搬送装置のための少なくとも一つのガイド手段が、前記処理ラインの領域または外側に、できればすぐ隣に設けられてもよい。
【0059】
特に、名目上の前記作業スペースが前記処理ラインの外側にある実施形態では、互いに向かって近づいていく二つのガイド手段を設けてもよい。前記ロボットアームは、処理すべき前記対象物を前記処理ラインから二つの前記ガイド手段の間に位置する前記作業スペースに引っ張る。公差偏差への対策として可撓性材料で作ることもある前記ガイド手段が互いに近づいていく設計によって、前記対象物または前記搬送装置は前記ロボットシステムに対して正しい相対位置または正しい相対方向に自動的に配置される。これによって、前記ロボットシステムをプログラミングするための要件がさらに単純化される。
【0060】
本発明に係る機械処理または処理システムでは、前記作業スペースおよび前記処理ラインは、原則として同じ高さに位置するのが好ましい。しかしながら、これらが異なる平面上に配置され、前記ガイド手段が、前記処理ラインの平面に対して直交するかまたは傾斜して配置されてもよい。前記ガイド手段は互いに近づいていく複数の面によって形成されており、それらの間に前記対象物が原則として前記ロボットによって上から挿入されて、所望の最終位置まで下方に向かうにつれて中心に寄せられる。
【0061】
一方では本発明に係るロボットシステムおよび他方ではこのようなロボットシステムを実装する処理システムの主な利点は、特別な、特に、空間的に非常に正確な、前記作業スペースと前記処理ラインの構成および配置を必要としない点にあることが明らかである。
【0062】
フロー式または連続式の前記処理装置または前記処理ラインは、前記ロボットシステムによって実行される前記処理工程とは独立して完全に受動的に設計することができ、これによって、能動化された供給装置および排出装置もこれらに対応する移動制御も設ける必要がなくなるので、投資コストを大幅に削減できる。
【0063】
必要に応じてプログラマブル力制御と組み合わせた前記コンプライアンス制御のおかげで、本発明に係る前記ロボットシステムは、前記機械処理工程のクロッキングと移動自体の速度を指定することによって、処理ラインと連携して見かけ上自立的に動作する。
【0064】
しかしながら、コンプライアンス制御を備えたロボットシステムを使用する大きな利点は、前記処理ラインに沿うと同時に作業スペースに対応して処理される対象物のガイドが、この目的のために設計され当該手段に対応する複数の地点に設置されたガイド手段との相互作用によってのみ発生し得ることである。これによって、前記ロボットの厳密な位置制御の必要性がなくなるので、前記対象物または前記搬送装置が移動するにつれてこれらの個々の位置を検出するセンサは不要である。この目的のための評価用電子機器/センサおよび制御システムは完全に省略することができる。
【0065】
添付の図面に示された実施形態の説明から本発明のさらなる利点および特徴が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】既知のフロー式処理装置にあるロボットシステムの斜視図を例示したものである。
【
図2】本発明に係る第一実施形態のロボットシステムを用いた処理システムの斜視図であって、a)、b)、c)は当該処理システムにおけるロボットシステムのロボットアームの異なる位置の例である。
【
図3】本発明に係る第二実施形態のロボットシステムを用いた処理システムの斜視図であって、a)、b)は、当該処理システムにおけるロボットシステムのロボットアームの異なる位置の例を示す。
【
図4A】本発明に係る第三実施形態のロボットシステムを用いた処理システムの斜視図である。
【
図5】本発明に係る第四実施形態のロボットシステムを用いた処理システムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1は、できれば軽量設計のロボットシステム1が、フロー式または連続式処理装置3の処理ライン2上に配置されている従来技術の一例を示す。処理ライン2上で、被処理物または対象物4が、これらに対応する搬送装置5上に載置されて、能動コンベヤベルト6を介してロボットシステム1を通過して移動する。
【0068】
ロボットシステム1は多軸ロボットアーム7を有し、そのアームの端部にはエフェクタ8、例えば測定ピンが付いていて、ロボットアーム7がそれを使用して、処理ライン2上でロボットシステム1の直ん前に位置する、ロボットアーム7に配置された作業スペース9の領域で相互作用する。ロボットアーム7は、測定ピン8を用いて、例えば検査目的のために対象物4を走査することができる。
【0069】
この構成では、対象物4は、能動的に駆動されるコンベヤベルト6によってロボットシステム1を通過し自動的に移動する。コンベヤベルト6が所定の速度で動くので、ロボットシステム1の作業プロセスの周期は、最終的にコンベヤベルト6の速度によって決まる。したがって、ロボットアーム7が実行する機械処理工程の時間ウィンドウは制限されたままで、ロボットアーム7の動きをコンベヤベルト6の速度に合わせなければならない。
【0070】
他方、
図2は、ロボットシステム1が周期つまりクロッキング/タイミングそのものを設定できる、本発明に係る第一実施形態の機械処理システム/処理システム/作業システムを示す。
【0071】
様々な対象物10、11がこれらに対応する搬送装置12に載置され、搬送装置12は側部にフレームまたはハンドル13を有する。
【0072】
処理ライン19は、互いに一定の間隔で離れて配置されたガイド面20という形態の二つのガイド手段によって形成され、それらの間を搬送装置12が移動する。ガイド面20は、いわばガイドレールとして機能し、これらの間で搬送装置12が、自らのハンドル13に係合するロボットアーム7によって引っ張られるか、または押される。
【0073】
図2のa)〜c)は、上記に関連して、ロボットシステム1の異なる位置を平面視で概略的に示したものである。本発明に係るロボットシステム1は、七軸ロボットアーム7を備えた可動性ロボットであることが好ましい。
【0074】
図2のa)では、処理ライン19上において名目上の作業スペース9の左側で、エフェクタ8を有するロボットアーム7が、搬送装置12のハンドル13にどのように作用して、それを名目上の作業スペース9内に引っ張るかが示されている。
【0075】
搬送装置12上の図示しない対象物が処理された後、
図2のb)およびc)に示すように、エフェクタ8は再び搬送装置12のハンドル13に係合し、処理ライン2上でさらに右に押す。次いで、ロボットアーム7は、再び左に戻すことができて、次の搬送装置12と接触しそれを引いて機械加工目的のためにまた名目上の作業スペース9の領域の中に入れることになる。
【0076】
ロボットアーム7は、処理ライン2上に搬送装置12を引いて、ここではロボットシステム1の真ん前に配置された名目上の作業スペース9の中に自動的に入れて、処理が済むと、搬送装置12を名目上の作業スペース9の外へ自動的に押し出すので、ロボットシステム1によって実行される作業工程の周期は自動的に設定されるか、またはロボットシステム1が、実行すべき作業工程に応じて処理ライン19上の供給速度を決定する。
【0077】
結果として処理工程の可変性が増すことから、異なる対象物10および11を、個別に、必要に応じて同一の処理システム内の同一のロボットシステム1を用いて別々に、処理し、処理ライン19上に個別に搬送することができる。
【0078】
本発明によれば、ロボットまたはロボットシステム1はコンプライアンス制御を行うので、ロボットアーム7は、エフェクタ8がハンドル13と係合するとき、処理ライン19上で作用を与える引張力または押力を加えるだけでよい。この場合、搬送装置12の直線的なガイドは、二つのガイド面20によってのみ行われる。ロボットアーム7によって加えられる力と相互作用するこのガイド機能のおかげで、エフェクタ8は単にハンドル13の側で静止するだけで完全に事足りる。
【0079】
ロボットシステム1のための位置制御および位置調節の必要がない場合には、ロボットシステム1は、スペース内に、および処理ライン19との関係で、固定された変更不可能な位置を占有する必要はなく、本発明によれば、可動性の設置台21を利用する単純な動作およびやり方によって、名目上の作業スペース9に対しておよび処理ライン19に対して意図した位置にロボットシステム1を配置することができる。したがって、複雑な設備入替え手段がなくても変更後の機械処理プロセスに適合させることができる。さらに、このような処理システムでは、いくつかのこのようなロボットシステム1が、おそらくは一人以上の作業者の介入を伴うにせよ、処理ライン19上で独立してまたは相乗的に協働することが可能である。これにより、例えば、特にHRCロボットシステムを用いた製造ラインを設置するなど、任意のシーケンスを処理システム用に設計することができる。本発明に係るこのような処理システムの設計および構成における可変性には実質的に制限がない。
【0080】
図2は、直線状の処理ライン19のみ有する処理システムを示しており、
図4Aは、本発明に係る第三実施形態の処理システムであってコースの途中で変化する処理ライン22を示している。この処理ライン22は、二つの離間したガイドレールつまりガイド面23によって形成されることもあり、それらの間を対象物24はロボットアーム7に押されて進む。コンプライアンス制御を備えたロボットアーム7は、対象物24にエフェクタ8が横方向に接触して搬送を促すだけなので、対象物24がガイド面23と相互作用し処理ライン22のカーブ部分25の周りでガイドされてもよい。
【0081】
詰まるのを防止するために、
図4Bに示すように、ガイド面23と対象物24の寸法との間に所定の隙間Sが設けられる。したがって、ロボットシステム1は、その制御挙動のおかげで、移動方向を横切る方向には一定量の曖昧さを伴って、対象物24を処理ライン22上に移動させることができる。
【0082】
図3は、本発明の第二実施形態における別の処理システムを示す。
【0083】
ここでもやはり能動コンベヤベルト6である処理ライン26上を、処理される対象物15がその上に載置された搬送装置14が移動する。搬送装置14は、その前方側にハンドル要素16を備える。
【0084】
ロボットシステム1の真ん前には、相互に向かって近づいていく二つのガイド手段18を境界とする名目上の作業スペース17が設けられている。
【0085】
図3のa)およびb)に概略的に示すように、本発明に係るロボットシステム1のロボットアーム7が、搬送装置14を搬送ベルト6から持ち出しそれを自分の前にある作業空間17に引き込むことによって、近づいていくガイド手段18が、搬送装置14を最終的な作業位置まで自動的に中央に寄せて、搬送装置14がガイド手段18のストッパ18 'の間に係合され、その結果としてロボットアーム7が、搬送装置14を高い位置精度で配置する必要がなく所望の作業工程を実行することができるので、事前のパラメータ設定を容易に行うことができる。
【0086】
対象物15の処理を完了した後、ロボットアーム7は、そのエフェクタ8が単にハンドル要素16に係合することによって、搬送装置14をコンベヤベルト6上に戻すことができる。
【0087】
本発明に従って動作するロボットのコンプライアンス制御によって、ロボットシステム1は、コンベヤ6と作業スペース17が共通の平面にない状態でも、コンベヤ6と作業スペース17との間で搬送装置14を前後に動かすことができる。
【0088】
図5は、本発明に係る第四実施形態の処理システムを概略的に示している。その中には、その上を対象物24が移動するコンベヤベルト6からさらに離れた名目上の作業スペース27がある。ロボットシステム1のエフェクタは、対象物24を掴むことができる把持機構28として設計されている。ロボットアーム7は、対象物24を持ち上げて、ロボットアーム7のいくつかの位置で図示した回転運動によって作業スペース27に移送する。作業スペース27は、テーパー形状の漏斗つまりホッパ29の形をしたガイド手段を有し、そこにロボットアーム7が対象物24を挿入する。すると、対象物24は、ロボットアーム7から完全に外れると同時に、テーパー形状の壁を通って最終作業位置つまり組立て位置の中央に自動的に寄せられる
【0089】
本発明によれば、所定のガイド手段に沿ったガイドは、その設計内容にかかわらず、本発明に係るロボットシステムがもともと運動機能または動力学に関して準拠しており、例えば、ロボットアームのリンク間の個々の関節内にある駆動ユニットの力制御、コンプライアンス制御、またはインピーダンス制御、もしくはこのような異なる制御の組合せの結果としてのハイブリッド手法による制御の実現性によってさらにサポートされる。これは様々な形態で具体化される。最も重要なのは、ジョイント座標の制御すなわち座標軸制御、または、例えばデカルト空間で定義されて、例えばヤコビのマトリックスを用いるなどの幾何学的投影を介して公称ジョイントトルクまたは公称ジョイント力が変換される、タスク指向制御である。また、マルチプライオリティ制御などの拡張した制御も使用できる。
【0090】
したがって、指定したガイド手段と処理ラインの領域で相互作用することによって、ロボットによる対象物の簡単なガイドを実現することができる。
【0091】
本発明に係るロボットシステム1はまた、人々がこのロボットシステム1を有するフロー式処理装置の作業工程に同時に関与する環境において特に適しているので、このようなロボットシステム1を適切な人間ロボットコラボレーション用に設計することができる。
【0092】
純粋な「ピックアンドプレース」作業工程および反復アセンブリ工程を超える、本発明に係るロボットシステム1は、フロー式処理装置内での個々の作業工程のタイミングを独立して決定して、積極的に対象物を処理することを意図しているので、処理する対象物の種類およびこれらの対象物に対して実行される処理工程の種類の両方に関して、可変性および柔軟性に制限がないことは明らかであろう。
【0093】
本発明に係るロボットシステム1は、それぞれの意図された目的のために個別に使用されるのでそれらに応じてプログラミングされパラメータ化されるが、ロボットシステム1はそれ自体がコンプライアンス対応の設計であることからプログラミング労力はあまりかからない。また、特に、ロボットアームの個々の関節に関して、その結果としてそれを有する本発明に係るロボットシステム1の全体的な動作に関して、上述のコンプライアンス制御および力制御を役立てることができる。