【実施例】
【0028】
本発明は、転写槽幅方向における転写液Lの流速の均一化、特に転写フィルムFが転写槽2の転写ゾーンZ2に到達するまでのフィルム展開ゾーンZ1において転写液表層流の流速の均一化(流速差の縮小化)を図るようにしたものであり、これにより転写ゾーンZ2に達する転写フィルムFの拡がり度合い(展開状態)を均一化し、液圧転写がより精緻に行えるようにしたものである。なお本明細書では、転写槽幅方向において均一化が図られた流れを展開適化流と称し、当該展開適化流を形成するための構造を適化流導出構造と称している。
【0029】
まず本発明に適用される転写フィルムFから説明する。転写フィルムFは従来公知の市販されているものが適用できる。具体的には、転写フィルムFとして、水溶性フィルム(例えばPVA;ポリビニルアルコール)上に転写インクによる転写パターンが形成されたフィルムが一般的である。
また、転写パターンとしては、従来より公知、市販されているパターンいずれも問わない。すなわち迷彩模様のパターン、木目模様のパターン、金属(光沢)模様のパターン、大理石模様などの岩石の表面を模した石目模様のパターン、布目や布状の模様を模した布地模様のパターン、タイル張り模様・レンガ積み模様などのパターン、幾何学模様、ホログラム効果を有するパターン等の各種パターンが挙げられ、更にはこれらを適宜複合したものでも構わない。なお、上記幾何学模様については、図形はもちろん文字や写真を施したパターンも含むものである。
また転写インクは、水溶性フィルム上に乾燥状態で付着形成されており、転写を行う直前に活性剤の塗布によって転写可能な状態とするものである(いわゆる活性化)。
因みに、転写フィルムFとして特に金属蒸着フィルム(ホログラムフィルム)を適用した場合に、上記適化流導出構造によって、転写槽2の幅方向における流速が均一化するものであり、このため転写フィルムFの展開状態が安定し、より精緻な液圧転写が行え、転写パターンが綺麗に再現できることが本出願人によって確認されている。
【0030】
以下、液圧転写装置1について説明する。
液圧転写装置1は、一例として
図1〜3に示すように、転写液Lを貯留する転写槽2と、転写フィルムFを転写槽2におけるフィルム展開ゾーンZ1に連続供給する転写フィルム供給装置3と、転写フィルムFを転写可能な状態にする活性剤塗布装置4と、転写槽2に浮遊支持された転写フィルムFの上方から適宜の姿勢で被転写体Wを没入させ、且つ出液させる(引き上げる)被転写体搬送装置5とを具えて成る。
また転写槽2は、転写液面上に供給された転写フィルムFの両サイドを保持するフィルム保持機構6を具えるとともに、上述した適化流導出構造7を具える。
以下、液圧転写装置1を構成する各部材や機構(構造)について説明する。
【0031】
まず転写槽2について説明する。
転写槽2は、液圧転写を行うにあたり、転写フィルムFを浮遊支持する部位であり、転写液Lをほぼ一定の液レベル(水位)で貯留できる転写槽本体としての処理槽21を主な構成部材とする。このため処理槽21は天面が開口され、前後左右が壁面で囲まれた有底状を成し、特に処理槽21の左右両サイドを構成する両側壁に符号22を付すものである。
ここで本明細書では、処理槽21において転写フィルムFが転写液面上に繰り出されてから転写されるまでの領域をフィルム展開ゾーンZ1と称しており、このフィルム展開ゾーンZ1に対し、被転写体Wを転写液L中に投入させ、実質的に転写が行われる領域を転写ゾーンZ2と称している。すなわち、フィルム展開ゾーンZ1とは、転写フィルムFが転写槽2の転写ゾーンZ2の上流側である領域ともなる。また、フィルム展開ゾーンZ1内において、本実施例では後述するように転写フィルムFを転写液面上に繰り出してから、活性剤を塗布し、転写フィルムFを転写可能な状態とするものであり(いわゆる水上活性)、この領域を活性化ゾーンZ3とする。
因みに、液圧転写においては、被転写体Wの没入と同時に転写が実行・完了するものである。また、被転写体Wを転写液Lに没入させる角度(没入角)は、被転写体Wが没入し始めてから没入し終わるまで必ずしも一定に維持するとは限らないし、これは出液角についても同様であり、被転写体Wが出液し始めてから出液し終わるまで必ずしも一定に維持するとは限らない。
【0032】
なお、転写槽2(処理槽21)は、液圧転写を行うに当たり被転写体Wを移動させる没入から出液方向が長手方向となるように形成される。また、転写槽2(特に液面上)には上流側から下流側に向かう流れ(液流)が形成され、これによって転写フィルムFを上流側から下流側に供給するものである。このため、本明細書では、上記「(転写槽2の)長手方向」とは、転写槽2の液面上に形成される液流方向にも相当する。また転写槽2に形成される転写液Lの流れ方向下流側を下流末端(末端)、上流側を上流先端(先端)と称することがある。更に、転写槽2の幅方向を左右と称することがある。
【0033】
また、処理槽21内には、上述したように液面付近(表層部分)において転写液Lを上流側から下流側に流す液流が形成される。
具体的には、まず処理槽21(転写槽2)において転写フィルムFが着液する上流先端部には、下流側に向かう水流が形成され、これを先端給水23とする。この先端給水23は、例えば水吹き出し口から水を下流側に向けて出水することによって形成される。なお、この先端給水23は、後述する案内底板71の上方に形成される水流である。
また、転写槽2の下流末端にオーバーフロー槽24を設けるものであり、ここで回収した転写液Lを浄化した後、その一部を転写槽2の上流部分から循環供給することにより前記先端給水23を形成し、転写液Lの液面付近に上記液流(上流側から下流側に向かう液流)を形成するものである。因みに回収した転写液Lを浄化するには、例えば沈殿槽やフィルタリング等によって、転写液L中に分散・滞留する余剰フィルムやフィルムカス等の夾雑物を回収液(懸濁液)から除去する手法が挙げられる。
【0034】
また、処理槽21の両側壁22の内側には、フィルム保持機構6としてのベルト61が設けられるものであって、これは液面上に供給された転写フィルムFの両サイドを保持することで、転写フィルムFを転写液Lの液流と同調した速度で、上流側から下流側に移送する意図である。もちろん、転写液面上に供給された転写フィルムF(特に水溶性フィルム)は、着液以降、徐々に周囲に延展して行くため(伸びて行くため)、上記フィルム保持機構6(ベルト61)は、このフィルムの伸びを両サイドから規制する作用も担う。すなわち、フィルム保持機構6(ベルト61)は、転写フィルムFの伸びをほぼ一定に維持した状態で、転写フィルムFを少なくとも転写ゾーンZ2まで移送する作用を担うものであり、これにより転写ゾーンZ2では転写フィルムFの伸びが毎回同じ程度に維持され、連続して精緻な転写が行えるものである。
なお、フィルム保持機構6としては、上記ベルト61の他、チェーンや比較的太いロープ・ワイヤ等も適用することができる。
また、本実施例では、フィルム展開ゾーンZ1の下流側端部に設けられた活性化ゾーンZ3では、フィルム保持機構6による規制を一旦解除するようにしている。すなわちフィルム展開ゾーンZ1の前後で、フィルム保持機構6を作用的に分断するように構成しており、これは活性化ゾーンZ3における活性剤の塗布を受けて、転写フィルムFが一挙に周囲に伸展する(拡がる)ことに因み、この急激な伸展を妨げないようにするためである。もちろん、急激な伸展後の転写フィルムFは、活性化ゾーンZ3の下流側に設けられたフィルム保持機構6で伸びが規制された状態で、転写ゾーンZ2に移送されるものである。
【0035】
また、転写槽2(処理槽21)は、上述したように適化流導出構造7を具えるものであり、これはフィルム展開ゾーンZ1における転写液面に、転写フィルムFの展開適化流を導出するための構造である。すなわち適化流導出構造7は、転写槽2の幅方向における流速を均一化するための構造であり、少なくとも転写槽2の幅方向端部寄りの位置において、液面から槽底部までの実質的な深さである作用液深が浅くなるように案内底板71を配設して成るものである。
案内底板71は、一例として
図1〜
図2に示すように、作用液深を形成する面が、転写槽幅方向及び長手方向においてフラット状を成す平板で形成される。なお、上記
図1〜
図2では、案内底板71は転写槽2の槽底部(実槽底27)に対し別途独立して設けられ、実槽底27の上方に適宜の距離を隔てて浅底となる案内底板71を設けているが(言わば上げ底状)、これは従来の転写槽2を流用して案内底板71を付設した場合を想定したものである。そのため、転写槽2を新たに製作する場合には、当初から底(実槽底27)を浅底状に形成し、実槽底27を案内底板71として機能させ、当初から作用液深を浅く形成しておくことが可能である。
因みに、従来の深い実槽底27を有した転写槽2に、浅底状となるように案内底板71を設けた上記実施例では、液面から深い実槽底27までの転写液Lの深さを実液深とし、液面から浅底状の案内底板71までの転写液Lの実質的な深さである作用液深と区別している。換言すると、上記実施例では浅い作用液深を形成するために案内底板71を設けたものである。
なお、従来の転写槽2には、作用液深の概念は存在しないが、実質的には、実槽底27の実液深が作用液深と考えられる。もちろん、このままでは作用液深が深いため、上記実施例では案内底板71を上げ底状に設けて作用液深を浅くしたものである。
【0036】
次に、適化流導出構造7として、案内底板71を少なくとも転写槽2の幅方向端部寄りの位置で作用液深が浅くなるように配設する根拠について
図4に基づき説明する。
本出願人は、作用液深を浅くした案内底板71の効果を以下のような方法で検証した。
・案内底板ナシの場合(
図4(a)参照)と、案内底板アリの場合(
図4(b)参照)で、転写槽2の各地点の液流の速度(流速)を計測した。
・案内底板ナシの場合は、転写液Lの液面からの深さは、230mmである(既存の深さ)。
・案内底板アリの場合は、転写液Lの液面から深さ(作用液深)を、20mmに設定した。なお、案内底板71は、転写槽2の長手方向及び幅方向ともフラットな平板として形成した。
・計測地点は、転写槽2のフィルム着液地点(着水地点)から下流側に300mm、800mm、1100mm離れた位置で、且つ水深10mmの深さの流速を計測。また転写槽2の幅方向中央部と、ここから300mm左右両端側に離れた位置で計測(計9箇所)。ここで、
図4の表中では、左右両端側のうち一方を「+300」、もう一方を「−300」として転写槽中央部からの位置を表示している。なお転写槽2の内幅寸法は、850mmである。
・測定器
電磁流速計
本体:VM801LRS
検出部:VMT2−200−08PSL
・また
図4の表中の「比(%)」は、着水から300mm地点における転写槽幅方向中央部の流速を100(%)とした場合の値(比)を%表示したものである。
・図中の太矢印は、各地点における流速の大きさを示したものである。
【0037】
次に、上記計測結果の考察を述べる。
・案内底板ナシの場合、着液地点から300mm、800mm、1100mm下流側に離れた、いずれの地点でも転写槽中央部の流速に比べ、両端部の流速が低下していることが分かる(いずれの地点でも転写槽幅方向で観ると、中央部の矢印に比べ、両端部の矢印の方が短くなっている)。因みに、両端部の流速が低下するのは、側壁22との摩擦による減速が一因と推測される。
・一方、案内底板アリの場合には、着液地点から300mm、800mm、1100mm下流側に離れた、いずれの地点でも転写槽中央部の流速に比べ、両端部の流速が、それほど低下していないことが分かる(いずれの地点でも転写槽幅方向で観ると、中央部の矢印と、両端部の矢印との長さがあまり変わっていない)。
・従って、案内底板アリの場合は、案内底板ナシの場合に比べ、明らかに転写槽幅方向の流速が均一化していることが分かった。つまり案内底板71が、転写槽幅方向の流速均一化に寄与していることが明確に分かった。
・また案内底板ナシの場合と、案内底板アリの場合とにおいて、転写槽中央部(幅方向中央部)の流速を比較すると、それほど変わらないことも分かった(矢印の長さがあまり変わっていない)。
・この結果から、転写槽幅方向の流速を均一化するには、少なくとも転写槽2の幅方向端部付近で浅底にすることが肝要と判断された。従って、少なくとも幅方向端部寄りの位置で作用液深を浅くするようにしたものである。
・なお、上記計測結果から案内底板アリの場合でも、案内底板ナシの場合と同様に、下流側に行くほど、流速が低下する傾向も判明した。
【0038】
このような計測から適化流導出構造7の案内底板71は、少なくとも幅方向端部寄りの作用液深を浅くするように形成すればよく、例えば幅方向中央部の作用液深は、深くすることも可能であり、これは端的に言えば、例えば
図3(b)に示すように、案内底板71を縦断面視でV字状に形成し得ることを示している。
ただし実際に案内底板71を製作する上では、転写槽2の長手方向及び幅方向において作用液深が一定(浅い寸法で一定)となるように、案内底板71を一枚のフラット板で形成すれば、手間・時間・コスト等が掛からず、現実的である。因みに、本出願人が行った実験では、作用液深が5mm〜50mmとなるように案内底板71を設けることが好ましく(転写槽幅方向における流速を均一化する点で好ましく)、より好ましくは作用液深が10mm〜20mmとなるように案内底板71を設けることが望ましいことが確認されている。この範囲であれば、フィルム展開ゾーンZ1の深さ、あるいは転写槽2の底部や側部の凹凸の状態などに応じて、表層付近の流れと表層以外の底部に近い深層へ移動しようとする乱流の影響が減少し、転写液Lの流れとして、転写槽2の中央と両側縁付近とにおいて流速差が少なくなり、展開適化流が形成された状態となる。
【0039】
次に転写フィルム供給装置3について説明する。
転写フィルム供給装置3は、上述したように転写槽2(処理槽21)に転写フィルムFを連続して供給する装置であり、一例として
図1〜
図3に示すように、ロール巻きされた原反ロール状のフィルムロール31を、一対の送り出しローラ32で挟み込んで、このものの回転によって転写フィルムFを転写槽2(フィルム展開ゾーンZ1)に繰り出すものである。
【0040】
次に活性剤塗布装置4について説明する。
活性剤塗布装置4は、転写フィルムFを転写可能な状態に活性化する装置であり、本実施例では転写フィルムFを転写液面上に誘導(供給)した状態、換言すれば転写フィルムFが液面上に浮遊した状態で活性剤を塗布するものである。すなわち、転写槽2の液面上に繰り出される前の転写フィルムFは、水溶性フィルム上に転写パターンがインクによって事前に形成(印刷)されており、転写パターンのインクは乾燥状態にある。このため転写に際しては、転写フィルムF上の転写パターンに活性剤や溶剤類を塗布して、転写パターンを印刷直後と同様の湿潤つまり付着性を発現させた状態に戻す必要があり、これが活性化と称され、これを行うのが当該活性剤塗布装置4である。
活性剤を塗布する手法としては、一例として本出願人が既に特許取得に至っている特許第3845078号の静電スプレーによる手法が適用できる。この手法は、例えば
図1・
図2に示すように、転写液面上の転写フィルムF(転写パターン)に対し、スプレーガン(スプレーノズル)41から活性剤を散布する塗布手法であって、転写液面上を移送される転写フィルムFに対し、スプレーガン41が転写フィルムFを横切るように往復動(いわゆるトラバース)しながら活性剤をスプレーするものである。その際、スプレーガン41の噴出口で活性剤を帯電させるとともに、転写液面上に浮遊する転写フィルムFを、転写液L及び転写槽2を介して接地するものであり、これにより活性剤を転写フィルムFに均一に塗布することができる。
【0041】
また、スプレーガン41は、転写フィルムFの幅寸法よりも大きなストロークで往復動し、活性剤を転写フィルムFの幅寸法を越えて散布するように構成される。これは、活性剤が散布されない部位が、転写フィルムFに存在しないようにし、転写フィルムFを均等に伸展させるためである。従って、転写フィルムFの外方には、余剰もしくは不要な活性剤(転写フィルムFのインクを活性化する本来の目的として使用されなかった活性剤)が必然的に転写液面上に散布される(浮遊する)ものである。
このようなことから、本実施例では往復動するスプレーガン(噴出口)41の前後と両側部とがフード42で覆われ、特に余剰・不要な活性剤が活性化ゾーンZ3の外部に飛び散るのを防止し、作業環境を悪化させないようにしている。もちろんフード42は、液面上の転写フィルムFから幾らかの隙間をあけて設けられるため、この隙間からも極力、活性剤が漏出しないようにすることが好ましい。なお、液面上の余剰・不要な活性剤成分は、転写液Lとともに排水(回収)され、またフード42内を浮遊飛散する余剰・不要な活性剤も、上記排水によってフード42内に生じる空気流により同時に吸引され、転写液Lと混合排出される。また、回収された転写液Lは、不要な活性剤成分を含む空気と混合処理された後、廃棄される。ここで図中符号43が、液面上の余剰・不要な活性剤成分を、転写液Lとともに回収する回収口である。
因みに、本実施例では、活性剤塗布装置4として転写フィルムFを液面上に供給してから活性化させるものを示したが、転写フィルムFを活性化するタイミングは、転写槽2に供給される前に活性化するものでも構わない。そして、この場合には、上述した転写フィルム供給装置3に活性化機構が組み込まれ、転写フィルムFは、転写液Lに着液する前に、活性剤が塗布され、転写槽2に繰り出される。
【0042】
次に被転写体搬送装置5について説明する。
被転写体搬送装置5は、被転写体Wを適宜の姿勢で転写液L中に没入させ、また転写液L中から引き上げるものであり、通常は転写用治具52(以下、単に治具52とする)を介して被転写体Wの取付けを図るものである。すなわち、液圧転写を行うにあたっては、予め被転写体Wを治具52に取り付けておき、この治具52を治具ホルダに着脱してコンベヤ51へのセッティングを行うものである。以下、コンベヤ51について更に説明する。
コンベヤ51は、一例として
図3(a)に示すように、平行に配置された一対のリンクチェーン53にリンクバーを横架するとともに、このリンクバーに所定の間隔で治具ホルダを配設して成り、被転写体Wを治具52とともに連続的に転写液L中に没入・出液させるものである。なお、没入側における被転写体W(治具52)のコンベヤ51への取り付けや、転写後の出液側における被転写体W(治具52)のコンベヤ51からの取り外しは、ロボットにより自動で行うことも可能であるし、作業者による手作業で行うことも可能である。また、コンベヤ51による被転写体Wの搬送速度(特に転写ゾーンZ2における速度)は、転写フィルムFの液面上の移送速度とほぼ同調するように設定されるのが一般的である。
【0043】
またコンベヤ51は、一例として
図3(a)に示すように、側面から視て逆三角形の搬送軌道を描く通常の三角コンベヤであり、被転写体Wの没入つまり転写が、下部の頂点部分で行われ、言わば短時間または瞬間的な没入・転写となる。なお、三角コンベヤ(コンベヤ51)は、全体的に傾倒自在に構成され、これにより被転写体Wの没入角が適宜変更できるように構成されることが好ましい。
また被転写体搬送装置5は、必ずしも上述したコンベヤ51に限定されるものではなく、例えばロボットを適用することも可能である(多関節形ロボットであり、いわゆるマニピュレータ)。
【0044】
本発明の液圧転写装置1は、以上のような基本構造を有するものであり、以下、この液圧転写装置1を適用して行う液圧転写の作動態様について説明する。なお、説明にあたっては、上述した水上活性を基本として説明する。
(1)転写フィルムの供給
液圧転写の際には、例えば
図1〜
図3に示すように、ロール巻きされた転写フィルムFが、転写フィルム供給装置3によって転写槽2のフィルム展開ゾーンZ1に連続供給される。
【0045】
(2)転写フィルムの着液
このようにして転写槽2に繰り出された転写フィルムFは、転写槽2の上流先端部で転写液Lに着液する。その後、転写フィルムFは、転写液Lの水分を吸水して、膨潤・軟化しながら徐々に周囲に拡がって行く(展開して行く)。
なお、転写槽2には上述したように上流から下流に向かう表層流が形成されているため、転写フィルムFは、膨潤・軟化しながら下流側に移送される。
【0046】
(3)案内底板による展開適化流の形成
ここで、本発明では転写槽2の底部に、少なくとも転写槽幅方向端部寄りの位置で作用液深を浅くするような案内底板71が設けられているため、転写槽2の幅方向の流速がほぼ同じ速度に均一化される(幅方向の流速差が抑えられている)。これは、展開適化流が形成された状態であり、このため転写フィルムFは、フィルム展開ゾーンZ1において、周囲への均等な展開が図られ(転写フィルムFの各部で同じ展開度合いに調整され)、展開度合いの差に起因して生じる柄ズレやシワの発生が抑制される。因みに、この段階(転写ゾーンZ2に至る前段)で転写フィルムFにシワが発生してしまうと、例えばその後、どのように被転写体Wの姿勢を操作しようとも精緻な転写はできない。また転写フィルムF自体、この段階で転写液面上に浮遊しており、不安定な状態であるため、転写フィルムFの位置等を制御することも極めて難しく、転写前の当該段階で、できる限りシワを発生させないことが精緻な液圧転写を行う上で重要となっていた。
【0047】
(4)活性剤の塗布
その後、転写フィルムFは、活性剤塗布装置4が設けられた活性化ゾーンZ3に至り、ここで活性剤が塗布される。活性剤が塗布された転写フィルムFは、一挙に周囲に伸展し(拡がり)、転写可能な状態となる。
【0048】
(5)転写(没入)
このようにして転写フィルムFが活性化され、転写可能な状態となった後、被転写体搬送装置5によって上方から被転写体Wが、適宜の姿勢で転写液L中に没入される。なお、液圧転写では、この際の没入時の液圧によって転写フィルムFが被転写体Wの意匠面に付き回るようになり転写が行われる。つまり液圧転写では、被転写体Wの没入と同時に転写が実行・完了となる。
【0049】
(6)被転写体の引き上げ
その後、被転写体Wは、被転写体搬送装置5によって、転写液L中から引き上げられるものであり、次いで被転写体搬送装置5から取り外され、被転写体Wの転写加飾部を覆う水溶性フィルムを洗浄除去し、適宜、次工程の乾燥工程、トップコート工程等に送られる。
【0050】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず、上述した基本の実施例では、適化流導出構造7の案内底板71を、一枚のほぼ水平なフラット板で形成するか、あるいは縦断面視V字状断面を成す板材で形成するものであり、一旦設置した案内底板71は、作用液深が変えられないものであった(作用液深不変タイプ)。しかしながら、案内底板71は、作用液深(設置深さ)を適宜調整できるようにすることが可能である。具体的には例えば
図5(a)−(i) に示すように、案内底板71を幅方向で幾つかの分断案内底板71Bとして構成し(例えば中央と両サイドの三分割)、各々の分断案内底板71Bを別々に上下動できるように構成しておくことが可能である。これにより、例えば流速が遅くなる部分の分断案内底板71Bを幾らか上昇させて、当該部位の作用液深だけ浅くするような調整が可能となり、より細かく表層流の調整が行い得る。
もちろん、このような可動式の分断案内底板71B(案内底板71)においては、全体的に流速が偏る場合など転写槽2の幅方向(左右方向)に傾斜させる可動状況も想定できる(
図5(a)−(ii)参照)。また分断案内底板71Bを柔軟板材で形成し、これを湾曲させることも可能である。
【0051】
また、転写槽2の表層流として、常に遅くなる部位がある場合等には、案内底板71の上に、更に分断案内底板71B(調整板)を重ねるようにして作用液深を調整することも可能である(
図5(a)−(iii) 参照)。
なお、この場合、調整板の作用を担う最上の分断案内底板71Bは、長手寸法(転写槽2の長手方向寸法)や幅寸法(転写槽2の幅方向寸法)の異なるものを複数種用意しておくことが好ましく、これによって、より一層、細かく作用液深を調整することができる。
また分断案内底板71Bは、傾斜状態も種々設定できる構成が好ましい。具体的には、図示は省略するものの、例えば分断案内底板71Bの四隅の下方に、予めブロック片を設置(実槽底27に設置)しておき、この上に分断案内底板71Bを載置するような設置態様とすれば、ブロック片の選定により分断案内底板71Bの傾斜も適宜調整可能である。因みに、この場合の傾斜とは、転写槽2の幅方向傾斜と長手方向傾斜とも想定できる。
【0052】
また、案内底板71は、フィルム展開ゾーンZ1の液流方向(転写槽2の長手方向)において作用液深を変化させるような構造も採り得る。
具体的には、一例として
図2の側面断面図や
図3(a)に想像線で示すように、転写ゾーンZ2側の端部を下げ、当該部位の作用液深を深くするような設置形態も可能であり、これにより転写ゾーンZ2直前の流速を調整することができる。
すなわち、転写フィルムFは、活性化の進行に伴い、水面(液面)上で拡がろうとする。また転写フィルムFは、転写ゾーンZ2では、一例として
図2の平面図に示すように、被転写体Wによって当該ゾーンが部分的に突き破られたようになり(ここを孔空き部Fhとする)、突き破られた転写フィルムF(孔空き部Fh)が被転写体Wの意匠面に付き回り、転写が成される。また、転写時の被転写体Wへの付き回りによって、後続の転写フィルムFは、下流側(供給側)に引っ張られる傾向にある。このため転写ゾーンZ2直前の転写フィルムFは、転写ゾーンZ2の孔空き部Fhに入り込むように、下流の転写ゾーンZ2側に移動するようになる。このように転写ゾーンZ2直前の転写フィルムFは、被転写体Wの没入によって、下流側(転写ゾーンZ2側)への移動速度が加速する傾向にある。そのため、案内底板71の下流末端側を幾らか深くして、当該部位の転写液Lの流速を遅くすることで、転写フィルムFの移動速度を調整するものである。なお、このような構成、すなわち案内底板71の下流側端部を下げ、作用液深を深くする構成も転写液Lの表層流を調整する思想であるため、適化流導出構造7に包含される。もちろん、当該構成により、転写フィルムFの柄ズレやシワ発生も抑制される。
【0053】
また、転写槽2の長手方向において作用液深を変化させる他の改変例としては、例えば
図7に示すように、活性剤を転写フィルムFに塗布(噴霧)する活性化ゾーンZ3より下流側の作用液深が、活性化ゾーンZ3の作用液深よりも浅くなるように、案内底板71を構成することが考えられる。これにより活性剤が塗布されて伸展する転写フィルムFを、より安定的に転写ゾーンZ2へ誘導することができる。
より望ましくは、活性化ゾーンZ3より下流側の作用液深が、転写ゾーンZ2側に向かって漸次的に浅くなって行く構成を採ることがより好ましい。また、このような構成に、上述した転写ゾーンZ2側の端部を下げ、当該部位の作用液深を深くするような構成を組み合わせた複合構成を採ることも可能であり、上記
図7は、このような複合構成を図示したものである。
【0054】
また案内底板71は、転写槽2内に収容できればよく、基本的には転写槽2の内側に収まる矩形状であれば構わない。ただ案内底板71の幅寸法は、必ずしも上流先端部〜下流末端部において同じ幅寸法である必要はなく、例えば基本の実施例で述べたように活性剤塗布装置4が水上活性タイプの場合には、例えばその端部寄りの位置に、余剰・不要な活性剤成分を転写液Lとともに排水する回収口43(排水升や回収樋などの回収口43)が設けられることから、当該部分では案内底板71の幅寸法を、フィルム保持機構6のベルト61よりも狭くしても構わない。
また案内底板71は、例えば
図5(b)に示すように、上流先端側を短寸(短辺)とし、且つ下流末端側を長寸(長辺)とする平面視台形状(等脚台形状)状に形成することも可能である。これは、転写フィルムFが着液以降、下流側への移動に伴い、徐々に膨潤・軟化して周囲に延展して行くことに因み、案内底板71の平面視形状も、これに応じた形状(等脚台形状)に形成する思想である。このように案内底板71は、転写フィルムFが存在する部位だけ、流速の均一化を図るように形成することも可能である。
【0055】
また、
図5(c)に示す形態(改変例)は、転写槽2の上流先端部で案内底板71の下方から転写槽下流側に指向する水流を形成した形態であり(この水流を給水72とする)、これにより転写フィルムFの延展・伸展を阻害しないようにすることができる。すなわち給水72によって、先端給水23が、案内底板71の下流側端部の上方から案内底板71の裏側に戻るように流れる水流(図中の矢印参照)の速度や量を調整して、案内底板71の下流側端部の流速ダウンを制御することができる。特に、先の計測結果で述べたように、転写槽2の上流側から下流側に向かう液流は、下流側に行くほど低下する(減速する)傾向にある。そして、先端給水23の戻り液流(先端給水23が、案内底板71の下流側端部の上方から案内底板71の裏側に戻るような液流)を利用して、柄ズレに影響しない範囲で、浅瀬状に設けた案内底板71の上側に滞留しがちなPVAや活性剤濃度の高い転写液Lを前記回収口43に誘導するようにして、転写フィルムFが膨潤しにくくなる傾向を抑制することができるものである。
なお給水72の代わりに、図中符号73で示す給水を設けることも可能であり、この給水73は、案内底板71の下流端直前(排水升や回収樋の回収口43の直前)で案内底板71の下方から下流側に向けてやや上向きに流す水流である。もちろん、給水72と給水73との双方を併用することも可能である。
因みに、給水72・給水73も表層流を調整する思想であるため、適化流導出構造7に包含される。
【0056】
更にまた
図2の平面図に想像線で示すように、活性化ゾーンZ3の後段または転写ゾーンZ2の前段には、適化流支援ノズル74を設けることが好ましい。この適化流支援ノズル74は、フィルム展開ゾーンZ1の案内底板71上方において、下流向きに放射状の水流を形成するものであり、この水流によってシワ発生の防止と、転写液Lの流速ダウン(下流に行くほど低下する(減速する)傾向の流速)を補う効果を奏する。
すなわち活性化ゾーンZ3では、上述したように転写液面に浮遊する転写フィルムFが、活性剤塗布によって一挙に周囲に拡がろうとする。一方、転写液中の表層流は、上述したように流速そのものが下流に行くほど、遅くなる傾向にある。このように転写液中の液流としては徐々に弱まる傾向にありながら、液面上に浮遊した転写フィルムFは、活性化による急激な伸展作用によって、周囲に一気に拡がろうとする傾向を有しており、これらは相反する傾向である。更に、転写槽2の両側壁部には、フィルム保持機構6(ベルト61)が設置されており、転写フィルムFは、左右方向の伸びが規制されたような状態となっている。
このため活性化後の転写フィルムFは、長手方向中央部において液流に沿ったシワ(いわゆる縦ジワ)と、幅方向両端部において液流に交差するようなシワ(いわゆる横ジワ)とが発生し易い環境にある。従って、適化流支援ノズル74による放射状の水流によって、転写フィルムFが周囲に拡がろうとする傾向に合わせた液流を転写液Lの表層部に形成することができ、上述したシワ発生を防止するものである。また、適化流支援ノズル74による放射状の水流は、全体としては下流側に向けて指向されるため、減速しがちな液流を再度作り直す効果または転写液Lの流速ダウンを補う効果も奏する。
【0057】
なお、上記
図2・
図6(a)では、適化流支援ノズル74は、平面から視て下流側に突出するアーチ状パイプで形成され(例えば塩化ビニル製)、パイプの下流側側面に開口された孔から、下流側に指向するように放射状の水流(適化支援流)を形成するが、他の形態も採り得る。
具体的には例えば
図6(b)に示すように、直線状パイプ材を二回屈曲させるようにして、全体的に角張った下流突出形状を実現するようにした適化流支援ノズル74を構成することが可能である。
また
図6(c)・
図6(d)に示す形態は、転写槽2の幅方向中央部で左右に分離した適化流支援ノズル74を示したものであり、この場合には左右の側壁22からパイプ材たる適化流支援ノズル74を突き出すように設けることが可能である。因みに、
図6(c)は、側壁22から短寸直線状の適化流支援ノズル74を斜めに突き出した形態であり、
図6(d)は、当該
図6(c)に対し、転写槽2の幅方向中央部において転写槽幅方向に屈曲する部位を追加したような形態であり、この場合には、転写槽2の幅方向中央部で下流に指向する水流が形成される。もちろん、適化流支援ノズル74は、これらを適宜組み合わせて複数採用することも可能である。