(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に、機械・機器又は製造物に係合する係合手段を有するワイヤを巻き付けた回転可能な円錐型の回転ドラムと、該回転ドラムと同軸で、回転ドラムに上記ワイヤを巻き取る力を付勢する巻回弾性帯を備えるバランサーにおいて、
(i)上記ワイヤの伸縮に伴って回転する上記回転ドラムの回転数又は回転角を検知する検知手段を備え、かつ、
(ii)上記検知手段で検知した回転ドラムの回転数又は回転角に基づいて、(a)上記回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さを演算して記憶する演算記憶装置を備え、
前記演算記憶装置で演算し記憶した、(a’)前記回転ドラムから引き出されたワイヤの長さ、及び/又は、(b’)前記回転ドラムに巻き戻されたワイヤの長さの経時変化に基づいて、巻回弾性帯が回転ドラムに付勢する力の変動量を演算し、該演算値に基づいて、上記力を、適宜、調整する
ことを特徴とする測長機能付きバランサー。
【背景技術】
【0002】
従来から、製品組立て作業現場等にて、工具や作業用機器等を懸垂し、懸垂作業を、労力を軽減して迅速に行うため、バランサーが用いられている。また、重ねた複数枚の板状材(例えば、金属板)を複数本のワイヤ(先端にフックが付いている)で吊上げて搬送する際、吊上げ作業を安全かつ迅速に行うため、ワイヤ先端のフックにバランサーを取り付ける。
【0003】
バランサーは、基本的には、懸垂ワイヤ又は吊下げワイヤを巻き付けた回転可能な回転ドラムと、上記ワイヤを巻き取る力(トルク)を回転ドラムに付与する巻回弾性帯(スプリング)で構成されている(
図1、参照)が、懸垂物及び吊下物(以下「懸吊物」ということがある。)の態様や、用途に応じ、種々の工夫がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、空気圧工具の懸垂に好適な、「第1のホースと第2のホースからなるホース部材を巻き付ける回転ドラム、回転ドラムにトルクを付与するトルク付与部材を有し、第1のホースと第2のホースが回転ドラムの支持軸に設けた空気通路で連通するバランサー」が開示されている。
【0005】
特許文献2には、重量のある被懸吊機器(重量物)の懸吊に好適な、「被懸吊機器を懸吊支持するワイヤロープを巻回装着するワイヤドラムと、ワイヤドラムの回転に同期して弾撥力を蓄積するバランススプリングを備え、被懸吊機器を所定の高さ位置に移動停止させるバランサー装置において、ワイヤドラムを回転させる調整モータと、ワイヤロープの引出量を制御する制御手段を設けた重量物バランサー装置」が開示されている。
【0006】
特許文献1のバランサー及び特許文献2の重量物バランサー装置は、いずれも、バランサー自体が、直接、懸垂物又は吊下物を懸垂又は吊下げるものである。
【0007】
一方、特許文献3には、「吊りフレームより所要長さの吊りロープによって吊持される一対の略L字形フックと、一対のフックの基端部相互を所要間隔で連結する突張棒とからなる吊り具を左右一対具備し、左右一対の吊り具間で板状材を懸吊する板状材運搬用懸吊装置において、略L字形フックの基端部又は突張棒に、該フック先端の爪部の突出方向とは実質的に反対方向に突出するアームを突設し、アームの先端部と吊りフレームとの間に、アームの先端部に引張力を及ぼして、フックの基端部のまわりにフックの爪部を常時水平に保持するようなモーメントを生ぜしめるばねバランサーを備えた緊張ロープを張架した板状材運搬用懸吊装置」が開示されている。
【0008】
特許文献3の板状材運搬用懸吊装置では、ばねバランサーは、懸吊する板状材を、常時、水平に保持するモーメントを生ぜしめる機器として使用されている。
【0009】
また、特許文献4には、「クレーン等にて水平に昇降される吊りビームと、吊りビームの幅方向両側面より、ワイヤにて略等間隔に吊り下げた対の複数組の鉤形ハッカーと、吊りビームの同一側面より吊り下げたハッカーを、それぞれ連結する水平な対のパイプ材と、対のパイプ材と吊りビームの両側面との間に、それぞれ略等間隔で張設する対の複数組の支持ワイヤよりなり、各支持ワイヤは、張角の調節が可能であり、かつ、ワイヤ途中に組み込まれたスプリングバランサーにより、各パイプ材の上げ下げ労力が軽減される板材吊り具」が開示されている。
【0010】
特許文献4の板材釣り具では、スプリングバランサーは、複数の鉤形ハッカーを連結する水平パイプ材の上げ下げ労力を軽減する機器として使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
バランサーにおいては、懸吊物を所定の高さ位置で静止させるために、スプリング(巻回弾性帯)に負荷がかかり、高さ位置の調整を繰り返すと、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)が変動する。
【0013】
スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)が変動すると、懸吊物を、再度、所定の位置まで持ってきても、そこで静止しない場合がある。その場合、懸吊物の高さ位置を調整するが、懸吊物が重量物であると、スプリング(巻回弾性帯)に大きな負荷がかかっている状態で、しかも、上記力(トルク)の変動量を正確に把握していないなかで調整することになるので、この調整は容易でなく、作業効率は阻害される。
【0014】
バランサーは、製造物に係合するフックを先端に有する吊りワイヤで製造物を吊って搬送する搬送装置において、フックの係合作業及び取外し作業における作業負荷を軽減するために利用されている。
【0015】
しかし、製造物自体が重量物である場合や、一度に複数の製造物を搬送する場合、当然に、製造物を吊るために製造物に係合するフック(懸吊物)も重量物になり、フックを製造物に係合する作業、及び、フックを製造物から取外す作業には、所要の作業時間を要し、かつ、作業の安全性が危惧される。
【0016】
例えば、熱間圧延工程の切り板ラインにおいては、6本のワイヤの先端に連結した6個のフックを鋼板端部に係合して吊って搬送し、搬送後、6個のフックを鋼板端部から取り外すが、フックの係合・取外し作業を迅速化するため、従来、フックの個数(ワイヤの本数)に対応する作業者を配置していた。
【0017】
近年、ワイヤ先端のフックに一定の負荷がかかっていないと、ワイヤが、自動的に、回転ドラムに巻き戻る機構を備えるバランサーを使用して、一人の作業者で、6個のフックを鋼板端部から順次取り外し、ワイヤが、自動的にバランサーに巻き戻るようになり、フックの取外し作業における負荷は軽減されたが、6個のフックの幾つかが、6個のフックを係合させるべき鋼板端部とは異なる鋼板端部に係合され、鋼板が、不安定な吊り状態で搬送される場合がある。
【0018】
また、フックの取外し作業においては、取外したフックのワイヤがバランサーに巻き戻る途中で、取外したフックが他の鋼板端部に引っ掛かり、上記ワイヤが直ちに巻き戻らない場合がある。この場合、取外したフックの引掛りが予期せずに外れた場合、このことを感知しない作業者に危害が及ぶ恐れがある。
【0019】
以上のことを踏まえ、本発明は、次のことを課題とし、該課題を解決するバランサーと搬送装置を提供することを目的とする。
【0020】
(x)バランサーにおいて、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)の変動量を把握し、懸吊物が、常に所定の高さ位置に静止するように、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)を調整し、作業効率の向上を図る。
【0021】
(y)製造物に係合する係合手段を先端に有する吊りワイヤで製造物を吊って搬送する搬送装置において、バランサーを利用する係合手段の係合作業及び取外し作業を効率化するとともに、製造物の搬送の安定性と、作業の安全性の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意検討した。その結果、次の知見を得るに至った。
【0023】
(X)バランサーにおいて、懸吊物を保持するワイヤの伸縮に伴って回転する回転ドラムの回転数又は回転角を検知すれば、(a)回転ドラムから引き出される上記ワイヤの長さ、及び、(b)回転ドラムに巻き戻される上記ワイヤの長さを演算することができ、該演算値の経時変化に基づいて、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)を、適宜、調整することができる。
【0024】
(Y)製造物に係合する係合手段を先端に有する吊りワイヤで製造物を吊って搬送する搬送装置において、上記(X)のバランサーを用いれば、係合手段の係合作業及び取外し作業を効率化できるとともに、製造物の搬送の安定性と、作業の安全性の向上を達成できる。上記知見については、後述する。
【0025】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0026】
(1)先端に、機械・機器又は製造物に係合する係合手段を有するワイヤを巻き付けた回転可能な円錐型の回転ドラムと、該回転ドラムと同軸で、回転ドラムに上記ワイヤを巻き取る力を付勢する巻回弾性帯を備えるバランサーにおいて、
(i)上記ワイヤの伸縮に伴って回転する上記回転ドラムの回転数又は回転角を検知する検知手段を備え、かつ、
(ii)上記検知手段で検知した回転ドラムの回転数又は回転角に基づいて、(a)上記回転ドラムから引き出される上記ワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻される上記ワイヤの長さを演算して記憶する演算記憶装置を備える
ことを特徴とする測長機能付きバランサー。
【0027】
(2)前記検知手段が、歯車機構を介して、前記回転ドラムの回転数又は回転角を検知することを特徴とする前記(1)に記載の測長機能付きバランサー。
【0028】
(3)前記検知手段を備える面と反対側の面に、検知手段と略同じ質量の重錘を備えることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の測長機能付きバランサー。
【0029】
(4)前記係合手段がL型フックであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の測長機能付きバランサー。
【0030】
(5)前記演算記憶装置で演算し記憶した、(a')前記回転ドラムから引き出されたワイヤの長さ、及び/又は、(b')前記回転ドラムに巻き戻されたワイヤの長さの経時変化に基づいて、巻回弾性帯が回転ドラムに付勢する力の変動量を演算し、該演算値に基づいて、上記力を、適宜、調整することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の測長機能付きバランサー。
【0031】
(6)1又は複数の製造物を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、
(i)上記搬送装置の構造本体の長手方向の両側面に、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の測長機能付きバランサーが、対を形成して、複数対、略等間隔で配置され、
(ii)上記構造本体の下端部の上記バランサーに近接する位置に一端が固定されている上記吊りワイヤの他端が、上記バランサーのワイヤの先端の係合手段に連結されている
ことを特徴とする測長機能付きバランサーを備える搬送装置。
【0032】
(7)1又は複数の製造物を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、
(i)上記搬送装置の構造本体の長手方向の両側面に、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の測長機能付きバランサーが、対を形成して、複数対、略等間隔で配置され、
(ii)上記構造本体の下端部の上記バランサーに近接する位置に一端が固定されている上記吊りワイヤの他端が、上記バランサーのワイヤの先端の係合手段に連結され、
(iii)上記バランサーの回転ドラムからワイヤを引き出して係合手段を製造物に係合する時、上記測長機能付きバランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムから引き出されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、上記係合手段の係合作業を監視し、かつ、上記バランサーのワイヤの係合手段を製造物から取り外して、該ワイヤが回転ドラムに巻き戻される時、上記測長機能付きバランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムに巻き戻されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、上記係合手段の取外し作業を監視する演算監視装置が配置されている
ことを特徴とする測長機能付きバランサーを備える搬送装置。
【0033】
(8)前記製造物が鋼板であり、前記係合手段がL型フックであることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の測長機能付きバランサーを備える搬送装置。
【0034】
(9)前記複数対が3対であることを特徴とする前記(8)に記載の測長機能付きバランサーを備える搬送装置。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、バランサーにおいて、巻回弾性帯が回転ドラムに付勢する力(トルク)を、懸吊物が常に所定の高さ位置に静止するように、適宜、調整できるので、作業効率が向上し、また、製造物に係合する係合手段を先端に有する吊りワイヤで製造物を吊って搬送する搬送装置において、バランサーを利用するフックの係合作業及び取外し作業が効率化するとともに、製造物の搬送が安定化し、作業の安全性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の測長機能付きバランサー(以下「本発明バランサー」ということがある。)は、先端に、機械・機器又は製造物に係合する係合手段を有するワイヤを巻き付けた回転可能な円錐型の回転ドラムと、該回転ドラムと同軸で、回転ドラムに上記ワイヤを巻き取る力を付勢する巻回弾性帯を備えるバランサーにおいて、
(i)上記ワイヤの伸縮に伴って回転する上記回転ドラムの回転数又は回転角を検知する検知手段を備え、かつ、
(ii)上記検知手段で検知した回転ドラムの回転数又は回転角に基づいて、(a)上記回転ドラムから引き出される上記ワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻される上記ワイヤの長さを演算して記憶する演算記憶装置を備える
ことを特徴とする。
【0038】
本発明の測長機能付きバランサーを備える搬送装置(以下「本発明搬送装置I」ということがある。)は、1又は複数の製造物を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において
(i)上記搬送装置の構造本体の長手方向の両側面に、本発明バランサーが、対を形成して、複数対、略等間隔で配置され、
(ii)上記構造本体の下端部の本発明バランサーに近接する位置に一端が固定されている上記吊りワイヤの他端が、本発明バランサーのワイヤの先端の係合手段に連結されている
ことを特徴とする。
【0039】
また、本発明の測長機能付きバランサーを備える搬送装置(以下「本発明搬送装置II」ということがある。)は、1又は複数の製造物を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、
(i)上記搬送装置の構造本体の長手方向の両側面に、本発明バランサーが、対を形成捨て、複数対、略等間隔で配置され、
(ii)上記構造本体の下端部の本発明バランサーに近接する位置に一端が固定されている上記吊りワイヤの他端が、本発明バランサーのワイヤの先端の係合手段に連結され、
(iii)本発明バランサーの回転ドラムからワイヤを引き出して係合手段を製造物に係合する時、本発明バランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムから引き出されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、上記係合手段の係合作業を監視し、かつ、本発明バランサーのワイヤの係合手段を製造物から取り外して、該ワイヤが回転ドラムに巻き戻される時、本発明バランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムに巻き戻されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、上記係合手段の取外し作業を監視する演算監視装置が配置されている
ことを特徴とする。
【0040】
以下、本発明バランサーと、本発明搬送装置I及び本発明搬送装置IIについて、順次、説明する。
【0041】
まず、バランサーの基本構造について説明する。
【0042】
図1に、バランサーの基本構造を示す。
図1(a)に、バランサーの正面態様を示し、
図1(b)に、
図1(a)のA−A断面における断面態様を示す。
【0043】
バランサー1'は、螺旋状の溝5にワイヤ6を収容し、回転軸7を軸として回転可能な円錐型の回転ドラム4と、該回転ドラム4に、ワイヤ6を巻き取る力(トルク)を付勢するスプリング(巻回弾性帯)8が、ケーシング2aとケーシング2bに内蔵されて構成されている。
【0044】
バランサー1'は、バランサー1'を機械構造体に係止するフック3a(
図1(b)では省略)を備え、また、ワイヤ6の先端に、機械・機器又は製造物(懸垂物又は吊下物であるので、以下「懸吊物」ということがある。)を吊るフック3b(
図1(b)では省略)を備えている。
【0045】
フック3bを先端に備えるワイヤ6は、回転可能な回転ドラム4の螺旋状の溝5に巻回されていて、フック3bで吊る懸吊物を、所要の高さ位置まで持ち下げて静止させることができる。
【0046】
しかし、前述したように、懸吊物を所定の高さ位置で静止させるために、スプリング(巻回弾性帯)に負荷がかかり、高さ位置の調整を繰り返すと、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)が変動する。スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)が変動すれば、懸吊物が静止するまでの回転ドラムの回転数又は回転角も変動する。
【0047】
そこで、本発明者らは、「懸吊物が静止するまでの回転ドラムの回転数又は回転角を検知すれば、(a)上記回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さを演算することができ、演算して記憶した“ワイヤの長さ”の経時変化から、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)の変動量を定量的に把握することができ、上記力の調整(バランサーの保守・点検)に寄与するとともに、バランサーの使用態様を多様化できる」と発想した。
【0048】
本発明者らは、上記発想を実現するため、バランサーに、回転ドラムの回転数又は回転角を検知する検知手段、例えば、アブソコーダを取り付けるとともに、該検知手段で検知した回転ドラムの回転数又は回転角から、(a)上記回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さを演算して記憶する演算記憶装置を配置した。
【0049】
次に、本発明バランサーについて説明する。
【0050】
図2に、本発明のバランサーの断面態様を示す。
図2に示すバランサー1おいて、
図1に示すバランサー1'と同じ構成部材には、
図1に示す番号と同じ番号を付した。
【0051】
図2に示すバランサー1は、基本的には、
図1に示すバランサー1'の巻回弾性帯8側のケーシング2aの外面に、回転ドラム4の回転軸7の回転数又は回転角を、歯車機構を介して取り出して検知する検知手段10を取り付けたものであるが、検知手段10を取り付けたことにより、バランサーの機能が高度化し、使用態様が多様化する。
【0052】
ケーシング2aの反対側のケーシング2bの外面には、バランサー1の平衡性(垂直性)を維持するため、検知手段10と略同じ質量の重錘11が取り付けられている。
【0053】
図2には、歯車9aと歯車9bからなる歯車機構を示したが、歯車機構は、回転ドラム4の回転軸7の回転数又は回転角を正確に取り出すことができる歯車機構であればよく、特定の歯車機構に限定されない。また、回転ドラム4の回転軸7の回転数又は回転角を検知する検知手段は、歯車機構のような機械的機構に限らず、他の機構(例えば、電気的機構のような非接触機構)を介して取り出す検知手段でもよい。
【0054】
検知手段10で検知した回転ドラム4の回転軸7の回転数又は回転角(図中R)は、(a)上記回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、及び、(b)上記回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さを演算して記憶する演算記憶装置(図示なし)へ送信される。
【0055】
バランサーに備えた演算記憶装置では、円錐型の回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、及び、円錐型の回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さを、例えば、下記式(1)で演算して記憶する。
Lx(n)=Lmax−n[{1−π・n}Δ(Lmax-Lx)/2−πDmax]・・・(1)
Lx(n):回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ、又は、
回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さ
Lmax:ワイヤの最大長さ
n:回転数
Dmax:回転ドラムの最大巻直径
Lx:ワイヤ上の任意の点のバランサーからの距離
【0056】
上記式(1)は、円錐型の回転ドラムに適用できる一般式であるので、バランサーの特性や回転ドラムの特性に応じ、上記式(1)を、適宜、修正して使用してもよい。
【0057】
このように、バランサーに備えた演算記憶装置で、円錐型の回転ドラムから引き出されるワイヤの長さ(Lx(n))、及び、円錐型の回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さ(Lx(n))を演算して記憶することにより、バランサーの性能を高度化し、使用態様を多様化することができる。
【0058】
さらに、演算記憶装置で、回転ドラムから引き出されたワイヤの長さの経時変化、及び/又は、回転ドラムに巻き戻されるワイヤの長さの経時変化を検証し、該経時変化に基づいて、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)の変動量を把握し、該変動量に基づいて、適宜、上記力(トルク)を調整する。
【0059】
上記経時変化と上記変動量の関係は、多くの場合、バランサーの使用態様に依って異なるので、バランサー毎に、上記検証実績に基づいて上記関係を定量的に把握し、該関係に基づいて、スプリングが回転ドラムに付勢する力(トルク)を、適宜、適確に調整することが好ましい。
【0060】
次に、高性能で使用態様が多様化した本発明バランサーを組み込んだ本発明搬送装置I及び本発明搬送装置IIについて説明する。
【0061】
本発明搬送装置Iは、
(i)上記搬送装置の構造本体の長手方向の両側面に、本発明バランサーが、対を形成して、複数対、略等間隔で配置され、
(ii)上記構造本体の下端部の本発明バランサーに近接する位置に一端が固定されている吊りワイヤの他端が、本発明バランサーのワイヤの先端の係合手段に連結されている
ことを特徴とする。
【0062】
本発明搬送装置IIは、本発明搬送装置Iに、
(iii)本発明バランサーの回転ドラムからワイヤを引き出して係合手段を製造物に係合する時、本発明バランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムから引き出されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、係合手段の係合作業を監視し、かつ、本発明バランサーのワイヤの係合手段を製造物から取り外して、該ワイヤが回転ドラムに巻き戻される時、本発明バランサーの演算記憶装置が演算して記憶した、回転ドラムに巻き戻されたワイヤの長さを、バランサー間で比較演算し、該比較演算値に基づいて、係合手段の取外し作業を監視する演算監視装置が配置されている
ことを特徴とする。
【0063】
以下、1又は複数の鋼板を、複数の吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置を例にとって説明する。
【0064】
図3に、1又は複数の鋼板を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、構造本体の両側面に、本発明バランサー(
図2に示すバランサー、参照)が配置されている態様を示す。
【0065】
搬送装置14の構造本体15の下部の長手方向の側面15aにバランサー1a(本発明バランサー)が、同側面15bにバランサー1b(本発明バランサー)が、対を形成(対向)して配置されている。対をなすバランサーは、複数対、側面15a、15bの長手方向に沿って、略等間隔で配置されている。
【0066】
バランサー1aの回転ドラム(図示なし)に巻回されているワイヤ6aの先端には、置台17に積まれた鋼板18の端部に係合するL型フック12a(係合手段)が、連結部16aを介して取り付けられている。L型フック12aには、L型フック12aを鋼板13の端部に係合する作業、及び、L型フック12aを鋼板13の端部から取外す作業を容易に行うための取手13aが取り付けられている。
【0067】
図3において、L型フック12a(係合手段)は、鋼板18の端部に完全に係合していないが、作業者が、取手13aを持って係合させる(
図4、参照)。
【0068】
搬送装置14の構造本体15の下端部で、バランサー1aに近接する位置に、鋼板18を吊る吊りワイヤ19aの一端が固定され、他端が、ワイヤ6aとL型フック12aの連結部16aに連結されている。
【0069】
同様に、バランサー1bの回転ドラム(図示なし)に巻回されているワイヤ6bの先端には、鋼板18の端部に係合するL型フック12b(係合手段)が、連結部16bを介して取り付けられている。L型フック12bには、L型フック12bを鋼板13の端部に係合する作業、及び、L型フック12bを鋼板13の端部から取外す作業を容易に行うための取手13bが取り付けられている。なお、L型フック12bは、鋼板18の端部に係合する前の状態である。
【0070】
同様に、搬送装置14の構造本体15の下端部で、バランサー1bに近接する位置に、鋼板18を吊る吊りワイヤ19bの一端が固定され、他端が、ワイヤ6bとL型フック12bの連結部16bに連結されている。
【0071】
L型フック(係合手段)を鋼板端部に係合させるとき、ワイヤの引出しに伴って回転する回転ドラムの回転数又は回転角を検知手段(図示なし)で検知し、バランサー1aにおいて検知した回転数又は回転角(Ra)を演算記憶装置20aへ送信し、バランサー1bにおいて検知した回転数又は回転角(Rb)を演算記憶装置20bに送信する。
【0072】
演算記憶装置20a及び演算記憶装置20bでは、上記回転数又は回転角(Ra、Rb)に基づいて、バランサーから引き出されたワイヤ6a及びワイヤ6bの長さを、それぞれ演算して記憶し、さらに表示する。
【0073】
一対のバランサーにおいて、バランサーから引き出されたワイヤの長さが略同じであれば、L型フックは、同じ鋼板の幅方向端部に係合していると判断できる。また、対をなす複数対のバランサー(隣接するバランサー)(図示なし)において、バランサーから引き出されたワイヤの長さが略同じであれば、L型フックは、同じ鋼板の長手方向端部に係合していると判断できる。
【0074】
即ち、L型フックを鋼板の端部に係合した後、演算記憶装置が表示する“ワイヤの長さ”が略同じであれば、L型フックは同じ鋼板の端部に係合していると判断することができる。そして、演算記憶装置が表示する“ワイヤの長さ”が略同じであること、即ち、鋼板の搬送を安全に行うことができること確認して、搬送装置を上昇させ、吊りワイヤで鋼板を吊って搬送する。
【0075】
搬送装置の構造本体に配置したバランサーの対が、例えば、2対の場合、演算記憶装置が、例えば、上記式(1)で演算して表示する“ワイヤの長さ”を目視でも迅速に確認して、係合手段の異常な係合(例えば、鋼板が異なる段違い係合)の有無を監視することができる。
【0076】
バランサーの対が3対以上の場合、鋼板端部への6個の係合手段の係合が正常に(同じ鋼板端部に)なされているか否かを迅速に確認するため、演算記憶装置が、例えば、上記式(1)で演算した“ワイヤの長さ”をバランサー間で比較演算し、比較演算値に基づいて、係合手段の異常な係合(段違い係合)の有無を監視する演算監視装置(
図3中、21、参照)を配置する。バランサーの対が2対の場合にも演算監視装置を配置してもよい。
【0077】
ここで、
図4に、1又は複数の鋼板を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、係合手段が、鋼板に段違いに係合されている態様を示す。
【0078】
図4において、L型フック12cは、置台17に積み上げた鋼板18aの端部に係合し、L型フック12dは、鋼板18bの端部に係合している。
【0079】
このような、係合手段の段違い係合があれば、他のバランサーの係合手段が、鋼板18bの端部に係合していたとしても、鋼板18bの上に積まれている鋼板の吊り搬送は不安定であり、かつ、安全でない。
【0080】
本発明搬送装置IIにおいては、バランサー1cから引き出されたワイヤ6cの長さ、バランサー1dから引き出されたワイヤ6dの長さ、さらに、他のバランサーから引き出されたワイヤの長さ(例えば、上記式(1)で演算)を演算監視装置21で比較演算し、L型フック12cが、鋼板18bとは段違いの鋼板18aに係合されていることを、鋼板の搬送前に見つけることができる。
【0081】
例えば、構造本体の両側面に、一対のバランサーを、3対、略等間隔で配置した搬送装置の場合、バランサーから引き出された“ワイヤの長さ”を、演算記憶装置で演算し、表1に示すように記憶する。なお、バランサー1aとバランサー1bが対をなし、バランサー1cとバランサー1dが対をなし、バランサー1eとバランサー1fが対をなしている。
【0083】
表1に示すワイヤ長さLa〜Lfを、演算監視装置で相互に比較し、長さの差が閾値以下であれば、係合手段の係合に段違い係合はなく、鋼板の吊り状態が安定した安全な搬送作業を行うことができると判断できる。
【0084】
表1に示すワイヤ長さLa〜Lfにおいて、ワイヤ長さの差は、最大でも、45(mm)(=5023(Ld)−4978(La))であるので、6本の吊りワイヤの係合手段(L型フック12c)は、同じ鋼板に係合していると判断できる。
【0085】
ワイヤの長さの差に閾値を設定し、ワイヤ長さLa〜Lfを演算監視装置で相互に比較し、ワイヤ長さの差が閾値を超える場合、係合手段(L型フック12c)は、
図4に示すように、段違いで鋼板端部に係合されていると判断することができる。
【0086】
このように、演算監視装置で、バランサーから引き出されるワイヤの長さを、それぞれ演算し、さらに、相互に比較演算することにより、鋼板の搬送を不安定にする係合手段の段違い係合の有無を監視し、ワイヤ長さの差が閾値を超えた場合、例えば、警報を発するようにすれば、上記係合手段の段違い係合を、鋼板の搬送前に見つけることができる。
【0087】
閾値は、鋼板の寸法・板厚と積高さ、及び、搬送装置の寸法・構造を考慮して、適宜、設定する。例えば、上記考慮の結果、積層鋼板を6本の吊りワイヤで吊り上げて搬送する場合、ワイヤ先端の係合手段を鋼板に係合する際の閾値は50mmとすればよい。
【0088】
次に、
図5に、1又は複数の鋼板を吊りワイヤで吊って搬送する搬送装置において、取外した係合手段が、他の鋼板端部に引掛った態様を示す。本発明バランサーを用いれば、係合手段を鋼板端部から取外す作業において、作業の安全を確保することができる。
【0089】
図5に示すように、取外したL型フック12eのワイヤ6eが巻き戻される途中において、図中矢印のように搖動し、L型フック12eが、鋼板18cの上に積まれている鋼板18dの端部に引掛かった場合、この引掛り状態で、ワイヤ6eの長さが演算記憶装置20eで演算され、さらに、演算監視装置21で、ワイヤ6fを含む他の5本のワイヤの長さと比較演算される。
【0090】
例えば、構造本体の両側面に、一対のバランサーを、3対、略等間隔で配置した搬送装置において、取外した係合手段のワイヤが巻き戻された後の“ワイヤの長さ”を、演算記憶装置で演算し、表2に示すように記憶する。なお、表1に示すバランサーと同様に、バランサー1aとバランサー1bが対をなし、バランサー1cとバランサー1dが対をなし、バランサー1eとバランサー1fが対をなしている。
【0092】
表2に示すワイヤ長さLa〜Lfにおいて、ワイヤ長さの差は、最大でも、46(mm)(=5025(Lb)−4979(Ld))であるので、6本の吊りワイヤの係合手段(L型フック12c)は、鋼板への係合が解除されていると判断できる。
【0093】
ワイヤの長さの差に閾値を設定し、ワイヤ長さLa〜Lfを演算監視装置で相互に比較し、ワイヤ長さの差が閾値を超える場合、少なくとも1つの係合手段(L型フック12e)が、
図5に示すように、他の鋼板端部に引っ掛かっていると判断することができる。
【0094】
このように、演算監視装置で、取外した係合手段のワイヤがバランサーに巻き戻された後のワイヤの長さを、それぞれ演算し、さらに、相互に比較演算することにより、鋼板端部から係合手段を取り外す作業の進行を監視し、ワイヤ長さの差が閾値を超えた場合、例えば、警報を発するようにすれば、上記係合手段の他の鋼板端部への引掛りを、係合手段の取り外し作業中に見つけることができる。
【0095】
この係合手段の他の鋼板端部への引掛りが不意に外れて、作業者に危害を及ぼす場合があるので、鋼板端部から係合手段を取り外す作業の進行を監視し、作業の完了を確認することは、鋼板搬送前の係合手段の正常な係合を確認することと同様に重要なことである。
【0096】
閾値は、鋼板の寸法・板厚と積高さ、及び、搬送装置の寸法・構造を考慮して、適宜、設定する。例えば、上記考慮の結果、鋼板を6本の吊りワイヤで吊り上げて搬送する場合、ワイヤ先端の係合手段を取外す際の閾値は200mmとすればよい。