特許第6985701号(P6985701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985701
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】セメント用混和剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20211213BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20211213BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20211213BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20211213BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20211213BHJP
   C04B 103/30 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   C04B24/26 H
   C04B24/02
   C04B28/02
   C04B18/14 Z
   C08F290/06
   C04B103:30
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-36194(P2018-36194)
(22)【出願日】2018年3月1日
(65)【公開番号】特開2019-151504(P2019-151504A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173495
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 高正
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】原 靖宗
(72)【発明者】
【氏名】本間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 未希
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−263181(JP,A)
【文献】 特開2015−214453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水/結合材比が質量比で0.05以上0.20未満となるように水及び結合材を含有するセメント組成物に用いるセメント用混和剤であって、下記のポリカルボン酸系共重合体と下記のポリオキシアルキレン系化合物を含有することを特徴とするセメント用混和剤。
ポリカルボン酸系共重合体:下記の構成単位(1)と下記の構成単位(2)を有するポリカルボン酸系共重合体であり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量が下記の式1で示される単量体の質量平均分子量の1.5〜7倍の範囲内にあるもの
構成単位(1):下記の式1で示される単量体から形成された構成単位
−O−(AO)−R (1)
(式1において、
:炭素数3〜5のアルケニル基
:水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22の脂肪族アシル基
O:炭素数2〜4のオキシアルキレン基
n:10〜150の整数)
構成単位(2):不飽和カルボン酸及び/又はその塩から形成された構成単位であり、不飽和カルボン酸及び/又はその塩の80〜100モル%が(無水)マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成された構成単位
ポリオキシアルキレン系化合物:下記の式2で示されるポリオキシアルキレン系化合物
O−(AO)−R (2)
(式2において、
、R:水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基
O:炭素数2〜4のオキシアルキレン基
m:1〜の整数)
【請求項2】
構成単位(1)と構成単位(2)のモル比の割合が、構成単位(1)/構成単位(2)=30/70〜70/30の範囲内である請求項1記載のセメント用混和剤。
【請求項3】
ポリカルボン酸系共重合体とポリオキシアルキレン系化合物の質量比率がポリカルボン酸系共重合体/ポリオキシアルキレン系化合物=100/20〜100/500の範囲内である請求項1又は2記載のセメント用混和剤。
【請求項4】
ポリカルボン酸系共重合体とポリオキシアルキレン系化合物の質量比率がポリカルボン酸系共重合体/ポリオキシアルキレン系化合物=100/20〜100/200の範囲内である請求項1又は2記載のセメント用混和剤。
【請求項5】
がブチル基である請求項1〜のいずれか一つの項記載のセメント用混和剤。
【請求項6】
が水素原子である請求項1〜のいずれか一つの項記載のセメント用混和剤。
【請求項7】
結合材が少なくともシリカフュームを含有する請求項1〜のいずれか一つの項記載のセメント用混和剤。
【請求項8】
水/結合材比が0.07以上0.12未満である請求項1〜のいずれか一つの項記載のセメント用混和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水/結合材比が小さく超高強度を発現するセメント組成物に用いられるセメント用混和剤に関する。さらに詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物の一部としてセメント分散剤が混和剤として利用されている。本発明は、水/結合材比を著しく抑えたセメント組成物を調製する場合においても該セメント組成物に高い流動性を与えると共にセメント組成物の粘性を抑え、自己収縮を低減し、凝結時間の遅延の低減に効果を得ることができるセメント用混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント分散剤として、各種の水溶性ビニル共重合体が使用されている。これら従来のセメント分散剤を用いてセメント配合物を調製する場合、なかでも高強度の硬化体を得るために水/結合材比を抑えたセメント配合物を調製する場合には、水/結合材比を抑えたセメント配合物に充分な流動性を与えることができる水硬性分散剤として、特定の分子量のポリカルボン酸系分散剤(例えば特許文献1参照)や、ポリカルボン酸系分散剤とポリアルキレングリコールの併用(例えば特許文献2参照)が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−263181号公報
【特許文献2】特開2010−030874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の手法では水/結合材比の小さい場合にはセメント組成物の粘性が大きく、分散性が十分得られないという問題がある。本発明が解決しようとする課題は、超高強度の硬化体を得るために水/結合材比を極度に抑えたセメント組成物が未硬化の状態で、高い流動性を与え、粘性を低減し、凝結時間の短縮ができ、硬化体として自己収縮の低減ができるセメント用混和剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、水/結合材比が低いセメント組成物に対して特定の2成分を含有するセメント混和剤が好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、水/結合材比が質量比で0.05以上0.20未満となるように水及び結合材を含有するセメント組成物に用いるセメント用混和剤であって、下記のポリカルボン酸系共重合体と下記のポリオキシアルキレン系化合物とを含有することを特徴とするセメント用混和剤に係る。
【0007】
ポリカルボン酸系共重合体:
ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)と構成単位(2)を有するポリカルボン酸系共重合体であり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量が下記の式1で示される単量体の質量平均分子量の1.5〜7倍の範囲内にあるものである。
【0008】
構成単位(1):下記の式1で示される単量体から形成された構成単位
【0009】
−O−(AO)−R (1)
【0010】
式1において、
:炭素数3〜5のアルケニル基
:水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22の脂肪族アシル基
O:炭素数2〜4のオキシアルキレン基
n:10〜150の整数
【0011】
構成単位(2):不飽和カルボン酸及び/又はその塩から形成された構成単位であり、不飽和カルボン酸及び/又はその塩の80〜100モル%が(無水)マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成された構成単位
【0012】
ポリオキシアルキレン系化合物:
ポリオキシアルキレン系化合物は、下記の式2で示されるポリオキシアルキレン系化合物である。
【0013】
O−(AO)−R (2)
【0014】
式2において、
、R:それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基
O:炭素数2〜4のオキシアルキレン基
m:1〜の整数
【発明の効果】
【0015】
本発明のセメント用混和剤は、超高強度の硬化体を得るために、水/結合材比を極度に抑えて調製した場合であってもセメント組成物に高い流動性を付与し、粘性を低減でき、セメント組成物を硬化して得られる硬化体では、自己収縮の低減が可能になり、凝結時間の遅延の低減が可能になるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【0017】
本発明に係るセメント用混和剤(以下、本発明のセメント用混和剤という)について説明する。本発明のセメント用混和剤は特定のポリカルボン酸系共重合体と特定のポリオキシアルキレン系化合物を含有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)と構成単位(2)を有する共重合体である。
【0019】
ポリカルボン酸系共重合体の構成単位(1)は下記の式1で示される単量体から形成されたものである。
【0020】
−O−(AO)−R (1)
【0021】
式1中のRとしては、イソプロペニル基、アリル基、メタリル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基等の炭素数3〜5のアルケニル基が挙げられるが、なかでもアリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテニル基が好ましい。
【0022】
式1中のRとしては、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22の脂肪族アシル基が挙げられる。なかでも、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜4の脂肪族アシル基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が更に好ましい。
【0023】
式1中のAOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、かかるものとしてはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。AOが2種類以上の場合は、ランダム付加体、ブロック付加体、交互付加体のいずれの形態であっても良い。なかでも、共重合体の水溶性を保つために、式1中のオキシアルキレン基全体の50モル%以上がオキシエチレン基であることが好ましく、90モル%以上がオキシエチレン基であることが更に好ましい。
【0024】
式1中のnはAOの付加モル数を表し、1〜150の整数とすることができるが、本発明では10〜150の整数であり、好ましくは10〜100であり、より好ましくは10〜80であり、特に好ましくは10〜60である。
【0025】
構成単位(2)を形成する不飽和カルボン酸及び/又はその塩としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、フマル酸及びこれらの塩などが挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアミン塩などが挙げられる。なかでもナトリウム塩とカルシウム塩が好ましい。構成単位(2)を形成する不飽和酸及び/又はその塩としては、(無水)マレイン酸、フマル酸及びこれらの塩から選ばれるものの割合が不飽和カルボン酸及び/又はその塩の全体の80〜100モル%、好ましくは90〜100モル%、更に好ましくは95〜100モル%となるようにする。
【0026】
ポリカルボン酸系共重合体のポリエチレングリコール換算の質量平均分子量が式1に示される単量体の質量平均分子量の1.5〜7倍であり、2〜5.5倍の範囲のものが好ましい。
【0027】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体において、構成単位(1)と構成単位(2)のモル比の割合が、構成単位(1)/構成単位(2)=30/70〜70/30であることが好ましく、水硬性物質の分散性を高める点で構成単位(1)/構成単位(2)=30/70〜50/50であることがより好ましい。
【0028】
かかるポリカルボン酸系共重合体には、構成単位(1)と構成単位(2)以外に、共重合可能な他の単量体に由来の構成単位(3)を含んでいても良い。構成単位(3)を構成する単量体は、構成単位(1)及び構成単位(2)を形成することとなる単量体と共重合可能であれば特に制限はなく、かかる単量体としては、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレン(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル類、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類、(メタ)アクリロニトリル等の不飽和シアン類、マレイン酸やフマル酸等の不飽和ジカルボン酸と(ポリ)アルキレングリコールや炭素数1〜22のアルキル基やアルケニル基のアルコールとのモノエステルやジエステルとなる不飽和ジカルボン酸エステル類、不飽和カルボン酸や不飽和ジカルボン酸と炭素数が1〜22であるアミンとのモノアミドやジアミドとなるアミド単量体類、アルキルジカルボン酸とポリエチレンポリアミンを縮合させたものの活性水素を持つ窒素原子にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたものと(メタ)アクリル酸との反応物や、不飽和カルボン酸や不飽和ジカルボン酸と炭素数が1〜22であるアミンとのモノアミドやジアミドとなるアミド単量体類、アルキルジカルボン酸とポリエチレンポリアミンを縮合させたものの活性水素を持つ窒素原子にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたものとグリシジル(メタ)アクリレートと反応させたものである、ポリアミドポリアミン単量体類、(メタ)アリルスルホン酸やビニルスルホン酸及びそれらの塩などから成るスルホン酸系単量体類、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルやリン酸−ビス[2―(メタクリロイルオキシ)エチル]およびそれらの塩などから成るリン酸系単量体類等が挙げられる。
【0029】
ポリカルボン酸系共重合体における、その他の単量体から形成された構成単位(3)の含有割合は全構成単位中の0〜30質量%とするのが好ましく、より好ましくは全構成単位中に0〜20質量%であり、更に好ましくは全構成単位中に0〜10質量%である。
【0030】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体は、公知の方法で製造することができる。これには、溶媒に水を用いたラジカル重合、溶媒に有機溶媒を用いたラジカル重合、無溶媒のラジカル重合が挙げられる。ラジカル重合における反応温度は好ましくは0〜120℃であり、より好ましくは20〜100℃であり、更に好ましくは50〜90℃である。ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤は、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過酸化物や、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられ、重合反応温度下において分解し、ラジカル発生するものであれば、その種類は特に制限されない。これらは、亜硫酸塩やL−アスコルビン酸等の還元性物質、更にはアミン等と組み合わせ、レドックス開始剤として用いることもできる。得られる共重合体の質量平均分子量を所望の範囲とするため、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオグリセリン、チオリンゴ酸等の連鎖移動剤を使用することもできる。これらのラジカル重合開始剤や還元性物質、連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いても2種類以上を併用しても良い。
【0031】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体は、水や有機溶媒を含んだまま用いてもよく、乾燥させて粉末として用いてもよく、水や有機溶媒を含んだままで無機多孔質粉体に担持させて用いてもよく、水や有機溶媒を含んだままで無機多孔質粉体に担持させ、かつ乾燥させて用いても良い。
【0032】
本発明のセメント用混和剤に供するポリオキシアルキレン系化合物としては、下記の式2で示されるものである。
【0033】
O−(AO)−R (2)
【0034】
式2において、
,R:水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基
O:炭素数2又は3のオキシアルキレン基
m:1〜の整数
【0035】
式2において、R及びRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、イソプレニル基等が挙げられる。なかでもRとしては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が好ましく、ブチル基がより好ましい。Rとしては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0036】
Oの具体例としては、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基が挙げられる。
【0037】
mは付加モル数を表し、1〜10の整数とすることができるが、本発明では1〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数である。
【0038】
式2で示されるポリオキシアルキレン系化合物の具体例としては、好ましくはエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピレングリコールモノブチルエーテルであり、より好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、更に好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0039】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体とポリオキシアルキレン系化合物の質量比率は、好ましくはポリカルボン酸系共重合体/ポリオキシアルキレン系化合物=100/20〜100/500であり、より好ましくは、100/20〜100/200であり、更に好ましくは100/40〜100/150である。この範囲において、流動性と凝結遅延の低減、および自己収縮と強度発現性において優れたものと成る。
【0040】
次に、本発明のセメント組成物について説明する。本発明のセメント組成物は、以上説明したような本発明のセメント用混和剤を用いて調製したセメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物である。本発明のセメント組成物は、結合材として少なくともセメントを用いたものである。本発明のセメント用混和剤と共に用いる結合材はセメントを単独で使用してもよく、セメントとポゾラン物質や潜在水硬性をもつ微粉末混和材料を併用しても良い。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等のセメントや混合セメントが挙げられる。セメントとしては、中庸熱セメントまたは低熱ポルトランドセメントが好ましく、中庸熱セメントまたは低熱ポルトランドセメントにシリカフューム微粉末を混入率5〜20%程度の割合で予め混合したシリカフュームプレミックスセメントを用いるのが特に好ましい。微粉末混和材料としては、高炉スラグ微粉末、シリカフューム微粉末、フライアッシュ微粉末等が挙げられるが、なかでもシリカフューム微粉末が好ましい。
【0041】
本発明のセメント用混和剤は、水と結合材との質量の割合として、水/結合材比が0.05以上0.20未満で使用するが、好ましくは水/結合材比が0.07以上0.12未満で使用し、より好ましくは水/結合材比が0.08以上0.12未満で使用する。
【0042】
本発明のセメント用混和剤に供するポリカルボン酸系共重合体の使用量は、セメント又はセメントと微粉末混和材料とからなる結合材100質量部に対し固形分換算で、通常0.01〜2.0質量部とするのが好ましく、より好ましくは0.05〜1.5質量部とする。
【0043】
本発明のセメント用混和剤はポリカルボン酸系共重合体及びポリオキシアルキレン系化合物を含有するものであるが、そのまま単独で又は水溶液として用いることもできる。また、かかるセメント用混和剤は、水硬性セメント組成物を調製する際に練混ぜ水と一緒に添加してもよく、水硬性セメント組成物を練り混ぜているときに2回もしくはそれ以上に分けて添加してもよい。
【0044】
本発明のセメント用混和剤を使用した水硬性組成物は、目的に応じてAE調整剤、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、乾燥収縮低減剤、防腐剤、防水剤、防錆剤等を併用することができる。
【0045】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0046】
試験区分1(ポリカルボン酸系共重合体の製造)
・製造例1{ポリカルボン酸系共重合体(A−1)の製造}
蒸留水1687g、マレイン酸174g(1.5モル)及びα−アリル−ω−メトキシ−ポリ(n=33)オキシエチレン1526g(1.0モル)を温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管を備えた反応容器(以下、同様のものを使用した)に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて70℃に保ち、過硫酸ナトリウム25gを蒸留水100gに溶解した水溶液を投入して、ラジカル共重合反応を開始した。1時間後更に過硫酸ナトリウム25gを蒸留水100gに溶解した水溶液を投入して、3時間70℃に保持し、重合反応を終了した。その後、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH3に調整し、蒸留水にてポリカルボン酸系共重合体(A−1)の固形分を25質量%に調整して、その水溶液を得た。A−1をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は6600であり、A−1の質量平均分子量は式1で示される単量体の質量平均分子量の4.3倍であった。
【0047】
・製造例2{ポリカルボン酸系共重合体(A−2)の製造}
蒸留水1397g、無水マレイン酸216g(2.2モル)及びα−メタリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=20)オキシエチレン1273g(1.3モル)、アクリル酸 5g、メルカプトプロピオン酸4gを温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管を備えた反応容器(以下、同様のものを使用した)に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて90℃に保ち、35%過酸化水素22gを蒸留水141gに溶解した水溶液とL−アスコルビン酸8gを順次投入して、ラジカル共重合反応を開始した。2時間後に35%過酸化水素22gを蒸留水141gに溶解した水溶液とL−アスコルビン酸8gを順次投入し、2時間90℃に保持し、重合反応を終了した。その後、水酸化カルシウムを加えてpH4に調整し、蒸留水にてポリカルボン酸系共重合体(A−2)の固形分を25質量%に調整して、その水溶液を得た。A−2をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は5000であり、A−2の質量平均分子量は式1で示される単量体の質量平均分子量の5.2倍であった。
【0048】
・製造例3{ポリカルボン酸系共重合体(A−3)の製造}
蒸留水1414g、マレイン酸93g(0.8モル)及びα−イソプレニル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=50)オキシエチレン1602g(0.7モル)、アリルスルホン酸ナトリウム2g、チオリンゴ酸12gを温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管を備えた反応容器(以下、同様のものを使用した)に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて85℃に保ち、35%過酸化水素22gを蒸留水31gに溶解した水溶液とL−アスコルビン酸8gを順次投入して、ラジカル共重合反応を開始した。1時間後にさらに35%過酸化水素22gを蒸留水31gに溶解した水溶液とL−アスコルビン酸8gを順次投入し、3時間85℃に保持し、重合反応を終了した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH5に調整し、蒸留水にてポリカルボン酸系共重合体(A−3)の固形分を25質量%に調整して、その水溶液を得た。A−3をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は7300であり、A−3の質量平均分子量は式1で示される単量体の質量平均分子量の3.2倍であった。
【0049】
・製造例4{ポリカルボン酸系共重合体(A−4)の製造}
蒸留水3300g、マレイン酸174g(1.5モル)及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(繰返し単位70)オキシエチレンポリ(繰返し単位2)(繰返し単位合計n=72)オキシプロピレン3258g(1.0モル)を温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管を備えた反応容器(以下、同様のものを使用した)に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて70℃に保ち、過硫酸ナトリウム30gを蒸留水120gに溶解した水溶液を投入して、ラジカル共重合反応を開始した。1時間後、更に過硫酸ナトリウム20gを蒸留水120gに溶解した水溶液を投入して、3時間70℃に保持し、重合反応を終了した。その後、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH4に調整し、蒸留水にてポリカルボン酸系共重合体(A−4)の固形分を25質量%調整して、その水溶液を得た。A−4をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は8600であり、A−4の質量平均分子量が式1で示される単量体の質量平均分子量の2.6倍であった。
【0050】
・製造例5{比較のための共重合体(R−1)の製造}
無水マレイン酸147g(1.5モル)及びα−アリル−ω−メトキシ−ポリ(n=33)オキシエチレン1526g(1.0モル)を反応容器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて80℃に保ち、アゾビスイソブチロニトリル12.8gを投入して、ラジカル共重合反応を開始した。4時間ラジカル共重合反応を行なった後、反応系に水300gを加えてラジカル共重合反応を停止した。その後、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7に調整し、蒸留水にて比較のための共重合体(R−1)の固形分を25質量%に調整して、その水溶液を得た。R−1をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は30500であり、R−1の質量平均分子量は式1で示される単量体の質量平均分子量の20倍であった。
【0051】
・製造例6{比較のための共重合体(R−2)の製造}
蒸留水1216g、α−イソプレニル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=50)オキシエチレン1749gを温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管を備えた反応容器(以下、同様のものを使用した)に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて65℃に保ち、アクリル酸過硫酸ナトリウム1.0gを蒸留水8.7gに溶解した水溶液、メルカプトプロピオン酸1.9gを蒸留水7.8gに溶解した水溶液と、アクリル酸19.4gを蒸留水58.3gに溶解した水溶液をそれぞれ3時間かけて滴下した。1時間65℃に保持し、重合反応を終了した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7に調整し、蒸留水にて比較のための共重合体(R−2)の固形分を25質量%に調整して、その水溶液を得た。R−2をGPCにて分析したところ、質量平均分子量は38000の共重合体であり、R−2の質量平均分子量が式1で示される単量体の質量平均分子量の16.6倍であった。以上製造したポリカルボン酸系共重合体について、表1にまとめて示した。
【0052】
合成した各共重合体(A−1)〜(A−4)、(R−1)、(R−2)の質量平均分子量を下記測定条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定した。
【0053】
[測定条件]
装置:Shodex GPC−101
カラム:OHpak SB−G+SB−806M HQ+SB−806M HQ
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7mL/分
カラム温度:40℃
試料濃度:0.5質量%の溶離液溶液
標準物質:ポリエチレングリコール
【0054】
【表1】
【0055】
表1において、
d−1:α−アリル−ω−メトキシ−ポリ(n=33)オキシエチレン
d−2:α−メタリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=20)オキシエチレン
d−3:α−イソプレニル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=50)オキシエチレン
d−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(繰返し単位70)オキシエチレンポリ(繰返し単位2)オキシプロピレン(繰返し単位の合計n=72)
e−1:マレイン酸
e−2:マレイン酸:アクリル酸=97:3(モル比)
e−3:アクリル酸
【0056】
試験区分2(セメント用混和剤の調製)
・実施例1〜12及び比較例1〜5{セメント用混和剤(P−1〜P−12、Pr−1〜Pr−5)の調製}
表2記載の内容の通りポリカルボン酸系共重合体とポリオキシアルキレン系化合物を混合してセメント用混和剤を調製した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2において、
BE1:モノエチレングリコールモノブチルエーテル
BE2:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
BE3:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
BP2:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル
BE2P2:ジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテル
ME3:α−メチル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=23)オキシエチレン
【0059】
試験区分3(超高強度コンクリート組成物の調製及び評価)
・実施例13〜24及び比較例6〜13{超高強度コンクリート組成物の調製}
下記の表3記載の配合条件で、各試験例の超高強度コンクリート組成物を以下のように調製した。100Lの二軸型強制練りミキサーにシリカフュームセメント(宇部三菱社製、比重=3.08、ブレーン値5600)、シリカフューム微粉末(エルケム社製の商品名マイクロシリカ940U、比重=2.20)及び細骨材(大井川水系砂、比重=2.58)を順次投入して15秒間空練りした後、表2記載のセメント用混和剤を、また結合材100重量部当たり0.05質量部の割合となるよう脂肪族ポリエーテル系消泡剤(竹本油脂社製の商品名AFK−2)を練り混ぜ水と共に投入し、配合条件のNo.1では10分間、No.2では15分間練り混ぜた。その後、粗骨材(岡崎産砕石、比重=2.68)を投入し、5分間練り混ぜた。セメント混和剤の使用量を調整して、目標スランプフローが65±3cmとなるようにした。空気量は3%以下となった。
【0060】
【表3】
【0061】
・超高強度コンクリート組成物の評価
調製した各例のセメント組成物について、凝結時間、練り混ぜ直後のスランプフロー、空気量及び粘性の評価、また、更に硬化体の自己収縮ひずみ及び圧縮強度を下記のように求めた。結果を表4にまとめて示した。
【0062】
・スランプフロー:JIS−A1150に準拠して測定した。
・空気量:JIS−A1128に準拠して測定した。
・自己収縮ひずみ:日本コンクリート工学協会の自己収縮研究委員会報告書の「コンクリートの自己収縮応力試験方法(案)」に準拠したが、ひずみの測定は埋め込み型ひずみゲージを用いて測定し、凝結始発以後のひずみ変化を自己収縮ひずみとした材齢28日について測定した。自己収縮ひずみの数値が小さいほど、自己収縮が小さいことを示す。一般に、水/結合材比の小さい配合の超高強度コンクリート組成物ほど自己収縮ひずみが大きくなる傾向があるため、自己収縮ひずみは水/結合材比が同じ超高強度コンクリート組成物間で比較する必要がある。
・圧縮強度:JIS−A1108に準拠し、材齢28日を測定した。
・凝結時間:JIS−A1107に準拠し測定した。
・粘性の評価:下記の基準とし、到達時間が短いものが良いとした。
配合条件1の場合:
スランプフロー50cm到達時間
◎:20秒未満
○:20秒以上30秒未満
△:30秒以上40秒未満
×:40秒以上
配合条件2の場合:
スランプフロー50cm到達時間
◎:30秒未満
○:30秒以上40秒未満
△:40秒以上50秒未満
×:50秒以上
【0063】
【表4】
【0064】
表4において、
※:セメント用混和剤の添加量を増やしても流動性が不足して目標のスランプフロー値が得られなかった。
【0065】
(結果)
実施例13〜24においては、ポリカルボン酸系共重合体及びポリオキシアルキレン系化合物を含むセメント用混和剤を用いることにより、比較例6〜13に比して、粘性、自己収縮ひずみ、圧縮強度のいずれにおいても優れた値を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のセメント用混和剤は、セメント組成物を調製する際に混和剤として使用することができる。