【実施例1】
【0026】
本発明の第1の実施の形態のMn系強磁性薄膜の製造方法を使用して、DC/RFマグネトロンスパッタリングにより、本発明の実施の形態のMn系強磁性薄膜の製造を行った。
図1に示すように、厚さ100 nmのMgO基板上に、順番に、厚さ40 nmのCrRu層、厚さ50 nmのMn
1−xCo
xAl合金層(x=0,0.05,0.08)、厚さ5 nmのTa層を、スパッタリングにより成膜した。なお、Mn
1−xCo
xAl合金層は、Mn
1−xCo
xを54at%、Alを46at%含んでいる。
【0027】
以下、下地層のCrRu層の作製条件および層厚、Mn
1−xCo
xAl合金層のスパッタリング時の不活性ガス圧、Mn
1−xCo
xAl合金層成膜時の基板温度、Mn
1−xCo
xAl合金層の層厚、Mn
1−xCo
xAl合金層成膜後の熱処理温度、Mn
1−xCo
xAl合金層の組成(xの値)について検討を行った。
【0028】
[CrRu層の作製条件]
下地層であるCrRu層(層厚40 nm)を、スパッタリングにより、(1)室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行う方法、(2)250℃で成膜し、熱処理は行わない方法の2つの方法で、MgO基板上に作製した。それぞれの方法で作製したCrRu層のX線回折結果を
図2に、原子間力顕微鏡(AFM)による測定画像を
図3に示す。
【0029】
図2(a)に示す(1)の条件の場合の方が、
図2(b)に示す(2)の条件の場合と比べて、CrRuのピークが高く、MgOのピークが低くなっており、(001)配向性に優れていることが確認された。また、
図3(a)に示す(1)の条件の場合の方が、
図3(b)に示す(2)の条件の場合と比べて、表面の凹凸が少なく、表面粗さRaの値も小さくなっており、平坦性に優れていることが確認された。
【0030】
[CrRu層の層厚]
下地層であるCrRu層の層厚を、0 nm〜40 nmまで変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層は、室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行って作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層(層厚50 nm)は、成膜時の基板温度を300℃、成膜後の熱処理温度を350℃、x=0.05として作製した。CrRu層の各層厚で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)のX線回折結果を
図4に、磁化曲線を
図5に示す。なお、磁化曲線は、振動試料型磁力計(VSM)により測定している(以下同じ)。
【0031】
図4に示すように、CrRu層の層厚が20 nm以上のとき、Mn系強磁性薄膜がL1
0型構造を有していることが確認された。また、
図5に示すように、CrRu層の層厚が20 nm以上のとき、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(perpendicular)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(in plane)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。
【0032】
[Mn
1−xCo
xAl合金層のスパッタリング時の不活性ガス圧]
Mn
1−xCo
xAl合金層をスパッタリングする際の、不活性ガスであるアルゴンの圧力を、0.2 Pa〜0.5 Paまで変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層(層厚40 nm)は、250℃で成膜して作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層(層厚50 nm)は、成膜時の基板温度を300℃、x=0.05として作製した。各ガス圧で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)の磁化曲線を、
図6に示す。
【0033】
図6に示すように、スパッタリング時の不活性ガス圧がいずれの圧力であっても、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(⊥)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(//)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。
【0034】
(MnCo):Alの組成比は、スパッタリングを行う際の不活性ガス圧により変化するが、
図6に示すように、その組成比の変化によらず良好な垂直磁気特性が得られており、従来のMnAl薄膜と比べて不活性ガス圧力依存性が小さいことがわかる。このことから、不活性ガス圧等のスパッタリングの諸条件の調整が容易であり、容易かつ安定してMn系強磁性薄膜を製造することができるといえる。
【0035】
[Mn
1−xCo
xAl合金層成膜時の基板温度]
Mn
1−xCo
xAl合金層成膜時の基板温度を、175℃〜400℃まで変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層(層厚40 nm)は、室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行って作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層をスパッタリングする際の、不活性ガスであるアルゴンの圧力を0.5 Paとした。また、Mn
1−xCo
xAl合金層(層厚50 nm)は、成膜後には熱処理を行わず、x=0.05として作製した。各基板温度で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)のX線回折結果を
図7に、磁化曲線を
図8に示す。また、
図8の結果から求めた磁気異方性定数Ku、および、原子間力顕微鏡(AFM)の測定画像から得られた表面粗さRaと、基板温度との関係を求め、
図9に示す。
【0036】
図7に示すように、基板温度が200℃〜350℃のとき、Mn系強磁性薄膜がL1
0型構造を有していることが確認された。また、
図8に示すように、基板温度が200℃〜350℃のとき、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(perpendicular)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(in plane)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。また、
図9に示すように、基板温度が200℃〜350℃のとき、Mn系強磁性薄膜のKuの値が高くなり、4 Merg/cc以上になっていることが確認された。
【0037】
[Mn
1−xCo
xAl合金層の層厚]
Mn
1−xCo
xAl合金層の層厚を、2 nm〜50 nmまで変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層(層厚40 nm)は、250℃で成膜して作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層をスパッタリングする際の、不活性ガスであるアルゴンの圧力を0.5 Paとした。また、Mn
1−xCo
xAl合金層は、成膜時の基板温度を300℃、x=0.05として作製した。Mn
1−xCo
xAl合金層の各層厚で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)の磁化曲線を、
図10に示す。
【0038】
図10に示すように、Mn
1−xCo
xAl合金層の層厚が3 nm以上のとき、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(⊥)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(//)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。
【0039】
[Mn
1−xCo
xAl合金層成膜後の熱処理温度]
Mn
1−xCo
xAl合金層成膜後の熱処理温度を、300℃〜500℃まで変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層(層厚40 nm)は、室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行って作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層をスパッタリングする際の、不活性ガスであるアルゴンの圧力を0.5 Paとした。また、Mn
1−xCo
xAl合金層(層厚50 nm)は、成膜時の基板温度を300℃、x=0.05として作製した。Mn
1−xCo
xAl合金層の各層厚で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)のX線回折結果を
図11に、磁化曲線を
図12に示す。なお、比較のため、Mn
1−xCo
xAl合金層成膜後に熱処理を行わないとき(w/o)の結果も、
図11および
図12に示す。
【0040】
図11に示すように、Mn
1−xCo
xAl合金層成膜後の熱処理温度が350℃以下のとき、Mn系強磁性薄膜がL1
0型構造を有していることが確認された。また、
図12に示すように、熱処理温度が350℃以下のとき、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(perpendicular)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(in plane)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。また、このとき、得られる飽和磁化M
Sが特に大きく、Msに比例するKuの値も大きくなることがわかる。
【0041】
[Mn
1−xCo
xAl合金層の組成(xの値)]
Mn
1−xCo
xAl合金層の組成を、x=0,0.05,0.08と変化させて、
図1に示す膜構造を作製した。CrRu層(層厚40 nm)は、室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行って作製した。また、Mn
1−xCo
xAl合金層をスパッタリングする際の、不活性ガスであるアルゴンの圧力を0.5 Paとした。また、Mn
1−xCo
xAl合金層(層厚50 nm)は、成膜時の基板温度を300℃、成膜後の熱処理温度を350℃として作製した。Mn
1−xCo
xAl合金層の各組成で作製したMn系強磁性薄膜(MnCoAl)のX線回折結果を
図13に、磁化曲線を
図14に示す。また、
図14の結果から求めた飽和磁化M
Sおよび磁気異方性定数Kuと、xの値との関係を求め、
図15に示す。
【0042】
図13に示すように、x=0,0.05のとき、Mn系強磁性薄膜がL1
0型構造を有していることが確認された。また、
図14に示すように、x=0,0.05のとき、磁化曲線が、Mn系強磁性薄膜の表面に対して垂直方向(perpendicular)では非直線的でヒステリシス曲線になっており、膜の面内方向(in plane)ではほぼ直線的であることが確認された。このとき、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。また、
図15に示すように、概ねx=0.06以下のとき、Mn系強磁性薄膜のKuの値が高くなり、4 Merg/cc以上になっていることが確認された。
【0043】
以上の検討結果をまとめると、本発明の第1の実施の形態のMn系強磁性薄膜の製造方法は、まず、MgO基板上に、層厚20 nm〜40 nmのCrRu層を、室温で成膜した後、650℃で30分間の熱処理(アニール)を行って作製する。その上に、Mn
1−xCo
xAl合金層(x=0〜0.06)を、層厚3 nm〜50 nm、成膜時の基板温度を200℃〜350℃、成膜後の熱処理温度を350℃以下で作製する。このときのスパッタリングの不活性ガス圧を、0.2 Pa〜0.5 Paとする。その上に、厚さ5 nmのTa層を作製する。これにより、高い熱安定性と低い磁気緩和定数とを有する、良好な垂直磁気特性のMn系強磁性薄膜を、容易かつ安定して製造することができる。
【実施例3】
【0047】
本発明の第2の実施の形態のMn系強磁性薄膜の製造方法を使用して、DC/RFマグネトロンスパッタリングにより、本発明の実施の形態のMn系強磁性薄膜の製造を行った。
図17に示すように、MgO基板上に、順番に、厚さ40nmのCr層、厚さ20nmのMnAl合金層、厚さtnm(t=0,0.5,1.0,1.5)のCo
1−xFe
x層(x=0,0.25,0.5,1.0)、厚さ5nmのTa層を、スパッタリングにより成膜した。スパッタリングを行う際には不活性ガスとしてアルゴンを用い、その圧力を0.5Pa、MgO基板の温度を300℃とした。なお、MnAl合金層は、Mnを54at%、Alを46at%含んでいる。
【0048】
こうして製造された多層膜構造について、原子間力顕微鏡(AFM)による観察、X線回折(XRD)による結晶構造解析、および振動試料型磁力計(VSM)による磁化特性の測定を行った。原子間力顕微鏡による観察結果を
図18に、X線回折パターンを
図19に、振動試料型磁力計による測定から求めた磁化曲線を
図20に示す。なお、Co
1−xFe
x層のxの値(組成)を変えても、これらの結果にはほとんど変化が認められなかった。このため、
図18〜
図20には、x=0のとき(Co
1−xFe
x層がCo層のとき)の結果を示す。
【0049】
図18に示すように、t=1.0nmのとき、原子間力顕微鏡による観察では、Ta層界面まで、MnAl層となっている様子が確認された。また、t=0,0.5,1.5nmのときも同様に、Ta層界面まで、MnAl層となっている様子が確認された。この観察結果から、MnAl合金層の上に積層したCoが、MnAl合金中に固溶し、MnとAlとCoとを含むMn系強磁性薄膜が形成されているものと考えられる。
【0050】
このMn系強磁性薄膜についてX線回折パターンを求めたところ、
図19に示すように、Co層の厚さtによらず、全ての試料でL1
0型構造を有していることが確認された。また、t=1.0nmおよび1.5nmのとき、ピーク強度が特に大きくなっていることが確認された。
【0051】
また、得られたMn系強磁性薄膜について磁化特性の測定を行ったところ、
図20(a)および(b)に示すように、磁化曲線が、膜の表面に対して垂直方向では非直線的でヒステリシス曲線となっており、膜の面内方向ではほぼ直線的であることが確認された。また、膜の表面に対して垂直方向で飽和磁化M
Sが観測されていることから、磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向しており、良好な垂直磁気特性が得られていることがわかる。
【0052】
図20(a)および(b)の結果から、Co層の厚さtと保磁力H
Cおよび飽和磁化M
Sとの関係をそれぞれ求め、
図20(c)に示す。
図20(c)に示すように、t=1.0nmのとき、保磁力H
Cが最大となり、飽和磁化M
Sが最小となることが確認された。このときの磁気異方性定数K
uは、
図20(a)および(b)から、約8Merg/cm
3であった。また、t=1.5nmのときも、t=1.0nmのときほどではないが、保磁力H
Cが大きく、飽和磁化M
Sが小さいことが確認された。このときの磁気異方性定数K
uは、約6Merg/cm
3であった。
【0053】
この結果から、tを調整することにより、磁気異方性定数K
uが大きく、熱安定性が高いMn系強磁性薄膜を得ることができるといえる。また、tを調整することにより、反転電流密度が低いMn系強磁性薄膜を得ることができるといえる。また、tを調整することにより、製造されるMn系強磁性薄膜のK
uや飽和磁化M
Sを調整することができるため、MnAl合金層の製造条件やスパッタリングの諸条件を、従来のMnAl薄膜を製造するときほど厳密に調整する必要がなく、容易かつ安定してMn系強磁性薄膜を製造することができるといえる。