特許第6985717号(P6985717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985717
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ピンニング工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-113330(P2017-113330)
(22)【出願日】2017年6月8日
(65)【公開番号】特開2018-204378(P2018-204378A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】特許業務法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−117462(JP,A)
【文献】 特開2016−141966(JP,A)
【文献】 特開2007−224639(JP,A)
【文献】 特開昭57−193671(JP,A)
【文献】 特開平11−172925(JP,A)
【文献】 特開2018−016950(JP,A)
【文献】 国際公開第96/032552(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0097849(US,A1)
【文献】 米国特許第4930284(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0135419(US,A1)
【文献】 特開昭63−184640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 1/41
F16B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造のパネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた、壁体を補修するピンニング工法であって、
前記保持材から外れた空隙領域に、前記仕上げ材および前記パネル体の一部を貫通するように挿填穴を形成する穿孔工程と、
前記挿填穴に対応する有底の筒状体を、前記仕上げ材から前記パネル体まで達し且つ前記パネル体の一部を貫通して中空部に達するように前記挿填穴に装着する装着工程と、
前記挿填穴に接着剤を注入する注入工程と、を備え、
前記筒状体は、プレス打抜き成形により複数のスリット孔を所定の間隔幅で形成した金属板を、前記スリット孔の延在方向に円筒状に折り曲げ、且つ先端を閉止部材で閉止したものであり、
前記注入工程では、前記接着剤を、前記筒状体の内部に注入すると共に前記複数のスリット孔から流出させて、前記空隙領域に臨む部分では、前記筒状体を芯材とするスペーサー様に付着させ、前記貫通先の空隙部に臨む部分では、前記パネル体を受けとする抜止め様に付着させることを特徴とするピンニング工法。
【請求項2】
パネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた、壁体を補修するピンニング工法であって、
前記保持材から外れた空隙領域に、前記仕上げ材および前記パネル体を貫通するように挿填穴を形成する穿孔工程と、
前記挿填穴に対応する有底の筒状体を、前記仕上げ材から前記パネル体まで達し且つ前記パネル体を貫通するように前記挿填穴に装着する装着工程と、
前記挿填穴に接着剤を注入する注入工程と、を備え、
前記筒状体は、プレス打抜き成形により複数のスリット孔を所定の間隔幅で形成した金属板を、前記スリット孔の延在方向に円筒状に折り曲げ、且つ先端を閉止部材で閉止したものであり、
前記注入工程では、前記接着剤を、前記筒状体の内部に注入すると共に前記複数のスリット孔から流出させて、前記空隙領域に臨む部分では、前記筒状体を芯材とするスペーサー様に付着させ、前記貫通先の空隙部に臨む部分では、前記パネル体を受けとする抜止め様に付着させることを特徴とするピンニング工法。
【請求項3】
前記筒状体を介して、アンカーピンを前記挿填穴に挿填する挿填工程、を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のピンニング工法。
【請求項4】
前記アンカーピンは、皿状の頭部を有する全ネジピンで構成され、
前記注入工程の後に前記挿填工程を行い、
前記穿孔工程では、前記挿填穴を形成した後、球形のドリルビットにより前記挿填穴の開口部を皿もみしてザグリ部を形成し、
前記挿填工程では、前記アンカーピンの挿填に際し、前記頭部の表面と前記仕上げ材の表面とが面一になるように、前記頭部を前記ザグリ部に嵌合することを特徴とする請求項3に記載のピンニング工法。
【請求項5】
前記仕上げ材は、石材および大型タイルのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のピンニング工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材および大型タイルを仕上げ材とする外壁や内壁等の壁体に対し、補修を行うためのピンニング工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のピンニング工法として、いわゆる「浮き」が生じた石張り(石材)やタイル張り(大型タイル)の壁体を補修するものが知られている(特許文献1参照)。
このピンニング工法は、石材がコンクリート躯体にダンゴ張り等された壁体を補修するピンニング工法であって、張付け材から外れた空隙領域に、石材および下地モルタルを貫通し且つコンクリート躯体に達する挿填穴を形成する穿孔工程と、多数の透孔を有する筒状体を、石材およびコンクリート躯体間に渡すように挿填穴に装着する装着工程と、挿填穴および筒状体の内部に接着剤を注入する注入工程と、筒状体を介して、挿填穴にアンカーピンを挿填する挿填工程と、を備えている。
この工法では、筒状体およびアンカーピンがコンクリート躯体に定着され、且つ筒状体の外周面に流出した接着剤が、筒状体を心材とするスペーサー様に硬化し、石材に対し十分な支持力を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−117462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、壁体にコンクリート躯体を用いる建築物は、いわゆる鉄筋コンクリート造或いは鉄骨鉄筋コンクリート造のものである。これに対し、鉄骨造の建築物では、コンクリート躯体に相当するものとして、合板、ケイ酸カルシウム板(スレートボード)、押出し成型セメント板等のパネル体(いわゆるボード下地)が用いられている。したがって、鉄骨造の建築物では、当該パネル体に対し石材がダンゴ張り等される。
このため、この種の壁体の補修に、上記従来のピンニング工法を適用すると、筒状体およびアンカーピンが定着されるパネル体が脆弱であるため、コンクリート躯体のような引抜き耐力が得られず、浮きの生じた石材等を強固に定着させることができないという問題がある。
【0005】
本発明は、パネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた壁体に対し、適切に補修を行うことができるピンニング工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピンニング工法は、中空構造のパネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた、壁体を補修するピンニング工法であって、保持材から外れた空隙領域に、仕上げ材およびパネル体の一部を貫通するように挿填穴を形成する穿孔工程と、挿填穴に対応する有底の筒状体を、仕上げ材からパネル体まで達し且つパネル体の一部を貫通して中空部に達するように挿填穴に装着する装着工程と、挿填穴に接着剤を注入する注入工程と、を備え、筒状体は、プレス打抜き成形により複数のスリット孔を所定の間隔幅で形成した金属板を、スリット孔の延在方向に円筒状に折り曲げ、且つ先端を閉止部材で閉止したものであり、注入工程では、接着剤を、筒状体の内部に注入すると共に複数のスリット孔から流出させて、空隙領域に臨む部分では、筒状体を芯材とするスペーサー様に付着させ、貫通先の空隙部に臨む部分では、パネル体を受けとする抜止め様に付着させることを特徴とする。
【0007】
本発明の他のピンニング工法は、パネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた、壁体を補修するピンニング工法であって、保持材から外れた空隙領域に、仕上げ材およびパネル体を貫通するように挿填穴を形成する穿孔工程と、挿填穴に対応する有底の筒状体を、仕上げ材からパネル体まで達し且つパネル体を貫通するように挿填穴に装着する装着工程と、挿填穴に接着剤を注入する注入工程と、を備え、筒状体は、プレス打抜き成形により複数のスリット孔を所定の間隔幅で形成した金属板を、スリット孔の延在方向に円筒状に折り曲げ、且つ先端を閉止部材で閉止したものであり、注入工程では、接着剤を、筒状体の内部に注入すると共に複数のスリット孔から流出させて、空隙領域に臨む部分では、筒状体を芯材とするスペーサー様に付着させ、貫通先の空隙部に臨む部分では、パネル体を受けとする抜止め様に付着させることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、空隙領域に臨む部分では、筒状体を芯材とするスペーサー様に付着した接着剤により、パネル体に対する仕上げ材の接着強度を向上させることができる。また、貫通先の空隙部に臨む部分では、パネル体を受けとする抜止め様に付着させた接着剤により、筒状体の引抜き耐力を向上させることができる。これによって、浮きの生じた仕上げ材を強固に定着させることができ、パネル体に、部分的に設けた保持材を介して仕上げ材が張り付けられた壁体に対し、適切に補修を行うことができる。なお、保持材は、湿式工法における点状または帯状に盛り付けた張付け材や、乾式工法における保持金具が、これに相当する。
【0009】
これらの場合、筒状体を介して、アンカーピンを挿填穴に挿填する挿填工程、を更に備えたことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、接着剤により、アンカーピンおよび筒状体を介して、パネル体と仕上げ材とを一体化させることができる。したがって、仕上げ材をパネル体に強固に接着することができる。
【0015】
また、アンカーピンは、皿状の頭部を有する全ネジピンで構成され、注入工程の後に挿填工程を行い、穿孔工程では、挿填穴を形成した後、球形のドリルビットにより挿填穴の開口部を皿もみしてザグリ部を形成し、挿填工程では、アンカーピンの挿填に際し、頭部の表面と仕上げ材の表面とが面一になるように、頭部をザグリ部に嵌合することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、球形のドリルビットにより挿填穴の開口部を皿もみしてザグリ部を形成するようにしているため、熟練を要することなく、所定の径のザグリ部を形成することができる。したがって、ザグリ部と同径の頭部を有するアンカーピン(ザグリ部に嵌合)を用いることで、アンカーピンを目立たないように施工(仕上げ)することができる。なお、アンカーピンの頭部表面を、仕上げ材と同色に着色しておくことが好ましい。
【0017】
また、仕上げ材は、石材および大型タイルのいずれかであることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、いわゆるダンゴ張りやビード張り、或いは金具止め等の石材や大型タイルを、パネル体に対し適切に効率良くアンカリング(ピンニング)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図である。
図2】第1実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。
図3】アンカーピンおよび筒状体の斜視図である。
図4】第1実施形態のピンニング工法における施工手順(1)を表した断面図である。
図5】第1実施形態のピンニング工法における施工手順(2)を表した断面図である。
図6】第2実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図である。
図7】第2実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。
図8】第2実施形態のピンニング工法における施工手順(1)を表した断面図である。
図9】第2実施形態のピンニング工法における施工手順(2)を表した断面図である。
図10】第1実施形態のピンニング工法をレール工法の壁体に適用した第1適用例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るピンニング工法について説明する。ピンニング工法(アンカーピンニング工法)は、タイルや石材等の仕上げ材に「浮き」(剥離)が生じた、外壁や吹き抜け・ホールの内壁等の壁体を補修するものである。実施形態のピンニング工法は、一般的なタイルと異なり、その大きさ(重量)に起因して特異な張付け形態を執る石材や大型タイルを対象とするものであり、以下、石材を仕上げ材とした壁体を補修する場合について説明する。また、実施形態のピンニング工法は、鉄骨造の建築物における、ボード下地の壁体を補修対象とするものであり、第1実施形態では、押出し成型セメント板下地の壁体を、第2実施形態では、ケイ酸カルシウム板下地の壁体を補修する場合について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図であり、図2は、第1実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。両図に示すように、壁体1(既設)は、チャンネル材等の鋼製下地2と、鋼製下地2に張り付けられた押出し成型セメント板下地3(ボード下地:パネル体)と、張付け材4(保持材)を介して押出し成型セメント板下地3の表面に張り付けられた石材5(仕上げ材)と、を有している。押出し成型セメント板下地3は、セメント、ケイ酸質原料および繊維質原料を主原料とした中空構造のパネル体である。すなわち、押出し成型セメント板下地3には、中空部3aが形成されている。第1実施形態では、この中空部3aが、請求項にいう「貫通先の空隙部」となっている。また、図示省略したが、押出し成型セメント板下地3にビス止め固定され、石材5を支持する荷重受け金具を、更に備える構成であっても良い。
【0022】
石材5は、いわゆるダンゴ張りで押出し成型セメント板下地3に張り付けられている(湿式工法)。すなわち、石材5は、その裏面の5か所に点状(島状)に張付け材4を盛り付け、この状態で押出し成型セメント板下地3に張り付けられている。
【0023】
したがって、石材5と押出し成型セメント板下地3との間には、5か所に設けた張付け材4と、張付け材4から外れた空隙領域7と、が生じている。また、張り付けられた石材5の相互間には、バックアップ材8を存して目地9が設けられている。そして、一部の張付け材4と石材5との間、或いは一部の張付け材4と押出し成型セメント板下地3との間に剥離(「浮き」)が生じているものとする。そこで、実施形態では、上記空隙領域7を狙って、1の石材5につき4か所にピンニングを実施するものとする。なお、石材5には、規格石(大理石や花崗岩等)、テラゾ、テラコッタ、擬石等が含まれ、張付け材4には、モルタル、接着剤、漆喰等が含まれる。
【0024】
図2に示すように、第1実施形態のピンニング工法では、まず空隙領域7に位置して、石材5および押出し成型セメント板下地3の一部(中空部3aまで)を貫通する挿填穴11が形成される。続いて、挿填穴11に、接着剤Rが注入され、さらにアンカーピン12が挿填される。単純にこの作業を行うと、注入された接着剤Rは、中空部3aおよび空隙領域7で液だれしてしまうため、実施形態では、この無駄な液だれを防止すべく、接着剤Rを注入する前に、挿填穴11に対応する有底の筒状体13を挿填穴11に装着するようにしている。なお、接着剤Rは、例えば、エポキシ樹脂等の2液タイプの接着用合成樹脂である。
【0025】
図3は、アンカーピン12および筒状体13を表している。同図に示すように、アンカーピン12は、皿状の頭部12aを有する全ネジピンで構成されている。アンカーピン12は、例えばステンレス等で形成され、頭部12aの表面は、石材5の表面と同色に着色されている。アンカーピン12の頭部12aは、後述する挿填穴11のザグリ部14に嵌合すると共に、その表面は、石材5の表面と面一となるように挿填穴11に挿填される。これにより、施工後のアンカーピン12は、石材5の表面において、極端に目立たないものとなる。
【0026】
筒状体13は、金属(ステンレス等)の板材をプレス打抜き成形し、プレス打抜き成形した板材を円筒状に折り曲げ、その先端(挿入端)を、閉止部材15(接着用合成樹脂等)によって閉止して形成されている。筒状体13の先端は、挿填穴11への挿入を容易にすべく、テーパー状に形成されている。また、筒状体13の周面には、周方向に延びるスリット孔13a(透孔)が、軸方向に並んで複数形成されている。さらに、筒状体13の径は、挿填穴11の径に対応したものとなっている。そして、図2に示すように、筒状体13は、挿填穴11に装着したときに、石材5から空隙領域7を介して押出し成型セメント板下地3に達し、押出し成型セメント板下地3の一部を貫通して中空部3aに達する長さに形成されている。
【0027】
複数のスリット孔13aは、筒状体13の周面における、先端および基端を除いた軸方向全域に形成されている。より言えば、複数のスリット孔13aは、筒状体13の周面における、石材5、空隙領域7および押出し成型セメント板下地3の中空部3aに臨む部分に形成されている。
【0028】
一方、複数のスリット孔13aは、筒状体13の内部に注入した接着剤Rを、筒状体13の外側に導いて筒状体13の外周面に付着させることを意図したものである。したがって、複数のスリット孔13aを通過した直後の接着剤Rが相互に融合し一体化するように、接着剤Rの粘性と併せてそのスリット孔13a同士の間隔幅が定められている。これにより、筒状体13の外周面に押し出された接着剤Rは、一体化して筒状体13の外周面に均一に付着する。
【0029】
これらの結果、筒状体13の内部に注入された接着剤Rは、複数のスリット孔13aから流出し筒状体13の外周面に囲繞するように付着する。そして、筒状体13の、中空部3aに臨む部分では、複数のスリット孔13aから流出した接着剤Rが、押出し成型セメント板下地3の内面を受けとする抜止め様に付着する。また、筒状体13の、空隙領域7に臨む部分では、複数のスリット孔13aから流出した接着剤Rが、筒状体13を芯材とする、石材5および押出し成型セメント板下地3間のスペーサー様に付着する。これらによって、押出し成型セメント板下地3に対し石材5が強固に定着される。
【0030】
なお、複数のスリット孔13aは、筒状体13の全周に亘って形成されているのではなく、筒状体13の周方向の1の位置(複数のスリット孔13aで共通)が、スリット孔13aの非形成部分となっている。筒状体13は、重力による接着剤Rの流出量差を緩和すべく、この非形成部分の位置が下側となるように装着される。
【0031】
ここで、図4および図5を参照して、第1実施形態のピンニング工法における施工手順について説明する。このピンニング工法は、空隙領域7を狙って、石材5および押出し成型セメント板下地3の一部を貫通するように挿填穴11を穿孔すると共に、穿孔した挿填穴11の開口部にザグリ部14を形成する穿孔工程(図4(a)および(b))と、筒状体13を挿填穴11に装着する装着工程(図4(c))と、挿填穴11および筒状体13の内部に接着剤Rを注入する注入工程(図5(d))と、筒状体13を介して、アンカーピン12を挿填穴11に挿填する挿填工程(図5(e))と、を備えている。
【0032】
穿孔工程では、穿孔装置21を用いて挿填穴11を穿孔する。穿孔装置21は、例えば電動ドリル(図示省略)に、シャンク部23と切刃部24とから成るダイヤモンドビット22を装着して構成されている。ダイヤモンドビット22を石材5のマーキング箇所に当てがい、電動ドリルによりダイヤモンドビット22を回転させて穿孔を行う(図4(a)参照)。穿孔は、石材5に直角に且つ石材5を貫通すると共に押出し成型セメント板下地3の一部(中空部3aまで)を貫通するように行う。なお、このダイヤモンドビット22では、シャンク部23を介して切刃部24に冷却液を供給するようにしている。
【0033】
次に、電動ドリルにダイヤモンドビット22に代えて球形のドリルビットである球形ビット25(ダイヤモンド)を装着し、球形ビット25により、挿填穴11の開口部を皿もみしてザグリ部14を形成する(図4(b)参照)。球形ビット25は、アンカーピン12の頭部12aの径と同径に形成されており、皿もみの要領でザグリ部14が形成される。
【0034】
装着工程では、筒状体13を開口部から差し込んで挿填穴11に装着する。この場合、筒状体13が、石材5から空隙領域7を介して押出し成型セメント板下地3に達し、押出し成型セメント板下地3の一部を貫通して押出し成型セメント板下地3の中空部3aに達するように装着される(図4(c)参照)。すなわち、筒状体13の複数のスリット孔13aが、石材5、空隙領域7および押出し成型セメント板下地3の中空部3aに臨むように筒状体13が装着される。
【0035】
注入工程では、手動式の樹脂注入器27を用いて接着剤Rの注入を行う。樹脂注入器27は、注入器本体(図示省略)と、注入器本体に進退操作可能に設けられた注入ノズル28と、注入の際に挿填穴11の開口部を封止するテーパー状の封止部29と、を有している。封止部29により挿填穴11の開口部を封止した状態で、注入ノズル28を筒状体13の先端部まで差し入れて、ポンピングにより接着剤Rの注入を行う(図5(d)参照)。ポンピングを開始すると、接着剤Rは、筒状体13の先端部から充填されていき、筒状体13の内部全体に充填される。さらにポンピングを続行すると、接着剤Rは、筒状体13からにじみ出るようにその外側に流出していく。このように、注入工程では、接着剤Rを、筒状体13の内部に注入すると共に、複数のスリット孔13aから流出させて筒状体13の外周面に囲繞するように付着させる。
【0036】
このとき、石材5側の挿填穴11および押出し成型セメント板下地3側の挿填穴11では、筒状体13からにじみ出た接着剤Rにより、挿填穴11と筒状体13との間隙が満たされる。また、筒状体13の中空部3aに臨む部分からにじみ出た接着剤Rは、筒状体13の外周面に膨らみを持って付着し、筒状体13の外周面に、押出し成型セメント板下地3を受けとする抜止め様に付着する。これにより、押出し成型セメント板下地3の中空部3aに、接着剤Rの抜止めが形成される。さらに、筒状体13の空隙領域7に臨む部分からにじみ出た接着剤Rは、筒状体13の外周面に膨らみを持って付着し、筒状体13の外周面に、筒状体13を芯材とする、石材5および押出し成型セメント板下地3間のスペーサー様に付着する。これにより、石材5と押出し成型セメント板下地3との間に接着剤Rの柱(コラム)が形成される。
【0037】
挿填工程では、注入ノズル28を引き抜いた後、挿填穴11(筒状体13)にアンカーピン12を挿入する。アンカーピン12を挿入していき、その頭部12aがザグリ部14の近傍に達したら、頭部12aにヘラ30等を突き当て、頭部12aの表面と石材5の表面とが面一になるように押し込んで、頭部12aをザグリ部14に嵌合させる(図5(e)参照)。以降、接着剤Rが硬化するまで養生を行う。
【0038】
次に図6ないし図9を参照して、第2実施形態に係るピンニング工法について、第1実施形態とは異なる部分のみ説明する。図6は、第2実施形態のピンニング工法を実施した壁体の正面図である。図7は、第2実施形態のピンニング工法を説明する断面図である。両図に示すように、壁体1A(既設)は、押出し成型セメント板下地3に代えてケイ酸カルシウム板下地31を用いたものであり、チャンネル材等の鋼製下地2と、鋼製下地2に張り付けられたケイ酸カルシウム板下地31(ボード下地:パネル体)と、張付け材4(保持材)を介してケイ酸カルシウム板下地31の表面に張り付けられた石材5(仕上げ材)と、を有している。
石材5は、第1実施形態と同様、いわゆるダンゴ張りでケイ酸カルシウム板下地31に張り付けられている。すなわち、石材5は、その裏面の5か所に点状(島状)に張付け材4を盛り付け、この状態でケイ酸カルシウム板下地31に張り付けられている。よって、石材5とケイ酸カルシウム板下地31との間には、張付け材4を除く空隙領域7が生じている。
【0039】
ケイ酸カルシウム板下地31は、ケイ酸質原料、石灰質原料および補強繊維を主原料とした無垢のパネル体である。ケイ酸カルシウム板下地31の裏面側は、鋼製下地2の配設位置を除き、空隙部32となっている。第2実施形態では、この空隙部32が、請求項にいう「貫通先の空隙部」となっている。
【0040】
図7に示すように、第2実施形態のピンニング工法では、まず空隙領域7および空隙部32の重畳領域(正面から見たときの重畳領域)に位置して、石材5およびケイ酸カルシウム板下地31を貫通する挿填穴11が形成される。続いて、挿填穴11に、筒状体13が装着され、接着剤Rが注入される。その後、挿填穴11に、アンカーピン12が挿填される。
【0041】
第2実施形態の筒状体13は、挿填穴11に装着したときに、石材5から空隙領域7を介してケイ酸カルシウム板下地31に達し、ケイ酸カルシウム板下地31を貫通して空隙部32に達する長さに形成されている。そして、複数のスリット孔13aは、筒状体13の周面における、石材5、空隙領域7、ケイ酸カルシウム板下地31および空隙部32に臨む部分に形成されている。この結果、筒状体13の、空隙部32に臨む部分では、複数のスリット孔13aから流出した接着剤Rが、ケイ酸カルシウム板下地31を受けとする抜止め様に付着する。
【0042】
ここで、図8および図9を参照して、第2実施形態のピンニング工法における施工手順について説明する。このピンニング工法は、空隙領域7および空隙部32の重畳領域を狙って、石材5およびケイ酸カルシウム板下地31を貫通するように挿填穴11を穿孔すると共に、穿孔した挿填穴11の開口部にザグリ部14を形成する穿孔工程(図8(a)および(b))と、筒状体13を挿填穴11に装着する装着工程(図8(c))と、挿填穴11および筒状体13の内部に接着剤Rを注入する注入工程(図9(d))と、筒状体13を介して、アンカーピン12を挿填穴11に挿填する挿填工程(図9(e))と、を備えている。
【0043】
穿孔工程では、穿孔装置21を用いて挿填穴11を穿孔する。第2実施径形態では、石材5に直角に且つ石材5およびケイ酸カルシウム板下地31を貫通するように穿孔を行う(図8(a))。その後、球形ビット25により、挿填穴11の開口部を皿もみしてザグリ部14を形成する(図8(b)参照)。
【0044】
装着工程では、筒状体13を開口部から差し込んで挿填穴11に装着する。第2実施形態では、筒状体13が、石材5から空隙領域7を介してケイ酸カルシウム板下地31に達し、ケイ酸カルシウム板下地31を貫通して空隙部32に達するように装着される(図8(c)参照)。すなわち、筒状体13の複数のスリット孔13aが、石材5、空隙領域7、ケイ酸カルシウム板下地31および空隙部32に臨むように筒状体13が装着される。
【0045】
注入工程では、樹脂注入器27を用いて接着剤Rの注入を行う。封止部29により挿填穴11の開口部を封止した状態で、注入ノズル28を筒状体13の先端部まで差し入れて、ポンピングにより接着剤Rの注入を行う(図9(d)参照)。ポンピングを開始すると、接着剤Rは、筒状体13の先端部から充填されていき、筒状体13の内部全体に充填される。さらにポンピングを続行すると、接着剤Rは、筒状体13からにじみ出るようにその外側に流出していく。このように、注入工程では、接着剤Rを、筒状体13の内部に注入すると共に、複数のスリット孔13aから流出させて筒状体13の外周面に囲繞するように付着させる。
【0046】
このとき、石材5側の挿填穴11およびケイ酸カルシウム板下地31側の挿填穴11では、筒状体13からにじみ出た接着剤Rにより、挿填穴11と筒状体13との間隙が満たされる。また、筒状体13の空隙領域7に臨む部分からにじみ出た接着剤Rは、筒状体13の外周面に膨らみを持って付着し、筒状体13の外周面に、筒状体13を芯材とする、石材5およびケイ酸カルシウム板下地31間のスペーサー様に付着する。これにより、石材5とケイ酸カルシウム板下地31との間に接着剤Rの柱(コラム)が形成される。さらに、筒状体13の空隙部32に臨む部分からにじみ出た接着剤Rは、筒状体13の外周面に膨らみを持って付着し、筒状体13の外周面に、ケイ酸カルシウム板下地31を受けとする抜止め様に付着する。これにより、ケイ酸カルシウム板下地31側の挿填穴11の貫通先の縁に、接着剤Rの抜止めが形成される。
【0047】
挿填工程では、注入ノズル28を引き抜いた後、挿填穴11(筒状体13)にアンカーピン12を挿入する。アンカーピン12を挿入していき、その頭部12aがザグリ部14の近傍に達したら、頭部12aにヘラ30等を突き当て、頭部12aの表面と石材5の表面とが面一になるように押し込んで、頭部12aをザグリ部14に嵌合させる(図9(e)参照)。以降、接着剤Rが硬化するまで養生を行う。
【0048】
以上、上記各実施形態によれば、筒状体13の貫通先の空隙部(中空部3aおよび空隙部32)に臨む部分において、複数のスリット孔13aから流出し筒状体11の外周面に付着した接着剤が、硬化後に、ボード下地を受けとする抜止めとして機能する。このため、筒状体13の引抜き耐力を向上することができる。これによって、浮きの生じた石材5を強固に定着させることができ、ボード下地に、部分的に設けた張付け材4を介して石材5が張り付けられた壁体1、1Aに対し、適切に補修を行うことができる。
【0049】
また、筒状体13を介して、アンカーピン12を挿填穴11に挿填する構成であるため、接着剤Rにより、アンカーピン12および筒状体13を介して、ボード下地と石材5とを一体化させることができる。したがって、石材5をボード下地に強固に接着することができる。
【0050】
さらに、筒状体13において、空隙領域7に臨む部分の接着剤Rを、筒状体13を芯材とする、石材5およびボード下地間のスペーサー様に付着させ、貫通先の空隙部に臨む部分の接着剤Rを、ボード下地を受けとする抜止め様に付着させることで、石材5およびボード下地間のスペーサー様に付着させた接着剤Rにより、ボード下地に対する石材5の接着強度を、より一層向上させることができ、ボード下地を受けとする抜止め様に付着させた接着剤Rにより、筒状体13の引抜き耐力を、より一層向上させることができる。
【0051】
またさらに、筒状体13を、板材を円筒状に折り曲げその先端を閉止して形成することにより、筒状体13を容易に形成することができる。特に、板材の状態で複数のスリット孔13aを形成することで、複数のスリット孔13aを容易に形成することができる。
【0052】
また、球形ビット25により挿填穴11の開口部を皿もみしてザグリ部14を形成する構成により、熟練を要することなく、所定の径のザグリ部14を形成することができる。したがって、ザグリ部14と同径の頭部12aを有するアンカーピン12(ザグリ部14に嵌合)を用いることで、アンカーピン12を目立たないように施工(仕上げ)することができる。
【0053】
なお、上記各実施形態においては、筒状体13の周面に複数のスリット孔13aが形成されている構成であったが、複数の透孔が形成されている構成であれば、スリット孔13aに限るものではない。例えば、筒状体13の周面に、円形や方形、多角形形状の複数の透孔が形成されている構成であっても良い。さらに言えば、メッシュ状の複数の透孔が形成されている構成であっても良い。ひいては、筒状体13を、円筒状に形成したネット材や、円筒状に形成したパンチング材、円筒状のコイルスプリング等で構成しても良い。
【0054】
また、上記各実施形態においては、筒状体13において、先端および基端を除く軸方向全域に複数のスリット孔13aを形成する構成であったが、軸方向において、空隙領域7および貫通先の空隙部(中空部3aおよび空隙部32)に臨む部分のみに、複数のスリット孔13aを形成する構成であっても良い。
【0055】
さらに、上記各実施形態においては、筒状体13が円筒状であったが、例えば、筒状体13が断面多角形等の筒状や角筒状であっても良い。
【0056】
なお、上記各実施形態においては、石材5がダンゴ張りでボード下地に張り付けられた壁体1、1Aに本発明を適用する構成であったが、部分的に設けた張付け材4を介して石材5を張り付けた壁体であれば、これに限るものではない。例えば、石材5がビード張りでボード下地に張り付けられた壁体に本発明を適用しても良い。
【0057】
また、上記各実施形態においては、仕上げ材として石材5を用いた壁体1、1Aに本発明を適用したが、仕上げ材として大型タイルを用いた壁体に本発明を適用しても良い。
【0058】
さらに、上記各実施形態においては、ボード下地として、押出し成型セメント板およびケイ酸カルシウム板を用いた壁体1、1Aに本発明を適用したが、ボード下地として、合板や軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)を用いた壁体に本発明を適用しても良い。
【0059】
以上の各実施形態におけるピンニング工法は、いわゆる湿式工法で石材5が施工された壁体1に本発明を適用したものであるが、以下、乾式工法で石材5が施工された壁体1Bに本発明を適用したものを、第1実施形態のピンニング工法を例に説明する。
【0060】
図10は、乾式工法のうちのレール工法で石材5が施工された壁体1Bに対し、第1実施形態のピンニング工法を実施したものである(第1適用例)。同図に示すように、壁体1B(既設)は、チャンネル材等の鋼製下地2と、鋼製下地2に張り付けられた押出し成型セメント板下地3(ボード下地:パネル体)と、押出し成型セメント板下地3にアンカリングしたレールユニット72(保持材)と、接着剤73を介してレールユニット72に取り付けた石材5(仕上げ材)と、を有している。
【0061】
レールユニット72は、断面「コ」字状の上レール部75と、断面「コ」字状の下レール部76と、上・下レール部75,76を連結する連結レール部77と、下レール部76から延長した掛止めレール部78とから成るレール74を、図示しない縦通しの左右一対の縦レール枠に支持して、構成されている。また、レール74は、その連結レール部77の部分で、ビス79等で押出し成型セメント板下地3にアンカリングされている。一方、石材5は、上端部および下端部にそれぞれ形成した掛止め溝5aを、掛止めレール部78に掛け止めされ、且つ接着剤73を介して上レール部75および下レール部76に接着されている。
【0062】
このような壁体1Bに対し、接着剤73の劣化やレール74の腐食により、石材5に「浮き」や「ガタつき」が生じた場合、レール74(レールユニット72)を外れた空隙領域7の複数個所に対し、上記ピンニング工法によってピンニングを実施するようにしている(第1実施形態参照)。これにより、空隙領域7を有する壁体1Bを、適切に補修することができる。
【符号の説明】
【0063】
1、1A、1B:壁体、 3:押出し成型セメント板下地、 3a:中空部、 4:張付け材、 5:石材、 7:空隙領域、 11:挿填穴、 12:アンカーピン、 12a:頭部、 13:筒状体、 13a:スリット孔、 31:ケイ酸カルシウム板下地、 32:空隙部、 R:接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10