(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985727
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】導電性樹脂成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20211213BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20211213BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20211213BHJP
B29C 44/42 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
C08J9/12CES
B29C45/00
B29C44/00 D
B29C44/42
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-202353(P2017-202353)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-73664(P2019-73664A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003609
【氏名又は名称】株式会社クニムネ
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】国宗 範彰
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−135943(JP,A)
【文献】
特開2018−070855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/12
B29C 45/00
B29C 44/00
B29C 44/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、炭素繊維の配合割合を1vol %以上5vol %未満とすると共に炭素繊維の平均繊維径を1〜20μmとし、発泡倍率が1.03倍以上4.0倍未満で射出発泡成形することにより、炭素繊維の繊維面積比率が、表層付近で大きくなり、コア部で低くなり、裏層付近で大きくなる傾向を示すようにしたことを特徴とする導電性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記射出発泡成形に、超臨界性の物質からなる発泡剤、または物理発泡剤、または化学発泡剤のいずれかを使用したことを特徴とする請求項1記載の導電性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られたことを特徴とする導電性樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面電気伝導性に優れた導電性樹脂成形体、およびその導電性樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術の進展は目覚しく、特に各種通信機器、コンピュータ機器は、21世紀に入りその進化速度は飛躍的に向上してきている。また、これらの機器を搭載する車両等も燃費改善による省エネルギーの促進のため、あらゆる部品の軽量化が進められてきている。
【0003】
従来、熱可塑性樹脂の発泡における生産性を改良する目的で、熱可塑樹脂に金属またはカーボンを含む熱伝導性向上剤および発泡剤を混合し、この発泡剤の発泡により、発泡部がコア層を形成し、このコア層に成形品表面からの冷却によりスキン層が積層され、発泡圧に耐えるスキン層が形成される発泡成形方法および発泡成形品が存在している(特許文献1)。
【0004】
さらに、車両搭載レーダーの誤検知を防止する目的で、金属材料に代えて炭素繊維を用いた電波遮蔽プラスチックス材料を開発して、これを車両に積載する技術が存在している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−43661号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「炭素繊維強化射出成形複合材料を用いた電波遮蔽プラスチックの開発」マツダ技報 p252-p256 No.32(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示されたものでは、添加される金属やカーボンは、熱伝導性向上剤として使用されているが、その添加により、導電性能や他の電気性能が変化するかについては、全く触れられていない。
【0008】
さらに、上記非特許文献1に示されたものでは、炭素繊維を用いた電波遮蔽プラスチックス材料の開発において、炭素繊維を通常射出成形で炭素繊維を長く残しながら成形することにより、少量の炭素繊維添加で十分な電波遮蔽効果を発現できたとしているが、導電性能については、全く触れられていない。また、この先行技術は、通常成形による技術であり、発泡成形については全く触れられていない。
【0009】
そこで、本発明は、少量の導電性繊維の添加で十分な表面電気抵抗の低下を実現でき、同時に軽量化を満足せしめる導電性樹脂成形体およびその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため、本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の導電繊維と熱可塑性樹脂を発泡成形することで、優れた表面電気抵抗性能を有する射出発泡成形品を得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の導電性樹脂成形体の製造方法は、
炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、
炭素繊維の配合割合を1vol %以上
5vol %未満と
すると共に炭素繊維の平均繊維径を1〜20μmとし、発泡倍率が1.03倍以上
4.0倍未満で射出発泡成形することにより、
炭素繊維の繊維面積比率が、表層付近で大きくなり、コア部で低くなり、裏層付近で大きくなる傾向を示すようにしたものとしている。
【0013】
また、本発明の導電性樹脂成形体の製造方法において、前記射出発泡成形に、超臨界性の物質からなる発泡剤、または物理発泡剤、または化学発泡剤のいずれかを使用したものとしている。
【0014】
そして、本発明の導電性樹脂成形体は、上記したような製造方法により得られたものとしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少量の導電性繊維の添加で十分な表面電気抵抗の低下を実現でき、これにより同等性能を実現する通常成形技術はもとより、他の金属や塗装等に比較しても低コストで軽量化された導電性樹脂成形体を製造することができる。
【0016】
そして、本発明により製造された導電性樹脂成形体は、電子回路、電気回路を有する携帯通信機器、自動車搭載の電子・電気機器、中でも最近開発が進んでいる自動運転監視機器等の電磁波シールドに最適な成形体となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の導電性樹脂成形体における表層付近のX線CT画像である。
【
図2】比較例1の導電性樹脂成形体における表層付近のX線CT画像である。
【
図3】実施例1および比較例1における表層から裏層にかけての各深さにおける炭素繊維のX線CTによる観察結果をパターン分析法により定量化した比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の導電性樹脂成形体およびその製造方法について詳細に説明する。
【0019】
本発明の導電性樹脂成形体の製造方法は、上記したように導電性繊維と熱可塑性樹脂とを、導電性繊維の配合割合を1vol %以上とし、発泡倍率が1.03倍以上で射出発泡成形するものである。
【0020】
導電繊維としては、合成繊維中に導電性に優れた金属を均一分散させたものや、ステンレス鋼などの金属を繊維化したものや、有機物繊維の表面を金属被覆したもの、有機物繊維の表面を導電性物質含有樹脂で被覆したものなどがあり、本発明で使用する導電性繊維としても特に限定されないが、実施態様としては炭素繊維を使用した。
【0021】
炭素繊維としても特に限定されないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は、石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維は、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は、炭化水素などを原料とする炭素繊維である。これらのうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。また、導電性をより向上させるために、ニッケル、銅またはイッテルビウムなどの金属を被覆した炭素繊維を用いることもできる。
【0022】
炭素繊維の配合割合は、1vol %以上としているが、1vol %未満では十分な表面電気抵抗の低下を実現できず、5vol %を超えると導電性樹脂成形体としての衝撃強度が徐々に低下し、用途によっては使用できない場合もあり、また高価な炭素繊維やその他の導電繊維を有効に利用する意味でも、1vol %以上で5vol %未満が好ましい。
【0023】
炭素繊維の平均繊維径は特に限定されないが、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。炭素繊維と熱可塑性樹脂の接着性を向上する等の目的で、炭素繊維は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
【0024】
炭素繊維の毛羽立ち防止や、炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上する等の目的で、炭素繊維はサイジング剤が付与されたものであってもかまわない。サイジング剤を付与することにより、炭素繊維表面の官能基等の表面特性を向上させ、接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。
【0025】
サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。サイジング剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましい。炭素繊維との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましく、多官能エポキシ樹脂がより好ましい。多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。また、脂肪族エポキシ樹脂は、炭素繊維/熱可塑性樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。
【0026】
サイジング剤の付着量は、サイジング剤と炭素繊維を含む炭素繊維の合計100重量%中、0.01〜10重量%とするのが好ましい。
【0027】
サイジング剤の付与手段としては、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒を含む)中に溶解(分散も含む)したサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を炭素繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去する方法が挙げられる。乾燥温度と乾燥時間は、化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング処理液に用いる溶媒を完全に除去し、乾燥に要する時間を短くし、かつ、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維が固くなって拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。サイジング処理液に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられる。取扱いが容易であることおよび防災の観点から、水が好ましい。従って、水に不溶または難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。
【0028】
本発明で使用する熱可塑性樹脂としても特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニール系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリへキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレート、ポリブチレン2,6−ナフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン、ポリアリーレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、セルロースアセテート、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリラウリルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン12T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)等やこれらのブレンド、ポリマーアロイ、共重合品を挙げることができる。
【0029】
本発明の製造方法における発泡は、化学発泡、物理発泡のいずれでもよい。発泡倍率は、1. 03倍以上としているが、1. 03倍未満では十分な表面電気抵抗の低下を実現できず、4. 0倍を超えると導電性樹脂成形体としての強度が徐々に低下し、用途によっては使用できない場合もあるので、1. 03倍以上4. 0倍未満が好ましい。
【0030】
化学発泡としては、成形時の熱で熱分解させてガスを発生させる方法がある。物理発泡としては、フロンなどの不活性ガスや超臨界状態の窒素や二酸化炭素の不活性ガスを利用する方法がある。
【0031】
化学発泡に使用される発泡剤としては、アゾ化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド化合物、アジ化合物、ニトロソ化合物、トリアゾ−ル化合物、炭酸塩、重炭酸塩、亜硝酸塩、イソシアネ−ト化合物等が挙げられ、単独使用しても、二種以上使用してもよい。具体的には、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、バリウムアゾカルボキシレート、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジド)、パラトルエンスルフォニルヒドラジド、P−トルエンスルフォニルセミカルバジド、オキザリルヒドラジド、トリニトロソトリメチレントリアミン、トリヒドラジノトリアジン等が挙げられる。また、無機物では、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニア等が挙げられる。
【0032】
本発明における発泡成形は、先ず熱可塑性樹脂に発泡剤を混合した発泡性溶融樹脂を金型キャビティ内に充填し、この充填した状態で発泡剤によって発泡する。次に、前記発泡剤によって発泡した状態のコア層における金型に接する面で、冷却によるスキン層を形成するのである。さらに、前記スキン層を形成した後、金型から取り出して成形品を得る。この射出発泡成形に使用する発泡剤はすでに上で触れたように、化学発泡剤と物理発泡剤がある。これらを用いる方法としては、ショートショット法、フルショット法、コアバック法と言われる発泡成形手法がある。ショートショット法、フルショット法では1.5倍程度の発泡倍率であるが、コアバック法では5倍程度の発泡倍率の成形品を得ることができる。本発明の射出発泡成形ではいずれの方法も採用できる。
【0033】
ショートショット法は、金型キャビティ内にキャビティ容積よりも少ない量の発泡性溶融樹脂を充填して、発泡剤により発泡して気泡を拡大させながら前記金型キャビティを充填する工程からなり、ついで発泡剤によって発泡した状態のコア層より表面に存在するスキン層が金型に接触冷却により形成する。ここで、金型は、公知の冷却路を備えているため、この冷却路を流れる水等の冷却媒体により冷却が行われる。最後に、金型から前記成形品を取り出す。
【0034】
フルショット法では、金型キャビティ内にキャビティ容積を満たす量の発泡性溶融樹脂を、発泡剤で発泡して気泡を拡大させながら前記金型キャビティを充填するとともに、その後の固化収縮によるコア層の体積減少分を気泡の拡大で補う。なお、金型から前記成形品を取り出すまでの引き続く工程は、ショートショット法と同様である。
【0035】
コアバック法は、金型キャビティ内に発泡性溶融樹脂で満たした後、金型を移動させることにより、キャビティ容積を拡大させ、この拡大したキャビティ容積内を発泡剤により発泡して気泡を拡大させながら充填する工程からなる。なお、金型から前記成形品を取り出すまでの引き続く工程は、ショートショット法と同様であるが、このプロセスからわかる如く、前二者の成形方法より高倍率の発泡成形品を成形できる。
【0036】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0037】
(原料の調製)
ポリプロピレン(PP)樹脂(日本ポリプロ社製、ノバテックPP BC4BSW)95wt%、および酸末端変性PP樹脂(三洋化成工業社製、ユーメックス1001)5wt%からなるチップAと、チョップド炭素繊維(東レ製、トレカカットファイバーT008-006)を32mmφの日鋼2軸押出機で樹脂全体に対し8wt%添加したチップBを作製した。なお、チップA、B作成まえに、投入原料の密度を島津製作所製の乾式密度計(アキュビックII 1340、窒素ガス純度99.999%)により室温で、それぞれ原料の密度を測定した。その結果、ノバテックPP BC4BSW=0.8879g/cc、変性PPユーメックス1001=0.9000g/cc 、炭素繊維トレカT008-006=1.80 g/ccを得た。
【0038】
(実施例1〜3)
チップBをそのまま、あるいはチップBをチップAで2倍および4倍に希釈使用し、東洋機械金属社製のSI-230V型成形機に超臨界ガス(N
2)を使用した発泡成形可能な装置を付加した射出成形機で、通常の射出成形(比較例1〜3)および射出発泡成形(実施例1〜3)を行い、ダンベル成形片を成形した。実施例1と比較例1は、炭素繊維組成重量濃度8wt% で体積濃度は4. 12vol%と算出される。以下、実施例2と比較例2は、炭素繊維組成重量濃度4wt% で体積濃度は2. 48vol%、実施例3と比較例3は、炭素繊維組成重量濃度2wt% で体積濃度は1. 00vol%と算出される。体積濃度は、Xvol=1/{(1−Xwt) /ρPP+Xwt) /ρCF}で算出した。
【0039】
そして、それぞれのダンベル成形片の密度を上記のアキュビックII 1340で測定し、通常成形品密度を発泡成形品密度で除し発泡倍率とした。さらに表面抵抗を、三菱化学製の高抵抗抵抗率計Hiresta IP MCP-HT250(2探針電極、電極間距離20mm、電極直径2mmΦ)で測定した。測定結果を表1に示す。
【0041】
次に、前記実施例1および比較例1の導電性樹脂成形体における表層付近のX線CT画像を、Bruker社 X線CTスキャナーSkyScan1172 で計測した。計測結果を
図1および
図2に示すである。
【0042】
図1および
図2を対比すると、発泡している実施例1では発泡していない比較例1に比べ、表層付近の炭素繊維が多量に存在する層がみられる。これが発泡成形による表面抵抗値が低くなる現象に結び付く。この偏在現象が発生する原因についてはよくわからないが、成形片中央部での泡の発生により、成形品の表層に炭素繊維が押しやられるためと考えられる。
【0043】
さらに、実施例1および比較例1における表層から裏層にかけての各深さにおける炭素繊維のX線CT画像による観察結果を、パターン分析法により定量化した比較図を
図3に示す。
【0044】
図3によると、発泡成形である実施例1の炭素繊維の存在が、表層付近で大きくなり、コア部(中央部)で低くなり、裏層付近で大きくなる傾向を示す。これに対し、通常成形である比較例1の炭素繊維の存在は、表層付近からコア部(中央部)付近、コア部付近から裏層付近になってもほとんど変化しないことがわかる。
【0045】
したがって、本発明によれば、少量の導電性繊維の添加で十分な表面電気抵抗の低下を実現でき、これにより同等性能を実現する通常成形技術はもとより、他の金属や塗装等に比較しても低コストで軽量化された導電性樹脂成形体を製造することができる。
【0046】
そして、本発明により製造された導電性樹脂成形体は、電子回路、電気回路を有する携帯通信機器、自動車搭載の電子・電気機器、中でも最近開発が進んでいる自動運転監視機器等の電磁波シールドに最適な成形体となる。