特許第6985735号(P6985735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トクデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000002
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000003
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000004
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000005
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000006
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000007
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000008
  • 特許6985735-過熱水蒸気炉 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985735
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】過熱水蒸気炉
(51)【国際特許分類】
   F22G 1/16 20060101AFI20211213BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20211213BHJP
   H05B 6/04 20060101ALI20211213BHJP
   F22G 3/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F22G1/16
   H05B6/10 301
   H05B6/10 371
   H05B6/04 311
   F22G3/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-249920(P2017-249920)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2019-116986(P2019-116986A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2020年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰広
(72)【発明者】
【氏名】北野 孝次
【審査官】 宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−139303(JP,A)
【文献】 特開2004−333089(JP,A)
【文献】 特開2016−087512(JP,A)
【文献】 特開2015−007528(JP,A)
【文献】 特開2017−224503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22G 1/16
H05B 6/10
H05B 6/04
F22G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に炉室を有する炉本体と、
前記炉室に過熱水蒸気を導入する導体管と、
前記導体管に交流電圧を印加する電源回路とを備え、
前記炉本体は、金属製の炉壁部を有し、
前記導体管は、前記炉室内において前記炉壁部に対向して渦巻状に巻回されており、
前記電源回路により前記導体管に交流電圧を印加することにより前記導体管が通電加熱されるとともに、前記導体管に交流電圧を印加することで発生する磁束が前記炉壁部を通過することにより前記炉壁部が誘導加熱される、過熱水蒸気炉。
【請求項2】
前記導体管は、銅又は銅合金から形成されている、請求項1記載の過熱水蒸気炉。
【請求項3】
前記導体管は、前記炉壁部に向かって過熱水蒸気を噴射する1又は複数の噴射口を有する、請求項1又は2記載の過熱水蒸気炉。
【請求項4】
前記炉壁部の最内側部分は、オーステナイト系ステンレス鋼又はインコネル合金から形成されている、請求項1乃至3の何れか一項に記載の過熱水蒸気炉。
【請求項5】
内部に炉室を有する炉本体と、
前記炉室に過熱水蒸気を導入する導体管と、
前記導体管に交流電圧を印加する電源回路とを備え、
前記炉本体は、金属製の炉壁部を有し、
前記導体管は、前記炉室内において前記炉壁部に対向して渦巻状に巻回されており、
前記炉壁部の最内側部分とは異なる部分は、磁性材料から形成されている過熱水蒸気炉。
【請求項6】
前記電源回路は、商用周波数である50Hz又は60Hzの交流電圧を前記導体管に印加するものであり、飽和リアクトル及び力率改善用コンデンサを有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の過熱水蒸気炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過熱水蒸気炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過熱水蒸気による対象物への加熱などの熱処理は、炉内に対象物を収容するとともに、当該炉に過熱水蒸気を導入することによって行われている。以下、本明細書では、過熱水蒸気が導入される炉を過熱水蒸気炉と称する。
【0003】
この過熱水蒸気による熱処理は、主として、(1)過熱水蒸気の高い伝熱性を利用して、対象物の内部深くまで、且つ、急速に温度上昇させることを目的とする場合と、(2)過熱水蒸気を加熱炉に導入することで極めて低い酸素濃度雰囲気を実現し、その雰囲気下での反応性を求める場合と、(3)上記(1)及び(2)の両方を求める場合との3つに大別される。
【0004】
上記(1)のように対象物の急速な温度上昇を求める場合には大量の過熱水蒸気を必要とするが、(2)のように過熱水蒸気の雰囲気のみを求める場合には多量の過熱水蒸気は不要である。なお、(2)の場合であっても過熱水蒸気雰囲気とともに一定の温度が求められる場合が多く、通常は何らかの加熱方法が必要である。
【0005】
過熱水蒸気を熱源とする場合は、炉内温度を維持するための過熱水蒸気量が必要となるが、過熱水蒸気は常圧において100℃以上が存在する条件であることから、過熱水蒸気炉から排出されるときの温度も100℃以上となる。したがって、100℃の水蒸気が100℃の水になるときに放出される潜熱(540kcal/kg at 1気圧)が過熱水蒸気炉から排出されることになり、結果的に大きな熱量が無駄になってしまう。
【0006】
この無駄になる熱量を少なくするためには、過熱水蒸気炉に導入する過熱水蒸気量を少なくし、炉内温度を別の手段で上昇及び調整することが考えられる。例えば、炉内又は炉外に電気ヒータを設置して、炉内温度を上昇及び調整する手段が多く採用されている。
【0007】
しかしながら、電気ヒータは発熱面積が小さいことから、炉内温度の制御性に問題がある。また、電気ヒータを炉内に設置した場合には、過熱水蒸気による水蒸気酸化によって電気ヒータの劣化が促進されてしまうので、電気ヒータを劣化しにくいケースに収容する等の対策が必要となってしまう。当然のことながら電気ヒータを炉外に設置した場合には、過熱水蒸気の影響は避けられるが、伝熱効果は大幅に低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−176613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、炉内温度の制御性を向上することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る過熱水蒸気炉は、内部に炉室を有する炉本体と、前記炉室に過熱水蒸気を導入する導体管と、前記導体管に交流電圧を印加する電源回路とを備え、前記炉本体は、金属製の炉壁部を有し、前記導体管は、前記炉室内において前記炉壁部に対向して渦巻状に巻回されていることを特徴とする。
【0011】
このような過熱水蒸気炉であれば、導体管に通電することで導体管が通電加熱される。通電加熱された該導体管が炉室内において加熱源となる。また、渦巻状に巻回された導体管に通電することで発生する磁束が炉壁部を通過し、炉壁部が誘導加熱される。誘導加熱された炉壁部が炉室内において加熱源となる。つまり、本発明では、導体管の通電加熱と炉壁部の誘導加熱とによって、導体管及び炉壁部の両方が加熱源となるので、炉内温度の制御性を向上させることができる。また、炉内温度を過熱水蒸気とは別の手段(導体管及び炉壁部)により上昇及び調整することができるので、過熱水蒸気炉に導入する過熱水蒸気量を少なくして、大幅な省エネを達成することができる。さらに、炉室に過熱水蒸気を導入する導体管が通電加熱されているので、過熱水蒸気炉の外部に設けられた過熱水蒸気生成装置から過熱水蒸気炉に導入されるまでの過熱水蒸気の温度低下を補償することができ、所望の温度に維持することができる。
【0012】
導体管から発生する磁束量と金属製の炉壁部との組み合わせ状態によっては、炉壁部の誘導加熱による発熱量が十分に得られない場合がある。この場合には、導体管を低抵抗材料である銅又は銅合金から形成したものにすることが望ましい。この構成であれば、同じ抵抗値を得るにあたって長い導体管が選択できることから、巻回する巻き数が多くできる。発生磁束は巻き数と流れる電流値の積に比例するので、発生する磁束量が増加し、炉壁部の誘導加熱による発熱量を増加させることができる。
【0013】
導体管の通電加熱及び炉壁部の誘導加熱は、過熱水蒸気量に関わらず、炉内温度が一定となるように温度制御される。つまり、導体管の温度及び炉壁部の温度は、炉内温度が所望の温度になる値に制御される。ここで、前記導体管は、前記炉壁部に向かって過熱水蒸気を噴射する1又は複数の噴射口を有することが望ましい。導体管から噴出される過熱水蒸気の温度は概ね導体管の温度と同じであるので、過熱水蒸気を炉壁部に向かって噴射させることで、炉壁部の温度が導体管の温度よりも高くても低くても導体管の温度に近づくように加熱又は冷却させることができる。さらに、噴出された過熱水蒸気は炉壁部に当たって分散されるので、これによって炉内温度を均一化させやすくできる。つまり、(導体管の温度)≒(過熱水蒸気温度)≒(炉壁部の温度)≒(炉内温度)とすることができる。
【0014】
炉本体は耐熱性及び水蒸気耐性を要することから、金属やセラミックを用いることになる。具体的には、炉本体の炉壁部は、炉室側からセラミック/金属板/断熱材/金属板/セラミック、又は、炉室側から金属板/断熱材/金属板のように構成される。炉壁部の最内側部分(最炉室側)を金属板とした場合には、当該金属板は過熱水蒸気に対する耐性が必要となる。このため、前記炉壁部の最内側部分は、市場性が高く過熱水蒸気耐性が高い材質であるオーステナイト系ステンレス鋼又はインコネル合金から形成されていることが望ましい。
【0015】
炉壁部を誘導加熱させる場合、磁気抵抗の低い磁気回路を構成すると高力率が得られて且つ漏れ磁束も低減できる。このため、前記炉壁部の最内側部分とは異なる部分は、磁性材料から形成されていることが望ましい。具体的には、前記炉壁部の最内側部分を水蒸気耐性が高いオーステナイト系ステンレス鋼又はインコネル合金等の非磁性金属とし、炉壁部の最内側部分とは異なる部分を磁性金属である鉄やマルテンサイト系ステンレス鋼とする。これにより、磁気抵抗を低くすることができるとともに炉体強度を確保することができる。
【0016】
前記電源回路は、商用周波数である50Hz又は60Hzの交流電圧を前記導体管に印加するものであり、過飽和リアクトル及び力率改善用コンデンサを有することが望ましい。
商用周波数誘導加熱は、高周波誘導加熱に比べて誘導電流浸透度が深く、厚い炉壁部において深い部分まで誘導加熱することができる。また、過飽和リアクトルは半導体素子に比べて高調波電流が少なく、力率改善用コンデンサに大きな電流を流さずに力率改善できることから、これを電源回路に用いれば、高力率回路を構成することができる。さらに、高周波電源が不要となり、低コストで作成できるとともに高調波による障害の可能性が低減できる。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、導体管の通電加熱と炉壁部の誘導加熱とによって、導体管及び炉壁部の両方が加熱源となるので、炉内温度の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の過熱水蒸気炉の構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態の導体管及び通電加熱機構を有する炉壁部の断面図である。
図3】同実施形態の導体管の構成を示すA矢視図である。
図4】同実施形態の電源回路を示す模式図である。
図5】変形実施形態における電源回路を示す模式図である。
図6】変形実施形態における電源回路を示す模式図である。
図7】変形実施形態における電源回路を示す模式図である。
図8】変形実施形態における電源回路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係る過熱水蒸気炉の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る過熱水蒸気炉100は、100℃超(200℃〜2000℃)の過熱水蒸気を用いて対象物の熱処理を行うためのものである。
【0021】
具体的に過熱水蒸気炉100は、図1に示すように、内部に炉室2Sを有する炉本体2と、炉室2Sに過熱水蒸気を導体管3と、当該導体管3に交流電圧を印加する電源回路4とを備えている。
【0022】
炉本体2は、一面に開口部2Hを有する例えば直方体形状をなす収容本体部21と、当該開口部2Hを開閉可能に閉塞する扉部22とを有している。なお、本実施形態の開口部2Hは前面に設けられている。また、炉本体2には、過熱水蒸気を外部に排出するための排出部(不図示)が設けられている。
【0023】
収容本体部21の各炉壁部21Wは、炉室2S側から内側金属板211と、断熱材212と、外側金属板213とをこの順で有している。なお、扉部22も同様に、炉室2S側から内側金属板と、断熱材と、外側金属板とを有している。
【0024】
内側金属板211は、水蒸気耐性が高い非磁性金属であるオーステナイト系ステンレス鋼又はインコネル合金から形成されている。これにより、炉壁部21Wの最内側部分がオーステナイト系ステンレス鋼又はインコネル合金となる。また、外側金属板213は、磁性金属である鉄やマルテンサイト系ステンレス鋼から形成されている。これにより、炉壁部21Wの最外側部分が鉄やマルテンサイト系ステンレス鋼となる。
【0025】
導体管3は、収容本体部21の炉壁部21Wを貫通して設けられており、炉室2S内において炉壁部21Wに対向して螺旋状に巻回されている。導体管3は、水蒸気耐性が高いSUS304等のオーステナイト系のステンレス鋼やインコネル等の合金を用いることができる。なお、図1では、収容本体部21の左右2つの炉壁部21W及び奥側の炉壁部21Wに導体管3が設けられた例を示しているが、これに限られず、少なくとも何れか1つの炉壁部21Wに設けられていればよく、上側の炉壁部21Wに設けてもよいし、下側の炉壁部21Wに設けてもよい。
【0026】
ここで、導体管3は、絶縁碍子などの絶縁部材5を介して炉壁部21Wから絶縁された状態で設けられている。本実施形態では、炉壁部21Wから導入された部分を起点に外側に螺旋状に巻回された外巻きの例を示しているが、その逆、つまり、炉壁部21Wから導入された部分を起点に内側に螺旋状に巻回された内巻きであってもよい。そして、導体管3の巻回部分は、対向する炉壁部21Wと略平行に設けられており、過熱水蒸気を炉室2S内に噴出するための噴出口3xが複数設けられている。複数の噴出口3xは、導体管3の巻回部分の最外周部分において、対向する炉壁部21W側に設けられている。なお、複数の噴出口3xは、前記最外周部分以外の部分に設けられてもよい。また、導体管3の炉室2S外に位置する部分には、外部の過熱水蒸気生成装置で生成された過熱水蒸気を導入する導入配管が接続される接続ポート3Pが設けられている。なお、外部の過熱水蒸気生成装置は、誘導加熱方式であってもよいし、通電加熱方式であってもよい。
【0027】
電源回路4は、導体管3の一端部に設けられた第1給電端子(通電用電極)6及び導体管の他端部に設けられた第2給電端子(通電用電極)7に交流電圧を印加するものである。なお、第1給電端子6は、導体管3の炉室外に位置する部分に接続されている。また、第2給電端子7は、導体管3の巻回部分の巻き終わり端部に接続されている。第2給電端子7は、絶縁碍子等の絶縁部材8を介して炉壁部21Wから絶縁された状態で炉室2S外に延出している。この延出した部分に電源回路4が接続される。
【0028】
具体的に電源回路4は、図4に示すように、50Hz又は60Hzの商用周波数の交流電源Esと、導体管3への交流電流を制御する可飽和リアクトルSRとを備えている。
【0029】
可飽和リアクトルSRは、電磁誘導作用を持つ鉄心に交流と直流の2種類の巻線を巻回した構造であり、巻回された2つの巻線に流れる電流と巻回数との積はある一定の範囲では等しくなるという等アンペアターンの法則によって、I×N=IDC×NDCの関係が成立する。これにより、直流電流IDCを増減することによって、交流電流Iを制御することができ、導体管3への出力を制御することができる。
【0030】
そして、この電源回路4には、図4(a)に示すように、可飽和リアクトルSR及び導体管3の間に、力率改善用コンデンサC及び当該力率改善用コンデンサCを保護する保護用交流リアクトルCRが接続されている。
【0031】
具体的には、力率改善用コンデンサC及び保護用交流リアクトルCRは、交流電源Esに対して直列となるように接続されており、保護用交流リアクトルCRの一端が導体管4の一端側に接続されており、力率改善用コンデンサCを複数接続してもよいし、保護用交流リアクトルCRを複数接続してもよい。また、図4(b)に示すように、導体管3と交流電源Esとの間には、導体管3の抵抗値及び巻き数に応じて適当な電圧を得るために、変圧器VCを入れてもよい。なお、図4(b)は、単巻変圧器を入れた例を示している。
【0032】
この過熱水蒸気炉100では、炉室2S内に設けられた温度検出器(不図示)により炉内温度を検出して、この検出温度と目標温度との偏差に応じた制御信号を可飽和リアクトルSRに入力して導体管3に流れる交流電流を制御している。具体的にこの制御を行う温度制御器(不図示)は、炉内温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるようにフィードバック制御(例えばPID制御)する。
【0033】
そして、電源回路4により導体管3に交流電圧が印加されると、導体管3に流れる交流電流によって導体管3がジュール発熱する(通電加熱)。これにより、導体管3が炉室2S内において加熱源となる。また、導体管3から導入される過熱水蒸気は導体管3により加熱されて、炉室2S内に噴射される。噴射された過熱水蒸気は、炉壁部21Wに当たって炉壁部21Wの内側金属板211を過熱水蒸気の温度と同じ温度に加熱又は冷却する。
【0034】
また、電源回路4により導体管3に交流電圧が印加されると、導体管3の巻回部分から磁束が発生して当該磁束が炉壁部21Wの内側金属板211を通過する。ここで、外側金属板213を磁性金属から構成しているので、磁気抵抗が低くなり、内側金属板211を通過する磁束量を多くすることができる。これにより、炉壁部の内側金属板211に誘導電流が流れて、当該誘導電流によって炉壁部21Wの内側金属板211がジュール発熱する(誘導加熱)。これにより、炉壁部21Wの内側金属板211が炉室2S内において加熱源となる。
【0035】
このように構成した過熱水蒸気炉100によれば、導体管3の通電加熱と炉壁部21Wの誘導加熱とによって、導体管3及び炉壁部21Wの両方が炉室2S内において加熱源となるので、炉内温度の制御性を向上させることができる。本実施形態によれば、(導体管の温度)≒(過熱水蒸気温度)≒(炉壁部の温度)≒(炉内温度)とすることができる。また、炉内温度を過熱水蒸気とは別の手段(導体管3及び炉壁部21W)により上昇及び調整することができるので、過熱水蒸気炉100に導入する過熱水蒸気量を少なくして、大幅な省エネを達成することができる。さらに、炉室2Sに過熱水蒸気を導入する導体管3が通電加熱されているので、過熱水蒸気炉100の外部に設けられた過熱水蒸気生成装置から過熱水蒸気炉100に導入されるまでの過熱水蒸気の温度低下を補償することができ、所望の温度に維持することができる。
【0036】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0037】
例えば、導体管3の材質は低抵抗材料である銅又は銅合金であってもよい。この構成であれば、同じ抵抗値を得るにあたって長い導体管3が選択できることから、巻回する巻き数が多くできる。発生磁束は巻き数と流れる電流値の積に比例するので、発生する磁束量が増加し、炉壁部21Wの誘導加熱による発熱量を増加させることができる。
【0038】
また、導体管3の形状は、前記実施形態のよう概略円形状に渦巻状に巻回されたものの他、例えば概略楕円形状や概略矩形状に渦巻状に巻回されたものであってもよい。
【0039】
さらに、導体管3に設ける複数の噴出口21xは、巻回部分において対向する炉壁部21Wとは反対側、つまり、中央側に設けられてもよいし、その他の位置も設けられてもよい。また、導体管3は、複数の噴出口21xが設けられた構成の他、1つの噴出口21xを有するものであってもよい。この場合、1つの噴出口21xを導体管3の巻き終わり端部に設けることが考えられる。
【0040】
その上、炉壁部21Wは、炉室側から内側セラミック板と、内側金属板211と、断熱材212と、外側金属板213と、外側セラミック板とをこの順で有しているものであってもよい。
【0041】
加えて、前記実施形態の導体管3に加えて、直管状等の第2の導体管を有しており、当該第2の導体管から過熱水蒸気を導入するようにしてもよい。この第2の導体管は、導体管3と同様に通電加熱されていることが望ましい。また、第2の導体管は複数の噴射口が設けられており、過熱水蒸気の導入範囲を広くすることが望ましい。
【0042】
更に加えて、炉本体2の排出部から排出される過熱水蒸気を再び炉室2S内に戻す循環流路を有するものであってもよい。この構成であればより一層の省エネを実現することができる。
【0043】
例えば、前記実施形態では単相交流電源Esを用いた電源回路4について説明したが、図5に示すように、誘導加熱装置100は、三相交流電源Etを用いた電源回路4を有する構成としてもよい。この場合、三相交流電源Etの各相間に導体管が接続される。これら3つの導体管3それぞれに対応して可飽和リアクトルSR1〜SR3、力率改善用コンデンサC1〜C3及び保護用交流リアクトルCR1〜CR3が接続される。
【0044】
また、図6に示すように、第1の導体管3及び第2の導体管3がスコット結線されたものであっても良い。具体的には、第1の導体管3の一端を第1可飽和リアクトルSR1を介して三相交流電源Etの第1相に接続し、第1の導体管3の他端を第2誘導コイルL2の中央位置に接続し、第2誘導コイルL2の一端を第2可飽和リアクトルSR2を介して三相交流電源Etの第2相に接続し、第2誘導コイルL2の他端を三相交流電源Etの第3相に接続する。この構成であれば、2組の誘導加熱回路31、32で三相交流電源Etの各相の電流バランスを図りながら、第1誘導コイルL1及び第2誘導コイルL2の出力を個別に制御することができる。
【0045】
さらに、図7及び図8に示すように、スコット結線変圧器を用いてその出力側の2つの単相それぞれに導体管3を接続してもよい。これら2つの導体管3それぞれに対応して可飽和リアクトルSR1、SR2、及び、力率改善用コンデンサC1、C2及び保護用交流リアクトルCR1、CR2が接続される。
【0046】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
100・・・過熱水蒸気炉
2S・・・炉室
2・・・炉本体
21W・・・炉壁部
21x・・・噴射口
211・・・内側金属板(最内側部分)
212・・・外側金属板(最内側部分とは異なる部分)
3・・・導体管
4・・・電源回路
SR・・・過飽和リアクトル
C・・・力率改善用コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8