【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
図1において、本発明の撮影装置の一例としての実施例1の磁気共鳴撮影装置1は、磁場発生装置の一例としての磁石部2を有する。磁石部2には、内部を水平方向に貫通する貫通孔3が形成されている。貫通孔3には、寝た状態の被検者4が支持される寝台6が貫通可能である。
磁石部2は、静磁場印加部材の一例としての静磁場発生磁石11を有する。なお、静磁場発生磁石として、超電導電磁石や永久磁石を使用することが可能である。静磁場発生磁石11の内側には、傾斜磁場印加部材の一例としての傾斜磁場発生コイル12が配置されている。傾斜磁場発生コイル12の内側には、励起磁場印加部材の一例としての高周波磁場発生コイル13が配置されている。高周波磁場発生コイル13の内側には、受信部の一例として、電磁波を受信する受信コイル14が配置されている。
【0018】
また、実施例1では、MRE測定用に、被検者4には、被検査部の一例としての肝臓の位置に対応する体表面の部分に、振動付与部材の一例としての振動板(パッシブドライバー)16が支持されている。振動板16は、被検者4に対して予め設定された周波数で振動を付与する部材であり、例えば、特許文献2等に記載された従来公知の任意の構成のものを採用可能である。
【0019】
前記磁石部2には、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置21がケーブルCbを介して電気的に接続されている。したがって、コンピュータ装置21は、磁石部2との間で、静磁場発生磁石11等の制御信号や受信コイル14での検知信号等が送受信可能に構成されている。コンピュータ装置21は、コンピュータ本体22と、表示部の一例としてのディスプレイ23と、入力部の一例としてのキーボード24およびマウス25と、を有する。なお、実施例1では、コンピュータ装置21と磁石部2とをケーブルCbで接続する構成を例示したが、これに限定されず、携帯電話回線やBluetooth(登録商標)、無線LAN等、任意の無線通信方式で情報の送受信を行うことも可能である。
【0020】
(実施例1のコンピュータ本体22の制御部の説明)
図2は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体22の制御部41は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
制御部41には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての撮影装置制御プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0021】
(実施例1の制御部41に接続された要素)
制御部41には、キーボード24やマウス25、受信コイル14等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1の制御部41は、ディスプレイ23、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場発生コイル13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0022】
(制御部41の機能)
実施例1の制御部41の撮影装置制御プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)51〜58を有する。
【0023】
磁場制御手段51は、磁石部2を制御して、被検者4の被検査部をMR撮影するための磁場を制御する。実施例1の磁場制御手段51は、繰り返し時間記憶手段51aと、エコー時間記憶手段51bと、静磁場印加手段51cと、第1の傾斜磁場印加手段51dと、交番磁場の印加手段の一例としての高周波磁場印加手段51eと、第2の傾斜磁場印加手段51fと、を有する。
【0024】
図3は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
繰り返し時間記憶手段51aは、被検者4の被検査部に含まれるプロトンを励起するために印加される交番磁場の一例としての高周波磁場を印加する間隔である繰り返し時間TRを記憶する。
【0025】
エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから、励起されたプロトンが元の状態に戻る(緩和する)際に発する電磁波を取得するまでの間隔であるエコー時間TEを記憶する。
図3において、実施例1では、エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから電磁波を取得するまでの期間であるエコー時間TEを記憶する。
なお、実施例1では、繰り返し時間TRおよびエコー時間TEは、予め設定されているが、磁気共鳴撮影装置1の利用者が手動で入力して、設定、変更が可能に構成することも可能である。
MREの実施には、振動板16から付与される位相の異なる振動に同期した、複数の撮像が必要である。実施例1では、振動板16から、位相が90°ずつずれた4種類の振動が付与され、その振動位相を4つに分けた場合、各々の撮像は振動位相1(0°)、振動位相2(90°)、振動位相3(180°)、振動位相4(270°)と定義できる。
【0026】
静磁場印加手段51cは、静磁場発生磁石11を制御して、静磁場を発生させる。実施例1の静磁場印加手段51cは、一例として、3[T]の静磁場を発生させる。
第1の傾斜磁場印加手段51dは、傾斜磁場発生コイル12を制御して、位置に応じて磁場が変化するMRE用の第1の傾斜磁場(勾配磁場)61を発生させる。従って、第1の傾斜磁場61が振動検出傾斜磁場MEG(motion encoding gradient)と呼ばれる磁場である。実施例1の第1の傾斜磁場印加手段51dは、
図3に示すように、互いに直交するスライス(slice)方向、リードアウト(read out)方向およびフェーズ(phase)方向の3軸方向において、スライス方向(スライス軸)に第1の傾斜磁場61を発生させる。
【0027】
高周波磁場印加手段51eは、高周波磁場発生コイル13を制御して、プロトンを励起する周波数に対応する交番磁場である高周波磁場63を発生させる。実施例1の高周波磁場印加手段51eは、一例として、静磁場の方向に揃っているスピンを90°傾ける磁場(90°RFパルス信号63a)と、核スピンの角速度をキャンセルする磁場(180°RFパルス信号)63bとを予め定められた間隔(TE/2)をあけて印加する。実施例1の高周波磁場印加手段51eは、繰り返し時間TRに応じた時期に、高周波磁場63(63a,63b)を発生させる。なお、180°RFパルス信号63bから(TE/2)時間後にエコー信号が観測される。
【0028】
第2の傾斜磁場印加手段51fは、傾斜磁場発生コイル12を制御して、拡散強調画像用の第2の傾斜磁場(勾配磁場)62を発生させる。実施例1の第2の傾斜磁場印加手段51fは、
図3に示すように、従って、第2の傾斜磁場62が拡散検出用傾斜磁場MPG(motion proving gradient)と呼ばれる磁場である。実施例1の第2の傾斜磁場印加手段51fは、
図3に示すように、スライス(slice)方向、リードアウト(read out)方向およびフェーズ(phase)方向の3軸方向において、第1の傾斜磁場:MEG61とは異なる軸方向の一例であるフェーズ方向(フェーズ軸)に、第2の傾斜磁場62を発生させる。なお、実施例1の第2の傾斜磁場62は、観測したい方向に応じて、任意の軸(方向)に発生させることが可能であり、第1の傾斜磁場61と同じスライス方向に発生させることも可能であるし、リードアウト方向に発生させることも可能である。
【0029】
また、実施例1の第2の傾斜磁場印加手段51fでは、振動位相が0°、90°、180°、270°において、異なる「b値」となるように第2の傾斜磁場62を印加する。ここで、b値は、拡散強調画像を得る際に使用される値であり、b値に対する観測される信号強度の傾きが拡散係数(対象を生体とした場合、観測対象部位に拡散現象と灌流現象が混在しているため、見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC))となる。b値は、γをプロトンの磁気回転比:Proton gyromagnetic ratioとし、GをMPGの強度(振幅):Strength of the MPGとし、δをMPGの継続時間:MPG lobe durationとし、Δを一対のMPGの間隔:duration between the MPG pairsとした場合に、以下の式(1)で表される。
b=γ
2G
2δ
2(Δ−δ/3) …式(1)
ここで、γは変えられない値であり、Δは後述する振動66により決まる値であるが、Gとδは可変の値である。実施例では、Gの値を変化させることでMPG62のb値を変化させる。したがって、4つの振動位相(0°、90°、180°、270°)によってbの値を変化させながら観測を行って、4つのb値に対する観測結果から、拡散係数を導出することが可能である。なお、b値を変化させる際に、δを変化させることも可能である。また、振動周波数を変化させることも可能である。
【0030】
振動付与制御手段52は、振動板16を制御して、被検査部に振動66を付与する。
図3において、実施例1の振動付与制御手段52が付与する振動66の周期Tは、第1の傾斜磁場61の周期Tに同期している。なお、実施例1では、振動付与制御手段52は、
図3に示す振動66に対して、振動66の位相を任意に変更できる機能を有し、この機能を利用して、例えば振動位相分割数が4つの場合、第1の傾斜磁場61の位相に対して、位相を0°、90°、180°、270°ずらした振動66も付与可能である。
【0031】
図4は実施例1の傾斜磁場を振動位相0°90°、180°、270°のそれぞれに対して印加した場合の説明図である。
図3、
図4において、実施例1では、第1の傾斜磁場61は、1周期分の波形に相当する勾配磁場を、180°RFパルス信号63bを挟んで、前後に印加する。このとき、180°RFパルス信号63bよりも前側(早い時期)のMEG61aと、180°RFパルス信号63bよりも後側(遅い時期)のMEG61bは振動66の振動位相に対して強め合う波形で印加する。例えば、前側MEG61aと後側MEG61bが振動周波数の1周期(T) 位相がずれたタイミングで印加される場合には、前側MEG61aと後側MEG61bとで波形の正負を反転させる(前側MEG61aの山が振動66の山と一致する場合、後側MEG61bの山が振動66の谷に一致するように、第1の傾斜磁場61が印加される)。
【0032】
また、実施例1では、第2の傾斜磁場:MPG62は、180°RFパルス信号63bを挟んで、前後に対称なタイミングで印加する。なお、MPG62は、第1の傾斜磁場MEG61とは異なるタイミングの一例として、前側MEG61aよりも早いタイミングで前側MPG62aが印加されるとともに、後側MEG61bよりも遅いタイミングで後側MPG62bが印加される。ここで、前側MPG62aと後側MPG62bとは、間隔Δをあけて印加されるが、間隔Δは、振動66の周期Tの整数倍となるように設定されている。すなわち、Δ=n・T、に設定されている。したがって、180°RFパルス信号63bよりも前側(早い時期)の前側MPG62aと、180°RFパルス信号63bよりも後側(遅い時期)の後側MPG62bとは、振動66の波形(山と谷)に対して、位相が同じタイミングで印加される。例えば、前側MPG62aの山が振動66の山と一致する場合には、後側MPG62bの山が振動66の山に一致するように、第2の傾斜磁場62が印加される。
なお、180°RFパルス信号63bは、効果としては、磁場61,62の波形の正負を逆転、反転させるものである。したがって、2つの同じMPG62a,62bが、180°RFパルス信号63bの前(反転前)と後(反転後)に印加されるということは、大きさが等しい傾斜磁場が、互いに逆向きに印加されていることに相当する。
【0033】
受信手段の一例としての信号取得手段53は、エコー時間TEの時期に、受信コイル14を介して被検者4のプロトンが緩和する際に発生する電磁波信号を取得する。したがって、実施例1では、
図3に示す振動が振動付与制御手段52で付与された状態で、エコー時間TEにおいて受信コイル14で信号を測定し、位相が90°ずれた振動66が付与された状態で、エコー時間TEにおいて受信コイル14で信号を測定し、180°、270°ずれた状態でも同様に信号を測定することで、振動66の位相を変えて、MR画像を複数回撮像する。
【0034】
図5は実施例1のMR画像を作成する処理の説明図である。
MR画像取得手段54は、信号処理手段54aと、MR強度画像の作成手段54bと、MR位相画像の作成手段54cと、拡散強調画像の作成手段54dと、を有し、信号取得手段53が取得した電磁波信号に基づいて、MR画像を作成する。
信号処理手段54aは、受信した電磁波信号において信号処理をする。実施例1の信号処理手段54aは、信号取得手段53が取得した信号を実数部r(real part)とし、信号取得手段53が取得した信号をπ/2位相を遅らせた信号を虚数部i(imaginary part)とする。すなわち、受信した電磁波信号に基づいた複素数、いわゆる、MRIの技術分野におけるk空間(周波数空間)の信号を生成する。そして、実数部rと虚数部iに対して、フーリエ逆変換(実施例では高速フーリエ逆変換)を行って、実空間の信号R,Iに変換する。そして、実空間における実数部Rと虚数部Iとに基づいて、複素平面における強度M=(R
2+I
2)
1/2と、位相φ=tan
-1(I/R)とを演算する。
【0035】
MR強度画像の作成手段54bは、信号処理手段54aで算出された強度Mに基づいて、MR強度画像を作成する。なお、MR強度画像(たとえば拡散強調画像など)は、一般的にMRI画像として、診断に使用される画像である。なお、MR強度画像の作成方法は、従来公知(例えば、Dixon法等)であり、任意の方法を採用可能であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0036】
MR位相画像の作成手段54cは、電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用される)を作成する。ここで、実施例1のMR位相画像の作成手段54cでは、エコー時間TEで測定された電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像を作成する。また、振動付与制御手段52で付与される振動の位相が、0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像を作成する。
【0037】
拡散強調画像の作成手段(拡散強調画像の取得手段の一例)54dは、第2の傾斜磁場:MPG62に応じて移動した分子(主に、細胞中の水分子)スピンの位相分散に基づいた拡散強調画像:DWI画像を作成する。すなわち、取得された信号から導出される拡散係数に基づいて、拡散強調画像を作成する。拡散強調画像法では、静磁場の中で観測、取得される信号が、第2の傾斜磁場MPG62の方向での一次元的な分子の動きとして計測される。静止している分子は、2つのMPG62a,62bによるスピンの位相変化で相殺され、全体として影響を受けないが、MPG62a,62bの方向に移動(拡散)した分子はスピンの位相が乱れる。そして、拡散で生じたスピンの位相乱れが信号低下として観測される。なお、拡散強調画像法(DWI)は従来公知であり、例えば、特開2005−253802号公報等にも記載されているため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0038】
波長取得手段55は、振動板16で付与された振動により被検者4の内部を伝播する振動波の波長λを取得する。実施例1の波長取得手段55は、振動位相0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像に基づいて、画像の画素毎に、振動波に応じて変動する位相φの推移から振動波の波長λを取得する。具体的には、振動位相0°、90°、180°、270°の画像から得られる振動波の伝播の様子から、画像の局所領域ごとに振動波の波長λを推定する。
【0039】
硬さ推定手段56は、振動波の波長λと、振動板16で付与された振動波の周波数fと、被検査部の密度ρと、に基づいて、被検査部の硬さμを推定する。なお、振動波の周波数fは、振動板16で付与される振動波の周波数fから既知であり、被検査部の密度ρは、人体の密度は、ほぼ1[g/cm
3]である。そして、硬さ(弾性率)μは、μ=ρ・(λ・f)
2から計算される。
MRE画像作成手段57は、MR現象を利用して硬さを画像化したMR Elastogram画像(MRE画像)を作成する。実施例1のMRE画像作成手段57は、局所領域(画素)毎に計算された硬さμに応じて色分けされたMRE画像を作成する。一例として、硬い部分(硬さμの値の大きな画素)を赤く表示し、軟らかくなる(硬さμの値が小さくなる)に連れて、黄、緑、青、紫と変化するように表示することが可能である。
【0040】
画像表示手段58は、MR画像取得手段54やMRE画像作成手段57で作成された画像を、ディスプレイ23に表示する。すなわち、被検査部の断面画像であるMR強度画像(通常の診断で利用する画像)と、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用)と、Elastogram画像(MRE画像)と、拡散強調画像が、ディスプレイ23に表示される。なお、実施例1では、Wave Image画像やElastogram画像だけでは、解剖学的構造がわかりにくいので、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像とを重ねて表示する表示モードも備える。なお、画像を重ねて表示したり、全ての画像をディスプレイ23に表示せず、入力に応じて、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像を切替えて表示することも可能である。また、同一の断面において、MR強度画像とElastogram画像を並べて配置することも可能であるし、異なる断面におけるElastogram画像を並べて表示する等、任意の変更が可能である。
【0041】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、1回の繰り返し時間TRの間に、MRE用の第1の傾斜磁場61と、第2の傾斜磁場62とが別々に印加される。ここで、第1の傾斜磁場(MEG)61は、1周期分の波形が2回印加されることになるが、波形が1周期分であり、印加する時間も極めて短い時間なので、結果として、プラスの領域とマイナスの領域が打ち消しあうこととなり、DWIにとっては影響が少ないこととなる。また、第2の傾斜磁場(MPG)62は、前述のように、強度が同一の磁場が逆向きに印加されるが、振動66の振動位相に対して打ち消しあう形となっており、MREには影響が少ないこととなる。
したがって、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、第1の傾斜磁場61を使用したMRE画像と、第2の傾斜磁場62を使用した拡散強調画像とを、一度の測定で得ることができる。
【0042】
図6は非特許文献1に記載された従来技術の説明図である。
図7は非特許文献1に記載された従来技術の問題点の説明図である。
図6において、非特許文献1に記載されたMPGにMEGを兼用させる構成、すなわち、MPGとMEGが一体化された技術では、異なるb値の測定を行うために、
図6に示すように、MPG(MEG)の強度(G)が異なる撮影を行う必要がある。DWIにおいては、MPGの強度(G)を変えることは必須であるが、MREにとっては、MPGの強度(G)が小さくなると、MEGの効果が弱くなる。これにより、MREで必要とする振動位相を変化させた数回の撮影で、振動の増強効果が統一できない問題が発生する。従って、
図7に示すように、b値が低い場合(位相0°の場合)に、振動の増強効果が十分に得られず、MRE画像が得られない恐れがある。
【0043】
仮に、DWIでb値が小さい場合(MREでは振動位相0°の撮像)でも十分な振動増強効果が得られる程度のb値となるように、強度(G)を設定すると、DWIでb値を上昇させた場合(MREでは振動位相270°の撮像)に、強度(G)が強くなりすぎて、安全性の面から人体に使用できないような強すぎる磁場となってしまう問題がある。また、b値を上昇させるために、強度(G)を大きくすると、振動に対する増強効果が強すぎて拡散強調画像にアーチファクト(偽像)が発生する問題もある。
なお、MREでは、傾斜磁場(MEG)の効果を最大とするためには、MEGを振動に同期させる必要があるため、非特許文献1に記載の技術では、δの値は振動に対して固定値(δ=T/2)となっていまい、δの値を変化させることでb値を変化させることができない。また、fも変化させることができない。
したがって、非特許文献1に記載の技術は、傾斜磁場の強度が弱いとMRE画像における、振動に対する感度が十分に得られず、傾斜磁場が強すぎるとDWIにアーチファクトを生じさせる問題があって、MREとDWI共に十分な精度が得られにくく、実用性に大きな課題がある。
【0044】
これらに対して、実施例1では、MRE用の第1の傾斜磁場61とは、別個に、DWI用の第2の傾斜磁場62が印加され、互いに悪影響は与えない。したがって、第1の傾斜磁場61は、MREに適した強度、周期、タイミング、期間で印加することができ、第2の傾斜磁場62はDWIに適した強度、周期、タイミング、期間で印加することができる。よって、
図4に示すように、第2の傾斜磁場62で、拡散は強調されると共に、MREは影響を受けず、安定した観測が可能である。
【0045】
図8は実施例1の磁気共鳴撮影装置での効果の説明図である。
図9は実施例1の構成と非特許文献1記載の構成と一般的なMRE技術とで得られたMRE画像(Wave ImageとElastogram)の一例である。
図10は非特許文献1に記載の構成と実施例1とで得られる拡散強調画像の説明図である。
したがって、
図8に示すように、b値が低い場合でも、第1の傾斜磁場61の振動増強効果は確保されるため、画像が得られると共に、b値が高い場合でも、第2の傾斜磁場62は振動の増感に寄与しないので、強度画像(拡散強調画像)上にアーチファクトが生じない。
また、
図9において、実施例1のように第1の傾斜磁場61と第2の傾斜磁場62を個別(Separate)に印加しても、MRE画像は一般的なMRE法の場合と同様の画像が得られており、問題はない。さらに、
図10において、b値が高くなると、非特許文献1に記載の技術のようにMEGとMPGを一体化(Unit)した構成では、
図10の破線で囲んだ領域で示すように、アーチファクトが見られるが、実施例1(Separate)では見られない。なお、
図10に示すADCmapは、測定結果から、見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)を求めて画像化したもので、見かけの拡散(係数)画像(ADC map)と呼ばれる。そして、非特許文献1に記載の技術では、ADCマップにも、アーチファクトが見られるが、実施例1では見られない。
【0046】
よって、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、MREとDWIの撮影を同時に行うことができると共に、アーチファクトの無い高精度のMRE画像およびDWI画像を得ることができる。このとき、MEG及びMPGの強度(G)を大きくする必要がないため、人体に悪影響が出るような強い磁場がかかることも防止できる。したがって、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、硬さを画像化するMRE技術と、水分子拡散を画像化するDWI技術を融合した新しい撮像法(パルスシーケンス)を実用化することができる。よって、腫瘍組織の硬さ(≒悪性度)と水分子拡散の様子(≒細胞密度)を同時に評価できる。
【0047】
また、非特許文献1に記載の技術では、MEGとMPGが一体化(Unit)されているため、各磁場を異なる方向(スライス、リードアウト、フェース)に印加することができない。したがって、MREとDWIで撮影したい方向が同一の場合に限定されてしまい、MREとDWIとで異なる方向を撮影することができない。悪性腫瘍が存在すると、細胞外から細胞内に水分子が移動して、水分子が自由に動きにくくなるため、拡散強調画像が悪性腫瘍の診断に使用されるが、水の移動方向を計測するには、さまざまな軸方向に第2の傾斜磁場62を印加して計測することが望ましい。しかし、非特許文献1に記載の技術のように、一方向しか撮影できないのであれば、複数の方向から撮影するには、複数回撮影が必要になり、撮影に時間がかかり、被検者にも負担がかかる問題がある。
これらに対して、実施例1では、第2の傾斜磁場62は第1の傾斜磁場61とは異なる方向(軸)に印加することができる。よって、MREで撮影したい方向とは異なる方向の拡散強調画像を見たい場合に、DWI法で撮影したい任意の方向から被検査部を撮影することが可能である。
【0048】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H03)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、磁石部2がリング状、いわゆる、トンネル型の磁気共鳴撮影装置を例示したが、これに限定されない。例えば、磁石部2がコの字型、いわゆる、オープン型の磁気共鳴撮影装置にも適用可能である。
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値は、設計や使用等に応じて、任意に変更可能である。例えば、共鳴周波数は静磁場の強さによって変わるため、静磁場の強さを変化させた場合には、エコー時間や振動板16の周波数等も連動して変更されることとなる。
【0049】
(H03)前記実施例において、振動周波数は、60Hzを例示したが、これに限定されない。75Hzや100Hzでの加振も可能である。