【実施例】
【0022】
[試験1:コクに関する対照サンプル(野菜調味料)の評価]
<比較例1>
ブロッコリー、タマネギ、セロリ、ニンジンを5mm程度に切断し、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを比較例1とした。
【0023】
<実施例1>
ブロッコリー、タマネギ、セロリ、ニンジンを5mm程度に切断し、切断された野菜を焙炒後、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを実施例1とした。
【0024】
<比較例2>
ブロッコリーを5mm程度に切断し、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを比較例2とした。
【0025】
<実施例2>
ブロッコリーを5mm程度に切断し、切断された野菜を焙炒後、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを実施例2とした。
【0026】
<糖度(Brix)の測定>
本測定で採用した糖度(Brix)の測定器は、屈折計(NAR−3T ATAGO社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0027】
<揮発性成分分析>
作製した比較例1と実施例1に含まれる揮発性成分濃度の比較、及び比較例2と実施例2に含まれる揮発性成分濃度の比較を行うことで、香味の違いに寄与する香成分を特定した。本測定は、GERSTEL社製オートサンプラー(MPS2)、ダイナミックヘッドスペースモジュール(DHS)、加熱脱着装置(TDU)、昇温気化型注入口(CIS4)を装着したAgilent社製7890GC/5975 MSDを用いて実施した。試料を専用バイアルに0.5〜2g量り取り、超純水で総量5gとなるよう希釈し、内部標準として1,2−Dichlorobenzeneの10ppm溶液を5μl添加した。DHS法により、香気成分を専用Tenax TA tubeに捕集し、TDU−1D−GC/MS システムによる加熱脱着分析を実施した。
【0028】
GC/MS条件
カラム:Agilent DB−WAX 60m×0.25mm×0.5μm
オーブン温度:40℃(3min)→10℃/min→240℃(27min)
キャリアガス:3.1ml/min(ヘリウム)
MSモード:SCAN(質量範囲29〜450)
【0029】
比較例1と実施例1との間、及び比較例2と実施例2との間でBrix5.0にて揮発成分の含有量を比較した際、比較例1に比して実施例1に多い成分、かつ比較例2に比して実施例2に多い成分を特定した。また、比較例1に比して実施例1に少ない成分、かつ比較例2に比して実施例2に少ない成分を特定した。さらにその中で、一般的な知見の中で人が香りを感じられることが分かっている成分かつ、人の官能に影響がある程度の量含まれる成分を特定したところ、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、及び(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)、の5成分が特定された。比較例1、及び実施例1における各成分の濃度を表1に示した。
【0030】
<比較例1と実施例1の可溶性成分分析>
比較例1と実施例1に関して、アミノ酸、核酸、有機酸、及び糖の分析を行った。その結果、比較例1と実施例1に関して含有量は同等であった。測定された成分の中で、香味に影響がある濃度含まれている成分をピックアップし、Brix5.0におけるそれぞれの成分の濃度を表2に示した。
【0031】
<アミノ酸濃度の測定>
本測定で採用したアミノ酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的には、本測定で採用したアミノ酸の測定器は、高速アミノ酸分析計L−8000シリーズ((株)日立製作所)である。測定条件は、アンモニアフィルタカラム:#2650L[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、分析カラム:#2622[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、ガードカラム:#2619[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、移動相:クエン酸リチウム緩衝液、反応液:ニンヒドリン溶液、検出波長:VIS 570nmである。
【0032】
<核酸濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:Develosil RPAQUEOUS AR−5、4.6mm×250mm[野村化学製]
溶離液:A;リン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)、B;90%アセトニトリル
グラジエント条件:A液の割合100%(0〜5分)−92.5%(25分)−80%(25.1〜28分)−100%(28.1〜32分)
流速:1.0ml/min
検出波長:254nm
カラム温度:40℃
【0033】
<有機酸濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:C610H−S[日立製作所製]
溶離液:3mM過塩素酸
反応液:0.1mM BTB、15mM リン酸水素ナトリウム、2mM 水酸化ナトリウム
グラジエント条件:A液の割合100%(0〜5分)−92.5%(25分)−80%(25.1〜28分)−100%(28.1〜32分)
流速:溶離液0.5ml/min、反応液0.5ml/min
検出波長:440nm
カラム温度:50℃
【0034】
<糖濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:Shodex Asahipak NH2P−50 4E
溶離液:アセトニトリル/水=75/25
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率検出器
カラム温度:50℃
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
<官能評価トレーニング>
香味評価に鋭敏な感覚を持つ7人を官能評価者(パネリスト)として選定し、パネルを形成した。7人で構成されるパネルにより、比較例1及び実施例1に関して、香味の持続性、及び複雑さを評価した結果、全てのパネリストにおいて、比較例1と実施例1の違いを感じ、かつ、実施例1において香味の持続性、及び複雑さを感じるという結果となった。同様に、比較例2と実施例2の違いを感じ、かつ、実施例2において香味の持続性、及び複雑さを感じるという結果となった。
【0038】
比較例1と実施例1の香味の違いに関して、7人で構成されるパネルで言葉出しを行い、その中で出てきた具体的な表現を用いて、香味の「持続性」及び「複雑さ」に関する定義づけを行った。香味の「持続性」及び「複雑さ」の定義を以下のとおりとした。
「持続性」を感じる・・・青臭さがなく、飲み込んだ後にはちみつ様の香を感じる状態。
「複雑さ」を感じる・・・香味を多く感じられるが、特定の香味が際立ってなく、かつ、明確に香味を分解できない状態。
(A)〜(E)の香成分標準品それぞれを用いて、パネルのオルソネーザル、及びレトロネーザルによる官能評価により、「青臭さ」の香味特徴や、パネルで定義づけした「持続性」、及び「複雑さ」に関与している香味特徴が、(A)〜(E)の標準品の香成分と関連していることを確認した。特に(A)の成分が「持続性」に影響しているとのパネルの意見であった。
【0039】
[試験2:モデル液を用いた、コク強化範囲の特定]
<モデル液を用いた官能評価>
糖(スクロース、フルクトース、グルコース)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、ピログルタミン酸)、及びアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン)の標準品、及び水を用いて、ベース液を調整した。各成分含有量は、表2に記載の、比較例1と実施例1の測定値の中間値とした。ベース液に対して、(A)〜(E)の香成分標準品を、以下の表3に記載の区分1〜6の成分含有量となるように調整した。区分1は比較例1の成分含有量と同等になるよう調整したものであり、区分4は実施例1の成分含有量と同等になるように調整したものである。区分1〜6に関して、前記官能評価トレーニングにより訓練されたパネルによる官能評価を行った。
【0040】
「持続性」に関する官能評価は、以下表4の5段階による評価を行った。評価の基準サンプルとして、比較例1で感じられる香味の「持続性」を2とし、実施例1で感じられる香味の「持続性」を4とした。
「複雑さ」に関する官能評価は、「複雑である」又は「複雑でない」を選択する、絶対評価を行った。
【0041】
区分3〜6に関しては、青臭さを感じないものの、区分1及び2については青臭さを感じるというパネルの意見であり、区分1及び2に関しては、「青臭さ」に関する官能評価も併せて行った。「青臭さ」に関する官能評価は、以下表4の5段階による評価を行った。評価の基準サンプルとして、比較例1で感じられる香味の「青臭さ」を4とし、実施例1で感じられる「青臭さ」を2とした。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
<官能評価基準>
「持続性」に関する評価は、各パネリストが評価した点数を基にして、平均値が「3(やや感じる)」以上であり、かつ、比較例1で感じられる持続性「2(ほとんど感じない)」と有意に差がある場合(Tukeyの検定)に「○」とした。それ以外は「×」とした。危険率(P値)は5%にて判断した。
「複雑さ」の有無(○又は×)に関する評価は、各パネリストの評価を基にして、個別項の2項分布確率(BINOMDIST関数)により、危険率(P値)5%にて判断した。「複雑でない」を選ぶ危険率が5%未満の場合、「複雑さ」あり(○)と判断した。
「青臭さ」に関する評価は、各パネリストが評価した点数を基にして、平均値が「4(感じる)」以上、又は、比較例1で感じられる青臭さ「4(感じる)」と有意に差がない場合に「×」とした。
コクの評価については、少なくとも「持続性」が有る(○)ものには「○」を、さらに「複雑さ」を有する(○)ものについては「◎」、とした。
官能評価結果を、以下表5に示した。
【0045】
【表5】
【0046】
<香成分の比>
区分1〜6に関して、各香成分含有量の比を算出したものを以下の表6に示した。
【0047】
【表6】
【0048】
[試験3:オミッション試験による関与成分の特定]
以下、表7の通り、区分1又は区分4を基に、香成分を1成分ずつオミッションしたモデル液、あるいは1成分だけ添加したモデル液を作製した。対照(1)を標品として提示し、官能による3点識別法により、対照1−aと識別可能か評価を行った。同様に、対照(4)を標品として提示し、それぞれ、区分4−a〜4−dに関して3点識別法により識別可能か評価を行った。パネリストの人数は8人で行い、危険率を5%として有意差検定を行ったところ、区分1−a、区分4−aはそれぞれの対照と有意な差がないことが分かった。
つまり、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)は、本発明の効果に実質的には寄与していないことが考えられた。
【0049】
【表7】
【0050】
以下、表8の通り、区分2及び区分3を基に、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)の濃度を0ppbとしたモデル液を作製した。対照(2)を標品として提示し、官能による3点識別法により、区分2−aと識別可能か評価を行った。同様に、対照(3)を標品として提示し、区分3−aに関して3点識別法により識別可能か評価を行った。パネル人数は8人で行い、危険率を5%として有意差検定を行ったところ、いずれも対照と有意な差がないことが分かった。
併せて、区分2と区分3−aをパネルにより評価を行ったところ、区分3−aの方が有意に青臭さが抑制され、コクがある結果となった。
【0051】
【表8】
【0052】
以上より、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)は、区分1乃至6の範囲において、本発明の効果に寄与していないことが分かった。
【0053】
[試験4:青臭さがコクに与える影響評価]
成分(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)が一定の濃度において、青臭さに関与する成分が増加することによる、香味の持続性に与える影響を評価した。
区分4の、フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の濃度を固定し、青臭さに関与する3成分(B)、(C)、及び(D)を区分1相当の濃度になるまで段階的に引き上げた。具体的には、表9の濃度となるように区分1’〜区分3’及び区分4を調整した。
【0054】
【表9】
【0055】
5人のパネリストによる官能評価により、区分1’〜区分3’及び区分4における香味の持続性評価を行ったところ、区分2’と区分3’の間において、危険率5%として有意な差があることが分かった(検定方法:一元配置分散分析)。そして、区分1’、区分2’に比較して、区分3’、区分4の方が香味の持続性は強い結果となった。
以上より、一定のフェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の濃度であっても、(B)〜(D)の濃度が高くなるに従い、香味の持続性は低下することが分かった。
【0056】
<まとめ>
以上の試験結果を考慮した結果、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)との含有量の関係が、0≦(B)/(A)≦0.00539、≦(C)/(A)≦0.00435、かつ0≦(D)/(A)≦0.290であることで、コクを感じられることがわかった。また、当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0にしたときの各成分の含有量が、(A):89.0ppb以上であり、(B):0.48ppb以下であり、(C):3.87ppb以下であり、(D):25.83ppb以下であり、(E):0.04ppb以下であることで、コクを感じられることがわかった。