特許第6985817号(P6985817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985817アブラナ科野菜含有飲食品、及び、アブラナ科野菜含有飲食品のコクを強化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985817
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】アブラナ科野菜含有飲食品、及び、アブラナ科野菜含有飲食品のコクを強化する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20211213BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20211213BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20211213BHJP
【FI】
   A23L27/00 Z
   A23L19/00 A
   A23L27/10 C
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-96137(P2017-96137)
(22)【出願日】2017年5月15日
(65)【公開番号】特開2018-191541(P2018-191541A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥山 香代子
(72)【発明者】
【氏名】木野 裕子
【審査官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−042841(JP,A)
【文献】 特開2007−306904(JP,A)
【文献】 特開2005−015684(JP,A)
【文献】 特開2014−055201(JP,A)
【文献】 特開2016−152819(JP,A)
【文献】 特開2016−131518(JP,A)
【文献】 LWT-Food Science and Technology,2017年03月22日,80,501-509
【文献】 Food Chemistry,2003年,80,353-358
【文献】 Journal of Agricultural and Food Chemistry,2009年,57,6795-6802
【文献】 Journal of Agricultural and Food Chemistry,1992年,40,850-852
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラナ科野菜含有飲食品であって、
その含有成分は、少なくとも、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)であり、かつ、
(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)との含有量の関係が、
0≦(B)/(A)≦0.00539、
0≦(C)/(A)≦0.0435、かつ、
0≦(D)/(A)≦0.290であり、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の含有量(ppb)は、89.0以上である。
【請求項2】
アブラナ科野菜含有飲食品であって、
その含有成分は、少なくとも、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)であり、かつ、
(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)との含有量の関係が、
0.00187≦(B)/(A)≦0.00539、
0.0129≦(C)/(A)≦0.0435、かつ、
0.0607≦(D)/(A)≦0.290であり、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の含有量(ppb)は、89.0以上である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアブラナ科野菜含有飲食品であって、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)の含有量(ppb)は、
(A):89.0以上107.0以下、
(B):0.20以上0.48以下、
(C):1.38以上3.87以下、及び
(D):6.50以上25.83以下である。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のアブラナ科野菜含有飲食品であって、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)との含有量の関係が、
0≦(E)/(A)≦0.00045である。
【請求項5】
アブラナ科野菜含有飲食品であって、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、の含有量(ppb)は、
(A):89.0以上107.0以下、
(B):0.20以上0.48以下、
(C):1.38以上3.87以下、かつ
(D):6.50以上25.83以下である。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のアブラナ科野菜含有飲食品であって、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの、(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)の含有量(ppb)は、
(E):0以上0.04以下である。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のアブラナ科野菜含有飲食品であって、
当該飲食品が、搾汁液、エキス(抽出液)、又は体の何れかである。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載のアブラナ科野菜含有飲食品であって、当該飲食品の原料が、少なくともブロッコリー、タマネギ、セロリ、及びニンジンである。
【請求項9】
アブラナ科野菜含有飲食品のコクを強化する方法であって、調整されるのは、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)の含有量であり、(A)〜(D)の含有量の関係が、
0≦(B)/(A)≦0.00539、
0≦(C)/(A)≦0.0435、かつ、
0≦(D)/(A)≦0.290であり、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の含有量(ppb)は、89.0以上である。
【請求項10】
アブラナ科野菜含有飲食品のコクを強化する方法であって、調整されるのは、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)の含有量であり、(A)〜(D)の含有量の関係が、
0.00187≦(B)/(A)≦0.00539、
0.0129≦(C)/(A)≦0.0435、かつ、
0.0607≦(D)/(A)≦0.290であり、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の含有量(ppb)は、89.0以上である。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法であって、当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)の含有量(ppb)は、
(A):89.0以上107.0以下、
(B):0.20以上0.48以下、
(C):1.38以上3.87以下、かつ
(D):6.50以上25.83以下である。
【請求項12】
請求項9〜11の何れかに記載の方法であって、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)との含有量の関係が、
0≦(E)/(A)≦0.00045である。
【請求項13】
アブラナ科野菜含有飲食品のコクを強化する方法であって、調整されるのは、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、の含有量であり、当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの(A)〜(D)の含有量(ppb)が、
(A):89.0以上107.0以下、
(B):0.20以上0.48以下、
(C):1.38以上3.87以下、かつ
(D):6.50以上25.83以下である。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法であって、
当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0に換算したときの、(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)の含有量(ppb)は、
(E):0以上0.04以下である。
【請求項15】
請求項9〜14の何れかに記載の方法であって、
当該飲食品が、搾汁液、エキス(抽出液)、又は体の何れかである。
【請求項16】
請求項9〜15の何れかに記載の方法であって、当該飲食品の原料が少なくともブロッコリー、タマネギ、セロリ、及びニンジンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、アブラナ科野菜含有飲食品、及び、アブラナ科野菜含有飲食品におけるコクを強化する方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品における「コク」は、おいしさを決定する重要な因子として注目されている。「コク」を説明すると、味や香り、食感が寄与することで、口中における複雑さ、持続性等を有する官能特徴である。「コク」に寄与する成分は、これまで、水溶性成分、脂溶性成分などが知られてきている。
【0003】
「コク」が食味を決定付ける重要な因子として捉えられているのは、飲食品、とりわけ、調味料の分野である。通常、調味料では、肉類、魚類といった動物性の原料を用いている。植物性の原料を用いるにしても、豆類の様な、タンパク質が豊富なものを原料としている。近年では、ソフリットの様な野菜由来の調味料も知られており、飲食品に使われることがある。野菜の中でもアブラナ科野菜は、アミノ酸含量が高い。他方で、アブラナ科野菜は、特有の異臭を有している。アブラナ科野菜を飲食品の原材料として使う場合、その異臭の低減を目的に、種々検討が行われてきた。特許文献1には、特有の異臭を低減するため、細断前に特定条件で蒸し、搾汁液を陰イオン交換する、アブラナ科野菜の処理方法が記載されている。特許文献2には、アブラナ科野菜の異臭を低減するため、野菜の搾汁液を、多孔性合成吸着樹脂で接触処理させる、搾汁液の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3676178号公報
【特許文献2】特開平10−313834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、アブラナ科野菜含有飲食品におけるコクの強化である。より詳しくは、アブラナ科野菜由来の青臭さの抑制、及びコクの強化である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アブラナ科野菜含有飲食品を作製する中で、試行錯誤の末、香り成分がコクに影響することを見出した。すなわち、特定の香り成分の含量を高めることで、コクを強化することである。より好ましくは、別の特定の香り成分の含量を低くすることである。具体的には、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3―one)、(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、並びに(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)との成分含有量(ppb)の比が特定の範囲であること、好ましくは、特定のBrixにおける(A)〜(E)の含有量(ppb)が特定の範囲であることで、コクが強化されることができることを見出した。この中で発明者が見出した作用は、(A)の成分が多く含まれるとコクを感じやすくなり、青臭さに関わる(B)〜(E)の成分が多く含まれるとコクが抑えられてしまうということである。好ましくは、飲食品が搾汁液、エキス(抽出物)、又は紛体の何れかである。
【発明の効果】
【0007】
本発明が可能にするのは、コクが強化されたアブラナ科野菜含有飲食品、及びアブラナ科野菜含有飲食品におけるコクの強化方法の提供である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<飲食品>
本発明における飲食品とは、飲用又は食用の物であり、例示すると、飲料、食品、調味料、飲食品の原料、搾汁液、エキス(抽出物)、紛体、ポーション、サプリメント、等である。
【0009】
<アブラナ科野菜>
本発明におけるアブラナ科野菜とは、野菜であって、アブラナ科に分類されるものをいう。例示すると、キャベツ、ブロッコリー、ケール、クレソン、コマツナ、チンゲンサイ、カイワレダイコン、カリフラワー、ハクサイ、ナバナ、タカナ、コールラビ、等が含まれる。これらの野菜のうち1種、又は複数種用いてもよい。また、これら野菜の部位(花、葉や茎)の全部、又は一部を用いてもよい。
【0010】
<アブラナ科野菜含有飲食品>
本発明におけるアブラナ科野菜含有飲食品とは、飲食品であって、少なくともアブラナ科野菜由来の原料が含まれているものをいい、他の原料が含まれていてもよい。他に含まれる原料としては、野菜であることが好ましい。野菜についても、当業界で通常用いられるものであれば特に限定されず、例として、ニンジン、タマネギ、カブ、大根、セロリ、ホウレンソウ、ピーマン、アスパラガス、大麦若葉、春菊、カラシ菜、サラダ菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、トマト、モロヘイヤ、パプリカ、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、紫蘇、茄子、インゲン、カボチャ、牛蒡、ネギ、生姜、大蒜、ニラ、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ、かぶ、きゅうり、ウリ、ズッキーニ、へちま、もやし、等が挙げられる。好ましくは、アブラナ科野菜以外に、ニンジン、タマネギ、セロリを用いることで、全体的な味のバランスが良くなる。
【0011】
<香り成分>
本発明の効果に寄与する香り成分は、少なくとも、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)と、から選ばれる1以上の成分である。香成分は、原料由来のものでも、添加によって含まれるものでも構わないが、好ましくは、添加物を避ける観点から原料由来のものである。
【0012】
<(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)>
(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)は、一般に、ハチミツ様の香特徴を有する。本発明では、加熱工程を経ることで当該成分が増加する物であることがわかった。これはアミノ酸の一種であるフェニルアラニンが加熱により分解され、生成したものとは推測される。本発明の効果に寄与する上で、飲食品のBrixが5.0のときの(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の含有量は、89.0ppb以上であり、好ましくは、89.0ppb以上、かつ116.0ppb以下であり、より好ましくは、89.0ppb以上、かつ107.0ppb以下である。
【0013】
<(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)>
(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)は一般に、草や葉の新鮮な、又は青臭い香特徴を有し、野菜類、果物類に含まれる。本発明の効果に寄与する上で、アブラナ科野菜含有飲食品のBrixが5.0のときの(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)の含有量は、好ましくは0.48ppb以下であり、より好ましくは、0.20ppb以上、かつ0.48ppb以下である。
【0014】
<(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)>
(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3―one)は、一般に、キノコ様の香特徴を有する。本発明の効果に寄与する上で、飲食品のBrixが5.0のときの(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)の含有量は、好ましくは3.87ppb以下であり、より好ましくは、1.38ppb以上、かつ3.87ppb以下である。
【0015】
<(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)>
(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)は、一般に、新鮮なタマネギ様の香特徴を有し、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー等のアブラナ科野菜に含まれる。本発明の効果に寄与する上で、飲食品のBrixが5.0のときの(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)の含有量は、好ましくは25.83ppb以下であり、より好ましくは、6.50ppb以上、かつ25.83ppb以下である。
【0016】
<(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)>
(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)は、一般に、刺激臭を有し、アブラナ科野菜等に含まれる。本発明の効果に寄与する上で、飲食品のBrixが5.0のときの(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)の含有量は、好ましくは0.04ppb以下である。
【0017】
<香り成分含有量の比>
本発明において、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)が比較的多く含まれることにより、本発明の効果に寄与する。一方、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、又は(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)が比較的多く含まれた場合、本発明の課題が解決できなくなる。そのため、(A)の含量と、(B)〜(E)から選ばれる成分の含量との比が、本発明の課題を解決する上で重要な因子である。
【0018】
本発明の課題を解決する上で、(A)〜(D)の香気成分の好ましい含有量(ppb)の比は、0≦(B)/(A)≦0.00539、0≦(C)/(A)≦0.0435、かつ0≦(D)/(A)≦0.290の条件を満たすときである。
より好ましくは、(A)〜(E)の香気成分の好ましい含有量(ppb)の比は、0.00187≦(B)/(A)≦0.00539、0.0129≦(C)/(A)≦0.0435、かつ0.0607≦(D)/(A)≦0.290の条件を満たすときである。さらにより好ましくは、前記条件を満たし、かつ0≦(E)/(A)≦0.00045の条件を満たすときである。
【0019】
<コク>
本発明における「コク」とは、官能特性の一つである。コクの判断の主たる要素は、香味の持続性であり、より好ましくは、香味の複雑さも加味される。
本発明における香味の「持続性」及び「複雑さ」は、人による官能評価試験において評価されるが、評価者間で基準の違いが生じないように、パネル内でトレーニングを行うことが好ましい。より具体的には、次のステップを踏むことが好ましい。まず、パネルの主観により、香味の持続性及び複雑さを有するとサンプル(ポジティブコントロール)と有さないサンプル(ネガティブコントロール)を準備し、それぞれの官能特徴に関して、評価者間で言葉だしを行う。次に、言葉だしで出てきた具体的な表現を用いて、評価者間で目合わせを行い、「持続性」及び「複雑さ」について共通認識となるよう定義づけを行う。そして、「持続性」及び「複雑さ」に関して、その有無や強度の評価基準を設定し、各種試験サンプルを評価するものとする。官能特徴を正確に描き出すため、訓練されたパネルが合意に達するまで官能特徴を自由に議論する、フレーバープロファイル法を用いるのが好ましい。
【0020】
<青臭さ>
本発明における「青臭さ」は、アブラナ科野菜の有する2−ヘキセナール(2−Hexenal)、ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、及び1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、から感じられる青臭さであり、より詳しくは、前記香り成分に加え、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)から感じられる青臭さである。
【0021】
<糖度(Brix)>
本実施の形態に係る飲食品において、Brixは、特に限定されないが、好ましくは、1.0以上60.0以下である。Brixの測定方法は、公知の方法でよい。測定手段を例示すると、光学屈折率計(NAR−3T ATAGO社製)である。
【実施例】
【0022】
[試験1:コクに関する対照サンプル(野菜調味料)の評価]
<比較例1>
ブロッコリー、タマネギ、セロリ、ニンジンを5mm程度に切断し、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを比較例1とした。
【0023】
<実施例1>
ブロッコリー、タマネギ、セロリ、ニンジンを5mm程度に切断し、切断された野菜を焙炒後、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを実施例1とした。
【0024】
<比較例2>
ブロッコリーを5mm程度に切断し、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを比較例2とした。
【0025】
<実施例2>
ブロッコリーを5mm程度に切断し、切断された野菜を焙炒後、切断された野菜の2倍量の水90℃以上で熱水抽出した。固形分を除去後、抽出液を真空濃縮により、Brix20まで濃縮した。濃縮試料を水でBrix5.0まで希釈したものを実施例2とした。
【0026】
<糖度(Brix)の測定>
本測定で採用した糖度(Brix)の測定器は、屈折計(NAR−3T ATAGO社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0027】
<揮発性成分分析>
作製した比較例1と実施例1に含まれる揮発性成分濃度の比較、及び比較例2と実施例2に含まれる揮発性成分濃度の比較を行うことで、香味の違いに寄与する香成分を特定した。本測定は、GERSTEL社製オートサンプラー(MPS2)、ダイナミックヘッドスペースモジュール(DHS)、加熱脱着装置(TDU)、昇温気化型注入口(CIS4)を装着したAgilent社製7890GC/5975 MSDを用いて実施した。試料を専用バイアルに0.5〜2g量り取り、超純水で総量5gとなるよう希釈し、内部標準として1,2−Dichlorobenzeneの10ppm溶液を5μl添加した。DHS法により、香気成分を専用Tenax TA tubeに捕集し、TDU−1D−GC/MS システムによる加熱脱着分析を実施した。
【0028】
GC/MS条件
カラム:Agilent DB−WAX 60m×0.25mm×0.5μm
オーブン温度:40℃(3min)→10℃/min→240℃(27min)
キャリアガス:3.1ml/min(ヘリウム)
MSモード:SCAN(質量範囲29〜450)
【0029】
比較例1と実施例1との間、及び比較例2と実施例2との間でBrix5.0にて揮発成分の含有量を比較した際、比較例1に比して実施例1に多い成分、かつ比較例2に比して実施例2に多い成分を特定した。また、比較例1に比して実施例1に少ない成分、かつ比較例2に比して実施例2に少ない成分を特定した。さらにその中で、一般的な知見の中で人が香りを感じられることが分かっている成分かつ、人の官能に影響がある程度の量含まれる成分を特定したところ、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)、及び(E):ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)、の5成分が特定された。比較例1、及び実施例1における各成分の濃度を表1に示した。
【0030】
<比較例1と実施例1の可溶性成分分析>
比較例1と実施例1に関して、アミノ酸、核酸、有機酸、及び糖の分析を行った。その結果、比較例1と実施例1に関して含有量は同等であった。測定された成分の中で、香味に影響がある濃度含まれている成分をピックアップし、Brix5.0におけるそれぞれの成分の濃度を表2に示した。
【0031】
<アミノ酸濃度の測定>
本測定で採用したアミノ酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的には、本測定で採用したアミノ酸の測定器は、高速アミノ酸分析計L−8000シリーズ((株)日立製作所)である。測定条件は、アンモニアフィルタカラム:#2650L[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、分析カラム:#2622[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、ガードカラム:#2619[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、移動相:クエン酸リチウム緩衝液、反応液:ニンヒドリン溶液、検出波長:VIS 570nmである。
【0032】
<核酸濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:Develosil RPAQUEOUS AR−5、4.6mm×250mm[野村化学製]
溶離液:A;リン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)、B;90%アセトニトリル
グラジエント条件:A液の割合100%(0〜5分)−92.5%(25分)−80%(25.1〜28分)−100%(28.1〜32分)
流速:1.0ml/min
検出波長:254nm
カラム温度:40℃
【0033】
<有機酸濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:C610H−S[日立製作所製]
溶離液:3mM過塩素酸
反応液:0.1mM BTB、15mM リン酸水素ナトリウム、2mM 水酸化ナトリウム
グラジエント条件:A液の割合100%(0〜5分)−92.5%(25分)−80%(25.1〜28分)−100%(28.1〜32分)
流速:溶離液0.5ml/min、反応液0.5ml/min
検出波長:440nm
カラム温度:50℃
【0034】
<糖濃度の測定>
本測定で採用した核酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。
カラム:Shodex Asahipak NH2P−50 4E
溶離液:アセトニトリル/水=75/25
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率検出器
カラム温度:50℃
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
<官能評価トレーニング>
香味評価に鋭敏な感覚を持つ7人を官能評価者(パネリスト)として選定し、パネルを形成した。7人で構成されるパネルにより、比較例1及び実施例1に関して、香味の持続性、及び複雑さを評価した結果、全てのパネリストにおいて、比較例1と実施例1の違いを感じ、かつ、実施例1において香味の持続性、及び複雑さを感じるという結果となった。同様に、比較例2と実施例2の違いを感じ、かつ、実施例2において香味の持続性、及び複雑さを感じるという結果となった。
【0038】
比較例1と実施例1の香味の違いに関して、7人で構成されるパネルで言葉出しを行い、その中で出てきた具体的な表現を用いて、香味の「持続性」及び「複雑さ」に関する定義づけを行った。香味の「持続性」及び「複雑さ」の定義を以下のとおりとした。
「持続性」を感じる・・・青臭さがなく、飲み込んだ後にはちみつ様の香を感じる状態。
「複雑さ」を感じる・・・香味を多く感じられるが、特定の香味が際立ってなく、かつ、明確に香味を分解できない状態。
(A)〜(E)の香成分標準品それぞれを用いて、パネルのオルソネーザル、及びレトロネーザルによる官能評価により、「青臭さ」の香味特徴や、パネルで定義づけした「持続性」、及び「複雑さ」に関与している香味特徴が、(A)〜(E)の標準品の香成分と関連していることを確認した。特に(A)の成分が「持続性」に影響しているとのパネルの意見であった。
【0039】
[試験2:モデル液を用いた、コク強化範囲の特定]
<モデル液を用いた官能評価>
糖(スクロース、フルクトース、グルコース)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、ピログルタミン酸)、及びアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン)の標準品、及び水を用いて、ベース液を調整した。各成分含有量は、表2に記載の、比較例1と実施例1の測定値の中間値とした。ベース液に対して、(A)〜(E)の香成分標準品を、以下の表3に記載の区分1〜6の成分含有量となるように調整した。区分1は比較例1の成分含有量と同等になるよう調整したものであり、区分4は実施例1の成分含有量と同等になるように調整したものである。区分1〜6に関して、前記官能評価トレーニングにより訓練されたパネルによる官能評価を行った。
【0040】
「持続性」に関する官能評価は、以下表4の5段階による評価を行った。評価の基準サンプルとして、比較例1で感じられる香味の「持続性」を2とし、実施例1で感じられる香味の「持続性」を4とした。
「複雑さ」に関する官能評価は、「複雑である」又は「複雑でない」を選択する、絶対評価を行った。
【0041】
区分3〜6に関しては、青臭さを感じないものの、区分1及び2については青臭さを感じるというパネルの意見であり、区分1及び2に関しては、「青臭さ」に関する官能評価も併せて行った。「青臭さ」に関する官能評価は、以下表4の5段階による評価を行った。評価の基準サンプルとして、比較例1で感じられる香味の「青臭さ」を4とし、実施例1で感じられる「青臭さ」を2とした。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
<官能評価基準>
「持続性」に関する評価は、各パネリストが評価した点数を基にして、平均値が「3(やや感じる)」以上であり、かつ、比較例1で感じられる持続性「2(ほとんど感じない)」と有意に差がある場合(Tukeyの検定)に「○」とした。それ以外は「×」とした。危険率(P値)は5%にて判断した。
「複雑さ」の有無(○又は×)に関する評価は、各パネリストの評価を基にして、個別項の2項分布確率(BINOMDIST関数)により、危険率(P値)5%にて判断した。「複雑でない」を選ぶ危険率が5%未満の場合、「複雑さ」あり(○)と判断した。
「青臭さ」に関する評価は、各パネリストが評価した点数を基にして、平均値が「4(感じる)」以上、又は、比較例1で感じられる青臭さ「4(感じる)」と有意に差がない場合に「×」とした。
コクの評価については、少なくとも「持続性」が有る(○)ものには「○」を、さらに「複雑さ」を有する(○)ものについては「◎」、とした。
官能評価結果を、以下表5に示した。
【0045】
【表5】
【0046】
<香成分の比>
区分1〜6に関して、各香成分含有量の比を算出したものを以下の表6に示した。
【0047】
【表6】
【0048】
[試験3:オミッション試験による関与成分の特定]
以下、表7の通り、区分1又は区分4を基に、香成分を1成分ずつオミッションしたモデル液、あるいは1成分だけ添加したモデル液を作製した。対照(1)を標品として提示し、官能による3点識別法により、対照1−aと識別可能か評価を行った。同様に、対照(4)を標品として提示し、それぞれ、区分4−a〜4−dに関して3点識別法により識別可能か評価を行った。パネリストの人数は8人で行い、危険率を5%として有意差検定を行ったところ、区分1−a、区分4−aはそれぞれの対照と有意な差がないことが分かった。
つまり、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)は、本発明の効果に実質的には寄与していないことが考えられた。
【0049】
【表7】
【0050】
以下、表8の通り、区分2及び区分3を基に、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)の濃度を0ppbとしたモデル液を作製した。対照(2)を標品として提示し、官能による3点識別法により、区分2−aと識別可能か評価を行った。同様に、対照(3)を標品として提示し、区分3−aに関して3点識別法により識別可能か評価を行った。パネル人数は8人で行い、危険率を5%として有意差検定を行ったところ、いずれも対照と有意な差がないことが分かった。
併せて、区分2と区分3−aをパネルにより評価を行ったところ、区分3−aの方が有意に青臭さが抑制され、コクがある結果となった。
【0051】
【表8】
【0052】
以上より、ブチルイソチオシアネート(Butylisothiocyanate)は、区分1乃至6の範囲において、本発明の効果に寄与していないことが分かった。
【0053】
[試験4:青臭さがコクに与える影響評価]
成分(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)が一定の濃度において、青臭さに関与する成分が増加することによる、香味の持続性に与える影響を評価した。
区分4の、フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の濃度を固定し、青臭さに関与する3成分(B)、(C)、及び(D)を区分1相当の濃度になるまで段階的に引き上げた。具体的には、表9の濃度となるように区分1’〜区分3’及び区分4を調整した。
【0054】
【表9】
【0055】
5人のパネリストによる官能評価により、区分1’〜区分3’及び区分4における香味の持続性評価を行ったところ、区分2’と区分3’の間において、危険率5%として有意な差があることが分かった(検定方法:一元配置分散分析)。そして、区分1’、区分2’に比較して、区分3’、区分4の方が香味の持続性は強い結果となった。
以上より、一定のフェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)の濃度であっても、(B)〜(D)の濃度が高くなるに従い、香味の持続性は低下することが分かった。
【0056】
<まとめ>
以上の試験結果を考慮した結果、(A):フェニルアセトアルデヒド(Phenylacetaldehyde)と、(B):2−ヘキセナール(2−Hexenal)、(C):1−オクテン−3−オン(1−Octene−3−one)、及び(D):ジメチルトリスルフィド(Dimethyltrisulfide)との含有量の関係が、0≦(B)/(A)≦0.00539、≦(C)/(A)≦0.00435、かつ0≦(D)/(A)≦0.290であることで、コクを感じられることがわかった。また、当該アブラナ科野菜含有飲食品のBrixを5.0にしたときの各成分の含有量が、(A):89.0ppb以上であり、(B):0.48ppb以下であり、(C):3.87ppb以下であり、(D):25.83ppb以下であり、(E):0.04ppb以下であることで、コクを感じられることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明が有用な分野は、コクを有する飲食品の製造、及び販売である。好ましくは、コクを有するアブラナ科野菜含有飲食品の製造、及び販売である。