特許第6985824号(P6985824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985824シンチレータプレート、放射線撮像装置およびシンチレータプレートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985824
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】シンチレータプレート、放射線撮像装置およびシンチレータプレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20211213BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20211213BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20211213BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20211213BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G21K4/00 B
   G01T1/20 B
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
   G01T1/202
   C09K11/00 E
   C09K11/61
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-117886(P2017-117886)
(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公開番号】特開2019-2801(P2019-2801A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大池 智之
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−021886(JP,A)
【文献】 特開2016−095189(JP,A)
【文献】 特開2016−085164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
G01T 1/202
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の上に、前記表面と向かい合う第1の面と前記第1の面とは反対の側の第2の面とを有するシンチレータが配されたシンチレータプレートであって、
前記シンチレータは、母材としてハロゲン化アルカリ金属化合物、付活材としてヨウ化タリウム、添加元素として銅および銀のうち少なくとも1つを含む複数の針状結晶を含み、
前記添加元素は、前記第2の面において0.04モル%以上かつ0.5モル%以下の濃度で含まれ、
前記添加元素の濃度が、前記第2の面よりも前記第1の面の方が高く、
前記針状結晶のうち前記表面に平行な面における最も大きい部分の太さが、前記針状結晶のうち前記第1の面から前記第2の面の方向に10μmの高さでの前記表面に平行な面の太さの1倍以上かつ9倍以下であることを特徴とするシンチレータプレート。
【請求項2】
前記針状結晶のうち前記最も大きい部分の太さが、4μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータプレート。
【請求項3】
前記ハロゲン化アルカリ金属化合物が、ヨウ化セシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のシンチレータプレート。
【請求項4】
前記添加元素の濃度が、前記第2の面から前記第1の面に向かって、連続的または段階的に高くなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のシンチレータプレート。
【請求項5】
前記太さが、前記針状結晶の前記表面に平行な面を包含する最小の面積の楕円の長軸の長さであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のシンチレータプレート。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のシンチレータプレートと、
前記シンチレータから発せられた光を受光するためのセンサパネルと、
を含む放射線撮像装置。
【請求項7】
前記シンチレータプレートは、前記センサパネルの受光面の側に前記シンチレータが配され、前記受光面から離れた側に前記基板が配されることを特徴とする請求項6に記載の放射線撮像装置。
【請求項8】
シンチレータプレートの製造方法であって、
ヨウ化セシウムと、ヨウ化タリウムと、前記ヨウ化セシウムに対して0.1重量%以上かつ0.3重量%以下の添加元素材料と、を準備する準備工程と、
基板に前記ヨウ化セシウムと前記ヨウ化タリウムと前記添加元素材料とを蒸着し、シンチレータを形成する蒸着工程と、を含み、
前記添加元素材料は、ヨウ化銅、臭化銅、ヨウ化銀および臭化銀のうち少なくとも1つを含み、
前記蒸着工程において、
蒸着を開始する際の前記基板の温度が、100℃以下であり、
蒸着を終了する際の前記基板の温度が、50℃以上かつ200℃以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記蒸着工程において、蒸着を終了する際の前記基板の温度が、70℃以上かつ150℃以下であることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ヨウ化セシウムと前記添加元素材料とが、予め混合して材料供給源に充填されていることを特徴とする請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記蒸着工程の後、前記シンチレータプレートを200℃以下で熱処理することを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータプレート、放射線撮像装置およびシンチレータプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療画像診断や非破壊検査などで放射線撮影に用いられるフラットパネルディテクタ(FPD)として、被写体を通過した放射線をシンチレータで光に変換し、シンチレータが発した光を受光素子で検出する間接変換方式のFPDがある。放射線を光に変換するシンチレータには、発した光を受光素子に効率よく伝達するために、ヨウ化セシウムなどのハロゲン化アルカリ金属化合物の針状結晶群が、広く用いられている。針状結晶群は、それぞれの針状結晶間に空隙が形成され、結晶と空気の屈折率の違いによって、結晶中で光が全反射を繰り返し、効果的に発した光を受光素子に導波しうる。
【0003】
特許文献1には、シンチレータを蒸着によって形成する際に、シンチレータ材の蒸着源の鉛直上方側に、鉛直軸に対して斜めとなるように基板を設置することによって、形成される針状結晶が細くなりシンチレータの解像度特性が向上することが示されている。特許文献2には、ヨウ化セシウムに対して融点の異なる複数の付活材を含む原材料を用いることによって、シンチレータの発光輝度が向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2013/089015号公報
【特許文献2】特許5407140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シンチレータの解像度を向上し且つ輝度特性を向上するのに有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係るシンチレータプレートは、基板の表面の上に、表面と向かい合う第1の面と前記第1の面とは反対の側の第2の面とを有するシンチレータが配されたシンチレータプレートであって、シンチレータは、母材としてハロゲン化アルカリ金属化合物、賦活剤としてヨウ化タリウム、添加剤として銅および銀のうち少なくとも1つを含む複数の針状結晶を含み、添加材は、第2の面において0.04モル%以上かつ0.5モル%以下の濃度で含まれ、添加材の濃度が、第2の面よりも第1の面の方が高く、針状結晶のうち表面に平行な面における最も大きい部分の太さが、針状結晶のうち第1の面から第2の面の方向に10μmの高さでの表面に平行な面の太さの1倍以上かつ9倍以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記手段によって、シンチレータの解像度を向上し且つ輝度特性を向上するのに有利な技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るシンチレータを形成する装置の構成例を示す図。
図2】本発明の実施形態に係るシンチレータの径の測定方法を示す図。
図3】本発明の実施形態に係るシンチレータの表面の観察像。
図4】本発明の実施形態の比較例のシンチレータの表面の観察像。
図5】本発明の実施形態に係るシンチレータを用いた放射線撮像装置の構成例を示す図。
図6】本発明の実施形態に係るシンチレータの実施例および比較例の特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る放射線撮像装置の具体的な実施形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面において、複数の図面に渡って共通の構成については共通の符号を付している。そのため、複数の図面を相互に参照して共通する構成を説明し、共通の符号を付した構成については適宜説明を省略する。なお、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども含みうる。
【0010】
図1〜6を参照して、本発明の実施形態によるシンチレータプレートおよび放射線撮像装置の構成および製造方法について説明する。図1は、本実施形態におけるシンチレータ101を有するシンチレータプレート100を形成するための成膜装置110の構成例を示す図である。シンチレータプレート100は、図1に示すような、真空排気が可能なチャンバ105の中に、材料供給源103とシンチレータ101を成膜するための基板102とを配す。次いで、基板102の表面108の上に蒸着法などの成膜方法を用いて、シンチレータ101を形成することによって、シンチレータプレート100が形成される。シンチレータ101は、基板102の表面108と向かい合う第1の面106と、第1の面106とは反対の側の第2の面107とを有する。材料供給源103は、後述する複数の蒸着材料104を1つの材料供給源103に入れて蒸着してもよいし、図1に示すように蒸着材料104a〜104cごとに、それぞれ別の材料供給源103a〜103cに入れて蒸着を行ってもよい。
【0011】
本実施形態において、シンチレータ101は、ハロゲン化アルカリ金属化合物を母材としヨウ化タリウムを付活材とした複数の針状結晶を含む。針状結晶を形成可能なハロゲン化アルカリ金属化合物として、例えばヨウ化セシウムや臭化セシウムなどが選択可能である。また、本実施形態において、付活材としてヨウ化タリウムが用いられ、タリウムが、シンチレータ101全体に対して0.2モル%以上かつ3.2モル%以下、含まれることによって、タリウムが発光中心として機能し、十分な発光が得られるようになる。
【0012】
さらに、本実施形態において、シンチレータ101の針状結晶は、銅および銀のうち少なくとも1つの添加元素を含む。添加元素は、シンチレータ101の第2の面107において、0.04モル%以上かつ0.5モル%以下の濃度で含まれる。添加元素は、銅だけであってもよいし、銀だけであってもよいし、銅と銀との両方であってもよい。添加元素をシンチレータ101に添加するための添加元素材料として、銅や銀の単体の金属を用いてもよいし、ヨウ化銅、臭化銅、ヨウ化銀、臭化銀など、銅や銀を含む化合物を用いてもよい。
【0013】
ハロゲン化アルカリ金属化合物、ヨウ化タリウム、添加元素材料のそれぞれの蒸着材料104は、上述のように、それぞれ別の材料供給源103に入れられ、蒸着に用いられてもよい。また、融点の近い材料同士を混合して同じ材料供給源103に入れて蒸着することも可能である。例えば、母材としてヨウ化セシウム(融点621℃)、添加元素材料としてヨウ化銅(融点605℃)を選択した場合、ヨウ化セシウムと添加元素のヨウ化銅とを決められた濃度で混合したものを1つの材料供給源103に入れて蒸着してもよい。また例えば、母材としてヨウ化セシウム(融点621℃)と添加元素材料としてヨウ化銀(融点552℃)とを、決められた濃度で混合したものを1つの材料供給源103に入れて蒸着してもよい。
【0014】
上述のようにハロゲン化アルカリ金属化合物と添加元素材料とを予め混合して蒸着する場合、添加元素材料の融点が母材のハロゲン化アルカリ金属化合物の融点よりも低い。このため、成膜初期は、シンチレータ101に含まれる添加元素の濃度が高く、成膜後期には濃度が低くなる。つまり、添加元素の濃度が、シンチレータ101の第2の面107よりも第1の面106の方が高くなる。結果として、添加元素によってシンチレータ101に光吸収を引き起こす着色が生じた場合でも、次のような放射線撮像装置の構成とすれば、シンチレータ101での発光の減衰を防ぐことができ、センサパネルの側へ光を導きやすくなる。本実施形態におけるシンチレータプレート100を用いた放射線撮像装置の構成を図5に示す。放射線撮像装置500において、シンチレータプレート100は、センサパネル501の受光面502の側にシンチレータ101が配され、受光面502から離れた側に基板102が配される間接型でありうる。シンチレータ101で発光した光を十分に受光面502で得るために、放射線撮像装置500において、シンチレータ101の第2の面107の側の添加元素の濃度を、シンチレータ101に対して0.04モル%以上かつ0.5モル%以下と低く制御する。これによって、添加元素に起因する着色の影響を抑制し、センサパネル501の受光面502で受光する際の効率の低下を抑制することができる。放射線503は、図5に示すように、センサパネル501に対して、シンチレータプレート100の側から入射させてもよいし、シンチレータプレート100とは反対の側から入射させてもよい。
【0015】
また、上述のように、ハロゲン化アルカリ金属化合物と添加元素材料とを予め混合して蒸着する。この場合、シンチレータ101中での添加元素の濃度が、シンチレータ101の第2の面107から第1の面106に向かって、徐々に、連続的に高くなりうる。一方、ハロゲン化アルカリ金属化合物と添加元素材料とを混合せずに蒸着する場合も考えられる。この場合、添加元素の濃度がシンチレータ101の第2の面107の側から第1の面106の側に向かって連続的または段階的に高くなるように、添加元素材料が入る材料供給源103を制御してもよい。例えば、添加元素材料を蒸着材料104として入れた材料供給源103のシャッターの開度や温度などを制御する。これによって、シンチレータ101に含まれる添加元素の濃度を、シンチレータ101の成膜初期の第1の面の側から成膜後期の第2の面の側まで、連続的または段階的に制御することができる。
【0016】
シンチレータ101で発光した光をセンサパネル501に効率良く伝達させるためには、針状結晶のシンチレータ101の基板102と向かい合う第1の面106の側から第2の面107の側への長手方向への導波特性を高めることが重要である。そのために、針状結晶そのものの基板102の表面108に平行な方向の太さ(径)や、膜厚方向における太さ(径)の変化を制御することが重要になってくる。一般的にハロゲン化アルカリ金属化合物であるヨウ化セシウム針状結晶の蒸着工程では、成膜初期に微細な結晶核(初期核)が基板上に形成される。また、基板温度や圧力、成膜レートを適宜選択することで、結晶核は<100>方位に優先的に成長して針状結晶となり、成膜後期(第2の面107の側)には、針状結晶の基板102の表面108に平行な方向の太さがより大きくなる。そのため、シンチレータの分解能を向上するには、針状結晶を微細化し、針状結晶のサイズを抑制することが求められる。シンチレータ101を蒸着によって成膜する際、上述のように、添加元素を供給することで、特に成膜初期の針状結晶の結晶性が向上し、針状結晶の基板102の表面108に平行な方向の太さをより細くすることができると考えられる。一方で、添加元素の濃度をシンチレータ101の第2の面107の側で低くすることによって、添加元素に起因する発光の減衰を抑制できる。
【0017】
また、導波性を高めるため、針状結晶の成膜初期と成膜後期との間で、針状結晶の基板102の表面108に平行な方向の太さの変化が小さいことが必要となる。そこで、針状結晶のうち基板102の表面108に平行な面における最も大きい部分の太さが、針状結晶のうち第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さの1倍以上かつ9倍以下となるようにする。後述する実施例および比較例に示すように、シンチレータ101の基板102の表面108に平行な面の太さの変化(増大率)を上述の範囲に収めることによって、分解能(解像度)と輝度とを両立することが可能となる。また、針状結晶の最も大きい部分の太さは、4μm以下でありうる。針状結晶の最も大きい部分の太さは、例えば、センサパネル501に配される受光素子の大きさよりも小さくてもよい。
【0018】
ここで、シンチレータ101の針状結晶の太さ(径)とは、図2に示すように、シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108に平行な面201を包含する最小の面積の楕円202の長軸204の長さであってもよい。また、シンチレータ101の針状結晶の太さ(径)とは、シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108に平行な面201に外接する円の直径の長さであってもよい。シンチレータ101の針状結晶の太さや太さの変化の評価は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などでシンチレータ101の第2の面107や側面の形状を観察することによって測定可能である。なお、図2において、203は、楕円202の短軸である。
【0019】
図3に添加元素を加えて蒸着した場合のシンチレータ101の表面のSEM像を、図4に添加元素を加えずに蒸着した場合のシンチレータ101の表面のSEM像を、それぞれ示す。添加剤を加えることによって、シンチレータ101の針状結晶の太さが小さくなり、分解能を向上させることができる。また、図3、4中の白線で囲まれる楕円は、図2に示されるような、シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108に平行な面201を包含する最小の面積の楕円202を示す。
【0020】
また、シンチレータ101の分解能の特性の評価は、変調伝達関数(MTF)を測定することによって定量的に比較することができる。シンチレータ101の輝度の特性の評価は、CCD(電荷結合素子)やCMOS(相補型金属酸化膜半導体)など、様々な受光素子やカメラなどの光検出器を用いることで評価可能である。上述したシンチレータ101に含まれる添加元素の濃度などの化学組成は、例えば蛍光X線分析や誘導結合プラズマ分析で評価可能である。シンチレータ101の結晶性は、例えばX線回折分析で評価が可能である。
【0021】
次に、シンチレータ101を蒸着によって成膜する際の基板102の温度について説明する。蒸着時の基板102の温度は、成膜する基板102表面上へ到達した蒸着粒子の表面拡散長の観点から、成膜初期が低温であることが針状結晶の太さ(径)を微細化する上で重要である。後述する実施例および比較例に示すように、蒸着を開始する際の基板温度は、100℃以下であってもよい。さらに、蒸着を開始する際の基板温度は、70℃以下であってもよい。蒸着を行う際の初期の基板102の温度が130℃よりも高くなると、蒸着粒子の表面拡散長が長くなる。このため、初期核同士の間隔が広がり、後述する比較例に示されるように、針状結晶の結晶サイズがシンチレータ101の第2の面107の側で肥大化し、結晶構造が乱れる場合や、針状結晶間の隙間が維持できなくなる場合がある。結果として、十分な分解能特性が得られなくなる。
【0022】
一方、シンチレータ101の針状結晶を成長させる際の基板102の温度が低いと、輝度特性の観点から発光中心となる付活材の活性化が不十分になる可能性がある。例えば、シンチレータ101の針状結晶が成長する際の基板102の温度が40℃以下と低いと、シンチレータ101の針状結晶の幅(径)が極端に微細になり、シンチレータ101の表面積が非常に大きくなる。シンチレータ101の母材であるハロゲン化アルカリ金属化合物は潮解性を示すため、表面積が大きくなると、後述の防湿するための保護膜を用いた保護が不完全となり、シンチレータ101の湿度劣化を防ぐことがより困難となりうる。シンチレータ101の保護が不完全な場合、シンチレータ101の潮解性によって、各々の針状結晶同士が融着し、分解能が低下しうる。
【0023】
したがって、本実施形態において、蒸着によってシンチレータ101を形成する際の基板102温度が、50℃から200℃の間で成膜することで、針状結晶を微細化しつつ、湿度劣化を防ぐことができる。換言すると、蒸着を開始する際の基板温度が、100℃以下であり、蒸着を終了する際の基板温度が、50℃以上かつ200℃以下であってもよい。また、蒸着を終了する際の基板温度が、70℃以上かつ150℃以下であってもよい。また、発光輝度が不十分となる場合、蒸着を開始した後、成膜後期に、針状結晶構造が崩れない程度まで基板102の温度を上昇させ、発光中心となる付活材を活性化することによって、発光輝度を向上させることが可能である。また例えば、蒸着工程の後、成膜装置110内や、成膜装置110からシンチレータ101の形成された基板102を外部装置に移動し、200℃以下で熱処理することで、針状結晶の構造を維持したまま、高い分解能と輝度特性とを維持することが可能である。
【0024】
シンチレータ101は、上述したように潮解性を示すため、シンチレータ101の針状結晶を防湿するための保護膜が、シンチレータ101を覆うように形成される。保護膜として、パリレンやフッ素樹脂、TEOS膜などが用いられうる。これらの保護膜は、スプレー法、塗布法、CVD法などの各種のコーティング法で形成することが可能である。例えば、基板102上にシンチレータ101が形成されたシンチレータプレート100を成膜装置110から取り出した後、直ちにスプレー法を用いて、シンチレータ101を覆うパリレンを用いた保護膜を成膜してもよい。
【0025】
以下、本実施形態の実施例および比較例について説明する。図6は、以下に説明する実施例および比較例におけるシンチレータ101の特性をまとめたものである。先に、比較例から説明する。
【0026】
第1の比較例
本比較例において、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材とし、ヨウ化タリウムを付活材とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、蒸着材料104aとしてヨウ化セシウムを充填した材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0027】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を40℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、837μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、1.7μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、1.2μmであった。上述の結果より、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、約1.4倍であった。ここで、シンチレータ101の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さにおいて、シンチレータ101は、初期核から針状に成長した針状結晶となっていた。また、シンチレータ101の針状結晶の太さは、図2に示すように、シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108に平行な面201を包含する最小の面積の楕円202の長軸204を測定した。以下に説明する各実施例および各比較例においても同様であった。
【0028】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFiber Optic Plate(FOP)を介して密着させ、基板102の側から国際規格の線質RQA5に準じたX線を照射した。このとき得られた輝度値を100とし、後述する各実施例および各比較例と相対比較した。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値として、空間周波数が1mm当たり2ラインペアー(2Lp/mm)に相当する値を、タングステン製のナイフエッジを用いたエッジ法によって求めた。このときのMTF値を100とし、後述する各実施例および各比較例と相対比較した。
【0029】
第2の比較例
本比較例において、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、蒸着材料104aとしてヨウ化セシウムを充填した材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0030】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を130℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、853μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、9.5μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、1.0μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、9.5倍であった。
【0031】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して129であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して89であった。
【0032】
本比較例において、蒸着によってシンチレータ101の成膜を行う際の基板102の温度を、上述の第1の比較例よりも高くしたため、発光中心となる付活材が活性化され、輝度は向上した。しかしながら、結晶成長初期の温度が高かったため、シンチレータ101の第2の面107の側で針状結晶が、基板102の表面108と平行方向に大きく成長した。結果として、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率が9.5倍と9倍よりも大きくなることで、上述の第1の比較例よりも分解能の特性は低下した。
【0033】
第3の比較例
本比較例において、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銅を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.2重量%の添加元素材料としてヨウ化銅(CuI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0034】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を40℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、764μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、0.40μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、0.16μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、2.5倍であった。
【0035】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の基板102と向かい合う第1の面106で2.24モル%、第2の面107で1.22モル%であった。シンチレータ101の第2の面107に含まれる添加元素の濃度よりも、その反対側の面である第1の面106に含まれる添加元素の濃度の方が、高いことがわかった。また、添加元素の濃度は、シンチレータ101の第2の面107から第1の面106に向かって、徐々に高くなっていた。
【0036】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して9.5であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して131であった。
【0037】
本比較例において、添加元素として銅をシンチレータ101に添加することによって、針状結晶の太さを上述の第1および第2の比較例よりも著しく小さくすることができた。このため、分解能は、上述の第1の比較例および第2の比較例よりも向上した。一方、添加元素の濃度が、シンチレータ101の表面の側においても1.22モル%と高く、シンチレータ101が、添加元素によって着色されてしまったため、輝度値は、上述の第1の比較例および第2の比較例よりも著しく低下した。
【0038】
第4の比較例
本比較例において、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銅を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.2重量%の添加元素材料としてヨウ化銅(CuI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0039】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を130℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、556μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、40μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、1.0μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、40倍であった。
【0040】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の第2の面107で0.17モル%であった。
【0041】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して120であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して45であった。
【0042】
本比較例において、蒸着によってシンチレータ101の成膜を行う際の基板102の温度を第3の比較例よりも高くしたため、発光中心となる付活材のタリウムが活性化され、輝度は向上した。しかしながら、結晶成長初期の温度が高かったため、シンチレータ101の第2の面107で針状結晶が、基板102の表面108と平行な方向に大きく成長した。結果として、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率が40倍と大きくなることで、分解能の特性は、著しく低下した。
【0043】
第1の実施例
以下、本実施形態の4つの実施例を説明する。本実施例は、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銅を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.2重量%の添加元素材料としてヨウ化銅(CuI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0044】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を70℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。
【0045】
蒸着によるシンチレータ101の成膜後、シンチレータ101と基板102とを含むシンチレータプレート100を200℃以下で熱処理した。具体的には、成膜装置110内に配置したランプ加熱装置(不図示)で、基板102を150℃に昇温して熱処理を行った。熱処理を行った後、基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却し、基板102を取り出した。シンチレータ101をSEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、795μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、2.1μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、0.30μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、7.0倍であった。
【0046】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の第2の面107で0.28モル%であった。
【0047】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して129であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して133であった。
【0048】
本実施例において、ヨウ化セシウムに対して添加元素として銅を適切な量、添加する。また、蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始する際の基板102の温度、および、蒸着中から蒸着が終了するまでの基板102温度を適切な温度に制御する。また、シンチレータ101の蒸着後に、適切な温度で熱処理を行う。これによって、形成されたシンチレータ101は、高い分解能を有し、また、輝度も向上することがわかった。
【0049】
第2の実施例
本実施例は、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銅を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.2重量%の添加元素材料としてヨウ化銅(CuI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0050】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の温度を70℃、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。
【0051】
蒸着によるシンチレータ101の成膜後、シンチレータ101の成膜された基板102を成膜装置110から取り出し、赤外線アニール炉(不図示)を用いて、窒素雰囲気中にて160℃の熱処理を行った。熱処理を行った後、基板102を室温まで冷却し、基板102を取り出した。シンチレータ101をSEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、777μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、3.5μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、0.40μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、約8.8倍であった。
【0052】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の第2の面107で0.24モル%であった。
【0053】
シンチレータ101の表面をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して155であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して137であった。
【0054】
本実施例においても、上述の第1の実施例と同様に、ヨウ化セシウムに対して添加剤として銅を適切な量、添加する。また、蒸着を開始する際の基板温度、および、蒸着中から蒸着が終了するまでの基板温度を適切な温度に制御する。また、シンチレータ101の蒸着後に、適切な温度で熱処理を行う。これによって、形成されたシンチレータ101は、高い分解能を有し、また、輝度も向上することがわかった。
【0055】
第3の実施例
本実施例は、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銅を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.1重量%の添加元素材料としてヨウ化銅(CuI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0056】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。
【0057】
本実施例において、上述の各実施例および各比較例と異なり、基板102の温度は特に制御していないが、成膜後に基板に張り付けた感熱テープにて確認したところ、到達温度は約150℃であることがわかった。つまり、蒸着を開始する際の基板102の温度は室温だが、蒸着が開始されると、材料供給源103a、103bから基板102に熱が伝わることによって、基板102が150℃まで加熱される。結果として、成膜初期の初期核の形成後、150℃または150℃に近い温度において、シンチレータ101の成膜が行われたと考えられる。ここで、室温とは、10℃以上かつ30℃以下でありうる。また、室温とは15℃以上かつ25℃以下でありうる。また例えば、室温とは300K(27℃)であってもよい。
【0058】
基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、513μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、2.2μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、0.30μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、約7.3倍であった。
【0059】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の第2の面107で0.04モル%であった。
【0060】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られた輝度値は、第1の比較例と比較して143であった。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して135であった。
【0061】
本実施例において、ヨウ化セシウムに対して添加剤として銅を適切な量、添加する。また、蒸着を開始する際の基板102の温度、および、蒸着中から蒸着が終了するまでの基板102温度を適切な温度にする。これによって、形成されたシンチレータ101は、高い分解能を有し、また、輝度も向上することがわかった。
【0062】
第4の実施例
本実施例は、図1に示す成膜装置110を用いて、ヨウ化セシウムを母材、ヨウ化タリウムを付活材、銀を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータを形成したものである。を添加元素とする針状結晶構造のシンチレータ101を形成した。まず、ヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.25重量%の添加元素材料としてヨウ化銀(AgI)と、を混合した蒸着材料を準備し、材料供給源103aに充填した。この材料供給源103a、蒸着材料104bとしてヨウ化タリウムを充填した材料供給源103b、基板102を成膜装置110内に配置した。基板102は、シリコン基板にアルミニウムの反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。材料供給源103a、103bは、それぞれタンタル製の円筒型のものを用いた。
【0063】
成膜装置110内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源103a、103bに電流を徐々に流して加熱した。材料供給源103a、103bが設定温度に達したところで、基板102と材料供給源103a、103bとの間に設けられたシャッター(不図示)を開けることで蒸着によるシンチレータ101の成膜を開始した。このとき、基板102の回転速度は毎分30回転とした。成膜の様子を確認しつつ蒸着材料104a、104bが無くなる前にシャッターを閉じ、シンチレータ101の成膜を終了した。本実施例においても、第3の実施例と同様に基板102の温度は特に制御していない。
【0064】
基板102と材料供給源103a、103bとを室温まで冷却後、基板102を取り出し、SEMで観察すると、針状結晶群の形成が確認できた。得られたシンチレータ101の膜厚は、464μmであった。シンチレータ101の針状結晶の基板102の表面108と平行な面における最も大きい部分の太さは、3.0μmであった。シンチレータ101の針状結晶の成膜初期の第1の面106から第2の面107の方向に10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さは、0.58μmであった。したがって、シンチレータ101の針状結晶の太さの増大率は、約5.2倍であった。
【0065】
蛍光X線分析によって、シンチレータ101を基板102から剥がして、シンチレータ101に含まれる銅の濃度を測定した。銅の濃度は、シンチレータ101の第2の面107で0.42モル%であった。
【0066】
シンチレータ101の第2の面107をCMOS光検出器にFOPを介して密着させ、基板102の側から線質RQA5に準じたX線を照射し、得られたシンチレータの分解能の指標であるMTF値は、第1の比較例と比較して163であった。
【0067】
本実施例において、ヨウ化セシウムに対して添加剤として銀を適切な量、添加する。また、蒸着を開始する際の基板102の温度、および、蒸着中から蒸着が終了するまでの基板102温度を適切な温度にする。これによって、形成されたシンチレータ101は、添加元素に銀を用いた場合であっても、針状結晶の径の微細化が可能で、高い分解能を実現可能であることがわかった。
【0068】
本実施形態および各実施例において、シンチレータ101は、ハロゲン化アルカリ金属化合物であるヨウ化セシウムを母材およびヨウ化タリウムを付活材とした針状結晶によって構成され、銅および銀のうち少なくとも1つの添加元素を含む。このとき、添加元素は、シンチレータ101の第2の面107の側において0.04モル%以上かつ0.5モル%以下の濃度で含まれる。さらに、添加元素の濃度が、シンチレータ101の第2の面107の側よりも第1の面106の側の方が高くなるように、シンチレータ101を形成する。また、シンチレータ101を成膜するための蒸着材料として、ハロゲン化アルカリ金属化合物であるヨウ化セシウムと、ヨウ化セシウムに対して0.1重量%以上かつ0.3重量%以下の添加元素材料と、を混合した蒸着材料を準備する。この蒸着材料を用いてシンチレータ101の成膜を開始する際の基板102の温度を100℃以下にし、蒸着を終了する際の基板102の温度を50℃以上かつ200℃以下にする。上述の各実施例では、蒸着中および蒸着を終了する際の基板102の温度を70℃以上かつ150℃以下とした。これによって、針状結晶の基板102の表面108に平行な面の最も大きい部分の太さが、第1の面106から10μmの高さでの基板102の表面108に平行な面の太さの1倍以上かつ9倍以下になるように、シンチレータ101を成膜する。また、このとき、針状結晶の最も大きい部分の太さは、4μm以下となるようにシンチレータ101を成膜する。結果として、形成されたシンチレータ101は、高い分解能を有し、また、輝度も向上し、分解能(解像度)と輝度とを両立することが可能となる。
【0069】
以上、本発明に係る実施形態および実施例を示したが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されないことはいうまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態および実施例は適宜変更、組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0070】
100:シンチレータプレート、101:シンチレータ、102:基板、106:第1の面、107:第2の面、108:表面
図1
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図6