(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、成形部品の表面上に凹凸を形成することにより、当該成形部品の表面上にいわゆる梨地加工を施すようにした技術が知られている。このように梨地加工を施すより、防眩効果が得られるようになるため、例えば、成形部品の表面の不自然な光沢感を抑制し、落ち着いた質感を得ることが可能となる。
【0003】
このような成形部品の表面加工技術に関し、例えば、下記特許文献1には、半硬化状態のトップコート層と、装飾層と、支持基材層とが積層された熱成形用積層シートを、金型を用いてプレス成形することにより、金型表面の凹凸模様をトップコート層に転写しつつ、トップコート層を熱硬化させる技術が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、被塗物に、塗膜形成樹脂に球形樹脂ビーズが配合されてなるベースコート塗料組成物を、被塗物に塗装することにより、ベースコート塗膜を形成し、当該ベースコート塗膜の上に、塗膜形成樹脂に光輝性を有するフレーク顔料が配合されてなるトップコート塗料組成物を塗装することにより、鋳物の様な質感のある塗膜を形成する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、一実施形態について説明する。
【0011】
(成形部品10の構成)
図1は、一実施形態に係る成形部品10を示す図である。
図1(a)は、成形部品10の外観斜視図である。
図1(b)は、
図1に示す成形部品10のA−A断面図である。
図1に示す成形部品10は、特定の装置の一構成部品(例えば、車両用のリモコンキーの押ボタンのノブ部等)として用いられる部品である。特に、成形部品10は、ユーザによって触れられる部分や、ユーザによって視認される部分に用いられる部品であることが好ましい。
【0012】
図1に示すように、成形部品10は、本体部11と、本体部11の表面にインサート成形されたシート部材12とを備えている。本体部11は、目的の形状に射出成形されるとともに、当該本体部11の表面にシート部材12がインサート成形される。シート部材12は、インサート成形される際に、いわゆる梨地加工が施される。本体部11には、例えば、ABS樹脂、PC/ABS樹脂等の樹脂素材が用いられる。
【0013】
図2は、一実施形態に係るシート部材12の一部拡大断面図である。
図2に示すように、シート部材12は、シート基材120と、シート基材120の表面に形成されたトップコート層110とを有して構成されている。
【0014】
シート基材120は、薄いフィルム状の部材である。シート基材120には、例えば、PMMA(Polymethyl methacrylate)等の樹脂素材が用いられる。但し、これに限らず、シート基材120には、PET(Polyethylene terephthalate)、PC(Polycarbonate)等の樹脂素材を用いることも可能である。
【0015】
トップコート層110は、ベース層112と、ベース層112の表面から一部が露出した複数の球状のビーズ111とを有している。ベース層112においては、複数のビーズ111の隙間に、複数の先鋭状の凹部113が形成されている。このように、ベース層112の表面は、ビーズ111による凸部と凹部113とが形成されていることにより、いわゆる梨地加工が施されたものとなっている。ベース層112には、例えば、紫外線硬化型の樹脂素材(例えば、アクリル樹脂等)が用いられる。ビーズ111には、例えば、比較的硬質な樹脂素材(例えば、アクリル樹脂等)が用いられる。
【0016】
このように、一実施形態に係る成形部品10は、シート部材12のトップコート層110において、ベース層112の表面から複数の球状のビーズ111の各々の一部が露出しており、且つ、ベース層112の表面における複数のビーズ111の隙間に、複数の先鋭状の凹部113が形成されている。これにより、一実施形態に係る成形部品10によれば、複数のビーズ111による複数の凸部と、複数の凹部113とによる、防眩性により優れた梨地加工が表面に施された、成形部品を提供することができる。また、一実施形態に係る成形部品10によれば、ベース層112となる樹脂素材に複数のビーズ111を含有させることによって、1回の印刷工程により、トップコート層110に凸部を形成することができるとともに、トップコート層110の十分な膜厚を確保することができるため、トップコート層110の生成コストを抑制することができる。したがって、一実施形態に係る成形部品10によれば、製造コストを増加させることなく、より好適な表面加工を施すことができる。
【0017】
特に、一実施形態に係る成形部品10は、ベース層112において、複数の凹部113の各々は、当該ベース層112を貫通していない。これにより、一実施形態に係る成形部品10によれば、表面に有害な薬品が付着した場合であっても、薬品が本体部11まで到達することを防ぐことができる。したがって、一実施形態に係る成形部品10によれば、耐薬品性がより高い成形部品10を提供することができる。
【0018】
さらに、一実施形態に係る成形部品10は、複数のビーズ111の各々の直径が、ベース層112の膜厚寸法よりも大きくなっている。これにより、一実施形態に係る成形部品10によれば、複数のビーズ111の各々の一部を、より確実にベース層112の表面から突出させることができる。よって、1回の印刷工程により、トップコート層110の十分な膜厚を確保しつつ、トップコート層110に凸部をより確実に形成することができる。したがって、一実施形態に係る成形部品10によれば、製造コストを増加させることなく、より好適な表面加工を施すことができる。
【0019】
また、一実施形態に係る成形部品10によれば、複数の凹部113に加え、複数のビーズ111によってトップコート層110に凸部を形成したため、金型30からの離型性を高めることができ、これにより、例えば、金型30から成形部品10を取り外す際に、トップコート層110の一部に応力が集中して剥がれてしまう、等の事態の発生を抑制することができる。
【0020】
(成形部品10の製造方法)
図3は、一実施形態に係る成形部品10の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図4および
図5は、一実施形態に係る成形部品10が製造されるまでの過程を概念的に示す図である。
【0021】
まず、シート基材120の表面に、複数のビーズ111が含有された、ベース層112となる液状の樹脂素材(例えば、紫外線硬化型のアクリル樹脂等)を印刷して、ベース層112の表面から複数のビーズ111の各々の一部が露出している状態の、トップコート層110を形成する。これにより、
図4(a)に示すように、シート基材120およびトップコート層110を有するシート部材12を生成する(ステップS301:シート部材生成工程)。ここでは、複数のビーズ111の各々の直径を、ベース層112の膜厚寸法よりも大きくすることにより、一回の印刷で、トップコート層110の十分な膜厚を確保しつつ、ベース層112の表面から複数のビーズ111の各々の一部をより確実に露出させることができる。また、ここでは、トップコート層110のベース層112を、半硬化状態にさせる。これにより、例えば、ベース層112上で複数のビーズ111に流動性をもたせることができ、後のインサート成形工程において、金型30の複数の突起部32を、複数のビーズ111の隙間に、より確実に入り込ませることができる。
【0022】
次に、シート部材12を、3次元形状に加工する(ステップS302:シート部材加工工程)。具体的には、
図4(b)に示すように、フォーミング用の金型20を用いて、シート部材12を、当該金型20の表面に沿った形状に加工する。そして、
図4(c)に示すように、シート部材12の余分な部分(底縁部からはみ出た部分)を切断する。ここで、金型20の表面形状は、成形部品10の本体部11となる形状と略同形状を有している。したがって、シート部材12を、当該金型20の表面に沿った形状に加工することにより、シート部材12が、成形部品10の本体部11となる形状と略同形状に加工されることとなる。
【0023】
次に、成形部品10の本体部11を射出成形するとともに、本体部11の表面にシート部材12をインサート成形する(ステップS303:インサート成形工程)。具体的には、
図5(d)に示すように、金型30のキャビティ31内に、3次元形状に加工されたシート部材12をセットする。そして、
図5(e)に示すように、金型30のキャビティ31内に、溶融した状態の、本体部11となる樹脂素材(例えば、ABS樹脂、PC/ABS樹脂等)を射出する。ここで、キャビティ31の空間形状は、成形部品10の本体部11となる形状の反転形状を有している。したがって、キャビティ31内への樹脂素材の射出により、成形部品10の本体部11が目的の形状に射出成形されるとともに、本体部11の表面にシート部材12がインサート成形されることとなる。また、キャビティ31の内面は、複数の先鋭状の突起部32が形成されており、すなわち、梨地加工が施されている。これにより、シート部材12の表面には、複数の突起部32が押し当てられることによって、複数の先鋭状の凹部113が形成され、すなわち、キャビティ31の内面の梨地模様が転写されることとなる。なお射出成形の際の射出圧力は、本体部11に十分な形状を形成しつつ、シート部材12のビーズ111が押しつぶされない程度(例えば、150MPa)とすることが好ましい。なお、
図5(e)では、金型30(キャビティ31)の一方側が開放された状態で射出成形しているが、実際には、金型30と対を成す金型によってキャビティ31が密閉された状態で、射出成形が行われている。
【0024】
そして、金型30から本体部11を取り出した後、本体部11の表面に紫外線を照射することにより、当該本体部11の表面にインサート成形されたシート部材12のベース層112を硬化させる(ステップS304:硬化工程)。
【0025】
(シート部材12の表面に梨地加工が施される過程)
図6は、一実施形態に係る成形部品10の製造方法(インサート成形工程)における、シート部材12の表面に梨地加工が施されるまでの過程を示す図である。
【0026】
図6(a)に示すように、金型30は、キャビティ31の内面31aに、複数の先鋭状の突起部32が形成されている。そして、本体部11の表面にシート部材12をインサート成形する際に、シート部材12の表面が、射出圧力によってキャビティ31の内面31aに押し当てられる。
【0027】
これにより、
図6(b)に示すように、シート部材12の表面に形成されたトップコート層110において、ベース層112の表面、且つ、複数のビーズ111の隙間に、複数の先鋭状の突起部32が突き刺さる。このとき、トップコート層110の膜厚寸法(すなわち、ビーズ111の直径)は、突起部32の高さ寸法よりも大きくなっている。また、複数のビーズ111は、インサート成形の際の射出圧力によって金型30との間でつぶされない硬度を有している。このため、複数の突起部32は、ベース層112を貫通することなく(すなわち、ベース層112の裏面まで到達することなく)、ベース層112の途中まで突き刺さる。また、ビーズ111と突起部32とが接触した場合には、ベース層112が半硬化状態であるため、ビーズ111が突起部32同士の間に入り込むように移動する。
【0028】
これにより、
図6(c)に示すように、ベース層112の表面、且つ、複数のビーズ111の隙間に、複数の先鋭状の凹部113が形成されることとなる。すなわち、ベース層112の表面は、複数のビーズ111による凸部と、複数の凹部113とが形成されることとなり、防眩性により優れた梨地加工が施されたものとなる。
【0029】
以上説明したように、一実施形態に係る成形部品10の製造方法によれば、複数のビーズ111による複数の凸部と、複数の凹部113とによる、防眩性により優れた梨地加工が表面に施された、成形部品10を製造することができる。
【0030】
(シート部材12の各部の好適な寸法)
図7は、一実施形態に係るシート部材12の各部の好適な寸法を説明するための図である。
【0031】
図7において、ビーズ111の直径Dは、10μm以上14μmであることが好ましい。これにより、例えば、トップコート層110の十分な膜厚寸法を確保しつつ、金型30からの成形部品10のより優れた離型性を得ることができる。
【0032】
また、金型30の突起部32同士の間隔Iは、20μm程度であることが好ましい。また、トップコート層110の表面粗さRz(すなわち、金型30の突起部32の高さ寸法H)は、6μm以上8μm以下であることが好ましい。これらにより、成形部品10の表面に十分な凹凸を形成することができるため、例えば、成形部品10のより優れた防眩性を得ることができる。
【0033】
なお、ビーズ111の硬度は、10%圧縮荷重で1.50kgf/mm
2以上(例えば、1.85kgf/mm
2)であることが好ましく、10%圧縮荷重で2.00kgf/mm
2(例えば、2.50kgf/mm
2)であることがより好ましい。これにより、インサート成形の際にビーズ111がつぶれ難くなり、金型30の突起部32がベース層112を貫通し難くすることができるため、成形部品10のより優れた耐薬品性を得ることができる。すなわち、ビーズ111の硬度は、射出成型の際の射出圧力との関係から、少なくとも、射出成型の際の射出圧力によってつぶれ難くなる硬度とすることが好ましい。
【0034】
(実施例)
図8は、一実施例に係る各成形部品の評価結果を示す図である。本実施例では、以下に示すとおり、実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれの成形部品を製造し、これらの成形部品について、耐薬品性、防眩性、離形性、しぼムラ有無、エッジ部白化有無、およびコストを評価した。
【0035】
<実施例1>
実施例1では、実施形態で説明した製造方法により、実施形態の成形部品10と同様の構成を有する成形部品を製造した。但し、実施例1では、トップコート層に、直径10μmのアクリル樹脂ビーズ(積水化成品工業株式会社製「SSX110」、硬さ:3H)を添加量40wt%として含有させた紫外線硬化型アクリル樹脂を用い、当該トップコート層を1層に印刷した成形部品を製造した。この際、トップコート層の表面粗さRzを8μmとした。また、金型30の突起部32同士の間隔を20μmにした。
【0036】
<比較例1>
比較例1では、シート部材の表面に、トップコート層(ビーズ無、紫外線硬化型アクリル樹脂)を3層に印刷し、当該シート部材を本体部の表面にインサート成形することにより、成形部品を製造した。この際、射出成形時の圧力によって、金型のキャビティの内面にサンドブラスト加工によって形成された凹凸を、トップコート層に転写することにより、成形部品の表面に梨地加工を施した。
【0037】
<比較例2>
比較例2では、シート部材の表面に、トップコート層(ビーズ無、紫外線硬化型アクリル樹脂)を2層に印刷し、当該シート部材を本体部の表面にインサート成形することにより、成形部品を製造した。この際、射出成形時の圧力によって、金型のキャビティの内面にサンドブラスト加工によって形成された凹凸を、トップコート層に転写することにより、成形部品の表面に梨地加工を施した。
【0038】
<評価結果>
図8に示すように、実施例1の成形部品、比較例1,2の成形部品のいずれも、トップコート層によって本体部が覆われているため、良好な耐薬品性が得られた。また、実施例1の成形部品では、比較例1,2の成形部品と比較して、防眩性、離型性、しぼムラ有無、エッジ部白化有無、コストのそれぞれについて、良好な結果が得られた。具体的には、実施例1の成形部品では、比較例1,2の成形部品と比較して、成形部品の表面に十分な凹凸を形成することができたため、より優れた防眩性が得られた。また、実施例1の成形部品では、トップコート層にビーズを含んだことにより、比較例1,2の成形部品と比較して、トップコート層と金型内面との接触面積を軽減することができたため、より優れた離型性が得られた。また、比較例1,2の成形部品では、しぼムラおよびエッジ部白化が見られたが、実施例1の成形部品では、しぼムラおよびエッジ部白化が見られなかった。また、実施例1の成形部品では、比較例1,2の成形部品と比較して、トップコート層の数を最小限(1層)とすることができたため、コスト削減効果が得られた。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態に記載の各種寸法および各種素材は、あくまで一例を示すものであり、これらに限定されるものではない。また、上記実施形態において、キャビティ31に形成されている突起部32(すなわち、シート部材12の表面に形成される凹部113)を先鋭状としているが、これ以外の形状であってもよい。