特許第6985826号(P6985826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985826
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】塗布状態評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20211213BHJP
   G01J 3/46 20060101ALI20211213BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20211213BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G01N21/27 B
   G01J3/46 Z
   A61Q1/02
   A61Q1/12
   A61Q17/04
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-125423(P2017-125423)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-7895(P2019-7895A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】度会 悦子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−033944(JP,A)
【文献】 特開2011−209265(JP,A)
【文献】 特開2007−260246(JP,A)
【文献】 特開2007−229567(JP,A)
【文献】 特開2016−070847(JP,A)
【文献】 特開2006−290745(JP,A)
【文献】 特開2008−212189(JP,A)
【文献】 特開2008−245843(JP,A)
【文献】 特開2017−063904(JP,A)
【文献】 特表2009−509708(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01768060(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
A61K 8/00−A61K 8/99,
A61Q 1/00−A61Q 90/00,
G01J 3/00−G01J 4/04,
G01J 7/00−G01J 9/04,
G01N 21/00−G01N 21/01,
G01N 21/17−G01N 21/61,
G01N 21/84−G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剤の塗布状態を評価する塗布状態評価方法であって、
剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、前記被塗布面の前記第一状態とは異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報との比率を示す反射光比率情報を生成する工程と、
前記第二状態の前記被塗布面の撮像画像の輝度に係る輝度情報を生成する工程と、
を含み、
前記第一情報および前記第二情報は、予め定められた530nm以上630nm以下の中長波領域の波長の光反射に係る情報であって、
当該波長は、前記被塗布面の分光反射率の曲線が緩やかな傾斜から急峻な傾斜に変わり下に凸にカーブする部位における波長であることを特徴とする、塗布状態評価方法。
【請求項2】
前記輝度情報は、前記撮像画像の輝度の分散の度合いを示す、請求項1に記載の塗布状態評価方法。
【請求項3】
前記反射光比率情報は、前記被塗布面の第一状態の光反射率と前記被塗布面の第二状態の光反射率との比であり、前記輝度情報は前記撮像画像の輝度の分散の度合いを示し、
前記反射光比率情報を、光反射率の比の値に応じて第一反射率範囲と第二反射率範囲とに分割し、前記輝度情報を前記輝度の分散の度合いに応じて第一分散範囲と第二分散範囲とに分割し、前記第一反射率範囲、第二反射率範囲、前記第一分散範囲及び前記第二分散範囲の組み合わせにより前記被塗布面の前記第二状態を複数のグループのうちのいずれかに分類する分類工程をさらに含む、請求項1に記載の塗布状態評価方法。
【請求項4】
前記被塗布面の第二状態と、他の前記被塗布面の第二状態との相違を、前記反射光比率情報及び前記輝度情報を軸とするベクトルによって示す、請求項1または2に記載の塗布状態評価方法。
【請求項5】
前記被塗布面の第二状態の前記反射光比率情報及び前記輝度情報を他の前記被塗布面の第二状態の前記反射光比率情報及び前記輝度情報に近づけることに対応する剤を選択する工程を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の塗布状態評価方法。
【請求項6】
剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、前記被塗布面の前記第一状態と異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報と、を取得する光反射情報取得部と、
前記第二状態の前記被塗布面の撮像画像を取得する輝度情報取得部と、
前記第一情報と前記第二情報との比率及び前記撮像画像の輝度に係る輝度情報に基づいて、前記剤の塗布状態を評価する評価制御部と、を備え、
前記第一情報および前記第二情報は、予め定められた530nm以上630nm以下の中長波領域の波長の光反射に係る情報であって、
当該波長は、前記被塗布面の分光反射率の曲線が緩やかな傾斜から急峻な傾斜に変わり下に凸にカーブする部位における波長であることを特徴とする、塗布状態評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剤の塗布状態を評価する塗布状態評価方法及び、この塗布状態評価方法に使用される塗布状態評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化粧品等の剤を皮膚に塗布した状態を評価することが剤の開発の現場等で要求されている。このような剤の評価方法として公知のものは、例えば、特許文献1から特許文献3に記載されている。特許文献1に記載の化粧料評価方法では、皮膚のレプリカ表面に剤(化粧料)を塗布し、剤が塗布されたレプリカ表面を撮像し、撮像画像から輝度値を抽出している。そして、輝度値と、粉っぽさやむら付きのし易さといった官能検査の結果とを対応させている。また、特許文献2には、剤をレプリカに塗布し、塗布膜の表面粗さと光沢測定器による光沢の測定及び官能検査の結果とを対応付けることが記載されている。さらに、特許文献3には、被験者の皮膚に剤を塗布し、撮像して輝度値を測定することが記載されている。特許文献3に記載の発明では、測定された輝度値のヒストグラムを作成し、ヒストグラムの歪みから皮膚状態の経時変化を観測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−290745号公報
【特許文献2】特開2000−063239号公報
【特許文献3】特開2009−134372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の発明は、いずれもレプリカの表面に剤を塗布して剤の評価を行っている。このような評価は、粉っぽさやむら付きのし易さといった剤の特性を評価するものである。被験者の皮膚の色にはばらつきが大きく、また、剤の塗布の仕方も被験者によって相違する。このため、剤を塗布した状態の被験者の皮膚の「見え方」を評価することについては、さらなる改善が求められていた。
また、特許文献3には、ヒストグラムの歪み度の変化から化粧崩れの程度を判定することが記載されている。ただし、特許文献3に記載の発明は、化粧直後と時間経過後とで剤の広がりの変化を検出するものである。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、皮膚に塗布された剤の状態が皮膚の見え方に及ぼす影響を評価することができる、塗布状態評価方法及び塗布状態評価システムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の塗布状態評価方法の一態様は、剤の塗布状態を評価する塗布状態評価方法に関するものであり、剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、前記被塗布面の前記第一状態と異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報との比率を示す反射光比率情報を生成する工程と、前記第二状態の前記被塗布面の撮像画像の輝度に係る輝度情報を生成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0006】
皮膚の見え方に対する皮膚に塗布された剤の状態の影響を評価することができる、塗布状態評価方法及び塗布状態評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態の塗布状態の評価方法の各工程を示したフローチャートである。
図2図1のステップS101に示した反射率測定工程を説明するための図である。
図3図2に示した素肌の反射率曲線とパウダーファンデーション反射率曲線との比を示す反射光比率情報の曲線を示した図である。
図4】本発明の一実施形態の分類工程を説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態のn個のデータをプロットする処理を説明するためのフローチャートである。
図6図2に示した小領域の観察の結果を輝度値及び反射光比率と対応付けて示した図である。
図7】本発明の一実施形態の塗布状態評価システムの外観を示す図である。
図8図7に示したPC内部の評価制御部を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
[塗布状態評価方法]
本実施形態の塗布状態評価方法は、剤の塗布状態を評価する塗布状態評価方法であって、剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、この被塗布面の第一状態と異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報との比率を示す反射光比率情報を生成する工程と、第二状態の被塗布面の撮像画像の輝度に係る輝度情報を生成する工程と、を含んでいる。
ここで、「剤」とは、人間の皮膚に塗布されて皮膚上に残り、皮膚の見え方に影響するものであればどのようなものであってもよい。このような剤としては、例えば、固体や液体のファンデーションクリームやサンスクリーン剤(日焼止め)がある。「剤の塗布状態」とは、例えば皮膚上における剤の分散状態や塗布厚をいう。
また、本実施形態では、上記第一状態にある被塗布面と第二状態にある被塗布面とを同一の面とする。このため、第一状態にある面が面全体の一部である場合、反射光情報を生成する工程では、面全体のうち第一状態にあった部分と同一の部分が第二状態にあるときの第二情報を第一情報と比較し、その比率を算出する。
【0009】
ただし、本実施形態は、このような構成に限定されるものではない。例えば、本実施形態でいう剤は、ファンデーション等の顔全体に塗布されるものに限定されるものでなく、チーク、アイシャドー及びコンシーラーといったポイントメークに使用される化粧剤であってもよい。さらに、化粧下地等、ファンデーションと共に使用される剤であってもよい。
また、剤の塗布状態は、カメラ等のイメージングデバイスを備える構成により状態の直接または間接的な観察が可能であればどのような状態であってもよい。また、「観察が可能」とは、イメージングデバイスの現状の解像度等の性能によって制限されるものでなく、理論的に観察可能なものであればよい。
【0010】
図1は、上記塗布状態の評価方法の各工程を示したフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の塗布状態評価方法は、反射率測定工程(S101)、反射光比率情報生成工程(S102)、画像情報作成工程(S103)、輝度情報生成工程(S104)を含んでいる。以下、図1に示した上記各工程を順に説明する。
(反射率測定工程)
図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、図1のステップS101に示した反射率測定工程を説明するための図である。図2(a)は、剤が塗布される被塗布面である小領域Aを示した図である。小領域Aとしては、反射光を測定した被験者の顔の一部であって、剤の塗布状態の観察の外乱になり得るシワやシミ等の少ない部位が好ましい。
【0011】
図2(b)、図2(c)は、いずれも本実施形態の第一状態の光反射に係る第一情報と、小領域Aの第二状態の光反射に係る第二情報とを示した図である。ただし、図2(b)及び図2(c)は、それぞれ異なる被験者のものである。図2(b)、図2(c)の縦軸はいずれも光反射に係る情報であって、本実施形態では光の反射率である。横軸は光の波長であり、縦軸の反射率が分光反射率であって、光の波長成分ごとの反射率である。図2(a)、図2(b)では横軸の波長を凡そ430nm以上、510nm未満の範囲の短波長領域と、凡そ510nm以上、710以下の範囲の中長波領域とに分けている。本実施形態では、第一情報及び第二情報を、予め定められた510nm以上、710以下の範囲の中長波領域の波長の光の反射率とした。
【0012】
また、第一情報及び第二情報は、上記したように、反射光に係る情報を反射率に限定するものではなく、例えば、反射光の強度そのものであってもよい。さらに、第一情報及び第二情報は、表面反射、内部反射及び全光反射のいずれを用いるものであってもよい。
また、本実施形態は、反射率の測定に関し、所定の範囲の連続する波長を全て走査するものに限定されず、複数の波長の反射光を不連続に測定するものであってもよい。
【0013】
本実施形態の第一状態とは、剤が塗布されていない状態をいう。第一情報は、小領域Aが素肌であるときの光反射に係る情報であり、図2(b)、図2(c)においては破線で示されている。また、本実施形態の第二状態とは、第一情報を取得した小領域Aと同一の小領域Aの第一状態と異なる状態である。異なる状態とは、例えば、第一状態が素肌であるのに対し、第二状態は剤が塗布されている状態をいう。このような例では、第二情報は、小領域Aにパウダーファンデーション(PFD)が塗布されているときの光反射に係る情報であり、図2(b)、図2(c)においては実線で示されている。
なお、本実施形態の第一状態は、剤が塗布されていない状態に限定されるものではない。例えば、第一状態を剤が塗布された直後の状態、第二状態を剤が塗布されて時間が経過した状態としてもよい。このようにすれば、皮膚に塗布された剤の経時による状態の変化を評価することができる。
さらに、本実施形態の第一状態は、パウダーファンデーションが塗布された状態であり、第二状態を第一状態において塗布されたパウダーファンデーション上にチーク等のポイントメークを施した状態であってもよい。
【0014】
パウダーファンデーションは、粉体を含む固形のファンデーションであって、顔料、紫外線散乱剤、増粘剤、エモリエント剤、ベース成分、保湿剤、肌荒れ防止剤及び精油等を含んでいる。粉体としては、例えば、ヒドロキシアパタイト、アクリレーツクロスポリマー、シリカ及び(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー等がある。顔料としては、例えば、タルク、マイカ、酸化チタン、合成金雲母、酸化亜鉛及び酸化(Li/K/チタン)等があり、このうち酸化チタン及び合成金雲母は紫外線散乱剤としても機能する。また、増粘剤としては、例えばポリメタクリル酸メチルが使用できる。エモリエント剤としては、例えばジメチコン、トリエチルヘキサノイン、ハイドロゲンジメチコン、トリメチルシロキシケイ酸、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、トコフェロール及びホホバエステル等がある。ベース成分としては、例えばセバシン酸イソステアリル、水酸化Al、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、ポリメチルシルセスキオキサン、トリエトキシカプリリルシラン、フルオロ(C9−15)アルコールリン酸及びジミリスチン酸Al等がある。保湿剤や肌荒れ防止剤としては、例えば、パンテノール、ヒドロキシプロリン、ポリクオタニウム−61及びヒアルロン酸Na等がある。精油としては、例えば、ビサボロール等がある。
【0015】
被験者(以下、「被験者α」とする)の小領域Aにおいて測定された反射率を示す図2(b)の曲線(以下、「反射率曲線」と記す)は、小領域Aが素肌の状態にあっても、パウダーファンデーションが塗布された状態にあっても短波長領域で比較的緩やかな傾きを持って上昇し、530nmと630nmとの間で傾斜が緩やかになり、その後急峻な角度を持って上昇している。このため、反射率曲線は、傾きが変わる箇所において下方に向かって僅かにカーブする部位(カーブ部)を有するようになる。このような反射率の特性は、図2(c)に示した被験者(以下、「被験者β」とする)の小領域Aにおいて測定された反射率においても同様である。
ただし、反射率曲線の具体的な形状は、小領域Aの色が被験者αと被験者βとの間で相違している。この点は、被験者αと被験者βとの間で小領域Aの色が相違するために生じるものである。つまり、日本人の皮膚の色はメラニン、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビン等によって決まる。短波長領域の反射率曲線は皮膚の青みがかった成分の量を示し、中・長波長領域の反射率曲線は皮膚の赤みがかった成分の量を示す。
【0016】
図2(b)の反射率曲線と図2(c)の反射率曲線とを比較すると、図2(b)に示した反射率曲線は、カーブ部において、図2(c)に示した反射率曲線よりもパウダーファンデーション塗布の前後で形状の変化が少ないことが分かる。この点は、被験者αは被験者βに比べてパウダーファンデーションの塗布(化粧)による顔色の印象の変化が少ないことを示している。このような化粧は、自然な仕上りの化粧等とも称されて好ましい化粧の一つの基準となっている。なお、化粧として好ましい基準は、自然な仕上りに限定されるものではない。例えば、目標とする反射率を好ましい基準としてもよいし、舞台化粧のように比較的遠距離から顔の造作がはっきり見える化粧を好ましい基準としてもよい。
【0017】
(反射光比率情報生成工程)
次に、図1のステップS102に示した反射光比率情報生成工程を説明する。
図3(a)は、図2(a)に示した被験者αの素肌の反射率曲線とパウダーファンデーション塗布時の反射率曲線との比を示す反射光比率情報の曲線(反射光比率情報曲線)を示した図である。図3(b)は、図2(b)に示した被験者βの素肌の反射率曲線とパウダーファンデーション塗布時の反射率曲線との反射光比率情報曲線を示した図である。図3(a)、図3(b)では、素肌の反射率曲線を破線で示し、パウダーファンデーションの反射率曲線を実線で示している。このとき、図3(a)、図3(b)では、パウダーファンデーションを塗布した小領域Aの反射率/素肌の小領域Aの反射率として反射率の比を求めたので、素肌の小領域Aの反射光比率(素肌の反射率/素肌の反射率)は常に1.0である。
このようにすることにより、本実施形態は、被験者α、被験者βの皮膚の色の相違の影響を反射率にかかる情報から排除し、パウダーファンデーション塗布による影響を抽出することができる。
【0018】
(画像情報作成工程)
次に、図1のステップS103に示した画像情報作成工程を説明する。画像情報の作成は、小領域Aを撮像して小領域Aの撮像画像を作成することによって行われる。小領域Aの撮像は、比較的高解像度のカメラを使用して行われる。このようなカメラとしては、後述するように、所謂ハイパースペクトルカメラを使用することが好ましい。
【0019】
(輝度情報生成工程)
次に、図1のステップS104に示した輝度情報生成工程を説明する。輝度情報生成工程は、パウダーファンデーションを塗布した状態(第二状態)の小領域Aの撮像画像の輝度に係る輝度情報を生成する工程である。ここで、「パウダーファンデーションを塗布した状態の小領域A」は、図1のステップS101においてパウダーファンデーション塗布後に反射率を測定した小領域Aと同一である。
輝度情報は、撮像画像の輝度の分散の度合いを示す情報であり、本実施形態では、輝度の標準偏差を用いている。本実施形態では、小領域Aの撮像画像を二値化する、あるいは撮像画像の「G」成分を抽出して輝度の標準偏差を求める。標準偏差の大小は輝度の分散の度合いを示し、標準偏差が大きいほうがパウダーファンデーションに凝集が生じ、標準偏差が小さいほうが、パウダーファンデーションが一様に塗布されていることを表している。
本実施形態は、以上説明したように、パウダーファンデーションの塗布の前後で反射率をそれぞれ測定し、反射率の比をとって被験者の皮膚を評価している。また、反射率の比をパウダーファンデーションの分散の度合いと対応つけているから、被験者の皮膚の色味によらずパウダーファンデーションによる皮膚の見え方の変化と皮膚に塗布された剤の状態との関係を評価することができる。このような本実施形態は、皮膚の見え方に対する皮膚に塗布された剤の状態の影響を評価することができるものといえる。
【0020】
また、本実施形態は、上記のようにして得られた反射光比率情報と輝度情報との関係を直感的に理解し易くするために、被験者のパウダーファンデーション塗布後の状態(第二状態)を分類する工程を含むことが好ましい。以下、このような分類工程を説明する。
本実施形態の分類工程は、反射光比率情報を、光の反射率の比の値に応じて第一反射光比率範囲と第二反射光比率範囲とに分割する。また、輝度情報である標準偏差を値(輝度の分散の度合い)に応じて第一分散範囲と第二分散範囲とに分割する。そして、第一反射率範囲、第二反射率範囲、第一分散範囲及び第二分散範囲の組み合わせにより被塗布面である小領域Aのパウダーファンデーション塗布後の状態を複数のグループのうちのいずれかに分類する工程である。
図4は、上記分類工程を説明するための図である。図4の縦軸の「輝度値」は小領域Aの撮像画像の輝度の標準偏差を示し、横軸は小領域Aにおけるパウダーファンデーションの塗布の前後の反射光比率を示している。すなわち、横軸の値は図3に示した反射率曲線の縦軸の値であるが、図4の横軸は図3の縦軸の値から「1」を減じて示している。
また、図4においては、一定の輝度値を示す軸Hと、一定の反射光比率を示す軸Vとが示されている。軸H及び軸Vは、それぞれ輝度値及び反射光比率が「好ましい」と判断される閾値を示している。このような閾値は、評価者が任意に設定する値であってもよいし、予め専門評価者による官能評価等により求めるものであってもよい。軸H及び軸Vによって区切られることにより、図4に示した輝度値及び反射光の比率の範囲が第一象限I、第二象限II、第三象限III及び第四象限IVの4つに区切られる。
【0021】
本実施形態では、複数の被験者に対して小領域Aの反射光比率と輝度値とを求める。そして、各小領域Aについて例えば縦軸に輝度値を、横軸に反射光比率をとってプロットする。このようにすることにより、プロットは、図4に示した第一象限から第四象限のいずれかに記されることになる。同じ象限に属する複数のプロットを、本実施形態では「グループ」とする。
【0022】
図5は、n個のデータをプロットする処理を説明するためのフローチャートである。図5に示すように、本実施形態では、先ずnに「1」を設定する(ステップS105)。そして、n番目のデータを図4に示したグラフ中にプロットする(ステップS106)。なお、ここでいう「プロット」は、グラフ中に表示するものであってもよいし、プロットの座標を決定するものであってもよい。次に、nを1つカウントアップし(ステップS107)、カウントアップ後のnがデータの最大数nmaxに達したか否かを判定する(ステップS108)。判定の結果、nが最大数nmax以下である場合(ステップS108:No)、再度n番目のデータをプロットする(ステップS106)。また、nが最大数nmaxより大きい場合(ステップS108:Yes)、全てのデータについてプロットが終了したとして処理を終了する。
【0023】
図4によれば、第一象限のグループにはプロットd1が属し、第二象限のグループにはプロットd3、d4が属している。また、第三象限のグループにはプロットd5が属し、第四象限のグループにはプロットd2が属している。プロットd1のデータを得た被験者は、輝度値が低いことからパウダーファンデーションが分散して塗布されており、反射光比率が小さいことからパウダーファンデーションの塗布による肌色の変化が比較的小さい。このような被験者は、本実施形態において、輝度値及び反射光比率の両方が好ましいと評価される。
【0024】
本実施形態は、図4に示したプロットd1からプロットd5を得た被験者の小領域Aを、マイクロスコープを使って観察し、その状態とプロットd1からプロットd5とを対応付けた。観察の結果、反射光比率が大きい被験者の小領域Aにおいては、パウダーファンデーションがプロットd1を得た被験者よりも厚く塗布されていることが分かった。また、輝度値が大きい被験者の小領域Aにおいては、プロットd1を得た被験者よりもパウダーファンデーションの凝集が多く見られることが分かった。
図6は、小領域Aの観察の結果を輝度値及び反射光比率と対応付けて示した図である。図示するように、第一象限Iのグループに属するプロットd1を得た被験者の小領域Aは、皮膚上にパウダーファンデーションfが均一に塗布された状態になっている。また、第二象限IIのグループに属するプロットd3、d4を得た被験者の小領域Aは、皮膚の皮丘上にパウダーファンデーションfがプロットd1の状態よりも厚く、不均一に塗布された状態になっている。第三象限IIIのグループに属するプロットd5を得た被験者の小領域Aでは、皮膚の皮丘上にパウダーファンデーションfが厚く、加えて毛穴等へ凝集して塗布された状態になっている。さらに、第四象限IVのグループに属するプロットd2を得た被験者の小領域Aでは、パウダーファンデーションfは薄く均一に塗布されているものの、毛穴等へ凝集した状態になっている。
【0025】
また、本実施形態では、このような観察の結果と対照し、以下の知見を得た。
(i)多くの被験者は、パウダーファンデーションfの塗布量に応じて皮膚の色が変化する。
(ii)パウダーファンデーションfの塗布厚が比較的少ないにも関わらず顔色が変化し、かつ塗布量をそれ以上増しても顔色が変化しない被験者は、パウダーファンデーションの塗布量が少なくても毛穴にパウダーファンデーションの凝集が生じている。
(iii)パウダーファンデーションfの塗布量が少ない場合には皮膚の色の変化は小さいが、塗布量が増加すると皮膚の色が大きく変化する被験者は、塗布量の増加に連れて毛穴に凝集が生じるようになる。
(iv)パウダーファンデーションfの塗布量が増加しても皮膚の色の変化が小さい被験者は、パウダーファンデーションfの塗布厚が厚くなってもパウダーファンデーションfが皮膚上で分散している。
【0026】
なお、本実施形態は、上記したように、輝度値(輝度の標準偏差)と反射光比率とを二軸とするグラフ上にプロットを記して小領域Aの状態を示すことに限定されるものではない。例えば、本実施形態は、小領域Aの素肌の状態とパウダーファンデーション塗布後の状態との相違を、反射光比率及び輝度の標準偏差を軸とするベクトルによって示すようにしてもよい。
具体的には、本実施形態は、例えば、反射光比率及び輝度の標準偏差を二軸とするベクトル空間上に、素肌における小領域Aの座標(反射光比率は1である)を始点とし、パウダーファンデーション塗布後における小領域Aの座標を終点とするベクトルによって小領域Aの状態を表すことができる。このようなベクトルによれば、その角度がパウダーファンデーションの塗布厚及び凝集の傾向を示し、長さ(内積)がその程度を示すことになる。
【0027】
また、本実施形態は、被塗布面のパウダーファンデーション塗布後の反射光比率(反射光比率情報)及び輝度の標準偏差(輝度情報)を、パウダーファンデーション塗布後の他の小領域Aの反射光比率及び輝度の標準偏差に近づけることに対応する剤を選択する工程をさらに含むことが好ましい。
上記記載において、「他の小領域A」とは、他の被験者の小領域Aをいう。つまり、本実施形態は、例えば、図4に示した第三象限IIIのグループに分類されたプロットの反射光比率及び輝度の標準偏差を、第一象限Iのグループに分類されたプロットの反射光比率及び輝度の標準偏差に近づけるのに好適な剤を選択することができる。
【0028】
より具体的には、例えば、図4に示した第三象限IIIのグループに分類されたプロットに対応する被験者が、第一象限Iのグループに分類されたプロットを目標とする場合を考える。第三象限IIIのグループから第一象限Iのグループを目標にする場合には、小領域Aの反射光比率を小さくし、輝度の標準偏差を低減しなければならない。このため、第三象限IIIのグループから第一象限Iのグループ剤に向かうケースには、伸び性及びカバー力を共に重視したパウダーファンデーション、あるいはパウダーファンデーションと共に使用する化粧下地等が予め対応付けられている。
また、図4に示した第二象限IIのグループに分類されたプロットに対応する被験者が、第一象限Iのグループに分類されたプロットを目標とする場合を考える。第二象限IIのグループから第一象限Iのグループを目標にする場合には、小領域Aの反射光比率を小さくしなければならない。このため、第二象限IIのグループから第一象限Iのグループ剤に向かうケースには、カバー力よりも伸び性を重視したパウダーファンデーションが予め対応付けられている。
さらに、図4に示した第四象限IVのグループに分類されたプロットに対応する被験者が、第一象限Iのグループに分類されたプロットを目標とする場合を考える。第四象限IVのグループから第一象限Iのグループを目標にする場合には、小領域Aの輝度の標準偏差を小さくしなければならない。このため、第四象限IVのグループから第一象限Iのグループ剤に向かうケースには、伸び性よりもカバー力を重視したパウダーファンデーションや皮膚の毛穴等の凹凸を平滑にする化粧下地等が予め対応付けられている。
【0029】
上記工程によれば、塗布状態の評価者は、被験者のプロットが属するグループを判定し、このグループに応じて予め対応付けられているパウダーファンデーション等を選択して被験者に勧めることができる。このような工程は、例えば、現状のプロットのグループと目的とするプロットのグループとに応じて適正な剤を記録する、データベース等を利用することによって実現できる。
【0030】
(塗布状態評価システム)
次に、以上説明した塗布状態評価方法に使用される塗布状態評価システムを説明する。図1図5のフローチャートに示した処理は、塗布状態評価システムによって行われる。
図7図8は、本実施形態の塗布状態評価システムを説明するための図である。図7は、塗布状態評価システムの外観を示す図であって、図8図7に示したパーソナルコンピュータ(Personal Computer、以下「PC」)3の内部の評価制御部である制御部60を説明するためのブロック図である。
本実施形態の塗布状態評価システムは、剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、この被塗布面の第一状態と異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報と、を取得する光反射情報取得部である分光カメラ1と、第二状態の被塗布面の撮像画像を取得する輝度情報取得部と、第一情報と第二情報との比率及び撮像画像の輝度に係る輝度情報に基づいて、剤の塗布状態を評価する評価制御部と、として機能するPC3と、を備えている。PC3は、ユーザインターフェース32、表示部31及び図8に示した制御部60を備えている。
また、塗布状態評価システムにおいても、被塗布面を図2に示した小領域A、第一状態を素肌の状態、第二状態をパウダーファンデーション塗布後の状態、第一情報及び第二情報を反射光、輝度情報を輝度の標準偏差として説明する。
【0031】
分光カメラ1は、所謂ハイパースペクトルセンサー・イメージ分光カメラである。分光カメラ1は、素肌状態の小領域Aを撮像すると共に反射光を取得する。そして、撮像された画像の情報及び反射光の値を画像情報PとしてPC3の入力インターフェース61に入力する。制御部60は、反射光比率情報生成部63及び輝度情報生成部65を備えている。反射光比率情報生成部63は、画像情報Pから反射光を抽出し、パウダーファンデーション塗布後の小領域Aの反射率を素肌の小領域Aの反射率で除算し、反射光の比率を反射光比率情報として生成する。また、輝度情報生成部65は、画像情報Pの撮像画像からパウダーファンデーション塗布後の小領域Aの輝度の標準偏差を輝度情報として生成する。
制御部60において生成された反射光比率及び輝度情報は、PC3の汎用的なプログラムによってグラフ化され、グラフの画像情報が図示しないメモリに展開される。展開されたグラフの画像情報は、表示部31に出力される。なお、表示部31は、ディスプレイ画面と、ディスプレイ画面に画像を表示するドライバとを含む概念である。
【0032】
以上説明した本実施形態によれば、素肌と剤の塗布後においてそれぞれ光の反射率を測定し、さらに反射率の比をとって輝度の分散の度合いとの関係を評価している。このため、本実施形態は、被験者の皮膚に剤を塗布しても被験者の顔色によらず剤を塗布したことによる顔色や質感への影響だけを評価することができる。このような本実施形態は、皮膚の見え方に対する皮膚に塗布された剤の状態の影響を評価することができる、塗布状態評価方法及び塗布状態評価システムを提供することができる。
なお、本発明の実施形態は、皮膚の状態を剤の塗布前と塗布後で比較して評価することに限定されるものではない。例えば、本実施形態は、皮膚の状態を剤の塗布直後と塗布後時間が経過した状態とで比較して評価することもできる。このような評価によれば、本実施形態により化粧崩れの状態を評価することが可能になる。
【0033】
また、本実施形態は、分光カメラ1を使用する構成に限定されるものではない。例えば、本実施形態は、小領域Aに画像を撮像するカメラと、反射光を測定する測定器を別々に備えるものであってもよい。ただし、本実施形態のように分光カメラ1を使って小領域Aの画像と反射光とを同時に測定すると、画像と反射光を正確に確実に小領域Aにおいて測定することができるので、反射光比率情報と輝度情報とを正確に対応付けることができる。
また、本実施形態は、分光カメラに代えて分光機能のないカメラに例えばR、G、Bの色に対応するフィルタを設けて反射光を波長ごとに分光してもよい。このようにすれば、分光カメラよりも安価なカメラを使って本実施形態の塗布状態評価システムを構築することができる。
さらに、本実施形態は、反射光比率情報と輝度情報の両方を測定器によって測定することに限定されるものではない。例えば、反射光比率情報については測定器を使って測定した反射光の比率を用い、画素情報としての輝度の分散の度合いについては専門評価者による官能観察の結果を用いるものであってもよい。
【0034】
上記実施形態および実施例は以下の技術思想を包含するものである。
<1> 剤の塗布状態を評価する塗布状態評価方法であって、剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、前記被塗布面の前記第一状態とは異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報との比率を示す反射光比率情報を生成する工程と、前記第二状態の前記被塗布面の撮像画像の輝度に係る輝度情報を生成する工程と、を含むことを特徴とする、塗布状態評価方法。
<2> 前記第一情報及び前記第二情報は、予め定められた範囲の波長の光の反射率である、<1>の塗布状態評価方法。
<3> 前記輝度情報は、前記撮像画像の輝度の分散の度合いを示す、<1>または<2>の塗布状態評価方法。
<4> 前記反射光比率情報は、前記被塗布面の第一状態の光反射率と前記被塗布面の第二状態の光反射率との比であり、前記輝度情報は前記撮像画像の輝度の分散の度合いを示し、前記反射光比率情報を、光反射率の比の値に応じて第一反射率範囲と第二反射率範囲とに分割し、前記輝度情報を前記輝度の分散の度合いに応じて第一分散範囲と第二分散範囲とに分割し、前記第一反射率範囲、第二反射率範囲、前記第一分散範囲及び前記第二分散範囲の組み合わせにより前記被塗布面の前記第二状態を複数のグループのうちのいずれかに分類する分類工程をさらに含む、<1>の塗布状態評価方法。
<5> 前記被塗布面の第二状態と、他の前記被塗布面の第二状態との相違を、前記反射光比率情報及び前記輝度情報を軸とするベクトルによって示す、<1>から<3>のいずれか一つの塗布状態評価方法。
<6> 前記被塗布面の第二状態の前記反射光比率情報及び前記輝度情報を他の前記被塗布面の第二状態の前記反射光比率情報及び前記輝度情報に近づけることに対応する剤を選択する工程を含む、<1>から<5>のいずれか一つの塗布状態評価方法。
<7> 剤が塗布される被塗布面の第一状態の光反射に係る第一情報と、前記被塗布面の前記第一状態と異なる状態である第二状態の光反射に係る第二情報と、を取得する光反射情報取得部と、前記第二状態の前記被塗布面の撮像画像を取得する輝度情報取得部と、前記第一情報と前記第二情報との比率及び前記撮像画像の輝度に係る輝度情報に基づいて、前記剤の塗布状態を評価する評価制御部と、を備えることを特徴とする、塗布状態評価システム。
【符号の説明】
【0035】
1・・・分光カメラ
31・・・表示部
32・・・ユーザインターフェース
60・・・制御部
61・・・入力インターフェース
63・・・反射光比率情報生成部
65・・・輝度情報生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8