特許第6985828号(P6985828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985828振動溶着用ポリアミド樹脂組成物、成形体及び溶着成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985828
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】振動溶着用ポリアミド樹脂組成物、成形体及び溶着成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20211213BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20211213BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20211213BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K5/524
   C08L77/06
   C08G69/26
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-129344(P2017-129344)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-11432(P2019-11432A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
(72)【発明者】
【氏名】石川 翔
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−009381(JP,A)
【文献】 特開平07−053715(JP,A)
【文献】 特開2011−063795(JP,A)
【文献】 特開2009−275215(JP,A)
【文献】 特開平06−145508(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/112300(WO,A1)
【文献】 特開2012−067150(JP,A)
【文献】 特開2013−001836(JP,A)
【文献】 特開2012−136621(JP,A)
【文献】 特開2007−092004(JP,A)
【文献】 特開2014−012773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 5/524
C08L 77/06
C08G 69/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)で昇温速度10℃/分で330℃まで加熱したときの、2回目の加熱データから測定される、融点が270〜340℃であり、且つガラス転移温度が70〜110℃であるポリアミド樹脂(A)37〜99.9質量%と、
下記一般式(1)で表される化合物(B)0.1〜3質量%と、
無機充填材(C)0〜60質量%と
を含むポリアミド樹脂組成物であって(但し、前記ポリアミド樹脂(A)、前記化合物(B)及び前記無機充填材(C)の合計が100質量%である)、
前記ポリアミド樹脂組成物に含まれる、前記ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量(MA)と、前記化合物(B)由来のリン原子量(MB)とのモル比(MA/MB)は、1以上13以下である、
振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、
及びRは、それぞれ炭素原子数1〜30の置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のシクロヘキシル基、又は炭素原子数6〜30の置換若しくは未置換のアリール基を表し、
前記アルキル基、前記シクロヘキシル基及び前記アリール基が有しうる置換基は、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エーテル基、エステル基、ケトン基、及びアミド基からなる群より選ばれる基であり、
nは、独立して1〜4の整数である)
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(A)、前記化合物(B)及び前記無機充填材(C)の合計100質量%に対して、前記無機充填材(C)の含有量は、10〜50質量%である、
請求項1に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位と、ジアミンに由来する成分単位とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位を30〜100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位及び/又は炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位を合計で0〜70モル%とを含み、
前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、炭素原子数4〜18の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を50〜100モル%含む、
請求項1又は2に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位40〜80モル%と、炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位20〜60モル%とを含み、
前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位を80〜100モル%含む、
請求項3に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位40〜80モル%と、アジピン酸に由来する成分単位20〜60モル%とを含み、
前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、1,6−ジアミノヘキサンに由来する成分単位を80〜100モル%含む、
請求項3に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記R及びRは、それぞれオクタデシル基及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基からなる群より選ばれる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動溶着用ポリアミド樹脂組成物を成形してなる、
成形体。
【請求項8】
中空成形体である、
請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
複数の請求項7又は8に記載の成形体を振動溶着してなる、
溶着成形体。
【請求項10】
ターボダクト用部品である、
請求項9に記載の溶着成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、成形体及び溶着成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化や低燃費化に伴い、高温になるエンジン周辺部品の樹脂化が広く検討されている。そのような用途に用いられる樹脂は、高い耐熱性(耐熱温度)を有することが求められる。中でも、過給した吸気エアをエンジンへと導くターボダクトは、200℃近い高温域での使用に耐える耐熱性だけでなく、耐圧性を有することも求められる。
【0003】
ターボダクトのような中空成形体は、従来、ブロー成形で成形されている。しかしながら、ブロー成形では、必要となるターボダクトの部品数が多くなることに加え、得られる中空成形体の内側面(ダクトの内側面)が粗くなりやすく、圧力損失が大きくなる欠点があった。これに対して、射出成形した成形体を振動溶着により溶着する方法が検討されている。それに伴い、成形性、表面外観性、振動溶着性に優れた樹脂材料が求められている。
【0004】
これに対し、特許文献1には、脂環族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、分岐ジアミンを含むジアミンとを構成成分として重合させた特定のポリアミド(A)と、無機充填材(B)と、熱安定剤(C)とを含む樹脂組成物の成形体を溶着してなる溶着成形体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリアミド樹脂(A)と、ガラス繊維(B)と、アミノ基を2〜4個含有する化合物(C)とを含むポリアミド樹脂組成物の成形体を振動溶着してなる振動溶着成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−63795号公報
【特許文献2】特開平10−323901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2の樹脂組成物から得られる溶着成形体は、いずれも良好な溶着強度を有するとされている。しかしながら、特許文献1の樹脂組成物はガラス転移温度が高いポリアミド樹脂(A)を含むことから、成形時に熱安定剤(C)等が熱分解してガス発生しやすく、得られる成形体、ひいては溶着成形体の表面外観が低下しやすいという問題があった。従って、溶着成形体の表面外観の更なる改善が求められている。
【0008】
また、特許文献2の樹脂組成物はガラス転移温度が低いポリアミド樹脂(A)を含むことから、得られる溶着成形体の耐熱性が低いという問題があった。さらに、得られる溶着成形体の溶着強度も十分ではないという問題があった。従って、溶着成形体の耐熱性と溶着強度の更なる改善が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な表面外観を有しつつ、高い溶着強度を有する溶着成形体を付与しうるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 示差走査熱量計(DSC)で測定される、融点が270〜340℃であり、且つガラス転移温度が70〜110℃であるポリアミド樹脂(A)37〜99.9質量%と、下記一般式(1)で表される化合物(B)0.1〜3質量%と、無機充填材(C)0〜60質量%とを含む(但し、前記ポリアミド樹脂(A)、前記化合物(B)及び前記無機充填材(C)の合計が100質量%である)、ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ炭素原子数1〜30の置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のシクロヘキシル基、又は炭素原子数6〜30の置換若しくは未置換のアリール基を表し、前記アルキル基、前記シクロヘキシル基及び前記アリール基が有しうる置換基は、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エーテル基、エステル基、ケトン基、及びアミド基からなる群より選ばれる基であり、nは、独立して1〜4の整数である)
[2] 前記ポリアミド樹脂組成物に含まれる、前記ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量(MA)と、前記化合物(B)由来のリン原子量(MB)とのモル比(MA/MB)は、0.2以上13以下である、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位と、ジアミンに由来する成分単位とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位を30〜100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位及び/又は炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位を合計で0〜70モル%とを含み、前記ジアミンに由来する成分単位は、ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、炭素原子数4〜18の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を50〜100モル%含む、[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4] 前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位40〜80モル%と、炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位20〜60モル%とを含み、前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位を80〜100モル%含む、[3]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5] 前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の合計量100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位40〜80モル%と、アジピン酸に由来する成分単位20〜60モル%とを含み、前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の合計量100モル%に対して、1,6−ジアミノヘキサンに由来する成分単位を80〜100モル%含む、[3]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[6] 前記R及びRは、それぞれオクタデシル基及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基からなる群より選ばれる、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、成形体。
[8] 中空成形体である、[7]に記載の成形体。
[9] 複数の[7]又は[8]に記載の成形体を溶着してなる、溶着成形体。
[10] ターボダクト用部品である、[9]に記載の溶着成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な表面外観を有しつつ、高い溶着強度を有する溶着成形体を付与しうるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例で用いた試験片の一例を示す図である。
図2図2は、実施例で用いた試験片の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以下のポリアミド樹脂(A)と、リン原子含有部位を有する特定の化合物(B)とを組み合わせたポリアミド樹脂組成物は、良好な表面外観を有しつつ、高い溶着強度を有する溶着成形体を付与しうることを見出した。
【0014】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。成形体同士を溶着させる際に、溶着部分において、化合物(B)(好ましくはリン原子含有部位)とポリアミド樹脂(A)(好ましくは末端基)とが相互作用し、ポリアミド樹脂(A)の熱分解を抑制しうるだけでなく、ポリアミド樹脂(A)や化合物(B)の分散性を高めうる。それにより、成形体同士の溶着部分において、これらが高度に混合・分散されやすくなるため、溶着強度が高められる。また、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が一定以下であるため、成形温度や溶着温度を低くすることができる。それにより、成形時の化合物(B)の熱分解によるガス発生を抑制でき、それによる成形体の表面外観の低下を抑制しうる。さらに、溶着時にも化合物(B)の熱分解によるガス発生を抑制できるので、それによる溶着強度の低下も抑制しうる。
【0015】
さらに、化合物(B)の含有量を一定以下とすることで、化合物(B)の熱分解によるガス発生を十分に抑制できるので、成形体や溶着成形体の表面外観の低下や溶着強度の低下を抑制しうる。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0016】
1.ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、化合物(B)と、無機充填材(C)とを少なくとも含む。
【0017】
1−1.ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)と、ジアミンに由来する成分単位(a2)とを含む。
【0018】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含む。テレフタル酸に由来する成分単位の量は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の総モル数(100モル%)に対して、30〜100モル%であることが好ましく、40〜90モル%であることがより好ましく、40〜80モル%であることがさらに好ましい。ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)中における、テレフタル酸に由来する成分単位が30モル%以上含まれると、ベース樹脂であるポリアミド樹脂(A)の耐熱性や強度が高められることから、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性と溶着強度が十分に高まりやすい。
【0019】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、テレフタル酸以外のジカルボン酸に由来する成分単位をさらに含んでいてもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;2,5−フランジカルボン酸等のフランジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸が含まれる。テレフタル酸以外のジカルボン酸に由来する成分単位は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。中でも、テレフタル酸成分単位以外のジカルボン酸成分単位は、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位及び/又は炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位であることが好ましく、ガラス転移温度Tgを一定以下に調整しやすい観点から、炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位であることがより好ましく、アジピン酸に由来する成分単位であることがさらに好ましい。
【0020】
テレフタル酸以外のジカルボン酸に由来する成分単位の量は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の総モル数(100モル%)に対して、0〜70モル%であることが好ましく、10〜60モル%であることがより好ましく、20〜60モル%であることがさらに好ましい。
【0021】
ジアミンに由来する成分単位(a2)は、脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含む。
【0022】
脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、少なくとも炭素原子数が4〜18であり、且つ分岐した置換基を有しない直鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位(以下、「直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位」とも称する)を含むことが好ましい。直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位は、分岐した置換基を有する分岐アルキレンジアミンに由来する成分単位とは異なり、3級炭素原子を有しないため、溶着時や成形時のポリアミド樹脂(A)の熱分解を抑制しやすいことから、溶着時の溶着強度を高め、且つ成形体や溶着成形体の表面外観を高度に抑制しうる。
【0023】
直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位の炭素原子数は、4〜15であることがより好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。直鎖アルキレンジアミンの例には、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン等が含まれる。直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。中でも、直鎖アルキレンジアミンに由来する成分単位は、1,6−ジアミノヘキサンに由来する成分単位を含むことがさらに好ましい。
【0024】
直鎖アルキレンジアミン成分単位の量は、脂肪族系ジアミン成分単位の総モル数(100モル%)に対して40〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましく、100モル%であってもよい。直鎖アルキレンジアミン成分単位が一定以上含まれると、ポリアミド樹脂組成物の溶着強度が優れる。
【0025】
脂肪族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミンに由来する成分単位(a2)の総モル数(100モル%)に対して、50〜100モル%であることが好ましく、60〜100モル%であることがより好ましく、80〜100モル%であることがさらに好ましい。脂肪族ジアミンに由来する成分単位が一定以上含まれると、溶融部分での樹脂分子の絡み合いが起こりやすいため、ポリアミド樹脂組成物の溶着強度が優れる。
【0026】
ジアミンに由来する成分単位(a2)は、脂肪族ジアミンに由来する成分単位以外の他のジアミンに由来する成分単位をさらに含んでいてもよい。他のジアミンに由来する成分単位の例には、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン等の炭素原子数4〜15の脂環族ジアミンに由来する成分単位や;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミンに由来する成分単位が含まれる。他のジアミンに由来する成分単位は、1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。他のジアミンに由来する成分単位の総量は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミンに由来する成分単位(a2)の総量(100モル%)に対して50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
ポリアミド樹脂(A)の好ましい具体例には、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)が、テレフタル酸に由来する成分単位であり、ジアミンに由来する成分単位(a2)が、1,6−ヘキサンジアミンに由来する成分単位であるポリアミド樹脂や;ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)が、テレフタル酸成分単位であり、ジアミンに由来する成分単位(a2)が、1,9−ノナンジアミンに由来する成分単位であるポリアミド樹脂;ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)が、テレフタル酸に由来する成分単位とイソフタル酸に由来する成分単位であり、ジアミンに由来する成分単位(a2)が、1,6−ヘキサンジアミンに由来する成分単位であるポリアミド樹脂;ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)が、テレフタル酸に由来する成分単位及びアジピン酸に由来する成分単位であり、ジアミンに由来する成分単位(a2)が、1,6−ヘキサンジアミンに由来する成分単位であるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0028】
ポリアミド樹脂(A)の分子末端は、末端封止剤により封止されていてもよい。ポリアミド樹脂(A)の分子末端のカルボキシル基やアミノ基を末端封止剤で封止することで、ポリアミド樹脂(A)と化合物(B)との相互作用の程度を調整することができる。
【0029】
末端封止剤の例には、モノカルボン酸やモノアミンが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノ−ル酸等の炭素原子数2〜30の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸と脂環族モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基をさらに有していてもよい。モノアミンの例には、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族モノアミン;ベンジルアミン、メチルベンジルアミン等の芳香脂肪族モノアミンが含まれる。中でも、ポリアミド樹脂(A)の分子末端がアミノ基である場合が多いことから、末端封止剤はモノカルボン酸であることが好ましい。
【0030】
ポリアミド樹脂(A)の分子末端のアミノ基量(末端アミノ基量)は、好ましくは0.1〜200mmol/kgであることが好ましく、20〜200mmol/kgであることがより好ましく、40〜150mmol/kgであることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量が0.1mmol/kg以上であると、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基と化合物(B)のリン部分とが相互作用しやすい。それにより、ポリアミド樹脂(A)の熱分解を抑制しやすく、またポリアミド樹脂(A)や化合物(B)の分散性も高まりやすい。その結果、得られる溶着成形体の耐熱性や溶着強度が高まりやすい。ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量が200mmol/kg以下であると、得られる成形体や溶着成形体の吸湿性や吸水性が高まりにくく、寸法安定性の低下や溶着部への気泡の混入等による溶着強度の低下を抑制しやすい。
【0031】
ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量は、以下の方法で測定することができる。ポリアミド樹脂(A)1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とする。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用して青色から黄色になるまで滴定し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を特定する。
【0032】
ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量は、ポリアミド樹脂(A)調製時に使用するジアミンとジカルボン酸との比率や、末端封止剤による封止量等によって調整される。
【0033】
ポリアミド樹脂(A)の、示差走査熱量測定(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)は、70〜110℃であることが好ましく、75〜100℃であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)のTgが70℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性を高めやすく、110℃以下であると、成形時の化合物(B)の熱分解を抑制でき、それによるガス発生を抑制できるので、得られる成形体や溶着成形体の表面外観が低下しにくい。また、溶着時にも、化合物(B)の熱分解によるガス発生を抑制できるので、溶着強度の低下も抑制しうる。
【0034】
ポリアミド樹脂(A)の、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融点(Tm)は、270〜340℃であることが好ましく、280〜330℃であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点が上記範囲であると、機械的強度や成形性に優れたポリアミド樹脂組成物が得られやすい。例えば、ポリアミド樹脂組成物が、融点が過度に高いポリアミド樹脂(A)を含んでいると、ポリアミド樹脂組成物の成形温度を高く設定する必要がある。その結果、化合物(B)等が熱分解しやすく、金型汚れが生じ、連続成形性が低下しやすくなる。これに対し、ポリアミド樹脂(A)の融点が上記範囲であれば、適度な温度でポリアミド樹脂組成物を成形することができる。
【0035】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(例えば、DSC220C型、セイコーインスツル(株)製)にて測定される。具体的には、ポリアミド樹脂(A)約5mgを測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで330℃まで加熱する。ポリアミド樹脂(A)を完全融解させるために、330℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。そして、30℃で5分間置いた後、10℃/minで330℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱でのピーク温度(℃)をポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。後述するように、本発明のポリアミド樹脂組成物について、上記DSCによる同様の測定を行った場合にも、ポリアミド樹脂(A)由来の融点(Tm)を特定することは可能である。
【0036】
ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度及び融点は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸やジアミンの種類、ポリアミド樹脂(A)の分子量等で調整されうる。
【0037】
ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.7〜1.6dl/gであることが好ましく、0.8〜1.2dl/gであることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.7dl/g以上であると、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体や溶着成形体の機械的強度が十分に高まりやすく、1.6dl/g以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくく、所望の形状に成形しやすくなる。
【0038】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度は、以下の方法で測定することができる。まず、約0.5gのポリアミド樹脂(A)を96.5%濃硫酸50mlに溶解させる。そして、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定する。その後、以下の式に基づいて、極限粘度を算出する。
[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))
【0039】
上記式において、各代数又は変数は、以下を表す。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
【0040】
上記ηSPは、以下の式によって求められる。
ηSP=(t−t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0041】
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミドと同様に製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与することにより重縮合させて製造することができる。
【0042】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度を調整する場合には、反応系に、前述の末端封止剤等の分子量調整剤を配合することが好ましい。分子量調整剤の例には、末端封止剤と同様のものを用いることができる。
【0043】
分子量調整剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。分子量調整剤の添加量は、ジカルボン酸の総量1モルに対して0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。分子量調整剤の添加量を上記範囲とすることで、少なくとも分子量調整剤の一部がポリアミド樹脂(A)中に取り込まれ、それによりポリアミド樹脂(A)の分子量、即ち極限粘度[η]を所望の範囲内に調整できる。また、分子量調整剤が末端封止剤としても機能する場合、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量も調整できる。
【0044】
ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、化合物(B)、及び無機充填材(C)の合計100質量%に対して、37〜99.9質量%であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の含有量が上記範囲であると、成形性を損なうことなく、ターボダクト内の高温な過給エアに耐えうるだけの耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物が得られやすい。ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、化合物(B)、及び無機充填材(C)の合計100質量%に対して30〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
1−2.化合物(B)
化合物(B)は、下記一般式(1)で表される。
【化2】
【0046】
一般式(1)のR及びRは、それぞれ炭素原子数1〜30の置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のシクロヘキシル基、又は炭素原子数6〜30の置換若しくは未置換のアリール基を表す。R及びRは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
炭素原子数1〜30の置換若しくは未置換のアルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基、ドデカニル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、フェニルメチル基、3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)フェニルプロピル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基等が含まれる。
【0048】
炭素原子数6〜30の置換若しくは未置換のアリール基の例には、フェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、トリル基、ナフチル基、アルキルナフチル基、2,6−ジ−tert−ブチルフェニル基、2−tert−ブチル−4−(3−ヒドロキシプロピル)−6−メチルフェニル基、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基、2,6−ジ−tert−オクチルフェニル基等が含まれる。
【0049】
中でも、R及びRは、それぞれオクタデシル基及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。
【0050】
及びRで表されるアルキル基、シクロヘキシル基及びアリール基が有しうる置換基は、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エーテル基、エステル基、ケトン基、及びアミド基からなる群より選ばれる基である。これらの置換基は、炭素同士の二重結合や三重結合をさらに含んでも良い。
【0051】
一般式(1)のnは、独立して1〜4の整数であり、好ましくは1である。
【0052】
化合物(B)の例には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・フェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・メチル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2−エチルヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・イソデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ラウリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・イソトリデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・シクロヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ベンジル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・エチルセロソルブ・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ブチルカルビトール・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,6−ジ−t−ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,4−ジ−t−ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,4−ジ−t−オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2−シクロヘキシルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル・フェニル・ペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−オクチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト及びビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが含まれる。市販品の例には、アデカスタブPEP−36、PEP−8、PEP−24G(いずれもADEKA社製)等が含まれる。
【0053】
化合物(B)の分子量は、200〜2000であることが好ましく、200〜1000であることがより好ましい。化合物(B)の分子量が200以上であると、溶融混練時のガス発生量を少なくすることができ、2000以下であると、他の成分と良好に混合しやすく、ポリアミド樹脂(A)の分解も一層抑えられる。
【0054】
化合物(B)は、溶着時の相溶性向上作用を有しうる。溶着時、ポリアミド樹脂(A)と、リン原子含有部位又は化合物全体として相互作用することにより、溶融したポリアミド樹脂(A)の熱分解を抑制し、異なる2つの成形体由来の溶融樹脂同士がよく混合しうる。これらの結果、溶着強度の高い溶着成形体が得られ、且つ外観の低下を少なくしうる。
【0055】
ポリアミド樹脂組成物における化合物(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、化合物(B)及び無機充填材(C)の合計100質量%に対して、0.1〜3質量%であることが好ましく、0.1〜1.5質量%であることがより好ましく、0.1〜1.1質量%であることがさらに好ましい。化合物(B)の含有量が0.1質量%以上であると、ポリアミド樹脂(A)と化合物(B)とが十分に相互作用しやすいので、得られる溶着成形体の溶着強度を十分に高めやすく、3質量%以下であると、化合物(B)の熱分解に起因するガス発生による外観不良や溶着強度の低下を十分に抑制しうる。
【0056】
ポリアミド樹脂組成物に含まれる、化合物(B)由来のリン原子量は、0.1〜50mmol/kgであることが好ましく、0.1〜20mmol/kgであることがより好ましく、1〜10mmol/kgであることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂組成物に含まれる、化合物(B)由来のリン原子量が上記範囲であると、溶着時に、ポリアミド樹脂(A)の官能基(好ましくは末端アミノ基)と化合物(B)のリン部分とが相互作用しやすく、ポリアミド樹脂(A)の熱分解を抑制したり、ポリアミド樹脂(A)や化合物(B)の分散性を高めたりしやすい。その結果、溶着部分でのこれらの混合・分散性が高まり、溶着成形体の耐熱性や溶着強度が高まりやすい。
【0057】
ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量(MA)と、化合物(B)由来のリン原子量(MB)とのモル比(MA/MB)は、0.2以上13以下であることが好ましく、1.0以上10以下であることがより好ましく、1.0以上9.0以下であることが特に好ましい。モル比(MA/MB)が0.2以上であると、成形時の化合物(B)等の熱分解に由来するガス発生を十分に少なくしうるので、それによる外観不良や溶着強度の低下を抑制しやすい。モル比(MA/MB)が13以下であると、化合物(B)の含有量が十分であるため、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基と化合物(B)とが十分に相互作用しやすく、得られる溶着成形体の耐熱性や溶着強度が高まりやすい。
【0058】
ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量(MA)は、ポリアミド樹脂(A)中の末端アミノ基量と、上記樹脂組成物中のポリアミド樹脂(A)の含有量(仕込み量又はポリアミド樹脂組成物から分離回収された量)とから算出することができる。
ポリアミド樹脂(A)中の末端アミノ基量は、以下の方法で測定できる。ポリアミド樹脂(A)1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とする。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用して滴定し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を測定する。
【0059】
同様に、ポリアミド樹脂組成物に含まれる、化合物(B)由来のリン原子量(MB)は、化合物(B)中のリン原子量とその仕込み量とから算出してもよいし;XRFにより測定してもよい。
【0060】
ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量(MA)と、化合物(B)の含有量(Mb)とのモル比(MA/Mb)は、0.5以上25以下であることが好ましく、2.0以上20以下であることがより好ましく、2.0以上17.5以下であることが特に好ましい。モル比(MA/Mb)が0.5以上であると、得られる成形体や溶着成形体の表面外観が損なわれにくく、それによる溶着強度の低下も抑制しやすい。モル比(MA/Mb)が25以下であると、ポリアミド樹脂(A)と化合物(B)とが十分に相互作用しやすく、得られる溶着成形体の耐熱性や溶着強度が高まりやすい。
【0061】
化合物(B)のポリアミド樹脂(A)に対する含有割合は、モル比(MA/MB)又はモル比(MA/Mb)が上記範囲となるように設定されうる。具体的には、化合物(B)のポリアミド樹脂(A)に対する含有割合は、0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜2.0質量%であることがより好ましい。化合物(B)の含有割合が0.01質量%以上であると、ポリアミド樹脂(A)と化合物(B)とが十分に相互作用しやすいので、得られる溶着成形体の溶着強度が高まりやすい。化合物(B)の含有割合が5.0質量%以下であると、化合物(B)の熱分解に由来するガス発生を十分に抑制しうるので、それによる成形体や溶着成形体の外観不良や溶着強度の低下を抑制しやすい。
【0062】
1−3.無機充填材(C)
無機充填材(C)は、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する無機充填材でありうる。
【0063】
繊維状の無機充填材の例には、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維及びホウ素繊維が含まれる。これらの中でも、ガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維を使用することにより、成形性が向上すると共に、無機質強化材を含む成形体や溶着成形体の引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的特性及び熱変形温度等の耐熱特性が向上する。
【0064】
繊維状の無機充填材の平均長さは、通常は、0.1〜20mm、好ましくは0.3〜6mmの範囲にあり、アスペクト比が、通常は10〜2000、好ましくは30〜600の範囲にある。平均長さ及びアスペクト比が上記範囲にある繊維状の無機充填材を使用することが好ましい。
【0065】
繊維状の無機充填材の他、粉末状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する他の充填材を使用することもできる。他の充填材の例には、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ワラストナイト、ケイソウ土、クレー、カオリン、球状ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラ、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛等の粉状或いは板状の無機化合物、チタン酸カリウム等の針状の無機化合物が含まれる。これらの充填材は、2種以上混合して使用することもできる。
【0066】
無機充填材(C)は、シランカップリング剤又はチタンカップリング剤等でさらに処理されたものであってもよい。
【0067】
無機充填材(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、化合物(B)及び無機充填材(C)の合計100質量%に対して0〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、15〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
1−4.その他の成分
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前述のポリアミド樹脂(A)、化合物(B)及び無機充填材(C)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類、リン類等)、充填材(クレー、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、石英、マイカ、グラファイト等)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類、オギザニリド類等)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系、無機系等)、滑剤、蛍光増白剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、結晶核剤、種々公知の添加剤が含まれる。
【0069】
2.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、化合物(B)、無機充填材(C)、及び必要に応じてその他の成分を、公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー若しくはタンブラーブレンダー等で混合する方法、又は混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー若しくはバンバリーミキサー等で溶融混練し、その後、造粒若しくは粉砕する方法により製造することができる。
【0070】
3.成形体及び溶着成形体
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物を、通常の溶融成形法、例えば圧縮成形法、射出成形法又は押し出し成形法等により成形して得ることができる。ポリアミド樹脂組成物の成形体は、良好な表面外観を有し、高い溶着強度を発現しうることから、中空成形体であることが好ましい。
【0071】
本発明のポリアミド樹脂組成物の溶着成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体を溶着して得ることができる。溶着法の例には、振動溶着法、レーザー溶着法、スピン溶着法、超音波溶着法、オービタル溶着法、熱板溶着法、高周波溶着法等が含まれる。中でも、溶着強度や溶着部の外観の向上、並びに種々の形状で溶着が容易であるという観点から、振動溶着法又はレーザー溶着法が好ましく、振動溶着法がより好ましい。
【0072】
本発明のポリアミド樹脂組成物から得られる溶着成形体は、良好な耐熱性を有することから、各種部品、好ましくは自動車用部品として好適である。自動車用部品の例には、ラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターインレットパイプ、ウォーターアウトレットパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブ等のウォーターポンプ部品等の自動車冷却系部品や;エアホース、エアダクト、ターボダクト、ターボホース、インテークマニホールド、エグゾーストマニホールド、エンジンヘッドカバー等の自動車吸気・排気系部品等が含まれる。
【0073】
中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物から得られる溶融成形体は、良好な表面外観を有し、高い溶着強度をさらに有することから、溶着された中空成形体、好ましくはターボダクト用部品として特に適している。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0075】
1.樹脂組成物の材料
1−1.ポリアミド樹脂の調製
<ポリアミド樹脂(A−1)の調製>
テレフタル酸2176g(13.1モル)、1,6−ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、アジピン酸1578g(10.8モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水554gを、内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧した。このまま、1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は3600ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温した。その後、1時間反応させ、室温まで降温した。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.48dl/gであった。その後、このプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A−1)を調製した。
得られたポリアミド樹脂(A−1)の極限粘度[η]は1.0dl/g、末端アミノ基量は45mmol/kg、融点Tmは310℃、ガラス転移温度Tgは85℃であった。
【0076】
<ポリアミド樹脂(A−2)の調製>
原料を、テレフタル酸2176g(13.1モル)、1,6−ヘキサンジアミン2905g(25.0モル)、アジピン酸1578g(10.8モル)、安息香酸73.2g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gに変えた以外はポリアミド樹脂(A−1)の調製と同様にして、ポリアミド樹脂(A−2)を調製した。
得られたポリアミド樹脂(A−2)の極限粘度[η]は0.8dl/g、末端アミノ基量は140mmol/kg、融点Tmは310℃、ガラス転移温度Tgは85℃であった。
【0077】
<ポリアミド樹脂(A−3)の調製>
原料を、テレフタル酸2475g(14.9モル)、1,6−ヘキサンジアミン2905g(25.0モル)、アジピン酸1461g(10.0モル)、安息香酸73.2g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gに変えた以外はポリアミド樹脂(A−1)の調製と同様にして、ポリアミド樹脂(A−3)を調製した。
得られたポリアミド樹脂(A−3)の極限粘度[η]は0.8dl/g、末端アミノ基量は110mmol/kg、融点Tmは320℃、ガラス転移温度Tgは95℃であった。
【0078】
<ポリアミド樹脂(A−4)の調製>
原料を、テレフタル酸1787g(10.8モル)、1,6−ヘキサンジアミン2800g(24.9モル)、アジピン酸1921g(13.1モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gに変え、低次縮合物の極限粘度を0.48dl/gとした以外はポリアミド樹脂(A−1)の調製と同様にしてポリアミド樹脂(A−4)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A−4)の極限粘度[η]は0.9dl/g、末端アミノ基量は195mmol/kg、融点Tmは295℃、ガラス転移温度Tgは75℃であった。
【0079】
<ポリアミド樹脂(a−1)の調製>
テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、1,6−ヘキサンジアミン2800g(24.3モル)、安息香酸36.6g(0.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、低縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温した。その後、1時間30分反応させ、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は0.20dl/gであった。
その後、このプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(a−1)を調製した。
得られたポリアミド樹脂(a−1)の極限粘度[η]は0.9dl/g、末端アミノ基量は30mmol/kg、融点Tmは330℃、ガラス転移温度Tgは125℃であった。
【0080】
<ポリアミド樹脂(a−2)の調製>
テレフタル酸4537.7g(27.3モル)、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの混合物[1,9−ノナンジアミン/2−メチル−1,8−オクタンジアミン=80/20(モル比)]4385g(27.7モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水2.5リットルを、内容積20Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温させた。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧させた。そのまま2時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.15dl/gのプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥させた後、2mm以下の粒径まで粉砕した。粉砕したプレポリマーを、230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合させて、ポリアミド樹脂(a−2)を調製した。
得られたポリアミド樹脂(a−2)の極限粘度[η]は1.2dl/g、末端アミノ基量は80mmol/kg、融点Tmは300℃、ガラス転移温度Tgは120℃であった。
【0081】
ポリアミド樹脂の融点Tm及びガラス転移温度Tg、極限粘度[η]、並びに末端アミノ基量は、それぞれ以下の方法で測定した。これらの結果を表1に示す。
【0082】
[融点Tm、ガラス転移温度Tg]
ポリアミド樹脂の融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、JIS−K7121に準拠して測定した。具体的には、ポリアミド樹脂約5mgを測定用アルミニウムパン中に密封する。次いで、示差走査熱量計(例えば、DSC220C型、セイコーインスツル(株)製)に、この測定用アルミニウムパンをセットし、室温から10℃/minで330℃まで加熱した。ポリアミド樹脂を完全融解させるために、330℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。そして、30℃で5分間置いた後、10℃/minで330℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱でのピーク温度(℃)を、ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0083】
[極限粘度[η]]
得られたポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させた。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定した。その後、以下の式に基づいて、極限粘度を算出した。
[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
ηSPは、以下の式によって求めた。
ηSP=(t−t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0084】
[末端アミノ基量]
ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とした。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用して青色から黄色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を測定した。
【表1】
【0085】
1−2.添加剤
(化合物(B))
化合物(B−1):アデカスタブPEP−36(ADEKA社製、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、下記式参照)、分子量633
【化3】
化合物(B−2):アデカスタブPEP−8(ADEKA社製、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、下記式参照)、分子量733
【化4】
【0086】
(比較用化合物)
化合物(b−1):アデカスタブ1500(ADEKA社製、下記式参照)、分子量1112
【化5】
化合物(b−2):イルガフォス168(BASF社製、下記式参照)、分子量647
【化6】
【0087】
1−3.無機充填材(C)
GF:CSX 3J−451(日東紡製、ガラス繊維)
【0088】
2.ポリアミド樹脂組成物の調製
(実施例1〜8、及び比較例1〜12)
表2又は3に示される組成比で、ポリアミド樹脂、添加剤、無機充填材をタンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)+15)℃で溶融混錬した。その後、ストランド状に押出し、水槽で冷却した。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0089】
得られたポリアミド樹脂組成物の溶着成形体の引張強度、得られたポリアミド樹脂組成物の成形体の振動溶着強度及び表面外観を、以下の方法でそれぞれ評価した。
【0090】
[角板部材の作製]
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の成形機を用いて、下記の成形条件で射出成形して、長さ120mm、幅130mm、厚さ3mmの大きさの角板部材10を形成した(図1及び図2A参照)。
(成形条件)
成形機:東芝機械(株)EC75N−2A
成形機シリンダー温度:融点+10℃
金型温度:ガラス転移温度−5℃
射出設定速度:50mm/sec
【0091】
[引張強度(破壊応力・破断伸び)]
上記作製した角板部材10を切削加工して、長さ110mm、幅20mm、厚さ3mmの試験片11及び12を得た(図1参照)。
【0092】
得られた試験片11及び12について、それぞれ引張試験を実施し、強度測定を行った。具体的には、得られた試験片を、ASTMD638に準拠し、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、試験片を引張試験機AG−100kNXにセットし、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、試験片の長さ方向に引っ張った時の、引張応力(破壊応力)(MPa)及び破断伸び率(%)を測定した。引張応力(MPa)及び破断伸び率(%)は、いずれも試験片11と12の測定結果の平均値を採用した。
【0093】
[振動溶着強度(破壊応力・破断伸び)]
上記作製した角板部材10を切削工程して、長さ100mm、幅55mm、厚さ3mmの大きさの角板部材13及び14を得た(図2A参照)。
得られた角板部材13及び14の長さ100mm×厚さ3mmの面を振動溶着させて、溶着成形体15を得た(図2B参照)。振動溶着は、下記条件にて行った。
(振動溶着条件)
溶着装置:EMERSON社製Branson MICROPPL
溶着圧力:1.0MPa
デプス:1.0mm
振幅:1.5mm
周波数:240Hz
そして、得られた溶着成形体15を、さらに切削加工して、長さ110mm×幅20mm×厚さ3mmの試験片16を得た(図2C参照)。得られた試験片16について、前述と同様の引張試験を行い、振動溶着させた面における溶着強度(破壊応力(MPa)及び破断伸び率(%))を測定した。
振動溶着強度(破壊応力)が78MPa以上であれば良好と判断した。
【0094】
[表面外観]
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の成形機を用い、下記の成形条件にて射出成形して、長さ900mm、幅500mm、厚さ2mmの角板試験片を得た。
(成形条件)
成形機:住友重機工業(株)SG50M3
成形機シリンダー温度:融点+10℃
金型温度:ガラス転移温度−5℃
射出設定速度:30mm/sec
得られた角板試験片の表面粗度を、東京精密社製サーフコム1400Dを用いて、JIS B0601−1994に準じて測定した。そして、以下の基準に基づいて評価した。
a:表面粗度が0.25μm以下
b:表面粗度が0.25μm超0.50μm以下
c:表面粗度が0.50μm超
表面外観がa又はbであれば良好と判断した。
【0095】
実施例1〜8の評価結果を表2に示し;比較例1〜12の評価結果を表3に示す。
尚、表2及び3のMA/MBは、ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量MAと、化合物(B)由来のリン原子量MBとのモル比を示し;MA/Mbは、ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量MAと、化合物(B)の量Mbとのモル比を示す。ポリアミド樹脂組成物に含まれる、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量MAは、前述のポリアミド樹脂の末端アミノ基量と仕込み量から算出した。ポリアミド樹脂組成物に含まれる、化合物(B)由来のリン原子量MBは、化合物(B)の分子構造式から求められるリン原子量と仕込み量から算出した。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表2に示されるように、ガラス転移温度(Tg)が一定以下のポリアミド樹脂(A)と化合物(B)とを組み合わせた実施例1〜8のポリアミド樹脂組成物は、いずれも成形体の表面外観が良好であり、振動溶着強度も高いことがわかる。
【0099】
特に、末端アミノ基量とリン原子量とのモル比率(MA/MB)を一定以下とすることで、振動溶着強度が高まることがわかる(実施例1と2の対比)。
【0100】
これに対して、表3に示されるように、添加剤自体を含まない比較例1、2、6〜9及び11のポリアミド樹脂組成物や他の添加剤を含む比較例4及び5のポリアミド樹脂組成物は、いずれも振動溶着強度が低いことがわかる。このうち、ポリアミド樹脂のTgが110℃を超える比較例9及び11のポリアミド樹脂組成物は、さらに成形体の表面外観が低いことがわかる。これは、ポリアミド樹脂のTgが高く、成形温度が高いことから、ポリアミド樹脂自体の熱分解によるガス発生が生じたためと考えられる。
【0101】
また、化合物(B)の含有量が多すぎる比較例3のポリアミド樹脂組成物は、成形体の表面外観が低く、振動溶着強度も低いことがわかる。これは、化合物(B)の熱分解に伴うガス発生によるものと考えられる。
【0102】
さらに、化合物(B)を含んでいても、ガラス転移温度(Tg)が110℃を超えるポリアミド樹脂を含む比較例10及び12のポリアミド樹脂組成物は、成形体の表面外観が低いことがわかる。これは、ポリアミド樹脂のTgが高く、成形温度が高いことから、ポリアミド樹脂自体の熱分解によるガス発生だけでなく、化合物(B)の熱分解によるガス発生が生じたためであると考えられる。特に、ポリアミド樹脂が分岐アルキレンジアミン単位を含む比較例12のポリアミド樹脂組成物は、振動溶着強度がさらに低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、良好な表面外観を有しつつ、高い溶着強度を有する溶着成形体を製造可能である。従って、当該溶着成形体は、例えばターボダクト用部品等の溶着された中空成形体として特に好適である。
【符号の説明】
【0104】
11、12、16 試験片
13、14 角板部材
15 溶着成形体
図1
図2