(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、出版物においては、印刷物の低コスト化、紙の軽量化が求められており、書籍においても、紙の低密度化が図られている。
出版物の中でも、文庫本やコミックス、文芸本等の書籍は、持ち歩く場合が多く、特に軽量な紙が求められている。紙の軽量化技術としては、密度0.60g/m
2以下の化学パルプを主体とした嵩高書籍用紙において、特定の水和硅酸を添加し、澱粉とスチレン−ブタジエンラテックスを特定の割合で表面に塗布することで、不透明度を達成する技術(特許文献1)や、特定の樹種の広葉樹機械パルプ及び嵩高剤を含有した、嵩高中質印刷用紙に関する技術(特許文献2)があった。また、紙と比較して保管場所を必要としない手軽な電子書籍の普及も進んできている。
【0003】
一般的に書籍は、出版社から取次店を通じて書店に並ぶという委託制度をもとに流通しており、書店で販売できなかった書籍の一部は返本される。返本された書籍は、小口面が退色してしまうため、研磨機を用いた「改装」と呼ばれる小口面の研磨加工が施されるため、研磨加工の際の小口面の紙同士のくっつきが少なく、改装性に優れた紙が求められている。改装性に優れた書籍用紙に関する技術としては、スチレン−ブタジエン系ラテックス及び澱粉を含有し、特定の繊維長のパルプに関する技術(特許文献3)があった。
【0004】
ところで、書籍は短時間にぱらぱらと紙面を見る新聞や雑誌とは異なり、長時間にわたって紙面を見続ける場合が多く、目が疲れるという問題がある。また、読書に適した照明が配置された机だけでなく、移動途中の電車内や屋外、病院の待合室、寝室など照明の条件が異なる場所で読書をする場合も多くあることから、長時間の読書でも目が疲れない紙や印刷が求められている。色と目の疲れの関係性に関については、ノート用紙の色相と目の疲れに関する技術があった(特許文献4)。また、近年普及が進んでいる電子書籍と紙の書籍との読みにおける比較研究もおこなわれてきた(非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし一般に知られている従来の技術では、下記のような課題が発生する。
特許文献1記載の技術は、化学パルプを主体とした低密度書籍用紙に関する技術であり、また、特許文献3の技術は機械パルプを含有せずに古紙パルプを含有する紙に関する技術であるため、いずれも紙の剛度が低く、書籍用紙として使用した際の手肉感が劣るものだった。また、特許文献2は、剛度を低くすることを目的とした技術であり、さらに、表面処理剤に澱粉のみを使用した中質印刷用紙のため、書籍に使用した際の改装性に劣るものだった。特許文献4記載の技術は、製造方法が明らかでなく、書籍として使用した際の改装性や手肉感に劣る可能性のある技術であった。また、非特許文献1に記載のとおり、電子書籍は紙の書籍と比較して目の疲労度が高く、またページのめくりにストレスを感じる人も多く、長時間の読書には向かない物であった。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、嵩高でありながら、表面強度、こわさに優れ、かつオフセット及びインクジェット印刷適性に優れた中質系非塗工紙を提供することである。特に書籍用紙として使用した際の手肉感、改装性及び、オフセット印刷時のブラン離れに優れ、長時間読書していても目が疲れにくい書籍用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った結果、パルプ100重量%のうち
機械パルプが5重量%以上であり、原紙上にクリア塗工層を有する中質系非塗工紙において、クリア塗工層がラテックスと澱粉を含有し、前記ラテックスと澱粉の比率がラテックス:澱粉=10:90〜99:1とすることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の内容を包含する。
(1)パルプ100重量%に対し機械パルプを5重量%以上含有する、原紙上にクリア塗工層を有する中質系非塗工紙において、クリア塗工層がラテックスと澱粉を含有し、前記ラテックスと澱粉の比率がラテックス:澱粉=10:90〜99:1である中質系非塗工紙。
(2)嵩高剤を0.1重量%以上含有することを特徴とする(1)記載の中質系非塗工紙。
(3)パルプ100重量%に対し機械パルプまたは脱墨パルプを30重量%以上含有することを特徴とする(1)または(2)記載の中質系非塗工紙。
(4)パルプ100重量%に対し、内添サイズ剤を0.01重量%以上5重量%以下含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(5)JIS P8143に準じて測定した縦(MD)方向の剛度(クラーク式)が20以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(6)JIS P8143に準じて測定した横(CD)方向の剛度(クラーク式)が10以上である(1)〜(5)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(7)白色度が85%以下である(1)〜(6)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(8)JIS P8150による紫外線を含む光源によるL
*a
*b
*値がそれぞれ、L
*値が80以上98以下、a
*値が−5以上3以下、b
*値が−3以上12以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(9)インクジェットおよび/またはオフセット用印刷用紙である(1)〜(8)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(10)書籍用紙である(1)〜(9)のいずれかに記載の中質系非塗工紙。
(11)澱粉とラテックスを混合する工程と、ゲートロールコーターによって片面0.1g/m
2以上3.0g/m
2以下のクリア塗工層を設ける工程を有する、(1)〜(10)のいずれかに記載の中質系非塗工紙の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、嵩高でありながら、表面強度、こわさに優れ、かつオフセット及びインクジェット印刷適性に優れた中質系非塗工紙を提供することが出来る。特に書籍用紙として使用した際の手肉感、改装性及び、オフセット印刷時のブラン離れに優れる。また、白色度が比較的低いため紙と印刷物のコントラストが抑えられ、長時間読書していても目が疲れにくい書籍用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
中質系非塗工紙
本発明の中質系非塗工紙は、パルプ100重量%に対し、機械パルプを5重量%以上含有する。好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%である。機械パルプは、嵩が出やすいため、機械パルプを含有させることでこわさに優れ、書籍としたときの手肉感に優れた中質系非塗工紙を得ることができるが、多すぎると紙の表面の面感ががさがさと粗くなり、白色度も低くなる傾向がある。書籍は、製本されたときの大きさや形態、用途によって求められるこわさや表面性、白色度が異なるため、機械パルプの含有量は用途に合わせて適宜調整される。これらに限定されないが、機械パルプの含有量の上限としては、コミック用紙では90重量%以下、文芸用紙等では80重量%以下、文庫用紙等では60重量%以下である。
【0013】
本発明の中質系非塗工紙は、脱墨パルプ(DIP、古紙パルプとも呼ばれる)と機械パルプの合計の含有量が、パルプ100重量%に対し30重量%以上含有することが好ましく、さらに好ましくは40重量%以上である。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙や感熱紙、ノーカーボン紙、機密古紙などを含むオフィス古紙を原料とする脱墨パルプであれば良く、特に限定はない。また、化学パルプと比較して白色度が低めである脱墨パルプや機械パルプを前記範囲で含有ることで、黒色染料、顔料などの着色料を多く使用しなくても白色度を85%以下の低めにすることができるため、落ち着いた色相の中質系非塗工紙を得ることができる。本発明の中質系非塗工紙は、前記理由から書籍にした際に、文字と紙のコントラストが強くなりすぎないため、長時間読書していても目が疲れにくい。
本発明の中質系非塗工紙はその他のパルプを含有してもよい。使用するパルプ原料に特に制限はなく、針葉樹パルプ(NP)や広葉樹パルプ(LP)などの木材パルプの他に、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、ワラなどの非木材パルプ、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維などを使用することができる。具体的には、クラフトパルプ(KP)など、印刷用紙の抄紙原料として一般的に使用されているものを好適に使用することができ、適宜、これらの1種類または2種類以上を配合して使用される。
【0014】
本発明の紙料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、種々の内添薬品を添加してよい。内添薬品としては、これに制限されるものではないが、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、その他各種変性澱粉、スチレン―ブタジエン共重合体、ラテックス、酢酸ビニルなどの接着剤;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;硫酸バンド、歩留向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、濾水性向上剤、凝結剤、pH調整剤、スライムコントロール剤、着色料(染料、顔料)および蛍光染料などを添加してもよい。本発明の中質系非塗工紙は、抄紙時のマシンのロール汚れの防止やオフセット印刷時のブラン離れ、インクジェット印刷時の吸液性などの効果があるため、吸液性をコントロールする薬剤を含有することが好ましく、吸液性をコントロールする薬剤としてはサイズ剤が好ましい。さらに好ましくは、自己定着性を有し、低添加量で効果を発現するAKDサイズ剤である。サイズ剤の含有量はパルプ100重量%に対し、0.01重量%以上5.0重量%以下が好ましく、0.05重量%以上1.0重量%以下がより好ましく、さらに好ましくは0.1重量%以上0.5重量%以下である。前記範囲でサイズ剤を含有することで、製造時のマシンの汚れが低減され、また、印刷時のブラン離れが良好になる。
【0015】
本発明の中質系非塗工紙は、嵩高剤を含有してもよい。本発明の中質系非塗工紙は、機械パルプを含有するため、低密度で嵩が出やすいが、更に嵩高にする場合、嵩高剤を含有することが好ましい。嵩高剤の含有量は、パルプ100重量%に対し0.1重量%以上1.0重量%以下であり、好ましくは0.9重量%以下であり、さらに好ましくは0.8重量%以下であり、より好ましくは0.7重量%未満である。嵩高剤の含有量が前記範囲内であると、適度な嵩高効果を付与しつつも繊維間の結合が阻害されすぎず、層間剥離強度や表面強度、こわさの低下が起こりにくい。また、前記理由からこわさの低下が起こりにくいため、書籍として使用した時の手肉感に優れる。前述の通り、嵩高剤の含有量が1.0重量%より多いと、多繊維の疎水化が進行して繊維間結合が進まないため、製造時の湿紙強度や製品の層間剥離強度が低下する恐れがあり、添加量が少ないほどそれらの強度低下を抑えることができる。一方で、嵩高剤の添加量が少なすぎると嵩高効果が低くなるため、下限は0.1重量%以上が好ましい。
【0016】
本発明の中質系非塗工紙には、填料を内填することができるが、内填される填料は、特に限定されるものではなく、公知の填料の中から適宜選択して使用できる。このような填料としては、例えば、タルク、カオリン、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ、およびプラスチックピグメントなどの有機填料などを挙げることが出来るが、好ましくは炭酸カルシウムである。本発明の中質系非塗工紙に炭酸カルシウムを内添填料として用いると、不透明性、印刷適性などの印刷品質を向上させる効果があるため好ましい。炭酸カルシウムの中でも特に軽質炭酸カルシウムは、比散乱係数が高く、高い不透明性が付与されるためより好ましい。中質系非塗工紙に印刷を行う場合、特に書籍用紙として使用する場合には、両面印刷を行うことが多く、印刷後の裏抜けを防止するためにも、不透明性が重要な品質項目となる。
【0017】
本発明の中質系非塗工紙では、紙中灰分の下限は5重量%以上45重量%以下が好ましく、10重量%以上43重量%以下がさらに好ましく、より好ましくは13重量%以上40重量%である。紙中灰分が5重量%未満では、得られるクリア塗工値の不透明度や平滑性が不十分になる場合がある。また、紙中灰分が45重量%より高いと、紙中填料によって繊維間の結合が阻害され、紙の腰が不足する恐れがある。紙腰の不足は、加工適性の悪化、書籍として加工した時のめくり適性の悪化、手肉感の悪化といった問題が生じる。
【0018】
抄紙工程
本発明においては、上記のように調成された紙料が適宜希釈され、必要に応じてスクリーンやクリーナーで紙料から異物を除去した後に、抄紙機のヘッドボックスから抄紙ワイヤー上に噴射される。本発明は種々の抄紙機、例えば長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式抄紙機などによって製造される。ツインワイヤー抄紙機としては、ギャップフォーマー、オントップフォーマーなどが挙げられる。抄紙後のプレス線圧は、本発明の密度となる範囲内で適宜用いられるが、本発明の嵩高効果を得るためにはプレス線圧は低い事か好ましい。
また、抄紙法は、中性抄紙でも酸性抄紙でもよいが、中性抄紙であることが好ましい。具体的には、本発明においては、抄紙時の紙料pHが5.0〜9.0であることが好ましく、6.0〜8.0であることがより好ましい。
【0019】
表面処理工程
本発明においては、表面強度向上や耐水性付与、印刷適性などを付与するために、前記で得られた原紙に表面処理液を塗工し、クリア塗工層を設けてもよい。表面処理液に使用する接着剤の種類は特に限定しないが、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化したタピオカ澱粉を原料として製紙工場内で熱化学変性あるいは酵素変性によって生成される自家変性澱粉などの澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの変性澱粉を含むのが好ましい。カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバーなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、ラテックス、スチレン−ブタジエン系共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどを併用することも可能である。前記表面処理液には、表面強度と小口研磨時のくっつきを防止する点から、少なくともラテックスを含有することが好ましく、さらに好ましくは、スチレン―ブタジエン系ラテックス(SBR)が好ましい。前記ラテックスの光子相関法で測定した平均粒子径は、70nm以上、200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは75nm以上、150nm以下である。200nmより平均粒子径が大きいラテックスを使用すると、得られた紙の表面強度が低くなってしまう恐れがある。また、使用するラテックスのガラス転移温度(Tg)は、表面強度と加熱ロールでのべたつきを両立する観点から、−50〜10℃が好ましく、更に好ましくは−30〜5℃である。本発明のラテックスの平均粒子径及びTgは、それぞれ動的光散乱法、示差走査熱量計などで測定することができる。
【0020】
さらに前記表面処理液には、ラテックスと澱粉を併用することが好ましく、ラテックスと澱粉を混合する場合の混合比率は、ラテックス:澱粉=10:90〜99:1が好ましい。ラテックス単独で使用した場合、コストが高くなってしまうため、澱粉と併用することが好ましいが、ラテックスの混合比率を高くすることで、本発明の研磨時の小口面のくっつき防止効果がより高くなる。一方で、ラテックスの混合比率が高すぎると、製造時のアフタードライヤの汚れやインクジェット印刷時の吸水性の低下等が発生するため、さらに好ましくは15:85〜50:50であり、より好ましくは、20:50〜40:60である。スチレン−ブタジエン系ラテックスは、少量であっても表面強度と改装性の改善効果を得ることができる。
小口面のくっつき防止効果に関するメカニズムは明らかではないが、以下のような仮説が考えられる。澱粉とラテックスを混合した際の研磨時の小口面くっつき防止効果は、澱粉の保水性や、ラテックスと澱粉の吸湿性の差に依存している可能性が考えられる。澱粉は固形分濃度が高いとゲル化を起こしやすい性質があり、乾燥過程において塗工層中でゲル化が発生していると考えられる。澱粉を多く含むような保水性の高い表面処理液を使用した場合、塗工から乾燥までの工程間での原紙への表面処理液の浸透が少なく、紙のごく表面にしか表面処理液が存在しない状態となる。そのため、紙層内部の繊維は表面処理剤によってコーティングされていないため毛羽立ちが発生しやすく、より繊維が絡みやすい状態となってしまう。
また、小口面の研磨に供される書籍はいずれも、書店の店頭に長く陳列されたものであり、その間に吸湿が起こっていると想定される。そのため、より吸湿性の高い澱粉を多く使用した場合、水分を含んだクリア塗工層が軟化し、研磨時のねっぱりが発生し易い状態となっていると想定される。
【0021】
また、サイズ性を高める目的で、スチレン系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、スチレン−アクリル系サイズ剤、カチオン性サイズ剤などの表面サイズ剤を併用することも可能である。表面サイズ剤を併用する場合、表面処理剤中の固形分濃度で0.005以上1重量%以下が好ましく、0.01以上0.5重量%以下がさらに好ましく、より好ましくは0.015以上0.1以下である。表面サイズ剤の添加量が前記範囲内であると、製造時のマシンの汚れを防止でき、更にインクジェット方式の印刷を行った際に、インクのしみこみを制御でき、精細な画像を印刷することができるため好ましい。
【0022】
さらに、本発明において表面処理を行う場合、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等、通常の表面処理剤に配合される各種助剤を適宜使用される。
【0023】
表面処理剤の塗布量は、要求される表面強度などにより適宜決定されるので特に限定はないが、通常は両面で0.1g/m
2以上3.0g/m
2以下の範囲である。0.1g/m
2以上2.0g/m
2以下が好ましく、0.15g/m
2以上1.5g/m
2以下がより好ましい。塗布量が多くなると塗工層中の水分の絶対量が多くなることにより、乾燥負荷が増大し、乾燥不良が発生しやすくなる。そのため、塗工層のねっぱりが増大し、小口面断裁時にくっつきが発生しやすくなる。
【0024】
表面処理剤を塗布する装置は特に限定はなく、2ロールサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、ロットメタリングサイズプレスや、ブレードコーター、スプレーコーター、カーテンコーターなどの公知の塗工機によって塗布することができるが、本発明の中質系非塗工紙は低塗工量でも本発明の効果を得ることができ、ゲートロールコーターは低塗工量の塗工に適した塗工方式であるため。ゲートロールコーターが好ましい。 本初笑みの中質系塗工紙を書籍用紙に使用した場合、塗工量が多くなると、紙全体に対しての塗工層由来の重量や紙厚が増加してしまう。また、紙の重量の増加は、読書時の手の疲れにつながり、紙厚の増加はトラックなどへの積載時に積載できる本の数量の減少につながる。
【0025】
得られた中質系非塗工紙は、公知公用の仕上げ装置、例えばスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどに通紙して製品仕上げを行ってもよいし、本発明の密度の範囲とするために未処理もしくはバイパスしてもよいが、本発明の中質系非塗工紙は、嵩高性を維持しつつ平滑性を付与する為にソフトニップカレンダーまたは高温ソフトニップカレンダーで処理することが好ましい。
【0026】
本発明で得られた中質系非塗工紙は、顔料塗工用原紙として使用してもよい。
【0027】
坪量
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P8124に準じて測定した坪量が40g/m
2以上150g/m
2以下が好ましく、より好ましくは45g/m
2以上120g/m
2以下であり、より好ましくは100g/m
2以下である。本発明の中質系非塗工紙は、坪量が低くても適度な剛度が得られ、さらに不透明度が高く裏抜けが少ないため、特に坪量の低い紙に好適である。
【0028】
紙厚
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P8118に準じて測定した紙厚が、60μm以上、好ましくは65μm以上である。
【0029】
密度
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P8118に準じて測定した紙の密度が、0.40g/m
3以上0.90g/cm
3以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.43g/cm
3以上0.85g/m
3以下である。一般的に、嵩高剤の含有量が高いと、紙の繊維間結合が弱くなり、強度やこわさが低下する恐れがあるが、本発明の中質系非塗工紙は機械パルプをパルプ100重量%のうち5重量%以上含有するため、強度の低下が抑制され、密度が0.90g/cm
3以下と比較的嵩高であっても、こわさや表面強度の低下が少なく、オフセット印刷適性や、書籍にしたときの手肉感に優れる。
【0030】
剛度
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P8143に準じて測定した剛度(クラーク式)が、縦(MD:マシン流れ)方向の剛度が20以上270以下が好ましく、さらに好ましくは30以上260以下である。また、横(CD:マシン幅)方向の剛度は10以上100以下が好ましく、さらに好ましくは15以上90以下である。剛度が前記範囲より低い場合、文庫本としたときに紙が柔らかすぎたり、静電気でページ同士が張りついてしまうため、めくりにくくなってしまう。平版印刷や電子写真方式での印刷時に重送が発生してしまう事がある。一方、剛度が前記範囲より高い場合、本の見開き時に、ページ両端の紙がそろいにくく、さらに、紙が立ちあがってしまうため読みにくい。また、CD方向の剛度が10より低いと、本を開いた時に手肉感がなくページがへたってしまうため、本を開いた状態で保持しにくく、MD方向の剛度が20より低いと印刷時の走行性が悪化する恐れがある。
【0031】
不透明度
本発明の中質系非塗工紙は、ISO2471に準じて測定したISO不透明度が、80以上であることが好ましく、さらに好ましくは85以上である、より好ましくは87以上である。ISO不透明度が80未満であると、印刷時に裏抜けが発生し、製本した際に読みにくい本になってしまう。
【0032】
色相
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P8150による紫外線を含む光源によるL
*a
*b
*値がそれぞれ、L
*80以上98以下、a
*−5以上3以下、b
*−3以上12以下であることが好ましく、より好ましくはL
*82以上96以下、a
*−4.5以上2以下、b
*−2.5以上11以下であり、さらに好ましくは、L
*83以上95以下、a
*−4以上1.5以下、b
*−2.5以上10.5以下。上記範囲であると、目に優しい自然な風合いの中質系非塗工紙を得ることができる。また、書籍用紙として利用した際に、長時間読書をしていても目が疲れにくい書籍用紙を得ることができる。
【0033】
点滴吸水度
本発明の中質系非塗工紙は、滴下水の量を1μl(0.001ml)とした以外は、紙パルプ技術協会 J.TAPPI No.32−2:2000に規定される点滴吸水度に準じて測定した。点滴吸水度が1秒以上100秒以下であることが好ましく、より好ましくは80秒以下である。オフセット印刷は高速で印刷されるため、紙と湿し水が接触する時間は一瞬であるが、点滴吸水度が1秒未満だと、湿し水により紙がブランに張り付いてしまうため、ブラン離れが悪化してしまう。一方で、点滴吸水度が高い程ブラン離れは優れるが、100秒より高いと、インクジェット印刷した際のインクの吸液性が劣る恐れがある。そのため、点滴吸水度を前記範囲とすることで、オフセット印刷適性とインクジェット印刷適性を両立した中質非塗工紙を得ることができる。
【0034】
ステキヒトサイズ度
本発明の中質系非塗工紙は、JIS P 8155に準じて測定したステキヒトサイズ度が、80秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは70以下である。ステキヒトサイズ度が80秒を超えると、インクジェット印刷時のインクの吸収が遅く、印刷速度を上げることが困難になる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示しながら本発明について説明するが、この実施例は本発明の範囲を限定する者ではない。なお、本明細書の説明において、濃度や%は(固形分)重量%であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0036】
<評価方法>
紙質測定方法
・坪量:JIS P8124に準じて測定した。
・紙厚、密度: JIS P8118に準じて測定した。
・灰分: ISO1762−1974に準じて測定した。
・ISO不透明度: ISO2471に準じて測定した。
・ISO白色度:JIS P8148に準じて、村上色彩(株)製色差計CMS−35SPXにて測定した。
・色相:JIS P8150に準じて紫外線を含む光源で測定した。
・点滴吸水度:滴下水の量を1μl(0.001ml)とした以外は、J.TAPPI No.32−2:2000に準じて測定した。
・ステキヒトサイズ度:JIS P8155に準じて測定した。
・剛度(クラーク式):JIS P8143に準じて縦方向の剛度を測定した。
【0037】
手肉感の評価方法
中質系非塗工紙サンプルをA6判(文庫本サイズ)で200枚、ソフトカバー、無線とじで製本サンプルを作成した。左手で閉じ部を保持し、右手で紙を20回さばいた際の紙の張り(手肉感)について、張りがなく紙がへたってしまいうまくさばけないものを「×」、張りはややないが問題なくページをさばけるものを「△」、張りがありさばいている途中に各ページがへたらないものを「○」として手肉感を評価した。
【0038】
改装性の評価方法
中質系非塗工紙サンプルをA6判(文庫本サイズ)で200枚、ソフトカバー、無線とじで製本サンプルを作成した。ベルト研磨機(NIPPO社製)に製本サンプルを4冊セットし標準使用法に従い小口面の研磨を往復2回行った。小口面を研磨した製本サンプルについて、本を開くと複数ページが研磨部で強くくっついてほぐれにくいものを「×」、本を開くと複数ページが研磨部でくっついているがほぐれ易いものを「△」、本を開くと研磨部のくっつきがほぐれるもの、あるいは研磨部にくっつきのないものを「○」として小口面くっつきを評価した。
【0039】
目の疲れの評価方法
A4に断裁した紙に、レーザープリンタで10pt 明朝体 黒で4000字の文章をを印刷し、3回読んだ際の目の疲れ具合を評価した。紙と字コントラストが強く目が疲れやすいものを「×」、目が疲れにくいものを「○」とした。
【0040】
印刷適性、ブラン離れ
(オフセット)
ローランド社製のオフセット枚葉印刷機R202にてA3サイズのサンプルに藍色インキで単色ベタ印刷を行った。
(インクジェット)
市販の顔料インクジェットプリンター(製品名:CM8060 ColorMFP、ヒューレット・パッカード社製、印字条件:つや消し/ブローシャモード)を使用して、ブラックのベタ印字(大きさ:縦2cm×横3cm)を行った。
(印刷適性評価)
○:問題なくオフセット、インクジェット印刷を行うことができた
△:オフセット印刷適性またはインクジェット印刷適性にやや劣るものの問題なく使用できた
×:オフセット印刷またはインクジェット印刷若しくは両印刷方式で使用に問題があった
(ブラン離れ評価)
○:ブラン離れに問題がなかった
△:ブラン離れにやや劣るものの、問題なく使用できた
×:ブラン離れに劣り印刷できなかった
【0041】
実験1(実施例)
パルプ100重量%に対し、NBKP8重量%、晒GP40重量%、晒TMP52重量%を混合したパルプスラリーに、炭酸カルシウム、嵩高剤、サイズ剤がそれぞれパルプ100重量部に対し、3重量%、0.6重量%、0.03重量%となるように添加し、紙料を調整した。
【0042】
その後、上記紙料をヘッドボックスからツインワイヤー型の抄紙ワイヤー上に紙料を噴出して抄紙し、プレスパートで搾水、プレドライヤーで乾燥し、抄紙速度700m/minで原紙を抄造した。得られた原紙に、バインダーとして酸化澱粉とスチレン−ブタジエン系ラテックス及び水を、酸化澱粉:スチレン−ブタジエン系ラテックス(A&L社製、PB9501、平均粒子径83nm、Tg−15℃)=2:1となるように混合し、さらに黄色染料を300g/t(紙)となるように添加した水溶液(クリア塗工液)を、ゲートロールコーターを用いて、両面の塗工量が2.4g/m
2(固形分)となるように均等に塗工、乾燥し、中質系非塗工紙を得た。紙質の測定値、評価結果は表1に示す。
【0043】
実験2(実施例)
パルプ配合を、パルプ100重量%に対し、NBKP14重量%、晒GP37重量%、晒TMP46重量%、DIP3重量%とし、嵩高剤とサイズ剤をそれぞれパルプ100重量%に対し0.5重量%、0.02重量%とした以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0044】
実験3(実施例)
クリア塗工液にサイズ剤をバインダー100重量%に対し0.8重量%となるように添加した以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0045】
実験4
パルプスラリーにサイズ剤を添加しない以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0046】
実験5(実施例)
パルプスラリーに、黄色染料を50g/tとなるように添加した以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0047】
実験6
パルプ100重量%に対し、LBKP10重量%、NBKP15重量%、晒GP15重量%、晒TMP25重量%、DIP35重量%を混合したパルプスラリーに、炭酸カルシウムをパルプ100重量部に対し21重量%となるように添加し、紙料を調整した以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0048】
実験7
パルプ配合を、パルプ100重量%に対し、LBKP60重量%、NBKP10重量%、DIP30重量%とし、パルプスラリーに添加する炭酸カルシウムを24重量%とした以外は、
実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0049】
実験8
クリア塗工層のバインダーを酸化澱粉のみとした以外は、実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0050】
実験9
クリア塗工層のバインダーをスチレン−ブタジエン系ラテックスのみとした以外は、実験1と同様に中質系非塗工紙を得た。
【0051】
実験10
パルプスラリーに炭酸カルシウムを8重量%となるように添加し、クリア塗工層を設けずに重質炭酸カルシウム(カービタル90)100重量部、スチレン−ブタジエン系ラテックス14重量部、酸化澱粉17重量部を混合した顔料塗工液を両面で5g/m
2となるように均等に塗工した以外は、実験6と同様に中質系微塗工紙を得た。
【0052】
【表1】