(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985853
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ハンドルグリップ
(51)【国際特許分類】
B62B 5/06 20060101AFI20211213BHJP
B62K 21/26 20060101ALI20211213BHJP
B62B 9/20 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
B62B5/06 Z
B62K21/26
B62B9/20
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-163124(P2017-163124)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-38443(P2019-38443A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】517250790
【氏名又は名称】株式会社からだクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】森村 良和
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0138777(US,A1)
【文献】
登録実用新案第3074356(JP,U)
【文献】
実開昭55−098586(JP,U)
【文献】
実開昭50−045291(JP,U)
【文献】
特開2008−183228(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102004052681(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25G 1/10
B62B 5/06
B62B 9/20
B62K 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のハンドルに装着して手で把持するためのハンドルグリップであって、略円筒形のハンドルグリップ本体の上面に、軸線方向に沿って拇指の先端側に向けて上方に傾斜する、拇指を載置可能な傾斜面を設けてなり、前記傾斜面の角度は前記軸線に対して少なくとも25°以上であること、を特徴とするハンドルグリップ。
【請求項2】
前記傾斜面は、ハンドルグリップを把持して拇指を載置した状態において、拇指の先端から拇指基節骨までに渡ることを特徴とする、請求項1に記載したハンドルグリップ。
【請求項3】
前記傾斜面には、少なくとも拇指のIP関節(指節間関節)から先が当接する部分に凹面を設けたことを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれかに記載したハンドルグリップ。
【請求項4】
前記ハンドルグリップの前方側面には、ハンドルグリップを把持して拇指を前記傾斜面に載置した状態において、第二指と第三指の間に沿う形状の峰部を設けたことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載したハンドルグリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車やバイク、シルバーカート(高齢者用の手押し車)等が備える棒状のハンドルに追加的に装着可能なハンドルグリップに関する。ただし、本発明に係るハンドルグリップは、棒状のハンドルに追加的に装着可能な単体物品に限定されず、ハンドルの形状自体を予め本発明に係るハンドルグリップの形状に構成したものも含むものとする。また、ステッキや工具、スポーツ用具等、人が手で把持して体重や力を掛ける必要性のある棒状のハンドルを有する物品全般に追加的に装着可能なハンドルグリップ、あるいはハンドル自体の形状にも適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進展により、高齢者による自転車乗用中の転倒事故が増加している。また、広く普及しているシルバーカートを押して歩く際の転倒事故も少なくない。本人がハンドルをしっかりと把持しているつもりでも、路面の段差や歩行者・車両の衝突回避のための急な方向転換等により身体のバランスを崩して転倒する。加齢による筋力や平衡感覚の衰えがその原因とされているが、ハンドルの把持方法にも問題が指摘できる。
【0003】
自転車やバイク等は、棒状のハンドルを両手で把持して運転する。また、シルバーカートも棒状のハンドルを両手で把持し、ある程度体重を掛けて押して使用する。通常、使用者がハンドルを把持する際は、第二指(示指)から第五指(小指)で上方から、第1指(拇指)で下方からハンドルを握っている。しかし、ハンドルを全指に力を込めて掴んだ状態は、身体全体の姿勢を硬直化させ、疲労を蓄積させるだけでなく、障害物や外力に遭遇などの咄嗟の事態に適切に対応できず、転倒事故の一因となっている。
【0004】
人間の手が物を握る場合、手の掌と腕の屈筋群を収縮させるだけでなく、肩や胸等の体幹の屈筋群も連動する運動連鎖が働く。具体的には、拇指を屈曲させて棒状のハンドルを握る動作においては、手の掌側の拇指内転筋、短拇指屈筋、長母指屈筋を収縮させるだけでなく、腕の橈側手根屈筋、上腕二頭筋、肩の三角筋前部が運動連鎖により収縮する。すると、胸部の大胸筋、小胸筋、腹部の腹直筋、大腰筋、腸骨筋が拘縮するとともに、背中側の筋肉の多くは伸展され相反抑制が働く。その結果、骨盤が後傾して背中が丸くなり、肩甲骨が開いて肩が内旋する。かかる状態では体重の重心が脊柱から前方にずれるため、体幹の安定性が低下して転倒事故に繋がり易くなり、また、大胸筋、小胸筋の拘縮によって呼吸も浅くなる。
【0005】
一方、拇指を伸ばした状態においては、
図1、
図2に示されるように、前述の手の掌側の拇指内転筋、短拇指屈筋、長母指屈筋が伸展されると同時に、相反抑制により、短小指屈筋、小指外転筋が収縮する。腕では短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、腕橈骨筋が収縮し、運動連鎖によって、上腕三頭筋、三角筋中部、三角筋後部も収縮して腕から肩にかけての伸筋群が働いて肩が外旋するとともに、相反抑制により大胸筋、小胸筋が伸展する。つまり、拇指を反らせて伸展させることで、体幹の背中側の脊柱起立筋などの伸筋群(いわゆる「抗重力筋」)が収縮し、さらには下半身の大殿筋、足の屈筋群であるハムストリング筋群、ヒラメ筋、腓腹筋も収縮する。これらの作用は身体を重力に拮抗させるよう働くため、身体に「軸」ができて体幹の安定性が向上し、これにより、転倒事故が予防され、全身の姿勢が改善される。
【0006】
また、自律神経のバランス改善の観点からも、拇指を反らして伸展させることには次のような効果がある。すなわち、拇指を握り込むことは、拇指球筋群(拇指内転筋、短拇指外転筋、拇指対立筋、短拇指屈筋の4つ)を収縮させることであり、これらを支配する正中神経、尺骨神経が活性化した状態となる一方、副交感神経の働きを抑制することが知られている。副交感神経の作用は、筋肉に対してはその緊張を和らげるものであるから、その働きの抑制により、前述の運動連鎖によって更に腕、肩、首等の筋肉に力が入る。緊張状態に置かれたり、同じ姿勢を長時間強制された際に無意識のうちに拇指に力が入って握り込む状態となるのもこの作用によるものである。従って、物を握った状態において体幹の安定性や外力への反応を低下させないためには、拇指に力を入れずに専ら残る4指で物を把持することが好適である。このことは、剣道での竹刀の握り方、柔道での相手の襟の掴み方、テニスラケットの握り方、その他多くのスポーツ用具の持ち方、あるいは自動車のハンドル操作においても経験的に知られるところである。
【0007】
自転車やバイク、シルバーカートでは、5指で棒状のハンドルを掴み、拇指に力が入る使用方法が一般的である。ここで、上述の生理的な知見を踏まえれば、筋力や平衡感覚の衰えにより体幹の安定性に問題を有する高齢者等については、示指から小指までの4指でハンドルを把持しつつ、拇指は屈曲させずに伸展させた状態で、かつ、安全に把持できるような構造のハンドルが求められるところであるが、かかる要求に応える構造のハンドルは存在しない。なお、非特許文献1に示される如く、自転車の棒状ハンドルに取り付けて拇指を引っ掛けるための部品は存在するが、これはハンドル自体ではなくハンドル上部に突出させた部品を掴ませる構造のスポーツ自転車、マウンテンバイク用の部品であり、拇指に力を入れて屈曲させる点においては従前と変わらず、拇指を伸展させた状態に保つものではない。
【非特許文献1】「TOGS」オルタナティブバイシクル ホームページURL:http://altbikes.jugem.jp/?eid=1060
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、これまで存在しなかった、拇指を伸展させた状態を保持しつつ安全に把持可能な自転車等のハンドルを実現するために、既存の棒状ハンドルに追加的に装着可能なハンドルグリップを提供することを課題とするものである。
【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載した発明は、棒状のハンドルに装着して手で把持するためのハンドルグリップであって、略円筒形のハンドルグリップ本体の上面に、軸線方向に沿って拇指の先端側に向けて上方に傾斜する、拇指を載置可能な傾斜面を設けて
なり、前記傾斜面の角度は前記軸線に対して少なくとも25°以上であること、を特徴とする。
【0010】
ハンドルグリップは、弾性を有するゴム又は樹脂を型抜きで一体成型して製造可能であるが、ハンドルに装着して把持した際に容易に回転してずれることのないよう、シリコンゴム等の摩擦係数の高い素材を用い、円筒部の内径は装着するハンドルの外径よりやや小さくして、ハンドルの表面に強固に密着させるよう構成する。円筒部は、切れ目のない円筒にハンドルの端部を挿入させるようにしても良いが、円筒にスリットを設けて開放可能とし、ハンドルに側面から被せて装着可能とすることにより、逆U字型ハンドルのように端部のないハンドル等にも適用できる。また、把持した際に拇指を載置する傾斜面は、拇指を自発的に反らせたときに拇指の腹側が描く曲線に沿って、指先に向けて傾斜が増すように構成することが好適である。
【0011】
次に、請求項2に係る発明は、請求項1に記載したハンドルグリップであって、前記傾斜面を、ハンドルグリップを把持して拇指を載置した状態において、拇指の先端から拇指基節骨までに渡るように構成している。すなわち、拇指の根本側では、拇指基節骨と第1中手骨を繋ぐMP関節(中手指関節)が傾斜面に当接しないようにすることが望ましい。ハンドルを確実と把持するためにはMP関節から手の掌の拇指球(丘)にかけての部分がハンドルに密着している必要があるからである。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2のいずれかに記載したハンドルグリップであって、前記傾斜面に、少なくとも拇指のIP関節(指節間関節)から先が当接する部分に凹面を設けた構成としている。本発明に係るハンドルグリップを使用する場合、拇指はハンドル自体を掴まないため、進行方向の前後に向けて力が加わった際に不用意に拇指が傾斜面からずれ落ちるとハンドルから手が離れてしまうおそれがあるが、前記凹面を設けることで拇指は傾斜面からずれ落ちることが防がれる。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載したハンドルグリップであって、該ハンドルグリップの前方側面には、ハンドルグリップを把持して拇指を前記傾斜面に載置した状態において、第二指と第三指の間に沿う形状の峰部を設けている。かかる峰部を設けることにより、峰部が第二指と第三指によって挟みこまれる形となるため、ハンドルを把持した手が不用意にハンドルの軸線方向にずれることが防がれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るハンドルグリップを自転車、バイク、シルバーカート等の既存のハンドルに追加的に装着することにより、拇指を反らせて伸展させた状態を保持してハンドルを把持することができる。これにより、使用者は無意識のうちに腕から肩にかけての伸筋群を働かせて肩を外旋させるとともに、体幹の抗重力筋群を収縮させるため、身体の安定性が向上し姿勢も改善される。そのため、特に筋力や平衡感覚の衰えた高齢者の転倒事故を防止できるとともに、腕や肩の緊張状態を緩和して腕や肩の凝りが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図3は本発明の一実施形態に係る左手用のハンドルグリップ1を前方斜め情報から見た斜視図である。なお、右手用は対称に表れるため、図示は省略する。
図4は該ハンドルグリップを棒状のハンドルBに装着した状態を示す斜視図、
図5は同正面図、
図6はハンドルグリップ1を装着したハンドルBを左手で把持した状態を示す正面図である。
図7は一般的な棒状のハンドルを備えたシルバーカートへのハンドルグリップ1の装着箇所を示す略図である。また、
図8はハンドルグリップ1を前方から見た正面図、
図9は後方から見た背面図、
図10は上方から見た平面図、
図11は下方から見た底面図、
図12はハンドルBの内側から見た右側面図、
図13は同外側から見た左側面図である。
【0016】
ハンドルグリップ1はシリコンゴムにより一体成型して成り、本体3とその下方に設けた装着部4、装着部5により、ハンドルBに密着可能な貫通孔Pを有する略円筒形を形成している。略円筒形を閉鎖せず、装着部4、5の間にスリットを設けているため、ハンドルBには側面方向からスリットを通して嵌め込む形で装着可能であり、シルバーカートに多く採用されている逆U字型ハンドルにも対応可能である。
【0017】
本体3の上面には、内側端に向けて本体3の厚みを漸次増すことで傾斜面2を設けており、拇指を反らせて伸展した状態での腹側の曲線に沿ったカーブ状の傾斜を形成している。また、傾斜面2には、拇指の末節骨から基節骨に掛けて当接する範囲の縁部を盛り上げることで凹面を設けており、拇指の腹面が該凹部に嵌合して固定されることで前後方向への不用意なずれが防がれる。
【0018】
さらに本実施形態では、前方側面の装着部4の外側端寄りの一部を盛り上げて峰部6を設けている。峰部6は、ハンドルグリップ1を把持して拇指を傾斜面2に載置した状態において第二指と第三指の隙間に沿う形状としており、峰部6が第二指と第三指によって挟みこまれる形となるため、ハンドルBを把持した手が不用意に軸線方向にずれることが防がれる。
【0019】
拇指を屈曲させた通常のハンドルの握り方では無意識に腕や肩に無駄な力が掛かり、さらに運動連鎖によって全身で屈筋群が優位の状態となるため、猫背(脊柱の歪み)や骨盤後傾が引き起こされる。しかし、自転車やバイク、シルバーカート等のハンドルに本実施形態に係るハンドルグリップ1を装着すれば、使用者は特段意識することなく拇指を反らせて伸展させた状態で安全にハンドルを操作することができる。これにより、使用者は無意識のうちに腕から肩にかけての伸筋群を働かせて肩を外旋させるとともに、体幹の抗重力筋群を収縮させるため、身体の安定性が向上し姿勢も改善される。そのため、特に筋力や平衡感覚の衰えた高齢者の転倒事故を防止できるとともに、腕や肩の緊張状態を緩和して腕や肩の凝りが低減されるのである。
【0020】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明は、必ずしも上述した構成にのみ限定されるものではなく、本発明の目的を達成し、効果を有する範囲内において、適宜変更実施することが可能なものであり、本発明の技術的思想の範囲内に属する限り、それらは本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明に係るハンドグリップは、自転車、バイク、シルバーカート等、両手で把持したハンドルに体重を掛けつつ操作する乗り物や器具に幅広く適用可能である。ハンドルに本発明に係るハンドグリップを後付け装着することができるほか、ハンドル自体に該ハンドグリップの形状を設けることもできる。
【0022】
さらに、本発明に係るハンドグリップは、ハンマー等の工具やテニスラケット等のスポーツ用具の持ち手に適用することで、使用時の操作性の改善や疲労軽減の効果が期待できる。工具やスポーツ用具においては、持ち手を握った状態で肘を曲げ伸ばしたり肩を旋回させることが求められる。しかし、拇指を屈曲させて持ち手を握った状態では腕や肩の屈筋群を緊張させたまま肘や肩の動作を行うことになるため、余分な力が入って操作の正確性が低下し、筋肉も疲れやすくなる。たとえば、たとえばハンマーを振り下ろす際には、拇指に力が入っていると前腕下部の屈筋の緊張に引っ張られて手首が内旋しがちとなり、手首の動きもスムーズさを欠くため打撃面に対しハンマーヘッドが傾き易くなるが、拇指を伸展させて余分な力を掛けなければ、手首がスムーズに動いて正確に打撃できるだけでなく、疲労も少ないことが経験上知られている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図4】ハンドルにハンドルグリップ1を装着した状態を示す斜視図
【
図5】ハンドルにハンドルグリップ1を装着した状態を示す正面図
【
図6】ハンドルグリップ1を装着したハンドルを左手で把持した状態を示す正面図
【
図7】シルバーカートへのハンドルグリップ1の装着箇所を示す略図
【符号の説明】
【0024】
B ハンドル
P 貫通孔
H 手
1 ハンドルグリップ
2 傾斜面
3 本体
4、5 装着部
6 峰部