(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、内方部材が転動体を介して外方部材に回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、内方部材と外方部材間の内部空間に充填されるグリースが減ったり、雨水、泥水、粉塵等の異物又はデフオイルが入り込んだりすることで、転動体や内方部材および外方部材の軌道面が損傷して軸受寿命が短くなる。このため、車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材間の内部空間に充填されているグリースの漏出を防止するとともに外部から異物やデフオイルの入り込みを防止するためのシール部材が外方部材と内方部材との間に設けられている。
【0003】
このような車輪用軸受装置において、より長い軸受寿命を得るために、シール部材に複数のシール機構を設けてシール性を向上させているものがある。シール部材には、複数のシールリップによってラビリンス構造が構成されているものもある。このように構成することで、シール部材は、ラビリンス構造により異物の入り込みが抑制され、シール性を向上させることができる。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の車輪用軸受の軸受密封装置は、環状のシール板(スリンガ)と弾性シール部材とからなる。シール板は、内方部材の外周に嵌合する円筒部と、この円筒部の端部から立ち上がる立板部とからなる断面L字状の金属製部材である。弾性シール部材は、環状の芯金とこの芯金に一体に固着された弾性体からなる。芯金は、外方部材の内周面に嵌合する円筒部と、この円筒部の端部から立ち下がる立板部を有し、前記シール板と対向する断面L字状の部材である。弾性体は、互いに芯金の径方向の内外に並びそれぞれ先端がシール板の立板部に接する2枚のサイドリップと、軸方向に並びシール板の外周面に接触または近接する2枚のラジアルリップを有する。この軸受密封装置は、重量増加を招くことなく耐泥水性能を向上させることを目的としている。また、前記サイドリップとラジアルリップとが一体となったシールリップに、縮径付勢するリング状ばね部材(ガータスプリング)が設けられている。これにより、シール板の円筒部へのラジアルリップの接触が強められるので、ラジアルリップによる泥水浸入防止効果がさらに高まる。このような構成は、耐泥水性向上のために、使用状況が厳しい(泥水が車輪用軸受の内部に浸入し易い)地域で使用されるトラック等の大型車両向けに適用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献1に記載の車輪用軸受の軸受密封装置の場合、外方部材(外輪)に嵌合されている弾性シール部材が回転することになる。その結果として、弾性シール部材が有する各シールリップが遠心力の影響を受けて締め代が低下し、耐泥水性の低下に繋がる。上記対策として、従来は上述したようなシールリップにガータスプリングを追加していたが、その場合、シール板(スリンガ)に対するシールリップの接触圧力の増加により軸受の回転トルクが高くなったり、摩擦による発熱が生じたりしてしまう。そのため、ガータスプリングなどを用いずに、耐泥水性を備えたシールリップの構成や泥水等の流入を防ぐようにグリースを軸受内部に安定的に保持する構成が求められている。
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、外方部材の回転により発生する遠心力の影響を受けないようにするとともにグリースを軸受内部に安定的に保持することで、高い耐泥水性を有する車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の発明は、
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される内部空間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記シール部材が、前記外方部材に嵌合する芯金、前記芯金に一体に形成されるとともに弾性部材である複数のシールリップからなる環状のシール板と、
前記シール板に対向して配置され、前記内方部材に嵌合する円筒状の嵌合部、この嵌合部から径方向外方に延びる立板部、及びこの立板部から軸受内方側に向かって軸方向に延びる支持部からなるスリンガと、を備え、
前記シールリップが、前記スリンガの立板部に向かって延びるサイドリップと、このサイドリップよりも外径側に設けられて、中途部が折れ曲がった外径側リップとを備え、
前記外径側リップのうち折れ曲がった部分が前記立板部に接触または近接するとともに前記外径側リップの先端部が前記支持部に接触または近接し、
前記スリンガと前記外径側リップにより構成される空間にグリースを封入したものである。
【0009】
第二の発明は、
前記複数のシールリップは、前記スリンガの立板部に一つの前記サイドリップと、一つの前記外径側リップのみが接触または近接するものである。
【0010】
第三の発明は、
前記芯金は、前記外方部材に嵌合するシール板嵌合部を有し、
前記シール板嵌合部に前記スリンガの支持部が径方向において所定隙間を介して対向してラブリンスシールを構成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第一の発明に係る車輪用軸受装置は、外径側リップを設けることで、外方部材の回転による遠心力が発生しても、当該遠心力により外径側リップの先端部が確実に円筒部に接触またはさらに近接し、スリンガと外径側リップにより構成される環状空間にグリースを封入して構成される。これにより、外径側リップがスリンガと2箇所で接触または近接してシールするだけでなく、その間の環状空間にグリースが保持されるので、泥水等が軸受外部から軸受内部に流入することが抑えられ、高い耐泥水性を有するシール部材を備える車輪用軸受装置を提供することができる。
【0013】
第二の発明に係る車輪用軸受装置は、複数のシールリップは、スリンガの立板部に一つのサイドリップと、一つの外径側リップのみが接触または近接している。これにより、一つの接触または近接する箇所を有するサイドリップと二つの接触または近接する箇所を有する外径側リップでシール性が維持される。これにより、シール部材においてサイドリップの数を減らしてシールリップの断面径方向高さを抑えてコンパクトなシール部材を構成とすることができる。
【0014】
第三の発明に係る車輪用軸受装置は、シール板嵌合部に前記スリンガの支持部が径方向において所定隙間を介して対向してラブリンスシールを構成する。これにより、泥水が軸受外部から軸受内部に流入することが抑えられ、さらに高い耐泥水性を有するシール部材を備える車輪用軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
図1は、車輪用軸受装置1を示す断面図である。
図2および
図3は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
【0017】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、二つの転動体列4と、を備える。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0018】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合部2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合部2bが形成されている。更に、嵌合部2aと嵌合部2bとの間には、二つの外側転走面2c・2dが形成されている。外側転走面2cは、後述する内側転走面3cに対向する。外側転走面2dは、後述する内側転走面3dに対向する。なお、外方部材2は、ハブ輪25の内側に嵌められた状態でフランジ26によって固定される。そして、このフランジ26とともに駆動軸27によって回転される。
【0019】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、第一内方部材31と第二内方部材32を互いに突き合せて構成されている。
【0020】
第一内方部材31のインナー側端部における外周には、嵌合部3aが形成されている。更に、嵌合部3aに隣接する外周には、内側転走面3cが形成されている。内側転走面3cは、第一内方部材31が外方部材2の内側に配置された状態で、前述した外側転走面2cに対向する。
【0021】
第二内方部材32のアウター側端部における外周には、嵌合部3bが形成されている。更に、第二内方部材32のアウター側端部における外周のうち嵌合部3bに隣接する部分には、内側転走面3dが形成されている。内側転走面3dは、第二内方部材32が外方部材2の内側に配置された状態で、前述した外側転走面2dに対向する。
【0022】
転動体列4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動体列4は、複数の円錐ころ41と一つの保持器42で構成されている。同様に、アウター側の転動体列4も、複数の円錐ころ41と一つの保持器42で構成されている。
【0023】
円錐ころ41は、それぞれが保持器42によって円形にかつ等間隔に配置されている。そして、インナー側の転動体列4を構成している円錐ころ41は、外方部材2の外側転走面2cと内方部材3(第一内方部材31)の内側転走面3cの間に転動自在に介装され、アウター側の転動体列4を構成している円錐ころ41は、外方部材2の外側転走面2dと内方部材3(第二内方部材32)の内側転走面3dの間に転動自在に介装されている。
【0024】
ところで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(第一内方部材31および第二内方部材32)の間に形成される環状空間Sを密封すべく一対のシール部材6を備えている。
【0025】
インナー側シール部材6は、一つのスリンガ10と一つのシール板7で構成されている。同様に、アウター側シール部材6も、一つのスリンガ10と一つのシール板7で構成されている。
【0026】
車輪用軸受装置1は、主に外方部材2と内方部材3と二つの転動体列4(円錐ころ41等)とから複列円錐ころ軸受が構成されている。なお、本実施形態では、車輪用軸受装置1として、複列円錐ころ軸受を例示したがこれに限定されるものではなく、複列アンギュラ玉軸受等であってもよい。
なお、インナー側シール部材6とアウター側シール部材6は、同じ構成であるため、以下ではアウター側シール部材6についてのみ説明する。
【0027】
図2と
図3とに示すように、アウター側シール部材6は、外方部材2の嵌合部2bと内方部材3の嵌合部3bとの間に形成される隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材6は、略円筒状のシール板7と略円筒状の金属環であるスリンガ10とを具備する、いわゆるパックシールで構成されている。アウター側シール部材6を構成しているスリンガ10は、内方部材3(第二内方部材32)の嵌合部3bに外嵌されている。
【0028】
図2に示すように、シール板7は、芯金8と、この芯金8に、例えば加硫接着により、一体的に形成される弾性部材であるシールリップ9とから構成されている。
【0029】
インナー側シール部材6の芯金8は、外方部材2のアウター側端部の内周である嵌合部2bに圧入される金属製の部材であり、例えば、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC等)から構成されている。芯金8は、円環状の鋼板の外縁部がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。これにより、芯金8は、外方部材2の嵌合部2bに嵌合する円筒状のシール板嵌合部8aと、そのアウター側端部から径方向内方に延びる内径部である円環状のリップ支持部8bとで構成されている。芯金8のシール板嵌合部8aの先端部が薄肉に形成されると共に、この先端部の外表面を覆うようにシールリップ9が回り込んで一体に接合され、所謂ハーフメタル構造をなしている。これにより、気密性を高めて軸受内部を保護することができる。シール板7は、シール板嵌合部8aが外方部材2の嵌合部2bに嵌合されて外方部材2と一体的に構成されている。
【0030】
シールリップ9は、例えば、材質としてNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムなどから構成することができる。
【0031】
シールリップ9は、それぞれ円環状に形成される、芯金8の内周面を覆う基部9aと、この基部9aから径方向外方に傾斜して延びる一対のサイドリップ9b、9cと、このサイドリップ9cの内径側に軸受内方側に傾斜して延びるラジアルリップ9dと、サイドリップ9bよりも外径側に形成されて、軸方向外方(アウター側)に向かって延びる外径側リップである屈曲リップ9eとを備えている。屈曲リップ9eは、その中途部が径方向外方に(スリンガ10の支持部10cに向かって)屈曲している。具体的には、屈曲リップ9eは、基部9aから軸方向外方かつ径方向外方に傾斜して延びる(スリンガ10の立板部10bに向かって延びる)サイドリップ9fと、サイドリップ9fの端部(スリンガ10と接触もしくは近接する部分)から径方向外方に傾斜して軸受内方側(インナー側)に延びる外側ラジアルリップ9gとを備えている。なお、外側ラジアルリップ9gは、その中途部(サイドリップ9fと外側ラジアルリップ9gとの境界部分)がスリンガ10の支持部10cに向かって折れ曲がっていればよく、本実施形態のように中途部が屈曲している構成に限らず、湾曲していてもよい。
【0032】
すなわち、リップ支持部8bの一側面には、基部9a、一対のサイドリップ9b、9c、ラジアルリップ9d、および屈曲リップ9e(サイドリップ9f、外側ラジアルリップ9g)が、例えば加硫接着により、一体的に形成されている。シールリップ9は、スリンガ10と対向して配置されている。一対のサイドリップ9b、9cおよび屈曲リップ9eは、主に軸受外部からの泥水等の異物進入を防止するシールリップである。ラジアルリップ9dは、主に軸受内部から軸受用グリースが漏出することを防止するシールリップである。また、本実施形態では、複数のサイドリップを設けているが、一つもしくは二つより多く設ける構成としてもよい。
【0033】
スリンガ10は、シール板7の芯金8と同等の鋼板から構成される金属環である。スリンガ10は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で矩形状に形成されている。これにより、スリンガ10は、円筒状で内方部材3の嵌合部3bに嵌合されるスリンガ嵌合部10aと、スリンガ嵌合部10aの端部から径方向外方に向かって延びる延出部である円環状の立板部10bと、立板部10bの端部から軸受内方側に向かって軸方向に延びて外側ラジアルリップ9gの先端部を支持する円筒状の支持部10cとで構成されている。スリンガ10は、スリンガ嵌合部10aが内方部材3の嵌合部3bに嵌合されて固定されている。この際、スリンガ10は、立板部10bの内側面がシール板7のリップ支持部8bに対向するように配置されている。
【0034】
そして、シールリップ9のサイドリップ9b、9c及びサイドリップ9fが立板部10bに所定の油膜を介して接触または近接するとともに、ラジアルリップ9dがスリンガ嵌合部10aのインナー側端部近傍に所定の油膜を介して接触または近接している。さらに、屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gが支持部10cの内径面のインナー側端部近傍に所定の油膜を介して接触または近接している。すなわち、スリンガ10は、サイドリップ9b、9c、9f及びラジアルリップ9d、9gの接触部であり、より具体的には、立板部10bはサイドリップ9b、9c、9fが接触する接触部であり、スリンガ嵌合部10aはラジアルリップ9dが接触する接触部であり、支持部10cは外側ラジアルリップ9gが接触する接触部である。
【0035】
なお、シールリップ9の基部9aが芯金8のシール板嵌合部8aの先端部に向かってわずかに傾斜して形成され、この端部にスリンガ10の支持部10cがわずかな径方向隙間を介して対向し、ラビリンスシール11が構成されている。これにより、外部から雨水、泥水やダスト等が軸受外部から軸受内部に流入することが抑えることができる。
【0036】
このように構成される車輪用軸受装置1は、内方部材3がインナー側の転動体列4とアウター側の転動体列4とを介して外方部材2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外方部材2のインナー側の嵌合部2aと内方部材3のインナー側の嵌合部3aとの隙間をインナー側シール部材6で塞がれ、外方部材2のアウター側の嵌合部2bとアウター側の嵌合部3bとの隙間をアウター側シール部材6で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、内部からのグリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止しつつ、外方部材2が駆動軸27によってフランジ26及びハブ輪25とともに回転する。
【0037】
また、車輪用軸受装置1には、屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gと、スリンガ10における立板部10bと支持部10cが接続してなる隅部とによって形成される環状空間S1にグリースGが封入されている。
なお、
図2に示すグリースGが環状空間S1に密に封入されているが、特に限定するものではなく、疎に封入されていてもよい。
【0038】
このように、本実施形態では、アウター側シール部材6は、外方部材2の嵌合部2bに嵌合されたシール板7と内方部材3の嵌合部3bに嵌合されたスリンガ10とが対向するように配置され、パックシールを構成している。シール板7の屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gはスリンガ10の支持部10cに接触または近接するとともに、屈曲リップ9eのサイドリップ9fはスリンガ10の立板部10bに接触または近接するように構成されている。例えば、外方部材2が回転すると外方部材2に嵌合されているシール板7も回転することになる。その結果として、
図7に示すような従来のシール部材では、当該シール部材が有する各サイドリップが外方部材2の回転時の遠心力の影響を受けて径方向外側に引っ張られる力が働くことで締め代が低下し、耐泥水性の低下に繋がっていた。それに対して、本実施形態に係るシール部材6では、外方部材2の回転による遠心力が作用した場合であっても、屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gが遠心力により径方向外側に引っ張られることで、スリンガ10に対する締め代が増加し、高い耐泥水性を有することになる。さらに、本実施形態に係るシール部材6では、スリンガ10と屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gにより形成される断面略三角形状の環状空間S1にグリースを封入して構成される。これにより、泥水が軸受外部から軸受内部に流入することが抑えられるため、高い耐泥水性を有する。
【0039】
また、本実施形態では、スリンガ10の支持部10cは、シール板7とわずかな径方向隙間を介して対向し、ラビリンスシール11が構成されている。これにより、
図7に示す従来のシール部材のように、ラビリンスシール11の軸方向長さが従来のスリンガの板厚分に止まらず、支持部10cの軸方向長さ分だけ幅広い領域に亘って形成される。これにより、シール性(密閉性能)が向上して効果的なラビリンスシール11を構成することができ、泥水等がシール内部に浸入するのを抑制することができる。また、泥水等がこのラビリンスシール11を通過してシール部材6の内部に浸入しても、屈曲リップ9eによって遮断される。また、仮に泥水等が屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gを通過して環状空間S1に入っても、環状空間S1には、グリースGが封入されているため、当該環状空間S1に泥水等が溜まることを防ぎ、従来のシール部材に比べ泥水等の流入が極力小さく抑えられる。また、シール部材6は、シールリップ9とスリンガ10とで形成される複数の環状空間のうち、最もラビリンスシール11に近い環状空間S1にグリースGを安定的に保持することできるため、より効果的に泥水等の流入を抑えることができる。そのため、泥水等に含まれる泥や砂等の異物で各サイドリップが摩耗するのを防止し、長期間に亘ってシール部材6の密封性と耐久性を高めることができ、軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0040】
また、屈曲リップ9eの屈曲部分となるサイドリップ9fの先端部がスリンガ10の立板部10bに接触または近接するように構成されている。外方部材2の回転によりサイドリップ9fの先端部は徐々に磨耗してくる。この磨耗度合いに応じてサイドリップ9fの先端部から延出される外側ラジアルリップ9gの先端部は、支持部10cの内周面に接触または近接する。これにより、外側ラジアルリップ9gは支持部10cに適度な締め代で接触またはさらに近接するようになる。
【0041】
図3は、前述した第一実施形態のシールリップ9の屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gと支持部10cとの間に隙間が生じた場合を示したものである。
【0042】
屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gの先端は、支持部10cの内周面のインナー側端部近傍に所定の径方向隙間dを介して近接して、ラビリンス構造が形成されている。これにより、ラビリンス構造により泥水等の流入を抑制する効果に加えて、外側ラジアルリップ9gの先端が支持部10cに非接触なので回転トルクの低下を抑えることができる。
【0043】
図4及び
図5は、上述した第一実施形態に係る車輪用軸受装置1において、シール部材6の代わりにシール部材6Aを用いた第二実施形態の車輪用軸受装置1Aである。シール部材6Aは、前述した第一実施形態に係る車輪用軸受装置1のシールリップ9からサイドリップ9bを取り除いたものであるが、前述した第一実施形態とシール部材の構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
図4に示すように、シールリップ9Aは、前述したシールリップ9の構成からサイドリップ9bを除いたものである。シールリップ9Aでは、屈曲リップ9eを有することによりシール性が向上していることから、サイドリップ9bを削減しても、十分なシール性を確保することができる。また、サイドリップが少ない分、シール断面高さを小さく構成することができる。これにより、前述した第1実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を有するとともに、シール部材においてサイドリップやラジアルリップ等のシール機能を有するリップの断面高さを抑えたコンパクトな構成とすることができる。
【0045】
図5は、前述した第二実施形態のシールリップ9Aの屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gと支持部10cとの間に隙間が生じた場合を示したものである。
【0046】
屈曲リップ9eの外側ラジアルリップ9gの先端は、支持部10cの内周面のインナー側端部近傍に所定の径方向隙間dを介して近接して、ラビリンス構造が形成されている。これにより、前述した第一実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を有するとともに、
一つの接触または近接する箇所を有するサイドリップ9cと二つの接触または近接する箇所を有する屈曲リップ9eでシール性を維持できるため、シール部材においてサイドリップの数を減らしてシールリップの断面径方向高さを抑えてコンパクトなシール部材を構成とすることができる。
【0047】
図6は、車輪用軸受装置のさらに他の実施形態として第三実施形態の車輪用軸受装置50を示す。この車輪用軸受装置50は、第2世代型に分類される複列外向きアンギュラ玉軸受型であり、外輪回転タイプでかつ従動輪支持用のものである。車輪用軸受装置50は、内周に複列の転走面54を有するハブ輪兼用の外方部材52と、これら転走面54にそれぞれ対向する転走面55を有する内方部材53と、これら複列の転走面54、55間に介在する複列の転動体56とを備える。外方部材52は、外周にホイール取付用のハブフランジ52aを有する。ハブフランジ52aには、ホイール(図示せず)がハブボルト60で取付けられる。内方部材53は各転走面55をそれぞれ有する2つの軸受内輪53A、53Aを軸方向に並べた分割型内輪からなる。内方部材53の内径面には車軸(図示せず)が固定される。転動体56はボールからなり、各列毎に保持器57で保持されている。外方部材52と内方部材53との間に形成される環状空間の両端が一対の
図2及び
図3にて示すシール部材6で密封されている。車輪用軸受装置50は、シール部材6を設けたことで第一実施形態に係る車輪用軸受装置1のシール部材6と同様の作用効果を有する。
なお、シール部材6の代わりに、上述したシール部材6Aを用いることもできる。
【0048】
本明細書に開示した車輪用軸受装置1は、ハブ輪25に嵌められる外方部材2と、第一内方部材31と第二内方部材32を互いに突き合せて構成される一の内方部材3と、を有している外方部材回転仕様の第1世代構造であるが、これに限定するものではない。例えば、ハウジングに嵌められる外方部材と、第一内方部材と第二内方部材を互いに突き合せて構成される一の内方部材と、を有している内方部材回転仕様の第1世代構造であってもよい。また、ハブ輪として形成された外方部材と、第一内方部材と第二内方部材を互いに突き合せて構成される一の内方部材と、を有している外方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。更に、車体取付フランジが形成された外方部材と、第一内方部材と第二内方部材を互いに突き合せて構成される一の内方部材と、を有している内方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。また、内方部材として一つの内輪が嵌合された取付フランジを有している支持軸を備え、外方部材である外輪がハブ輪3として形成されており、このハブ輪と内方部材である内輪と支持軸の嵌合体とで構成された外輪回転仕様の第3世代構造であってもよい。更に、内方部材としてハブ輪と自在継手とが連結されており、取付フランジを有している外方部材である外輪と内方部材であるハブ輪と自在継手の嵌合体とで構成された第4世代構造であってもよい。
【0049】
最後に、本願における発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。