(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のSrI
2を初めとするシンチレータの材料には潮解性が高いものがあり、製造方法に工夫が必要であるとともに、長期の使用に対する耐湿性の更なる改善の余地もある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、耐湿性に優れた新たなシンチレータ材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のシンチレータ材料は、マトリックス相と、マトリックス相に分散しているシンチレータ部と、を備える。シンチレータ部は、単結晶の微粒子を含有する。
【0007】
この態様によると、単結晶の微粒子を含有するシンチレータ部は、マトリックス相に分散しているため、環境から受ける影響を低減できる。
【0008】
シンチレータ部は、マトリックス相の一部が結晶化されている結晶領域に偏在していてもよい。これにより、シンチレータ部を比較的簡便にマトリックス相の内部に形成できる。
【0009】
マトリックス相は、シリカであり、結晶領域は、シリカの一部が結晶化されたクリストバライト構造を有してもよい。これにより、比較的安定なシリカを原料にできる。
【0010】
単結晶の微粒子は、潮解性のある化合物であってもよい。従来、潮解性のある化合物からなる単結晶の微粒子は、シンチレータとしての機能を発揮する寿命が極端に短かった。しかしながら、この態様によると、シンチレータとして初期性能を満たせる化合物であれば、従来用いることができなかった耐湿性の低い様々な化合物を利用することが可能となる。
【0011】
化合物は、SrI
2:Euで表されている発光体であってもよい。
【0012】
化合物は、CsI:Tlで表されている発光体であってもよい。
【0013】
本発明の別の態様は、放射線検出器である。この放射線検出器は、基板と、基板の一方の側に設けられ上述のシンチレータ材料と、基板の他方の側に設けられた光電変換素子と、を備えている。基板は、シンチレータ材料が発する光のうちピーク波長の光の透過率が50%以上である。これにより、耐湿性に優れた放射線検出器を実現できる。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐湿性に優れたシンチレータ材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
(シンチレータ)
はじめに、本実施の形態に係るナノコンポジット型の発光体の概略構成について説明する。
図1(a)は、板状のシンチレータの模式図、
図1(b)は、ファイバー状のシンチレータの模式図、
図1(c)は、粒子状のシンチレータの模式図である。
【0019】
シンチレータは、放射線(X線、γ線、中性子線)を吸収し、紫外線または可視光を発光する発光体である。シンチレータとしては、感度や解像度が高い材料が望ましい。つまり、放射線を効率よく光に変換し、その発光寿命が短いことが望まれる。このような特性を実現する材料の1つとして、SrI
2:Eu
2+がある。しかしながら、SrI
2:Eu
2+は、激しい潮解性を示すため、作製、取扱いが非常に難しい材料である。そこで、本発明者は、シンチレータ部をマトリックス相に分散させることで、潮解性を抑制する構成に想到した。
【0020】
図1(a)に示すシンチレータ材料10は、板状のマトリックス相12と、マトリックス相12に分散されたシンチレータ部14と、を備える。シンチレータ部14は、単結晶の微粒子からなる発光体を含有する。
図1(b)に示すシンチレータ材料16は、ファイバー状のマトリックス相18と、マトリックス相18に分散されたシンチレータ部14と、を備える。
図1(c)に示すシンチレータ材料20は、粒子状のマトリックス相22と、マトリックス相22に分散されたシンチレータ部14と、を備える。
【0021】
上述の各シンチレータ材料は、単結晶の微粒子を含有するシンチレータ部14がマトリックス相に分散されている。そのため、シンチレータ部14が単独で露出している場合と比較して、環境から受ける影響が低減され、耐湿性が向上する。
【0022】
次に、単結晶の微粒子からなるナノコンポジット型のシンチレータ材料が形成される過程について詳述する。以下では、マトリックス相がシリカの場合について説明する。
図2(a)〜
図2(d)は、ナノコンポジット型のシンチレータ材料ができるメカニズムについて説明した模式図である。
【0023】
シリカは、SiO
4四面体がSi−O−Si結合で連結された基本骨格を有するアモルファス構造である。Si−O−Siの結合角度は、145°±10°の角度を有している(
図2(a))。シリカを加熱すると、1000℃あたりまでは熱膨張率が小さいが、1000℃を超えたあたりから熱膨張率がなだらかに上昇する。これは、シリカ表面のOH基から活性水素が発生し、シリカの一部にSi−O−Si結合の切断、再配列が起こるためである。この時、Si−O−Siの結合角は180°になり、SiO
4連結網の中に大きな空隙が生じる(
図2(b))。この空隙は、Sr
2+,Cs
+,Ca
2+,Eu
2+,Tl
+等の金属の陽イオン24、及び、ハロゲン等の陰イオン26にとってポケットとなり、これらイオンがSiO
4連結網の中に取り込まれる(
図2(c))。
【0024】
取り込まれたイオンは熱拡散により、陽イオン24と陰イオン26とが結合を起こし、イオン結晶核28が生成する(
図2(d))。イオン結晶核28が生成されたことに触発され、マトリックス相のシリカも結晶化しクリストバライトが生成すると考えられる。このようにして、ナノコンポジット型のシンチレータ材料が生成されたものと推察される。なお、クリストバライトの代わりにトリジマイト、クオーツ等をマトリックス相として、内部にシンチレータ部を設けてもよい。
【0025】
このように、本実施の形態に係るシンチレータ部は、少なくともマトリックス相との界面においてマトリックス相であるシリカの一部が結晶化し、クリストバライト構造となっている。これにより、シンチレータ部を比較的簡便にマトリックス相の内部に偏在するように形成できるため、シンチレータ材料が含有するシンチレータ部をより安定化できる。また、比較的安定なシリカをマトリックス相の原料にできる。
【0026】
次に、各実施例を参照してより具体的に説明する。
【0027】
(実施例1)
実施例1に係るナノコンポジットは、結晶性シリカマトリックス中に発光成分としてSrI
2:Eu
2+を含有したものである。この製造方法は、はじめに結晶化温度1350℃のアモルファスシリカ(平均粒径10μm)と、SrI
2(融点402℃)と、EuI
3とを、mol比が6/0.75/0.05となるように精秤し、Arガス雰囲気中で石英乳鉢に入れ、粉砕/混合した。その後、混合粉末をアルミナるつぼに入れ、水素含有窒素雰囲気(体積比N
2/H
2=95/5)で1000℃、10時間焼成した。焼成後、温純水で洗浄し、過剰なヨウ化物を除去し、実施例1に係るナノコンポジットのサンプルを得た。
【0028】
次に、得られたサンプルに対し粉末X線回折測定を行った。
図3は、実施例1に係るナノコンポジットのX線回折パターンを示す図である。
図3に示すピークを解析したところ、実施例1に係るナノコンポジットは、シリカの高温結晶層であるα−クリストバライトが主相の粉末であった。このナノコンポジットにピーク波長が193nmのArFエキシマレーザ光を照射したところ、SrI
2にドープしたEu
2+由来の432nmのピーク波長を有する青色発光が観察できた。
図4は、実施例1に係るナノコンポジットの発光スペクトルを示す図である。
【0029】
次に、実施例1に係るナノコンポジットを集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置を用いて切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図5は、実施例1に係るナノコンポジットのSEM像を示す図である。
【0030】
図5に示すナノコンポジットは、灰色に見えるマトリックス部と、中央に分散している白点部との2相からなっている。SEMに付属するエネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて、各部の組成分析を行ったところ、マトリックス部はSiO
2からなり、白点部はSr、I、Euの含有率が周囲より増えていた。つまり、実施例1に係るサンプルは、クリストバライトマトリックスの中に、ナノオーダーのSrI
2:Eu
2+が偏在するナノコンポジット材料であった。
【0031】
また、シンチレータ部は、マトリックス相の一部が結晶化されている結晶領域に偏在している。そのため、発光部位(シンチレータ部)であるSrI
2:Eu
2+は、結晶性SiO
2クリストバライトで保護されており、十分な耐湿性を持つ。
図6は、ナノコンポジットシンチレータ材料の寿命試験の結果を示す図である。寿命試験は、温度85℃、湿度85%の環境下で行われ、2000hまで連続発光させた場合の各時間におけるルミネッセンス強度を測定した。その結果、本実施例に係るナノコンポジットシンチレータ材料は、2000h経過後の強度が初期強度の98%を維持しており、耐湿性が飛躍的に向上していることがわかる。
【0032】
このように、SrI
2:Eu
2+の単結晶の微粒子は、それ自体は潮解性のある化合物であり、シンチレータとしての機能を発揮する寿命が極端に短かった。しかしながら、実施例1に係るシンチレータ材料は、シンチレータとして初期性能を満たせるものであれば、従来用いることができなかった耐湿性の低い様々な化合物を利用することが可能となる。
【0033】
図7は、本実施の形態に係る放射線検出器の概略構成を示す図である。
図7に示す放射線検出器100は、波長430nm前後の光の透過率が高い透明基板102と、透明基板102の一方の側に設けられ上述のシンチレータ材料10と、透明基板102の他方の側に設けられた光電変換素子104と、を備えている。透明基板102は、シンチレータ材料10が発する光のうちピーク波長(例えば430nm)の光の透過率が50%以上であるとよい。透明基板102は、好ましくは、光の透過率が70%以上、より好ましくは透過率が85%以上である。これにより、耐湿性に優れた感度の高い放射線検出器を実現できる。
【0034】
(実施例2)
実施例2に係るナノコンポジットは、結晶性シリカマトリックス中に発光成分としてCsI:Tl
+を含有したものである。この製造方法は、はじめに結晶化温度1350℃のアモルファスシリカ(平均粒径10μm)と、CsI(融点621℃)と、TlIとを、mol比が6/0.45/0.05となるように精秤し、Arガス雰囲気中で石英乳鉢に入れ、粉砕/混合した。その後、混合粉末をアルミナるつぼに入れ、水素含有窒素雰囲気(体積比N
2/H
2=95/5)で1000℃、10時間焼成した。焼成後、温純水で洗浄し、過剰なヨウ化物を除去し、実施例2に係るナノコンポジットのサンプルを得た。
【0035】
次に、得られたサンプルに対し粉末X線回折測定を行ったところ、実施例2に係るナノコンポジットは、シリカの高温結晶層であるα−クリストバライトが主相の粉末であった。このナノコンポジットにピーク波長が193nmのArFエキシマレーザ光を照射したところ、CsIにドープしたTl
+由来の550nmのピーク波長を有する緑色発光が観察できた。
【0036】
次に、実施例2に係るナノコンポジットを集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置を用いて切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0037】
実施例2に係るナノコンポジットは、実施例1と同様に、灰色に見えるマトリックス部と、中央に分散している白点部との2相からなっている。SEMに付属するエネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて、各部の組成分析を行ったところ、マトリックス部はSiO
2からなり、白点部はCs、I、Tlの含有率が周囲より増えていた。つまり、実施例2に係るサンプルは、クリストバライトマトリックスの中に、ナノオーダーのCsI:Tl
+が偏在するナノコンポジット材料であった。
【0038】
また、実施例2に係る放射線検出器は、実施例1に示した放射線検出器100と同様に、波長550nm前後の光の透過率が高い透明基板102と、透明基板102の一方の側に設けられ上述のシンチレータ材料10と、透明基板102の他方の側に設けられた光電変換素子104と、を備えている。透明基板102は、シンチレータ材料10が発する光のうちピーク波長(例えば550nm)の光の透過率が50%以上であるとよい。透明基板102は、好ましくは、光の透過率が70%以上、より好ましくは透過率が85%以上である。これにより、耐湿性に優れた感度の高い放射線検出器を実現できる。
【0039】
(実施例3)
実施例3に係るナノコンポジットは、結晶性シリカマトリックス中に発光成分としてSrI
2:Eu
2+を含有したものであり、実施例1との違いは製造方法である。
【0040】
実施例3に係るナノコンポジットの製造方法は、はじめに、大きさが30mm×30mm、厚さが3mmの石英ガラスをマトリックス相として準備し、サンドブラスト処理により表面を粗化(算術平均粗さRa=10μm)する。なお粗化の程度は5〜20μmの範囲で適宜選択してもよい。また、ガラス表面は純水で洗浄しておくとよい。その後、混合原料1gをガラス上に均一な厚さで載置する。
【0041】
その後、焼成炉に移し、水素含有窒素雰囲気(体積比N
2/H
2=95/5)で1000℃、10時間焼成した。焼成後、温純水で洗浄し、過剰なヨウ化物を除去した。その結果、石英ガラスは、粗面側から略1.5mmがクリストバライト化し、白濁した。このナノコンポジットにピーク波長が193nmのArFエキシマレーザ光を照射したところ、SrI
2にドープしたEu
2+由来の432nmのピーク波長を有する青色発光が観察できた。
【0042】
なお、機能を発揮できる化合物であれば、シングルナノクリスタルの代わりにナノ多結晶としてマトリックス相に分散してもよい。
【0043】
以上、本発明を実施の形態や各実施例をもとに説明した。この実施の形態や各実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。