(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2コイルにおける複数のコイルは、前記第2軸方向に並置された2つのコイルと前記第3軸方向に並置された2つのコイルとを有することを特徴とする請求項7に記載のジャイロ装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
(ジャイロ装置の構成)
本実施形態に係るジャイロ装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るジャイロ装置を示す概略斜視図である。なお、
図1においては、説明上、タンク及び盤器の一部を切断した状態を示している。また、本実施形態においては、船舶に搭載されるジャイロ装置を示す。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係るジャイロ装置は、液密性を有してジャイロロータGを内蔵する球体状のジャイロケース1と、ジャイロケース1を収容する容器であるタンク2と、タンク2を囲繞するように配置された環状の部材である水平環12及び垂直環16と、ジャイロケース1、タンク2、水平環12、垂直環16を収容する空間が内部に画成された柱形状の盤器24と、ジャイロ装置を制御する制御部33(
図1に不図示)を備える。なお、ジャイロケース1に内蔵されるジャイロロータGのスピン軸の軸線方向は南北方向を向くように設定される。
【0017】
ジャイロケース1は、懸吊線3によりタンク2内に吊り下げられて支持されており、この懸吊線3の上端がタンク2に接続されるとともに、懸吊線3の下端がジャイロケース1に接続されている。ジャイロケース1が収容されるタンク2内の空間には、例えばダンピングオイルなどの高粘性の液体7が充填されている。また、ジャイロケース1とタンク2には、タンク2に対するジャイロケース1の相対的な位置及び姿勢の変位を無接触で検出する検出部6及び6’が装着される。なお、この検出部6及び6’については後に詳述する。
【0018】
タンク2の赤道上でジャイロロータGのスピン軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所には水平軸8,8’が接続され、水平軸8,8’の軸線は、東西方向、即ち、スピン軸線方向及び鉛直方向に直交する方向を向くようになっている。これら水平軸8,8’のそれぞれは、水平環12において互いに対向する2箇所に設けられた水平軸受け13,13’の内輪に装着される。また、一方の水平軸8には水平歯車9が取り付けられ、この水平歯車9は水平環12に装着された水平サーボモータ10の水平ピニオン11と噛合する。
【0019】
水平環12において、水平軸8,8’の軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所にはジンバル軸14,14’が接続され、ジンバル軸14,14’の軸線はスピン軸線方向を向くようになっている。これらジンバル軸14,14’のそれぞれは、垂直環16において互いに対向する2箇所に設けられたジンバル軸受け15,15’の内輪に装着される。
【0020】
垂直環16において、ジンバル軸14,14’の軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所には垂直軸17,17’が接続され、垂直軸17,17’の軸線は鉛直方向を向くようになっている。これら垂直軸17,17’のそれぞれは、盤器24の上面及び底面部分において上下方向に互いに対向する2箇所に設けられた垂直軸受け25,25’の内輪に装着される。
【0021】
盤器24の底面には方位サーボモータ19が設けられ、下方の垂直軸17に装着された方位歯車21が方位サーボモータ19の方位ピニオン20と噛合するようになっている。盤器24の上面にはコンパスカード22が盤器24と相対回転可能に設けられ、このコンパスカード22は上方の垂直軸17’と一体回転可能に接続される。また、盤器24の上面には、コンパスカード22に対応して、ジャイロ装置が搭載される船舶の船首方位を示す基線26が記された基板23が設けられる。すなわち、ジャイロ装置は、基線26が船首方位を向くように予め設置される。
【0022】
このように水平軸8,8’、ジンバル軸14,14’、垂直軸17,17’の3軸の自由度を有してタンク2が支持されるように構成されたジャイロ装置において、検出部6,6’の一部と方位サーボモータ19とが後述する方位追従系を構成し、ジャイロケース1とタンク2との垂直軸17,17’の軸線周り(以下、垂直軸周り)の位置関係を保持するように方位サーボモータ19が動作される。また、検出部6,6’の一部と水平サーボモータ10とが後述する水平追従系を構成し、ジャイロケース1とタンク2との水平軸8,8’の軸線周り(以下、水平軸周り)の位置関係を保持するように水平サーボモータ10が動作される。制御部33は、後に詳述するように、偏差として方位サーボモータ19及び水平サーボモータ10に対して入力される入力信号と、外部装置からジャイロ装置に入力される信号を含むその他の信号とに基づいて、ジャイロ装置が搭載される船舶の船首方位を方位信号として出力する。
【0023】
(検出部の構成)
検出部の構成及び検出動作について説明する。
図2は、検出部の構成を示す概略図である。
【0024】
検出部6は、ジャイロケース1の外面においてスピン軸の軸線の北方側に設けられる1次側コイル
(第1コイル)4Nと、タンク2の内面において1次側コイル4Nに対応して設けられる2次側コイル
(第2コイル)5Nと、2次側コイル5Nと同様にタンク2の内面に設けられる制振コイル40Nとを備える。また、検出部6’は、ジャイロケース1の外面においてスピン軸の軸線の南方側に設けられる1次側コイル
(第1コイル)4Sと、タンク2の内面において1次側コイル4Sに対応して設けられる2次側コイル
(第2コイル)5Sと、2次側コイル5Sと同様にタンク2の内面に設けられる制振コイル40Sとを備える。
【0025】
2次側コイル5Nは、4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLを有し、同様に、2次側コイル5Sは、4個の矩形コイル5SW,5SE,5SU,5SLを有する。ここで、矩形コイル5NWと5NEとは東西方向に並置され、矩形コイル5NUと5NLとは上下方向に並置されて設けられ、同様に、矩形コイル5SWと5SEとは東西方向に並置され、矩形コイル5SUと5SLとは上下方向に並置されて設けられる。また、矩形コイル5NWと5NEとが互いに差動的に接続されるとともに、矩形コイル5NUと5NLとが互いに差動的に接続され、同様に、矩形コイル5SWと5SEとが互いに差動的に接続されるとともに、矩形コイル5SUと5SLとが互いに差動的に接続される。
【0026】
ここで、北方側の検出部6を例として、ジャイロケース1に対するタンク2の変位の検出について説明する。
図2に示すように、1次側コイル4Nの巻線はスピン軸線に直交する平面内にあり、通常、ジャイロ電源PSと共用の交流によって励磁され、破線の矢印a1により示される交番磁場を生成する。
【0027】
1次側コイル4Nが2次側コイル5Nの4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLの中央位置に配置されている場合、1次側コイル4Nによる磁束は4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLを貫通するため、4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLには同一の電圧が誘発される。したがって、それぞれ互いに差動的に接続される、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2−1及び矩形コイル5NU,5NLの出力端子3−1には出力電圧は生じない。
【0028】
また、2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して水平に西方向(
図2における矢印W方向)に偏位した場合、1次側コイル4Nによる磁束のうち、東方側の矩形コイル5NEを貫通する磁束は増加してその誘起電圧が増加するが、一方で西方側の矩形コイル5NWを貫通する磁束は減少してその誘起電圧が減少する。したがって、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2−1に差動電圧が生じるが、上下方向の矩形コイル5NU,5NLの出力端子3−1には出力電圧が生じない。
【0029】
2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して水平に東方向(
図2にて矢印E方向)に偏位した場合は、西方向に変位した場合と逆の状態となる。即ち、1次側コイル4Nによる磁束のうち、西側の矩形コイル5NWを貫通する磁束が増加してその誘起電圧が増加し、東側の矩形コイル5NEを貫通する磁束が減少してその誘起電圧が減少する。したがって、矩形コイル5NW、5NEの出力端子2−1には、西方向に偏位した場合と逆極性の差動電圧が生じるが、上下方向の矩形コイル5NU、5NLの出力端子3−1には出力電圧は生じない。
【0030】
2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して上下方向(
図2にて矢印EW及び矢印NSに直交する方向)に変位した場合、1次側コイル4Nによる磁束のうち、上方の矩形コイル5NUを貫通する磁束は減少又は増加し、下方の矩形コイル5NLを貫通する磁束は増加又は減少する。この際、上方の矩形コイル5NUの誘起電圧が減少又は増加し、下方の矩形コイル5NLの誘起電圧が増加又は減少して、上下方向の矩形コイル5NU、5NLの出力端子3−1に差動電圧が生じる。
【0031】
このように、1次側コイル4Nが設けられたタンク2の北側端部がジャイロケース1に対して東西方向及び上下方向に変位すると、2次側コイル5Nにおける2対の矩形コイル5NW及び5NE、5NU及び5NLそれぞれの出力端子2−1、3−1に差動電圧が生じる。この差動電圧の極性及び大きさは、タンク2のN端の変位の方向及び大きさを示す。また、2次側コイル5Sにおける2対の矩形コイル5SW及び5SE、5SU及び5SLそれぞれの出力端子についても、2次側コイル5Nと同様に差動電圧が生じるが、矩形コイル5SW、5SEによる電圧、矩形コイル5SU、5SLによる電圧は、出力端子2−1、3−1による電圧とはその極性が逆となっている。
【0032】
(方位追従系の構成)
方位追従系について説明する。
図3は、方位追従系の構成を示す概略図である。
【0033】
ジャイロケース1
がタンク2
に対して垂直軸周りに回転変位
(第2変位量)すると、
図3に示すように、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2−1及び矩形コイル5SW,5SEの出力端子2−2に差動電圧が生じ、矩形コイル5NW,5NE,5SW,5SEの出力端子である垂直出力端子5−1に電圧信号が生じる。この垂直出力端子4−1に生じた電圧信号は、サーボ増幅器30を介してまたは介さないで方位サーボモータ19の制御巻線に加えられる。方位サーボモータ19の回転は、方位ピニオン20、方位歯車21、垂直環16及び水平環12を介して、タンク2に伝達される。それによって、タンク2は垂直軸周りに回転し、タンク2とジャイロケース1の間の相対的回転変位がゼロとなる。
【0034】
このように、方位追従系によって、タンク2の方位は常にジャイロロータGのスピン軸線の方位に追従し、コンパスカード22のN字は常にジャイロロータGのスピン軸線の方位に追従することとなる。したがって、コンパスカード22のN字と基線26の偏差によって船首方位が読み取られる。
【0035】
(水平追従系の構成)
水平追従系について説明する。
図4は、水平追従系の構成を示す概略図である。
【0036】
ジャイロケース1
がタンク2
に対して水平軸周りに回転変位すると、矩形コイル5NU、5NL、5SU、5SLの出力端子である水平出力端子5−1に電圧信号が生じる。この水平出力端子5−1に生じた電圧信号は、水平サーボ増幅器31を介してまたは介さないで水平サーボモータ10の制御巻線に加えられる。水平サーボモータ10の回転は、水平ピニオン11及び水平歯車9を介して、タンク2に伝達される。それによって、タンク2は水平軸周りに回転し、タンク2とジャイロケース1の間の相対的回転変位がゼロとなる。
【0037】
(指北と制振系の構成)
指北と制振系について説明する。
図5は、ジャイロロータの指北作用を示す概略図である。
図6は、制振系の構成を示す概略図である。なお、
図5は、タンク内に配置されたジャイロケースを側方から見た状態で概略的に示したものである。また、
図6は、タンク及びジャイロケースに設けられた検出部を概略的に示したものである。
【0038】
ジャイロ装置の制振系は、1次側コイル4N,4Sとの距離を検出することによりタンク2に対するジャイロケース1の移動量ξ
(第1移動量)を検出する、検出部6,6’それぞれにおける制振コイル40N,40Sにより構成される。よって、まず、この移動量ξについてジャイロロータGの指北作用とともに説明する。
【0039】
図5に示すように、タンク2内には高粘性の液体7が充填されており、ジャイロケース1は液体7に漬かる状態で懸吊線3によって懸吊されている。ここで、ジャイロケース1の重心位置をO1、タンク2の中心位置をO2とし、懸吊線3とタンク2の結合点をP、懸吊線3とジャイロケース1の結合点をQとし、タンク2の中心軸線は線PO2を通るものとする。更に、ジャイロロータGのスピン軸線がジャイロケース1と交わる点をA,Bとし、この2点A,Bに対応するタンク2上の2点、即ち、スピン軸線がタンク2と交わる点をA’,B’とし、水平面をH−H’とする。なお、点A,B,A’,B’について、点A,A’をジャイロロータGの指北側とする。
【0040】
ジャイロロータGのスピン軸線が水平な場合(θ=0°)には、タンク2の南北線A’B’はスピン軸線に整合した位置に配置され、ジャイロケース1の重心位置O1はタンク2の中心位置O2と一致する。一方、ジャイロロータGのスピン軸線が水平面H−H’に対して傾斜角θ
(第1変位量)だけ傾斜し、ジャイロケース1の指北側にある点Aが水平面H−H’に対して上昇していると仮定する。この際、タンク2の中心軸線PO2は鉛直線に対して傾斜角θだけ傾斜する。この傾斜を低減させるように、タンク2は、上述した水平追従系によって、ジャイロロータGの傾斜角θに追従して水平軸周りに回転傾斜する。
【0041】
外力が作用しない場合、懸吊線3は鉛直線に一致し、懸吊線3の張力Tによってジャイロケース1に対して重心位置O1周りのモーメントMが生成される。ジャイロケース1の重心位置O1とジャイロケース1における懸吊線3の接続位置Qの間の距離をrとし、ジャイロケース1の液体7による浮力を除いた残留重量をmgとすれば、ジャイロケース1に作用するモーメントMは、M=Tr sinθ=mgr sinθの式により表される。
【0042】
このモーメントMはジャイロロータGに対するトルクとして重心位置O1を通る水平軸8,8’の軸線周りに作用する。このように、スピン軸線の水平面に対する傾斜角に比例したトルクをジャイロの水平軸周りに加えることができるため、指北力が生成される。上述の距離r、重量mg及びジャイロの角運動量を調整することによって、指北運動の周期を数10分〜百数10分とすることができる。
【0043】
ジャイロ装置の制振系は、スピン軸線の水平面に対する傾斜角に比例したトルクをジャイロ装置の垂直軸の周りに加えるように構成されている。ジャイロケース1は、懸吊線3が垂直線と一致するまで、タンク2に対して相対的にタンク2上の点B’方向に距離ξ(O1−O2)だけ移動する。この移動量ξは、ジャイロロータGのスピン軸線の水平面H−H’に対する傾斜角θに比例する。したがって、このジャイロケース1の相対的な移動量ξを制振コイル40N,40Sにより検出し、この検出量に基づいて方位追従系による追従位置を偏位させ、懸吊線3を捩じることによって、所望の制振作用が得られる。
【0044】
なお、懸吊線3は僅かに剛性を有するから、ジャイロケース1が水平面H−H’に対して傾斜したとき、実際には懸吊線3’として示すように撓み曲線を描く。したがって、ジャイロケース1の線A’B’方向の移動量ξ(O1−O2)も、僅かに減少する。しかしながら、懸吊線3は十分可撓性を有し、斯かる移動量の変化は僅かであり、実用的な設計では、その影響は小さいため、以下では斯かる移動量の変化を無視して説明する。
【0045】
図6に示すように、制振系は方位追従系に付加的に設けられている。検出部6,6’のうち、ジャイロケース1の外面に装着された1次側コイル4N、4Sとタンク2の内面に装着された4対の矩形コイル5NW、5NE及び5SW、5SEと5NU、5NL及び5SU、5SLが示されている。また、検出部6,6’は、これら矩形コイルを含む2次側コイル5N,5Sの更に南北側に、上述した移動量ξを検出するための1対の制振コイル
(第3コイル)40N,40Sを有する。
【0046】
この制振コイル40N,40Sは、2次側コイル5N,5Sにおいて水平方向に並置された矩形コイル5NW,5NE及び5SW,5SEと平行となるように配置され且つ差動的に接続されている。制振コイル40N,40Sの出力端子である制振出力端子6−1は、ジャイロケース1の移動量ξに比例した差動電圧を出力する。
【0047】
制振出力端子6−1は、方位出力端子4−1に加算的に接続され、サーボ増幅器30を介して、方位サーボモータ19の制御巻線に接続されている。これにより、方位サーボモータ19の制御巻線に印加される電圧信号は、制振出力端子6−1からの電圧信号だけ過剰な電圧信号となり、タンク2のジャイロケース1に対する方位追従動作を移動量ξに基づいて偏位させる。
【0048】
タンク2は垂直軸周りに、制振系によって方位追従系の動作に対して偏位されただけ回転変位して懸吊線3に捩じり応力が生じる。これによりジャイロケース1は、タンク2に対するジャイロケース1の移動量ξに比例した捩じりトルクを受け、ジャイロロータGの制振作用が生成される。
【0049】
(方位誤差)
ここで、上述したジャイロ装置において生じ得る方位誤差について説明する。
図7は、ジャイロケースが南北移動した場合の1次側コイルと2次側コイルにおける方位追従系との位置関係を示す図である。
図8は、ジャイロケースが南北移動し、且つ東西方向に並進場合の1次側コイルと2次側コイルにおける方位追従系との位置関係を示す図である。なお、
図7及び
図8において、ジャイロケースは垂直軸周りに回転していないものとする。
【0050】
図7及び
図8において、ジャイロケース1は、タンク2に対して南北方向に、具体的には南方に移動している。ここで、ジャイロケース1の移動量ξ=0である場合の1次側コイル4N及び4Sとこれらに対応する2次側コイル5N及び5Sとの距離をξ
0とした場合、2次側コイル5Nとジャイロケース1の北側端部との距離はξ
0+ξと表され、また、2次側コイル5Nとジャイロケース1の北側端部との距離はξ
0−ξと表される。また、
図7及び
図8に示すように、東方に配置された矩形コイル5NW及び5SEの中心軸線から西方に配置された矩形コイル5SW及び5SWの中心軸線までの距離を2a
0とし、
図8に示すように、1次側コイル4N,4Sそれぞれの東西方向への移動量をy
N、y
Sとする。ここで、2次側コイル5N及び5Sにおける矩形コイル5NW,5NE,5SW,5SEのそれぞれにより検出される電圧E
5NE,E
5NW,E
5SE,E
5SWは、それぞれ次のように表される。
【0051】
【数1】
ここで、k
NW,k
NE,k
SE,k
SWは、それぞれ、矩形コイル5NW,5NE,5SW,5SEの起電圧係数を示す。
【0052】
図7に示すジャイロケース1が垂直軸周りに+φ
s方向(反時計方向)に回転する場合に正となる方位出力端子4−1の差動電圧をE
φとすると、E
φ=(E
5SE−E
5SW)−(E
5NE−E
5NW)となり、ここで、簡単化のため、上述の起電圧係数k
NW,k
NE,k
SE,k
SWを互いに同一とすると、差動電圧E
φは次式で表される。
【0053】
【数2】
ここで、y
p=y
N+y
S,y
r=y
N−y
sとすると、上式を
【0055】
この式において、第1項y
rξ
0は垂直軸周りの回転成分y
rによる相対変位角であって、本来検出されるべき正常な検出値である。一方、第2項y
pξはジャイロケース1の東西方向への移動量y
pによる出力変化であって、本来検出されるべきでない、垂直軸周りの相対変位角における誤差成分である。つまり、ジャイロケース1がスピン軸線方向に移動量ξだけ移動し、更にスピン軸方向そのままで東西方向に並進的にy
p移動した場合、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2−1における差動電圧と矩形コイル5SW,5SEの出力端子3−1における差動電圧とが打ち消し合わず、垂直軸周りの相対変位角が無いにもかかわらず、出力電圧が生じてしまう。
【0056】
方位追従系は、差動電圧E
φ=0となるように追従する。このとき、式(3)より東西方向移動量y
pによる垂直軸周りの相対変位角成分は
【0057】
【数4】
と表せる。方位追従誤差をΔφ
sとすると
【0058】
【数5】
となる。ここで、S
fは角度換算係数である。
【0059】
通常は、方位追従系によってタンク2とジャイロケース1の間の相対的回転変位は常にゼロとなるように差動電圧Eφ=0に追従するため、タンク2とジャイロケース1を接続する懸吊線3に捩じり応力は生じない。しかし、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pがあると、差動電圧Eφ=0の時に方位追従誤差Δφ
sがあるために懸吊線3が捩られ、垂直軸周りに誤差トルクが発生する。この誤差トルクによる方位誤差ΔΦは次式となる。
【0060】
【数6】
ここで、K
sは懸吊線3の捩りトルク定数、HはジャイロロータGの角運動量、Ωは地球自転角速度、λは現在地点の緯度である。
【0061】
ジャイロ装置において、ジャイロケース1のスピン軸線方向の移動量ξ=0のとき東西方向移動量y
pがあっても誤差とならないが、移動量ξ≠0では、東西方向移動量y
pとスピン軸線方向の移動量ξに比例して方位誤差が発生する。高精度な方位精度が要求されるジャイロコンパスとしてのジャイロ装置においては、方位誤差ΔΦを低減させる必要がある。
【0062】
差動電圧E
φに含まれる誤差を低減するには、式(3)よりジャイロケース1のスピン軸線方向の移動量ξを変化させても差動電圧E
φが変化しない東西方向移動量y
pとなるようにジャイロ装置を組立調整するか、東西方向移動量y
pを変化させても差動電圧E
φが変化しない移動量ξ(ξ=0の点)にジャイロ装置を調整することが考えられる。このときの移動量ξが1次側コイル4N,4Sと2次側コイル5N,4Sとの距離ξ
0となる。
【0063】
ジャイロケース1の東西方向移動量y
p(第2移動量)は、ジャイロケース1、タンク2を含む、水平環12以内の重心をジンバル軸受け15,15’の下側でタンク2の鉛直軸上に調整し、水平環12が東西方向に対して水平に支持されている間は発生しない。しかしながら、垂直環16に装着されたジンバル軸受け15,15’の摩擦トルクのヒステリシスにより、船体の動揺後などに水平環12の傾斜角が水平位置に戻らないと、水平環12の傾斜によりジャイロケース1の東西方向移動量y
pが発生する。また、タンク2の重心が東西方向にずれていると、タンク2がジャイロケース1に対して東西方向に並進的に移動するため、水平環12がジンバル軸14,14’周りに傾斜し、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pが発生する。このように水平環12の東西方向傾斜は、ジンバル軸受け15,15’の摩擦トルクやタンク2の重心位置により発生するために一定とならない。このように、本実施形態に係るジャイロ装置において、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pをゼロとすることは困難であり、高額な調整装置を用いた長時間の調整を要するタンク2の重心調整や東西方向移動量y
pをゼロに制御する新たな追従装置が必要となるため、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pを発生させないように対策することは高コストとなる。
【0064】
ジャイロ装置が静定したとき、ジャイロロータのスピン軸線の水平面H−H’に対する傾斜角θ
aは次式で表される。
【0065】
【数7】
ここで、T
Hは水平軸周りのアンバランストルクである。この式より傾斜角θ
aは、船体のある地球上の緯度λで異なり一定では無い。ジャイロケース1の移動量ξは、ジャイロロータのスピン軸線の水平面H−H’に対する傾斜角θ
aに比例するため、傾斜角θ
aと同様に緯度λで変化し、一定では無い。
【0066】
ここまで説明したように、ジャイロケース1を懸吊体により容器内に支持し、ジャイロケース1の変位を無接触に検出するジャイロ装置においては、水平環12の東西傾斜、ジャイロケース1の移動量ξを常にゼロとすることができず、方位追従誤差Δφ
sが生じ、これにより発生する垂直軸17,17’周りの誤差トルクから方位誤差ΔΦが発生してしまう。このような方位誤差ΔΦは、検出部6,6’としてコイルを用いた場合に限らず、例えば、ジャイロケース1側に発光素子を設けて、タンク2側に受光素子を設けてジャイロケース1の変位を無接触に検出した場合にも生じ得るものである。
【0067】
(制御部の構成)
第1の実施形態に係る制御部の構成について説明する。
図9は、第1の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
図10は、オフセットθ
offが与えられた場合のタンク内のジャイロケースを示す概略図である。
【0068】
図9に示すように、ジャイロ装置に備えられた制御部33は、方位偏差信号変換部330と、水平偏差信号変換部331と、移動量信号変換部333と、方位算出部334と、水平偏差補正部335と、水平偏差信号処理部336と、方位偏差信号処理部337とを有する。このうち、方位算出部334及び水平偏差補正部335は制御部33による演算によって実現される機能である。
【0069】
方位偏差信号変換部330は、矩形コイル5NW,5NE,5SW,5SEの出力端子である垂直出力端子4−1から出力された電圧を方位偏差φ
sとして方位算出部334に入力する。水平偏差信号変換部331は、矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLの出力端子である水平出力端子5−1から出力された電圧を水平偏差θ
sとして水平偏差補正部335に入力する。移動量信号変換部333は、制振コイル40N,40Sの出力端子である制振出力端子6−1から出力された電圧を移動量ξとして方位算出部334に入力する。水平偏差信号処理部336は、水平偏差補正部335により補正された水平偏差を水平サーボ増幅器31へ出力する。方位偏差信号処理部337は、方位偏差信号変換部330により出力された方位偏差及び移動量信号変換部333により出力された移動量を入力として、移動量により方位偏差を補正し、この補正した方位偏差を方位サーボ増幅器30へ出力する。
【0070】
方位算出部334は、方位追従系における偏差である方位偏差φ
sと、制振系における検出値である移動量ξと、ジャイロ装置の外部装置より入力される船舶の速度V及び緯度λとに基づいて、方位Φを算出して出力する。
【0071】
水平偏差補正部335は、水平追従系における偏差である水平偏差θ
sを予め設定されたオフセットθ
offに基づいて補正した水平偏差θ
s‐を水平偏差信号処理部336に入力する。具体的には、水平偏差補正部335は、水平偏差θ
s‐を、θ
S‐=θ
s+θ
offの式により算出する。ここで、オフセットθ
offは、ジャイロ装置の稼働に先立って設定される所定の値であり、タンク2に対してジャイロケース1が垂直軸17,17’周りに変位しない状態において、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pを変化させても差動電圧Eφがゼロとなるような値に設定される。
【0072】
水平偏差補正部335に入力されたオフセットθ
offにより補正された水平偏差θ
s‐が水平偏差信号処理部336を介して水平サーボ増幅器31に与えられることにより、
図10に示すように、水平追従系における追従点はθ
offとなる。このときジャイロケース1のスピン軸方向は変わらず、ジャイロケース1が移動量ξだけ移動する。つまり、水平追従系のオフセットθ
offによりジャイロケース1の移動量ξが変えられる。ジャイロケース1の移動量ξと傾斜角θは、比例関係にあるので所望のジャイロケース1の移動量ξとなる水平追従系のオフセットθ
offが予め求められる。
【0073】
これにより、水平環12が傾斜しても差動電圧E
φが変化しないジャイロケース1の移動量ξとし、方位偏差φ
sに含まれる方位追従誤差Δφ
sを減少させ、延いては、方位偏差φ
sに基づいて方位算出部334により算出される方位Φに含まれる方位誤差ΔΦを低減できる。
【0074】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係るジャイロ装置について説明する。本実施形態に係るジャイロ装置は、制御部の構成、具体的には水平偏差補正部の構成が第1の実施形態と異なっているため、以下ではこの差異についてのみ説明する。
図11は、第2の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【0075】
図11に示すように、本実施形態に係るジャイロ装置の制御部33aは、水平偏差補正部335に代えて水平偏差補正部335aを備える点が第1の実施形態における制御部33とは異なる。水平偏差補正部335aは、オフセットθ
offに加え、ジャイロの角運動量H、指北定数K、地球自転速度Ω、及び現在地点の緯度λに基づいて、水平偏差値θ
sを補正して水平偏差値θ
s‐として水平サーボ増幅器31へ出力する。具体的には、水平偏差補正部335aは、以下の式により補正された水平偏差θ
s‐を算出する。
【0077】
このように、緯度によるジャイロケース1の移動量ξの変化をも考慮することによって、水平環12が傾斜し、更に緯度λが変化しても差動電圧Eφが変化しないジャイロケース1の移動量ξとし、方位偏差φ
sに含まれる方位追従誤差Δφ
sを減少させ、延いては、方位偏差φ
sに基づいて方位算出部334により算出される方位Φに含まれる方位誤差ΔΦを更に低減できる。
【0078】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係るジャイロ装置について説明する。本実施形態に係るジャイロ装置は、制御部の構成、具体的には方位偏差補正部を更に備える点が第2の実施形態と異なっているため、以下ではこの差異についてのみ説明する。
図12は、第3の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【0079】
図12に示すように、本実施形態におけるジャイロ装置の制御部33bは、方位偏差補正部338を更に備える点が第2の実施形態における制御部33aとは異なる。方位偏差補正部338は、ジャイロケース1の東西方向移動量y
pと南北方向移動量のξ
0、角度換算係数であるS
fと、方位サーボ増幅器出力φ
sと、ジャイロケース1の移動量ξとに基づいて、方位偏差信号変換部330により出力された方位偏差φ
sを補正した方位偏差φ
s‐を出力する。ここで、ξ
0は、上述したように、ジャイロケース1の移動量ξ=0である場合の1次側コイル4N及び4Sとこれらに対応する2次側コイル5N及び5Sとの距離を示す。具体的には、方位偏差補正部338は、以下の式により補正された方位偏差φ
s‐を算出する。
【0081】
このような方位偏差φ
s‐によれば、方位追従誤差Δφ
sを含まないため、方位偏差φ
s‐に基づいて方位算出部334により算出される方位Φに含まれる方位誤差ΔΦを更に低減できる。
【0082】
なお、方位偏差φ
s‐の算出に用いられる東西方向移動量y
pは、ジャイロ装置の稼働に先立って予め設定される値であり、ジャイロ装置の組立調整後の検査工程において測定された値である。東西方向移動量y
pは、上述したように、1次側コイル4N,4Sそれぞれの東西方向への移動量y
N、y
S(
図8参照)を加算したものであり、これらの移動量y
N、y
Sは、それぞれ、2次側コイル5N,5Sにおける矩形コイル5NW,5NEの出力端子2−1、矩形コイル5SW,5SEの出力端子2−2において検出され、具体的には、出力端子2−1と出力端子2−2との出力電圧が互いに逆極性である場合に、これらの出力電圧を移動量y
N、y
Sとして検出する。
【0083】
これまで説明したように、本発明によれば、補正した水平偏差により水平追従系を動作させ、更には方位の算出に用いられる方位偏差を補正することによって、東西方向移動量を生じさせない対策を行う場合と比較してより低コストでジャイロケースの東西方向への移動に起因する方位誤差を低減させることができる。
【0084】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。