【文献】
American Journal of Pathology,2000年,Vol.156, No.5,p.1773-1779
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「リンチ症候群(Lynch syndrome)」とは、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であって、下記のリンチ症候群関連腫瘍への易罹患性腫瘍症候群を意味する。「リンチ症候群」は、一般に遺伝性大腸癌の一種である遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non−polyposis colorectal cancer:HNPCC)と同一疾患として取り扱われるが、リンチ症候群患者では、大腸だけでなく、子宮内膜、胃、卵巣、小腸、胆道、膵臓、腎盂・尿管、脳、皮脂腺等、様々な組織に腫瘍が発生する場合がある。リンチ症候群患者においてみられるこれらの腫瘍はリンチ症候群関連腫瘍と呼ばれる。本発明における「リンチ症候群関連腫瘍」とは、大腸癌に限られず、上述したリンチ症候群患者においてみられる様々な組織に発生する腫瘍を包含する。
【0018】
「Epimutation」は、影響を受けた遺伝子のDNA配列の変化をもたらさずに、通常はアクティブな遺伝子の転写サイレンシング(transcriptional silencing)、又は通常はサイレントな遺伝子の活性化をもたらすエピジェネティックな異常である。
【0019】
「Constitutional epimutation」とは、個体の正常細胞に存在して(ただし生殖細胞には存在していなくともよい)、疾患のフェノタイプの原因となるエピミューテーションである。
【0020】
「Germ line epimutaion」は、(エピジェネティックな改変を受けていない)配偶子に存在する、親の片方の対立遺伝子に影響を与えるエピミューテーションである。
【0021】
本明細書において、「腫瘍」とは良性腫瘍および悪性腫瘍(癌)を包含する。
【0022】
本明細書において、「CpGサイト」とは、DNA中でシトシン(C)とグアニン(G)との間がホスホジエステル結合(p)している部位のことを意味する。また本明細書において、CpGアイランドは、ホスホジエステル結合(p)を介したシトシン(C)−グアニン(G)の2塩基配列が高頻度で出現する領域をいう。CpGアイランドは、遺伝子上流のプロモーター領域に存在することが多い。本明細書において、「(ある)遺伝子のCpGサイトまたはCpGアイランド」とは、当該遺伝子のコード領域に近い位置に存在するCpGアイランド、または該CpGアイランドに含まれるCpGサイトを意味し、好ましくは当該遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGサイトまたはCpGアイランドを意味する。特定の遺伝子のCpGサイトまたはCpGアイランドは、MassARRAY法、パイロシークエンシング等の方法に基づいて同定することができる。
【0023】
本明細書において、「DNAメチル化」とは、DNAにおいて、シトシンの5位の炭素がメチル化されている状態のことを意味する。また本明細書において、DNAの「メチル化を検出する」とは、当該DNAにおけるメチル化DNAの存在の有無もしくは存在量、存在量の比、または当該DNAのメチル化率を測定することを意味する。本明細書において、「DNAメチル化率」とは、検出の対象とする特定のDNAにおいてCpGサイトのシトシンがメチル化されている割合を意味し、例えば、検出の対象とする特定のDNA領域における全シトシン数(メチル化シトシンおよび非メチル化シトシン)に対するメチル化シトシン数の比率にて表すことができる。
【0024】
本明細書において、「高メチル化DNA(または単にメチル化DNAともいう)」とは、メチル化率が、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であるDNAを意味する。また、「低メチル化DNA(または非メチル化DNAともいう)」とは、DNAメチル化率が、例えば50%未満、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であるDNAを意味する。また本明細書において、「高メチル化DNA(または単にメチル化DNA)を示すピーク」とは、高メチル化DNAから得られるクロマトグラフィー検出シグナルのピークを意味し、また「低メチル化DNA(または非メチル化DNA)を示すピーク」とは、低メチル化DNAから得られるクロマトグラフィー検出シグナルのピークを意味する。DNAメチル化率は、パイロシークエンシング等の公知の方法で決定することができるが、本発明の方法における「高メチル化DNA」および「低メチル化DNA」の判定は、後述する手順でイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムから算出されたDNAメチル化率に基づいて行われる。
【0025】
本明細書において「保持時間」とは、カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーにおいて、カラムに物質が導入されてから溶出されるまでの時間を意味し、換言すると、カラムに物質が保持されている時間を意味する。また、保持時間のことを溶出時間という場合もある。イオン交換クロマトグラフィーの検出シグナルの保持時間(溶出時間)は、DNAメチル化率と相関する(特許文献2参照)。したがって、イオン交換クロマトグラフィーの検出シグナルの保持時間(溶出時間)を測定することにより、DNAメチル化率を算出できる。より詳細には、既知のメチル化率を有する標準DNAからクロマトグラフィー検出シグナルの保持時間の検量線を作成し、これに試料DNAのクロマトグラフィー検出シグナルの保持時間をあてはめることで、該試料DNAのメチル化率を算出することができる。複数の検出シグナル(ピーク)が認められるクロマトグラムからDNAメチル化率を算出する場合は、例えば、特許文献3に開示されるように、検出シグナルの保持時間の平均値をまず算出し、次いでDNAメチル化率の平均値に換算すればよい。
【0026】
一実施形態において、本発明は、腫瘍の判定方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程、
ここで、該被験組織または細胞は、以下:
腫瘍に罹患した患者であって、
(i)該腫瘍がMSI検査でMSI−H、および/または該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下している、かつ
(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、
と判定された患者由来の組織または細胞である;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるか否かを判定する工程;
(5)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該腫瘍を、リンチ症候群ではない患者由来の腫瘍であると判定する工程、
を含む方法を提供する。
【0027】
別の実施形態において、本発明は、腫瘍患者の判定方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程、
ここで、該被験組織または細胞は、以下:
腫瘍に罹患した患者であって、
(i)該腫瘍がMSI検査でMSI−H、および/または該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下している、かつ
(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、
と判定された患者由来の組織または細胞である;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるか否かを判定する工程;
(5)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該患者を、リンチ症候群ではない患者であると判定する工程、
を含む方法を提供する。
【0028】
別の実施形態において、本発明は、腫瘍患者からリンチ症候群ではない患者を判定するためのメチル化DNAの測定方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程、
ここで、該被験組織または細胞は、以下:
腫瘍に罹患した患者であって、
(i)該腫瘍がMSI検査でMSI−H、および/または該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下している、かつ
(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、
と判定された患者由来の組織または細胞である;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるか否かを判定する工程、
を含み、
該工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該患者をリンチ症候群ではない患者であると判定する、
方法を提供する。
【0029】
さらに別の実施形態において、本発明は、腫瘍を判定するためのデータを得る方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程、
ここで、該被験組織または細胞は、以下:
腫瘍に罹患した患者であって、
(i)該腫瘍がMSI検査でMSI−H、および/または該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下している、かつ
(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、
と判定された患者由来の組織または細胞である;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるか否かを、該腫瘍がリンチ症候群ではない患者由来の腫瘍であるか否かを判定するためのデータとして取得する工程、
を含む方法を提供する。
【0030】
上記本発明の実施形態が適用される被験体としては、腫瘍に罹患した患者であって、かつその腫瘍がリンチ症候群による腫瘍でないことを確認したい患者が挙げられる。より詳細には、被験体は、腫瘍に罹患した患者であって、(i)当該腫瘍がMSI検査でMSI−Hと判定されているか、および/または当該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下していると判定されており、かつ(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、と判定されている患者である。腫瘍としては、特に限定されず、例えば、口腔、舌、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、胆のう、胆道、腎臓、腎盂、副腎、尿管、乳腺、前立腺、精巣、卵巣、子宮、肺、脳、皮脂腺、皮膚、血液、リンパ、骨髄などにおける腫瘍が挙げられ、好ましくは大腸、子宮内膜、胃、卵巣、小腸、胆道、膵臓、腎盂、尿管、脳または皮脂腺における腫瘍が挙げられる。より好ましくは、上記腫瘍は大腸腫瘍である。
本実施形態で使用される被験組織または細胞は、上記被験体に由来する、上記腫瘍を含む組織または細胞であり、好ましくは大腸、子宮内膜、胃、卵巣、小腸、胆道、膵臓、腎盂、尿管、脳または皮脂腺における腫瘍を含む組織または細胞である。あるいは、本実施形態で使用される被験組織または細胞は、上記被験体に由来する非腫瘍組織または細胞であってもよい。非腫瘍組織または細胞を用いた本実施形態の方法は、epimutationによるDNAメチル化をきたしている患者の判定を可能にする。
【0031】
さらなる実施形態において、本発明は、リンチ症候群由来と非リンチ症候群由来の組織または細胞の鑑別方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、メチル化DNAの検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られたメチル化DNAの検出シグナルのピーク値を対照群のピーク値と比較し、変動量を計測する工程、
を含む方法を提供する。
【0032】
さらなる実施形態において、本発明は、組織または細胞の判定方法であって、以下:
(1)被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程;
(5)(i)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該組織または細胞を、リンチ症候群関連腫瘍を発症していないかまたは発症する可能性の低い患者から得られた組織または細胞と判定するか、または、
(ii)工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該組織または細胞を、リンチ症候群関連腫瘍を発症しているかまたは発症する可能性の高い患者から得られた組織または細胞と判定する、工程、
を含む方法を提供する。
【0033】
さらなる実施形態において、本発明は、リンチ症候群関連腫瘍の発症可能性の判定方法であって、以下;
(1)被験体由来の組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程;
(5)(i)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該被験体を、リンチ症候群関連腫瘍を発症していないかまたは発症する可能性の低い者と判定するか、または、
(ii)工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該被験体を、リンチ症候群関連腫瘍を発症しているかまたは発症する可能性の高い者と判定する、工程、
を含む方法を提供する。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明は、リンチ症候群関連腫瘍の発症可能性を判定するためのメチル化DNAの測定方法であって、以下:
(1)被験体由来の組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程、
を含み、
該工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合には、該被験体は、リンチ症候群関連腫瘍を発症していないかまたは発症する可能性の低い者と判定され、該工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合には、該被験体は、リンチ症候群関連腫瘍を発症しているかまたは発症する可能性の高い者と判定される、
方法を提供する。
【0035】
さらなる実施形態において、本発明は、リンチ症候群関連腫瘍の発症可能性を判定するためのデータを得る方法であって、以下:
(1)被験体由来の組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを、該被験体がリンチ症候群関連腫瘍を発症しているか否か、または発症する可能性の高い者であるかもしくは低い者であるかを判定するためのデータとして取得する工程、
を含む方法を提供する。
【0036】
さらなる実施形態において、本発明は、腫瘍の鑑別方法であって、以下:
(1)腫瘍を含む被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程;
(5)(i)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該腫瘍を、リンチ症候群ではない患者から得られた腫瘍と判定するか、または
(ii)工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該腫瘍を、リンチ症候群の疑いのある患者から得られた腫瘍と判定する、工程、
を含む方法を提供する。
【0037】
さらなる実施形態において、本発明は、腫瘍患者の鑑別方法であって、以下:
(1)被験体由来の腫瘍を含む組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程;
(5)(i)工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該被験体を、リンチ症候群ではないと判定するか、または
(ii)工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合に、該被験体を、リンチ症候群の疑いありと判定する、工程、
を含む方法を提供する。
【0038】
さらなる実施形態において、本発明は、腫瘍患者を判定するためのメチル化DNAの測定方法であって、以下:
(1)被験体由来の腫瘍を含む組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを判定する工程、
を含み、
該工程(4)において、該ピークが高メチル化DNAを示すピークと判定された場合には、該被験体を、リンチ症候群ではないと判定し、該工程(4)において、該ピークが低メチル化DNAを示すピークと判定された場合には、該被験体を、リンチ症候群の疑いありと判定する、
方法を提供する。
【0039】
さらなる実施形態において、本発明は、腫瘍の鑑別のためのデータを得る方法であって、以下:
(1)腫瘍を含む被験組織または細胞から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)工程(1)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAから、MLH1プロモーター領域の一部または全部を含むDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)工程(2)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけ、検出シグナルを得る工程;
(4)工程(3)で得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークであるか高メチル化DNAを示すピークであるかを、該腫瘍がリンチ症候群の疑いのある患者から得られた腫瘍であるか否かを鑑別するためのデータとして取得する工程、
を含む方法を提供する。
【0040】
上記本発明のさらなる実施形態が適用される被験体としては、リンチ症候群関連腫瘍が疑われる患者が挙げられる。例えば、被験体としては、大腸、子宮内膜、胃、卵巣、小腸、胆道、膵臓、腎盂、尿管、脳または皮脂腺などに腫瘍が見つかった患者、または該腫瘍の治療が施された患者であって、該腫瘍がリンチ症候群関連腫瘍か否かの判定を必要とする者が挙げられる。あるいは、被験体としては、現在はリンチ症候群関連腫瘍に罹患していないが、将来リンチ症候群関連腫瘍を発症する可能性(発症リスク)の判定を必要とする者が挙げられる。好ましい実施形態において、上記被験体は、大腸腫瘍を有する患者であって、リンチ症候群か否かの判定を必要とする患者が挙げられる。
本実施形態で使用される被験組織または細胞は、上記被験体由来の組織または細胞であればよく、好ましくは大腸、子宮内膜、胃、卵巣、小腸、胆道、膵臓、腎盂、尿管、脳または皮脂腺の組織または細胞である。これらの腫瘍は、腫瘍を含む組織または細胞であっても、非腫瘍組織または細胞であってもよい。被験体から見つかった腫瘍がリンチ症候群関連腫瘍であるか否かを判定するためには、腫瘍を含む組織または細胞が使用される。リンチ症候群関連腫瘍の発症リスクの判定の場合には、腫瘍を含む組織または細胞および非腫瘍組織または細胞のいずれを使用してもよい。
【0041】
上述したいずれの実施形態においても、上記被験組織または細胞は、例えば、生検や外科手術等において採取した組織または細胞、それらの凍結物もしくは固定化標本(ホルマリン固定、パラフィン包埋、パラフィンブロック等)、または培養細胞であり得る。非腫瘍組織または細胞としては、血液を使用することができる。本発明の方法は、in vitroまたはex vivoで行われる。
【0042】
上記組織または細胞からゲノムDNAを調製する方法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。DNAを調製する公知の方法としては、フェノールクロロホルム法、または市販のDNA抽出キット、例えばQIAamp(登録商標)DNA Mini kit(Qiagen社製)、QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissue Kit(QIAGEN社製)、QIAamp(登録商標)DNA Blood Maxi Kit(QIAGEN社製)、Clean Columns(NexTec社製)、AquaPure(Bio−Rad社製)、ZR Plant/Seed DNA Kit(Zymo Research社製)、prepGEM(ZyGEM社製)、BuccalQuick(TrimGen社製)を用いるDNA抽出方法等が挙げられる。
【0043】
次いで、抽出したゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する。DNAの亜硫酸水素塩処理の方法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。亜硫酸水素塩処理のための公知の方法としては、例えば、EpiTect(登録商標)Bisulfite Kit(48)(Qiagen社製)や、MethylEasy(Human Genetic Signatures Pty社製)、Cells−to−CpG Bisulfite Conversion Kit(Applied Biosystems社製)、CpGenome Turbo Bisulfite Modification Kit(MERCK MILLIPORE社製)などの市販のキットを用いる方法が挙げられる。
【0044】
次いで、亜硫酸水素塩によって処理されたゲノムDNAをPCRにかけ、標的DNAを増幅する。PCR増幅の方法としては特に制限はなく、増幅対象の標的DNAの配列、長さ、量などに応じて、公知の手法を適宜選択して用いることができる。
【0045】
リンチ症候群においては、MLH1プロモーター領域におけるDNAメチル化がほとんど認められないとされている。したがって、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、好ましくは、上記MLH1プロモーター領域におけるDNAメチル化を検出できるように選択され、より好ましくは、上記MLH1プロモーター領域のCpGアイランドまたはCpGサイトのメチル化を検出できるように選択される。例えば、標的DNAは、MLH1のプロモーター領域の一部または全部を含むDNAである。より好ましくは、上記MLH1プロモーター領域のCpGアイランドの一部または全部を含むDNAである。
【0046】
MLH1はRefSeq ID:NG_007109.2で特定される遺伝子である。MLH1プロモーター領域は、表1に示す配列番号1で示される塩基配列からなるDNAである。したがって、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、好ましくは、配列番号1で示される塩基配列の全長またはその部分配列からなるDNAである。該標的DNAのより好ましい例としては、配列番号1で示される塩基配列の470〜568番塩基領域、1〜182番塩基領域、159〜363番塩基領域、336〜568番塩基領域、470〜704番塩基領域または684〜841番塩基領域を含むDNAが挙げられ、さらに好ましい例としては、配列番号1で示される塩基配列の470〜568番塩基領域、1〜182番塩基領域、159〜363番塩基領域、336〜568番塩基領域、470〜704番塩基領域または684〜841番塩基領域からなるDNAである。本発明において、当該標的DNAは、その0〜100%メチル化したDNAを包含する。
【0048】
PCR増幅する標的DNAの鎖長は、PCRの増幅時間の短縮、ならびにイオン交換クロマトグラフィーでの分析時間の短縮や分離性能の維持等の要素を勘案して適宜選択することができる。本発明の方法でPCR増幅する標的DNAの鎖長は、好ましくは1000bp以下、より好ましくは700bp以下、さらに好ましくは500bp以下、なお好ましくは300bp以下である。一方、PCRにおける非特異的ハイブリダイズを避けるためには、標的DNAの鎖長は30〜40bp以上が好ましい。より好ましい実施形態において、標的DNAの鎖長は50〜500bp、さらに好ましくは70〜300bpである。
【0049】
したがって、好ましい実施形態において、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAである。別の好ましい実施形態において、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、配列番号1で示される塩基配列の部分配列からなり、かつ塩基長50〜500bp、好ましくは70〜300bpのDNAである。別の好ましい実施形態において、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、配列番号1で示される塩基配列からなるDNA中の、配列番号6と7、配列番号18と19、配列番号20と22、配列番号25と26、配列番号29と28、または配列番号30と32で示される塩基配列からなるプライマーのセットにより増幅される領域である。
【0050】
あるいは、後天的な要因によるMLH1タンパクの欠失が疑われる場合には、MLH1プロモーター領域および/またはIntron1領域(配列番号33)(Cell oncol.,36,411−419,2013)のCpGアイランドまたはCpGサイトのDNAメチル化を検出できるように、標的DNAが選択される。例えば、標的DNAは、MLH1のプロモーター領域および/またIntron1領域の一部または全部を含むDNAである。より好ましくは、上記MLH1プロモーター領域および/またIntron1領域のCpGアイランドの一部または全部を含むDNAである。
【0051】
好ましい実施形態において、標的DNAは、その全塩基数に対するCpGサイトのシトシン数が2%以上、より好ましくは5%以上となるように、領域および鎖長が決定されることが望ましい。
【0052】
続いて、得られたPCR増幅産物をサンプルDNAとして、イオン交換クロマトグラフィーにかける。本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーが好適である。本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムの充填剤としては、表面に強カチオン性基を有する基材粒子であれば特に限定されないが、国際公開公報第2012/108516号に示される充填剤表面に強カチオン性基と弱カチオン性基の両方を有する基材粒子が好ましい。
【0053】
本明細書において、上記強カチオン性基とは、pHが1から14の広い範囲で解離するカチオン性基を意味する。すなわち、上記強カチオン性基は、水溶液のpHに影響を受けず解離した(カチオン化した)状態を保つことが可能である。
【0054】
上記強カチオン性基としては、4級アンモニウム基が挙げられる。具体的には例えば、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、ジメチルエチルアンモニウム基等のトリアルキルアンモニウム基等が挙げられる。また、上記強カチオン性基のカウンターイオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0055】
上記基材粒子の表面に導入される上記強カチオン性基量は、特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は1μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記強カチオン性基量が1μeq/g未満であると、保持力が弱く分離性能が悪くなることがある。上記強カチオン性基量が500μeq/gを超えると、保持力が強くなり過ぎてサンプルDNAを容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0056】
本明細書において、上記弱カチオン性基とは、pkaが8以上のカチオン性基を意味する。すなわち、上記弱カチオン性基は、水溶液のpHによる影響を受け、解離状態が変化する。すなわち、pHが8より高くなると、上記弱カチオン性基のプロトンは解離し、プラスの電荷を持たない割合が増える。逆にpHが8より低くなると、上記弱カチオン性基はプロトン化し、プラスの電荷を持つ割合が増える。
【0057】
上記弱カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基等が挙げられる。なかでも、3級アミノ基であることが望ましい。
【0058】
上記基材粒子の表面に導入される上記弱カチオン性基量は、特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は0.5μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記弱カチオン性基量が0.5μeq/g未満であると、少なすぎて分離性能が向上しないことがある。上記弱カチオン性基量が500μeq/gを超えると、強カチオン性基と同様保持力が強くなり過ぎてサンプルDNAを容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0059】
上記基材粒子表面の強カチオン性基または弱カチオン性基量は、アミノ基に含まれる窒素原子を定量することにより測定することができる。窒素を定量する方法として、例えばケルダール法が挙げられる。本発明(実施例)記載の充填剤の場合には、まず、重合後に強カチオン性基に含まれる窒素を定量し、次いで、弱カチオン性基を導入した後の強カチオン性基と弱カチオン性基に含まれる窒素を定量することにより、後から導入した弱カチオン性基量を算出することができる。このように定量することにより、充填剤を調製する際に、強カチオン性基量および弱カチオン性基量を上記範囲内に調整することができる。
【0060】
上記基材粒子としては、例えば、重合性単量体等を用いて得られる合成高分子微粒子、シリカ系等の無機微粒子等を用いることができるが、合成有機高分子からなる疎水性架橋重合体粒子であることが望ましい。
【0061】
上記疎水性架橋重合体は、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体を共重合して得られる疎水性架橋重合体、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体と少なくとも1種の疎水性非架橋性単量体とを共重合して得られる疎水性架橋重合体のいずれであってもよい。
【0062】
上記疎水性架橋性単量体としては、単量体1分子中にビニル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル若しくはテトラ(メタ)アクリル酸エステル、またはジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン等の芳香族系化合物が挙げられる。なお、本明細書において上記(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0063】
上記反応性官能基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0064】
上記疎水性非架橋性単量体としては、疎水性の性質を有する非架橋性の重合性有機単量体であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルや、スチレン、メチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0065】
上記疎水性架橋重合体が、上記疎水性架橋性単量体と上記反応性官能基を有する単量体とを共重合して得られるものである場合、上記疎水性架橋重合体における上記疎水性架橋性単量体に由来するセグメントの含有割合の好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は20重量%である。
【0066】
本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記基材粒子の表面に、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体層を有するものであることが好ましい。また、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体において、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とはそれぞれ独立した単量体に由来するものであることが好ましい。具体的には、本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記疎水性架橋重合体粒子と、上記疎水性架橋重合体粒子の表面に共重合された強カチオン性基を有する親水性重合体の層とからなる被覆重合体粒子の表面に、弱カチオン性基が導入されたものであることが好適である。
【0067】
上記強カチオン性基を有する親水性重合体は、強カチオン性基を有する親水性単量体から構成されるものであり、1種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体に由来するセグメントを含有すればよい。すなわち、上記強カチオン性基を有する親水性重合体を製造する方法としては、強カチオン性基を有する親水性単量体を単独で重合させる方法、2種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合させる方法、強カチオン性基を有する親水性単量体と強カチオン性基を有しない親水性単量体を共重合させる方法等が挙げられる。
【0068】
上記強カチオン性基を有する親水性単量体としては、4級アンモニウム基を有するものであることが好ましい。具体的には例えば、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0069】
上記被覆重合体粒子の表面に上記弱カチオン性基を導入する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、上記弱カチオン性基として3級アミノ基を導入する方法としては、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いでグリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法;イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法;上記疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体と3級アミノ基を有する単量体とを共重合する方法;3級アミノ基を有するシランカップリング剤を用いて上記強カチオン性基を有する親水性重合体の層を有する被覆重合体粒子の表面に3級アミノ基を導入する方法;カルボキシ基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、カルボキシ基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法;エステル結合を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、エステル結合部を加水分解した後、次いで、加水分解によって生成したカルボキシ基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、グリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法や、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法が好ましい。
【0070】
グリシジル基やイソシアネート基等の反応性官能基に反応させる上記3級アミノ基を有する試薬としては、3級アミノ基と、反応性官能基に反応可能な官能基を有する試薬であれば、特に限定されない。上記反応性官能基に反応可能な官能基としては、例えば、1級アミノ基、水酸基等が挙げられる。なかでも、末端に1級アミノ基を有している基が好ましい。当該官能基を有する具体的な試薬としては、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0071】
上記強カチオン性基、好ましくは4級アンモニウム塩と、上記弱カチオン性基、好ましくは3級アミノ基との相対的な位置関係は、上記強カチオン性基が上記弱カチオン性基よりも基材粒子の表面から遠い位置、即ち外側にあることが好ましい。例えば、上記弱カチオン性基は基材粒子表面から30Å以内にあり、上記強カチオン性基は基材粒子表面から300Å以内で、かつ、弱カチオン性基よりも外側にあることが好ましい。
【0072】
本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤に使用される上記基材粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は20μmである。上記平均粒子径が0.1μm未満であると、カラム内が高圧になりすぎて分離不良を起こすことがある。上記平均粒子径が20μmを超えると、カラム内のデッドボリュームが大きくなりすぎて分離不良を起こすことがある。なお、本明細書において上記平均粒子径は体積平均粒子径を示し、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製など)を用いて測定することができる。
【0073】
本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液の組成としては、公知の条件を用いることができる。
【0074】
上記溶離液に用いる緩衝液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスとEDTAからなるTE緩衝液、トリスとホウ酸とEDTAからなるTBA緩衝液等が挙げられる。
【0075】
上記溶離液のpHは特に限定されないが、好ましい下限は5、好ましい上限は10である。この範囲に設定することで、上記弱カチオン性基も効果的にイオン交換基(アニオン交換基)として働くと考えられる。上記溶離液のpHのより好ましい下限は6、より好ましい上限は9である。
【0076】
上記溶離液に含まれる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のハロゲン化物とアルカリ金属とからなる塩;塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化物とアルカリ土類金属とからなる塩;過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機酸塩、等を用いることができる。また、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等の有機酸塩を用いることもできる。上記塩は、いずれか単独または組み合わせて使用され得る。
【0077】
上記溶離液の塩濃度としては、分析条件に合わせ適宜調整すればよいが、好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は2000mmol/Lであり、より好ましい下限は100mmol/L、より好ましい上限は1500mmol/Lである。
【0078】
さらに、本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィーに使用される溶離液には、分離性能をさらに高めるためにアンチカオトロピックイオンが含まれている。アンチカオトロピックイオンは、カオロトピックイオンとは逆の性質を有し、水和構造を安定化させる働きがある。そのため、充填剤と核酸分子との間の疎水性相互作用を強める効果がある。本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィーの主たる相互作用は静電的相互作用であるが、加えて、疎水性相互作用の働きも利用することにより分離性能が高まる。
【0079】
上記溶離液に含まれるアンチカオトロピックイオンとしては、リン酸イオン(PO
43-)、硫酸イオン(SO
42-)、アンモニウムイオン(NH
4+)、カリウムイオン(K
+)、ナトリウムイオン(Na
+)などが挙げられる。これらのイオンの組合せの中でも、硫酸イオンおよびアンモニウムイオンが好適に用いられる。上記アンチカオトロピックイオンは、いずれか単独または組み合わせて使用され得る。なお、上述のアンチカオトロピックイオンの一部には、上記溶離液に含まれる塩や緩衝液の成分が含まれる。このような成分を使用する場合、溶離液に含まれる塩としての性質または緩衝能と、アンチカオトロピックイオンとしての性質の両方を具備するので、本発明には好適である。
【0080】
本発明で用いるイオン交換クロマトグラフィー用溶離液におけるアンチカオトロピックイオンの分析時の濃度は、分析対象物に合わせて適宜調整すればよいが、アンチカオトロピック塩として2000mmol/L以下であることが望ましい。具体的には、アンチカオトロピック塩の濃度を0〜2000mmol/Lの範囲でグラジエント溶出させる方法を挙げることができる。従って、分析開始時のアンチカオトロピック塩の濃度は0mmol/Lである必要はなく、また、分析終了時のアンチカオトロピック塩の濃度も2000mmol/Lである必要はない。上記グラジエント溶出の方法は、低圧グラジエント法であっても高圧グラジエント法であってもよいが、高圧グラジエント法による精密な濃度調整を行いながら溶出させる方法が好ましい。
【0081】
上記アンチカオトロピックイオンは、溶出に用いる溶離液のうちの1種のみに添加してもよいが、複数種の溶離液に添加してもよい。また上記アンチカオトロピックイオンは、充填剤とサンプルDNAとの間の疎水性相互作用を強める効果または緩衝能と、サンプルDNAをカラムから溶出させる効果の両方の役割を備えていても良い。
【0082】
本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーでサンプルDNAを分析する際のカラム温度は、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは45℃以上である。イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が30℃未満であると充填剤とサンプルDNAとの間の疎水性相互作用が弱くなり、所望の分離効果を得ることが難しくなる。イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が45℃未満である場合、メチル化DNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(メチル化DNAサンプル)と非メチル化DNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(非メチル化DNAサンプル)との保持時間の差が小さい。さらに、カラム温度が60℃以上では、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルの間の保持時間の差がさらに広がり、かつそれぞれのピークもより明瞭になるので、より精度のよいDNAのメチル化の検出が可能になる。
【0083】
さらに、イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が高くなると、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルとが明瞭に分離されるので、標的DNA中のメチル化DNAと非メチル化DNAの存在比率に従って両者の保持時間のピーク面積またはピーク高さに差異が生じやすくなる。したがって、カラム温度を高くすれば、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルの間の保持時間のピークの面積または高さに基づいて、標的DNA中のメチル化DNAおよび非メチル化DNAそれぞれの存在量や存在比率を測定することがより容易になる。
【0084】
一方、イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が90℃以上になると、サンプルDNA中の核酸分子の二本鎖が乖離するため分析上好ましくない。さらに、カラム温度が100℃以上になると、溶離液の沸騰が生じる恐れがあるため分析上好ましくない。したがって、本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーでサンプルDNAを分析する際のカラム温度は、30℃以上90℃未満であればよく、好ましくは40℃以上90℃未満であり、より好ましくは45℃以上90℃未満であり、さらに好ましくは55℃以上90℃未満であり、さらにより好ましくは55℃以上85℃以下であり、なお好ましくは60℃以上85℃以下である。
【0085】
上記イオン交換クロマトグラフィーカラムへの試料注入量は、特に限定されずカラムのイオン交換容量および試料濃度に応じて適宜調整すればよい。流速は0.1mL/minから3.0mL/minが好ましく、0.5mL/minから1.5mL/minがより好ましい。流速が遅くなると分離の向上が期待できるが、遅くなりすぎると分析に長時間を要したり、ピークのブロード化による分離性能の低下を招く恐れがある。逆に流速が早くなると分析時間の短縮という面においてはメリットがあるが、ピークが圧縮されるため分離性能の低下を招く。よって、カラムの性能によって適宜調整されるパラメータではあるが、上記流速の範囲に設定することが望ましい。各サンプルの保持時間は、各サンプルについて予備実験を行うことによって予め決定することができる。送液方法はリニアグラジエント溶出法やステップワイズ溶出法など公知の送液方法を用いることができるが、本発明における送液方法としてはリニアグラジエント溶出法が好ましい。グラジエント(勾配)の大きさは溶出に用いる溶離液を0%から100%の範囲で、カラムの分離性能および分析対象物(ここではサンプルDNA)の特性に合わせ適宜調整すればよい。
【0086】
本発明においては、上述した手順で亜硫酸水素塩処理した標的DNAのPCR増幅産物(すなわちサンプルDNA)をイオン交換クロマトグラフィーにかける。
【0087】
DNAを亜硫酸水素塩処理した場合、当該DNA中の非メチル化シトシンはウラシルに変換されるが、メチル化シトシンはシトシンのままである。亜硫酸水素塩処理したDNAをPCR増幅すると、非メチル化シトシン由来のウラシルは、さらにチミンに置き換わるため、メチル化DNAと非メチル化DNAとの間で、シトシンとチミンの存在比率に差が生じる。したがって、サンプルDNAは、もとになる標的DNAのメチル化率に応じた異なる配列を有する。該サンプルDNAをイオン交換クロマトグラフィーにかけると、その塩基配列に応じて、異なるシグナルを示すクロマトグラムが得られる。したがって、サンプルDNAのイオン交換クロマトグラフィーで得られた検出シグナルに基づいて、標的DNAのメチル化を検出することができる。
【0088】
例えば、標的DNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(すなわちサンプルDNA)からの検出シグナルを、標的DNAと塩基配列は同じであるがメチル化していないDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(以下、陰性対照という)からの検出シグナル、または標的DNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知(例えば、100%)であるDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(以下、陽性対照という)からの検出シグナルと比較することにより、サンプルDNA中におけるメチル化DNAの存在の有無を測定することができる。
【0089】
あるいは、サンプルDNAからの検出シグナルを、陰性および陽性対照からの検出シグナルと比較することにより、標的DNA中のメチル化DNAの存在量、および非メチル化DNAとの存在量の比を測定することができる。またあるいは、標的DNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知である複数のDNAの亜硫酸水素塩処理物に由来する複数のPCR増幅産物(以下、標準という)からの検出シグナルを、サンプルDNAからの検出シグナルと比較することにより、標的DNA中のメチル化DNAのメチル化率、存在量、および非メチル化DNAとの存在量の比を測定することができる。
【0090】
したがって、上記クロマトグラフィーで得られたサンプルDNAからの検出シグナルと、陰性もしくは陽性対照、または標準からの検出シグナルとを比較することによって、両者の検出シグナルの違いに基づいて、標的DNAのメチル化を検出することができる。
【0091】
上記陰性対照、陽性対照および標準のDNAとしては、化学的または遺伝子工学的に合成したDNAを用いてもよい。また陰性対照、陽性対照および標準の調製には、市販品を用いることもでき、例えばEpiTect(登録商標) Control DNA and Control DNA Set(Qiagen社製)を使用できる。
【0092】
例えば、上記イオン交換クロマトグラフィーにおいては、上記サンプルDNAと、上記陰性対照もしくは陽性対照、または上記標準とを、個別にイオン交換クロマトグラフィー分析に供することができる。カラムに吸着した試料を、複数の溶離液を用いてグラジエント溶出させることにより、サンプルDNAと陰性対照もしくは陽性対照または標準とを、DNAメチル化率に応じて異なる保持時間で溶出することができる。
【0093】
陰性対照からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、標的DNAと塩基配列は同じであるがメチル化していないDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。陽性対照からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、標的DNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知(例えば、100%)であるDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。あるいは、上述した合成DNAや市販のDNAを、陰性または陽性対照としてイオン交換クロマトグラフィーにかけることで、陰性または陽性対照からの検出シグナルを得てもよい。
【0094】
例えば、サンプルDNAから得られた検出シグナルのピークの保持時間が、陰性対照のピークの保持時間とずれていれば、標的DNAがメチル化していると判定できる。さらにこのとき、保持時間のずれが大きいほど、メチル化率がより大きいと推定できる。逆に、サンプルDNAから得られた検出シグナルのピークの保持時間が、100%メチル化陽性対照のピークの保持時間とずれているほど、標的DNAのメチル化率はより小さいと推定できる。
【0095】
標準からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、標的DNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知である複数のDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られた複数のPCR増幅産物をそれぞれイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。さらに、得られた各々の検出シグナルから検量線を作成してもよい。あるいは、上述した合成DNAや市販のDNAを、標準としてイオン交換クロマトグラフィーにかけることで、標準からの検出シグナルを得てもよい。上記検量線により、DNAメチル化率と保持時間とを関連づけることができる。したがって、該検量線に基づいて、DNAメチル化率を求めることができる。
【0096】
また例えば、サンプルDNAから得られた検出シグナルのピークの高さまたはピーク面積を、メチル化DNAのメチル化率および混合比が既知のDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルのピークの高さまたはピーク面積と比較することによって、標的DNAにおけるメチル化DNAの存在比率(例えば非メチル化DNAの存在比率や、特定の割合でメチル化されたDNAの存在比率など)を決定することができる。
【0097】
一実施形態において、本発明の方法におけるDNAメチル化率の判定は、陽性対照(100%メチル化DNA)および陰性対照(0%メチル化DNA)のピークの保持時間とDNAメチル化率との関連付けにより作成した2点検量線を基準にすることができる。この場合、陽性対照と陰性対照の保持時間の平均値をメチル化率50%のDNAの保持時間(基準値)とし、サンプルDNAから得られた検出シグナルのピークの保持時間が基準値以下の場合、該DNAを高メチル化DNAと判定し、基準値より長い場合、該DNAを低メチル化DNAと判定することができる。
【0098】
ピークを判定する場合、クロマトグラフィー検出シグナルから、JIS K 0127:2013 イオンクロマトグラフィー通則に従い、定量下限、好ましくは検出下限を求める。ピークの形状は、ピークの分離度とクロマトグラムの傾きにより判定される。クロマトグラフィーによる検出シグナルのピークの有無を判定する方法としては、既存のデータ処理ソフトウェア、例えばLCsolution(島津製作所)、GRAMS/AI(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、Igor Pro(WaveMetrics社)などを用いたピーク検出が挙げられる。LCsolutionを用いたピークの有無の判定方法を例示すると、具体的には、まずピークを検出させたい保持時間の区間を指定する。次に、ノイズなど不要なピークを除去するために、各種パラメータを設定する。例えば、パラメータ「WIDTH」を不要なピークの半値幅よりも大きくする、パラメータ「SLOPE」を不要なピークの立ち上り傾斜より大きくする、パラメータ「DRIFT」の設定を変えることにより分離度の低いピークを垂直分割するかベースライン分割するか選択する、などが挙げられる。パラメータの値は、分析条件、選択した遺伝子マーカーの種類、検体の量などにより、異なるクロマトグラムが得られるため、クロマトグラムに応じて適切な値を設定すればよい。ピークの判定は、DNAメチル化率が0%のピークと100%のピークそれぞれの立ち上がりおよび立ち下がりが含まれる保持時間の範囲で判定されることが好ましい。サンプルDNAから複数のピークが検出された場合は、陽性対照のピークに最も近接したピークの保持時間をサンプルDNAの保持時間として採用してもよいが、各ピークの保持時間の平均値をサンプルDNA全体の保持時間として採用してもよい。
【0099】
保持時間、すなわちピークトップの時間は、上記のデータ処理ソフトウェアで自動的に計算することができる。例えば、クロマトグラムを一次微分し、微分係数が正から負へ変化する時間をピークトップの時間として取得することができる。
【0100】
上記クロマトグラフィーによる検出シグナルの保持時間に基づいて、被験体がリンチ症候群か否かをスクリーニングすることができる。例えば、サンプルDNAのクロマトグラフィーの結果、
図1のT検体が示すような早い保持時間にピークを有する検出シグナルが得られた場合、標的DNAのメチル化率は高い。これは、標的DNAがメチル化によりサイレンシングされた腫瘍を含む組織または細胞に由来することを表す。一方、サンプルDNAのクロマトグラフィーの結果、
図2のT検体が示すような遅い保持時間にピークを有する検出シグナルが得られた場合、標的DNAのメチル化率は低い。これは、標的DNAがメチル化によりサイレンシングされていない腫瘍を含む組織または細胞に由来することを表す。
【0101】
本発明によれば、上記の手順で得られた腫瘍を含む被験組織または細胞由来のサンプルDNAからのクロマトグラフィー検出シグナルのピークに基づいて、該腫瘍がリンチ症候群関連腫瘍であるか否かを判定することができる。例えば、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークである場合には、上記腫瘍を、リンチ症候群関連腫瘍ではないと判定する。一方で、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークでない場合(例えば、低メチル化DNAを示すピークである場合)には、上記腫瘍を、リンチ症候群関連腫瘍の疑いありと判定する。あるいは、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークである場合には、上記腫瘍を有する被験体を、リンチ症候群ではないと判定する。一方で、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークでない場合(例えば、低メチル化DNAを示すピークである場合)には、上記腫瘍を有する被験体を、リンチ症候群の疑いありと判定する。
【0102】
あるいは、上記の手順で得られた被験体の非腫瘍組織または細胞由来のサンプルDNAのクロマトグラフィーで得られた検出シグナルのピークに基づいて、該被験体におけるリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクを判定することができる。例えば、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークである場合には、上記被験体のリンチ症候群関連腫瘍発症リスクは低いと判定する。一方で、上記検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークでない場合(例えば、低メチル化DNAを示すピークである場合)には、上記被験体のリンチ症候群関連腫瘍発症リスクは高いと判定する。
【0103】
よって本発明においては、クロマトグラフィー検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるサンプルDNAは、リンチ症候群関連腫瘍を発症しているかもしくはその発症リスクの高い被験体由来でないDNA、または該被験体の組織もしくは細胞由来でないDNAの候補として選択される。一方、クロマトグラフィー検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークでないサンプルDNAは、リンチ症候群を発症しているかもしくはその発症リスクの高い被験体由来のDNA、または該被験体の組織もしくは細胞由来のDNAの候補として選択される。
【0104】
本発明における腫瘍または被験体についてのリンチ症候群か否かの判定、及びリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクの判定においては、上記DNAメチル化測定に加え、上記被験体から採取された腫瘍に対してMSI検査を実施することができる。該MSI検査の結果、腫瘍がマイクロサテライト不安定性陽性(MSI−H)であれば、上記被験体がリンチ症候群患者である可能性がさらに高まる。したがって、上記DNAメチル化測定とMSI検査とを組み合わせることで、被験体がリンチ症候群か否か、または被験体のリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクをより精度よく判定することができる。
【0105】
MSI検査では、被験体の腫瘍組織または細胞と、非腫瘍組織または細胞とのそれぞれから採取されたゲノムDNAをMSI検査にかける。MSI検査では、腫瘍組織または細胞と非腫瘍組織または細胞との間で、マイクロサテライトマーカーで検出されるマイクロサテライト反復回数を比較する。いずれかのマーカーにより腫瘍と非腫瘍との間で異なった反復回数が検出されれば該腫瘍はMSIであり、2種類以上のマーカーについてMSIであれば、該腫瘍はMSI−Hであると判定される。MSI検査の結果、該腫瘍がMSI−Hであり、かつ上記クロマトグラフィーで得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークである場合には、上記被験体をリンチ症候群患者であると判定するか、または該被験体の組織または細胞をリンチ症候群患者から得られた組織または細胞であると判定する。あるいは、上記被験体をリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクが高いと判定する。上記MSI検査に使用されるマイクロサテライトマーカーは、臨床のMSI検査で一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、好ましくはBAT25、BAT26、D2S123、D5S346およびD17S250である。
【0106】
上記MSI検査にかける腫瘍組織または細胞のゲノムDNAは、上記亜硫酸水素塩処理のために調製したゲノムDNAであってもよいが、同じ被験体から新たに調製したものであってもよい。新たに調製する場合に用いられる被験体の組織または細胞は、腫瘍を含む組織であればよく、上記亜硫酸水素塩処理用ゲノムDNAの調製に用いたものと同種の組織または細胞であっても、異なる種類の組織または細胞であってもよい。また上記MSI検査は、上記DNAメチル化測定より先に実施しても、後に実施してもよい。
【0107】
あるいは、上記MSI検査に換えて、または上記MSI検査に加えて、腫瘍の免疫組織化学検査をおこなってもよい。腫瘍組織または細胞の免疫組織化学検査においてMLH1の発現がないかもしくは低下していると判定された場合、上記被験体をリンチ症候群患者であると判定するか、または該被験体の組織または細胞をリンチ症候群患者から得られた組織または細胞であると判定する。あるいは、上記被験体をリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクが高いと判定する。上記免疫組織化学検査にかける腫瘍組織または細胞は、上記亜硫酸水素塩処理用ゲノムDNAの調製に用いたものと同じ組織または細胞であっても、同じ被験体から新たに調製したものであってもよい。
【0108】
またあるいは、上記MSI検査および/または免疫組織化学検査に換えて、アムステルダム基準IIまたは改定ベセスダガイドラインによるリンチ症候群のスクリーニングを実施してもよい。これらのスクリーニングの結果がリンチ症候群の疑いを表し、かつ上記クロマトグラフィーで得られた検出シグナルのピークが低メチル化DNAを示すピークである場合には、上記被験体をリンチ症候群患者であると判定するか、または該被験体の組織または細胞をリンチ症候群患者から得られた組織または細胞であると判定する。あるいは、上記被験体をリンチ症候群関連腫瘍の発症リスクが高いと判定する。
【0109】
上記クロマトグラフィーとMSI検査および/または免疫組織化学検査との組み合わせ判定によってリンチ症候群患者と判定された被験体は、さらに、遺伝学的検査により確定診断を受けてもよい。遺伝性大腸癌診療ガイドラインに示されるように、リンチ症候群の確定診断は、ミスマッチ修復遺伝子の遺伝学的検査(生殖細胞系列の遺伝子解析)により病的変異を同定することにより診断される(大腸癌研究会「遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2012年版」金原出版,2012)。ミスマッチ修復遺伝子の遺伝学的検査に用いる生体試料は、当該遺伝子の含まれている組織であれば限定されないが、侵襲性の低さの点から一般に採血により得られるリンパ球を用いる。当該遺伝子の解析方法には、一般にダイレクトシークエンス法が用いられる。変異が見つからない場合、遺伝子の一部が大きく欠損もしくは重複している、または再構成している可能性があるため、さらにMLPA(Multiplex ligation−dependent probe amplification)法やサザンブロット法等を用いて当該遺伝子を解析する。
【0110】
本発明の方法の被験体が、腫瘍に罹患した患者であって、(i)当該腫瘍がMSI検査でMSI−Hと判定されているか、および/または当該腫瘍が免疫組織化学検査でMLH1の発現がないかもしくは低下していると判定されており、かつ(ii)遺伝学的検査によりMLH1に変異が認められない、と判定されている患者である場合、本発明の方法は、該被験体がリンチ症候群ではないことの確認に応用できる。すなわち、上記クロマトグラフィーで得られたサンプルDNAからの検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークである場合には、上記腫瘍をリンチ症候群関連腫瘍ではないと判定するか、あるいは、上記腫瘍を有する被験体を、リンチ症候群ではないと判定する。あるいは、該クロマトグラフィー検出シグナルのピークが高メチル化DNAを示すピークであるサンプルDNAを、リンチ症候群患者由来でないDNAとして選択する。当該方法は、従来の遺伝学的検査でMLH1の異常が見られない患者に対するリンチ症候群の可能性を否定するための鑑別診断に有用である。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
〔患者および組織サンプル〕
がん研有明病院(日本国東京都江東区)が保有する、4名の患者から得られた大腸癌手術標本(Tumor:以下、T検体またはTとする)および末梢血(Normal:以下、N検体またはNとする)をそれぞれ解析した。なお、T検体はパラフィンブロックである。各患者はそれぞれ下記の1群〜4群に分類される。各群は、パイロシークエンスによるDNAメチル化解析により、1群と4群がメチル化陽性群、2群と3群がメチル化陰性群であることが判明している。
【0113】
1群:患者ID:S−1
Constitutional epimutation症例の大腸癌患者。
当該患者は、生殖細胞系列のMLH1が高メチル化していることが確認されている。当該患者のT検体は、片アレルの高メチル化に加え、もう一方のアレルは高メチル化あるいはLOH(Loss of Heterozygosity:ヘテロ接合性の消失)による欠損があることが確認されている。当該患者のN検体は、片アレルのみ高メチル化があることが確認されている。
【0114】
2群:患者ID:S−2
リンチ症候群患者。
当該患者は、マイクロサテライト不安定性検査が陽性であり(MSI−H)、MLH1のメチル化がほぼなく、MLH1の変異が確認されている。
【0115】
3群:患者ID:S−3
通常症例の大腸癌患者。
当該患者は、マイクロサテライト不安定性検査陰性(MSS)、MLH1メチル化がほぼないことが確認されている。
【0116】
4群:患者ID:S−4
大腸癌患者。
当該患者は、マイクロサテライト不安定性検査が陽性であり(MSI−H)、免疫組織化学にてMLH1タンパクの発現消失、およびパイロシークエンサーにてMLH1プロモーター領域の高メチル化が確認されている。
【0117】
〔実施例1〕イオン交換クロマトグラフィーによるメチル化DNAの検出
(1)アニオン交換カラムの調製
攪拌機付き反応器中の3重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液2000mLに、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)200g、トリエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)100g、グリシジルメタクリレート(和光純薬工業社製)100gおよび過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gの混合物を添加した。攪拌しながら加熱し、窒素雰囲気下にて80℃で1時間重合した。次に、強カチオン性基を有する親水性単量体として、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬工業社製)100gをイオン交換水に溶解した。これを同じ反応器に添加して、同様にして、攪拌しながら窒素雰囲気下にて80℃で2時間重合した。得られた重合組成物を水およびアセトンで洗浄することにより、4級アンモニウム基を有する親水性重合体の層を表面に有する被覆重合体粒子を得た。得られた被覆重合体粒子について、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定したところ、平均粒子径は10μmであった。
【0118】
得られた被覆重合体粒子10gをイオン交換水100mLに分散させ、反応前スラリーを準備した。次いで、このスラリーを撹拌しながら、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン(和光純薬工業社製)を10mL加え、70℃で4時間反応させた。反応終了後、遠心分離機(日立製作所社製、「Himac CR20G」)を用いて上澄みを除去し、イオン交換水で洗浄した。洗浄後、遠心分離機を用いて上澄みを除去した。このイオン交換水による洗浄を更に4回繰り返し、基材粒子の表面に4級アンモニウム基と3級アミノ基とを有するイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を得た。
【0119】
上記イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を液体クロマトグラフィーシステムのステンレス製カラム(カラムサイズ:内径4.6mm×長さ20mm)に充填した。
【0120】
(2)ゲノムDNAの抽出と亜硫酸水素塩処理
各患者のT検体を、QIAamp DNA FFPE Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いて処理し、高分子量DNAを抽出した。各患者のN検体を、QIAamp DNA Blood Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いて処理し、高分子量DNAを抽出した。各DNA500ngを、EpiTect Bisulfite Kits(QIAGEN社製)を用いて亜硫酸水素塩処理した。
【0121】
(3)PCR
上記(2)で得られた亜硫酸水素塩処理ゲノムDNAをPCR増幅した。増幅領域は、MLH1プロモーターの表2記載のPCRプライマーで挟まれる99bp領域(Region DfCr)とした。PCRは、鋳型DNA 10ng、GeneAmp 1×PCR buffer(Life Technologies社製)、200μmol/L GeneAmp dNTP Mix(Life Technologies社製)、0.75U AmpliTaq Gold DNA Polymerase(Life Technologies社製)、0.25μmol/L forwardおよびreverseプライマーを含んだ25μLの反応液で行った。なお、鋳型DNAにおけるプライマー結合領域にCpGサイトが含まれるため、上記プライマーは、非メチルDNA対応プライマーとメチルDNA対応プライマーとをモル比50:50となるよう混合して使用された。PCRでは、95℃5分間初期熱変性を行った後、94℃30秒→57℃30秒→72℃40秒を1サイクルとして45サイクル続け、さらに72℃10分の伸張反応を行った。PCR終了後、反応液5μLにloading dye solution 1μLを混ぜた後、ethidium bromideを添加した3%アガロースゲルにアプライして電気泳動し、目的のPCR増幅産物が得られたことを確認した。陽性対照(100%メチル化DNA)および陰性対照(0%メチル化DNA)としては、市販のコントロールDNA(EPITECT(登録商標)PCR control DNA,QIAGEN)を用いた。0%および100%メチル化DNAのPCR増幅産物の配列、ならびに各PCRプライマーの配列を表2に示した。
【0122】
【表2】
【0123】
(4)HPLC分析
(1)で準備したアニオン交換カラムを用いて、以下の条件でイオン交換クロマトグラフィーを行い、(3)で得られた各PCR増幅産物を分離検出した。
システム:LC−20Aシリーズ(島津製作所社製)
溶離液:溶離液A 25mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)
溶離液B 25mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)
+1mol/L硫酸アンモニウム
分析時間:15分
溶出法:以下のグラジエント条件により溶離液Bの混合比率を直線的に増加させた。
0分(溶離液B40%)→10分(溶離液B100%)
検体:(2)で得られたPCR増幅産物
流速:1.0mL/min
検出波長:260nm
試料注入量:5μL
カラム温度:70℃
【0124】
DNAメチル化率の判定は、陽性対照(100%メチル化DNA)および陰性対照(0%メチル化DNA)のピークの保持時間とDNAメチル化率とを関連付け、2点検量線を作成して行った。陽性対照と陰性対照の保持時間の平均値をメチル化率50%のDNAの保持時間(基準値)として算出した。検体DNAの検出シグナルのピークの保持時間が基準値以下の場合、該DNAを「高メチル化DNA」、基準値より長い場合、該DNAを「低メチル化DNA」と判定した。
【0125】
(5)クロマトグラムに基づく大腸癌を含む組織の判定
患者ID:S−1から得られたHPLCクロマトグラムを
図1に、患者ID:S−2から得られたHPLCクロマトグラムを
図2に、患者ID:S−3から得られたHPLCクロマトグラムを
図3に、患者ID:S−4から得られたHPLCクロマトグラムを
図4に示す。
【0126】
患者ID:S−1のT検体は、片方のアレルが高メチル化されており、もう一方のアレルも高メチル化あるいはLOHによる欠損の検体であることから、高メチル化率のピークが検出されると考えられた。また、N検体は片アレルのみメチル化されていることから、高メチル化DNAを示すピークと非メチル化DNAを示すピークの両方が検出されると考えられた。HPLC分析結果において、T検体では陽性対照(100%メチル化DNA)とほぼ同じ溶出時間(4.08分付近)にてピークが検出された。N検体では陽性対照よりやや遅い溶出時間(4.13分付近)と陰性対照(0%メチル化DNA)のピークとほぼ同じ溶出時間(4.25分付近)にそれぞれピークが検出され、実質的に二峰のクロマトグラムが得られた。本結果より、HPLCによって、T検体の当該DNA領域がほぼ100%メチル化されていること、N検体の当該DNA領域が非メチル/高メチルのヘテロであることが確認できた。すなわち、T検体のHPLCクロマトグラムより、患者ID:S−1が非リンチ症候群患者であると判定できる。また、N検体のHPLCクロマトグラムより、少なくともMLH1領域のDNAがヘミメチル化されており、Constitutional epimutation症例の疑いがある患者であると判定できる。
【0127】
患者ID:S−2のT検体は、MSI検査がMSI−Hであり、MLH1のメチル化がほぼない検体であることから、低メチル化DNAのピークが検出されると考えられた。また、N検体もMLH1のメチル化がほぼないことから、低メチル化DNAを示すピークが検出されると考えられた。HPLC分析結果において、T検体およびN検体の両方が、陰性対照(0%メチル化DNA)のピークとほぼ同じ溶出時間(4.28分付近)にそれぞれピークが検出された。本結果より、HPLCによって、T検体とN検体の両方が当該DNA領域において低メチル化であることが確認できた。すなわち、T検体のHPLCクロマトグラムより、患者ID:S−2がリンチ症候群患者である可能性があることを判定できる。
【0128】
患者ID:S−3のT検体は、MSI検査がMSSであり、MLH1のメチル化がほぼない検体であることから、低メチル化率のピークが検出されると考えられた。また、N検体もMLH1のメチル化がほぼないことから、低メチル化DNAを示すピークが検出されると考えられた。HPLC分析結果において、T検体およびN検体の両方が、陰性対照(0%メチル化DNA)のピークとほぼ同じ溶出時間(4.25分付近)にそれぞれピークが検出された。本結果より、HPLCによって、T検体とN検体の両方が当該DNA領域において低メチル化であることが確認できた。すなわち、T検体のHPLCクロマトグラムより、患者ID:S−3はリンチ症候群患者である可能性があることを判定される。しかし、患者ID:S−3については、T検体のHPLCクロマトグラムとMSI検査を組み合わせることにより、非リンチ症候群患者であると判定できる。
【0129】
患者ID:S−4のT検体は、MSI検査がMSI−Hであり、免疫組織化学にてMLH1タンパクの発現消失が確認され、パイロシークエンサーにてMLH1プロモーター領域の高メチル化が確認された検体であることから、高メチル化率のピークが検出されると考えられた。また、N検体はMLH1のメチル化がほぼないことから、低メチル化DNAを示すピークが検出されると考えられた。HPLC分析結果において、T検体では陽性対照(100%メチル化DNA)とほぼ同じの溶出時間(4.10分付近)にてピークが検出された。N検体では陰性対照(0%メチル化DNA)のピークとほぼ同じ溶出時間(4.25分付近)にピークが検出された。本結果より、HPLCによって、T検体の当該DNA領域がほぼ100%メチル化されていること、N検体は当該DNA領域において低メチル化であることが確認できた。すなわち、T検体のHPLCクロマトグラムより、患者ID:S−4が非リンチ症候群患者であると判定できる。
【0130】
〔実施例2〕
リンチ症候群患者である患者ID:S−2検体について、実施例1と異なるプライマーを用いて、MLH1遺伝子プロモーターの異なる領域のメチル化をHPLCクロマトグラムにより判定できるか検討した。カラムは、実施例1(1)のカラムを使用した。実施例1(2)〜(4)の手順に従い、DNAを亜硫酸水素塩処理、PCR、およびHPLCにかけた。PCRでは、MLH1遺伝子プロモーター領域の一部である5つの領域(Region A〜E)を増幅した。さらに、上記PCR増幅領域におけるメチル化率が0%(陰性対照)および100%(陽性対照)のDNAについても、それぞれ同様の手順でHPLC分析した。0%および100%メチル化DNAの各PCR増幅産物の配列を表3および表4に、各PCRプライマーの配列を表5に示した。Region B〜Eについては、鋳型DNAにおけるプライマー結合領域にCpGサイトが含まれるため、非メチルDNA対応プライマーとメチルDNA対応プライマーとをモル比50:50となるよう混合して使用した。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
Region AについてのHPLCクロマトグラムを
図5に、Region BについてのHPLCクロマトグラムを
図6に、Region CについてのHPLCクロマトグラムを
図7に、Region DについてのHPLCクロマトグラムを
図8に、Region EについてのHPLCクロマトグラムを
図9に示す。
図5〜9に示されるように、Region A〜EのいずれにおいてもT検体からは低メチル化DNAを示すピークが得られた。すなわち、配列番号1で示されるMLH1プロモーター領域中のRegion A、B、C、D、Eのいずれの領域のDNAメチル化を調べた場合でも、患者ID:S−2がリンチ症候群の可能性があると判定することができた。したがって、患者のT検体について、MLH1プロモーター領域の1以上のCpGサイトのメチル化状態をHPLCクロマトグラムで判定することにより、リンチ症候群の可能性のある患者を判定できることが示された。
【0135】
本実施例において、クロマトグラフィー分析を用いてMLH1プロモーター領域におけるメチル化を測定することで、リンチ症候群および非リンチ症候群の患者を高精度に判別することができることが示された。パイロシークエンス法による従来のメチル化解析に数日程度かかるのに対し、本発明の方法では約10分でクロマトグラムが得られるので、迅速かつ容易にリンチ症候群のスクリーニングを行うことができる。本発明の方法は、従来のMSI検査等でリンチ症候群が疑われるが遺伝学的検査ではMLH1の異常が見られない患者において、リンチ症候群の可能性を否定するための鑑別診断に有用である。