【文献】
「レギュニール LCa 1.5 / 2.5 / 4.25 腹膜透析液」添付文書,「レギュニール LCa 1.5 / 2.5 / 4.25 腹膜透析液」添付文書,p.1-4,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重炭酸イオンならびにカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有する透析液または置換液であって、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩をさらに含有することを特徴とする、透析液または置換液。
透析液または置換液が、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩を、0.8〜1.25mmol/Lの濃度で含有することを特徴とする、請求項1に記載の透析液または置換液。
透析液または置換液が、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩に加えて、オルトリン酸塩をさらに含有し、ただし、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩とオルトリン酸塩との濃度比が、0.3/0.7〜0.9/0.1の間の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透析液または置換液。
透析液または置換液が、0.8〜1.25mmol/Lの合計濃度で、グリセロールオルトリン酸及び/又はグリセロールオルトリン酸の塩並びにオルトリン酸塩を含有することを特徴とする、請求項3又は4に記載の透析液または置換液。
透析液または置換液が、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンに加えて、さらなる電解質、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよび/または塩素イオンを含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の透析液または置換液。
第1の個別溶液が、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン、塩素イオン、浸透圧剤を含有し、カリウムイオンを含有してもよく、第2の個別溶液が、ナトリウムイオン、塩素イオン、重炭酸イオン、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩を含有し、オルトリン酸を含有してもよいことを特徴とする、請求項9に記載の組合せ。
第1の個別溶液が、重炭酸イオンおよび/またはリン酸の有機エステルおよび/またはオルトリン酸および/またはナトリウムイオンを含有しないことを特徴とする、請求項10に記載の組合せ。
第1の個別溶液が、2.4〜3.0の範囲のpHを有し、グリセロールオルトリン酸および/またはグリセロールオルトリン酸の塩を含有する第2の個別溶液が、7.0〜7.8の範囲のpHを有することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の組合せ。
【背景技術】
【0002】
カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを含有する、重炭酸塩で緩衝される透析液は、典型的には、生理的に有効な濃度で、電解質、緩衝剤およびグルコースを含有する。カルシウムまたはマグネシウムに加えて、緩衝剤として重炭酸塩も含有する透析液は、特定の条件、特に、比較的高pHおよび高温において、低溶解性の望ましくない炭酸塩が形成される場合があるという課題がある。
生理的なリン酸塩含量を有する透析液は、患者のリン酸塩のバランスを制御し、低リン酸血症を予防するために、急性透析において使用される。医学的に妥当なリン酸塩濃度は、臨床適用の経験に基づき、0.60〜1.45mmol/L、好ましくは0.8〜1.25mmol/Lの範囲である。
【0003】
カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを含有する、重炭酸塩で緩衝される透析液が、重炭酸イオンに加えて、リン酸イオンを含有する場合、溶解が困難なリン酸塩化合物が形成され得る潜在的な危険性がある。それらの低溶解性に起因して、アルカリ土類リン酸塩の沈殿は、アルカリ土類炭酸塩の沈殿よりも、医学的な面から、さらにより厳密に分類されなければならず、したがって、いかなる代償を払っても回避されるべきである。
脱気することによるCO
2の減少によって上昇するpHは、特に、アルカリ土類炭酸塩の沈殿およびアルカリ土類リン酸塩の沈殿の原因となる。熱力学的な見地の下では、透析液が安定なままである、すなわち、指定された沈殿を生じない最大pHがある。透析機でのポンピングおよび加熱によって、または保管によってなどの使用条件下で透析液のpHが上昇するならば、準安定状態を達成することができる。この状態が崩壊すると、低溶解性の炭酸塩および/またはリン酸塩が沈殿し、これは、処置における多くの合併症を生じ得る。この点に関して、低溶解性のリン酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムは、塩基性条件下での低溶解性により、最も重要な化合物となる。しかしながら、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムも、塩基性条件での難溶解性により、重要な化合物となる。
【0004】
2チャンバーバッグ中に入れられた個別溶液の形態で、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを含有する、重炭酸塩で緩衝される透析液を調製することは、従来技術から公知である。これにより、さらにリン酸塩をさらに含有する溶液を実現することもできる。使用準備済の透析液は、2つのチャンバーの内容物を混合することによって得られる。一方にカルシウム、他方に炭酸塩またはリン酸塩として別々に保管し、したがって保管中の安定性が向上した透析液は、2チャンバーバッグ中での個別溶液の供給によって達成することができる。さらに、CO
2の消失、および、そうすることによる、重炭酸塩を含有しリン酸塩を含有していてもよい個別溶液におけるpHの上昇に対抗するために、バリアフィルムからバッグフィルムを製造することは、従来技術からさらに公知である。それでもなお、この特別な包装にもかかわらず、重炭酸塩を含有しリン酸塩を含有していてもよい透析液のpHは、保管期間にわたって上昇し、これは、2つの個別溶液の混合において、混合溶液、すなわち完成した透析液のpHが、その使用前に同様に上昇するという結果となる。混合中または透析機での使用において沈殿を回避するために、重炭酸塩を含有しリン酸塩を含有していてもよい透析液のpH、および個別溶液から製造される混合物のpHが、比較的狭い枠内にあることを保証しなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
このようなエステルは、身体に素早く吸収され、一方で、低溶解性の任意のリン酸塩を形成せず、他方で、さらに溶液をより安定化する、リン酸塩源となり得ることを見出した。透析液もしくは置換液、または透析液もしくは置換液が得られる個別溶液のさらなる安定化は、おそらく、透析液または置換液のカテゴリーにおける炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの結晶成長が、リン酸の有機エステルの存在によって、遅くなるか、またはより完全に阻害されるという事実に起因する。炭酸塩の沈殿が起こるpHの上限は、塩基性条件、すなわちより高いpH値へさらにずれる。次いで、任意の沈殿反応は、透析処置中、または個別溶液に分割されていてもよい透析液または置換液の保管中、通常は達しない非常に高いpH値でのみ起こる。したがって、製品の有効期間の終了まで、好ましくは24カ月以上の期間にわたって、安全に適用される透析液または置換液を保証することができる。これは、さらに、透析機での透析液または置換液の使用におけるかなりの安全性の増加をもたらす。
【0009】
本件における「透析液」および「置換液」という用語は、使用する前にさらに希釈しなければならない濃縮物、および透析の一部としてそれ自体を使用することができる使用準備済の溶液の両方を含む。血液透析、血液ろ過透析および血液ろ過のための透析液および置換液、ならびに腹膜透析用の溶液の両方を包含する。
本発明の枠内の「透析液」という呼称の用語は、置換液も含み、逆もまた同様である。したがって、両方の用語は、透析液のためおよび置換液のため両方の、それぞれの代用語を表す。
リン酸の有機エステルは、例えばオルトリン酸の有機エステル、好ましくは、オルトリン酸の有機モノエステルであり得る。
実施形態において、オルトリン酸の有機エステルは、グリセロールオルトリン酸および/またはこの物質の塩、特にナトリウム塩である。この物質は、例えば、非経口栄養のための活性物質として、既に確立されており、欧州薬局方(01/2009:1995)でも承認されている。この比較的小さな分子は、オルトリン酸塩を放出しながら、素早く代謝され得る。グリセロールオルトリン酸は、グリセロール−2−オルトリン酸、グリセロール−3−オルトリン酸またはこれらの混合物であり得る。
【0010】
リン酸の有機エステルは、使用準備済の溶液に、リン酸エステルに関して、例えば、3mmol/Lまで、好ましくは1.5mmol/Lまで、さらに好ましくは1.25mmol/Lまで、さらに好ましくは1.2mmol/Lまでの濃度で含有され得る。さらに、リン酸の有機エステルは、溶液に、リン酸エステルに関して、0.5mmol/L以上、好ましくは0.8mmol/L以上、さらに好ましくは1mmol/L以上の最低濃度で含有され得る。リン酸の有機エステルが、グリセロールオルトリン酸などのモノエステルである場合、「リン酸エステルに関する」濃度は、エステル全体の濃度に相当する。
実施形態において、透析液または置換液は、リン酸の有機エステルを、リン酸エステルに関して、0.8〜1.25mmol/L、好ましくは1〜1.2mmol/Lの濃度で含有する。0.8〜1.25mmol/L、好ましくは1〜1.2mmol/Lのリン酸エステルの濃度は、例えば、透析患者のリン酸塩のバランスを制御し、低リン酸血症を予防するために使用することができる濃度に相当する。溶液が、リン酸の有機エステルの添加によって安定化されるだけでなく、したがって、望ましい生理的な効果も達成される。
【0011】
実施形態において、透析液または置換液は、リン酸の有機エステルに加えて、
オルトリン酸塩および/またはこの物質の塩、特にナトリウム塩をさらに含有する。リン酸の有機エステルおよび
オルトリン酸塩の両方の添加において、炭酸カルシウムの沈殿に関して、溶液のさらに良好な安定化をもたらす相乗効果が生じることを見出した。
ここで、本発明の枠内において「グリセロールオルトリン酸」という用語は、この物質そのものおよびその塩の両方を指定し得ることを指摘する。「
オルトリン酸塩」という用語が、このようなこの物質およびその塩を指定することができることも指摘する。したがって、「グリセロールオルトリン酸」および「
オルトリン酸塩」という用語は、代用語である。
【0012】
実施形態において、
オルトリン酸塩は、リン酸の有機エステルに加えて、>0〜0.3mmol/L、好ましくは0.1〜0.2mmol/Lの濃度で含有される。相乗効果は、これらの濃度範囲で非常に明白に観察することができ、さらに、リン酸塩の総含量は、生理的な範囲である。
透析液または置換液は、0.8〜1.25mmol/L、好ましくは1〜1.2mmol/Lの合計濃度で、エステル化および非エステル化ホスホル(phosphor)基を含有すると考えられる。エステル化ホスホル基は、エステル基を含有するホスホルとして理解され、非エステル化ホスホル基は、オルトリン酸塩として理解される。
実施形態において、透析液または置換液は、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンに加えて、さらなる電解質、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオンおよび/または塩素イオンを含有する。
実施形態において、透析液または置換液は、少なくとも1つの浸透圧剤、好ましくは、糖または糖誘導体、さらに好ましくはグルコースまたはグルコース誘導体をさらに含有する。
指定された溶媒和物は、互いに独立して、例えば、以下の濃度で、透析液または置換液中に存在し得る。
【0013】
【表1】
実施形態において、透析液または置換液のpHは、7.0〜7.6の範囲である。
さらに、本発明は、互いに混合した後、本発明による透析液または置換液を形成するように構成される、いくつかの個別溶液、好ましくはちょうど2つの個別溶液の組合せに関する。
【0014】
この関連の実施形態において、個別溶液の1つのみがリン酸の有機エステルを含有し、オルトリン酸を含有してもよいものが提供される。
例えば、第1の個別溶液が、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有し、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有しない第2の個別溶液が、リン酸の有機エステルを含有し、オルトリン酸を含有してもよいものが提供され得る。
さらに、例えば、第1の個別溶液が、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン、塩素イオン、浸透圧剤を含有し、カリウムイオンを含有してもよく、第2の個別溶液が、ナトリウムイオン、塩素イオン、重炭酸イオン、リン酸の有機エステルを含有し、オルトリン酸を含有してもよいものが提供され得る。
【0015】
実施形態において、第1の個別溶液は、重炭酸イオンおよび/またはリン酸の有機エステルおよび/またはオルトリン酸および/またはナトリウムイオンを含有しない。
実施形態において、第2の個別溶液は、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンおよび/またはカリウムイオンおよび/または浸透圧剤を含有しない。
指定された溶媒和物は、互いに独立して、例えば、以下の濃度で、それぞれの個別溶液中に存在し得る。
【0016】
【表2】
塩素イオンは、例えば、個別溶液の両方に存在し得る。浸透圧剤を含有する個別溶液中の塩素イオン濃度は、この関連において、60mmol/L〜100mmol/Lの濃度範囲であり得、例えば、正確には82mmol/Lであり得、緩衝剤および/またはリン酸の有機エステルを含有する個別溶液中の塩素イオン濃度は、100mmol/L〜120mmol/Lの濃度範囲であり得、例えば、正確には110mmol/Lであり得る。
【0017】
実施形態において、第1の個別溶液は、2.4〜3.0の範囲のpHを有し、リン酸の有機エステルを含有する第2の個別溶液は、7.0〜7.8の範囲のpHを有する。
実施形態において、2つの個別溶液AおよびBを有し、溶液Aは、第1の個別溶液の1つ、複数または全ての前述の特徴を有し、および/または溶液Bは、第2の個別溶液の1つ、複数または全ての前述の特徴を有する、組合せが提供される。
最後に、本発明は、少なくとも2つのチャンバーを含むマルチチャンバーバッグであって、チャンバーの1つが、本発明による組合せの第1の個別溶液を有し、別のチャンバーが、本発明による組合せの第2の個別溶液を有する、マルチチャンバーバッグにも関する。マルチチャンバーバッグは、互いに異なるチャンバーに分割されている少なくとも1つの分割手段を有し得る。分割手段は、例えば、溶接線であり得る。分割手段または溶接線は、好ましくは、分割されたチャンバーの間で接続が生じるように、1つのチャンバーに対する圧力によって解放されるように構成される。
本発明のさらなる詳細および利点は、以下に、図にも関連して説明される実施形態および比較例からもたらされる。図には、以下を示す。
【0018】
(安定性の向上の模式的説明)
本発明の明白な利点は、同等の生理的な効果を有する本カテゴリーの公知の透析液と比較して、沈殿に関連して、透析液の安定性の向上である。
この効果は、
図1および2によるpHの安全および臨界範囲の略図において示される。
図1は、従来技術の重炭酸塩で緩衝される溶液についての相当する範囲を図示する。
図2は、安定性が改善された重炭酸塩で緩衝される溶液についての相当する範囲を図示する。
図1における特徴的な線は、保管期間にわたるpHの曲線を示す。炭酸塩またはリン酸塩としてのカルシウムイオンもしくはマグネシウムイオンの沈殿が、従来技術の重炭酸塩で緩衝される溶液で起こらない、pH約7.5のすぐ下に安全な領域がある。そのような沈殿が、従来技術の重炭酸塩で緩衝される溶液で準安定状態が崩壊するとすぐに起こる、pH約7.5を上回る臨界範囲がある。
【0019】
安全な範囲は、従来技術に対して(
図1)、安定性が改善された重炭酸塩で緩衝される溶液において、より高いpH値まで広がる(
図2)。したがって、従来技術の溶液は、特定の保管期間(この例において約12カ月)後に安全な範囲(
図1)から逸脱する一方、安定化された溶液は、安全な範囲に実質的により長く留まる(この例において、24カ月超)。
(安定性の決定)
「迅速制御沈殿法」または「臨界pH法」を、例えば、F. Hui et al: Journal European of Water Quality (Journal Europeen d'Hydrologie) T.33 Fasc. 1 (2002)に記載されているように、透析液の安定性を決定するために使用することができる。
【0020】
本発明の枠内で記載される結果は、改変された迅速制御沈殿法によって得られた。実験装置は、溶液からCO
2の均一な脱気を確実にするために頭部に向かって開口している6個の3つ口フラスコ(Carousel−6、Radleys製)を含む。さらに、この装置は、例えば、pHおよび伝導率のインライン測定、ならびにフラスコの同時加熱が可能である。
使用される方法の基本原理は、透析液が準安定状態に達し、最終的に沈殿するまで、CO
2の制御された脱気をすることによって、混合溶液または透析液のpHをゆっくりと上昇させることを含む。
【0021】
pH測定、粒子のカウントまたは濁度測定は、例えば、沈殿を検出するための方法として使用することができる。これに関して、沈殿の開始の正確な時間を厳密に検出するため、ならびに試料の調製および分析装置への移送によって検出が変わらないようにするために、インライン測定を行うことが推奨される。これらの方法を使用して得ることができる測定曲線を、
図3において比較する。
pH測定の場合において、炭酸塩の沈殿の開始は、pH値の著しいキンクによって認識することができる(
図3、左側に図示)。時間の経過を考慮して、pHは、CO
2の脱気によって上昇し、沈殿反応が開始する最大(pH
max)に達する。多くの場合において、このpH
max値は、透析液の安定性についての臨界として使用することができる。沈殿の開始は、粒子の数の増加による粒子測定において認識することができ(
図3、中央に図示)、透過度の低下による濁度測定において認識することができる(
図3、右側に図示)。沈殿の開始時間をt
Gと呼ぶ(成長開始の時間)。
【0022】
より高いpH
max値は、溶液のより高い安定性でもある。より高い安定性は、同じ脱気条件下でのより長いt
G時間も意味する。溶液の安定性に関する重要な値は、炭酸カルシウムの沈殿による脱気実験の実施例についての
図4に明確に示される。
図4において、t
G時間までのpHの上昇は、透析液からのCO
2の脱気によって説明することができる。
図4からさらに分かるように、局所的にpHが最大になる。このポイントの後、透析液の過飽和が生じ、炭酸カルシウムの沈殿が起こる。沈殿の状態で、炭酸イオンは透析液から除去される。プロトンは、重炭酸塩との平衡反応によりますます形成され、pHの低下が生じる。
透析液または個別溶液の安定性は、リン酸の有機エステルの添加によって、準安定範囲の崩壊を遅らせるか、または完全に防いで、著しく向上し得る。
【0023】
(比較例)
生理的な濃度のオルトリン酸塩が、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有する重炭酸塩で緩衝される透析液に添加される。
1.0mmol/Lのオルトリン酸塩を、残りの溶液の成分を維持しながら、Fresenius Medical Care Deutschland GmbH社の従来の「multiBic」0K溶液に添加すると、未改変溶液およびオルトリン酸塩(「P」)改変溶液の比較から、「multiBic」溶液が約2時間でt
G時間に達することを認識することができる。1.0mml/Lのオルトリン酸塩の添加は、溶液の安定化およびわずか6.5時間超増加するt
G時間をもたらす。
図5は、検出として濁度測定を使用する、T=40℃での迅速制御沈殿法を使用して得られる対応する測定曲線を示す。
図6に示すP改変「multiBic」溶液での対応する測定のpH測定曲線は、興味深いことに、任意の著しいキンクを示さず、したがって、沈殿の検出には適さない。したがって、この場合におけるpH
max値は、粒子測定または濁度測定によって決定されるt
G値によるものでなければならない。
【0024】
図7に示すリン酸塩不含の未改変「multiBic」溶液のpH測定曲線は、対照的に、沈殿開始時に著しい低下という通例のイメージを示す。ここでのpH
max値は、7.85である。t
G値は、濁度測定からの値とよく一致する。
P改変「multiBic」溶液のこの挙動は、低溶解性の別の相を形成するという事実を表す。この仮定は、リン酸カルシウム化合物が、生理的なリン酸塩濃度のOP改変「multiBic」溶液の主生成物として生じることを明確に示す
図8に示す、EDXスペクトルによって確認される。
【0025】
沈殿は、例えば、以下の式によって形成されるリン酸水素カルシウムであり得る。
Ca
2++HPO
42-→CaHPO
4↓
この反応ではプロトンが放出されないので、pHシグナルの低下がないことがいずれも認識することができ、これは、著しいpHキンクの欠如を説明する。
対照的に、炭酸カルシウムの沈殿はプロトンを放出し、この場合において、沈殿は、pH測定手段によって検出することができる。
Ca
2++HCO
3-→CaCO
3↓+H
+
未改変「multiBic」溶液、P改変「multiBic」溶液、従来のFresenius Medical Careのリン酸塩含有「multiPlus」溶液、および従来のGambroのリン酸塩含有「Phoxilium」溶液の組成およびpH値を以下の表3に示す(示した値は、製造者のデータである)。
【0026】
【表3】
「Phoxilium」溶液は、最も高い1.20mmol/Lのリン酸塩濃度を含有するが、グルコースを含有せず、カルシウムおよび重炭酸塩を最も低い濃度で含有する。さらに、マグネシウム濃度は、「Phoxilium」溶液および「multiPlus」溶液において増加されている。
異なる溶液のpH
maxおよび沈殿生成物を以下に示す表4にまとめる。値は、全て、「迅速脱気」法を使用して、40℃で決定した。
【0027】
【表4】
安定性の測定は、オルトリン酸塩の存在が、沈殿反応に関して、溶液の安定性を増加させるが、沈殿生成物としてリン酸カルシウムが常に生じるという明白な欠点を有することを示す。粒子が、沈殿して、全ての予防的な測定にもかかわらず、リン酸塩を含有するこれらの溶液による処置に注入される場合、これは、おそらくリン酸塩添加物なしの純粋な重炭酸塩を含有する溶液よりも深刻な結果を示すだろう。
例えば、「Phoxillum」溶液の特定の組成は、さらに、より低いカルシウムおよび重炭酸塩濃度がCRRT処置において負の兆候を現し得、それにより、低カルシウム血症およびアシドーシスが患者に起こり得るという欠点を有する(Journal of Critical Care, 28, 5, 2013, 884.e7-884.e14)。
【0028】
(実施形態1)
本発明は、身体に素早く吸収され、溶液を安定化し、低溶解性のリン酸塩を形成しない、リン酸塩源を提案する。
このことを、グリセロール−2−オルトリン酸およびグリセロール−3−オルトリン酸(以下単に「グリセロールオルトリン酸」という)の混合物の透析液への添加を参照して、以下に説明する。この物質は、リン酸の有機エステルの代表的なものである。
図9は、グリセロール−2−オルトリン酸およびグリセロール−3−オルトリン酸の構造式を示す。
異なる濃度のグリセロールオルトリン酸と混合した複数の「multiBic」溶液の安定性を
図10に示す。ここから分かるように、溶液のpH
max値およびt
G値の両方が、グリセロールオルトリン酸の濃度の増加につれて増加する。これに関連して、pH
maxが、従来の「multiBic」溶液に対して、0.5mmol/Lの濃度で既にかなり増加していることに注目すべきである。溶液は、0.8〜1.25mmol/Lの生理的に関連する範囲における安定性もかなり獲得している。
【0029】
さらに、
図11に示すpH曲線は、高pH値(上側の曲線)での沈殿の場合において、pHの著しい低下を伴う典型的な曲線の進行が、沈殿の開始時に認識することができるため(下側の曲線の従来の「multiBic」溶液と類似する)、炭酸カルシウムのみが低溶解性の化合物として生じることを示す。
この仮定は、UV−vis分光法(酵素試験キット)によるリン酸塩含量の測定によって確認することもできる。
比較例に従って、以下の表5に示すP改変「multiBic」溶液の値を、1mmol/Lグリセロールオルトリン酸(「GP」)と本発明に従って混合した「multiBic」溶液の値と比較すると、P改変「multiBic」溶液において、沈殿後のリン酸塩濃度は、開始値の−67%のみである一方、GP改変「multiBic」溶液において、リン酸塩含量は変化せず保たれることが分かる。
【0030】
【表5】
GP改変「multiBic」溶液と、比較例のオルトリン酸塩含有溶液とのpH
max値の比較は、さらに、溶液のpH
max値が、グリセロールオルトリン酸によって最も高くなることを示す(表6)。
【0032】
図12は、生理的な濃度範囲のグリセロールオルトリン酸による安定化効果と、オルトリン酸塩のものとの比較を示す。ここから分かるように、1.0mmol/Lのグリセロールオルトリン酸の「multiBic」溶液への添加は、0.1mmol/Lのオルトリン酸塩の添加とほぼ同じ安定化効果を有する。さらに、低溶解性のリン酸塩は、グリセロールオルトリン酸の添加において、沈殿生成物として形成されない。
したがって、必要な生理的な濃度のリン酸塩を、グリセロールオルトリン酸の添加によって、透析液に提供することができ、同時に、安定性は、リン酸塩不含溶液またはオルトリン酸塩含有溶液と比較して、著しく増加し得る。したがって、透析液、好ましくは、生理的なリン酸塩濃度を有するHF/HD溶液が、改善された有効期間を有し、例えば、24カ月の期間にわたって安全に使用することができるこの処方によって得られる。
(実施形態2)
オルトリン酸塩が、実施形態1のGP改変「multiBic」溶液にさらに添加される。
【0033】
複数の以下の溶液の安定性を
図13に示す:比較例による未改変「multiBic溶液;比較例によるP改変「multiBic」溶液;実施形態1によるGP改変「multiBic」溶液および0.1mmol/Lの
オルトリン酸塩とさらに混合したGP改変「multiBic」溶液。図からさらに分かるように、不均衡な安定性の向上は、P改変およびGP改変「multiBic」溶液に関して、グリセロールオルトリン酸および
オルトリン酸塩の両方と混合した溶液についてもたらされる。
値は、検出として、pH測定、または適用できれば、濁度測定および/または粒子測定を用いる、T=40℃での「迅速制御沈殿」法を参照して上記に記載のようにして得た。
一方、
図14は、左に、グリセロールオルトリン酸なしのそれぞれの場合における、未改変「multiBic」溶液の安定性および
オルトリン酸塩含有透析液の安定性を示す、2つの測定点の形式で示す。溶液温度は40℃であった。
さらなる測定は、グリセロールオルトリン酸と
オルトリン酸塩との混合物を含有する透析液に関する。
オルトリン酸塩の濃度は、参照記号「o」の次に示し、グリセロールオルトリン酸の濃度は、参照記号「G」の次に示す(それぞれの場合において、mmol/L)。
図14から分かるように、透析液中の両物質の総濃度は、常に1.0mmol/Lである。
【0034】
図14から分かるように、特に、グリセロールオルトリン酸/
オルトリン酸塩の混合比または濃度比が0.7/0.3〜0.9/0.1の間で、特に安定な溶液が得られる。
図15は、異なる濃度の
オルトリン酸塩と混合した複数のGP改変「multiBic」溶液の安定性を示す。ここから分かるように、最大の安定性には、0.15mmol/Lの
オルトリン酸塩の添加によって、相当する最大のpH
max値に達する。
(実施例からの結論)
リン酸の有機エステルの添加、例えば、生理的な濃度範囲でのグリセロールオルトリン酸の添加は、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有する重炭酸塩で緩衝される透析液の顕著な安定化をもたらす。これにより、沈殿反応は、pH値がpH>8まで回避することができ、これは、透析液の安全性および耐久性をかなり改善する。リン酸の有機エステルが、使用中の安定化剤として、および医学的に関連する濃度におけるリン酸塩のバランスを制御するための医学的に関連する濃度でリン酸塩源としての両方で作用することができることが本発明の重要な態様である。市販の透析液に対する利点は、炭酸カルシウムの沈殿反応に関する溶液のかなり高い安定性である(pH
max値およびそれぞれのt
G時間の増加)。既に上市されているオルトリン酸塩含有溶液とは異なり、リン酸カルシウムの沈殿が回避される。
【0035】
相乗効果は、リン酸の有機エステル、およびリン酸の有機エステルの記載の効果をさらに改善する
オルトリン酸塩のさらなる添加によって達成することができる。