特許第6985944号(P6985944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985944電力変換装置、それを用いた回転機システム、及びその診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985944
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】電力変換装置、それを用いた回転機システム、及びその診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20211213BHJP
【FI】
   G01R31/34 A
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-11131(P2018-11131)
(22)【出願日】2018年1月26日
(65)【公開番号】特開2019-128298(P2019-128298A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧 晃司
(72)【発明者】
【氏名】岩路 善尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲司
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0176152(US,A1)
【文献】 特開2017−062170(JP,A)
【文献】 特開平9−103050(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0303543(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを備えた回転機と接続されて電力を授受する電力変換装置であって、前記回転機の単一乃至複数の特定相の前記電機子コイルに一括して電圧パルスを印加し、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始から指定の遅れ時間後の前記特定相の電流の値をサンプリングし、その値の正常状態からの変化で前記回転機の前記特定相の前記電機子コイルの絶縁部材の静電容量の変化を検知し、絶縁劣化を診断する機能を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記電流の値のサンプリングは、1回乃至複数回の立ち上がり乃至立ち下がりにつき1回であることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電流の値のサンプリングは、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始からの遅れ時間が互いに異なるものを含むことを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電流の値をサンプリングした後、リンギングのピーク値を抽出して診断に用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電流の値をサンプリングした後、その値が事前に定めた閾値を超えるタイミングを抽出して診断に用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記回転機が正常な状態において前記電流の値をサンプリングし、その値の符号が反転するタイミングを抽出し、以後はそのタイミングでの前記電流の値をサンプリングして診断に用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項7】
診断開始を指示するためのユーザインターフェイスを備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項8】
診断結果を表示、乃至外部に通信するインターフェイスを備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりに要する時間を、前記特定相の電流が振動する期間よりも長くなるように設定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一に記載の電力変換装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一に記載の電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機とを備えることを特徴とする回転機システム。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一に記載の電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機とを備えた回転機システムにおいて、前記回転機が停止している時間帯に診断を実施することを特徴とする回転機システムの診断方法。
【請求項12】
請求項1乃至9記載のいずれか一に電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機とを備えた回転機システムにおいて、前記回転機が回転している時間帯に診断を実施することを特徴とする回転機システムの診断方法。
【請求項13】
電機子コイルを備えた回転機を含む回転機システムにおいて、前記回転機の単一乃至複数の特定相の前記電機子コイルに一括して電圧パルスを印加し、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始から指定の遅れ時間後の前記特定相の電流の値をサンプリングし、その値の正常状態からの変化で前記回転機の前記特定相の前記電機子コイルの絶縁部材の静電容量の変化を検知し、絶縁劣化を診断することを特徴とする回転機システムの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや発電機といった回転機と接続されて電力の授受を行う電力変換装置、及びそれを用いた回転機システム、及びその診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機といった回転機が突発故障により停止すると、大きな損害が発生する。特に工場設備等に用いられるモータの突発故障による停止は、生産設備の稼働率低下や生産計画の見直しを余儀なくされるなど、影響が大きい。そのため、実環境で使用している状態のまま高精度に故障予兆診断を実施し、モータの突発故障を防止するニーズが高まっている。
【0003】
そのようなニーズを受けて、例えば特許文献1では、電力変換装置からステップ状の電圧をモータに印加し、電流を高速にサンプリングしてリンギングのピーク値や周波数を抽出し、コイル絶縁の劣化を検出する技術が開示されている。しかしこの技術では、リンギング波形を直接計測できるほど高速にサンプリングしているので、計測機器が高価となるという問題があった。
【0004】
また特許文献2では、圧縮機停止時に電力変換器の上アームの任意の一相からパルスを送出し、直流部電圧とモータ電流を計測して絶縁抵抗を求める技術が開示されている。しかしこの技術においては、実際に絶縁抵抗が低下するまでは異常を検知できず、十分に早い段階で絶縁故障の予兆を捉えることが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2014/0176152 A1
【特許文献2】特開2001−141795号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術が抱える問題を解決するためになされたものであり、低コストかつ早期に回転機の絶縁故障の予兆を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電力変換装置は、電機子コイルを備えた回転機と接続されて電力を授受する電力変換装置であって、前記回転機の単一乃至複数の特定相の前記電機子コイルに一括して電圧パルスを印加し、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始から指定の遅れ時間後の前記特定相の電流の値をサンプリングし、その値の正常状態からの変化で前記回転機の前記特定相の前記電機子コイルの絶縁部材の静電容量の変化を検知し、絶縁劣化を診断する機能を備える。
【0008】
また本発明の電力変換装置では、前記電流の値のサンプリングは、1回乃至複数回の立ち上がり乃至立ち下がりにつき1回である。また前記電流の値のサンプリングは、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始からの遅れ時間が互いに異なるものを含む。
【0009】
また本発明の電力変換装置では、前記電流の値をサンプリングした後、リンギングのピーク値を抽出して診断に用いる。あるいは、前記電流の値をサンプリングした後、その値が事前に定めた閾値を超えるタイミングを抽出して診断に用いる。あるいは、前記回転機が正常な状態において前記電流の値をサンプリングし、その値の符号が反転するタイミングを抽出し、以後はそのタイミングでの前記電流の値をサンプリングして診断に用いる。
【0010】
また本発明の電力変換装置は、診断開始を指示するためのユーザインターフェイスを備える。また診断結果を表示、乃至外部に通信するインターフェイスを備える。
【0011】
また本発明の電力変換装置は、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりに要する時間を、前記特定相の電流が振動する期間よりも長くなるように設定する。
【0012】
本発明の回転機システムは、上記の特徴を有する電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機とを備える。
【0013】
本発明の回転機システムの診断方法は、上記の特徴を有する電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機とを備えた回転機システムにおいて、前記回転機が停止している時間帯に診断を実施する。あるいは前記回転機が回転している時間帯に診断を実施する。
【0014】
また本発明の回転機システムの診断方法は、電機子コイルを備えた回転機を含む回転機システムにおいて、前記回転機の単一乃至複数の特定相の前記電機子コイルに一括して電圧パルスを印加し、前記電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始から指定の遅れ時間後の前記特定相の電流の値をサンプリングし、その値の正常状態からの変化で前記回転機の前記特定相の前記電機子コイルの絶縁部材の静電容量の変化を検知し、絶縁劣化を診断する。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムによれば、高速サンプリングを必要としないため、電力変換装置に搭載されたマイコン及び電流センサでも診断を実行できる。また絶縁抵抗ではなく絶縁部材の静電容量を計測するため、絶縁材料の劣化を高感度に検知できる。以上によって、低コストかつ早期に回転機の絶縁故障の予兆を検知する機能を備えた電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの第1の実施例の基本構成図。
図2】本発明の第1の実施例の電力変換装置が備える、回転機の絶縁劣化を診断するフローチャート。
図3】本発明の第1の実施例における電圧パルス発生方法を示す模式図。
図4】本発明の第1の実施例における代表的な電圧パルス波形(立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が短い場合)、及びその際に計測される代表的な電流波形。
図5】本発明の第1の実施例において計測される代表的な電流波形の拡大図(電圧パルスの立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が短い場合)。
図6】本発明の第1の実施例における代表的な電圧パルス波形(立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が長い場合)、及びその際に計測される代表的な電流波形。
図7】本発明の第1の実施例において計測される代表的な電流波形の拡大図(電圧パルスの立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が長い場合)。
図8】本発明の第1の実施例における電流サンプリング方法その1。
図9】本発明の第1の実施例における電流サンプリング方法その2。
図10】本発明の第2の実施例の電力変換装置が備える、回転機の絶縁劣化を診断するフローチャート。
図11】本発明の第3の実施例の電力変換装置が備える、回転機の絶縁劣化を診断するフローチャート。
図12】本発明の第3の実施例における電圧パルス発生方法を示す模式図その1。
図13】本発明の第3の実施例における電圧パルス発生方法を示す模式図その2。
図14】本発明の第3の実施例における電圧パルス発生方法を示す模式図その3。
図15】本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの第4の実施例の基本構成図。
図16】本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだポンプの概略図。
図17】本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ空気圧縮機の概略図。
図18】本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ搬送テーブルの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの第1の実施例の基本構成図である。本回転機システムは、直流電源11と主回路12とゲートドライバ13、制御・診断部14、表示部15、電流センサ16a、16b、16cを備える電力変換装置10と、前記電力変換装置と接続されて電力の授受を行う回転機20とを備える。前記回転機の電機子コイル21として、図1ではY結線の場合を示したが、Δ結線でもよい。また、ここでは給電線を3本利用する三相モータの場合を示したが、異なる相数であってもよい。
【0019】
前記回転機の前記電機子コイルの絶縁部材が劣化すると、絶縁抵抗が低下するより先に、静電容量が変化する。本発明では、その静電容量の変化を検出することで、絶縁劣化を早期に検知し、故障予兆とする。
【0020】
図2は、本実施例の電力変換装置が備える、前記回転機の絶縁劣化を診断するフローチャートである。最初に、ステップS100にて、診断モードを起動する。前記電力変換装置の設定項目から選択する方法のほか、診断モードを起動する機械式ボタンを押す形でもよいし、ディスプレイに表示された「診断モード」ボタンをタッチする形でもよい。あるいは特定の日時に自動的に起動するように設定してもよいし、特定の回転機制御動作の前、乃至後に自動的に起動するように設定してもよい。特に前記回転機が停止中、例えば前記回転機を始動する直前あるいは前記回転機が停止した直後であれば、電流計測におけるノイズも少ないため、診断に適している。もし前記回転機が停止する期間がない場合は、回転中であってもよい。
【0021】
次にステップS101にて、前記主回路を一旦全相、上下アームOFFにする。続いてステップS102にて、主回路を所定時間、全相一括で上アームのみON、下アームはOFFのままにして、電圧パルスを前記回転機に印加する。その状態を図3に示す。ここで対地電圧がより大きい側を上アーム、より小さい側を下アームと呼称している。もし下アームがゼロでない対地電圧を有する場合は、上アームはOFFのまま、下アームのみONにするのでもよい。
【0022】
図4は、立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が短い場合の、代表的な電圧パルス波形、及び、その時にある1相の電流センサで計測される代表的な電流波形である。また図5(a)は電圧パルスの立ち上がりのタイミングの電流波形の拡大図であり、図5(b)は電圧パルスの立ち下がりのタイミングの電流波形の拡大図である。
【0023】
一方、図6は、立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が長い場合の、代表的な電圧パルス波形、及び、その時にある1相の電流センサで計測される代表的な電流波形である。また図7(a)は電圧パルスの立ち上がりのタイミングの電流波形の拡大図であり、図7(b)は電圧パルスの立ち下がりのタイミングの電流波形の拡大図である。図5及び図7においては、正常状態の場合(太線)と、前記回転機の前記電機子コイルの絶縁部材が劣化して、電流計測している相の電機子コイルの対地静電容量が2倍に増加した場合(細線)を重ねて示している。電圧パルスの立ち上がり及び立ち下がりにおいて、電流のリンギングが発生し、そのピーク値や周波数が正常状態と劣化状態とで異なっていることが分かる。図5に示すように、電圧パルスの立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が短い場合は、電圧が一定になった後もリンギングが継続しており、正常状態と劣化状態の差はリンギング波形にしか現れていない。そのため、このような場合に劣化兆候を捉えるには、複数点をサンプリングしてリンギング波形の全体をある程度捉える必要がある。
【0024】
一方、図7に示すように、電圧パルスの立ち上がり時間乃至立ち下がり時間が長い場合は、リンギング収束後も電圧増加乃至減少が続いているため、電流も増加乃至減少が継続している。そのため、このような場合に劣化兆候を捉えるには、リンギング収束後の電流値を1点サンプリングすれば十分である。ただしリンギングがいつまで継続しているかを知る方法として、複数点をサンプリングしてリンギング波形の全体を捉えるのは有効である。
【0025】
このリンギング周波数は典型的には10MHz程度であり、そのピーク値や周波数を精度よく計測して劣化兆候を早期に捉えるには、従来技術では100MHz以上の高速サンプリングが必要であった。そのため、電力変換装置が通常備える制御用マイコンでは速度が追いつかず、高価な計測機器を追加で設置する必要があった。
【0026】
そこで本発明では、電圧パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始からの遅れ時間が互いに異なるようなタイミングになるように調整しながら、より遅い速度で電流サンプリングを行う(ステップS103)。例えば、図8に示すように、1回の立ち上がり乃至立ち下がりにつき1回サンプリングしてもよいし、図9に示すように、1回の立ち上がり乃至立ち下がりにつき複数回サンプリングしてもよい。そして電圧パルス発生及び電流サンプリングを、所定回数に到達するまで所定周期で反復する(ステップS104)ことで、リンギング波形の全体を再構成する。図8及び図9の(a)〜(h)の各図の間に電流サンプリングしない立ち上がり乃至立ち下がりがあってもよい。また(a)〜(h)は必ずしもこの順番で実施する必要はなく、適宜入れ替えてもよい。なお図8及び図9では電圧パルスの立ち上がりにおける電流波形で例示しているが、立ち下がりにおける電流波形でも同様である。
【0027】
次にステップS105にて、劣化兆候を示す特徴量を抽出する。例えばリンギングのピーク値を抽出してもよいし、電流値が所定の閾値を超えるタイミングを抽出してもよい。また電流値の符号が反転するタイミングを抽出してもよい。
【0028】
そしてステップS106にて、抽出した特徴量があらかじめ設定した閾値を超えているか否か、あるいは特徴量をベクトル量子化クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムで分析したときの異常度があらかじめ設定した上限を超えているか否かを判定し、超えていた場合は劣化兆候ありと診断する。
【0029】
最後にステップS107にて、診断結果を表示して診断を完了する。表示方法はディスプレイ、ランプ、ブザーなど人間の五感に訴えるものでもよいし、紙や電子ファイルに記録されるものでもよい。あるいは通信ネットワークを経由して送信してもよい。
【0030】
以上により、本発明によれば、低コストかつ早期に回転機の絶縁故障の予兆を検知する機能を備えた電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを実現できる。
【実施例2】
【0031】
図10は、本発明の第2の実施例の診断フローチャートである。第1の実施例との相違点は、電圧パルスを発生させる際に、立ち上がり時間乃至立ち下がり時間を、電流のリンギングが継続する期間よりも長くなるように設定する点である(ステップS202)。そのためには、電流のリンギングがどのくらい継続するかを事前に把握する必要があるが、ここでは別途把握できていると仮定する。すると第1の実施例の図7のように、リンギングが収まった後の平坦な部分の電流値にも、正常状態と劣化状態とで差が生じる。よって電流値が平坦な時間帯で1点、サンプリングするだけで、劣化兆候を十分に捉えることが可能である。そこで本実施例では、電圧パルスの発生は1回となっている(ステップS203)。また電流サンプリングも1回でよい(ステップS204)。ただし計測誤差を減らすために、電圧パルスの発生と電流サンプリングを複数回実施することを妨げるものではない。以上により、より少ない計測データ量で、回転機の絶縁故障の予兆を検知することができる。
【実施例3】
【0032】
図11は、本発明の第3の実施例の診断フローチャートである。第1乃至2の実施例との相違点は、全相一括ではなく、図12乃至図14に示すように、一相ずつ電圧パルスを印加する点である。1つの相で所定回数、電圧パルスを発生させた後に別の相に移ってもよいし、U相→V相→W相→U相→V相→W相→U相→…のように毎回、相を変えながら電圧パルスを発生させてもよい。また第1の実施例のように複数点をサンプリングしてリンギング波形の全体を再構成してもよいし、もし電圧パルスの立ち上がり時間乃至立ち下がり時間がリンギング継続時間よりも長い場合は、第2の実施例のように1点のみをサンプリングするのでもよい。以上により、全相一括で電圧パルスを印加するときと比較して、同時に流れる電流値の総和が小さくなるため、電磁ノイズによる誤動作の可能性を減らすことができる。
【実施例4】
【0033】
図15は、本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの第4の実施例の基本構成図である。第1乃至3の実施例との相違点は、前記回転機と接続された電力変換装置とは別に、診断装置30を外付けしている点である。このような構成にすることで、制御用マイコンの性能に影響されることなく、劣化兆候を示す特徴量を抽出することができる。なお図15では診断部31を前記電力変換装置の制御部17に接続することで、前記電力変換装置を使用して所望の電圧パルスを発生させているが、パルス発生電源を別途用意して、それを制御して電圧パルスを発生してもよい。
【実施例5】
【0034】
図16は、本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだポンプの概略図である。電力変換装置と接続されたモータには、羽根車が付いていて、水などの液体を吸引・送出する。ポンプにおいては、連続運転をしていない限り、停止する時間帯があるので、そのときに診断する。連続運転を行っている場合は、相対的に負荷が軽い時間帯に診断を実行する。
【実施例6】
【0035】
図17は、本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ空気圧縮機の概略図である。空気圧縮機においては、無負荷運転時にモータ駆動を止める時間帯があるので、そのときに診断する。
【実施例7】
【0036】
図18は、本発明に関わる電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ搬送テーブルの概略図である。搬送テーブルにおいては、ワークの搬送工程と搬送工程の間にモータが停止する時間帯が通常存在するので、そのタイミングで診断を実行する。
【0037】
実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 電力変換装置
11 直流電源
12 主回路
13 ゲートドライバ
14 制御・診断部
15 表示部
16 電流センサ
17 制御部
20 回転機
21 電機子コイル
30 診断装置
31 診断部
32 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18