特許第6985951号(P6985951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985951
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】イオン注入装置および測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20211213BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01J37/317 C
   H01L21/265 T
【請求項の数】23
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-20944(P2018-20944)
(22)【出願日】2018年2月8日
(65)【公開番号】特開2019-139908(P2019-139908A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】井門 徳安
(72)【発明者】
【氏名】狩谷 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大浦 正英
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−011770(JP,A)
【文献】 特開2017−199554(JP,A)
【文献】 特開2005−063874(JP,A)
【文献】 実開平04−101399(JP,U)
【文献】 特表2008−546141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00−37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハに照射されるイオンビームを輸送するビームライン装置と、前記イオンビームの角度情報を測定する測定装置と、を備え、
前記測定装置は、前記イオンビームが入射する複数のスリットと、前記複数のスリットからビーム進行方向に離れた位置に設けられるビーム電流測定部と、測定制御部とを含み、
前記ビーム電流測定部は、前記ビーム進行方向と直交する第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成され、
前記複数のスリットは、前記第1方向がスリット幅方向と一致するように前記第1方向に間隔を空けて配置され、前記第1方向に可動となるように構成され、
前記測定制御部は、
前記複数のスリットを前記第1方向に第1距離にわたって移動させながら、前記ビーム電流測定部により前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第1モードを実行し、
前記複数のスリットの位置を固定したまま、又は、前記第1方向に前記第1距離より小さい第2距離にわたって移動させながら前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第2モードを実行し、
前記第2モードで測定した前記イオンビームの角度情報と、過去に前記第1モードで測定した前記イオンビームの角度情報とを比較することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記測定制御部は、前記複数のスリットの前記第1方向の位置と、前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値とに基づいて、前記イオンビームのビーム束全体の前記第1方向の角度分布を算出することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記測定制御部は、前記複数のスリットの前記第1方向の位置と、前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値とに基づいて、前記イオンビームの前記第1方向の位相空間分布を算出することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記測定制御部は、前記複数のスリットを前記第1方向にスリット幅と同じ距離ずつ移動させながら前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記測定制御部は、前記複数のスリットを前記第1方向に一定速度で移動させながら前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記測定制御部は、前記複数のスリットの前記第1方向の間隔と同じ距離にわたって前記複数のスリットを移動させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記複数のスリットの前記第1方向の間隔は、スリット幅の整数倍であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記複数のスリットは、第1スリットと、前記第1スリットの前記第1方向の隣に設けられる第2スリットとを含み、
前記複数のスリットの前記第1方向の間隔は、前記第1スリットを通過する前記イオンビームの第1部分が測定されうる一以上の測定位置に前記第2スリットを通過する前記イオンビームの第2部分が入射しないように設定されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記測定装置は、前記複数のスリットを含む一つのビーム遮蔽体を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記複数のスリットは、前記第1方向の両端のそれぞれに配置される第1端部スリットおよび第2端部スリットを含み、
前記ビーム電流測定部は、前記第1端部スリットから前記第2端部スリットまでの前記第1方向の距離よりも長い区間にわたって前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記ビーム電流測定部は、前記第1端部スリットから前記第2端部スリットまでの前記第1方向の距離と前記複数のスリットの前記第1方向の移動距離の合計よりも長い区間にわたって前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成されることを特徴とする請求項10に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記測定制御部は、前記ビーム電流測定部の前記複数の測定位置のうち前記第1方向の両端のそれぞれに位置する第1端部測定位置および第2端部測定位置の少なくとも一方で測定される電流値が所定の閾値以上となる場合にアラートを出力することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
ウェハに照射されるイオンビームを輸送するビームライン装置と、前記イオンビームの角度情報を測定する測定装置と、を備え、
前記測定装置は、前記イオンビームが入射する複数のスリットと、前記複数のスリットからビーム進行方向に離れた位置に設けられるビーム電流測定部と、測定制御部とを含み、
前記ビーム電流測定部は、前記ビーム進行方向と直交する第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成され、
前記複数のスリットは、前記第1方向がスリット幅方向と一致するように前記第1方向に間隔を空けて配置され、前記第1方向に可動となるように構成され、
前記測定制御部は、前記複数のスリットを前記第1方向に第1距離にわたって移動させながら、前記ビーム電流測定部により前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第1モードと、前記複数のスリットを前記第1方向に前記第1距離より小さい第2距離にわたって移動させながら前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第2モードと、を実行することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項14】
記第2モードで測定した前記イオンビームの角度情報と、過去に前記第1モードで測定した前記イオンビームの角度情報と比較結果が所定条件を満たす場合に前記イオンビームをウェハに照射することを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記第2モードで測定した前記イオンビームの角度情報と、過去に前記第1モードで測定した前記イオンビームの角度情報と比較結果が所定条件を満たさない場合にアラートを出力することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記第2モードで測定した前記イオンビームの角度情報と、過去に前記第1モードで測定した前記イオンビームの角度情報と比較結果が所定条件を満たさない場合に前記第1モードで前記イオンビームの角度情報を再測定し、前記第1モードでの再測定結果に基づいて前記ビームライン装置の動作パラメータを調整することを特徴とする請求項から15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記ビームライン装置は、前記イオンビームを前記ビーム進行方向および前記第1方向に直交する第2方向に往復走査させるスキャナを備え、
前記測定装置は、前記第2方向に往復走査するイオンビームの前記第1方向の角度情報を測定することを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記ビーム電流測定部は、前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置のそれぞれに設けられる複数の電極を有することを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
前記ビーム電流測定部は、少なくとも一つの電極と、前記少なくとも一つの電極を前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置に移動させる移動機構とを有することを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項20】
前記測定装置は、前記複数のスリットのそれぞれに隣接して設けられる複数の電流検出部をさらに含むことを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項21】
前記測定制御部は、前記複数の電流検出部にて検出されるビーム電流値と、前記ビーム電流測定部により前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値とを比較し、比較結果が所定条件を満たさない場合にアラートを出力することを特徴とする請求項20に記載のイオン注入装置。
【請求項22】
前記測定制御部は、前記複数の電流検出部にて検出されるビーム電流値と、前記複数のスリットの前記第1方向の位置と、前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値とに基づいて、前記イオンビームの前記第1方向の位相空間分布を算出することを特徴とする請求項20または21に記載のイオン注入装置。
【請求項23】
イオンビームの角度情報を測定する測定装置であって、前記イオンビームが入射する複数のスリットと、前記複数のスリットからビーム進行方向に離れた位置に設けられるビーム電流測定部と、測定制御部と、を備え、
前記ビーム電流測定部は、前記ビーム進行方向と直交する第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成され、
前記複数のスリットは、前記第1方向がスリット幅方向と一致するように前記第1方向に間隔を空けて配置され、前記第1方向に可動となるように構成され、
前記測定制御部は、
前記複数のスリットを前記第1方向に第1距離にわたって移動させながら、前記ビーム電流測定部により前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第1モードを実行し、
前記複数のスリットの位置を固定したまま、又は、前記第1方向に前記第1距離より小さい第2距離にわたって移動させながら前記第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する第2モードを実行し、
前記第2モードで測定した前記イオンビームの角度情報と、過去に前記第1モードで測定した前記イオンビームの角度情報とを比較することを特徴とする測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。ウェハに照射されるイオンビームの角度に応じてイオンビームとウェハとの相互作用の態様が変化し、イオン注入の処理結果に影響を与えることが知られており、イオン注入前にイオンビームの角度分布が測定される。例えば、スリットを通過したビームの電流値をスリット幅方向に並べられた複数の電極で測定することにより、スリット幅方向の角度分布を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−4614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンビームの角度情報を適切に把握するためには、ビーム断面内の特定位置の角度分布だけではなく、ビーム束全体にわたって角度分布を得ることが好ましい。しかしながら、ビーム束全体にわたって角度分布を測定するためには、ビームを横切る方向にスリットを移動させながらビーム断面内の複数の位置で角度を測定する必要があり、測定完了までに時間がかかる。半導体製造工程のスループット向上のためには、より短い時間でビームの角度分布を評価できることが好ましい。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオンビームの角度分布を高速に評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、ウェハに照射されるイオンビームを輸送するビームライン装置と、イオンビームの角度情報を測定する測定装置と、を備える。測定装置は、イオンビームが入射する複数のスリットと、複数のスリットからビーム進行方向に離れた位置に設けられるビーム電流測定部と、測定制御部とを含む。ビーム電流測定部は、ビーム進行方向と直交する第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成され、複数のスリットは、第1方向がスリット幅方向と一致するように第1方向に間隔を空けて配置され、第1方向に可動となるように構成され、測定制御部は、複数のスリットを第1方向に移動させながら、ビーム電流測定部により第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する。
【0007】
本発明の別の態様は、測定装置である。この装置は、イオンビームの角度情報を測定する測定装置であって、イオンビームが入射する複数のスリットと、複数のスリットからビーム進行方向に離れた位置に設けられるビーム電流測定部と、測定制御部と、を備える。ビーム電流測定部は、ビーム進行方向と直交する第1方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定可能となるよう構成され、複数のスリットは、第1方向がスリット幅方向と一致するように第1方向に間隔を空けて配置され、第1方向に可動となるように構成され、測定制御部は、複数のスリットを第1方向に移動させながら、ビーム電流測定部により第1方向の位置が異なる複数の測定位置で測定される複数のビーム電流値を取得する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオンビームの角度分布の評価を高速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置を概略的に示す上面図である。
図2】基板搬送処理ユニットの構成を詳細に示す側面図である。
図3図3(a),(b)は、マスクプレートおよびビーム電流測定部の構成を概略的に示す平面図である。
図4】測定装置によるビームの角度分布の測定例を模式的に示す側面図である。
図5図5(a)〜(d)は、異なる角度分布を有するビームの測定例を模式的に示す側面図である。
図6図6(a),(b)は、測定装置によるビーム電流の測定結果を模式的に示すグラフである。
図7】マスクプレートを移動させる様子を模式的に示す側面図である。
図8】測定装置によるビームの角度分布の測定例を模式的に示す側面図である。
図9図9(a),(b)は、測定装置によるビーム電流の測定結果を模式的に示すグラフである。
図10】ビーム束全体の位相空間分布を模式的に示す図である。
図11】異常と判定されるビームの測定例を模式的に示す側面図である。
図12】ビーム束の部分的な位相空間分布を模式的に示す図である。
図13】実施の形態に係るイオン注入方法の流れを示すフローチャートである。
図14】変形例に係る測定装置によるビームの角度分布の測定例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
図1は、本発明のある実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置である。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオン源10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハW)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段線形加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハWまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを半導体ウェハに注入する基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0014】
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有する。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段線形加速ユニット14の入り口部内に配置される。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段線形加速ユニット14に導かれる。
【0015】
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器を挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bを追加的に備えてもよい。高エネルギー多段線形加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0016】
イオンビームを高エネルギーまで加速する高周波方式の高エネルギー多段線形加速ユニット14を出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、高エネルギー多段線形加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームをビーム走査およびビーム平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0017】
ビーム偏向ユニット16は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行う。ビーム偏向ユニット16は、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と、少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットと、少なくとも一つのエネルギー分析スリットと、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析と、イオン注入角度の精密な補正と、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。
【0018】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハWの方向へ向かう。
【0019】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するビームライン装置であり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段線形加速ユニット14とを合計した長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0020】
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向と直角方向に動かすプラテン駆動装置40が設けられる。また、基板搬送処理ユニット20には、イオンビームBのビーム電流および角度分布を測定するための測定装置50が設けられる。測定装置50は、複数のスリットが設けられるマスクプレート52、マスクプレート52を通過したビームを測定するビーム電流測定部54、ビーム電流の測定値からビームの角度分布を算出する測定制御部56を備える。測定装置50の構成は、別途詳述する。
【0021】
イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンビーム生成ユニット12で生成されたイオンビームBを加速する複数のユニットで構成される。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハWに注入する複数のユニットで構成される。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間には、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0022】
図2は、基板搬送処理ユニット20の構成を詳細に示す側面図であり、最終エネルギーフィルタ38から下流側の構成を示す。イオンビームBは、最終エネルギーフィルタ38の角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)電極64にて下方に偏向されて基板搬送処理ユニット20に入射する。基板搬送処理ユニット20は、イオン注入工程が実行される注入処理室60と、ウェハWを搬送するための搬送機構が設けられる基板搬送部62とを含む。注入処理室60および基板搬送部62は、基板搬送口61を介してつながる。
【0023】
注入処理室60は、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置40を備える。プラテン駆動装置40は、ウェハ保持装置42と、往復運動機構44と、ツイスト角調整機構46と、チルト角調整機構48とを含む。ウェハ保持装置42は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構44は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置42を往復運動させることにより、ウェハ保持装置42に保持されるウェハWをy方向に往復運動させる。図2において、矢印Y1によりウェハWの往復運動を例示する。
【0024】
ツイスト角調整機構46は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構46は、ウェハ保持装置42と往復運動機構44の間に設けられ、ウェハ保持装置42とともに往復運動される。
【0025】
チルト角調整機構48は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームBの進行方向(z方向)とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構48は、往復運動機構44と注入処理室60の壁面の間に設けられており、往復運動機構44を含むプラテン駆動装置40全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0026】
注入処理室60には、イオンビームBの軌道に沿って上流側から下流側に向けて、マスクプレート52、エネルギースリット66、プラズマシャワー装置68、ビーム電流測定部54(第1ビーム電流測定部54ともいう)が設けられている。注入処理室60には、イオン注入中のウェハWが配置される「注入位置」に挿入可能となるよう構成される第2ビーム電流測定部70が設けられる。
【0027】
マスクプレート52は、複数のスリットが設けられるビーム遮蔽体である。マスクプレート52には、スリット幅方向がx方向となる縦スリットと、スリット幅方向がy方向となる横スリットが設けられる。マスクプレート52に設けられるスリットを通過したビームの一部は、下流側の第1ビーム電流測定部54や第2ビーム電流測定部70にて測定される。マスクプレート52は、マスク駆動機構58に取り付けられ、y方向に可動となるよう構成される。マスク駆動機構58は、マスクプレート52をy方向に移動させるよう構成される。マスクプレート52は、測定時にy方向に移動することで、マスクプレート52に設けられるスリットが切り出すビーム部分のビーム断面内における位置を変化させる。マスクプレート52は、測定時にビーム軌道上に配置され、注入時にはビーム軌道から退避される。
【0028】
エネルギースリット66は、AEF電極64の下流側に設けられ、AEF電極64とともにウェハWに入射するイオンビームBのエネルギー分析をする。エネルギースリット66は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット66は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームBをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0029】
プラズマシャワー装置68は、エネルギースリット66の下流側に位置する。プラズマシャワー装置68は、イオンビームBのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハ処理面に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置68は、例えば、イオンビームBが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0030】
第1ビーム電流測定部54は、ビーム軌道の最下流に設けられ、例えば、基板搬送口61の下方に取り付けられる。したがって、ビーム軌道上にウェハWや第2ビーム電流測定部70が存在しない場合、イオンビームBはビーム電流測定部54に入射する。ビーム電流測定部54は、マスクプレート52とともにイオンビームBのy方向の角度分布を測定可能となるよう構成される。ビーム電流測定部54をマスクプレート52から離れた最下流に設けることで、角度分解能を高めることができる。
【0031】
第2ビーム電流測定部70は、ウェハWの表面(ウェハ処理面)におけるビーム電流を測定するためのものである。第2ビーム電流測定部70は、可動式となっており、注入時にはウェハ位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときにウェハ位置に挿入される。第2ビーム電流測定部70は、例えば、x方向に移動しながらビーム電流量を測定し、ビーム走査方向(x方向)のビーム電流密度分布を測定する。第2ビーム電流測定部70は、マスクプレート52とともにイオンビームBのx方向およびy方向の少なくとも一方の角度分布を測定可能となるよう構成されてもよい。
【0032】
図3(a),(b)は、マスクプレート52およびビーム電流測定部54の構成を概略的に示す平面図である。図3(a)は、マスクプレート52の構成を示す。マスクプレート52には、複数の縦スリット71,72,73と、複数の横スリット74a,74b,74c,75a,75b,75cとが設けられる。
【0033】
マスクプレート52の中央には、三つの第1縦スリット71が設けられ、マスクプレート52の左方には、二つの第2縦スリット72が設けられ、マスクプレート52の右方には、二つの第3縦スリット73が設けられる。各縦スリット71〜73は、スリット幅がx方向であり、x方向に間隔を空けて配置されている。縦スリット71〜73は、イオンビームBのx方向の角度情報の測定に用いられる。図示する例では、中央に三つ、左右のそれぞれに二つの縦スリットが設けられるが、縦スリットの数および配置はこれに限られない。図示される縦スリット71〜73のいずれかが設けられなくてもよいし、さらに別の縦スリットが追加されてもよい。
【0034】
マスクプレート52の中央左側には、複数の第1横スリット74a,74b,74c(総称して第1横スリット74ともいう)が設けられ、マスクプレート52の中央右側には、複数の第2横スリット75a,75b,75c(総称して第2横スリット75ともいう)が設けられる。横スリット74,75は、スリット幅wがy方向であり、y方向に間隔を空けて配置されている。横スリット74,75は、イオンビームBのy方向の角度情報の測定に用いられる。
【0035】
図示する例では、複数の第1横スリット74は、第1中央横スリット74a、第1上側横スリット74bおよび第1下側横スリット74cの三つで構成される。同様に、複数の第2横スリット75は、第2中央横スリット75a、第2上側横スリット75bおよび第2下側横スリット75cの三つで構成される。なお、横スリットの数および配置はこれに限られない。例えば、マスクプレート52の中央に縦スリットの代わりに横スリットが配置されてもよい。また、y方向に一列に並ぶ横スリットの数は、二つであってもよいし、四以上の偶数(4、6など)または奇数(5、7など)であってもよい。
【0036】
第1横スリット74a〜74cおよび第2横スリット75a〜75cは、それぞれが等しい間隔(ピッチ)dでy方向に並んで配置されている。横スリット74,75のy方向の間隔dは、例えば、スリット幅wの整数倍となるよう構成され、スリット幅の5倍以上となるよう構成される。図示する例では、横スリット74,75のy方向の間隔dがスリット幅wの7倍(つまり、d=7w)に設定される。なお、横スリット74,75のy方向の間隔dはこれに限られず、測定対象とするイオンビームBの標準的な角度分布の大きさに応じて、適宜設定することができる。
【0037】
第1横スリット74a〜74cのそれぞれの開口の周囲には第1電流検出部76a,76b,76c(総称して第1電流検出部76ともいう)が設けられる。第1中央横スリット74aの周囲には第1中央電流検出部76aが設けられ、第1上側横スリット74bの周囲には第1上側電流検出部76bが設けられ、第1下側横スリット74cの周囲には第1下側電流検出部76cが設けられる。第1電流検出部76a〜76cは、対応する第1横スリット74a〜74cに隣接して設けられることが好ましい。第1電流検出部76a〜76cを第1横スリット74a〜74cに近接して設けることで、第1横スリット74a〜74cを通過するビーム部分に対応する値のビーム電流を検出できる。同様にして、第2横スリット75a〜75cのそれぞれの開口の周囲には第2電流検出部77a,77b,77c(総称して第2電流検出部77ともいう)が設けられる。各電流検出部76,77の検出結果は、測定制御部56に送られる。
【0038】
マスクプレート52において縦スリット71〜73および横スリット74,75が形成される位置および範囲は、破線で示すエネルギースリット66のy方向の位置に応じて決められることが好ましい。例えば、縦スリット71〜73が形成されるy方向の範囲Lyは、エネルギースリット66のy方向の幅Syより広いことが好ましく、幅Syよりも十分に広いことがより好ましい。一方、横スリット74,75が形成されるy方向の範囲Dyは、エネルギースリット66のy方向の幅Syよりも狭いことが好ましく、ビームのy方向の偏りや発散/収束を考慮して、幅Syよりも十分に狭いことがより好ましい。また、左端の第2縦スリット72から右端の第3縦スリット73までのx方向の範囲Dxは、イオンビームBの走査方向の走査範囲以内であることが好ましく、例えば、注入対象のウェハWのx方向の幅に対応することが好ましい。
【0039】
図3(b)は、ビーム電流測定部54の構成を示す。ビーム電流測定部54には、複数の第1電極78および複数の第2電極79が設けられる。複数の第1電極78は、y方向に一列に並んで配置される。同様に、複数の第2電極79は、y方向に一列に並んで配置される。複数の第1電極78および複数の第2電極79は、y方向に等間隔のピッチpで配置され、例えば、ピッチpが上述の横スリット74,75のスリット幅wと同じとなるよう構成される。ビーム電流測定部54は、複数の第1電極78および複数の第2電極79により、y方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流値を測定する。第1電極78および第2電極79の測定結果は、測定制御部56に送られる。
【0040】
複数の第1電極78は、ビーム電流測定部54の中央左側に配置され、第1横スリット74a〜74cを通過したビームが入射する位置に設けられる。つまり、複数の第1電極78は、マスクプレート52をビーム軌道上に配置したときに、複数の第1横スリット74とビーム進行方向(z方向)に対向する位置に設けられる。同様に、複数の第2電極79は、ビーム電流測定部54の中央右側に配置され、第2横スリット75a〜75cを通過したビームが入射する位置に設けられる。
【0041】
複数の第1電極78および複数の第2電極79が設けられるy方向の区間Cyは、横スリット74,75が設けられるy方向の範囲Dyよりも大きく、例えば、第1上側横スリット74bから第1下側横スリット74cまでのy方向の距離Dy(=2d)よりも大きい。複数の第1電極78および複数の第2電極79が設けられるy方向の区間Cyと横スリット74,75が設けられるy方向の範囲Dyとの差は、例えば、横スリット74,75のy方向の間隔(ピッチ)dの2倍以上である(つまり、Cy−Dy≧2d)。図示する例において、複数の第1電極78および複数の第2電極79のそれぞれの数は31個であり、複数の第1電極78および複数の第2電極79が設けられるy方向の区間Cyの長さは、横スリット74,75のy方向の間隔(ピッチ)dの4倍以上である。また、複数の第1電極78および複数の第2電極79が設けられるy方向の区間Cyは、ビームのy方向の偏りや発散/収束を考慮して、エネルギースリット66のy方向の幅Syより大きいことが好ましい。
【0042】
複数の第1電極78は、y方向の中央に位置する第1中央電極78aと、y方向の上端に位置する第1上端電極78p1と、y方向の下端に位置する第1下端電極78p2とを含む。複数の第1電極78はさらに、第1中央電極78aと第1上端電極78p1の間に配置される複数(例えば14個)の第1上側電極78b1〜78o1と、第1中央電極78aと第1下端電極78p2の間に配置される複数(例えば14個)の第1下側電極78b2〜78o2とを含む。同様にして、複数の第2電極79は、y方向の中央に位置する第2中央電極79aと、y方向の上端に位置する第2上端電極79p1と、y方向の下端に位置する第2下端電極79p2とを含む。複数の第2電極79はさらに、第2中央電極79aと第2上端電極79p1の間に配置される複数(例えば14個)の第2上側電極79b1〜79o1と、第2中央電極79aと第2下端電極79p2の間に配置される複数(例えば14個)の第2下側電極79b2〜79o2とを含む。
【0043】
図4は、測定装置50によるビーム角度分布の測定例を模式的に示す側面図であり、マスクプレート52の第1横スリット74a〜74cのそれぞれを通過してビーム電流測定部54の複数の第1電極78に入射するビーム部分B1,B2,B3を示す。本図では、第1中央横スリット74aの正面に第1中央電極78aが位置するようにマスクプレート52が配置されている。その結果、第1上側横スリット74bの正面に7番目の第1上側電極78h1が位置し、第1下側横スリット74cの正面に7番目の第1下側電極78h2が位置している。
【0044】
マスクプレート52に入射するイオンビームBはy方向に角度分布を有するため、第1横スリット74a〜74cのそれぞれを通過するビーム部分B1〜B3は、スリット通過後にy方向に広がってビーム電流測定部54に入射しうる。その結果、スリット通過後の各ビーム部分B1〜B3は、y方向のスリット幅wよりもy方向に広い測定範囲C1〜C3に位置する複数の第1電極78に入射しうる。例えば、第1中央横スリット74aを通過する第1ビーム部分B1は、第1中央電極78aを中心とする第1測定範囲C1に位置する複数の第1電極78d1〜78d2に入射しうる。同様に、第1上側横スリット74bを通過する第2ビーム部分B2は、7番目の第1上側電極78h1を中心とする第2測定範囲C2に位置する複数の第1電極78e1〜78k1に入射しうる。第1下側横スリット74cを通過する第3ビーム部分B3は、7番目の第1下側電極78h2を中心とする第3測定範囲C3に位置する複数の第1電極78e2〜78k2に入射しうる。
【0045】
なお、各ビーム部分B1〜B3が実際に入射する測定範囲C1〜C3は、イオンビームBのy方向の角度分布に応じて異なりうる。図5(a)〜(d)は、異なる角度分布を有するビームの測定例を模式的に示す側面図である。図5(a)に示すような角度分布の相対的に小さいビームであれば、より少ない数の電極にのみビーム部分B1〜B3が入射しうる。図5(b)に示すようにイオンビームBの進行方向がz方向に対して傾いている場合も、図4に示す測定範囲C1〜C3とは異なる範囲にビーム部分B1〜B3が入射しうる。また、図5(c)に示すような発散ビームや図5(d)に示すような収束ビームの場合も、図4に示す測定範囲C1〜C3とは異なる範囲にビーム部分B1〜B3が入射しうる。
【0046】
測定装置50は、図4図5(a)〜(d)に示す入射ビームBの角度分布を適切に測定できるように、横スリット74a〜74cのそれぞれを通過するビーム部分B1〜B3が重ならないように構成されることが好ましい。つまり、各横スリット74a〜74cを通過する各ビーム部分B1〜B3に対応する測定範囲C1〜C3が互いに重複しないように構成されることが好ましい。具体的には、イオン注入処理にて許容される角度分布を持つイオンビームBに対し、横スリット74a〜74cのそれぞれを通過するビーム部分B1〜B3を十分に分離できるように横スリット74a〜74cの間隔(ピッチ)dを設定することが好ましい。例えば、第1中央横スリット74aを通過する第1ビーム部分B1が入射しうる第1測定範囲C1内の第1電極78に第1上側横スリット74bおよび第1下側横スリット74cを通過する第2ビーム部分B2および第3ビーム部分B3が入射しないように構成されることが好ましい。
【0047】
図6(a),(b)は、測定装置50によるビーム電流の測定結果を模式的に示すグラフである。図6(a)は、ビーム電流測定部54にて測定されるビーム電流値80を示すグラフである。図6(a)において、横軸はy方向の測定位置を示し、縦軸は電流値Iを示す。y=0は、第1中央電極78aに対応し、y=+1〜+14は、それぞれ第1上側電極78b1〜78o1に対応し、y=+15は、第1上端電極78p1に対応し、y=−1〜−14は、それぞれ第1下側電極78b2〜78o2に対応し、y=−15は、第1下端電極78p2に対応する。図6(a)において、第1測定範囲C1は、y=−3〜+3の範囲に対応し、第2測定範囲C2は、y=+4〜+10の範囲に対応し、第3測定範囲C3は、y=−10〜−4の範囲に対応する。
【0048】
図6(b)は、横スリット74a〜74cのそれぞれを通過するビーム部分B1〜B3の角度分布80a,80b,80cを示すグラフである。図6(b)において、グラフの横軸y’は、ビーム電流測定部54により測定されるy方向の角度であり、y’=dy/dzで表すことができる。角度y’は、例えば、ビーム電流測定部54の測定位置yの基準位置yからのずれをマスクプレート52からビーム電流測定部54までのz方向の距離Lで割ることで求めることができる(つまり、y’=(y−y)/L)。グラフでは、複数の電極78のピッチpを距離Lで割った値(p/L)を角度値「1」として規格化している。グラフの縦軸Iは、ビーム電流測定部54にて測定されるビーム電流値である。
【0049】
図6(b)に示す角度分布80a〜80cのそれぞれは、図6(a)の測定結果に基づいて測定制御部56が算出する。測定制御部56は、図6(a)のビーム電流値80のグラフを測定範囲C1〜C3ごとに分割し、横スリット74a〜74cのそれぞれのy方向の位置に応じて角度y’の中心座標(y’=0)の位置を個別に設定する。例えば、第1測定範囲C1の場合、第1中央横スリット74aのy位置はy1=0(図4参照)であるため、図6(a)のビーム電流値80のグラフのy=0の位置が角度y’の中心座標となるようにする。一方、第2測定範囲C2の場合、第1上側横スリット74bのy位置はy2=+7(図4参照)であるため、ビーム電流値80のグラフのy=+7の位置が角度y’の中心座標となるようにする。同様に、第3測定範囲C3の場合、第1下側横スリット74cのy位置はy3=−7(図4参照)であるため、ビーム電流値80のグラフのy=−7の位置が角度y’の中心座標となるようにする。これにより、横スリット74a〜74cのそれぞれのy位置(0,+7,−7)を基準とする角度y’の分布(つまり、角度分布)が算出される。
【0050】
本実施の形態では、複数の横スリット74a〜74cを通過するビーム部分B1〜B3を同時に測定することにより、イオンビームBのビーム束全体のうちの異なる複数のy位置の角度成分を同時に測定できる。本実施の形態では、さらに、マスクプレート52をy方向に移動させることにより、イオンビームBのビーム束全体にわたる角度分布を測定する。
【0051】
図7は、マスクプレート52を移動させる様子を模式的に示す側面図であり、横スリット74のスリット幅wずつy方向の位置をずらしたマスクプレート52d2,52c2,52b2,52a,52b1,52c1,52d1を示す。図示する7枚のマスクプレート52d2〜52d1のそれぞれは、第1中央横スリット74aのy位置をy1=−3〜+3の範囲で移動させたものに対応する。このとき、第1上側横スリット74bのy位置は、y2=+4〜+10となり、第1下側横スリット74cのy位置は、y3=−10〜−4となる。その結果、マスクプレート52を横スリット74の間隔(ピッチ)dに対応する範囲(例えば、スリット幅wの6倍の距離)にわたって移動させることにより、y=−10〜+10の範囲にわたってイオンビームBの角度分布を測定できる。
【0052】
図8は、測定装置50によるビームの角度分布の測定例を模式的に示す側面図であり、マスクプレート52のy位置の移動量が+3となるように移動させた場合を示す。図8では、第1中央横スリット74aのy位置がy1=+3となっており、第1上側横スリット74bのy位置がy2=+10となっており、第1下側横スリット74cのy位置がy3=−4となっている。その結果、第1上側横スリット74bのy位置は、マスクプレート52に入射するイオンビームBのほぼ上端の位置となっている。
【0053】
図9(a),(b)は、測定装置50によるビーム電流の測定結果を模式的に示すグラフであり、図8のマスクプレート52の配置を用いた場合を示す。図9(a)は、ビーム電流測定部54にて測定されるビーム電流値80を示す。第1測定範囲C1は、y=0〜+6の範囲に対応し、第2測定範囲C2は、y=+7〜+13の範囲に対応し、第3測定範囲C3は、y=−7〜−1の範囲に対応する。図9(b)の角度分布80a〜80cは、図9(a)のビーム電流値80に基づいて算出され、横スリット74a〜74cのそれぞれのy位置(+3,+10,−4)を基準とした角度分布に対応する。
【0054】
測定装置50は、図7に示すようにマスクプレート52を移動させながら、それぞれのマスク位置にてビーム電流値80を測定する。これにより、y=−10〜+10の範囲のそれぞれのy位置のビーム部分の角度成分を算出できる。
【0055】
マスクプレート52は、段階的に移動されてもよいし、連続的に移動されてもよい。例えば、マスクプレート52をスリット幅wの距離ずつ移動させて複数のマスク位置で測定を実行してもよい。この場合、ビーム電流測定部54にてビーム電流を測定する間はマスクプレート52の位置は固定され、マスクプレート52を移動している間はビーム電流の測定が中断される。マスクプレート52を連続的に移動させながらビーム電流測定部54にてビーム電流を測定してもよく、例えば、マスクプレート52を一定速度で移動させながらビーム電流を測定してもよい。この場合、横スリット74が所定距離を移動する間にわたって測定されるビーム電流値を積算して角度分布の値として用いてもよい。例えば、y=0の位置のビーム部分の角度成分として、第1中央横スリット74aのy方向の中心位置が−0.5から+0.5まで移動する間にわたって測定されるビーム電流の積算値を採用してもよい。
【0056】
図10は、ビーム束全体の位相空間分布を模式的に示す図であり、y=−10〜+10の範囲のそれぞれのy位置におけるビーム部分の角度分布80a〜80cを一つのグラフにまとめたものである。図10において、横軸yは各ビーム部分のy位置であり、縦軸y’はy方向の角度である。図10の紙面に直交する軸は、電流値Iである。測定制御部56は、このような三次元のグラフを生成することにより、イオンビームBのビーム束全体のy方向の角度分布(位相空間分布)を算出する。
【0057】
測定制御部56は、ビーム電流値Iが所定値以上となる領域の外縁を囲うことで、ビームの位相空間上の分布形状(位相空間プロファイルEともいう)を算出してもよい。例えば、図10において破線で示される位相空間プロファイルEの面積値はエミッタンスに相当する。測定制御部56は、図10に示されるデータを横軸yで積分することにより、角度y’と電流値Iの二軸で表されるビーム束全体の角度分布を算出してもよい。測定制御部56は、図10に示されるデータを縦軸y’で積分することにより、位置yと電流値Iの二軸で表されるビーム束全体のy方向のビームプロファイルを算出してもよい。
【0058】
測定制御部56は、図10に示す位相空間プロファイルEの算出にかかる時間を短縮化するため、複数の第1電極78で測定されるビーム電流値の一部のみを取得するようにしてもよい。例えば、図6(a)に示すビーム電流値80を取得する場合、必要なデータはy=−10〜+10の範囲のみであり、それ以外のy=−15〜−11およびy=+11〜+15の範囲は不要と言える。同様に、図9(a)に示すビーム電流値80を取得する場合、必要なデータはy=−7〜+13の範囲のみであり、それ以外の範囲は不要と言える。そこで、測定制御部56は、測定範囲C1〜C3のそれぞれに対応する範囲の第1電極78のみから電流値のデータを取得し、それ以外のデータについては取得しないようにすることで、データ取得にかかる時間を短縮化してもよい。これにより、位相空間プロファイルEを算出するまでの時間を短くできる。
【0059】
測定制御部56は、一部の第1電極78にて測定される電流値に基づいて、その測定が正常に行われているか否かを検証してもよい。例えば、複数の第1電極78のうちのy方向の両端のそれぞれに位置する第1上端電極78p1および第1下端電極78p2の少なくとも一方で測定される電流値が所定の閾値以上となる場合に測定が異常であるとみなし、アラートを出力してもよい。第1上端電極78p1および第1下端電極78p2の少なくとも一方で所定の閾値以上のビーム電流が測定される場合、複数の第1電極78が設けられる領域外にもビームが到達していることが推定され、測定される角度分布の妥当性が疑われるからである。
【0060】
測定制御部56は、複数の第1電極78にて測定される電流値と、複数の第1電流検出部76にて検出される電流値とに基づいて、測定が正常に行われているか否かを検証してもよい。例えば、複数の第1電極78にて測定される第1測定範囲C1、第2測定範囲C2および第3測定範囲C3のそれぞれのビーム電流値の大小関係と、複数の第1電流検出部76a〜76cのそれぞれで検出されるビーム電流値の大小関係とが対応するか否かを確認してもよい。例えば、ビーム電流測定部54の測定結果が図6(a)のような場合、第1中央電流検出部76aの電流検出量が相対的に大きく、第1上側電流検出部76bおよび第1下側電流検出部76cの電流検出量が相対的に小さければ、適正と考えられる。また、ビーム電流測定部54の測定結果が図9(a)のような場合、第1中央電流検出部76aおよび第1下側電流検出部76cの電流検出量が相対的に大きく、第1上側電流検出部76bの電流検出量が相対的に非常に小さければ、適正と考えられる。一方で、このような関係性から外れていれば、測定が異常であると考えられる。この場合、ビーム電流測定部54はアラートを出力してもよい。
【0061】
図11は、異常と判定されるビームの測定例を模式的に示す側面図である。図11では、イオンビームBがz方向に対して大きく傾いており、第1中央横スリット74aを通過する第1ビーム部分B1が第3測定範囲C3に入射し、第1上側横スリット74bを通過する第2ビーム部分B2が第1測定範囲C1に入射している。その結果、三つの横スリット74a〜74cと三つの測定範囲C1〜C3の対応関係がずれてしまっている。このような場合に、ビーム電流測定部54の測定結果のみに基づき、三つの横スリット74a〜74cと三つの測定範囲C1〜C3とが対応すると仮定して角度成分を算出してしまうと、実際とは大きく異なる位相空間分布が算出されてしまう。
【0062】
その一方で、三つの第1電流検出部76a〜76cの電流検出値を参照することで、上述のような対応関係のずれを確認することができる。図11の場合、第1上側電流検出部76bにて電流が検出されるにも拘わらず、第2測定範囲C2にてビーム電流が測定されておらず、また、第1下側電流検出部76cにて電流が検出されないにも拘わらず、第3測定範囲C3にてビーム電流が測定されているため、上述の対応関係のずれを発見できる。このようにして、複数の第1電極78にて測定される電流値と、複数の第1電流検出部76にて検出される電流値とを比較することにより、測定が正常であるかを検証できる。
【0063】
測定制御部56は、例えば、測定範囲C1〜C3のそれぞれにて測定されるビーム電流量の合計値IC1〜IC3と、第1電流検出部76a〜76cのそれぞれにて検出されるビーム電流量ID1〜ID3との比ICi/IDi(i=1,2,3)の値に基づいて、測定が正常であるか否かを判定してもよい。例えば、電流比ICi/IDiのばらつきが所定の範囲内であれば、測定が正常であるとみなし、そうでなければ、測定が異常であるとみなしてもよい。なお、測定範囲C1〜C3のそれぞれにて測定されるビーム電流量の合計値の代わりに、ビーム電流量のピーク値を指標に用いてもよい。
【0064】
測定装置50は、複数の測定モードで動作するよう構成され、第1モードおよび第2モードのいずれかで動作してもよい。第1モードは、ビーム束全体にわたって角度分布を測定する動作モードであり、第2モードは、ビーム束の一部の角度分布のみを測定する動作モードである。第1モードでは、図10に示すような位相空間プロファイルEがプロットされる。一方、第2モードでは、図10よりも少ないデータ数に基づいて位相空間プロファイルがプロットされる。第2モードでは、データ数が少ない分だけ測定精度が下がるが、測定時間が短くて済むため、概算での角度分布情報を短時間で得ることができる。
【0065】
図12は、ビーム束の部分的な位相空間プロファイルE’を模式的に示す図であり、第2モードでの測定例を示す。図12に示す位相空間分布は、三つの角度分布80a,80b,80cのみで構成されるため、マスクプレート52を移動させる必要がなく、短時間で測定できる。また、三つの角度分布80a〜80cのそれぞれは、y方向に離間しているため、これらの三つの情報のみからでも概略的(部分的)な位相空間プロファイルE’を把握することも可能である。例えば、イオン注入処理の開始前に第1モードにて全体的な位相空間プロファイルEをプロットしておき、イオン注入処理の途中で第2モードにて概略的な位相空間プロファイルE’をプロットして事前にプロットしておいた高精度の位相空間プロファイルEと比較することで、ビーム品質を簡易的に確認することが可能である。第2モードによる測定時間は相対的に短いため、例えば、ウェハWの交換中に測定を完了させることも可能である。また、任意の複数のタイミングでビーム調整する場合に、初回のビーム調整では第1モードにて位相空間プロファイルEのプロットを取得し、2回目以降の任意のタイミングでのビーム調整では第2モードにて概略的な位相空間プロファイルE’のプロットを取得して初回の位相空間プロファイルEのプロットと比較することで、ビーム品質を簡易的に確認してもよい。このような第2モードを用いることで、注入処理のスループットに顕著な影響を与えることなくビーム品質を簡易的に確認できる。
【0066】
なお、第2モードにおいてマスクプレート52を移動させながら測定を行ってもよい。例えば、第1モードでのマスクプレート52の第1方向の移動距離(第1距離、例えばスリット幅wの6倍)よりも小さい第2距離(例えばスリット幅wの3倍)にわたってマスクプレート52を移動させて第2モードでの測定を実行してもよい。このとき、第2モードにおいて、2箇所や3箇所といった少ない数の複数のマスク位置にてビーム電流値を測定してもよい。これにより、相対的に短い測定時間と、測定精度の向上とを実現することができる。
【0067】
上記において、図4図10を参照しながら、複数の第1横スリット74a〜74cおよび複数の第1電極78を用いてビームのy方向の位相空間分布を算出する方法を説明したが、複数の第2横スリット75a〜75cおよび複数の第2電極79を用いることにより、同様にy方向の位相空間分布を算出することもできる。複数の第1電極78および複数の第2電極79の測定結果を組み合わせてイオンビームBの位相空間分布を算出してもよいし、双方の測定結果を比較してビーム品質を確認してもよい。
【0068】
図13は、実施の形態に係るイオン注入方法の流れを示すフローチャートである。複数のスリットが設けられるマスクプレート52をビーム軌道上に移動させ(S10)、各スリットを通過したビームをy方向の位置が異なる複数の測定位置(複数の電極)で測定する(S12)。測定が正常であれば(S14のY)、各スリットを通過したビームの角度成分を算出する(S16)。測定が終了していなければ(S18のN)、マスクプレート52を移動させてスリットのy方向の位置を変更し(S10)、S12〜S16の処理を実行する。その後、測定が終了するまでS10〜S16の処理を繰り返す。測定が終了し(S18のY)、測定モードが第1モードであれば(S20のY)、ビーム束全体の位相空間プロファイルEを算出し(S22)、算出した位相空間プロファイルEが許容値内であってビームの角度分布がOKであれば(S26のY)、イオン注入処理を実行し(S28)、本フローを終了する。
【0069】
S20にて測定モードが第1モードではなく、第2モードである場合(S20のN)、ビーム束の部分的な位相空間プロファイルE’を算出する(S24)。過去に第1モードにて算出したビーム束全体の位相空間プロファイルEと、第2モードにて算出した部分的な位相空間プロファイルE’を比較し(S26)、その比較結果が許容値内であってビームの角度分布がOKであれば(S26のY)、イオン注入処理を実行し(S28)、本フローを終了する。
【0070】
S26において、第1モードで測定した位相空間プロファイルEが許容値外であってビームの角度分布がNGであり(S26のN)、ビームの累積の調整回数が規定回数内であれば(S30のY)、ビームの角度分布を調整し(S32)、再度S10〜S22の処理を実行して位相空間プロファイルEを算出する。また、S26において、第2モードで測定した位相空間プロファイルE’が許容値外であってビームの角度分布がNGであり(S26のN)、ビームの累積の調整回数が規定回数内であれば(S30のY)、ビームの角度分布を調整し(S32)、第1モードを選択してS10〜S22の処理を実行して位相空間プロファイルEを算出する。その後も位相空間プロファイルEが許容値外であり(S26のN)、ビームの累積の調整回数が規定回数を超えた場合(S30のN)、アラートを出力し(S34)、本フローを終了する。また、S14にて測定に異常があれば(S14のN)、アラートを出力し(S34)、本フローを終了する。
【0071】
本実施の形態によれば、y方向に並ぶ複数の横スリット74,75を用いてy方向の角度分布を測定することで、イオンビームBのy方向の角度分布の測定にかかる時間を短縮化できる。ビーム束全体の角度分布を測定する場合、三つの横スリット74,75を用いることで、一つの横スリットのみを用いる場合の1/3の時間で測定を完了できる。また、ビーム束の部分的な角度分布を測定する場合であっても、横スリットの位置を移動させることなく、y方向に離れた複数箇所(例えば3箇所)のビーム部分の角度分布を同時測定できる。そのため、極めて短い時間でビーム束全体の概略的な角度分布を得ることができ、高速かつ精度良くビームの角度分布を簡易評価できる。
【0072】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0073】
図14は、変形例に係る測定装置150によるビームの角度分布を模式的に示す側面図である。本変形例では、複数の第1電極78および複数の第2電極79によりビーム電流を測定する代わりに、y方向に移動可能な少なくとも一つの電極を備えるファラデーカップ154aを用いてビーム電流を測定する。ビーム電流測定部154は、ファラデーカップ154aと、移動機構154bとを含む。移動機構154bは、ファラデーカップ154aをy方向に移動させ、ファラデーカップ154aがy方向の位置が異なる複数の測定位置に配置されるようにする。ファラデーカップ154aが配置可能となる複数の測定位置は、上述の実施の形態に係る複数の第1電極78または複数の第2電極79の位置に対応する。
【0074】
本変形例では、マスクプレート52をビーム軌道上に配置した後、ファラデーカップ154aを矢印Y3に沿って移動させ、y方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定する。つづいて、マスクプレート52をy方向に移動させて別のマスク位置とした後、再びファラデーカップ154aを矢印Y3に沿って移動させ、y方向の位置が異なる複数の測定位置でビーム電流を測定する。この工程を繰り返すことにより、イオンビームBのビーム束全体の角度分布を算出できる。
【0075】
上述の実施の形態では、複数の第1電極78にて測定される電流値と、複数の第1電流検出部76にて検出される電流値とが対応しない場合、測定が異常であるとみなしてアラートを出力する場合について示した。変形例では、複数の第1電極78にて測定される電流値と、複数の第1電流検出部76にて検出される電流値との対応関係に基づいて、角度分布を算出する際の角度y’の中心座標の位置を調整してもよい。例えば、図11に示すようなイオンビームBが入射する場合、上述の対応関係から、第1中央横スリット74aを通過する第1ビーム部分B1が第3測定範囲C3にて測定され、第1上側横スリット74bを通過する第2ビーム部分B2が第1測定範囲C1にて測定されることが分かる。そこで、第3測定範囲C3にて測定されるビーム電流量を第1ビーム部分B1の角度分布として採用し、第1測定範囲C1にて測定されるビーム電流量を第2ビーム部分B2の角度分布として採用してもよい。このとき、第1中央横スリット74aのy位置はy1=0であるため、第3測定範囲C3のビーム電流量の角度分布の算出においてy=0の位置を角度y’の中心座標としてもよい。同様にして、第1上側横スリット74bのy位置はy2=+7であるため、第1測定範囲C1のビーム電流量の角度分布の算出においてy=+7の位置を角度y’の中心座標としてもよい。つまり、上述の対応関係に基づいて、角度分布のy’の中心座標の設定方法を変更してもよい。
【0076】
上述の実施の形態では、複数の横スリット74,75の周りに電流検出部76,77を設ける構成としたが、変形例では電流検出部76,77が設けられなくてもよい。
【0077】
上述の実施の形態では、測定装置50がイオンビームBのy方向の角度分布を測定するよう構成される場合について示した。変形例においては、測定装置50がイオンビームBのx方向の角度分布を測定するよう構成されてもよいし、ビーム進行方向と直交する任意の方向の角度分布を測定するよう構成されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
W…ウェハ、50…測定装置、54…ビーム電流測定部、56…測定制御部、74,75…横スリット、76,77…電流検出部、78、79…電極、100…イオン注入装置、150…測定装置、154…ビーム電流測定部、154a…ファラデーカップ、154b…移動機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14