(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転軸と直交する面内において、前記磁性ディスクの外周と、前記固定ヨークの外側面との距離が一定ではない請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクラッチ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のクラッチは、電磁石がローター及び外筒の径方向の外側に離間して配置されているため、この方向において小型化することが難しいという課題があった。
【0005】
そこで本発明は、磁気粘性流体を用いて伝達軸の回転抵抗を変化させることができるクラッチにおいて、特に、伝達軸に直交する方向における小型化を図ることができるクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のクラッチは、回転軸を中心に回転動作可能な第1伝達軸及び第2伝達軸と、第1伝達軸と一体に設けられた円盤状の磁性ディスクと、第2伝達軸と一体に設けられ、磁性ディスクを挟む一方の第1領域に位置する第1ヨーク、及び、他方の第2領域に位置する第2ヨークと、第1領域において、回転軸が延びる方向に沿った方向に見た平面視で磁性ディスクと重なるように配置された第1コイルと、第1ヨーク及び第2ヨークとともに、第1コイルが発生する磁界の磁路を構成する固定ヨークと、磁性ディスクと第1ヨーク及び第2ヨークとの間に充填された磁気粘性流体とを備え、平面視において、磁性ディスクの外周に沿って、第1ヨークと第2ヨークとの間に磁気ギャップが設けられ、磁気ギャップは、平面視において、第1コイルの外縁よりも外側、又は、第1コイルの外縁と重なる位置に形成されていることを特徴としている。
【0007】
この構成においては、第1伝達軸と一体に設けられた磁性ディスクを、第2伝達軸と一体に設けられた、第1ヨーク及び第2ヨークで挟むとともに、磁性ディスクと第1ヨーク及び第2ヨークとの間に磁気粘性流体を充填している。このため、磁気粘性流体中の磁性粒子の連結強度を制御することで第1伝達軸の回転抵抗を変化させることができ、第1伝達軸から第2伝達軸への回転力の伝達を滑らかに行うことが可能となる。
【0008】
さらに、平面視において、磁性ディスクの外周に沿って、第1ヨークと第2ヨークとの間に磁気ギャップを設け、第1コイルを磁性ディスクと重なるように配置したことにより、伝達軸(第1伝達軸及び第2伝達軸)に直交する方向における小型化を図ることができる。
【0009】
また、第1コイルに印加する電流を制御することにより、第1伝達軸に与えられた回転力を第2伝達軸に伝達するか、切断するかだけでなく、その中間領域において伝達の強さを細かく制御することが可能となる。したがって、利用形態の違いなどに応じて、印加電流を適切な範囲に任意に設定できる。
【0010】
さらに、この構成においては、回転力が比較的大きなものに対しても、磁性粒子の連結強度を調整することによって、第2伝達軸を破損させない範囲で回転力の伝達性能を発揮させることができる。また、上下反転させた状態も含めて、傾斜させた状態でも十分な伝達性能を発揮させることができる。
【0011】
本発明のクラッチでは、平面視において、第1ヨーク及び第2ヨークの外縁に沿って封止部材が配置され、封止部材が非磁性体からなることが好ましい。
これにより、第1ヨークと第2ヨークが磁気的に互いに接続されない構成となるため、第1ヨークと第2ヨークとに挟まれた磁性ディスクに対して、その厚み方向に横断する磁界成分を主方向とする磁束を通過させることができ、これにより磁気粘性流体に対して磁界を効率的に作用させることができる。よって、この磁束の方向に基づいた方向に抵抗力(トルク)を発生させることができるため、クラッチを径方向に大型化することなく大きなせん断応力を得ることが可能となる。
【0012】
本発明のクラッチでは、第2領域において、平面視で磁性ディスクと重なるように配置された第2コイルをさらに備え、第2コイルは、第1コイルが発生する磁界と同一の向きに磁界を発生することが好ましい。
これにより、発生する磁界を大幅に増加させることができ、広い範囲で回転力の伝達の強さを細かく制御できるようになる。
【0013】
本発明のクラッチでは、回転軸と直交する面内において、磁性ディスクの外周と、固定ヨークの外側面との距離が一定ではないことが好ましい。さらに平面視において、固定ヨークはほぼ四角形であることが好ましい。
これにより、磁性ディスクの外側に広い磁路を確保できるため、磁性ディスクに対してかける磁界を同じ方向にしやすくなり、これにより、磁性ディスクに対して大きな抵抗力を確実に発生させることができる。また、固定ヨークの平面形状を四角形(矩形)にすることによって、組み立てやすい形状となるため、小型化の点で望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、磁気粘性流体を用いて伝達軸の回転抵抗を変化させることができるクラッチにおいて、特に、伝達軸に直交する方向における小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るクラッチ10について図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1(a)は本実施形態に係るクラッチ10を上側から見た斜視図、(b)はクラッチ10を下側から見た斜視図である。
図2と
図3はクラッチ10の分解斜視図である。
図2は上側から見た分解斜視図、
図3は下側から見た分解斜視図である。
図4は、クラッチ10の回転軸11を含む断面図、
図5は
図4において磁界の流れを示した断面図である。
図6は
図4の一部拡大図、
図7は
図6の一部拡大図である。
図8はクラッチ10の機能ブロック図である。
図1(a)、(b)から
図7において、説明の便宜上、回転軸11に沿って上下方向を規定しているが、実際の使用時における方向を制限するものではない。以下の説明において、回転軸11に直交する方向を径方向と称する。また、回転軸11に沿って、上側から下側を見た状態を平面視ということがある。
【0017】
図1〜
図3に示すように、本実施形態のクラッチ10は、回転軸11に沿って、第1伝達軸110と第2伝達軸210とが直列に並ぶように配置されている。第1伝達軸110と第2伝達軸210は、それぞれ、共通する回転軸11を中心に回転動作可能となっている。
【0018】
図2に示すように、クラッチ10は、第1伝達軸110と第2伝達軸210のほかに、封止部材としての環状部材30と、円盤状の磁性ディスク120と、第1回転ヨーク(第1ヨーク)130と、第1固定ヨーク140と、第1コイル150と、第2回転ヨーク(第2ヨーク)230と、第2固定ヨーク240と、第2コイル250とを備える。第1固定ヨーク140は、第1外側ヨーク141及び第1内側ヨーク142を備え、第2固定ヨーク240は、第2外側ヨーク241及び第2内側ヨーク242を備える。
図8に示すように、第1コイル150と第2コイル250には、制御回路である制御部50から電流がそれぞれ印加され、これによって、第1コイル150と第2コイル250はそれぞれ磁界を発生可能である。
【0019】
第1伝達軸110と磁性ディスク120は、一体となって回転軸11を中心として両方向に回転する。
図4〜
図6に示すように、第1伝達軸110は、2つのラジアル軸受161、162を介して、回転可能な状態で第1外側ヨーク141と第1内側ヨーク142にそれぞれ支持される。第1伝達軸110は、その外周面から径方向に沿って外側へ延びる連結シャフト111を備え、この連結シャフト111を介して磁性ディスク120に連結され、これによって第1伝達軸110と磁性ディスク120は一体となって回転可能となる。ここで、磁性ディスク120は、磁性材料で構成され、回転軸11の方向に直交するように配置される円形平面を有する円盤状の部材である。
【0020】
第2伝達軸210は、第1回転ヨーク130と、第2回転ヨーク230と、環状部材30と一体となって回転軸11を中心として両方向に回転する。
図4と
図5に示すように、第2伝達軸210は、2つのラジアル軸受261、262を介して、回転可能な状態で第2外側ヨーク241と第2内側ヨーク242にそれぞれ支持される。第2伝達軸210は、その外周面から径方向に沿って外側へ延びる連結シャフト211を備え、この連結シャフト211を介して第2回転ヨーク230に連結される。この第2回転ヨーク230は、環状部材30を介して第1回転ヨーク130に固定されている。よって、第2伝達軸210は、第1回転ヨーク130、第2回転ヨーク230、及び、環状部材30と一体となって回転可能となる。
【0021】
図2と
図3に示すように、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230はそれぞれ、回転軸11を中心として、回転軸11に直交する方向に広がる略円盤状をなしており、回転軸11の方向において互いに対向している。
【0022】
図2に示すように、封止部材としての環状部材30は円環状をなしており、非磁性体(例えば、合成樹脂などの非磁性材料の成形体)で構成される。
図4〜
図7に示すように、環状部材30は、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230それぞれの径方向の外縁に沿って配置され、第1回転ヨーク130の底面と第2回転ヨーク230の上面のそれぞれに接合される。第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230の外縁部の間に固定された状態の環状部材30は、回転軸11の方向において上から下に見た平面視において、第1コイル150の外縁150aに対応する位置に配置されている。
図6と
図7に示すように、回転軸11の方向における環状部材30の高さは、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230との隙間40よりも大きくなっており、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230の外縁部の間に配置することによって、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230との隙間40が径方向において閉じられる。環状部材30の厚み(回転軸11の方向の厚み)は、第1コイル150が発生した磁界が、環状部材30を通じて径方向に通じることを妨げることができる厚みとなっている。
【0023】
図6に示すように、隙間40は、回転軸11の方向において第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230に挟まれた空間であり、回転軸11に直交する方向において環状部材30によって囲まれるように形成される。この隙間40には、磁気粘性流体20が介在して満たされるとともに、磁性ディスク120が、第1回転ヨーク130及び第2回転ヨーク230と同心状になるように配置される。これによって、磁性ディスク120と第1回転ヨーク130との間に第1の隙間S1が形成され、磁性ディスク120と第2回転ヨーク230との間に第2の隙間S2が形成され、さらに、環状部材30との間に、磁気粘性流体20による第1のギャップG1が形成される。
【0024】
回転軸11を中心として第1伝達軸110を回転させると、第1伝達軸110と一体となった磁性ディスク120が、第1回転ヨーク130及び第2回転ヨーク230、並びに、第1固定ヨーク140に対して相対的に回転する。このとき、磁性ディスク120の上下面と、第1回転ヨーク130又は第2回転ヨーク230との間の回転軸11の方向の距離は、略一定に保たれ、また、磁性ディスク120の外周と環状部材30との間の径方向の距離も略一定に維持される。
【0025】
図4と
図5に示すように、第1回転ヨーク130は、磁性ディスク120を挟む一方の領域である第1領域A1に配置され、第2回転ヨーク230は、磁性ディスク120を挟む他方の領域である第2領域A2に配置されている。環状部材30は、径方向において磁性ディスク120の外側に配置されている。
【0026】
図4と
図5に示すように、第1領域A1においては、磁性ディスク120側から順に、第1回転ヨーク130、第1内側ヨーク142、第1コイル150、及び、第1外側ヨーク141が配置されている。
【0027】
図2と
図4〜6に示すように、第1内側ヨーク142は、円環部142aと、円環部142aの上面から円環部142aと同心状に上側へ延びるように一体に設けられた円筒部142bとを備える。円環部142aと円筒部142bは、平面視において、回転軸11を中心とする円形状をなしており、その外径は、円環部142aよりも円筒部142bの方が小さくされている。円環部142aと円筒部142bの外径の違いにより、円筒部142bの外周面に沿って段差部142cが形成される。また、第1内側ヨーク142は、回転軸11を中心とした平面視円形状の内周面142dを有する。内周面142dは、回転軸11に沿って円環部142aと円筒部142bを貫いており、その内径は、上下方向の位置に応じて変化するように設定されている。
【0028】
図4〜
図6に示すように、第1内側ヨーク142の段差部142cには磁界発生部としての第1コイル150が配設される。第1コイル150は、回転軸11の方向に沿った平面視において、磁性ディスク120と重なるように配置されている。第1コイル150は、内周が円筒部142bの外周面に沿うような円環状をなしており、その外縁150aは径方向において磁性ディスク120の外周よりも外側に位置する。第1コイル150は、回転軸11の周りを回るように巻き付けられた導線を含むコイルである。第1コイル150には図示しない経路で電流が供給され、電流の供給によって磁界が発生する。
なお、平面視において、磁性ディスク120の外周よりも第1コイル150の外縁150aが内側になるように、第1コイル150を配設してもよい。
【0029】
図3に示すように、第1外側ヨーク141は内部に空間141aを有している。この空間141aは、第1外側ヨーク141の上壁部141cと側壁部141bによって囲まれている。
図4と
図5に示すように、空間141aには、第1内側ヨーク142、第1コイル150、及び、第1回転ヨーク130が収容されるとともに、環状部材30、第1伝達軸110、及び、磁性ディスク120の一部が収容される。
図1(A)、(B)に示すように、第1外側ヨーク141は平面視略四角形である一方、空間141aは平面視円形状である。このため、側壁部141bは、第1外側ヨーク141の角部が厚く、辺部が薄くなっている。すなわち、回転軸11と直交する面内において、磁性ディスク120の径方向の外周と第1外側ヨーク141の外側面との距離は一定ではない。
【0030】
図4と
図5に示すように、第1外側ヨーク141と第1内側ヨーク142とは、第1外側ヨーク141の上壁部141cを上下に貫通する複数のねじ13で互いに固定されている。これにより、第1内側ヨーク142の上部と第1外側ヨーク141の上壁部141cとが接触した状態で固定され、この領域において第1外側ヨーク141と第1内側ヨーク142が磁気的に接続される。
【0031】
一方、第2領域A2においては、
図4と
図5に示すように、磁性ディスク120側から順に、第2回転ヨーク230、第2内側ヨーク242、第2コイル250、及び、第2外側ヨーク241が配置されている。これらは、以下に述べるように、磁性ディスク120に関して、上記第1回転ヨーク130、第1内側ヨーク142、第1コイル150、及び、第1外側ヨーク141と、略上下対称の配置・形状を有している。
【0032】
図3〜
図5に示すように、第2内側ヨーク242は、円環部242aと、円環部242aの下面から円環部242aと同心状に下側へ延びるように一体に設けられた円筒部242bとを備える。円環部242aと円筒部242bは、平面視において、回転軸11を中心とする円形状をなしており、その外径は、円環部242aよりも円筒部242bの方が小さくされている。円環部242aと円筒部242bの外径の違いにより、円筒部242bの外周面に沿って段差部242cが形成される。また、第2内側ヨーク242は、回転軸11を中心とした平面視円形状の内周面242dを有する。内周面242dは、回転軸11に沿って円環部242aと円筒部242bを貫いており、その内径は、上下方向の位置に応じて変化するように設定されている。
【0033】
図4と
図5に示すように、第2内側ヨーク242の段差部242cには磁界発生部としての第2コイル250が配設される。第2コイル250は、回転軸11の方向に沿った平面視において、磁性ディスク120と重なるように配置されている。第2コイル250は、内周が円筒部242bの外周面に沿うような円環状をなしており、その外縁250aは径方向において磁性ディスク120の外周よりも外側に位置する。第2コイル250は、回転軸11の周りを回るように巻き付けられた導線を含むコイルである。第2コイル250には図示しない経路で電流が供給され、電流の供給によって磁界が発生する。
なお、平面視において、磁性ディスク120の外周よりも第2コイル250の外縁250aが内側になるように、第2コイル250を配設してもよい。
【0034】
図2に示すように、第2外側ヨーク241は内部に空間241aを有している。この空間241aは、第2外側ヨーク241の底壁部241cと側壁部241bによって囲まれている。
図4と
図5に示すように、空間241aには、第2内側ヨーク242、第2コイル250、及び、第2回転ヨーク230が収容されるとともに、環状部材30、第2伝達軸210、及び、磁性ディスク120の一部が収容される。
図1(A)、(B)に示すように、第2外側ヨーク241は平面視略四角形である一方、空間241aは平面視円形状である。このため、側壁部241bは、第2外側ヨーク241の角部が厚く、辺部が薄くなっている。すなわち、回転軸11と直交する面内において、磁性ディスク120の径方向の外周と第2外側ヨーク241の外側面との距離は一定ではない。
【0035】
図4と
図5に示すように、第2外側ヨーク241と第2内側ヨーク242とは、第2外側ヨーク241の底壁部241cを上下に貫通する複数のねじ14で互いに固定されている。これにより、第2内側ヨーク242の下部と第2外側ヨーク241の底壁部241cとが接触した状態で固定され、この領域において第2外側ヨーク241と第2内側ヨーク242が磁気的に接続される。
【0036】
第1外側ヨーク141と第2外側ヨーク241は、それぞれの側壁部141b、241b同士が、回転軸11の方向に沿って延びる固定ねじ12によって互いに固定される(
図2〜
図5参照)。これによって、第1外側ヨーク141と第2外側ヨーク241は互いに磁気的に接続され、空間141aと空間241aが1つの閉じた空間となる。
【0037】
図4〜
図7に示すように、第1外側ヨーク141の側壁部141bは、第1内側ヨーク142、第1回転ヨーク130、及び、環状部材30との間に空間41を有するように離間している。空間41は、回転軸11の方向に延びており、第2領域A2側にも至っており、第2外側ヨーク241の側壁部241bと、第2内側ヨーク242、第2回転ヨーク230、及び、環状部材30との間にも続いている。
【0038】
したがって、上述した、磁気粘性流体20及び隙間40による隙間S1、S2と第1のギャップG1に加えて、(1)第1外側ヨーク141と、第1内側ヨーク142、第1回転ヨーク130、及び、環状部材30との間、並びに、(2)第2外側ヨーク241と、第2内側ヨーク242、第2回転ヨーク230、及び、環状部材30との間にも第2のギャップG2が形成される。この第2のギャップG2は、回転軸11に沿った方向において、第1コイル150の底面から、第2コイル250の上面まで延びている。よって、径方向において、磁性ディスク120の外周と、第1外側ヨーク141の側壁部141b及び第2外側ヨーク241の側壁部241bとの間には、磁性ディスク120の外周に沿って、隙間40、環状部材30、及び、空間41による磁気ギャップG3(
図7の破線斜線部、
図6の破線枠部)が介在している。この磁気ギャップG3は、第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230の間であって、平面視において、第1コイル150の外縁150a及び第2コイル250の外縁250aと重なる位置から、外縁150a及び外縁250aの外側まで広がっている。
【0039】
第1のギャップG1、第2のギャップG2及び磁気ギャップG3を設けることによって、第1コイル150が発生した磁界の磁束が、第1内側ヨーク142の円環部142aから第1外側ヨーク141の側壁部141bへ、回転軸11に直交する方向に沿って通過することを規制できる。特に、磁気ギャップG3により、磁性ディスク120から第1外側ヨーク141の側壁部141bへ、回転軸11に直交する方向に沿って通過することを規制することができる。これらは第2領域A2についても同様であって、第2内側ヨーク242の円環部242aから第2外側ヨーク241の側壁部241bへ、また、磁性ディスク120から第2外側ヨーク241の側壁部241bへ、回転軸11に直交する方向に沿って通過することを規制できる。
【0040】
このように磁束の通過を規制したため、第1コイル150に電流を印加することによって形成される磁界は、
図5において矢印で示すように、回転軸11の方向に沿って、第1内側ヨーク142から第1回転ヨーク130を経て磁性ディスク120に至った後に、磁性ディスク120を上下に横断し、さらに回転軸11の方向に沿って、第2回転ヨーク230を経て第2内側ヨーク242を通って第2外側ヨーク241に至る。さらに、第2外側ヨーク241の底壁部241cでは回転軸11から遠ざかる方向へ進み、第1コイル150の外側に対応する領域では、下から上へ、第2外側ヨーク241の側壁部241bを通って進行し、続いて第1外側ヨーク141の側壁部141bを上へ進行する。第1外側ヨーク141の上壁部141cに至った磁束は回転軸11に近づく方向へ進む。なお、第1コイル150に対して逆方向の電流を印加すると、磁束が逆の方向に進行するような磁界が形成される。
【0041】
このような磁路の磁界において、磁気ギャップG3が形成されているために、第1内側ヨーク142、第1回転ヨーク130、磁性ディスク120、第2回転ヨーク230、及び、第2内側ヨーク242から、第1外側ヨーク141又は第2外側ヨーク241側へ磁束が通過することは規制されている。また、第1外側ヨーク141の側壁部141bと第2外側ヨーク241の側壁部241bとが互いに磁気的に接続されているため、第1外側ヨーク141から第2外側ヨーク241への磁路が確保される。さらに、上述のように、側壁部141bと側壁部241bの平面視形状は、第1外側ヨーク141と第2外側ヨーク241のそれぞれにおいて、角部が厚く、辺部が薄くなっているため、特に角部に対応する側壁部において広い磁路が確保でき、この磁路に沿って磁界が確実に生成される。
【0042】
第2コイル250は、第1コイル150が発生する磁界と同一の向きに磁界を発生するように電流が印加される。第2コイル250への電流の印加は、制御部50によって、第1コイル150への電流の印加とは独立して行われる。第2コイル250に電流を印加することによって、第1コイル150が発生する磁界に第2コイル250が発生する磁界が加わるため、クラッチ10において発生する磁界を大幅に増加させることができる。
ここで、第1コイル150と第2コイル250は、直列接続又は並列接続した構成とすることができる。これにより、第1コイル150と第2コイル250を制御部50に接続する配線数を減らすことができるため廉価な構成を実現できる。
【0043】
図6と
図7に示すように、磁性ディスク120の周囲の隙間40には磁気粘性流体20が介在して満たされている。したがって、回転軸11の方向においては、磁性ディスク120と第1回転ヨーク130との間、及び、磁性ディスク120と第2回転ヨーク230との間に磁気粘性流体20が存在し、径方向においては、磁性ディスク120の外周と環状部材30との間(第1のギャップG1)にも磁気粘性流体20が存在する。磁性ディスク120の周囲の隙間40は、第1回転ヨーク130、第1回転ヨーク130の内周面に当接するOリング42(
図6)、環状部材30、第2回転ヨーク230、径方向中央において磁性ディスク120と第2回転ヨーク230に挟まれるように配置されたシール材43等で封止されている。このため、磁気粘性流体20は、クラッチ10の姿勢に関わらず、隙間40内に確実に保持される。
【0044】
ここで、隙間40の全てが磁気粘性流体20で埋められていなくてもよい。磁気粘性流体20は、隙間40内に注入して充填するほか、磁性ディスク120の上下面、第1回転ヨーク130の底面、第2回転ヨーク230の上面などに塗布することによって隙間40内に配置しても良い。
【0045】
磁気粘性流体20は、磁界が印加されると粘度が変化する物質であり、例えば、非磁性の液体(溶媒)中に磁性材料からなる粒子(磁性粒子)が分散された流体である。磁気粘性流体20に含まれる磁性粒子としては、例えば、カーボンを含有した鉄系の粒子やフェライト粒子が好ましい。カーボンを含有した鉄系の粒子としては、例えば、カーボン含有量が0.15%以上であることが好ましい。磁性粒子の直径は、例えば0.5μm以上が好ましく、さらには1μm以上が好ましい。磁気粘性流体20は、磁性粒子が重力で沈殿しにくくなるように、溶媒と磁性粒子を選定することが望ましい。さらに、磁気粘性流体20は、磁性粒子の沈殿を防ぐカップリング材を含むことが望ましい。
【0046】
第1コイル150に対して制御部50から電流が印加されると、上述したように磁界が発生し、磁性ディスク120においては上下方向に沿った方向に磁束が横断し、磁性ディスク120の内部では、径方向に沿った磁束は生じないか生じてもその磁束密度はわずかである。ここで、第1コイル150に加えて第2コイル250にも電流を印加すると、発生する磁界を大幅に増加させることができる。
【0047】
磁気粘性流体20においては、第1コイル150及び第2コイル250による磁界が生じていないときには、磁性粒子は溶媒内で分散されている。したがって、第1伝達軸110を回転させると、第1伝達軸110と一体となって磁性ディスク120は回転するものの、この回転は第1回転ヨーク130及び第2回転ヨーク230にはほとんど伝達されない。
【0048】
一方、第1コイル150のみ、又は、第1コイル150と第2コイル250の両方に制御部50から電流を印加して磁界を発生させると、磁気粘性流体20には上下方向に沿った磁界が与えられる。この磁界により、磁気粘性流体20中で分散していた磁性粒子は磁力線に沿って集まり、上下方向に沿って並んだ磁性粒子が磁気的に互いに連結される。この状態において、回転軸11を中心とする方向に第1伝達軸110を回転させる力を与えると、連結された磁性粒子による抵抗力(トルク)がはたらくため、第1回転ヨーク130、第2回転ヨーク230、及び、環状部材30に回転力が伝達される。これにより、第1回転ヨーク130、第2回転ヨーク230、及び、環状部材30と一体となった第2伝達軸210が、第1伝達軸110と同じ方向に回転する。
【0049】
以上のように、制御部50が、第1コイル150と第2コイル250に対する電流の印加を制御することにより、第1伝達軸110に対する回転抵抗を変化させることができるため、第1伝達軸110から第2伝達軸210への回転力の伝達を切り替えることができる。磁気粘性流体20は、発生している磁界の大きさによって、連結の強さが変化し、これにともなって粘度が連続的に変化する。したがって、第1コイル150と第2コイル250に印加する電流を制御することにより、第1伝達軸110に与えられた回転力を第2伝達軸210に伝達するか、切断するかだけでなく、その中間領域において伝達の強さを細かく制御することが可能となる。さらに第1コイル150と第2コイル250に電流を印加できるため、第1コイル150と第2コイル250の両方に電流を印加することによって、第1コイル150だけの場合の2倍の磁界を発生させることができる。この場合も中間領域において回転力の伝達の強さを細かく制御することができる。
【0050】
磁性ディスク120を、回転軸11から径方向外側に広がった円盤形状としているため、第1伝達軸110だけの場合に比べると広い範囲に磁気粘性流体20を配置できる。さらに、磁気粘性流体20の抵抗力の大きさは、回転軸11の方向において第1回転ヨーク130と第2回転ヨーク230に挟まれた磁気粘性流体20の配置範囲の広さに関係する。特に、第1伝達軸110の回転によって磁性ディスク120を回転させたときの磁気粘性流体20による抵抗力の大きさは、その回転方向に直交する面の磁気粘性流体20の面積に関係する。よって、磁気粘性流体20の配置範囲が広くなるほど、抵抗力(トルク)の制御幅を広くすることができる。
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的又は本発明の思想の範囲内において改良又は変更が可能である。