(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985970
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
B60K 13/04 20060101AFI20211213BHJP
B62D 25/10 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
B60K13/04 B
B62D25/10 L
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-67869(P2018-67869)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-177761(P2019-177761A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(74)【代理人】
【識別番号】100206106
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】森 敦紀
【審査官】
結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−49405(JP,A)
【文献】
特許第5911392(JP,B2)
【文献】
特開2014−208497(JP,A)
【文献】
実開昭56−120917(JP,U)
【文献】
特開2015−83807(JP,A)
【文献】
特開2016−79866(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104029738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 13/04,
B62D 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームに収容されるエンジンと、該エンジンの排気音を消音するマフラと、該マフラから延出する排気管と、前記エンジンの前方に配置される冷却ファン及びラジエータと、前記エンジンルームの少なくとも上方及び左右両側方を覆うボンネットと、を備えるトラクタであって、
前記ボンネットは、前記エンジンの下部外側方を開放する開放部を有し、
前記排気管は、
側面視で前記マフラから前方に延出する前方延出部と、
側面視で前記前方延出部の前端部から下方に延出する下方延出部と、を備え、
前記前方延出部及び前記下方延出部は、側面視で前記開放部に配置されるとともに、機体内方に向かって開口する断面コ字状又は断面U字状の排気管カバーで覆われ、
前記排気管カバーのうち、前記下方延出部を覆う第1カバー部は、前記エンジンの前端部側方に配置されるとともに、エンジン冷却風を収集して前記前方延出部を覆う第2カバー部に導くことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記第1カバー部は、側面視で上側ほど後方に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記第2カバー部は、前記前方延出部の後端よりも後方に延出する後方延長部を備え、
前記後方延長部は、平面視で後側ほど機体内方に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載のトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンが搭載されるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なトラクタは、エンジンルームに収容されるエンジンと、該エンジンの排気音を消音するマフラと、該マフラから延出する排気管と、エンジンの前方に配置される冷却ファン及びラジエータと、エンジンルームの少なくとも上方及び左右両側方を覆うボンネットと、を備えており、ボンネットには、エンジンの下部外側方を開放する開放部が形成されている(例えば、特許文献1参照)。ボンネットの開放部は、冷却ファンが起風したエンジン冷却風をエンジンルームから排出する機能を有し、特許文献1のトラクタでは、ボンネットの開放部全体を多数の排気孔を有するサイドカバーで覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5911392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるトラクタのように、ボンネットの開放部全体をサイドカバーで覆う場合、大型のサイドカバーが必要になるだけでなく、サイドカバーを支持するための支持構造が必要になるため、コストが上昇するという問題がある。なお、サイドカバーを省略することも考えられるが、この場合には、高温になる排気管が露出状態になり、作業者が誤って排気管に触れる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、エンジンルームに収容されるエンジンと、該エンジンの排気音を消音するマフラと、該マフラから延出する排気管と、前記エンジンの前方に配置される冷却ファン及びラジエータと、前記エンジンルームの少なくとも上方及び左右両側方を覆うボンネットと、を備えるトラクタであって、前記ボンネットは、前記エンジンの下部外側方を開放する開放部を有し、前記排気管は、側面視で前記マフラから前方に延出する前方延出部と、側面視で前記前方延出部の前端部から下方に延出する下方延出部と、を備え、前記前方延出部及び前記下方延出部は、側面視で前記開放部に配置されるとともに、機体内方に向かって開口する断面コ字状又は断面U字状の排気管カバーで覆われ、前記排気管カバーのうち、前記下方延出部を覆う第1カバー部は、前記エンジンの前端部側方に配置されるとともに、エンジン冷却風を収集して前記前方延出部を覆う第2カバー部に導くことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のトラクタであって、前記第1カバー部は、側面視で上側ほど後方に位置するように傾斜していることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のトラクタであって、前記第2カバー部は、前記前方延出部の後端よりも後方に延出する後方延長部を備え、前記後方延長部は、平面視で後側ほど機体内方に位置するように傾斜していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、排気管の前方延出部及び下方延出部は、側面視でボンネットの開放部に配置されるものの、機体内方に向かって開口する断面コ字状又は断面U字状の排気管カバーで覆われるため、ボンネットの開放部全体をサイドカバーで覆わなくても、作業者が誤って排気管に触れることを防止でき、その結果、ボンネットの開放部全体をサイドカバーで覆う従来に比してコストダウンが図れる。また、排気管カバーのうち、下方延出部を覆う第1カバー部は、エンジンの前端部側方に配置されるとともに、エンジン冷却風を収集して前方延出部を覆う第2カバー部に導くので、排気管カバー自体の温度上昇も抑制することができる。
請求項2の発明によれば、第1カバー部は、側面視で上側ほど後方に位置するように傾斜しているので、収集したエンジン冷却風を確実に第2カバー部に導くことができる。
請求項3の発明によれば、第2カバー部は、前方延出部の後端よりも後方に延出する後方延長部を備え、後方延長部は、平面視で後側ほど機体内方に位置するように傾斜しているので、第2カバー部を通って後方に排出されるエンジン冷却風がエンジンルームの後方に乗車する作業者に直接当たることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体平面図である。
【
図3】トラクタの機体前部(前輪なし)を示す側面図である。
【
図4】トラクタの機体前部(前輪あり)を示す側面図である。
【
図6】トラクタの機体前部(ボンネットなし)を示す平面図である。
【
図7】トラクタの排気装置を示す図であり、(a)は排気装置の要部斜視図、(b)は注意ラベルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1〜
図6において、1はトラクタTの走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に設けられ、エンジンEが搭載されるエンジン搭載部2と、機体中間部に設けられ、作業者が乗車する運転部3と、機体後部に設けられ、各種の作業機(図示せず)を連結可能な作業機連結部4と、走行機体1を走行可能に支持する前輪5F及び後輪5Rと、を備える。
【0009】
エンジン搭載部2には、エンジンEを収容するエンジンルーム6が構成されるとともに、エンジンルーム6を開閉自在に覆うボンネット7が設けられている。ボンネット7は、エンジンルーム6の上方を覆う上面部7aと、エンジンルーム6の左右側方を覆う左右の側面部7bと、エンジンルーム6の前方を覆う前面部7cと、を備える。ボンネット7の前面部7cには、ヘッドライト18が設けられるとともに、エンジン冷却風の吸気口7dが形成され、該吸気口7dは、通気性を有するパンチングメタルなどのスクリーン部材19で覆われている。
【0010】
また、ボンネット7の側面部7bには、その下端側においてエンジンEの下部外側方を開放する開放部7eが形成されている。開放部7eは、エンジン冷却風をエンジンルーム6から排出する機能を有しており、従来のトラクタでは、ボンネット7の開放部7e全体を多数の排気孔を有するサイドカバーで覆っているが、本発明の実施形態に係るトラクタTは、このようなサイドカバーを備えていない。
【0011】
エンジンEの前面部には、エンジンE(又は電動モータ)によって回転駆動される冷却ファン8が設けられるとともに、冷却ファン8の前方にはラジエータ9が立設されている。エンジンEが始動されると、冷却ファン8の回転駆動に応じて、機体前方からボンネット7の吸気口7dを介してエンジンルーム6内にエンジン冷却風が導入される。導入されたエンジン冷却風は、エンジンEの前方に立設されるラジエータ9を通過することで、ラジエータ9内を流れるエンジン冷却水を冷却するとともに、エンジンEの前面及び周囲を通ってエンジンルーム6の下方やボンネット7の開放部7eから機外に排出される。
【0012】
さらに、エンジンルーム6には、エンジンEの排気を機外に排出する排気装置10が設けられている。
図3〜
図7に示すように、排気装置10は、エンジン排気を導入口11aから導入し、その排気音を消音して排出口11bから排出するマフラ11と、マフラ11の排出口11bから延出し、エンジン排気をエンジンルーム6の下方に排出する排気管12と、を備える。
【0013】
マフラ11は、エンジンEの側方上方に前後方向に沿って配置されており、上面後端部に設けられる導入口11aからエンジン排気を導入し、下面前端部に設けられる排出口11bから排出するまでの過程で排気音の消音処理を行う。
【0014】
排気管12は、平面視でマフラ11の排出口11bから外側方に延出する外方延出部12aと、側面視で外方延出部12aの外端部から前方に延出する第1前方延出部12bと、側面視で第1前方延出部12bの前端部から下方に延出する下方延出部12cと、側面視で下方延出部12cの下端部から前方に延出する第2前方延出部12dと、を備える。
【0015】
第1前方延出部12b及び下方延出部12cは、側面視でボンネット7の開放部7eに配置されている。また、第2前方延出部12dは、エンジンルーム6の下方空間に前後方向に沿うように配置されており、エンジン排気を前端の排気口12eから機体前方に向けて排出する。このように配置される排気管12によれば、第1前方延出部12b及び下方延出部12cが側面視でボンネット7の開放部7eに配置されているので、高温になる排気管12の第1前方延出部12b及び下方延出部12cが露出状態になると、作業者が誤って排気管12に触れる虞がある。
【0016】
このような問題を解決するために、排気管12の第1前方延出部12b及び下方延出部12cは、排気管カバー13で覆われる。排気管カバー13は、機体内方に向かって開口する断面コ字状を有するとともに、下方延出部12cを覆う第1カバー部13aと、第1前方延出部12bを覆う第2カバー部13bと、を備える。このような排気管カバー13によれば、排気管12の第1前方延出部12b及び下方延出部12cが側面視でボンネット7の開放部7eに配置されていても、作業者が誤って排気管12に直接触れることを防止できる。なお、本実施形態の排気管カバー13は、ブラケット14を介してエンジンルーム6内に支持されるが、排気管カバー13の支持構造は任意に変更できる。
【0017】
また、第1カバー部13aは、エンジンEの前端部側方に配置されており、エンジンEの前端部に当って外側方に流れるエンジン冷却風を断面コ字状のカバー内側で収集し、第1前方延出部12bを覆う第2カバー部13bに導くことができる。このような排気管カバー13によれば、排気管カバー13自体の温度上昇も抑制できる。
【0018】
また、本実施形態の第1カバー部13aは、側面視で上側ほど後方に位置するように傾斜している。このような第1カバー部13aによれば、収集したエンジン冷却風を確実に第2カバー部13bに導くことが可能になる。
【0019】
第2カバー部13bは、第1前方延出部12bの後端よりも後方に延出する後方延長部13cを備える。後方延長部13cの側面部13dは、第2カバー部13bの内部を流れるエンジン冷却風を後端の開口まで導くにあたり、平面視で後側ほど機体内方に位置するように傾斜している。このような第2カバー部13bによれば、第2カバー部13bの内部を通って後方に排出されるエンジン冷却風を機体内方に導くことができるので、エンジン冷却風がエンジンルーム6から機体外方に排出される場合のように、エンジンルーム6の後方に乗車する作業者の足元にエンジン冷却風が直接当たることを防止できる。
【0020】
本実施形態の第2カバー部13bは、第2カバー部13bの上側を形成する第2カバー上側部13eと、第2カバー部13bの下側を形成する第2カバー下側部13fと、を備える。第2カバー上側部13eは、多数の孔を有するパンチングメタルで形成されており、第2カバー部13bの内部にこもる熱を多数の孔を介して第2カバー部13bの外部に逃がすことができる。一方、第2カバー下側部13fは、孔を有さない鉄板で形成されている。このような第2カバー下側部13fによれば、第2カバー部13b全体をパンチングメタルで形成する場合に比べてコストを抑えることができるだけでなく、注意ラベル15の貼付場所として利用することが可能になる。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、エンジンルーム6に収容されるエンジンEと、該エンジンEの排気音を消音するマフラ11と、該マフラ11から延出する排気管12と、エンジンEの前方に配置される冷却ファン8及びラジエータ9と、エンジンルーム6の少なくとも上方及び左右両側方を覆うボンネット7と、を備えるトラクタTであって、ボンネット7は、エンジンEの下部外側方を開放する開放部7eを有し、排気管12は、側面視でマフラ11から前方に延出する第1前方延出部12bと、側面視で第1前方延出部12bの前端部から下方に延出する下方延出部12cと、を備え、第1前方延出部12b及び下方延出部12cは、側面視で開放部7eに配置されるものの、機体内方に向かって開口する断面コ字状の排気管カバー13で覆われるので、ボンネット7の開放部7e全体をサイドカバーで覆わなくても、作業者が誤って排気管12に触れることを防止でき、その結果、ボンネット7の開放部7e全体をサイドカバーで覆う従来に比してコストダウンが図れる。
【0022】
また、排気管カバー13のうち、下方延出部12cを覆う第1カバー部13aは、エンジンEの前端部側方に配置されるとともに、エンジン冷却風を収集して第1前方延出部12bを覆う第2カバー部13bに導くので、排気管カバー13自体の温度上昇も抑制することができる。
【0023】
また、第1カバー部13aは、側面視で上側ほど後方に位置するように傾斜しているので、収集したエンジン冷却風を確実に第2カバー部13bに導くことができる。
【0024】
また、第2カバー部13bは、第1前方延出部12bの後端よりも後方に延出する後方延長部13cを備え、後方延長部13cは、平面視で後側ほど機体内方に位置するように傾斜しているので、第2カバー部13bを通って後方に排出されるエンジン冷却風がエンジンルーム6の後方に乗車する作業者に直接当たることを防止できる。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。例えば、前記実施形態の排気管カバーは、断面コ字状であるが、断面U字状であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
T トラクタ
1 走行機体
2 エンジン搭載部
6 エンジンルーム
7 ボンネット
7e 開放部
8 冷却ファン
9 ラジエータ
10 排気装置
11 マフラ
12 排気管
12b 第1前方延出部(前方延出部)
12c 下方延出部
13 排気管カバー
13a 第1カバー部
13b 第2カバー部
13c 後方延長部
15 注意ラベル