特許第6985972号(P6985972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985972
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ワイヤ送給装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20211213BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B23K9/12 303C
   B23K9/12 304B
   B23K9/133 502Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-71428(P2018-71428)
(22)【出願日】2018年4月3日
(65)【公開番号】特開2019-181482(P2019-181482A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2020年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】楠本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 周吾
(72)【発明者】
【氏名】荒金 智
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−518568(JP,A)
【文献】 特開2015−058469(JP,A)
【文献】 特開2015−199091(JP,A)
【文献】 特表2007−537876(JP,A)
【文献】 米国特許第06831251(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、
前記第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、
前記ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、
前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、
少なくとも前記第1のワイヤ送給部及び前記第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータと、
溶接処理の終了時から、次の溶接処理の開始前に実行されるスローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、前記バッファ量取得部により取得される前記バッファ量が、記憶装置に記憶されている前記バッファ量の基準値になるように、前記モータを駆動させるバッファ量調整処理を実行するバッファ量調整部と、
前記バッファ量取得部の較正を実行する較正部と、
を備え
前記較正部は、
前記モータを駆動させ、前記バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるワイヤ移動制御部と、
前記モータのトルクが閾値に到達したときの前記バッファ量を、前記バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値を、前記バッファ量の最大値に設定し、前記バッファ量の最小値及び前記バッファ量の最大値の平均値を前記バッファ量の基準値に設定し、前記バッファ量の最小値、前記バッファ量の最大値及び前記バッファ量の基準値を前記記憶装置に記憶させる設定部と、
を含む、
ワイヤ送給装置。
【請求項2】
溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、
前記第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、
前記ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、
前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、
少なくとも前記第1のワイヤ送給部及び前記第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータと、
溶接処理の終了時から、次の溶接処理の開始前に実行されるスローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、前記バッファ量取得部により取得される前記バッファ量が、記憶装置に記憶されている前記バッファ量の基準値になるように、前記モータを駆動させるバッファ量調整処理を実行するバッファ量調整部と、
溶接トーチを次の溶接開始位置に移動させる移動命令を発信する移動命令発信部と、
を備え
前記移動命令発信部は、前記バッファ量調整部による前記バッファ量調整処理が終了するまで、前記移動命令の発信を待機する、
ワイヤ送給装置。
【請求項3】
前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの所定位置における角度を検出する角度検出部を、さらに備え、
前記バッファ量は、前記角度検出部により検出される角度により定まる、
請求項1又は2記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
前記バッファ量調整部は、前記バッファ量調整処理において、前記バッファ量取得部により取得される前記バッファ量と、前記記憶装置に記憶されている前記バッファ量の基準値との差を算出し、当該算出した差が解消するように、前記モータを駆動させる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【請求項5】
前記バッファ量調整部は、アンチスティック処理の終了時から、前記スローダウン送給処理の開始時までの間に、前記バッファ量調整処理を実行する、
請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【請求項6】
前記バッファ量調整部は、前記スローダウン送給処理中に、前記バッファ量調整処理を実行する、
請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【請求項7】
前記バッファ量調整部は、アンチスティック処理中に、前記バッファ量調整処理を実行する、
請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【請求項8】
前記バッファ量調整部は、前記溶接処理の終了時から、前記スローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、前記バッファ量調整処理を複数回実行する、
請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ送給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、2つのワイヤ送給部の間にワイヤバッファを設けたワイヤ送給装置が開示されている。このワイヤ送給装置は、ワイヤバッファに収容される溶接ワイヤの量(以下、「バッファ量」という。)に対応する取得値を、溶接ワイヤに対する押力(長さ方向に圧縮する力)及び張力に基づいて較正(キャリブレーション)する。具体的に、ワイヤ送給装置は、バッファ量が増えるように溶接ワイヤを移動させ、溶接ワイヤに対する押力が閾値を超えたときのバッファ量を最大値に設定する一方、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させ、溶接ワイヤに対する張力が閾値を超えたときのバッファ量を最小値に設定する。そして、最大値及び最小値の中央値をバッファ量の基準値(原点位置)に設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−58469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のワイヤ送給装置は、母材に対し、溶接ワイヤを高速に前進、後退させながら溶接処理を行う。したがって、溶接処理を行った後のバッファ量が、基準値に設定されている本来のバッファ量からずれてしまうことがある。基準にするバッファ量が本来のバッファ量からずれた状態で、次の溶接処理を行うと、溶接処理の質が低下する要因となる。
【0005】
そこで、本発明は、溶接処理の質を保持することができるワイヤ送給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るワイヤ送給装置は、溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、少なくとも第1のワイヤ送給部及び第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータと、溶接処理の終了時から、次の溶接処理の開始前に実行されるスローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、バッファ量取得部により取得されるバッファ量が、記憶装置に記憶されているバッファ量の基準値になるように、モータを駆動させるバッファ量調整処理を実行するバッファ量調整部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、溶接処理が終了したときに、バッファ量取得部により取得されるバッファ量が、基準値に設定されている本来のバッファ量からずれている場合であっても、次の溶接処理でアークが発生する前に、本来のバッファ量に調整することが可能となる。
【0008】
上記態様において、バッファ量取得部の較正を実行する較正部を、さらに備え、較正部は、モータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるワイヤ移動制御部と、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定し、バッファ量の最小値及びバッファ量の最大値の平均値をバッファ量の基準値に設定し、バッファ量の最小値、バッファ量の最大値及びバッファ量の基準値を記憶装置に記憶させる設定部と、を含むこととしてもよい。これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対して、所定値を加えることで、最大値を算出することができるため、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。さらに、溶接ワイヤの送給を制御する際の目標値(基準)にバッファ量の中央値を設定することができるため、溶接ワイヤを送給する際にバッファ量が最小値又は最大値に到達する可能性を低減させることができ、溶接時の安定性を向上させることが可能となる。
【0009】
上記態様において、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの所定位置における角度を検出する角度検出部を、さらに備え、バッファ量は、角度検出部により検出される角度により定まることとしてもよい。ワイヤバッファへの溶接ワイヤの収容量が最小のとき及び最大のときの所定位置における角度は、ワイヤバッファ内の形状によって機械的に定めることができる。したがって、バッファ量を、角度検出部により検出される角度で定めることにより、バッファ量の最小値及び最大値を把握し易くすることができる。
【0010】
上記態様において、バッファ量調整部は、バッファ量調整処理において、バッファ量取得部により取得されるバッファ量と、記憶装置に記憶されているバッファ量の基準値との差を算出し、当該算出した差が解消するように、モータを駆動させることとしてもよい。これにより、バッファ量取得部による取得値と基準値との差分を解消するようにモータを駆動させることで、バッファ量取得部により取得されるバッファ量を本来のバッファ量に調整することが可能となる。
【0011】
上記態様において、バッファ量調整部は、アンチスティック処理の終了時から、スローダウン送給処理の開始時までの間に、バッファ量調整処理を実行することとしてもよい。これにより、溶接処理後に実行されるアークエンド処理に含まれるアンチスティック処理が終了してから、次回の溶接処理前に実行されるアークスタート処理に含まれるスローダウン送給処理が開始するまでに、バッファ量取得部により取得されるバッファ量を本来のバッファ量に調整することが可能となる。
【0012】
上記態様において、バッファ量調整部は、スローダウン送給処理中に、バッファ量調整処理を実行することとしてもよい。これにより、溶接処理前のアークスタート処理に含まれるスローダウン送給処理を実行している最中に、バッファ量取得部により取得されるバッファ量を本来のバッファ量に調整することが可能となる。さらに、溶接処理が終了してから、次回の溶接処理前に実行されるスローダウン送給処理が開始する前に生じたバッファ量の変動についても合わせて解消することができる。
【0013】
上記態様において、バッファ量調整部は、アンチスティック処理中に、バッファ量調整処理を実行することとしてもよい。これにより、溶接処理後のアークエンド処理に含まれるアンチスティック処理を実行している最中に、バッファ量取得部により取得されるバッファ量を本来のバッファ量に調整することが可能となる。また、定常溶接が終了した直後にバッファ量を調整することができるため、溶接処理の間隔が短い場合に有効となる。
【0014】
上記態様において、バッファ量調整部は、溶接処理の終了時から、スローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、バッファ量調整処理を複数回実行することとしてもよい。これにより、バッファ量取得部により取得されるバッファ量を本来のバッファ量に調整した後に、例えば、ロボットの姿勢の変化やワイヤの曲り癖等によりバッファ量が変動したとしても、次の溶接処理においてアークが発生するまでに、再度、本来のバッファ量に調整し直すことが可能となる。
【0015】
上記態様において、溶接トーチを次の溶接開始位置に移動させる移動命令を発信する移動命令発信部を、さらに備え、移動命令発信部は、バッファ量調整部によるバッファ量調整処理が終了するまで、移動命令の発信を待機することとしてもよい。これにより、溶接処理が終了したときに、バッファ量取得部により取得されるバッファ量が本来のバッファ量からずれている場合であっても、溶接トーチを次の溶接開始位置に移動させるまでに、本来のバッファ量に調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶接処理の質を保持することができるワイヤ送給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態におけるワイヤ送給装置の概略構成を例示するブロック図である。
図2図1のワイヤバッファの構成を例示する模式図である。
図3】アーク溶接の終了から開始までの各種タイミングを例示するタイミングチャートである。
図4】変形例におけるワイヤ送給装置の概略構成を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0019】
図1は、本発明に係るワイヤ送給装置の概略構成を例示するブロック図である。ワイヤ送給装置1は、ワイヤリール2に巻かれた溶接ワイヤ4を、アーク溶接を行う溶接トーチ3に送給する装置である。ワイヤ送給装置1は、例えば、第1のワイヤ送給部11と、ワイヤバッファ12と、第2のワイヤ送給部13と、バッファ量取得部14と、バッファ量調整部151及び較正部152を有する制御部15と、を備える。
【0020】
第1のワイヤ送給部11は、ワイヤリール2に巻かれた溶接ワイヤ4を溶接トーチ3に向けて送給する。第1のワイヤ送給部11は、例えば、溶接ワイヤ4を前進又は後退させるローラ(不図示)と、このローラを回転させるモータ(不図示)とを有する。溶接ワイヤ4の前進とは、溶接ワイヤ4が溶接トーチ3の方向に移動することであり、溶接ワイヤ4の後退とは、溶接ワイヤ4がワイヤリール2の方向に移動することである。
【0021】
第1のワイヤ送給部11のモータは、制御部15からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に回転する。例示的に、第1のワイヤ送給部11は、溶接するときには、制御部15からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向に送給する。また、第1のワイヤ送給部11は、バッファ量を較正又は調整するときには、較正部152又はバッファ量調整部151からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に移動させる。
【0022】
第2のワイヤ送給部13は、ワイヤバッファ12に収容された溶接ワイヤ4を溶接トーチ3に送給する。第2のワイヤ送給部13は、前述した第1のワイヤ送給部11と同様に、ローラとモータとを有する。ローラ及びモータの詳細については省略する。
【0023】
例示的に、第2のワイヤ送給部13は、溶接するときには、制御部15からの指示に従って、溶接ワイヤ4を母材に対して前進、後退させることを高速に繰り返しながら、溶接トーチ3に溶接ワイヤ4を送給する。また、第2のワイヤ送給部13は、バッファ量を較正又は調整するときには、較正部152又はバッファ量調整部151からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に移動させる。
【0024】
ワイヤバッファ12は、第1のワイヤ送給部11と第2のワイヤ送給部13との間に設けられる。ワイヤバッファ12は、第1のワイヤ送給部11により送給された溶接ワイヤ4を収容し、収容した溶接ワイヤ4を第2のワイヤ送給部13に渡す。第1のワイヤ送給部11により送給された溶接ワイヤ4の量と、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量とに応じて、ワイヤバッファ12に収容される溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量が変動する。
【0025】
例えば、第1のワイヤ送給部11によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量が、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量よりも多い場合に、バッファ量が増加する。また、第1のワイヤ送給部11によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量が、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量よりも少ない場合に、バッファ量が減少する。
【0026】
これらを言い換えると、ワイヤバッファ12に収容される溶接ワイヤ4の長さが変化することにより、バッファ量が変動する。したがって、バッファ量は、ワイヤバッファ12に収容されている溶接ワイヤ4の長さに基づいて定めることができる。
【0027】
図2を参照し、ワイヤバッファ12の構成の一例について説明する。ワイヤバッファ12は、例えば、ケース121と、ワイヤガイド122と、支持部123とを有する。
【0028】
ケース121には、内部に溶接ワイヤ4を通過させるための入口121a及び出口121bが設けられている。入口121aと出口121bとの間には、溶接ワイヤ4をガイドするワイヤガイド122が設けられている。ワイヤガイド122は、例えば、コイル状にした金属線材又は樹脂により形成され、ケース121に収容される溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量に応じて、長さが伸び縮みする。
【0029】
具体的に、バッファ量が増えると、ワイヤガイド122の長さが長くなり、バッファ量が最大になると、ワイヤガイド122が図2の122xの状態になる。一方、バッファ量が減ると、ワイヤガイド122の長さが短くなり、バッファ量が最小になると、ワイヤガイド122が図2の122nの状態になる。
【0030】
支持部123は、ワイヤガイド122の少なくとも一部をケース121に対して回転可能に支持する。図2に例示する支持部123は、ケース121の略中央において、ワイヤガイド122の略中央を回転可能(図示の回転方向)に支持する。支持部123は、例えば、ケース121に対して回転可能に設けられた円盤状の部材により形成され、支持部123の直径方向に設けられた孔にワイヤガイド122を通過させる。
【0031】
支持部123は、バッファ量が増えると、図示の反時計回り方向に回転する。一方、支持部123は、バッファ量が減ると、図示の時計回り方向に回転する。
【0032】
支持部123の内部には、エンコーダ(不図示)が設けられている。エンコーダは、支持部123のケース121に対する回転角度を検出する。なお、回転角度を検出するのは、エンコーダに限定されず、例えば回転角度を検出可能なセンサ等を含む角度検出部であればよい。
【0033】
図1に示すバッファ量取得部14は、ワイヤバッファ12に収容されている溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量を取得する。具体的に説明すると、バッファ量取得部14は、支持部123のエンコーダにより検出された回転角度を取得することで、バッファ量を取得する。
【0034】
ここで、前述したように、バッファ量が増減すると、支持部123の回転角度が増減する関係にある。つまり、バッファ量と支持部123の回転角度とは単調写像の関係にある。したがって、回転角度が判明すれば、その回転角度をバッファ量に換算することができる。これにより、回転角度を取得することで、その回転角度に基づいてバッファ量を取得することができる。
【0035】
なお、バッファ量を取得する方法は、前述したエンコーダを用いるものには限定されない。例えば、バッファ量取得部14は、ケース121の入口121aと出口121bとにそれぞれ設けられた、溶接ワイヤ4の移動に応じて回転するローラと、このローラの回転数を検知するエンコーダとを用いてバッファ量を取得することとしてもよい。この場合、バッファ量取得部14は、ケース121に入った溶接ワイヤ4の長さと、ケース121から出た溶接ワイヤ4の長さとを取得することで、バッファ量を取得することができる。具体的に、バッファ量取得部14は、ケース121に入った溶接ワイヤ4の長さから、ケース121から出た溶接ワイヤ4の長さを減算することで、バッファ量を取得する。
【0036】
図1に示す制御部15は、物理的な構成として、例えば、プロセッサ、メモリ(記憶装置)及び通信インタフェースを含む制御ユニットにより構成される。制御部15は、プロセッサがメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、図1に例示するバッファ量調整部151及び較正部152としての機能を実現する。
【0037】
バッファ量調整部151は、後述する(1)〜(3)のいずれかの期間に、バッファ量調整処理を実行する。バッファ量調整処理は、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、メモリに記憶されているバッファ量の基準値になるように、第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれかに設けられたモータを駆動させる処理である。第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13に設けられた双方のモータを駆動させることとしてもよい。バッファ量の基準値は、較正部152によってメモリに記憶される値であり、基準値の詳細については後述する。
【0038】
バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、メモリに記憶されているバッファ量の基準値になるように制御する手法の一例について、以下に説明する。バッファ量調整部151は、例えば、取得されたバッファ量と、記憶されたバッファ量の基準値との差を算出し、この算出した差が解消するようにモータを駆動させる。
【0039】
具体的に、取得されたバッファ量が、“5,000”であり、記憶されたバッファ量の基準値が“5,500”である場合には、差が“+500”となる。この場合、バッファ量調整部151は、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が“500”増加するようにモータを駆動させる。また、取得されたバッファ量が、“6,000”であり、記憶されたバッファ量の基準値が“5,500”である場合には、差が“−500”となる。この場合、バッファ量調整部151は、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が“500”減少するようにモータを駆動させる。
【0040】
バッファ量調整処理を実行する期間は、以下の(1)〜(3)の期間のうち、少なくともいずれか一つ以上の期間を、任意に設定することができる。一つの期間においてバッファ量調整処理を複数回実行することとしてもよい。ここで、第1の溶接処理及び第2の溶接処理は、実行順序が連続する溶接処理であり、第2の溶接処理は、第1の溶接処理の直後に実行される溶接処理である。
【0041】
(1)第1の溶接処理の終了後に実行されるアンチスティック処理を実行している期間
【0042】
(2)上記アンチスティック処理の終了時から、第2の溶接処理の開始前に実行されるスローダウン送給処理の開始時までの期間
【0043】
(3)上記スローダウン送給処理の開始時から、スローダウン送給処理において溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの期間
【0044】
ここで、アンチスティック処理は、溶接処理を終了した後に実行されるアークエンド処理に含まれる処理であり、具体的には、溶接停止命令後に、予め定められた時間、定常溶接時の溶接電圧よりも低いアンチスティック電圧を供給し、溶接ワイヤの先端を溶融する処理である。このアンチスティック処理には、例えば、溶接ワイヤの先端を溶融し、溶接ワイヤの突出し長さを短くする処理や、溶融部分の表面張力によりワイヤの先端形状を丸める処理の他、溶融している最中に溶接ワイヤを前進、後進させて溶接ワイヤの突出し長さを短くする処理が含まれる。
【0045】
スローダウン送給処理は、溶接処理を開始する前に実行されるアークスタート処理に含まれる処理であり、具体的には、溶接開始命令後に、予め定められた時間、定常溶接時の送給速度よりも遅いスローダウン送給速度で溶接ワイヤを送給する処理である。
【0046】
バッファ量調整処理を実行する期間として、上記(1)を設定した場合には、アークエンド処理に含まれるアンチスティック処理を実行している最中に、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量を、基準値に設定されている本来のバッファ量に調整することができる。これにより、定常溶接が終了した直後にバッファ量を調整することができるため、溶接処理の間隔が短い場合に特に有効となる。
【0047】
ここで、アンチスティック処理を実行している最中にバッファ量調整処理を実行する場合に、アンチスティック処理で溶接ワイヤを前進、後進させて溶接ワイヤの突出し長さを短くする処理と、バッファ量調整処理とが同時に進行することが起こり得る。例えば、バッファ量調整処理において第1のワイヤ送給部11が溶接ワイヤを“3cm”前進させ、アンチスティック処理において第2のワイヤ送給部13が溶接ワイヤを“2cm”後退させることが同時に発生する場合がある。この場合、第1のワイヤ送給部11のモータ及び第2のワイヤ送給部13のモータを別々に駆動させて順次処理を実行するのではなく、最終的に双方の処理が終了するように第1のワイヤ送給部11のモータ及び第2のワイヤ送給部13のモータを駆動させる(同時駆動を含む)ことが好ましい。
【0048】
バッファ量調整処理を実行する期間として、上記(2)を設定した場合には、溶接処理後のアークエンド処理に含まれるアンチスティック処理が終了してから、次回の溶接処理前のアークスタート処理に含まれるスローダウン送給処理が開始する前に、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量を、基準値に設定されている本来のバッファ量に調整することができる。
【0049】
バッファ量調整処理を実行する期間として、上記(3)を設定した場合には、溶接処理前のアークスタート処理に含まれるスローダウン送給処理を実行している最中に、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量を、基準値に設定されている本来のバッファ量に調整することができる。これにより、溶接処理が終了してから、次回の溶接処理前に実行されるスローダウン送給処理が開始する前に生じたバッファ量の変動についても合わせて解消することができる。
【0050】
図1に示す較正部152は、ワイヤ移動制御部152a及び設定部152bを有し、バッファ量取得部14の較正を実行する。
【0051】
ワイヤ移動制御部152aは、少なくとも第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれかに設けられたモータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤ4を移動させる。
【0052】
設定部152bは、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、この最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定する。閾値は、バッファ量の最小値が最適な値となるときのモータのトルクを予め実験等により求め、設定することが好ましい。最小値に加算する所定値は、ワイヤ送給装置1ごとに固有の値を任意に定めることができるが、例えば、ワイヤバッファ12において機械的に動作可能な範囲に対応するエンコーダの検出値の幅を、所定値として定めることが好ましい。
【0053】
これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対し、ワイヤバッファ12に固有の機械的に動作可能な範囲に対応するエンコーダの検出値の幅を加えて最大値を算出することができる。ここで、前述した特許文献1に記載のワイヤ送給装置のように、溶接ワイヤに対する押力に基づいてバッファ量の最大値を設定した場合には、溶接ワイヤの種類や溶接ロボットの姿勢によって押力に対するバッファ量が変化するため、バッファ量の最大値にばらつきが生じやすくなる。したがって、前述のように最小値に所定値を加算して最大値を設定することで、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。
【0054】
設定部152bは、例えば、バッファ量の最小値及び最大値の平均値(中央値)を、バッファ量の基準値に設定し、この基準値を最小値及び最大値とともにメモリ上に構築された設定値テーブルに格納する。なお、バッファ量の基準値に設定する値は、バッファ量の最小値及び最大値の平均値に限定されず、例えば、バッファ量の最大値と最小値との間を予め定められた割合で分割する値であってもよい。
【0055】
次に、図3を参照し、第1の溶接処理から第2の溶接処理に移行する際のシーケンス処理について説明する。
【0056】
図3の(A)は、溶接信号Stの時間変化を示し、図3の(B)は、溶接ワイヤの送給速度Frの時間変化を示し、図3の(C)は、溶接電圧Vwの時間変化を示し、図3の(D)は、溶接電流Iwの時間変化を示す。
【0057】
時刻t1から時刻t2までの期間は、第1の溶接処理後に実行されるアークエンド処理の実行期間であり、時刻t3から時刻t4までの期間は、第2の溶接処理前に実行されるアークスタート処理の実行期間である。
【0058】
時刻t1までは、第1の溶接処理において実行される定常溶接が行われている。
【0059】
時刻t1において、図3の(A)に示す溶接信号Stが、溶接終了命令に従ってLowレベル(OFF)に切り替わると、ワイヤ送給部のモータが停止するように制御され、図3の(B)に示すように、そのモータの慣性によりワイヤ送給速度Frが徐々に低下する。
【0060】
同時に、図3の(C)に示すように、定常溶接時の溶接電圧V2よりも低いアンチスティック電圧V1が印加され、図3の(D)に示すように、定常溶接時の溶接電流I2よりも低いアンチスティック電流I1が流れ、アンチスティック処理が実行される。時刻t1から時刻t2までの時間は、アンチスティック時間taとして設定され、その間にアンチスティック処理が実行されることになる。
【0061】
時刻t2において、アンチスティック処理が終了すると、第2の溶接処理前に実行されるスローダウン処理が開始される時刻t3までに、第2の溶接処理の溶接開始位置に溶接トーチ3が移動する。
【0062】
時刻t3において、図3の(A)に示す溶接信号Stが、溶接開始命令に従ってHighレベル(ON)に切り替わると、図3の(B)に示すように、定常溶接時の送給速度F2よりも遅いスローダウン送給速度F1で溶接ワイヤを送給するスローダウン送給処理が実行される。時刻t3から時刻t4までの時間は、スローダウン時間tsとして設定され、その間にスローダウン送給処理が実行されることになる。
【0063】
同時に、図3の(C)に示すように、溶接電圧Vwは、無負荷電圧V3となる。時刻t4において、溶接ワイヤが母材に接触すると、図3の(D)に示すように、定常溶接時の溶接電流I2が流れ、アークが発生し、図3の(B)に示すように、定常溶接時の送給速度F2で溶接ワイヤが送給され、第2の溶接処理における定常溶接が行われる。
【0064】
ここで、バッファ量調整処理を実行する期間として列挙した上記(1)〜(3)の期間のうち、上記(1)の期間は、図3の時刻t1から時刻t2までの期間に該当する。同様に、上記(2)の期間は、図3の時刻t2から時刻t3までの期間に該当し、上記(3)の期間は、図3の時刻t3から時刻t4までの期間に該当する。つまり、上記(1)〜(3)の期間は、図3の時刻t1から時刻t4までの期間と同じ期間となる。
【0065】
したがって、バッファ量調整部151が、上記(1)〜(3)の期間のうち、少なくともいずれか一つ以上の期間に、バッファ量調整処理を実行することを、以下のように言い換えることができる。バッファ量調整部151は、図3の時刻t1から時刻t4までの期間に、少なくとも一回以上、バッファ量調整処理を実行する。
【0066】
上述したように、実施形態におけるワイヤ送給装置1によれば、第1のワイヤ送給部11と第2のワイヤ送給部13との間にワイヤバッファ12を設けるワイヤ送給装置1において、溶接処理の終了後から、次の溶接処理の開始前に実行されるスローダウン送給処理で溶接ワイヤの先端が母材に接触するまでの間に、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、較正部152により設定されたバッファ量の基準値になるように、モータを駆動させて、バッファ量を調整することができる。
【0067】
これにより、溶接処理が終了したときに、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、基準値に設定されている本来のバッファ量からずれている場合であっても、少なくとも次の溶接処理でアークが発生するまでに、本来のバッファ量に調整することができる。
【0068】
それゆえ、実施形態におけるワイヤ送給装置1によれば、溶接処理の質を低下させることなく、保持することが可能となる。
【0069】
[変形例]
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0070】
例えば、前述した実施形態におけるワイヤ送給装置1は、アンチスティック処理が終了した後に、溶接トーチ3を次の溶接開始位置まで移動させている。これに対して、本変形例におけるワイヤ送給装置は、その溶接トーチ3の移動を、バッファ量調整処理が終了するまで待機させることとする。
【0071】
本変形例におけるワイヤ送給装置の概略構成を図4に例示する。図4に示すように、本変形例におけるワイヤ送給装置1sは、移動命令発信部153を制御部15にさらに備える点で、図1に示す実施形態におけるワイヤ送給装置1と異なる。
【0072】
移動命令発信部153は、アンチスティック処理が終了し、バッファ量調整部151によるバッファ量調整処理が終了した後に、溶接トーチ3を次の溶接開始位置に移動させるための移動命令を発信する。つまり、移動命令発信部153は、バッファ量調整部151によるバッファ量調整処理が終了するまで、上記移動命令の発信を待機することとなる。
【0073】
これにより、溶接処理が終了したときに、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、基準値に設定されている本来のバッファ量からずれている場合であっても、溶接トーチを次の溶接開始位置に移動させるまでに、本来のバッファ量に調整することができるため、溶接処理の質を低下させることなく、保持することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1,1s…ワイヤ送給装置、2…ワイヤリール、3…溶接トーチ、4…溶接ワイヤ、11…第2のワイヤ送給部、12…ワイヤバッファ、13…第1のワイヤ送給部、14…バッファ量取得部、15…制御部、121…ケース、122…ワイヤガイド、123…支持部、151…バッファ量調整部、152…較正部、152a…ワイヤ移動制御部、152b…設定部、153…移動命令発信部。
図1
図2
図3
図4