特許第6985995号(P6985995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985995
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20211213BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20211213BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F16C41/00
   F16C19/18
   F16C33/78 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-154775(P2018-154775)
(22)【出願日】2018年8月21日
(65)【公開番号】特開2020-29885(P2020-29885A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2021年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 一成
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智子
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−304827(JP,A)
【文献】 特開2017−67245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 19/18
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、前記ハブ輪と前記内輪との外周面に、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
磁性が周方向に等間隔で交互に変化する磁気エンコーダ、および前記磁気エンコーダが設けられて前記外方部材または前記内方部材のインナー側の端部に圧入嵌合されている支持部材からなるエンコーダリングと、
前記外方部材と前記内方部材との間をシールする密閉部材を備えた車輪用軸受装置において、
前記磁気エンコーダが、磁気センサによる磁気の検出が保証されている磁気検出部と磁力によって前記エンコーダリング用の圧入治具に吸着する治具吸着部とを有している車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記磁気検出部が、前記治具吸着部に対して異なる平面上に形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記磁気検出部が、前記治具吸着部に対して前記エンコーダリングの軸方向にずれた位置に形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記磁気エンコーダには、前記圧入治具に対する位置決め用の段差が形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置を備えた車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置の回転速度検出装置は、磁気エンコーダが設けられたエンコーダリングと磁気センサとから構成されている。エンコーダリングは、内輪に圧入嵌合されることで固定されている。このような車輪用軸受装置において、エンコーダリングが内輪に圧入嵌合されることによる磁気エンコーダの変形を防ぐ圧入方法が開示されている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、磁気エンコーダを支持している支持環の円筒部分が圧入治具によって軸方向に押圧可能な形状に形成されている。つまり、エンコーダリングは、支持環の嵌合面と偏心のない同一直線上の位置を圧入治具によって押圧可能に形成されている。これにより、車輪用軸受装置は、圧入嵌合時の磁気エンコーダの変形を抑えて、磁気センサの検出精度の低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−067245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の圧入方法において、圧入治具の押圧面は、内輪の軸心に対して垂直になるように構成されている。しかし、圧入作業のため内輪の端部にセッティングされたエンコーダリングの軸心が内輪の軸心に略一致していない場合、支持環の円筒部分を圧入治具によって押圧してもエンコーダリングが内輪に対して傾いて嵌合される。つまり、エンコーダリングは、磁気エンコーダの検出面が内輪の軸心に対して垂直な状態で内輪に嵌合されない可能性があった。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、磁気エンコーダの磁性を保証しつつ磁気エンコーダが内輪の軸心に対して略垂直になるようにエンコーダリングを内輪に圧入嵌合することができる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、第一の発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、前記ハブ輪と前記内輪との外周面に、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、磁性が周方向に等間隔で交互に変化する磁気エンコーダ、および前記磁気エンコーダが設けられ、前記外方部材または前記内方部材のインナー側の端部に圧入嵌合されている支持部材からなるエンコーダリングと、前記外方部材と前記内方部材との間をシールする密閉部材を備えた車輪用軸受装置において、前記磁気エンコーダが、磁気センサによる磁気の検出が保証されている磁気検出部と磁力によって前記エンコーダリング用の圧入治具に吸着する治具吸着部とを有しているものである。
【0008】
第二の発明は、前記磁気検出部が、前記治具吸着部に対して異なる平面上に形成されているものである。
【0009】
第三の発明は、前記磁気検出部が、前記治具吸着部に対して前記エンコーダリングの軸方向にずれた位置に形成されているものである。
【0010】
第四の発明は、前記磁気エンコーダには、前記圧入治具に対する位置決め用の段差が形成されているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
即ち、第一の発明は、磁性体からなる圧入治具に磁気エンコーダが吸着した状態でエンコーダリングが内輪に圧入嵌合される。つまり、エンコーダリングは、内輪に対する圧入治具の位置関係に倣うようにして内輪に圧入嵌合される。これにより、磁気エンコーダの磁性を保証しつつ磁気エンコーダが内輪の軸心に対して略垂直になるようにエンコーダリングを内輪に圧入嵌合することができる。
【0013】
第二の発明と第三の発明は、磁性体からなる圧入治具が磁気エンコーダの治具吸着部のみに接触しているので磁気検出部の磁性が圧入の影響を受けない。これにより、磁気エンコーダの磁性を保証しつつ磁気エンコーダが内輪の軸心に対して略垂直になるようにエンコーダリングを内輪に圧入嵌合することができる。
【0014】
第四の発明は、圧入治具に対するエンコーダリングの位置が定まるので、エンコーダリングを内輪に圧入嵌合した際のエンコーダリングのひずみが抑制される。これにより、磁気エンコーダの磁性を保証しつつ磁気エンコーダが内輪の軸心に対して略垂直になるようにエンコーダリングを内輪に圧入嵌合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す斜視図。
図2】本発明の第一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図3】本発明の第二実施形態に係る車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図4】(a)本発明の第一実施形態に係る車輪用軸受装置に圧入嵌合されているエンコーダリングの第一実施形態を示す部分拡大断面図、(b)同じく軸方向視におけるエンコーダリングの第一実施形態を示す部分拡大断面図。
図5】エンコーダリングの第一実施形態を圧入治具に吸着させる際の位置関係を示す拡大断面図。
図6】(a)エンコーダリングの第一実施形態が圧入治具に位置決めされる状態を示す部分拡大断面図、(b)同じくエンコーダリングの第一実施形態を圧入治具が保持した状態を示す部分拡大断面図。
図7】第一実施形態に係る車輪用軸受装置にエンコーダリングの第一実施形態を圧入嵌合する際の位置関係を示す断面図。
図8】第一実施形態に係る車輪用軸受装置にエンコーダリングの第一実施形態が圧入嵌合された状態を示す部分拡大断面図。
図9】エンコーダリングの第二実施形態が圧入治具に位置決めされた状態を示す部分拡大断面図。
図10】エンコーダリングの第一実施形態の別形態が圧入治具に位置決めされた状態を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図1図2とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0017】
図1図2とに示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a(図2参照)、アウター側ボール列5b(図2参照)、エンコーダリング6、カバー9、カバー9に設けられている円環状のインナー側シール部材10(図2参照)、アウター側シール部材11(図2参照)を具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0018】
図2に示すように、外輪2は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2のインナー側端部には、インナー側開口部2aが形成されている。外輪2のインナー側開口部2aには、インナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとが同一軸心上に形成されている。カバー嵌合部2cの外径は、インナー側シール嵌合部2bのシール嵌合径よりも小さい。つまり、外輪2のインナー側開口部2aの内周には、外側(インナー側)から順に大径側のインナー側シール嵌合部2bと小径側のカバー嵌合部2cとが形成されている。
【0019】
外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側軌道面2dと、アウター側の外側軌道面2eとが形成されている。インナー側の外側軌道面2dとアウター側の外側軌道面2eとには、例えば高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2fが一体に形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側開口部2gが形成されている。
【0020】
ハブ輪3は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置に複数のハブボルト3eが設けられている。また、ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2eに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材11のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。
【0021】
内輪4は、転動列であって車載時に車体側に配置されるインナー側ボール列5aと車載時に車輪側に配置されるアウター側ボール列5bとに予圧を与える部材である。内輪4は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側軌道面4aが形成されている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。ハブ輪3は、内側軌道面4aが外輪2のインナー側の外側軌道面2dに対向している。
【0022】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボール5が保持器5cによって環状に保持されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで62〜67HRCの範囲で硬化処理されている。インナー側ボール列5aは、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2eとの間に転動自在に挟まれている。
【0023】
車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているが、複列円錐ころ軸受等の軸受で構成されていてもよい。
【0024】
エンコーダリング6は、回転側の部材であるハブ輪3および内輪4の回転速度を検出する回転速度検出装置の一部である。エンコーダリング6は、支持環7と磁気エンコーダ8とから構成されている。
【0025】
支持環7は、磁気エンコーダ(エンコーダゴム)8を内輪4に固定する支持部材である。支持環7は、円環状の鋼板の外縁部と内縁部とがプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。支持環7は、防錆性の向上と検出精度の安定性の向上のため強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて形成されている。支持環7には、アウター側端から内輪4が圧入嵌合されている。
【0026】
磁気エンコーダ8は、フェライト等の磁性紛体が混入された合成ゴムが環状に形成され、周方向に等ピッチで磁極Nと磁極Sとに着磁されている。磁気エンコーダ8は、支持環7に例えば加硫接着等によって固定されている。つまり、磁気エンコーダ8は、支持環7が圧入嵌合されている内輪4と一体に回転するように構成されている。
【0027】
図2に示すように、密閉部材であるカバー9は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで外部から泥水等の異物の入り込みを防止し、エンコーダリング6を保護する。カバー9は、プレス加工によって形成されている。カバー9のアウター側は、開口している。カバー9のインナー側には、底面が形成されている。カバー9は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)から構成されている。カバー9は、嵌合部9a、シール支持部9b、および底部9cが一体に連結されたものである。
【0028】
カバー9の筒状部分には、開口側端部から順に嵌合部9aとシール支持部9bとが同一軸心上に形成されている。嵌合部9aは、外輪2のカバー嵌合部2cに嵌合される。嵌合部9aは、インナー側シール嵌合部2bの内周面に接触することなくカバー嵌合部2cに嵌合される。シール支持部9bは、インナー側シール部材10を支持する。シール支持部9bは、嵌合部9aのインナー側に隣接して配置されている。底部9cは、カバー9の底面(蓋面)を構成している。底部9cは、シール支持部9bのインナー側端部から径方向内側に延びる円盤状に形成され、エンコーダリング6に僅かな軸方向すきまを介して対峙している。
【0029】
環状のインナー側シール部材10は、外輪2とカバー9との間の隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材10は、カバー9のシール支持部9bの外周面に、例えば加硫接着により固着されている。インナー側シール部材10は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。インナー側シール部材10は、外輪2のインナー側シール嵌合部2bの内径よりも大きい外径に形成されている。
【0030】
インナー側シール部材10は、インナー側シール嵌合部2bの内周面に密着するように構成されている。また、インナー側シール部材10は、嵌合時にインナー側シール嵌合部2bに弾性変形して圧着されることで、外輪2とカバー9との隙間を塞いでいる。なお、インナー側シール部材10は、インナー側シール嵌合部2bの内周面に密着するように構成されているが、カバー嵌合部2cの内周面に密着するように構成してもよい。
【0031】
密閉部材であるアウター側シール部材11は、主に外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材11は、略円筒状に形成された芯金に、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。アウター側シール部材11は、外輪2のアウター側開口部2gに嵌合され、ハブ輪3のリップ摺動面3dに複数のシールリップが油膜を介して接触または近接することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。
【0032】
車輪用軸受装置1では、カバー9の底部9cを介してエンコーダリング6に対峙している磁気センサ12によって磁気エンコーダ8の磁気が検出される。磁気センサ12は、エンコーダリング6から所定のエアギャップ(軸方向すきま)になるように車体側に保持されている。磁気センサ12は、ハブ輪3と一体的に回転することにより交互に検出面を通過するエンコーダリング6の各磁性の通過時間を検出する。これにより、車輪用軸受装置1は、エンコーダリング6と磁気センサ12とからなる回転速度検出装置を備えている。
【0033】
次に、図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置13について説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置13は、図1図2とに示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0034】
図3に示すように、車輪用軸受装置13は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a、アウター側ボール列5b、インナー側シール部材14、アウター側シール部材11を具備する。
【0035】
密閉部材であるインナー側シール部材14は、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間を塞ぐパックシールである。インナー側シール部材14は、例えば二枚のシールリップを接触させる2サイドリップタイプのエンコーダ付パックシールから構成されている。インナー側シール部材14は、略円筒状のシール板15と略円筒状のスリンガ16とを具備する。
【0036】
シール板15は、芯金とシールリップとから構成されている。芯金は金属製であり、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。芯金は、円環状の鋼板の外縁部がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。シール板15は、外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されて固定されている。
【0037】
シール板15のインナー側面には、複数のシールリップが例えば加硫接着されている。複数のシールリップは、例えば、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0038】
スリンガ16は、例えば、シール板15と同等の鋼板から構成されている。スリンガ16は、円環状の鋼板の外縁部と内縁部とがプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。スリンガ16は、シール板15よりもインナー側の内輪4に嵌合されて固定されている。この際、スリンガ16は、シール板15と軸方向に対向するように配置されている。このように、インナー側シール部材14は、外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されたシール板15と内輪4に嵌合されたスリンガ16とが対向するように配置され、パックシールを構成している。
【0039】
シール板15の複数のシールリップは、摺動面であるスリンガ16にグリースの油膜を介して接触または近接し、車輪用軸受装置13の内部のグリースの外部への漏れを防止し、車輪用軸受装置13の外部から泥水や粉塵等の内部への入り込みを防止している。これにより、インナー側シール部材14は、外輪2のインナー側開口部2aからの潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止する。
【0040】
また、スリンガ16には、磁気エンコーダ17が設けられ、回転速度検出装置の一部を構成している。つまり、スリンガ16は、磁気エンコーダ17の支持部材である支持環としてエンコーダリングを構成している。車輪用軸受装置13では、エンコーダリングであるスリンガ16に対峙している磁気センサ12によって磁気エンコーダ17の磁気が検出される。
【0041】
次に、図4を用いて、車輪用軸受装置1におけるエンコーダリング6の磁気エンコーダ8について詳細に説明する。なお、以下のエンコーダリング6の各実施形態は、車輪用軸受装置の第二実施形態に係る車輪用軸受装置13におけるスリンガ16の磁気エンコーダ17についても同様に適用される(図3参照)。
【0042】
図4に示すように、エンコーダリングの第一実施形態であるエンコーダリング6の支持環7は、円筒部7aと、円筒部7aのインナー側端部が径方向外側に向かって屈曲された円環状の鍔部7bとを有している。エンコーダリング6は、支持環7の円筒部7aが内輪4に圧入嵌合されている。磁気エンコーダ8は、鍔部7bのインナー側の表面を覆うように設けられている。磁気エンコーダ8は、支持環7の軸心を中心として所定の径方向幅を有する円環に形成されている。磁気エンコーダ8は、磁気センサ12によって磁気が検出される磁気検出部8aとエンコーダリング6用の圧入治具J1(図5参照)に吸着する治具吸着部8bとを有している。磁気エンコーダ8の内径寸法は、支持環7の円筒部7aの外形寸法よりも小さい。
【0043】
磁気検出部8aは、磁気センサ12(図2参照)による適切な磁気の検出を保証している部分である。言い換えると、磁気検出部8aは、磁気エンコーダ8の径方向において、磁気特性が保証されている範囲(検出に十分な磁気特性が得られる範囲)である。磁気検出部8aは、磁気エンコーダ8の一部分(ここでは、径方向中央部)がインナー側に突出することで構成されている。磁気検出部8aは、磁気エンコーダ8の径方向幅よりも小さい所定の径方向幅を有し、支持環7の軸心B(図5参照)を中心として円環状に突出して形成されている。磁気エンコーダ8は、磁気検出部8aの径方向両側に段差8cが形成されている。径方向両側の段差8cは、磁気検出部8aの表面(インナー側)に向かうにつれて段差8c間の間隔が小さくなるテーパ面に形成されている。磁気検出部8aの近傍には、磁気センサ12が位置されている。
【0044】
治具吸着部8bは、エンコーダリング6の圧入時の姿勢を圧入治具J1(図5参照)に倣わすために圧入治具J1の押圧面に吸着する部分である。治具吸着部8bは、磁気エンコーダ8のうち磁気検出部8a以外の部分から構成されている。つまり、磁気エンコーダ8には、磁気検出部8aの径方向外側と径方向内側とに所定の径方向幅を有し、支持環7の軸心Bを中心とした円環状の治具吸着部8bが形成されている。径方向外側の治具吸着部8bの径方向幅は、径方向内側の治具吸着部8bの径方向幅よりも大きい。治具吸着部8bは、磁気エンコーダ8の磁力による吸着力を有している。治具吸着部8bは、磁性体である圧入治具J1を吸着する部分として設けられている。
【0045】
このようにエンコーダリング6は、磁気検出部8aの軸方向への突出により、磁気検出部8aと治具吸着部8bとが異なる平面上に形成されている。つまり、エンコーダリング6は、磁気検出部8aが治具吸着部8bに対して段差8cを介して軸方向にずれた位置に形成されている。これにより、エンコーダリング6は、当該エンコーダリング6を内輪4に圧入するために用いる圧入治具J1に対する位置決めの基準として段差8cを用いることができる。
【0046】
次に、図5から図8を用いて、圧入治具J1によるエンコーダリング6の組み付け方法について説明する。本組み付け方法の説明において車輪用軸受装置1は、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1であり、公知の製造方法によって外輪2にハブ輪3と内輪4とが、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとを介して回転自在に支持され、アウター側シール部材11が組み込まれている状態とする。一方、外輪2のインナー側開口部2aには、カバー9が組み込まれていないものとする。なお、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1におけるエンコーダリングであるスリンガ16の組み付け方法についても同様である(図3参照)。
【0047】
図5に示すように、圧入治具J1は、エンコーダリング6を保持するとともに、エンコーダリング6を車輪用軸受装置1の内輪4に圧入嵌合させる治具である。圧入治具J1は、鉄等の磁性体から構成されている。つまり、圧入治具J1は、エンコーダリング6の磁気エンコーダ8が磁力で吸着するように構成されている。圧入治具J1は、略円柱状に形成されている。圧入治具J1の軸方向端部には、磁気エンコーダ8の治具吸着部8bに接触する接触部J1aとエンコーダリング6の軸方向の圧入位置を定める位置決め部J1bとが形成されている。
【0048】
接触部J1aは、磁気エンコーダ8の径方向幅以上の径方向幅を有し、圧入治具J1の軸心Aを中心とする円環状に突出した形状に形成されている。また、接触部J1aには、磁気エンコーダ8の磁気検出部8aが隙間なく挿入可能な径方向幅を有し、圧入治具J1の軸心Aを中心とする円環状の治具溝J1cが形成されている。治具溝J1cは、挿入された磁気検出部8aの磁性に影響を及ぼさない程度の隙間が治具溝J1cの底部と磁気検出部8aの表面との間に生じる溝深さに形成されている。
【0049】
位置決め部J1bは、任意の径方向幅を有し、圧入治具J1の軸心Aを中心とする円環状に突出した形状に形成されている。位置決め部J1bは、接触部J1aに対する突出量によって、車輪用軸受装置1におけるエンコーダリング6の軸方向位置を定める。位置決め部J1bは、外輪2の車体取り付けフランジ2fに接触することで車輪用軸受装置1におけるエンコーダリング6の軸方向位置を定めるように構成されている。
【0050】
車輪用軸受装置1へのエンコーダリング6の組み付け方法において、エンコーダリング6は、作業台等の上に軸方向に積み重ねられた状態で載置されている。また、車輪用軸受装置1は、保持具J2によってインナー側開口部2aを上方向に向けた状態で保持されている(図7参照)。エンコーダリング6の組み付けは、吸着工程と、圧入工程からなる。
【0051】
図6に示すように、車輪用軸受装置1へのエンコーダリング6の組み付け方法における吸着工程は、エンコーダリング6を圧入治具J1に吸着させる工程である。吸着工程において、圧入治具J1は、図示しない駆動装置によって積み重ねられているエンコーダリング6の磁気エンコーダ8と対向する位置に移動される(図5、黒塗矢印参照)。さらに、圧入治具J1は、図示しない駆動装置によって接触部J1aが磁気エンコーダ8に近づけられる(黒塗矢印参照)。
【0052】
図6(a)に示すように、圧入治具J1が近づけられた磁気エンコーダ8の治具吸着部8bは、磁力によって圧入治具J1の接触部J1aに吸着する。この際、磁気エンコーダ8の磁気検出部8aは、テーパ状の段差8cによって圧入治具J1の治具溝J1cに案内されるが、圧入時、治具J1に接触していない。
図6(b)に示すように、磁気検出部8aが圧入治具J1の治具溝J1cに挿入されたエンコーダリング6は、その軸心B(図5参照)が圧入治具J1の軸心A(図5参照)に一致した状態で圧入治具J1に吸着している。
【0053】
図7に示すように、車輪用軸受装置1へのエンコーダリング6の組み付け方法における圧入工程は、エンコーダリング6を車輪用軸受装置1の内輪4に圧入する工程である。圧入工程において、圧入治具J1に吸着しているエンコーダリング6は、図示しない駆動装置によって移動される圧入治具J1によって車輪用軸受装置1の内輪4と対向する位置に移動される。さらに、エンコーダリング6は、圧入治具J1によって内輪4に近づけられる(黒塗矢印参照)。この際、圧入治具J1は、その軸心Aが内輪4の軸心Cに一致する位置に配置されている。これにより、圧入治具J1に吸着しているエンコーダリング6は、その軸心Bが内輪4の軸心Cに一致する位置に配置されている。また、圧入治具J1は、接触部J1aの表面が内輪4の軸心に対して垂直になるように配置されている。これにより、エンコーダリング6は、磁気エンコーダ8が内輪4の軸心Cに対して垂直な状態で配置されている。
【0054】
図8に示すように、エンコーダリング6は、圧入治具J1によって支持環7の円筒部7aが内輪4のインナー側に圧入嵌合される(黒塗矢印参照)。この際、エンコーダリング6は、圧入治具J1によって磁気エンコーダ8が内輪4の軸心C(図7参照)に対して垂直な状態を維持しながら内輪4に圧入嵌合される。エンコーダリング6は、圧入治具J1の位置決め部J1bが外輪2の車体取り付けフランジ2fの根元部分に接触するまで内輪4に圧入嵌合される。これにより、エンコーダリング6は、内輪4に対する磁気エンコーダ8の軸方向位置が毎回所定の位置になるように組み立てられる。
【0055】
このように構成することで、吸着工程において、エンコーダリング6は、磁性体からなる圧入治具J1の治具溝J1cに磁気エンコーダ8の磁気検出部8aが隙間を有した状態で挿入されることで、磁気検出部8aの磁性が圧入治具J1の影響をうけることなく、圧入治具J1の軸心Aとエンコーダリング6の軸心Bとが一致する状態で圧入治具J1に保持される(図7参照)。また、圧入工程において、エンコーダリング6は、圧入治具J1の軸心Aと内輪4の軸心Cとが一致する状態で内輪4に圧入嵌合される。つまり、エンコーダリング6は、圧入治具J1を基準として内輪4に対する圧入治具J1の位置関係に倣って内輪4に圧入嵌合される。これにより、磁気エンコーダ8の磁性を保証しつつ磁気エンコーダ8が内輪4の軸心に対して略垂直になるようにエンコーダリング6を内輪4に圧入嵌合することができる。
【0056】
次に、図9を用いて、車輪用軸受装置1におけるエンコーダリングの第二実施形態であるエンコーダリング18について説明する。エンコーダリング18は、磁気エンコーダ19が支持環7の鍔部7bのインナー側の表面を覆うように設けられている。エンコーダリング18の磁気エンコーダ19は、磁気センサ12によって磁気が検出される磁気検出部19aとエンコーダリング用の圧入治具J1に吸着する治具吸着部19bとを有している。
【0057】
図9に示すように、磁気検出部19aは、磁気エンコーダ19の一部分がアウター側に陥没することで構成されている。磁気検出部19aは、磁気エンコーダ19の径方向幅よりも小さい所定の径方向幅を有し、支持環7の軸心Bを中心として円環状に陥没して形成されている。つまり、磁気検出部19aは、円環状の溝に形成されている。磁気エンコーダ19は、磁気検出部19aの径方向両側に段差19cが形成されている。径方向両側の段差19cは、溝の底部(アウター側)に向かうにつれて段差19cの間隔が小さくなるテーパ面に形成されている。
【0058】
圧入治具J1の軸方向端部には、磁気エンコーダ19の治具吸着部19bに接触する接触部J1aとエンコーダリング18の圧入位置を定める位置決め部J1bとが形成されている。
【0059】
接触部J1aには、磁気エンコーダ19の磁気検出部19aを構成している円環状の溝に隙間なく挿入可能な径方向幅を有し、圧入治具J1の軸心A(図5参照)を中心とする円環状の治具突出部J1dが形成されている。磁気検出部19aを構成している円環状の溝は、挿入された治具突出部J1dの磁性の影響が及ばない程度の隙間が溝の底部と治具突出部J1dの表面との間に生じる溝深さに形成されている。
【0060】
車輪用軸受装置1へのエンコーダリング18の組み付け方法における吸着工程において、圧入治具J1が近づけられた磁気エンコーダ19の治具吸着部19bは、磁力によって圧入治具J1の接触部J1aに吸着する。この際、圧入治具J1の治具突出部J1dは、磁気エンコーダ19のテーパ状の段差19cによって磁気検出部19aの溝に案内されるが、磁気検出部19aに接触していない。治具突出部J1dが磁気検出部19aの溝に挿入されたエンコーダリング18は、その軸心Bが圧入治具J1の軸心Aに一致する位置で圧入治具J1に吸着している(図7参照)。
【0061】
このように構成することで、吸着工程において、エンコーダリング18は、磁気エンコーダ19の磁気検出部19aに磁性体からなる圧入治具J1の治具突出部J1dが隙間を有した状態で挿入されることで、磁気検出部19aの磁性が圧入治具J1の影響をうけることなく、圧入治具J1の軸心Aとエンコーダリング18の軸心Bとが一致する状態で圧入治具J1に保持される。また、圧入工程において、エンコーダリング18は、圧入治具J1の軸心Aと内輪4の軸心Cとが一致する状態で内輪4に圧入嵌合される(図7参照)。これにより、エンコーダリング18は、磁気エンコーダ19の磁性を保証しつつ磁気エンコーダ19が内輪4の軸心Cに対して略垂直になるように内輪4に圧入嵌合することができる。
【0062】
なお、エンコーダリング6・18において、径方向外側と径方向内側とのどちらか一方のみに円環状の治具吸着部8b・19bを設ける構成でもよい。例えば、図10に示すエンコーダリング6は、磁気エンコーダ8の径方向内側のみに治具吸着部8bを設け、治具吸着部8bの径方向外側に磁気検出部8aが設けられている。また、エンコーダリングは、治具吸着部が形成されている平面と磁気検出部が形成されている平面とが交差する構成でもよい。例えば、エンコーダリングは、鍔部7bの外縁を軸方向に屈曲させて形成した円筒部の側面に磁気検出部を設け、治具吸着部と磁気検出部とを異なる平面上に設けてもよい。
【0063】
本願における車輪用軸受装置1・13は、内方部材として一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、外方部材である外輪2と内方部材である内輪4とハブ輪3の嵌合体で構成された内輪4回転仕様の第3世代構造としているが、外方部材である外輪2と内方部材である一対の内輪4で構成された第1世代構造や、外方部材である外輪2と内方部材である一対の内輪4とで構成され、この一対の内輪4がハブ輪3の外周に嵌合される内輪4回転仕様の第2世代構造であってもよい。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0065】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
4 内輪
6 エンコーダリング
7 支持環
8 磁気エンコーダ
8a 磁気検出部
8b 治具吸着部
9 カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10