(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
【0008】
(本発明の一実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る電池状態推定装置を備えた蓄電システムの概略構成の一例を示すブロック図である。本蓄電システムは、蓄電池1と、電池状態推定装置2と、変換器3と、交流電流計測装置4と、を備える。電池状態推定装置2は、充電制御部21と、計測部22と、状態推定部23と、電力量推定部24と、判定部25と、出力部26と、記憶部27と、を備える。
【0009】
蓄電池1は、電池状態推定装置2により、状態が推定される二次電池である。蓄電池1は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池、当該非水電解質二次電池による組電池等が想定される。しかし、蓄電池1がこれらに限定されるわけではなく、充電が可能な電池であればよい。なお、以降の説明において、特に断りがなければ、「蓄電池」という用語には、組電池、電池モジュール、単位電池が含まれるものとする。
【0010】
蓄電池1は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、電気自転車、電気とガソリンの両方を使用するハイブリット自動車、ドローンといった機器等に搭載された蓄電池でもよい。また、例えば、個人住宅、ビルディング、工場等の建物ごとに設置される定置用蓄電池でもよい。発電システムと連携した蓄電池、又は系統連系した蓄電池でもよい。
【0011】
電池状態推定装置2は、蓄電池1の状態を推定する装置である。推定される状態は、蓄電池1の外部に設けられたセンサなどからは容易に検出することができないものを想定する。例えば、蓄電池1の内部にある極端子の質量、SOC(State of Charge:充電状態)を推定することが考えられる。推定された値をそのまま、蓄電池1の状態としてもよいし、推定された値に基づき、蓄電池1の状態を推定してもよい。例えば、蓄電池1の正極の端子の質量が所定範囲内に含まれているときは「正常」と推定し、所定範囲から外れているときは「異常」と推定してもよい。
【0012】
なお、本実施形態では、蓄電池1と電池状態推定装置2とを分離して記載したが、制御回路等にて実現された電池状態推定装置2を蓄電池1に備え付けることにより、電池状態推定装置2を備えた一つの蓄電池1(蓄電装置)にしてもよい。
【0013】
変換器3は、交流電流(AC)と直流電流(DC)とを変換する。
図1の矢印は、交流電流計測装置4からの交流電流が直流電流に変換されて、蓄電池1に流れることを示している。こうして、変換器3からの直流電流により蓄電池1が充電される。なお、蓄電池1から放電された直流電流が変換器3により交流電流に変換されてもよい。
【0014】
例えば、定置用蓄電池を備えた蓄電システムでは、PCS(Power Conditioning Subsystem)が、変換器3に該当する。また、蓄電池1がラップトップPCに内蔵されている場合は、ACアダプタが変換器3に該当する。
【0015】
交流電流計測装置4は、変換器3に入出力された交流電流に関する計測を行う装置である。当該計測は、一定期間内の交流電流の電力量を想定するが、交流電流の電力の時系列データでもよいし、交流電流及び電圧の時系列データであってもよい。当該交流電流に関する計測データ(第2計測データ)は、電池状態推定装置2に送られる。交流電流計測装置4は、例えば、AC電源とPCSとの間に設置されることが想定される。交流電流計測装置4は、一般に用いられている計測装置でよい。なお、「入出力」は、入力及び出力のいずれか一方を意味してもよいし、両方を意味してもよい。
【0016】
このような蓄電システムにおいて、本実施形態の電池状態推定装置2は、推定された状態の妥当性を判定する。電池の状態を推定する方法は、いくつか知られているが、推定時の環境等により、推定結果に誤差が生じることがあり得る。例えば、電池の内部状態等を推定することが可能な充電曲線解析(CCA)が知られている。しかし、充電曲線解析では、充電レート、温度、充電開始時のSOC等が特定範囲から外れている場合、推定結果に誤差が生じる恐れがある。しかし、推定精度を向上させるために、あらゆる電池状態、あらゆる充電データに対して、検証を事前に行うことは非現実的である。また、電池、PCS等を備えた定置用蓄電システムでは、PCS等の不具合による予期されない電流変動が、推定結果に誤差を生じさせる恐れがある。当該誤差により、電池の残容量を間違えて見積もると、定置用蓄電システムの利便性を損なう可能性がある。
【0017】
上記のような理由により、本実施形態の電池状態推定装置2は、状態推定の妥当性を判定して、精度の低い推定により不具合が生じるのを防ぐ。なお、本実施形態では、充電曲線解析を用いて状態を推定する場合を説明する。
【0018】
充電曲線解析では、電池の充電又は放電時の計測データに基づき、当該電池の内部状態等を推定することができる。そのため、蓄電池1を使用している機器にプログラムをインストールすることにより、当該機器を電池状態推定装置2とした場合、電池状態推定装置2は、使用中の蓄電池1の計測データに基づき、使用中の蓄電池1の状態を推定することができる。蓄電池1を使用する前に検査を行い、蓄電池1の状態を検出しても、蓄電池1の状態は使用されると変化してしまう。そのため、使用前の検査により検出された状態に基づき制御を行うことにより、不具合が生じる恐れがある。そのため、使用中の蓄電池1の状態を推定することが好ましい。
【0019】
なお、説明の便宜上、蓄電池1が充電される場合について説明するが、充電曲線解析では放電でも状態推定が可能である。そのため、特に断りがない限り、「充電」は、「放電」又は「充放電」と読み替えられてもよい。「充放電」は、充電及び放電のいずれか一方を意味してもよいし、両方を意味してもよい。
【0020】
なお、状態推定の手法が充電曲線解析に限られるわけではない。充電曲線解析以外の手法を用いて、状態推定が行われてもよい。試験的電流を流して電池容量の測定を行う充放電試験、主に内部抵抗値の測定を行う電流休止法、交流インピーダンス測定等の電気化学的測定等を用いてもよい。また、これらを組み合わせてもよい。
【0021】
電池状態推定装置2の処理の流れについて説明する。
図2は、電池状態推定装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。ここでは、電池の状態推定と、妥当性の判定と、を一連の処理にて行うことを想定する。
【0022】
なお、本フローチャートは一例であり、必要とされる処理結果を得ることができれば処理の順序等は限られるものではない。また、各処理結果は、記憶部27に逐次記憶されて、各構成要素は当該記憶部27を参照して処理結果を取得してもよい。以降のフローチャートも同様である。
【0023】
充電制御部21は、蓄電池1に対して充電を指示する(S101)。これを受けて、変換器3からの直流電流により、蓄電池1が充電される。計測部22は、蓄電池1の充電が実行された期間(充電期間)内の蓄電池1の電圧及び電流を少なくとも示す計測データ(第1計測データ)を生成する(S102)。
【0024】
状態推定部23は、当該計測データから、蓄電池1の状態を示す一つ以上のパラメータを算出する(S103)。当該パラメータには、内部状態パラメータと、電池特性と、が含まれる。内部状態パラメータと、電池特性については後述する。状態推定部23は、電池状態推定装置2の推定結果として、当該パラメータのいずれか一つ又は複数を選択する。全てのパラメータが選択されて、全てのパラメータが電池状態推定装置2の推定結果とされてもよい。また、状態推定部23は、選択されたパラメータに基づき、蓄電池1を「正常」、「異常」などと推定してもよい。そして、電力量推定部24は、推定されたパラメータのいずれかに基づき、充電された電力量(充電電力量)を推定する(S104)。なお、電池状態推定装置2の推定結果として選択されたパラメータが、充電電力量の推定に用いられるとは限らない。
【0025】
一方、交流電流計測装置4は、変換器3に入出力された交流電流を計測する(S105)。なお、交流電流計測装置4は、常に計測を行ってもよい。あるいは、充電制御部21、変換器3等から、充電の実行開始及び終了の連絡を受けて、充電期間のみ計測を行ってもよい。交流電流に関する計測データは判定部25に送られ、判定部が当該計測データから、蓄電池1に入力された電力量(入力電力量)を算出する(S106)。
【0026】
判定部25は、同一期間における、充電電力量及び入力電力量を比較する(S107)。当該比較に基づき、妥当性が判定される。充電電力量と入力電力量との差分が閾値未満である場合(S108のYES)は、判定部25が推定結果を「妥当」と判定する(S109)。一方、当該差分が閾値以上である場合(S108のNO)は、比較回数が上限値を超えたかどうかが確認され、上限値を超えていた場合(S110のYES)は、判定部25は推定結果を「不当」と判定する(S111)。なお、比較回数が上限値を超えていない場合(S110のYES)は、本フローチャートでは、推定をやり直すようにしている。ゆえに、フローが、推定を再実行するために、充電制御部21が充電を指示する処理(S101)に戻る。判定が行われた後(S109とS111の後)は、出力部26が、電池状態推定装置としての推定結果と、妥当性の判定結果と、を出力する(S112)。
【0027】
なお、当該差分が閾値以上である場合は、比較回数が上限値を超えているかどうかに関わらず、「不当」と判定してもよい。また、比較回数が上限値を超えていた場合は、判定部25は不具合が生じたと判定し、出力部26が蓄電システムの検査を要請するメッセージを出力してもよい。
【0028】
次に、電池状態推定装置2が備える構成要素と、その処理の詳細について説明する。
【0029】
充電制御部21は、蓄電池1の充電を制御する。例えば、変換器3に対して電流の変換を指示し、これにより充電が実行されてもよい。蓄電池1の充電は、例えば、定電流定電圧充電等の一般的な方法で行わればよい。
【0030】
また、充電制御部21は、充電を再実行することを判定した判定部25から指示された場合は、充電が実行されるように制御してもよい。
【0031】
計測部22は、充電中の蓄電池1対する計測を行い、充電中の蓄電池1に関する情報を示す計測データを生成する。当該情報として、少なくとも充電期間内の電圧及び電流が計測データに含まれるとする。より詳細には、蓄電池1に含まれる単位電池の正極端子と負極端子との間の電圧と、当該単位電池に流れる電流とが、計測データに含まれるとする。なお、その他にも、蓄電池1及びその周辺の温度等が計測データに含まれていてもよい。
【0032】
状態推定部23は、計測データに基づき、蓄電池1の状態を推定する。ここでは、状態推定部23は、充電曲線解析を用いて、各単位電池の状態を示す内部状態パラメータ及び電池特性(セル特性)を算出する。内部状態パラメータは計測データに基づき推定される。電池特性は、推定された内部状態パラメータに基づき推定される。
【0033】
また、状態推定部23は、内部状態パラメータ又は電池特性として算出された複数のパラメータから一つ又は複数を選択し、選択されたパラメータに基づき、電池状態推定装置2の推定結果を決定する。
【0034】
内部状態パラメータは、単位電池の内部の状態を示すものである。内部状態パラメータには、正極容量(正極の質量)、負極容量(負極の質量)、SOCずれ、及び内部抵抗が含まれることを想定する。SOCずれは、正極の初期充電量と、負極の初期充電量との差を意味する。初期充電量は、充電開始時の充電量を意味する。
【0035】
電池特性は、内部状態パラメータから算出することができるものであり、蓄電池1の電圧等の特性を示す。電池特性には、電池容量、開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)、OCV曲線等が含まれる。また、内部抵抗は電池特性にも含められる。OCV曲線は、蓄電池1に関する何らかの指標と開回路電圧との関係を示すグラフ(関数)を意味する。
【0036】
蓄電池1の状態を、内部状態パラメータ及び電池特性のいずれを用いて推定するかは、適宜に定めてよい。しかし、当該推定の妥当性を判定するために、蓄電池1の充電量及び開回路電圧の関係を示す充電量−OCV曲線(第2グラフ)が用いられる。充電量−OCV曲線は電池特性に含まれるため、状態推定部23は、状態推定に用いられるパラメータに関わらず、内部状態パラメータ及び電池特性の両方を算出する。
【0037】
充電曲線解析に必要な式、パラメータの初期値等は、記憶部27が予め記憶しているものとする。例えば、単位電池の正極又は負極の充電量と、電位との関係を示す関数等が記憶部27に記憶されている。
【0038】
状態推定部23は、計測データに基づき、内部状態パラメータである、単位電池の正極又は負極を構成する活物質の量、初期充電量、単位電池の内部抵抗をそれぞれ算出する。当該算出には、活物質量及び内部抵抗に基づき蓄電池1の電圧を算出する関数を利用する。まず、当該関数を用いて、計測データに基づき、蓄電池1の電圧が算出される。そして、算出された蓄電池1の電圧と、計測データ内の電圧との差を少なくする活物質量及び内部抵抗が回帰計算により求められる。なお、正極が複数の活物質から構成されてもよいが、本実施形態では正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる二次電池を例にとって説明する。
【0039】
正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる二次電池を充電する場合、時刻tにおける電圧(端子電圧)Vtは、次式で表すことができる。
【数1】
I
tは時刻tにおける電流値、q
tは時刻tにおける二次電池の充電量を表す。f
cは正極の充電量と電位との関係を示す関数、f
aは負極の充電量と電位との関係を示す関数を表す。q
ocは正極の初期充電量、M
cは正極の質量を表す。q
oaは負極の初期充電量、M
aは負極の質量を表す。Rは内部抵抗である。
【0040】
電流値I
tは、計測データに示されている。充電量q
tは、電流値I
tを時間積分することにより算出される。関数f
c及び関数f
aは、記憶部27に予め記録されているものとする。
【0041】
その他の正極の初期充電量q
oc、正極の質量M
c、負極の初期充電量q
oa、負極の質量M
a、及び内部抵抗Rの五つの値(パラメータセット)は、回帰計算によって推定される。なお、各極の活物質量は、各極の質量の所定の割合とみなして、算出されてもよい。
【0042】
図3は、内部状態パラメータの算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。状態推定部23は、初期化を行い、前述のパラメータセットに初期値を設定し、回帰計算の繰り返し回数を0に設定する(S201)。初期値は、例えば、前回の処理が行われた際に算出された値でもよいし、想定され得る値を用いてもよい。
【0043】
状態推定部23は、次式で表される残差Eを計算する(S202)。
【数2】
V
bat_tは計測データに示された時刻tにおける端子電圧、t
endは充電終了時刻を表す。
【0044】
状態推定部23は、パラメータセットの更新ステップ幅を計算する(S203)。パラメータセットの更新ステップ幅は、例えば、Gauss−Newton法、Levenberg−marquardt法等を用いて算出することができる。
【0045】
状態推定部23は、更新ステップ幅の大きさが、予め定められた大きさ未満であるかどうかを判定する(S204)。更新ステップ幅の大きさが予め定められた大きさ未満であった場合(S204のNO)は、状態推定部23は、計算が収束したと判定し、パラメータセットを出力する(S207)。更新ステップ幅の大きさが予め定められた閾値以上であった場合(S204のYES)は、回帰計算の繰り返し回数が、予め定められた値を超えているかを確認する(S205)。
【0046】
回帰計算の繰り返し回数が予め定められた値を超えている場合(S205のYES)は、パラメータセットを出力する(S207)。回帰計算の繰り返し回数が予め定められた回数以下であった場合(S205のNO)は、パラメータセットにS203で算出した更新ステップ幅を加算し、回帰計算の繰り返し回数を一つ加算する(S206)。そして、再度、残差の計算に戻る(S202)。このようにして、計測データに基づき、パラメータセットが算出される。
【0047】
状態推定部23は、さらに内部状態パラメータから電池特性を算出する。内部状態パラメータであるパラメータセット(正極の初期充電量q
oc、正極の質量M
c、負極の初期充電量q
oa、負極の質量M
a)に基づき、蓄電池1の充電量、開回路電圧、充電量−OCV曲線などを算出する方法について説明する。
【0048】
図4は、電池特性算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、内部状態パラメータが算出された後に開始される。このフローチャートでは、充電量q
nを一定の値△q
nにて増減し、開回路電圧が下限値未満から下限値以上になる充電量q
n0を発見した上で、q
n0を初期値として、開回路電圧が上限値を超えるまで、△q
nごとにq
nを増加させていき、増加の度に、そのときの充電量と開回路電圧を記録する。これにより、開回路電圧が下限値から上限値までの範囲における充電量と開回路電圧との関係を算出することができる。
【0049】
状態推定部23は、充電量q
nの初期値を設定する(S301)。q
nの初期値は、0又は0よりも蓄電池1の公称容量の数%程度小さい値にすればよい。具体的には、蓄電池1の公称容量が1000mAhであれば−50mAhから0mAh程度の範囲に設定すればよい。
【0050】
状態推定部23は、開回路電圧を算出する(S302)。開回路電圧の算出には、次式を用いることができる。
【数3】
【0051】
次に、状態推定部23は、算出された開回路電圧を、予め定められた下限電圧と比較する(S303)。下限電圧は、蓄電池1に用いられる正極活物質と負極活物質との組み合わせにより定まる値である。具体的には、正極活物質、負極活物質それぞれについて、安全性、寿命、抵抗等の観点から各観点それぞれの適切な使用範囲の電圧を定め、それらの組み合わせにより、蓄電池1としての使用範囲の下限及び上限電圧を決定する。
【0052】
開回路電圧が予め定められた下限電圧未満でない場合(S303のNO)は、充電量q
nからΔq
nを減算し(S304)、再度、開回路電圧を算出する(S302)。開回路電圧が予め定められた下限電圧未満である場合(S303のYES)は、状態推定部23は、充電量q
nにΔq
nを加算する(S305)。これらにより、充電量q
nは下限値に近づく。Δq
nは任意の値に設定可能である。例えば、蓄電池1の公称容量の1/1000から1/100程度にすることが考えられる。具体的には蓄電池1の公称容量が1000mAhであれば1mAhから10mAh程度の範囲に設定することが考えられる。
【0053】
状態推定部23は、加算された充電量q
n+Δq
nを用いて、開回路電圧を算出する(S306)。そして、状態推定部23は、算出された開回路電圧を、前述の下限電圧と比較する(S307)。開回路電圧が下限電圧未満であった場合(S307のNO)は、S305に戻り、再度、充電量q
nにΔq
nを加算する(S305)。開回路電圧が下限電圧以上であった場合(S307のYES)は、開回路電圧が下限値未満から下限値以上になったため、このときの充電量q
nをq
n0とし、充電量q
n0と開回路電圧Enを合わせて記録する(S308)。なお、この充電量q
n0の値を基準値として0と表してもよい。その場合は、以降の記録の際に、充電量q
nの値からq
n0の値を引いた値を記録する。
【0054】
状態推定部23は、充電量q
nにΔq
nを加算し(S309)、開回路電圧を算出し(S310)、充電量q
nからq
n0を引いた値と、算出された開回路電圧Enを記録する(S311)。
【0055】
状態推定部23は、算出された開回路電圧と予め定められた蓄電池1の上限電圧とを比較する(S312)。蓄電池1の上限電圧は、蓄電池1に用いられる正極活物質と負極活物質の組み合わせによって定まる値である。開回路電圧が予め定められた上限電圧未満であった場合(S312のNO)は、再度、充電量q
nにΔq
nを加算する処理に戻る(S309)。開回路電圧が予め定められた上限電圧以上となった場合(S312のYES)は、処理を終了する。以上が、電池特性算出の処理の流れを示すフローチャートである。
【0056】
上記により、充電量q
n0から満充電までの充電量−OCV曲線が算出される。
図5は、充電量と開回路電圧との関係の一例を示すグラフ(充電量−OCV曲線)である。このグラフは、上記のフローのS311の処理において記録された充電量(q
nからq
n0を引いた値)と開回路電圧とをプロットしたものである。
【0057】
なお、上記では、二次電池の正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる場合について説明したが、二次電池の正極、負極のいずれか又はいずれもが複数の活物質からなる二次電池に対しても同様に適用することが可能である。
【0058】
なお、内部抵抗は、内部状態パラメータとして算出された推定値を用いることができるが、内部抵抗は温度等により変化する。ゆえに、状態推定部23は、内部抵抗を補正してもよい。また、状態推定部23は、補正した推定値を用いて、一度算出した電池特性を算出し直してもよい。
【0059】
内部抵抗の補正は、特開2017−166874号公報等に示される公知の手法を用いればよい。例えば、内部抵抗を、反応抵抗Rct、拡散抵抗Rd、及びオーミック抵抗Rohmの三つの成分に分け、それぞれ固有の温度依存性に従って補正した後で、合算することにより、温度に対応する内部抵抗を算出することができる。
【0060】
このように、状態推定部23は、内部状態パラメータ、電池特性といった電池の状態を示す一つ以上のパラメータを算出することにより、蓄電池1の状態を推定する。また、算出されたパラメータの一部又は全部を選択して、電池状態推定装置2の推定結果として用いる。
【0061】
電力量推定部24は、状態推定部により推定された状態に基づき、充電電力量を推定する。具体的には、推定された充電量−OCV曲線などに基づき、充電電力量が推定される。
図6は、充電電力量の算出について説明する図である。点線は、
図5で示された充電量−OCV曲線である。
【0062】
電力量推定部24は、充電量−OCV曲線を変換し、蓄電池1の充電量及び電圧の関係を示す充電量−電圧曲線(第1グラフ)を生成する。蓄電池1の電圧は、内部抵抗Rと、充電量q
nのときの電流値I
nとの積算を、開回路電圧E
nに加算することにより変換される。充電量−電圧曲線をq
nの関数V
n(q
n)と表すと、充電量−電圧曲線は次式で表される。
【数4】
電流値I
nは、計測データに示された時刻tにおける電流値I
tと、内部状態パラメータの算出の際に算出された充電量q
tと、の対応関係から算出することができる。内部抵抗Rは、状態推定部23により推定された値を用いてもよい。これにより、点線の充電量−OCV曲線から、実線の充電量−電圧曲線に変換される。
【0063】
電力量推定部24は、充電開始時の蓄電池1の充電量q
startと、充電終了時の蓄電池1の充電量である充電量q
endと、を算出する。算出済みのパラメータセットと、計測データに示された充電開始時の電圧及び電流と、を式(1)に代入することにより算出された充電量から、充電量q
n0を引くことにより充電量q
startは算出できる。また、充電量q
endは、計測データに含まれる充電期間内の電流の総和を、充電量q
startに加算することにより、算出することができる。
【0064】
充電電力量は、
図6に示すように、充電量−OCV曲線の充電量qstartから充電量qendまでの部分と、横軸とに挟まれた範囲となる。したがって、充電電力量は次式で算出される。
【数5】
【0065】
判定部25は、電力量推定部24により推定された充電電力量と、充電電力量と同一の充電期間内のAC電力量と、に基づき、状態推定部により推定された状態の妥当性を判定する。より具体的には、判定部25は、充電電力量と、AC電力量より算出された入力電力量と、を比較することにより、推定された状態の妥当性を判定する。
【0066】
入力電力量は、蓄電池1に入力されて、充電に用いられたと想定される電力量である。なお、充電だけが行われた場合は、入力電力量は、蓄電池1に入力された電力量だけを意味する。また、充電及び放電の両方が行われた場合は、入力電力量は、蓄電池1に入力された電力量と、出力された電力量(負の入力電力量)との合計を意味する。放電だけが行われた場合は、AC電力量及び入力電力量は、負の値となる。
【0067】
判定部25は、交流電流計測装置4から、計測された交流電流に関する計測データを取得する。当該計測データに、充電期間におけるAC電力量が示されている場合は、判定部25は、当該計測データに示されたAC電力量を、そのまま用いればよい。当該計測データに、充電期間内の交流電流の電力の時系列データが示されている場合は、判定部25は、当該時系列データに示された電力を足し合わせて、AC電力量を算出する。当該計測データに、充電期間内の交流電流及び電力の時系列データが示されている場合も同様である。
【0068】
判定部25は、AC電力量から、入力電力量を算出する。変換器3の変換効率により、入力電力量はAC電力量と同一にはならない。また、変換器3により変換された直流電流が全て蓄電池1の充電に用いられない場合もあり、変換された直流電流が蓄電池1の充電に用いられる比率(使用比率)を考慮する必要がある。ゆえに、入力電力量は、変換効率と使用比率とを用いて、次式のように求める。
【数6】
【0069】
判定部25は、電力量推定部24から推定された充電電力量を取得する。そして、充電電力量と入力電力量とを比較し、比較結果に基づき、妥当性を判定する。例えば、充電電力量が入力電力量よりも大きい、入力電力量から充電電力量を引いた差分が閾値より大きい、入力電力量に対する充電電力量の割合が閾値より小さいなどといった条件を満たす場合において、妥当ではないと判定される。妥当性を判定するための条件は、適宜に定めてよい。
【0070】
また、判定部25は、充電の再実行を判定し、充電制御部21に指示してもよい。例えば、妥当と判定できない場合に、充電を再実行すると判定し、充電制御部21に指示してもよい。再実行の判定の基準も、適宜に定めてよい。
【0071】
また、判定部25は、充電の再実行回数が上限値を超えたときに、不具合が発生したと判定してもよい。さらに、判定部25は、不具合の発生先を判定してもよい。例えば、充電期間の長さに応じた、正常な充電電力量の範囲を予め定めておき、これまでに算出された充電電力量が全て当該範囲内である場合は、蓄電池1以外の構成要素、例えば変換器に不具合が生じたと判定してもよい。また、当該範囲内に含まれない充電電力量の割合が上限値を超えた場合に、蓄電池1に不具合が生じたと判定してもよい。
【0072】
出力部26は、電池状態推定装置としての推定結果と、当該推定結果の妥当性の判定結果と、を出力する。また、他の各構成要素の処理結果を出力してもよい。例えば、充電電力量、入力電力量、推定された状態、充電期間といった情報を各構成要素から取得して出力してもよい。
【0073】
出力部26の出力方法は、特に限られるものではない。ファイルでも、メールでも、画像でも、音でも、光でもよい。例えば、出力部26を介して、電池状態推定装置2がディスプレイ、スピーカ等と接続され、他の装置に各構成要素の処理結果が出力されてもよい。出力方法及び内容は、予め定めておけばよい。
【0074】
記憶部27は、電池状態推定装置2の処理に用いられるデータを記憶する。例えば、内部状態パラメータ、電池特性などの算出に必要な関係式等のデータが記憶されていてもよい。また、処理結果等が記録されてもよい。
【0075】
以上のように、本実施形態によれば、蓄電池1の状態が推定されるときに、当該推定の妥当性が判定される。これにより、推定の妥当性を認識することができる。また、当該判定に基づいて推定の再実行等を行うことにより、推定の精度を上げることができる。また、推定の再実行回数などの判定基準を用いて検査の要請等を行うことも可能になり、システムの保全性を担保することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、電池状態推定装置2の状態推定結果を算出するために用いられたパラメータ、又は当該パラメータとともに導出されたパラメータに基づき、妥当性判定に用いられる充電電力量が推定される。そのため、推定された状態と充電電力量が関連性を有し、状態推定とは無関係に算出された値に基づいて妥当性を判定するときよりも、判定の信用性が向上する。
【0077】
なお、前述の通り、充電曲線解析を用いる場合は、上記説明において、「充電」は、「放電」又は「充放電」と読み替えられてもよい。例えば、充電制御部は、充電又は放電を制御し、充電又は放電を指示する充放電制御部と読み替えられてもよい。充電が実行される充電期間は、充放電が実行される充放電期間であってもよい。また、充電期間内の充電電力量は、充放電期間内において蓄電池1が充放電した電力量(第1電力量)と読み替えられてもよい。また、充電期間内の入力電力量は、放電期間内において蓄電池1に入出力された電力量(第2電力量)と読み替えられてもよい。その他についても、同様である。
【0078】
なお、上記で説明したシステム構成は一例であり、上記の構成に限られるものではない。例えば、通信又は電気信号により、必要なデータの送受信ができるようにして、電池状態推定装置2の一部の構成要素を外部装置として、電池状態推定装置2と分離してもよい。例えば、上記では、電池状態推定装置2が、状態推定と妥当性判定の両方を実行するが、状態推定を行う装置と、妥当性を判定する装置と、が別々の装置であってもよい。
【0079】
また、上記に説明した実施形態における各処理は、専用の回路により実現してもよいし、ソフトウェア(プログラム)を用いて実現してもよい。ソフトウェア(プログラム)を用いる場合は、上記に説明した実施形態は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用い、コンピュータ装置に搭載された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)等のプロセッサにプログラムを実行させることにより、実現することが可能である。
【0080】
図7は、本発明の一実施形態におけるハードウェア構成の一例を示すブロック図である。電池状態推定装置2は、プロセッサ51、主記憶装置52、補助記憶装置53、ネットワークインタフェース54、デバイスインタフェース55を備え、これらがバス56を介して接続されたコンピュータ装置5として実現できる。
【0081】
プロセッサ51が、補助記憶装置53からプログラムを読み出して、主記憶装置52に展開して、実行することで、電池状態推定装置2の各構成要素の各機能を実現することができる。
【0082】
プロセッサ51は、コンピュータの制御装置及び演算装置を含む電子回路である。プロセッサ51は、例えば、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシン、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路(PLD)、及びこれらの組合せを用いることができる。
【0083】
本実施形態における電池状態推定装置2は、各装置で実行されるプログラムをコンピュータ装置5に予めインストールすることで実現してもよい。あるいは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶されたプログラム、又はネットワークを介して配布されたプログラムをコンピュータ装置5に適宜インストールすることにより、実現されてもよい。
【0084】
主記憶装置52は、プロセッサ51が実行する命令、及び各種データ等を一時的に記憶するメモリ装置であり、DRAM等の揮発性メモリでも、MRAM等の不揮発性メモリでもよい。補助記憶装置53は、プログラムやデータ等を永続的に記憶する記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリ等がある。記憶部27は、主記憶装置52で実現されてもよいし、補助記憶装置53で実現されてもよい。
【0085】
ネットワークインタフェース54は、無線又は有線により、通信ネットワーク6に接続するためのインタフェースである。ネットワークインタフェース54より、通信ネットワーク6を介して、コンピュータ装置5と外部装置7Aとを接続することができる。
【0086】
デバイスインタフェース55は、外部装置7Bと直接接続するUSB等のインタフェースである。つまり、コンピュータ装置5と外部装置7との接続は、ネットワークを介してでもよいし、直接でもよい。外部装置7(7A及び7B)は、電池状態推定装置2の外部の装置、電池状態推定装置2の内部の装置、外部記憶媒体、及びストレージ装置のいずれでもよい。なお、記憶部27が外部装置であってもよい。
【0087】
なお、外部装置7は入力装置でも出力装置でもよい。入力装置は、キーボード、マウス、タッチパネル等のデバイスを備え、これらのデバイスにより入力された情報をコンピュータ装置5に与える。入力装置からの信号はプロセッサ51に出力される。
【0088】
コンピュータ装置5は、プロセッサ51等を実装している半導体集積回路等の専用のハードウェアにて構成されてもよい。専用のハードウェアは、RAM、ROM等の記憶装置との組み合わせで構成されてもよい。コンピュータ装置5は蓄電池1の内部に組み込まれていてもよい。
【0089】
上記に、本発明の一実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実行されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。