【実施例】
【0016】
DNA挿入物、プラスミド、及び組換えウイルスベクターの構築は、以下の文献に記載されている標準的な分子生物学技術を用いて実施された:J.Sambrook et al.(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th Edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, 2014。
【0017】
[実施例1]
L.インタロガンス変異体の単離及び同定並びに同種及び異種チャレンジに対するハムスターのワクチン免疫の研究
・序
病原性レプトスピラは、レプトスピラ症(世界中にもっとも広く伝播した人獣共通症)の原因として高度に侵襲性のスピロヘータである。症状は、慢性感染から顕著な死亡率を示す多発性臓器不全まで多岐に及ぶ。病毒性因子は、それらが増殖の遅い細菌であるために適切かつ有効な遺伝学的ツールを欠くのであまり良く分かっていない。同定された病原性決定因子の中で、運動性が重要であると報告された。なぜならば運動性は宿主における病原体侵入及び播種に関係するからである。しかしながら、運動性と病毒性との間の直接的関連はレプトスピラではまだ明示されていない。この研究では、我々は運動性及び病毒性の双方を欠く変異L.インタロガンス株を単離した。全ゲノムの配列決定は、全タンパク質を破壊するfliM遺伝子における単一欠失の同定を可能にした。FliMは、鞭毛モーター切換えタンパク質及びC-リング(その回転方向を調節する鞭毛モーターの中心ユニット)の成分と注釈されている。この研究では、我々は、鞭毛の回転及び組立てにおけるfliMの関与を確認した。実際、鞭毛は細胞に存在していないか、又は一端若しくは両先端に末端短縮形で存在し、細胞先端の回転運動を欠いていた。短かくかつ非機能性の鞭毛は、並進及び非並進運動性の消失とともに形態学的欠陥を誘発した。すなわちフック形及びらせん形末端を欠き、細菌の長い鎖が観察された(分裂欠陥を示す)。加えて、我々の株は、高感染用量ですら(10
8細菌)ハムスターモデルで感染を誘発できなかった。複製性プラスミドによる遺伝子のtrans型補完によって野生型形態、鞭毛の長さ及び回転、運動性並びに感染性が復元された。したがって、我々は、鞭毛の構造及び回転(両方とも並進運動性に必要)のためのFliMのレプトスピラにおける機能を確認した。その上に、我々は、運動性の欠如は感染性の欠如と直接関連することを立証し、運動性は病毒性に必須であることを示した。
【0018】
・株
レプトスピラ・インタロガンス血清グループオーストラリス株702
fliM-、702
fliM-/+ 733及び732(さらに別に野生型(WT)として設計された)、L.インタロガンス血清グループイクテロヘモラジアエ並びにL.ビフレキサ(L.biflexa)血清型Patocを29℃で、液体エリンゴーセン-マククローフ-ジョンソン-ハリス(Ellinghausen-McCullough-Johnson-Harris)で振盪しながら又はEMJH寒天プレート(Difco)で増殖させた。レプトスピラ株は、種レベル(16S rRNA)、血清グループレベル(ウサギ抗血清によるMAT)、及び遺伝子型レベル(MLVA)で同定された。必要な時には、スペクチノマイシンを最終濃度50μg/mLで培養に添加した。702
fliM-及び702
fliM-/+ 733株はCNCM(Collection Nationale de Cultures de Micro-organismes)に2016年9月1日に寄託され、それぞれアクセッション番号CNCM I-5132及びCNCM I-5133を与えられた。
・ゲノミクス
DNA抽出では、全ゲノムの配列決定のためにはQiaAmp DNA血液ミディキット(Qiagen)を、PCR増幅のためにはQiaAmp DNAミニキット(Qiagen)を製造業者のプロコルにしたがって用いた。WT及び702
fliM株のゲノム配列を決定した。CLCゲノミクスワークベンチ7(CLCbio)を用いてシーケンシングの読みを組み合せ、ゲノスタースウィート4(Genostar Suite 4, Genostar, Montbonnot Saint Martin, France)のグリマー(Glimmer)ロガリズムを用いて注釈を付した。ゲノスタースウィート4を用いてこれら2つの株間の多形性を検出及び分析し、CLCゲノミクスワークベンチ7を用いて同定済み領域でシーケンシングの読みをマッピングすることによって実証した。
【0019】
・PCR
1ngから10ngの鋳型DNAで以下の試薬を用い、バイオメトラTグラジエント(Biometra TGradient)サーモサイクラーでPCRを実施した:1単位のフュージョンハイフィデリティ(Phusion High-fidelity)DNAポリメラーゼ(Thermo)、1Xフュージョン緩衝液、各々200μMのdNTP(Life)、50μLの水に各々0.5μMのプライマー。この研究に用いたプライマーを下記(エラー!参照ソース不明)に列挙する。
表1:プライマー配列
表1
配列番号は以下の通りである:配列番号:1=PflgA、配列番号:2=FliMR2、
配列番号:3=CF109、配列番号:4=CF099、配列番号:5=CF108、配列番号:6=CF103、
配列番号:7=flaB4F、配列番号:8=flaB4R、配列番号:9=rpoBF、配列番号:10=rpoBR。
【0020】
・遺伝子補完
fliM(LIC11836)のコード配列は、L.インタロガンス血清型マニラエ(Manilae)株L495(オーストラリス株のFliMとアミノ酸レベルで100%配列同一性)のゲノムDNAから、プライマーFlimF(5′- CGACA
CATATGACAGAAATTTTAT-3′;配列番号:11)及びFlimR2(5′-TAACTTCAATTCTAATATTCTTGTTCAGAACG-3′;配列番号:12)(前記プライマーはNdeIのための制限消化部位(下線部塩基)を含む)を用いて増幅し、さらに製造業者の指示にしたがいPCRII-TOPOベクター(Invitrogen)でクローン化した。続いて当該fliMコード配列をXhoHIで消化し、精製してpCRPromFlgBの同じ制限部位に挿入し、当該遺伝子とボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)のflgBプロモーターとの間で転写融合物を作製した。当該転写融合物を含むDNAフラグメントをEcoRI消化で遊離させ、複製性プラスミドpMaORI(Pappas CJ et al., 2015, Appl.Environ.Microbiol., Feb.2015)の対応する部位でクローン化してpCF036を作製した。pCF036を保持する大腸菌β2163との接合によってfliM補完構築物を702株に以前に記載したように導入した(Pappas CJ et al., 2015,上掲書;Lambert A et al., 2014, FEMS Microbiol.Lett., p.fnu054)。プレートを5週間インキュベートして補完株702
fliM-/+を得た。
【0021】
・軟寒天プレートアッセイ
レプトスピラ株の運動性は、log期半ばの培養(OD
450は約0.3)の5μLを接種することによって0.5%及び0.3%寒天EMHJプレートで評価した。プレートを29℃でインキュベートし、毎日観察した。簡単に記せば、0.5%の寒天を含む702
fliM-、702
fliM-/+及びWT接種EMJH軟プレートを10日間のインキュベーション後に観察した。702
fliM-は、702
fliM-/+(
図2B)及びWT(
図2C)とは対照的にその接種点から拡散せず(
図2A)、後者はそれぞれ2.6cm及び2.2cmの円を形成した(3つの実験のある代表的なプレートが示されている)。3枚の0.3%寒天プレートでも同一の結果が得られた。
・暗視野顕微鏡検査
浜松Orca Flash2.8カメラを搭載したオリンパスBX-53 139顕微鏡で、x20からx200の倍率を用い暗視野顕微鏡検査によってレプトスピラを観察した。
図1A−1Xを参照されたい。写真はセルセンス(CellSense)セフト(オリンパス)で撮影し、ビデオはマイクロマネージャー1.4ソフト(μManager)で記録した。画像はイメージJソフト(ImageJ)で後処理し、ほぼ80個の細菌を含む各株の3枚の写真を用い、イメージJにより手作業で細菌の長さを測定した。
・透過型電子顕微鏡検査(TEM)
市販の400メッシュ炭素被覆銅グリッドを使用直前にグロー放電させた。サンプルを10分間グリッドと接触した状態で放置した。続いて、サンプルを有するグリッドを、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中の2%グルタルアルデヒドで10分間固定し、生物学的安全確保のために水で1分間3回洗浄した。グリッドを乾燥させ、4%酢酸ウラニルで数秒間ネガティブ染色を実施した。120kVで稼働させた透過型電子顕微鏡(TEM)TECNAI T12 FEIを用いて、サンプルを観察した。鞭毛の長さの手動測定のために、5視野をランダムに選択しイメージJソフトを用いて分析した。
【0022】
・組換えFliMの精製及び抗血清作製
flgB-fliM融合物を含むプラスミドをNdeI及びBamHIで消化し、pET28ベクター(EMD Biosciences)の対応する部位でクローン化した。得られたプラスミドpET28-(His)6FliMを大腸菌BL21DE3細胞に導入した。1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を37℃で4時間添加することによって、2Lの形質転換細胞(OD
600nm=0.7)で組換えタンパク質発現を誘発した。FliMは使用増殖条件下では高度に不溶性であり、以下の態様で封入体から精製した。細胞を採集し、ペレットを緩衝液A(50mM NaH
2PO
4(pH8.0)、300mM NaCl、10mMイミダゾール、10%グリセロール)に再懸濁し、さらにプロテアーゼ阻害剤カクテル(完全ミニEDTAフリー(Roche))及び1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で音波処理によって溶解した。60分の遠心分離(40,000xg、4℃)の後で得られた不溶分画を1%のトリトンX100を含む緩衝液Aに再懸濁し、膜タンパク質を可溶化した。30分の遠心分離(40,000xg)後に得られた封入体を緩衝液B(100mM NaH
2PO
4(pH8.0)、8M尿素、10mMトリス(pH8.0)、200mM NaCl、1mM PMSF、0.1%トリトンX100)に溶解し、撹拌しながら室温で1時間インキュベートし、4℃で30分遠心分離(40,000xg)した。緩衝液Bで平衡化したニッケル-ニトリロトリ酢酸(Ni-NTA)樹脂(Qiagen)に上清をローディングした。組換え(His)6-FliMは通常的方法ではカラムから溶出させることができないので、フロースルーを用い、100kDaカットオフセルロース膜(Amicon Ultra 100K, Merck Millipores)でのろ過によって当該タンパク質をさらに精製した。ろ過後のフロースルーをC(50 mMトリス(pH8.0)、150mM NaCl、2 mM 2M尿素、2mM DTT、5mM EDTA)に対して透析し、2.5mg/mLに濃縮した。
ポリクローナル抗体血清を作製するために、2匹のウサギを2mgの精製FliMタンパク質で4回免疫し、血清を38日目に収集した(Aldevron)。
【0023】
・ペリプラズム鞭毛の調製
鞭毛抽出プロトコルはLambert(上掲書、2012)から改案した。各株200mLのそれぞれ別個のlog期半ばの3培養(約0.3のOD
450nm(5x10
8細胞/mL))を8000xg(4℃、20分)で遠心分離した。ペレットを22mLのPBS、続いて24mLのシュクロース溶液(0.5Mシュクロース、0.15Mトリス(pH8))で洗浄した。細胞を12mLのシュクロース溶液に再懸濁し、10分間氷上で撹拌した。10%のトリトンX100の1.2mLを添加した後、室温で30分間インキュベートした。10mg/mLのリゾチーム20μLを滴々と添加し、氷上で5分間インキュベートした。続いて1.2mLのEDTA(20mM、pH8)を滴々と添加した。室温で2時間インキュベートした後、240μLの0.1M MgSO
4を加えて室温で5分間撹拌し、続いて240μLのEDTA(0.1M)を加え再度5分間室温で撹拌した。続いて混合物を遠心分離した(17000xg、15分、4℃)。上清を、予め1MのNaClに溶解させた20%ポリエチレングリコール8000の1.6mLと混合し、氷上で30分間インキュベートした。懸濁物を再度遠心分離した(24400xg、45分、4℃)。ペレットを2.5mLの水及び100μLの1%アジ化ナトリウム(PBS)に再懸濁し、4℃に一晩置いた。続いて、混合物をベックマンオプチマ(Beckman Optima)MAX超遠心分離機で超遠心分離した(80,000xg、45分、4℃、ローターTLA100.3)。培養物のODに応じて鞭毛調製物を適切な体積(約800μL)の水及び100μLの1%アジ化ナトリウムに再懸濁した。
【0024】
・タンパク質ゲル
レプトスピラの培養を7000xgで10分間遠心分離してPBSで1回洗浄し、続いてPBSで1又は5OD
450nm単位/mLに標準化し全細胞溶解物を得た。これらの細胞溶解物及び鞭毛調製物を3xの溶解緩衝液(0.2Mトリス(pH8)、16% 2-メルカプトエタノール、6% SDS、30%グリセロール及び0.06%ブロムフェノールブルー)と混合し、4−20%のTGXゲル(SDS-PAGE, Biorad)にローディングする前に100℃で10分間煮沸した。5μLのラダー(Precision Plus All Blue Standards(Biorad))及びマジックマークXP(Magic Mark XP(Life))、並びに種々の体積のサンプルを150Vから200Vで30分間から1時間分離した。クマシーゲルを蒸留水で5分間3回洗浄し、シンプリーブルー(Simply Blue)染色液(Invitrogen)で1時間染色し、水浴中で1時間脱染した。トランスブロット-ターボ(Transblot-Turbo)移転系(Biorad)を用い25V及び1.3mA/ゲルで7分間タンパク質をゲルからニトロセルロース膜に移すことによってウェスタンブロットを実施した。膜上の非特異的部位は、オディッセイ(Odyssey)緩衝液(Li-Cor)による1時間のインキュベーション後に遮断された。ウサギ一次抗体(抗FlaB(LIC11531、1:1000)、抗FlaA2(1:1000)、抗FliM(1:100)、抗LipL41(1:100))をオディッセイ緩衝液で希釈し、1時間インキュベートした。続いて膜をPBS+0.1% Tweenで3回洗浄し、さらに二次抗ウサギIgG(H&L)ヤギ抗体IRdey800(登録商標)結合物(Rockland)(1:10000に希釈)とともに暗所で45分間インキュベートした。オディッセイ(登録商標)画像化系を800nmで用いて内容を明らかにする前に、さらに3回のPBS+0.1% Tweenによる洗浄を実施した。相対的定量化は、オディッセイ(登録商標)ソフト(Li-Cor)を用いてバンドの強度を測定することによって実施された。
・免疫蛍光(IFA)
プロトコルはPinneとHaakeの論文(Pinne M et al., 2011, J.Vis.Exp., no.53)から改案された。5x10
8のレプトスピラをPBS+5mM MgCl
2で洗浄し、続いて4ウェルLab-Tek(登録商標)II CC
2スライド(Nunc)のウェルに用いた。細胞接着はレプトスピラを29℃で1時間インキュベートすることによって認められた。液体を穏かな吸引で除去し、細胞を固定して1mLの氷冷メタノールを用い-20℃で20分間透過処理した。非特異的部位を1mLのPBS-BSA2%で1時間遮断した。続いて、レプトスピラを200μLの一次FlaB抗体(PBS-BSA2%で1:100に希釈)とともに1時間インキュベートし、続いて1mLのPBSで3回洗浄した。PBS-BSA2%で1:100に希釈した二次抗体Cy
TM3-結合アフィニピュア(AffiniPure)ヤギ抗ウサギIgG(H+L(Jackson ImmunoResearch))を添加し、1時間インキュベートした。細胞を1mLのPBSで2回、1mLの水で1回洗浄した。チャンバーを除去し、スライドを数分間風乾した。DNAの対比染色のために4′,6′-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含む、プロロング(登録商標)ゴールドアンチフェード試薬(ProLong(登録商標)Gold Antifade reagent(Life Technologies))の一滴及びカバースリップを加え、暗所で一晩インキュベートした。デジタルサイトDS-5Mcカメラ(Nikon)を搭載したニコンエクリプスTi-S蛍光顕微鏡(Nikon)でスライドを観察し、ニコンNISエレメンツFパッケージ4.0(Nikon)で写真を入手し、イメージJソフトで後処理した。
・病毒性アッセイ
6−7週齢のシリアンゴールデンハムスターの雌に10
8のレプトスピラを腹腔内注射により感染させた。研究期間は最初21日間とされたが、プロトコルはハムスターの急速な死亡のために14日目に終了した(結果部分を参照されたい)。5匹のハムスターの2グループに702
fliM-及びWTを感染させ、10匹のハムスターの1グループに702
fliM-/+を感染させた(
図6参照)。
・防御試験
20匹の4週齢シリアンゴールデンハムスターの雌に腹腔内ルート(IP)によって、10
6の生L.インタロガンス血清グループオーストラリス702
fliM-又は10
8の腐生性生L.ビフレキサ血清型Patocを単一用量でワクチン接種した。コントロールとして、10匹のハムスターの1グループに1mLのEMJHをワクチン接種した。免疫後14日で、動物をIPルートにより病毒性L.インタロガンスでチャレンジした。グループの半分に血清グループオーストラリス株732の20レプトスピラを接種し、一方、残りの半分にイクテロヘモラジアエの1000レプトスピラを投与した。これらのチャレンジ用量は、少なくとも80%のハムスターを殺すために必要な最小細菌量であると以前に決定されている。感染後21日間動物をモニターした。瀕死のハムスターはドレサールの心臓内注射によって安楽死させた。
図7を参照されたい。
・アクセッション番号
L.インタロガンス株702及び733のゲノム配列は、それぞれアクセッション番号NZ_LMXF00000000.1及びNZ_LMXK00000000.1によりGenBankで入手できる。
【0025】
≪結果≫
・偶発的な非運動性変異体の単離
L.インタロガンス血清グループオーストラリス株702を急性レプトスピラ症のイヌの血液から単離した。当該イヌはその感染によりサンプル採取後数日で死亡した。陽性培養は、暗視野顕微鏡検査で非並進運動レプトスピラを含む外見的にクローン性であった。同様に、固形EMJH培地に当該単離株をプレート後に、全てのコロニーが小さかった。この非運動性表現型は運動性親株から生じたと仮定して、最も近縁の系統株を更なる表現型分析のために収集物から選別した。運動性株733(同じ診療所を受診した病犬から3か月後に単離された)は、非運動性株702と同じ分子的(16S rRNA及びMLVAプロフィール)及び血清学的(血清グループオーストラリス)特色を示した。さらにまた、702及び733は類似する細胞増殖速度を示した(データは示されていない)。総合すれば、これらのデータは2つの株が非常に近縁であることを示し、したがって733株は、以下の実験について702と比較してWT株とみなすことができよう。結果として株733をWTと命名した。
株702は暗視野顕微鏡下で非定型的なまっすぐな形態を示し、特徴的なフック及びらせん形先端を欠き、並進的及び非並進的運動性を失っていた(エラー!参照ソース不明 A及び1D−1J)。全集団の約2%が一方の先端に小さなフックを示し、散発的かつ遅速な回転性運動を与えるが、細胞を推進することはできない。我々は702のこの運動性欠損を軟寒天プレートで確認した。702はWTとは対照的にその接種部位から拡散しなかったからである(エラー!参照ソース不明 A)。加えて、この株はフィラメント状形態を示した。我々は細胞の長さを測定し、x20の倍率で異なる画像を用いてWTと比較した。WTの平均長は、典型的な病原性レプトスピラについて既に記載されたように9.4μmで、702については(275の計測細菌で)16.5μmであった。さらにまた、細胞サイズの分布は2つの株間で以下のように相違した。WTについては、99%の細菌が15μmより短く、1%が15μmから30μmの間に含まれるが、非運動性株については、51%の細菌が15μmより短く、43%が15μmから30μmの間であり、6%が30μmより長くその中に70μmの2個の細菌が含まれていた(おそらく分裂欠陥を示す)。
【0026】
・1つの偶発的単一変異が非運動性株でFliMタンパク質発現を停止させた
702及びWT株の全ゲノムを配列決定して、702株で運動性欠損表現型をもたらし得る変異を同定した。702株及びWT株についてそれぞれ50,272,184の読み及び10,974,264の読みを分析した(前記はそれぞれ1000x及び200xのカバー領域の読み深度を表す)。読みを組み合せてコンティグを作製し注釈を付した。ゲノム配列の比較分析は2つの多形性(1つのDIP及び1つのナンセンスSNP)の同定をもたらした。前記2つの変異は、fliM(LIC11836)及びLIC10453遺伝子における未成熟終止コドンの出現を誘発した。しかしながら、仮説的タンパク質をコードするLIC10453はまた、MERIALで入手できる2つの他の運動性L.インタロガンス株の下流の末端短縮50アミノ酸であり、この遺伝子は運動性に必須ではないことを示唆している。対照的に、fliM(鞭毛モーター切換えタンパク質と注釈される)は、レプトスピラ属で高度に保存されていることが判明した(病原性L.インタロガン及びL.ボルグペテルセニイ(L.borgpetersenii)で90%を超える同一性、並びに腐生性L.ビフレキサで88%同一性)。
図3BのfliM原初配列を参照されたい(GTT TCT GAA CAA AAA AAA GTA AAG ATC TAC GAT TTT(配列番号:13))。fliMにおけるこの未成熟終止コドン(終止コドン下流105bpの1ヌクレオチド欠失の結果である)が運動性欠損表現型に関与している蓋然性はより高かくなった。以下を参照されたい:エラー!参照ソース不明 B、fliM変異配列(GTT TCT GAA CAA AAA AAG
TAA AGA TCT ACG ATT TTA(配列番号:14))。この欠失は、プライマーCF109(配列番号:3)−CF099(配列番号:4)を用いた増幅後のPCR配列決定によって確認された。この変異による極性効果は期待できない。なぜならばfliMの下流に遺伝子が存在しないからである(エラー!参照ソース不明 A)。FliM発現をさらに解明するために、我々は、組換えFliMに対するポリクローナル抗体を作製した。期待したように、株702の全細胞溶解物でFliM発現は検出されなかった(
図5D)。したがって、fliMの変異はFliM発現の欠損を引き起こし、前記はおそらく運動性消失の原因であった。我々は、したがってこの株をさらに702
fliM-と命名した。
【0027】
・fliMによる補完は典型的な細胞形状、運動性及び病毒性を復元する
fliMの変異が運動性消失を特異的に引き起こすことを確認するために、我々は、構成的プロモーターの制御下にある機能性fliM遺伝子を含む複製型ベクターを用い、702
fliM-株をtransで補完した(fliMは仮説的オペロン(エラー!参照ソース不明 A)の第二の遺伝子であり、構成的プロモーターは自然のままのfliMプロモーターによる補完を防ぐ)。FliM発現は、702
fliM-/+の別個の3培養のウェスタンブロット実験によれば補完株でWTレベルまで復元した(
図5D)。顕微鏡観察は、野生型の運動性及びフックとらせん末端を有する形態の復元を示した(エラー!参照ソース不明 B及び1K−1Q)。軟寒天プレートでの細菌の拡散はWTと類似していた(エラー!参照ソース不明 B)。さらにまた、長いフィラメントは観察されず、細胞長は以下のようにWTに匹敵した:275の測定細菌で、平均長は10.9μmであり、15μmより短いものが91%及び15μmと30μmとの間のものが9%含まれる。増殖速度は702
fliM-及びWTと類似していた。総合すれば、これらのデータは、trans補完は機能性fliMを702
fliM-に首尾よく再導入し、さらにfliMは細胞の形状、運動性及び病毒性に必須であることを示す。
【0028】
・fliMの破壊は鞭毛組立てに欠陥を生じる
FliMは鞭毛モーターの成分の1つであるので、我々はさらに変異株、補完株及びWT株で鞭毛の完全性を精査した。主要フィラメントタンパク質FlaBの抗体を用いて免疫蛍光アッセイ(IFA)を実施した(エラー!参照ソース不明 A−4C)。WT株の染色(
図4B)は、細胞の先端から中央までオーバーラップすることのないFlaBタンパク質の存在を示し、これらは以前のIFA実験及びレプトスピラにおける鞭毛に関する記載と一致した。補完株702
fliM-/+の染色(
図4C)はWTと類似していた。これら2つの株のFlaB染色鞭毛長の算術平均は3.5μmであった。しかしながら、702
fliM-(
図4A)は、より短い鞭毛(約1.3μm)を示すか、又は細胞の30%で無鞭毛であった。鞭毛のより明瞭な特徴を得るために、3つの株の精製鞭毛を電子顕微鏡検査で観察した(エラー!参照ソース不明 D−4I)。WT株(
図4E及び4H)について、我々は、長さの中央値サイズが3.2μmの無傷の渦巻き状鞭毛(IFA実験と一致する)及び直径20nmを観察した。観察された鞭毛は、一方の先端に基底小体及び他方の先端により細い15nmの直径を示すフィラメント(これは、おそらく以前のレプトスピラの鞭毛観察(14)で既に記載されたように鞘の欠如によると思われる)から構成されていた。少数の壊れた鞭毛が観察された(当該鞭毛の脆弱性によると思われる)。702
fliM-(
図4D及び4G)については、全ての鞭毛が顕著に短く、長さの中央値は0.7μmであった。この観察は3つの別個の培養から抽出した3つの鞭毛バッチで確認され、前記の短さが単に鞭毛の破壊によって引き起こされたという事実を排除する。
702
fliM-の短いフィラメントの特徴をさらに明らかにするために、精製鞭毛を電気泳動によって分析した。クーマシー染色は、WT株及び補完株と比較して702
fliM-の異なる鞭毛タンパク質含量を明らかにした(エラー!参照ソース不明 A)。特に、我々は見かけの分子量が約30−40kDa(以前に記載(上掲書;Liao)された鞭毛タンパク質のサイズと一致する)のより少量のタンパク質に留意した。2つの主要な30kDaフィラメントタンパク質、FlaA2(LIC10787)及びFlaB(LIC11531)の生成をウェスタンブロットで追跡した(
図5B及び5C)。FlaA2(
図5B)及びFlaB(
図5C)タンパク質レベルは、WT株及び702
fliM-/+株と比較して約702
fliM-の鞭毛で2.5倍低く、フィラメントがより短いことと一致し鞭毛タンパク質の異常な低さが確認された。FlaA2及びFlaBタンパク質発現の同じ低下が全細胞溶解物では見られたがqPCRでは認められず、鞭毛タンパク質含有量は非運動性株でWTよりも低いが遺伝子発現は障害されていないことを示した。総合すれば、これらのデータは、fliMの破壊は不完全な鞭毛組立てをもたらすこと、及びこれらの短い鞭毛は運動性を供与できないことを示している。
【0029】
・運動性は病毒性に必須である
病毒性における運動性の役割を解明するために、5から10匹のハムスターのグループに10
8個の702
fliM-株、702
fliM-/+株又はWT株を腹腔内ルートにより感染させ、14日間追跡した。702
fliM-感染ハムスターは全て生存したが、WT及び702
fliM-/+投与ハムスターは6日以内に死亡した(エラー!参照ソース不明)。これらのデータは、非運動性702
fliM-は高感染用量でさえも病毒性ではないこと、及びfliM及び運動性の復元は病毒性復元と相関性を有することを示している。したがって、運動性は病毒性に必須である。
・生702
fliM-ワクチンは同種及び異種チャレンジを防御する
702
fliM-株が有望なイヌ類生ワクチン候補物を構成できるか否かを解明するために、我々は同種及び異種チャレンジに対するハムスターの防御を査定した。20匹のハムスターのグループに、10
6の生L.インタロガンス血清グループオーストラリス702
fliM-若しくは10
8の腐生性生L.ビフレキサ血清型Patocの単一用量又はEMJH培地で腹腔内ルートによりワクチン免疫した。免疫から14日後に、動物を病毒性L.インタロガンスオーストラリス又はイクテロヘモラジアエ血清グループでチャレンジし、21日間モニターした。
EMJH又はPatocワクチン免疫動物の80から100%が死亡したが、702
fliM-ワクチン免疫ハムスターの90%が両チャレンジグループで生存した(
図7参照)。これらのデータは、生ワクチンとして用いられた生非運動性702
fliM-病毒性弱毒化血清グループオーストラリス株は、L.インタロガンス血清型イクテロヘモラジアエに対して交差防御免疫を供与することができ、非病毒性Patocは免疫を供与できないことを示す。
【0030】
・考察
スピロヘータは高度に侵襲性細菌であり、それはおそらく顕著に効率的な運動性による。レプトスピラでは、細胞の推進力は粘稠性に応じて6μm/sから30μm/sの間で変動し、前記推進力はただ2つの鞭毛によって供与される(Xu J, et al., 2015, Microbiol.Res., vol.171, pp.21-25;K.Takabe K, et al., 2013, Microbiol.Immunol., vol.57, no.3, pp.236-239;Cameron CE, 2015, Curr.Top.Microbiol.Immunol., vol.387, pp.21-41)。B.ブルゴルフェリ(B.burgorferi)は同様な速度で泳動するが7から11のPFを含み、クリチスピラ(Critispira)は少なくとも100のPFを有する(Malawista SE et al., 2008, PLoS ONE, vol.3, no.2, p.e1633)。レプトスピラの2本の鞭毛の性能は、運動性に関係するより多くの遺伝子によって提供されるより複雑な構造のおかげであろう。T.パリジウム(T.pallidium)及びB.ブルゴルフェリについては50遺伝子が挙げられ、レプトスピラゲノムには約90遺伝子が存在する(A.L.T.O.do Nascimento ALTO et al., 2004, Braz.J.Med.Biol.Res., vol.37, no.4, pp.459-477;M.Picardeau M et al., 2008, PLoS ONE, vol.3, no.2, p.e1607)。それにもかかわらず、この研究で我々は、これら遺伝子の1つ(fliM)における1つの単一ヌクレオチド欠失が全鞭毛構造を脱安定化させ運動性を抑制できることを示した。この欠失は、全ゲノムの配列決定及び702
fliM-株とWT株の比較ゲノミクスによって同定された。偶発的欠失は、fliM遺伝子の開始部に近いホモポリマー領域で生じ、当該タンパク質の発現を妨げた。機能性fliMの補完は野生型表現型を復元し、このただ1つの変異が702
fliM-の欠陥の原因であることを示した。fliMは、他の細菌種の相同遺伝子に関する推論により鞭毛モーター切換えタンパク質と注釈されるが、これまでのところレプトスピラについてこの機能を確認した研究はない。本研究で同定されたこの弱毒変異体はしたがって極めて興味深い。
【0031】
変異体の表現型の観察によって非定型的形態が明らかになった。細胞先端が影響を受け、変異株はフック及びらせん形末端を欠いた。変異体の主要な特色はその運動性の消失である。並進移動は観察されず、わずかな集団(約2%)のみが緩徐で散発的な先端運動を示し細胞推進能力はない。これらの所見は鞭毛及びモーター回転の障害を示している。我々は鞭毛の更なる特徴を調べ、鞭毛が存在しないか又は我々のfliM欠損変異体の一方若しくは両先端に末端短縮形で存在することを見出した。IFA及びTEMによる鞭毛の長さの測定によって、WTと比較してサイズが2.5から4.5倍短縮することが明らかになり、ウェスタンブロットで認められたフィラメントタンパク質発現の低下と一致した。しかしながら、鞭毛形成されたときには、それはWT及び以前の発表論文(Nauman RK et al., 1969, J.Bacteriol., vol.98, no.1, p.264)と比較して典型的な直径及び湾曲を提示し、鞭毛のコア及び鞘は直接的には障害されないことを暗示した。したがってfliMは鞭毛の完全長及び回転(両者は並進運動に必須である)のために要求される。
レプトスピラの病原性における鞭毛と運動性の関係をさらに特徴づけるために、動物モデル(ハムスター)に変異株を感染させた。感染実験によって、非運動性株の病毒性の欠如及び補完株の完全な感染性の復元が明らかになった。これは、運動性の欠如とレプトスピラの病原性における極性効果を生じない直接的関係を我々が知った最初の報告である。この発見は、運動性が、粘膜の突破、損傷皮膚を介する組織への侵入、宿主内伝播及び器官貫入に必須であるという考えと一致する(上掲書;Murray, 2015)。
702
fliM-は病犬から単離された非病毒株である。当該動物は当初病毒株に感染し、単離後に点変異が生じ非運動性変異株がin vitroでWT集団より大きくなったということはありそうなことである。対照的に、Patoc株はレプトスピラの腐生性非感染種に属する。驚くべきことに、結果は、交差防御は病毒性が弱毒化された株(例えば702
fliM-、完全に病毒性の単離株から直接生じたもの)によってのみ達成され、非病毒性腐生株では達成されないことを示している。
【0032】
要約すれば、ゲノム配列決定によって、運動性消失の原因となる偶発的点変異(おそらくin vitro培地でレプトスピラに選別利点を供与する)が同定された。(培養過程で生じた)fliM遺伝子のこの変異はモーター切換え複合性C-リングの脱安定化を生じ、不完全な鞭毛組立て及び不完全な回転調節をもたらす(鞭毛組立て及び回転調節はともに並進運動に必須である)。加えて、運動性消失とは別に、不適切な鞭毛形成は細胞の形態及び分裂に影響を与える。さらにまた、遺伝子補完により、我々は、レプトスピラの病原性における運動性の直接的関与を立証し、これら新興の人獣共通細菌の病毒性メカニズムに関する情報を提供した。最後に我々は、非運動性変異体(本来病毒性の株から直接生じた)は適切な交差防御性生ワクチン候補であり、非病毒性腐生株では見出し得ない固有の特色を有することを示した。
【0033】
[実施例2]
イヌの同種チャレンジにおける生弱毒化L.インタロガンスワクチンの安全性及び有効性試験
本試験の目標は、生弱毒化L.インタロガンスワクチンの血清学的応答(免疫原性)、安全性/拡散性及び有効性をイヌの同種系ワクチン免疫-チャレンジモデルで評価することである。
本試験は、D0からD37のワクチン期及びT0(2回目のワクチン接種から2週間後)でチャレンジされるTpre(=D38)からT26(=D69)のチャレンジ期の2つの部分に分割された。16匹の6カ月齢の市場入手ビーグル犬を、下記表2に示すように3グループに任意抽出した。グループAのイヌの皮下に25日離して2回(D0及びD25)、約5x10
7レプトスピラ/mL(弱毒化702
fliM株)を含む生L.インタロガンスワクチンの1mLでワクチン接種した。グループB(コントロールグループ)及びC(排出コントロールグループ)のイヌにはワワクチンは接種されなかった。グループA及びCのイヌは一緒に収容して、ワクチン株の潜在的排出を決定した。グループBのイヌは他の2つのグループから離して収容した。ワクチンを接種したイヌを、注射部位の反応(浮腫、触診時の痛み)、全身状態(無気力、虚脱)及び体温についてモニターした。血清ELISA(BSドライチューブ)、血液生化学分析(BS Hep-Li及びBS EDTA)、拡散性に関するqPCR分析、又は細胞免疫分析(BS Hep-Na)のために、血液サンプルを収集した。尿サンプルを拡散性のqPCR分析のために収集した。肝及び腎における細菌並びに組織病巣の存在の死後分析のために、グループCのイヌをD39(T0)で安楽死させた。ワクチン接種期のサンプル収集スケジュールは表2に詳述される。
D39(T0)に、グループA及びBのイヌを腹腔内ルートで病毒株L.インタロガンス血清グループオーストラリス(5x10
9レプトスピラ)によりチャレンジした。グループCのイヌはチャレンジせずD39に安楽死させた。チャレンジ後の期間中に、死亡率、臨床徴候(全身状態、脱水、眼徴候、嘔吐、下痢及び皮膚-粘膜徴候)、体温及び体重について毎日イヌをモニターした。血清ELISA(BSドライチューブ)、血液生化学分析(BS Hep-Li及びBS EDTA)、及びレプトスピラ血症のqPCR分析(BS Hep-Na)のために、血液サンプルを収集した。レプトスピラ尿のqPCR分析のために尿サンプルを収集した。細菌の存在のqPCR分析とともに組織病巣の観察のために肝及び腎を死後に収集した。生存したグループA及びBのイヌをT26に安楽死させた。ワクチン接種期のサンプル収集スケジュールは表2.1に詳述される。
【0034】
表2:実験設計-ワクチン期
表2
BS Hep-Li
*:生化学検査(尿素、クレアチニンALT、AST、ALP)のためにヘパリンリチウム処理チューブに血液収集。
BS Hep-Na
**:qPCRによるレプトスピラ検出及び細胞性免疫探査のためにヘパリンナトリウム処理チューブに血液収集。
BS EDTA
***:血小板計測に用いられるサンプル。
【0035】
表2.1:実験設計-チャレンジ期
表2.1
【0036】
拡散性/安全性の結果は下記表3に示されている。結果は、ワクチン接種グループ及び排出コントロールのイヌ(グループC)でレプトスピラ尿症は検出されないことを示している。ワクチン接種後に、局所又は全身性の有害な徴候はワクチン接種のイヌで観察されなかった。
表3:拡散性/安全性の結果
表3
細胞媒介性免疫の結果は
図10に示される。レプトスピラ特異的IL-17応答が、2回目のワクチン注射から7日後にワクチン接種イヌで検出された。他のサイトカイン(例えばIFNg、TNFa、IL-6、IL8、IL10)は、ワクチン接種グループではin vitro PBMC再刺激アッセイで検出されなかった。
有効性の結果は下記表4で示される。結果は、以下の臨床徴候の観点から優れた防御をワクチン接種イヌで明らかにした:グループAではいずれのイヌも何らの臨床徴候も示さず(0/8)、グループBでは6匹のイヌのうち5匹(5/6)が重篤な臨床徴候を示した。表でも示されるように、レプトスピラ尿症はワクチン接種イヌ(グループA)では検出されず、わずかに2匹のイヌが一時点でわずかに陽性であったが、一方、臨床徴候を全く示さなかったBグループのただ1匹のイヌのみがレプトスピラ尿症で陽性であった。
【0037】
表4:有効性の結果
表4
血液生物学パラメータの結果(
図11−16参照)は、ワクチン接種期ではコントロール(グループB)、ワクチン接種(グループA)又は排出コントロール(グループC)イヌとの間に相違はないことを示した。チャレンジ後に、血液生物学パラメータについて顕著な影響がコントロール(グループB)で観察されたが、ワクチン接種イヌ(グループA)では影響はなかった。コントロールグループ(グループB)では、チャレンジ後に1匹のイヌを除いて全てのイヌが死亡した。グループBの前記生存イヌでは、尿毒症及びクレアチニン血症パラメータはT5後も影響を受けたままで、このイヌの腎臓がレプトスピラ尿症の結果として冒されたことを示している。
6匹のコントロールイヌのうち5匹が、重篤な臨床徴候(虚脱、消化器官及び皮膚粘膜徴候)及び生物学的パラメータ(尿素、クレアチニン、AST、Alt、ALP及び血小板)の変化を有する臨床的に有病状態であったのでこのチャレンジは立証されかつ重篤であり、倫理的理由によりチャレンジ後3又は4日目に安楽死させねばならなかった。これらのイヌは、1つ又は2つの陽性血液サンプル、陽性腎サンプル並びに腎及び肝病巣を有していた。
チャレンジ後、全てのワクチン接種イヌは良好な全身状態を維持し、いずれの臨床徴候も高体温も認められなかった。血液パラメータの変化は観察されなかった。血液及び腎でレプトスピラは検出されなかった。2匹のワクチン接種イヌがわずかに陽性の尿サンプルを有しただけで、他の6匹のワクチン接種イヌでは全ての尿サンプルが陰性のままであった。腎及び肝病巣の証拠は全てのワクチン接種イヌで得られなかった。
コントロールのイヌと比較したとき、死亡率、疾患の徴候(臨床徴候、体重、直腸温度、生物学的パラメータ)、感染、細菌排出、腎内保菌及び腎病巣に対する防御がワクチン接種イヌで明示された。
・結論
これらの結果は、弱毒化702
fliM株を含む生弱毒化L.インタロガンスワクチンは安全に使用できることを示した。動物に注射したとき、前記は局所的又は全身的徴候を全く示さず、かつ血液生物学的パラメータに全く影響を与えない。生弱毒化ワクチンの動物投与後に排出徴候は存在しない。生弱毒化L.インタロガンスワクチン(702
fliM株)はまた、非常に病毒性のL.インタロガンス血清グループオーストラリスチャレンジ(基本ワクチン接種の2回目注射から2週間後に実施)に対して、死亡率、疾患の臨床徴候、感染、尿中排出、腎内保菌及び腎病巣に対する防御を示した。
【0038】
[実施例3]
イヌの異種チャレンジにおける生弱毒化L.インタロガンスワクチンの安全性及び有効性試験
本試験の目標は、生弱毒化L.インタロガンスワクチンの異種チャレンジに対する有効性(免疫開始)をイヌで評価することである。
13匹の6カ月齢市販ビーグル犬を2つのグループに任意抽出する。グループAのイヌには皮下に2回(D0及びD28)、1mLの生弱毒化L.インタロガンスワクチン(10
7レプトスピラ/mLの弱毒化702
fliM株を含む)を接種する。グループBのイヌ(コントロールグループ)にはワクチンを接種しない。
D42(T0)に、グループA及びBの各イヌを病毒株L.インタロガンス血清グループイクテロヘモラジアエ(用量10
6レプトスピラ/mL)でチャレンジする。チャレンジ後の期間中に毎日イヌを死亡率、臨床徴候(全身状態、脱水、眼徴候、嘔吐、下痢及び皮膚-粘膜徴候)、体温及び体重についてモニターする。ワクチン期を通して、血液及び尿を血清学、血液生化学、レプトスピラ血症及びレプトスピラ尿症の分析のために定期的に収集する。細菌の存在の分析とともに組織病巣の観察のために肝及び腎を死後収集する。グループA及びBの生存イヌをT28に安楽死させる。
有効性の結果は、全体的臨床スコアはコントロールに対比してワクチン接種イヌで有意に低いことを示す。同様に、全体的生化学及び血液学スコア、各イヌの陽性血液培養数(レプトスピラ血症)、各イヌの陽性尿培養数(レプトスピラ尿症)、陽性腎培養を有するイヌの数及び腎病巣を有するイヌの数は、コントロールと比較するときワクチン接種グループで有意に低い。
・結論
これらの結果は、生弱毒化L.インタロガンスワクチン(702
fliM株)は、異種の病毒性L.インタロガンス血清グループイクテロヘモラジアエによるチャレンジ(基本ワクチン接種の2回目注射から2週間後に実施)に際して、死亡率、疾患の臨床徴候、感染、尿中排出、腎内保菌及び腎病巣を減少させ、異種チャレンジに対して交差防御を提供することを明示する。
【0039】
[実施例4]
・fliM遺伝子の欠失
本試験の目標は、fliMタンパク質(配列番号:17)をコードするFliM遺伝子をレプトスピラ・インテロガンスゲノムから欠失させることによって、組換え体及び弱毒化L.インタロガンスを作製することである。
fliMタンパク質(配列番号:17)をコードするFliM遺伝子を、形質転換の2つの連続工程を用いてレプトスピラ・インテロガンスから欠失させる。
形質転換の2つの連続工程の実施を可能にするツールを開発することによって、病原体L.インタロガンスのための無マーカー変異系を作製する。最初の相同性組換えによって、標的遺伝子fliMは、以前にlibBについて示された対立遺伝子交換系(Croda, J., et al., 2008, Infect Immun 76, 5826-5833)を用いて、カナマイシン耐性カセットによって入れ替えられる。第二の形質転換のためには、Flpリコンビナーゼ系を、レプトスピラ・インテロガンス細菌染色体に挿入されたDNAフラグメントの切り出しのためのツールとして用いる。前記リコンビナーゼ系は、分子間及び分子内組換えの両方を促進するタンパク質である(Hoang, T.T., et al., 1998, Gene 212, 77-86)。
また別には、S.セレビシアエ(S.cerevisiae)ミトコンドリアエンドヌクレアーゼI-SceIを用いて、レプトスピラ・インテロガンス染色体からfliM遺伝子の無マーカー欠失を生じさせる(Posfai, G., et al., 1999, Nucleic Acids Res 27, 4409-4415)。
生じた組換えレプトスピラ・インテロガンス(fliM遺伝子が欠失)は安定かつ信頼性があり、実施例5に記載したイヌの同種及び異種チャレンジに対する有効性試験で生弱毒化ワクチンとして用いられる。
【0040】
[実施例5]
イヌの同種及び異種チャレンジにおける生弱毒化L.インタロガンスワクチンの安全性及び有効性試験
本試験の目標は、生弱毒化L.インタロガンスワクチンの同種及び異種チャレンジに対する有効性(免疫開始)をイヌで評価することである。生弱毒化L.インタロガンスワクチンは実施例4で作製され、この場合fliMタンパク質をコードするFliM遺伝子が欠失している。
市販のビーグル犬を2つのグループに任意抽出する。グループAのイヌには皮下に2回(D0及びD28)、1mLの生弱毒化L.インタロガンスワクチン(10
7レプトスピラ/mLの弱毒化L.インタロガンス株を含む)を接種する。グループBのイヌ(コントロールグループ)にはワクチンを接種しない。
1つの試験では、D42(T0)で、グループA及びBの各イヌを病毒株L.インタロガンス血清グループオーストラリス(同種)でチャレンジする。別の試験では、D42(T0)に、グループA及びBの各イヌを病毒株L.インタロガンス血清グループイクテロヘモラジアエ(異種)でチャレンジする。チャレンジ後の期間中に毎日イヌを死亡率、臨床徴候(全身状態、脱水、眼徴候、嘔吐、下痢及び皮膚-粘膜徴候)、体温及び体重についてモニターする。ワクチン期を通して、血液及び尿を血清学、血液生化学、レプトスピラ血症及びレプトスピラ尿症の分析のために定期的に収集する。細菌の存在の分析とともに組織病巣の観察のために肝及び腎を死後収集する。グループA及びBの生存イヌをT28に安楽死させる。
有効性の結果は、全体的臨床スコアはコントロールに対比してワクチン接種イヌで有意に低いことを示す。同様に、全体的生化学及び血液学スコア、各イヌの陽性血液培養数(レプトスピラ血症)、各イヌの陽性尿培養数(レプトスピラ尿症)、陽性腎培養を有するイヌの数及び腎病巣を有するイヌの数は、コントロールと比較するときワクチン接種グループで有意に低い。
・結論
これらの結果は、生弱毒化L.インタロガンスワクチン(fliM遺伝子欠失)は、同種病毒性L.インタロガンス血清グループオーストラリス及び異種病毒性L.インタロガンス血清グループイクテロヘモラジアエによるチャレンジ(基本ワクチン接種の2回目注射から2週間後に実施)に際して、死亡率、疾患の臨床徴候、感染、尿中排出、腎内保菌及び腎病巣を減少させ、さらに同種チャレンジに対する防御及び異種チャレンジに対する交差防御を提供することを明示する。