(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986028
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ニッケルなしで金属表面をリン酸塩処理するための改良された方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/18 20060101AFI20211213BHJP
C23C 22/36 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
C23C22/18
C23C22/36
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-553121(P2018-553121)
(86)(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公表番号】特表2019-510886(P2019-510886A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2017050993
(87)【国際公開番号】WO2017174222
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】102016205815.0
(32)【優先日】2016年4月7日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ダーレンブルク,オラーフ
(72)【発明者】
【氏名】シューマイアー,リザ
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−158061(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102014007715(DE,A1)
【文献】
特開平08−134661(JP,A)
【文献】
特表2006−528280(JP,A)
【文献】
特開平02−190478(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0314479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着材料を析出させるために金属表面をリン酸塩処理する方法であって、金属表面を、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む酸性の水性でニッケル含有量が0.3g/l未満であるリン酸塩処理用組成物で処理することを含み、
前記リン酸塩処理用組成物が、0.3〜2.0の範囲の遊離酸、0.5〜8の範囲の遊離酸(希釈)、12〜28の範囲の総酸、Fischer、12〜45の範囲の総酸、および0.01〜0.2の範囲の酸価を有し、
リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1〜200mg/lの範囲であり、及び
金属表面を前記リン酸塩処理用組成物で処理した後、金属表面は、少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含む水性の後濯ぎ組成物で処理されない、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記リン酸塩処理用組成物で処理を行う前に、前記金属表面を浄化および/または活性化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸塩処理用組成物で処理を行った後、前記金属表面を濯ぎおよび/または乾燥することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
リン酸塩処理用組成物が0.3〜3.0g/lの亜鉛イオン、0.3〜2.0g/lのマンガンイオン、8〜25g/lのホスフェートイオン(P2O5として計算)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
リン酸塩処理用組成物が30〜250mg/lの遊離のフッ化物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
リン酸塩処理用組成物が0.5〜3g/lの錯体のフッ化物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
錯体のフッ化物がテトラフルオロボレート(BF4−)および/またはヘキサフルオロシリケート(SiF62−)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リン酸塩処理用組成物がH2O2を促進剤として含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リン酸塩処理用組成物が1g/l未満の硝酸塩を含有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鉄(III)イオンが遊離酸の調節に先立ってリン酸塩処理用組成物に添加されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面を実質的にニッケルなしでリン酸
塩処理するための改良された方法、対応するリン酸
塩処理用組成物、また対応するホスフェートで被覆された金属表面に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面上のホスフェートコーティングは従来技術から公知である。かかるコーティングは金属表面の腐食を防ぐのに、さらにまた、その後の塗膜のための接着促進剤として役立つ。
【0003】
かかるホスフェートコーティングは特に自動車産業の分野で、また一般産業の分野で使用されている。
【0004】
その後の塗膜、ならびに粉体塗料および湿式ペイントは、特に、陰極析出電着材料(CEC)である。CECの析出には金属表面と処理浴との間の電流の流れが必要とされるので、効率的で均一な析出を確実にするにはホスフェートコーティング内の定まった電気伝導度を設定することが重要である。
【0005】
したがって、ホスフェートコーティングは、習慣的に、ニッケル含有リン酸
塩処理用溶液を使用して設けられる。このプロセスで元素として、または合金成分、例えばZn/Niとして析出するニッケルは、その後の電着中の適当な伝導度を提供する。
【0006】
しかし、その高い毒性および環境に対する有害性のために、ニッケルイオンはもはや処理溶液の望ましい構成成分ではなく、したがってできる限り避けるか、または少なくともその量に関して低減するべきである。
【0007】
実際、ニッケル不含または低ニッケルリン酸
塩処理用溶液の使用は原則として公知である。しかし、それは鋼のような特定の基材に限定される。
【0008】
なお、規定されたニッケル不含または低ニッケル系は、優勢なCEC析出条件下で非理想的な基材表面のために不足した腐食値および塗料密着値を生じることがある。
【0009】
ニッケル不含リン酸
塩処理浴に伴うさらなる問題は、パラメーターの変化または金属製基材のスループットに関してそれぞれの浴の適切な安定性を保証することである。
【0010】
浴は最初スラッジを含まないかまたは濁りがない。しかし、第1のスループットの金属シートの後に濁っていき、最終的に大量のスラッジが形成される。パラメーターは不安定である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の1つの目的は、金属表面を実質的にニッケルなしのリン酸
塩処理に付することができ、前述した従来技術の欠点が避けられ、より特定的にはより高い浴安定性が得られる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の方法、請求項13に記載のリン酸
塩処理用組成物、および請求項15に記載のホスフェートで被覆された金属表面によって達成される。
【0013】
金属表面をリン酸
塩処理するための本発明の方法において、金属表面は、任意に浄化および/または活性化の後、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェート(リン酸)イオンを含む酸性の水性で実質的にニッケルなしのリン酸
塩処理用組成物で処理し、その後任意に濯ぎ、および/または乾燥する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義:
本発明の方法は、被覆されていない金属表面、またはその代わりに既に化成処理されている金属表面を処理するのに使用することができる。したがって、以下で「金属表面」というときは常に既に化成処理された金属表面も含むと考えられる。
【0015】
本発明の目的から「水性組成物」とは、その溶媒として少なくとも部分的に、好ましくは主に水を含む組成物である。溶解した構成成分に加えて、分散した−即ち、乳化したおよび/または懸濁した−構成成分も含んでいてもよい。
【0016】
本件において「実質的にニッケルを含まない」とは、0.3g/l未満のニッケルイオンが存在することを意味する。
【0017】
本発明の目的から、「ホスフェートイオン」とは、リン酸水素塩、リン酸二水素塩およびリン酸も意味する。なお、ピロリン酸およびポリリン酸ならびにそれらの一部および完全に脱プロトン化された形態の全てを包含することが意図されている。
【0018】
本発明の目的から「金属イオン」はあるいは金属カチオン、複合金属カチオン、または複合金属アニオンである。
【0019】
金属表面は好ましくは鋼、溶融亜鉛メッキ系、電解亜鉛メッキ系、アルミニウム、または、例えばZn/FeもしくはZn/Mgのようなこれらの合金を含む。溶融亜鉛メッキ系および電解亜鉛メッキ系の場合、各々の場合、より特定的には鋼に基づくこの種の系である。金属表面はより特定的には少なくとも部分的に亜鉛メッキされている。
【0020】
本発明の方法は殊に多金属用途に適している。
【0021】
金属表面を被覆しようとし、それが新鮮な溶融亜鉛メッキ系でないならば、リン酸
塩処理用組成物による処理に先立って、まず金属表面を水性の浄化用組成物で浄化、より特定的には脱脂するのが有利である。このためには、特に、酸性、中性、アルカリ性または強アルカリ性の浄化用組成物を使用すればよいが、任意に、さらに酸性または中性の酸洗い組成物を使用してもよい。
【0022】
アルカリ性または強アルカリ性の浄化用組成物が本発明で殊に有利であることが示されている。
【0023】
水性の浄化用組成物は、少なくとも1種の界面活性剤に加えて、任意に、洗浄剤ビルダーおよび/または錯化剤のような他の添加剤を含んでいてもよい。また、活性化用洗浄剤を使用することも可能である。
【0024】
浄化/酸洗い後、金属表面を水で少なくとも一回濯ぐのが有利であり、この場合、任意に例えば水溶液中の亜硝酸塩または界面活性剤のような添加剤を水に加えてもよい。
【0025】
リン酸
塩処理用組成物による金属表面の処理に先立って、活性化用組成物で金属表面を処理するのが有利である。活性化用組成物の目的は多数の超微細なホスフェート粒子を種晶として金属表面上に析出させることである。これらの結晶は、その後の方法工程で、好ましくは間で濯ぐことなく、リン酸
塩処理用組成物と接触する、極めて多数の密に配置された微細なホスフェート結晶を有するホスフェート層、より特定的には結晶質のホスフェート層、またはほとんど不浸透性のホスフェート層を形成するのを助ける。
【0026】
考えられる活性化用組成物としては、特に、リン酸チタンまたはリン酸亜鉛をベースとする酸性またはアルカリ性の組成物がある。
【0027】
しかし、活性化剤、殊にリン酸チタンまたはリン酸亜鉛を浄化用組成物に加える、言い換えると、浄化および活性化を一工程で行うことも有利であり得る。
【0028】
酸性の水性で実質的にニッケルなしのリン酸
塩処理用組成物は亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェート(リン酸)イオンを含む。
【0029】
鉄(III)イオンの含有量はパラメーターまたは金属製基材のスループットの変化に対するリン酸
塩処理用組成物の適切な安定性を達成する。
【0030】
リン酸
塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量は好ましくは1〜200mg/l、より好ましくは1〜100mg/l、より好ましくは5〜100mg/l、殊に好ましくは5〜50mg/l、非常に好ましくは5〜20mg/lの範囲である。
【0031】
鉄(III)イオンは、例えば、硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩または酒石酸塩の形態でリン酸
塩処理用組成物に加えることができる。
【0032】
しかし、鉄(III)イオンは硝酸塩の形態で加えないのが好ましい。これは、多過ぎる硝酸塩は層組成に対して逆効果を有するからである。即ち、形成される層のマンガン含有量がより低くなる。
【0033】
鉄(III)イオンは遊離酸(FA、後記参照)の確立に先立ってリン酸
塩処理用組成物に加えると特に有利である。これは、これが亜鉛塩の沈殿を低減し、したがって浴の安定性が増大するという事実に起因し得る。
【0034】
本発明のリン酸
塩処理用組成物は、濃縮物から適切な溶媒、好ましくは水による1〜100、好ましくは5〜50倍の希釈により、そして必要であれば、pH調整物質の添加により得ることができる。
【0035】
リン酸
塩処理用組成物は好ましくは次の成分を以下の好ましいおよびより好ましい濃度範囲で含む。
【0037】
しかし、マンガンイオンについては0.3〜2.5g/lの範囲の濃度、遊離のフッ化物については10〜250mg/lの範囲の濃度が有利であることが既に示されている。
【0038】
錯体のフッ化物は好ましくはテトラフルオロボレート(BF
4−)および/またはヘキサフルオロシリケート(SiF
62−)を含む。
【0039】
特にアルミニウムおよび/または亜鉛メッキされた材料の処理において、リン酸
塩処理用組成物中の錯体フッ化物、また単純なフッ化物、例えばフッ化ナトリウムの存在は利点である。
【0040】
リン酸
塩処理系内のAl
3+は浴毒であり、例えば、フッ化物と共に錯化することにより氷晶石の形態で系から除くことができる。錯体のフッ化物は「フッ化物緩衝材」として浴に加えられる。というのは、そうでないとフッ化物含有量が急速に低下し、もはや被覆が起こらないからである。そこで、フッ化物はホスフェート層の形成を支持し、その結果として間接的に塗料の密着を改良し、また腐食の制御もする。また、亜鉛メッキされた材料上では、錯体のフッ化物は斑点のような欠陥を防ぐのを助ける。
【0041】
リン酸
塩処理用組成物はさらに、好ましくは、以下の化合物からなる群から選択される少なくとも1種の促進剤を次の好ましい、そしてより好ましい濃度範囲で含む。
【0043】
しかし、ニトログアニジンについては0.1〜3.0g/lの範囲の濃度が、H
2O
2については5〜200mg/lの範囲の濃度が有利であることが既に示されている。
【0044】
非常に好ましくは少なくとも1種の促進剤はH
2O
2である。
【0045】
リン酸
塩処理用組成物は好ましくは1g/l未満、より好ましくは0.5g/l未満、非常に好ましくは0.1g/l未満、殊に好ましくは0.05〜0.1g/l未満の硝酸塩を含有する。
【0046】
これの理由は、特に、亜鉛メッキされた表面の場合、リン酸
塩処理用組成物中の硝酸塩が層形成反応の付加的な促進を起こし、結果としてより低い被覆質量を生じるが、特に結晶中へのマンガンの混入を低減することである。しかし、ホスフェートコーティングのマンガン含有量が低過ぎると、その耐アルカリ性が落ちる。
【0047】
耐アルカリ性はその後の陰極電着析出で重大な役割を果たすことになる。この過程で、水の電離が基材表面で起こり、水酸化物イオンが形成される。結果として、基材界面のpHが上昇する。実際、電着材料が凝集し析出することができるのはこの手段によるのみである。しかし、高いpHは結晶質のホスフェート層を損傷する可能性もある。
【0048】
リン酸
塩処理用組成物は好ましくは30〜55℃の範囲の温度を有する。
【0049】
さらに、リン酸
塩処理用組成物は次の好ましい、およびより好ましいパラメーター範囲により特徴付けることができる。
【0051】
しかし、FAパラメーターについては0.2〜2.5の範囲の値が、温度については30〜55℃の範囲の値が有利であることが既に示されている。
【0052】
このリストで、「FA」は遊離酸を意味し、「FA(dil.)」は遊離酸(希釈)を意味し、「TAF」は総酸、Fischerを示し、「TA」は総酸を意味し、「A値」は酸価を意味する。
【0053】
これらのパラメーターは本発明では次のようにして決定される。
【0054】
遊離酸(FA):
遊離酸の決定には、10mlのリン酸
塩処理用組成物を300mlの三角フラスコのような適切な容器にピペットで移す。リン酸
塩処理用組成物が錯体のフッ化物を含有するならば、追加の2〜3gの塩化カリウム(KCl)を試料に加える。次いで、pH計および電極を用いて、0.1MのNaOHでpH3.6まで滴定を行う。この滴定で消費される0.1MのNaOHの量(リン酸
塩処理用組成物10ml当たりのml)が遊離酸(FA)の値を点で与える。
【0055】
遊離酸(希釈)(FA(dil.)):
遊離酸(希釈)の決定には、10mlのリン酸
塩処理用組成物を300mlの三角フラスコのような適切な容器にピペットで移す。その後150mlのDI水を加える。pH計および電極を用いて、0.1MのNaOHでpH4.7まで滴定を行う。この滴定で消費される0.1MのNaOHの量(希釈リン酸
塩処理用組成物10ml当たりのml)が遊離酸(希釈)(FA(dil.))の値を点で与える。遊離酸(FA)に対する差から錯体のフッ化物の量を決定することが可能である。この差に0.36の係数をかけると、結果がSiF
62−としての錯体のフッ化物の量g/lである。
【0056】
総酸、Fischer(TAF):
遊離酸(希釈)の決定後、希釈リン酸
塩処理用組成物を、シュウ酸カリウム溶液を添加した後、pH計および電極を用いて、0.1MのNaOHでpH8.9まで滴定する。この手順での、希釈リン酸
塩処理用組成物10ml当たりのmlとしての0.1MのNaOHの消費量が総酸、Fischer(TAF)を点で与える。この数字に0.71をかけると、結果はP
2O
5として計算したホスフェートイオンの総量である(W. Rausch:「Die Phosphatierung von Metallen」 Eugen G. Leuze−Verlag 2005、第3版、332ページ以降参照)。
【0057】
総酸(TA):
総酸(TA)は、存在する二価のカチオンならびに遊離および結合したリン酸(後者がホスフェートである)の合計である。これは、pH計および電極を用いて0.1MのNaOHの消費量によって決定される。このためには、10mlのリン酸
塩処理用組成物を300mlの三角フラスコのような適切な容器にピペットで移し、25mlのDI水で希釈する。この後0.1MのNaOHでpH9まで滴定する。この手順中の、希釈リン酸
塩処理用組成物10ml当たりのmlとしての消費量が総酸(TA)の点数に対応する。
【0058】
酸価(A値):
酸価(A値)は比FA:TAFを表し、遊離酸(FA)の値を総酸、Fischer(TAF)の値で割ることによって得られる。
【0059】
酸価を0.03〜0.065の範囲、より特定的には0.04〜0.06の範囲に設定した結果としての、殊に溶融亜鉛メッキされた表面上への塗料の密着のさらなる改良は驚くべきことであった。
【0060】
驚くべきことに、特に金属表面としての鋼または溶融亜鉛メッキ系の場合、45℃未満、好ましくは35〜45℃の範囲のリン酸
塩処理用組成物の温度がさらに改良された腐食および塗料密着値につながることが分かった。
【0061】
リン酸
塩処理用組成物は実質的にニッケルを含まない。好ましくは0.1g/l未満、より好ましくは0.01g/l未満のニッケルイオンを含有する。
【0062】
実質的にニッケルなしのリン酸
塩処理用組成物は、鉄(III)イオンの含有量の結果として、金属製基材の繰返しスループットの後でも、大幅に小量のスラッジを有する。そのパラメーターは安定のままである。
【0063】
リン酸塩処理用組成物への鉄(III)イオンの添加は、さらに、
本質的にニッケルなしでリン酸塩処理された金属表面の電気化学的性質を、ニッケル含有リン酸塩処理用溶液で処理された金属表面のものに匹敵させるまたは事実上匹敵させるように寄与する。
【0064】
鉄(III)イオンのリン酸
塩処理用組成物への添加は、殊に鋼、亜鉛メッキされた鋼およびアルミニウムで、ペイントの密着および防食結果において確かな改良をもたらす。
【0065】
添付の走査型電子顕微鏡写真で、形成されたホスフェート層がFe(III)の使用の結果としてより連続しており微細結晶質であることが分かる(各場合について
図1〜9参照)。Fe(III)を加えないと、長いエッチング攻撃および完結しない層形成に起因し得る「エッチホール」が明らかである。
【0066】
しかし、一実施形態では、リン酸
塩処理用組成物は慣用のトリカチオン組成物であり、その意味するところは、亜鉛イオンおよびマンガンイオンだけでなく、少なくとも0.3g/l、好ましくは少なくとも0.5g/l、殊に好ましくは少なくとも0.8g/lのニッケルイオンも含有するということである。トリカチオンリン酸
塩処理の場合でも、驚くべきことに、既に説明されているように、浴安定性の確かな上昇ならびに加えてアルミニウム上におけるペイントの密着および防食結果の改良が見られる。
【0067】
金属表面はリン酸
塩処理用組成物で好ましくは30〜480秒、より好ましくは60〜300秒、非常に好ましくは90〜240秒、好ましくは浸し塗りまたは噴霧によって処理される。
【0068】
金属表面のリン酸
塩処理用組成物による処理により、金属表面上に、処理される表面に応じて、次の好ましいおよび特に好ましいリン酸亜鉛被覆質量が生じる(XRF、即ちX線蛍光分析で決定):
【表4】
【0069】
リン酸
塩処理用組成物で既に処理された、即ち、既にホスフェートで被覆された金属表面は、好ましくは任意に濯ぎ、および/または乾燥するが、その後、水性の後濯ぎ組成物、殊に少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含むもので処理することはない。
【0070】
特に好ましい実施形態において、本質的にニッケルなしのリン酸
塩処理用組成物で既に処理された、即ちホスフェートで被覆された金属表面は、任意に濯ぎ、および/または乾燥するが、その後、水性の後濯ぎ組成物、殊に少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含むもので処理することはない。
【0071】
これは、驚くべきことに、本質的にニッケルなしのリン酸
塩処理用組成物に鉄(III)イオンを添加すると、後濯ぎ溶液を使用しなくても、ペイントの密着に関する良好な結果および防食に関する改良を達成することができるからである。
【0072】
本発明は、さらに、本発明の方法により得ることができるホスフェートで被覆された金属表面に関する。
【0073】
次いで、ホスフェートで被覆された金属表面上に陰極電着材料を析出させてもよく、コーティング系を設けてもよい。
【0074】
この場合金属表面は、任意に、好ましくは脱イオン水で最初に濯ぎ、任意に乾燥する。
【0075】
以下の明細書では、制限を課すものと理解されてはならない実施例、および比較例によって本発明を例証することが意図されている。
【0076】
比較例1〜3
溶融亜鉛メッキ鋼(EA)、電解亜鉛メッキ鋼(G)またはアルミニウム(AA6014S)で作成された試験プレートを、1.3g/lのZn、1g/lのMnおよび13g/lのPO
43−(P
2O
5として計算)を含有するニッケル不含リン酸
塩処理用溶液を用いて45℃で被覆した。
【0077】
[実施例1〜3]
溶融亜鉛メッキ鋼(EA)、電解亜鉛メッキ鋼(G)またはアルミニウム(AA6014S)で作成された試験プレートを、1.3g/lのZn、1g/lのMn、13mg/lのFe(III)および13g/lのPO
43−(P
2O
5として計算)を含有するニッケル不含リン酸
塩処理用溶液を用いて45℃で被覆した。
【0078】
比較例4〜6
溶融亜鉛メッキ鋼(EA)、電解亜鉛メッキ鋼(G)またはアルミニウム(AA6014S)で作成された試験プレートを、1.3g/lのZn、1g/lのMn、14g/lのPO
43−(P
2O
5として計算)、3g/lのNO
3−およびさらに1g/lのニッケルを含有するリン酸
塩処理用溶液を用いて53℃で被覆した。
【0079】
リン酸
塩処理した後、比較例1〜6(CE1〜CE6)および実施例1〜3(E1〜E3)の試験プレートを走査型電子顕微鏡(SEM)で検査した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図7】
図7:CE3、試験プレート:AA6014S
【
図9】
図9:CE6、試験プレート:AA6014S
【0082】
EAおよびG上で、ホスフェート層はFe(III)の添加がないと不完全で不均一である(
図1および4参照)。著しいエッチング攻撃の結果円形の孔(いわゆるエッチホール)が生じる。これは、層形成が十分に速くなく、したがって永久エッチングが起こったという事実に起因し得る。AA6014S上で、ホスフェート層は全く検出できない(
図7参照)。試験プレートの表面は元素亜鉛の析出の結果として黒い。ホスフェート層はFe(III)の添加の結果としてより微細になり(
図2、5および8参照)、各々の場合ニッケル含有リン酸
塩処理で得られた層に匹敵する(
図3、6または9参照)。
【0083】
リン酸
塩処理した後、全ての試験プレートをさらに陰極電着材料で被覆し、また標準的な自動車用コーティング系(フィラー、ベースコート、クリアコート)でも被覆し、次いでDIN EN ISO 2409のクロスカット試験に供した。各々の場合凝縮水への240時間の曝露の前後で3個のプレートを試験した(DIN EN ISO 6270−2 CH)。対応する結果を表1に示す。これらの結果で、0のクロスカット結果は最良であり、5は最悪の結果である。ここで0および1の結果は匹敵する質である。
【0084】
【表5】
【0085】
表1はCE1、CE2およびCE3(ニッケル不含、Fe(III)なし)の曝露後の悪い結果を示しているが、一方E1、E2およびE3(ニッケル不含、Fe(III)あり)は良好で、CE4、CE5およびCE6に匹敵する結果を与える。
【0086】
さらに、比較例3および6(CE3およびCE6)ならびに実施例3(E3)の試験プレートを、DIN EN 3665(1997年版)に従って糸状試験(HCl)に供した。これはDIN EN ISO 4628−8(2013年版)またはLPV 4(2012年版)による中央腐食破壊と同様に504時間後の損傷を決定することを含む。
【0087】
【表6】
【0088】
表2は、Fe(III)の添加によって達成される糸状腐食の確かな低減を示す(E3対CE3)。
【0089】
リン酸
塩処理した後、比較例1、2、4および5(CE1、CE2、CE4およびCE5)ならびにまた実施例1および2(E1およびE2)の試験プレートをさらにVDA試験(VDA 621−415)に供した。これにより、コーティング破壊(U)をmmで、またE1、CE1およびCE4の場合は、ストーンチッピング後のコーティング剥離(DIN EN ISO 20567−1、方法C)も決定した。ここで0の結果は最良であり、5の結果は最悪である。1.5までの数字は良好と考えられる。結果は同様に表3にまとめて示す。
【0090】
一方、比較例3および6(CE3およびCE6)ならびにまた実施例3(E3)の試験を、DIN EN ISO 9227に従って240−時間のCASS試験に供した。結果をまとめて表4に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
【表8】
【0093】
Fe(III)添加の浴安定性に対する影響を検討する目的で、まずFe(III)添加なし(CE7)の、次にFe(III)を添加した(E4)ニッケル不含リン酸
塩処理浴を作成した。
【0094】
比較例7
鉄を添加してない浴は初めスラッジを含まなかった。浴値は:FA(KCl)=1.3、Zn含有量=1.2g/lであった。
【0095】
しかし、異なる基材の数枚のシートのスループット後浴は濁ってきた。鋼は次第に錆びてき、アルミニウムはより暗くなってきた。析出したホスフェート層の外観は均一でなくなってきた。
【0096】
亜鉛塩の沈殿の結果、短時間後に確かなスラッジの形成が起こった。Zn含有量は1.0g/lに落ち、したがって亜鉛をリン酸亜鉛の形態で加える必要があった。
【0097】
実験の終了時、浴壁にインクラステーションが見られ、その幾らかはひどかった。
【0098】
さらに、析出したホスフェート層の被覆質量をXRF分析によって決定した。ここで、Fe(III)を添加していない浴では被覆質量に時にかなりの変動があることが分かった(下記表5参照、ここでシートの番号付けは処理の順序に対応する):
【0099】
【表9】
【0100】
被覆質量は最初は比較的高く、シートのスループットの増大と共に落ち、次いで変動することが分かる。
【0101】
[実施例4]
10mg/lのFe(III)を他のニッケル不含浴に加えた。その後、FA(KCl)を約1.3に調節した。Zn含有量に変化はなく、1.3g/lで安定なままであった。
【0102】
最後の日でも、後者に変化はなく安定であった。これはFA(KCl)でも同じであった。Fe(III)の添加がない浴と比較して、形成されたスラッジは明らかに少なかった。シートのスループットがあっても、スラッジの量はあまり増大することがなく、FA(KCl)(1.3)およびZn含有量(1.3g/l)も一定のままであった。