特許第6986042号(P6986042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6986042-点火プラグ 図000002
  • 特許6986042-点火プラグ 図000003
  • 特許6986042-点火プラグ 図000004
  • 特許6986042-点火プラグ 図000005
  • 特許6986042-点火プラグ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986042
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/54 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   H01T13/54
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-77488(P2019-77488)
(22)【出願日】2019年4月16日
(65)【公開番号】特開2020-177743(P2020-177743A)
(43)【公開日】2020年10月29日
【審査請求日】2020年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】後澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−034801(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00−21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極を外周から絶縁保持する主体金具と、
前記中心電極と自身の一端部との間に火花ギャップを形成する接地電極と、
前記主体金具に接続され、前記中心電極と前記接地電極の一端部とを先端側から覆うと共に、前記接地電極よりも先端側に貫通孔が形成されたキャップ部と、を備える点火プラグであって、
前記キャップ部の内面のうち前記貫通孔の内側開口端よりも先端側の第1領域に、少なくとも1つの段が形成され
前記段の一つの大きさは、前記内面の周方向における長さが、前記内面の軸線方向における長さよりも長い点火プラグ。
【請求項2】
中心電極と、
前記中心電極を外周から絶縁保持する主体金具と、
前記中心電極と自身の一端部との間に火花ギャップを形成する接地電極と、
前記主体金具に接続され、前記中心電極と前記接地電極の一端部とを先端側から覆うと共に、前記接地電極よりも先端側に貫通孔が形成されたキャップ部と、を備える点火プラグであって、
前記キャップ部の内面のうち前記貫通孔の内側開口端よりも先端側の第1領域に、少なくとも1つの段が形成され
前記段は、前記内面の全周に亘って連続している点火プラグ。
【請求項3】
前記段の一つの大きさは、前記内面の周方向における長さが、前記内面の軸線方向における長さよりも長い請求項記載の点火プラグ。
【請求項4】
前記段は、前記キャップ部の前記内面のうち、前記接地電極よりも先端側、且つ、前記内側開口端よりも後端側の第2領域にさらに形成される請求項1から3のいずれかに記載の点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室に副室を形成する点火プラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室に副室を形成する点火プラグが知られている。この種の点火プラグは主体金具に接続されたキャップ部に貫通孔が形成される。燃焼室に露出したキャップ部は燃焼室に副室を形成する。点火プラグは、燃焼室から貫通孔を通ってキャップ部の内側に流入した可燃混合気に点火し、可燃混合気の燃焼によって生じる膨張圧力により、火炎を含むガス流を貫通孔から燃焼室に噴射する。その火炎の噴流によって燃焼室内の可燃混合気が燃焼する。特許文献1(特に図26)に開示される点火プラグは、後端側に向かうにつれて副室の断面積を段階的に大きくするために、キャップ部の内面のうち貫通孔より後端側の領域に段が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−144648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示の技術では、燃焼室から貫通孔を通ってキャップ部に可燃混合気が流入すると、燃焼室に露出するキャップ部は可燃混合気によって冷やされる。特にキャップ部の先端側の部位はキャップ部の後端側の部位に比べて温度が低くなる。その結果、キャップ部の内部の先端側に存在する可燃混合気の温度が低くなるので、キャップ部の先端近くにおいて、可燃混合気の温度低下に依存して火炎伝播速度が低下する。キャップ部の内側から貫通孔へ向かう火炎伝播速度が低下すると、燃焼室内の燃焼速度に悪影響を与えるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、キャップ部の内側から貫通孔へ向かう火炎伝播速度を速くできる点火プラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の点火プラグは、中心電極と、中心電極を外周から絶縁保持する主体金具と、中心電極と自身の一端部との間に火花ギャップを形成する接地電極と、主体金具に接続され、中心電極と接地電極の一端部とを先端側から覆うと共に、接地電極よりも先端側に貫通孔が形成されたキャップ部と、を備え、キャップ部の内面のうち貫通孔の内側開口端よりも先端側の第1領域に、少なくとも1つの段が形成される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の点火プラグによれば、少なくとも1つの段が形成される第1領域が、キャップ部の内面のうち貫通孔の内側開口端よりも先端側に設けられるので、第1領域に段が無い場合に比べて、第1領域近くの可燃混合気の流れを乱すことができる。可燃混合気の流れの乱れの強さが火炎伝播の高速化に与える影響は、可燃混合気の温度が火炎伝播速度に与える影響よりも大きいので、可燃混合気の温度低下に関わらず火炎伝播を速くできる。よって、キャップ部の内側から貫通孔へ向かう火炎伝播速度を速くできる。
【0008】
の一つの大きさは、内面の周方向における長さが、内面の軸線方向における長さよりも長いので、燃焼室から貫通孔を通ってキャップ部の内側に流入した可燃混合気が、第1領域に沿って軸線方向へ流れるときに乱流を生じ易くできる。よって火炎伝播速度をより速くできる。
【0009】
請求項記載の点火プラグによれば、段はキャップ部の内面の全周に亘って連続しているので、キャップ部の内面の全周の一部に段が設けられている場合に比べ、乱流をより生じ易くできる。よって火炎伝播速度をより速くできる。
【0010】
請求項4記載の点火プラグによれば、段は、キャップ部の内面のうち、接地電極よりも先端側、且つ、内側開口端よりも後端側の第2領域にさらに形成されるので、燃焼室から貫通孔を通ってキャップ部の内側に流入した可燃混合気が、第2領域に沿って後端側へ流れるときに乱流を生じ易くできる。また、火炎を含むガス流が第2領域に沿って先端側へ流れるときにも乱流を生じ易くできる。よって、請求項1から3のいずれかの効果に加え、火炎伝播速度をより速くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態における点火プラグの部分断面図である。
図2図1のIIで示す部分を拡大した点火プラグの断面図である。
図3図2のIIIで示す部分を拡大した点火プラグの断面図である。
図4図2の矢印IV方向から見た第1領域の模式的な平面図である。
図5図2のVで示す部分を拡大した点火プラグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における点火プラグ10の部分断面図である。図1では、紙面下側を点火プラグ10の先端側、紙面上側を点火プラグ10の後端側という(図2においても同じ)。図1には、点火プラグ10の先端側の部位の軸線Oを含む断面が図示されている。図1に示すように点火プラグ10は、絶縁体11、中心電極13、主体金具20、接地電極30及びキャップ部40を備えている。
【0013】
絶縁体11は、軸線Oに沿う軸孔12が形成された略円筒状の部材であり、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等のセラミックスにより形成されている。絶縁体11の軸孔12の先端側には中心電極13が配置されている。中心電極13は、軸孔12内で端子金具14と電気的に接続されている。端子金具14は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具14は絶縁体11の後端に固定されている。
【0014】
主体金具20は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具20は、外周面におねじ21が形成される先端部22と、先端部22の後端側に隣接する座部23と、座部23の後端側に形成される工具係合部24と、を備えている。おねじ21はエンジン1のねじ穴2に螺合する。座部23は、エンジン1のねじ穴2とおねじ21との隙間を塞ぐための部位であり、おねじ21の外径よりも外径が大きく形成されている。工具係合部24は、エンジン1のねじ穴2におねじ21を締め付けるときに、レンチ等の工具が係合する。
【0015】
接地電極30は、Ni等を主成分とする金属材料によって形成された棒状の部材である。本実施形態では接地電極30はおねじ21の位置に配置されており、先端部22を貫通して先端部22の内側に突き出ている。接地電極30は一端部31が中心電極13に対向している。主体金具20の先端部22にはキャップ部40が接続されている。
【0016】
キャップ部40は、中心電極13及び接地電極30の一端部31を先端側から覆う部位である。キャップ部40は、Ni等を主成分とする金属材料によって形成されている。キャップ部40には、接地電極30よりも先端側に貫通孔41が形成されている。おねじ21によってエンジン1のねじ穴2に点火プラグ10が取り付けられた状態で、キャップ部40はエンジン1の燃焼室3に露出する。貫通孔41は、主体金具20とキャップ部40とに囲まれてできる副室42と燃焼室3とを連通する。本実施形態では、貫通孔41はキャップ部40に複数形成されている。
【0017】
図2図1のIIで示す部分を拡大した点火プラグ10の軸線Oを含む断面図である。主体金具20の先端部22には、おねじ21の部位に、径方向の内側に向けて凹む凹部25が形成されている。先端部22には、凹部25の径方向の内側に凹部25よりも細い穴26が形成されている。穴26は先端部22を径方向に貫通する。穴26に挿入された接地電極30の他端部32は、溶接部27により先端部22に接合されている。接地電極30の一端部31は中心電極13との間に火花ギャップ33を形成する。接地電極30は主体金具20のおねじ21の部位に接合されているので、接地電極30の熱は、おねじ21からエンジン1に伝わる。
【0018】
キャップ部40の外面43には貫通孔41によって外側開口端47が形成され、キャップ部40の内面44には貫通孔41によって内側開口端48が形成されている。貫通孔41の内側開口端48は、接地電極30の一端部31よりも先端側に位置する。貫通孔41は、内側開口端48から外側開口端47へ近づくにつれて先端側へ向かって傾斜している。本実施形態では、複数の貫通孔41の内側開口端48の後端49は、全てが、軸線Oに垂直な平面50上に位置する。キャップ部40は溶接部51を介して主体金具20の先端部22に接合されている。
【0019】
キャップ部40の内面44は、貫通孔41の内側開口端48よりも先端側の第1領域45、及び、第1領域45よりも後端側の第2領域46に区画される。第1領域45は、キャップ部40の内面44のうち、キャップ部40を平面50で切断したときの切り口よりも先端側の部位である。第2領域46は、キャップ部40の内面44のうち、キャップ部40を平面50で切断したときの切り口よりも後端側の部位である。第1領域45は球冠状に形成され、第2領域46は円筒状ないしは球帯状に形成されている。第1領域45には、円形の平面をなす先端面45aが含まれる。
【0020】
図3図2のIIIで示す部分を拡大した点火プラグ10の断面図である。図3に示すように、キャップ部40の第1領域45には段52が形成されている。段52は第1領域45に複数存在する。
【0021】
図4図2の矢印IV方向から見た第1領域45の模式的な平面図である。図4では第1領域45のうち先端面45aを中心とする部位が図示されており、その周辺の部位の図示が省略されている。図4に示すように第1領域45に形成された段52は、第1領域45のうち先端面45aの周囲に設けられており、円形の先端面45aに沿って周方向に延びている。段52の一つの大きさは、第1領域45の周方向における長さが、第1領域45の軸線方向における長さよりも長い。第1領域45は径方向および軸線方向に広がりをもつので、第1領域45の軸線方向における段52の長さは、第1領域45の径方向における長さということもできる。
【0022】
本実施形態では、段52の各々は軸線Oを中心とする円弧状に形成されており、各々の段52が互いに周方向につながることにより、段52は第1領域45の全周に亘って連続している。但し図4は模式図なので、円弧状の段52は、周方向につながっている部分の図示が省略されている。第1領域45の全周に亘って連続する複数の段52は、軸線Oを中心とする同心円状に設けられている。同心円状の複数の段52は、互いに第1領域45の径方向に隣接している。段52は、第1領域45のうち先端面45aを除く領域の全体に形成されている。
【0023】
図3に戻って説明する。第1領域45の表面の断面曲線53は、先端側(図3下側)へ向かうにつれて径方向の内側(図3右側)に行く傾向を示す。断面曲線53は、軸線Oを含む平面(図3紙面)と第1領域45との交線である。但し、断面曲線53の全てが、先端側へ向かうにつれて径方向の内側に向かうように傾斜している必要はない。しかし、断面曲線53の少なくとも一部はそのように傾斜している。断面曲線53は、例えば光を使った非接触式表面粗さ測定機を用い、JIS B0601:2013に準拠して第1領域45の表面性状を検出し、得られた曲線の短波長成分や長波長成分を遮断するフィルタを通して得られる。
【0024】
段52の高さH及び長さTは断面曲線53から求められる。段52の高さHは、断面曲線53の一つの段52の隣り合う谷54を結ぶ線分55とその段52の頂56との間の距離である。段52の長さTは線分55の長さである。段52の高さH及び長さTは適宜設定されるが、例えば段52は2〜10μmの範囲の高さHがあり、10〜50μmの範囲の長さTがあるように作られる。段52の高さH及び長さTがこの範囲にあると、第1領域45の径方向(軸線方向)に沿って流れるガスの乱れをより強くできるので好ましい。
【0025】
図5図2のVで示す部分を拡大した点火プラグ10の断面図である。図5に示すように、キャップ部40の第2領域46にも、周方向に延びる段57が形成されている。段57は第2領域46に複数存在する。段57の一つの大きさは、第2領域46の周方向における長さが、第2領域46の軸線方向における長さよりも長い。
【0026】
本実施形態では、段57の各々は軸線Oを中心とする円弧状に形成されており、各々の段57が互いに周方向につながることにより、段57は第2領域46の全周に亘って連続している。第2領域46の全周に亘って連続する複数の段57は、軸線Oを中心とする同心円状に設けられている。同心円状の複数の段57は、互いに第2領域46の軸線方向に隣接している。段57は第2領域46の全体に形成されている。
【0027】
第2領域46の表面の断面曲線58は、先端側(図5下側)へ向かうにつれて径方向の内側(図5右側)に行く傾向を示す。断面曲線58は、軸線Oを含む平面(図5紙面)と第2領域46との交線である。但し、断面曲線58の全てが、先端側へ向かうにつれて径方向の内側に向かうように傾斜している必要はない。しかし、断面曲線58の少なくとも一部はそのように傾斜している。断面曲線58は、第1領域45の断面曲線53と同様にして得られる。
【0028】
断面曲線58から求められる段57の高さH及び長さT(図示せず)は、第1領域45における段52と同様に適宜設定される。例えば、段57は2〜10μmの範囲の高さHがあり、10〜50μmの範囲の長さTがあるように作られる。段57の高さH及び長さTがこの範囲にあると、第2領域46の軸線方向に沿って流れるガスの乱れをより強くできるので好ましい。
【0029】
段52,57は、例えばキャップ部40を作るためのワークを旋盤等の主軸と共に回転させ、往復台上にある刃物をワークに当て、刃物を左右前後に動かしてキャップ部40の内面44を切削で作るときに、主軸の回転軸を中心に作られる。主軸の回転軸に垂直に交わる先端面45aには、段52は形成されていない。刃物を動かす速度に応じて段52,57の軸線方向や周方向の長さを調整できる。キャップ部40の内面44に段52,57が形成された後、切削などによりキャップ部40に貫通孔41が形成される。
【0030】
なお、段52,57を作る手段として刃物を使った切削は一例であり、他の手段を用いて段52,57を形成することは当然可能である。他の手段としては、例えばキャップ部40の内面44にレーザビームを照射しつつアシストガスを吹き付けて溶融物を除去するレーザ加工が挙げられる。また、段52,57が形成されたキャップ部40を粉末冶金により製造することも可能である。
【0031】
エンジン1(図1参照)に取り付けられた点火プラグ10には、エンジン1のバルブ操作により、燃焼室3から貫通孔41を通ってキャップ部40の内側に可燃混合気が流入する。キャップ部40に流入した可燃混合気の流れは乱流である。点火プラグ10は、中心電極13と接地電極30との間の放電により、火花ギャップ33に火炎核を生成する。火炎核が成長するとキャップ部40の内側の可燃混合気に点火し可燃混合気が燃焼する。その燃焼によって生じる膨張圧力により、点火プラグ10は火炎を含むガス流を貫通孔41から燃焼室3に噴射する。その火炎の噴流によって燃焼室3内の可燃混合気が燃焼する。
【0032】
燃焼室3から貫通孔41を通ってキャップ部40の内側に可燃混合気が流入すると、燃焼室3に露出するキャップ部40は可燃混合気によって冷やされ、キャップ部40の先端側の部位は、熱源となる絶縁体11が近くに位置するキャップ部40の後端側の部位に比べて温度が低くなる。その結果、キャップ部40の内側の先端側に存在する可燃混合気の温度が低くなるので、キャップ部40の内側では先端近くにおいて、可燃混合気の温度低下に依存して火炎伝播速度が低下するおそれがある。
【0033】
しかし、少なくとも1つの段52が形成される第1領域45が、キャップ部40の内面44のうち貫通孔41の内側開口端48よりも先端側に設けられるので、可燃混合気が第1領域45に沿って流れると、第1領域45に段が無い場合に比べて、可燃混合気の流れを乱すことができる。可燃混合気の流れは、可燃混合気がキャップ部40に流入するときもキャップ部40から流出するときも第1領域45によって乱される。可燃混合気の流れの乱れの強さが火炎伝播の高速化に与える影響は、可燃混合気の温度が火炎伝播速度に与える影響よりも大きいので、可燃混合気の温度低下に関わらず火炎伝播を速くできる。よって、キャップ部40の内側から貫通孔41へ向かう火炎伝播速度を速くできる。その結果、燃焼室3内の可燃混合気を急速に燃焼させることができる。
【0034】
点火プラグ10の段52の一つの大きさは、内面44の周方向における長さが、内面44の軸線方向における長さよりも長いので、燃焼室3から貫通孔41を通ってキャップ部40の内側に流入した可燃混合気が、第1領域45に沿って軸線方向(径方向)へ流れるときに段52に接触する機会が増えるので、乱流を生じ易くできる。よって、火炎伝播速度をより速くできる。
【0035】
段52はキャップ部40の内面44の全周に亘って連続しているので、キャップ部40の内面44の全周の一部に段が設けられている場合に比べ、第1領域45に沿って軸線方向(径方向)へ可燃混合気が流れるときに段52に接触する機会が増えるので、乱流をより生じ易くできる。よって、火炎伝播速度をより速くできる。
【0036】
段57は、キャップ部40の内面44のうち、接地電極30よりも先端側、且つ、内側開口端48よりも後端側の第2領域46にさらに形成されるので、燃焼室3から貫通孔41を通ってキャップ部40の内側に流入した可燃混合気が、第2領域46に沿って後端側へ流れるときにも乱流を生じ易くできる。また、火炎を含むガス流が第2領域46に沿って先端側へ流れるときにも乱流を生じ易くできる。よって、内側開口端48よりも後端側の段57により火炎伝播速度をさらに速くできる。
【0037】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えばキャップ部40の形状や貫通孔41の数や形状、大きさ、段52,57の高さHや長さT等は一例であり、これらは適宜設定できる。
【0038】
実施形態では、主体金具20にキャップ部40が溶接される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、先端が閉じた筒状部材を主体金具20の先端部22に接続し、筒状部材の先端部をキャップ部にすることは当然可能である。筒状部材は、主体金具20の先端部22の外周を取り囲むように配置される。筒状部材の外周面に形成されたおねじが、エンジン1のねじ穴2に螺合する。
【0039】
主体金具20の先端部22に筒状部材(キャップ部)を接続する手段としては、例えば筒状部材の内周面にめねじを形成し、先端部22に形成されたおねじ21にめねじを接合することができる。また、筒状部材の後端部と主体金具20の座部23とを溶接等によって接合することができる。さらに、筒状部材の後端部にフランジを形成し、主体金具20の座部23とフランジとを溶接等によって接合することができる。筒状部材は、例えば、ニッケル基合金等の金属材料や窒化ケイ素等のセラミックスにより形成できる。
【0040】
実施形態では、主体金具20の先端部22を貫通する接地電極30を、おねじ21の位置に設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、主体金具20の先端部22の先端面が露出するようにキャップ部を配置して、先端部22の先端面に接地電極を接続することは当然可能である。接地電極の形状は直線状であっても屈曲していても良い。キャップ部に接地電極を接合しても良い。
【0041】
実施形態では、貫通孔41の内側開口端48が、軸線Oを含む平面でキャップ部40を切断した切り口に現出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。貫通孔の内側開口端が軸線Oを含む断面に現出しないように、軸線Oに対する内側開口端の位置をずらして、キャップ部40に貫通孔を設けることは当然可能である。この場合、貫通孔の内側開口端の位置は、軸線Oに平行な平面でキャップ部40を切断した切り口を作り、その切り口に現出する内側開口端に基づいて特定できる。そこで特定された貫通孔の内側開口端の位置に基づいて、第1領域45及び第2領域46が特定される。
【0042】
実施形態では、接地電極30の一端部31が中心電極13の先端側に配置され、中心電極13の先端側に火花ギャップ33が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、中心電極13の側面と離隔して接地電極30の一端部31を配置し、中心電極13の側面と接地電極30の一端部31との間に火花ギャップ33を形成することは当然可能である。また、接地電極30を複数配置して火花ギャップ33を複数設けることは当然可能である。
【0043】
実施形態では、複数の貫通孔41の内側開口端48の後端49の全てが、軸線Oに垂直な平面50上に位置する場合、即ち複数の内側開口端48の後端49の軸線方向における位置が同じ場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。複数の内側開口端48の後端49の軸線方向における位置を異ならせることは当然可能である。複数の内側開口端48の後端49の軸線方向における位置が異なる場合、第1領域45は、キャップ部40の内面44のうち、複数の内側開口端48の後端49のうち最も後端側に位置する後端49を通る、軸線Oに垂直な平面でキャップ部40を切断したときの切り口よりも先端側の部位である。第2領域46は、キャップ部40の内面44のうち第1領域45よりも後端側の部位である。
【0044】
実施形態では、段52は第1領域45のうち先端面45aを除く領域の全体に形成され、段57は第2領域46の全体に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1領域45の一部に段52を形成したり、第2領域46の一部に段57を形成したりすることは当然可能である。
【0045】
実施形態では、段52,57の各々が軸線Oを中心とする円弧状に形成されており、各々の段52,57が互いに周方向につながることにより、段52が第1領域45の全周に亘って連続し、段57が第2領域46の全周に亘って連続する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば段52,57をキャップ部40の内面44の周の一部に設けたり、段52,57を螺線(渦巻線)にしたりすることは当然可能である。
【0046】
段52,57を切削で作る場合、ワークを主軸と共にゆっくり回転させ、刃物をワークに当てながら刃物を左右前後にゆっくり動かすと、段52,57を螺線にできる。螺線による段52が第1領域45に切れ目なく続いている場合、段52は一つであり、螺線による段57が第2領域46に切れ目なく続いている場合、段57は一つである。螺線による段52を第1領域45に複数設けたり、螺線による段57を第2領域46に複数設けたりすることは当然可能である。螺線による段52,57を複数設ける場合、段52,57の螺線の1ピッチ間に螺線を設けたり、螺線同士を周方向に離隔して設けたりすることができる。
【0047】
実施形態では、第2領域46に段57が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2領域46の段57を省略することは当然可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 点火プラグ
13 中心電極
20 主体金具
30 接地電極
31 接地電極の一端部
33 火花ギャップ
40 キャップ部
41 貫通孔
44 キャップ部の内面
45 第1領域
46 第2領域
48 内側開口端
52,57 段
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5