特許第6986050号(P6986050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986050
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】軸受監視装置、軸受監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20211213BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20211213BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G01M13/04
   F16C19/06
   F16C41/00
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-115681(P2019-115681)
(22)【出願日】2019年6月21日
(65)【公開番号】特開2021-1807(P2021-1807A)
(43)【公開日】2021年1月7日
【審査請求日】2021年9月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤裏 英雄
(72)【発明者】
【氏名】平井 幸紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−70570(JP,A)
【文献】 特開2017−219469(JP,A)
【文献】 特開2008−164448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00−99/00
F16C 19/06
F16C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、前記外輪の内周側に前記外輪と同軸状に配置された内輪、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の転動体、及び前記外輪又は前記内輪のひずみを検出するひずみゲージ、を有し、前記ひずみゲージは少なくとも2つの抵抗体を備え、前記抵抗体は、隣接する前記転動体の間隔に合わせて、前記転動体の配列方向と同一方向に配列された2つの抵抗体を含む転がり軸受と、
一方の前記抵抗体の出力に基づいて第1ひずみ波形を生成すると共に、他方の前記抵抗体の出力に基づいて第2ひずみ波形を生成する波形生成部と、
前記第1ひずみ波形から前記第2ひずみ波形を減算し、差分波形を生成する減算部と、
前記差分波形を基準値と比較し、前記転がり軸受の摩耗状態を検出する比較部と、を有する軸受監視装置。
【請求項2】
前記転がり軸受において、2つの前記抵抗体は、前記外輪の外周面又は前記内輪の内周面に配置されている請求項1に記載の軸受監視装置。
【請求項3】
前記転がり軸受において、2つの前記抵抗体は、反予圧側に配置されている請求項2に記載の軸受監視装置。
【請求項4】
前記転がり軸受において、2つの前記抵抗体は、前記外輪の端面又は前記内輪の端面に配置されている請求項1に記載の軸受監視装置。
【請求項5】
前記転がり軸受は、前記外輪の外周に接して配置された筐体を有し、
前記抵抗体は、前記筐体の外周面に配置されている請求項1に記載の軸受監視装置。
【請求項6】
前記転がり軸受は、前記外輪の外周に接して配置された筐体を有し、
前記抵抗体は、前記筐体の端面に配置されている請求項1に記載の軸受監視装置。
【請求項7】
前記転がり軸受において、2つの前記抵抗体は、長手方向を前記外輪又は前記内輪の周方向に向けて配置されている請求項1乃至6の何れか一項に記載の軸受監視装置。
【請求項8】
前記転がり軸受において、前記抵抗体はCr混成膜から形成されている請求項1乃至7の何れか一項に記載の軸受監視装置。
【請求項9】
外輪、前記外輪の内周側に前記外輪と同軸状に配置された内輪、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の転動体、及び前記外輪又は前記内輪のひずみを検出するひずみゲージ、を有し、前記ひずみゲージは少なくとも2つの抵抗体を備え、前記抵抗体は、隣接する前記転動体の間隔に合わせて、前記転動体の配列方向と同一方向に配列された2つの抵抗体を含む転がり軸受の一方の前記抵抗体の出力に基づいて第1ひずみ波形を生成すると共に、他方の前記抵抗体の出力に基づいて第2ひずみ波形を生成するステップと、
前記第1ひずみ波形から前記第2ひずみ波形を減算し、差分波形を生成するステップと、
前記差分波形を基準値と比較し、前記転がり軸受の摩耗状態を検出するステップと、を有する軸受監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受監視装置、軸受監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内周側に軌道面を有する外輪と、外周側に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に介在された転動体と、外輪又は内輪の表面に貼り付け可能なひずみゲージとを備えた転がり軸受が知られている。転がり軸受は、磨耗や潤滑剤不足等の要因により損傷する場合があるため、転がり軸受の運転状態を監視する装置は重要である。
【0003】
例えば、軸受を監視する振動センサが、軸受から離れた位置で回転軸の近くに設けられた軸受監視装置が挙げられる。この軸受監視装置において、振動センサは監視される軸受の軸受欠陥ピークを含む周波数を有する広帯域の信号を獲得し、広帯域の信号は軸受欠陥ピークの存在を識別するために分析される。軸受欠陥ピークが存在する場合には、監視される軸受の劣化が、予め確立されたしきい値基準に少なくとも達したかどうかを判断するために、軸受欠陥ピークの振幅が定量化される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4181842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は、転がり軸受の摩耗状態を検出可能な軸受監視装置は実現できていなかった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、転がり軸受の摩耗状態を検出可能な軸受監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本軸受監視装置は、外輪、前記外輪の内周側に前記外輪と同軸状に配置された内輪、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の転動体、及び前記外輪又は前記内輪のひずみを検出するひずみゲージ、を有し、前記ひずみゲージは少なくとも2つの抵抗体を備え、前記抵抗体は、隣接する前記転動体の間隔に合わせて、前記転動体の配列方向と同一方向に配列された2つの抵抗体を含む転がり軸受と、一方の前記抵抗体の出力に基づいて第1ひずみ波形を生成すると共に、他方の前記抵抗体の出力に基づいて第2ひずみ波形を生成する波形生成部と、前記第1ひずみ波形から前記第2ひずみ波形を減算し、差分波形を生成する減算部と、前記差分波形を基準値と比較し、前記転がり軸受の摩耗状態を検出する比較部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、転がり軸受の摩耗状態を検出可能な軸受監視装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。
図2】第1実施形態に係る転がり軸受を例示する図である。
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図である。
図5】第1実施形態に係る軸受監視装置を例示するブロック図である。
図6】第1実施形態に係る演算部のハードウェアブロック図の例である。
図7】第1実施形態に係る演算部の機能ブロック図の例である。
図8】アナログフロントエンド部で生成された初期のひずみ波形を例示する図である。
図9】アナログフロントエンド部で生成された一定時間経過後のひずみ波形を例示する図である。
図10】第1実施形態に係る軸受監視装置の軸受監視方法を例示するフローチャートである。
図11】第1実施形態の変形例1に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。
図12】第1実施形態の変形例2に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。
図13】第1実施形態の変形例3に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。
図14】第1実施形態の変形例4に係る転がり軸受を例示する斜視図である。
図15】第1実施形態の変形例4に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。
図16】第2実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。
図17】第2実施形態に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
〈第1実施形態〉
[転がり軸受]
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。図2は、第1実施形態に係る転がり軸受を例示する図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は断面図、図2(c)は背面図である。
【0012】
図1及び図2を参照すると、転がり軸受1は、外輪10と、内輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、シール51及び52と、ひずみゲージ100とを有する。なお、図2(a)及び図2(c)において、シール51及び52の図示は便宜的に省略されている。
【0013】
外輪10は、回転軸mを中心軸とする円筒形の構造体である。内輪20は、外輪10の内周側に外輪10と同軸状に配置された円筒形の構造体である。複数の転動体30の各々は、外輪10と内輪20との間に形成される軌道70内に配置された球体である。軌道70内にはグリース等の潤滑剤(図示略)が封入される。シール51及び52は、外輪10の内周面から内輪20側に突起し、軌道70を外界から遮断する。
【0014】
外輪10の内周面には、断面が円弧状の凹部11が外輪10の周方向に形成されている。又、内輪20の外周面には、断面が円弧状の凹部21が内輪20の周方向に形成されている。複数の転動体30は、凹部11及び21により周方向に案内される。
【0015】
保持器40は、軌道70内に配置されて複数の転動体30を保持する。具体的には、保持器40は、回転軸mと同軸の環状体であり、回転軸mの方向における一方の側に転動体30を収容するための凹部41を有し、他方の側が環状体の周方向に連続した背面部42となっている。
【0016】
ひずみゲージ100は、外輪10又は内輪20のひずみを検出するセンサであり、受感部となる抵抗体103a及び103bを有している。本実施形態では、ひずみゲージ100は、外輪10の外周面に貼り付けられており、外輪10のひずみを抵抗体103a及び103bの抵抗値の変化として検出する。
【0017】
抵抗体103a及び103bは、隣接する転動体30の間隔に合わせて、転動体30の配列方向と同一方向に配列されている。
【0018】
ここで、抵抗体が隣接する転動体の間隔に合わせて配列されるとは、転がり軸受が複数の抵抗体を有する場合に、転がり軸受が動作していないときに転がり軸受を正面方向から視て、転がり軸受の回転軸mから各々の転動体の中心を通る直線を放射状に引いて、所定の抵抗体配置領域が1つの直線と交わる位置にあるときに、所定の抵抗体配置領域に隣接する抵抗体配置領域が、該直線に隣接する直線と交わる位置にあることをいう。ここで、抵抗体配置領域は、ゲージ長×ゲージ幅で画定される範囲である。なお、検出感度の観点から、隣接する直線が隣接する抵抗体配置領域の各々の中心近傍を通ることが好ましい。
【0019】
なお、ひずみゲージ100において、抵抗体103a及び103bは、各々の長手方向(ゲージ長方向)を外輪10の周方向に向けて配置されている。外輪10の周方向は軸方向よりも伸縮し易いため、抵抗体103a及び103bの各々の長手方向を外輪10の周方向に向けて配置することで、大きなひずみ波形を得ることができる。以降、特に区別する必要がない場合は、抵抗体103a及び103bを抵抗体103と総称する場合がある。
【0020】
ひずみゲージ100の出力を外部装置でモニタすることにより、転がり軸受1の摩耗状態を監視できる。以下、ひずみゲージ100について詳説する。
【0021】
図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図4は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、図3のA−A線に沿う断面を示している。図3及び図4を参照するに、ひずみゲージ100は、基材101と、機能層102と、抵抗体103a及び103bと、配線104と、端子部105a及び105bとを有している。但し、機能層102は、必要に応じて設ければよい。
【0022】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材101の抵抗体103が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体103が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体103が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体103が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材101の上面101aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材101の上面101aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0023】
基材101は、抵抗体103等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材101の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm〜500μm程度とすることができる。特に、基材101の厚さが5μm〜200μmであると、接着層等を介して基材101の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0024】
基材101は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0025】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材101が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材101は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0026】
機能層102は、基材101の上面101aに抵抗体103の下層として形成されている。すなわち、機能層102の平面形状は、図3に示す抵抗体103の平面形状と略同一である。機能層102の厚さは、例えば、1nm〜100nm程度とすることができる。
【0027】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗体103の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層102は、更に、基材101に含まれる酸素や水分による抵抗体103の酸化を防止する機能や、基材101と抵抗体103との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層102は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0028】
基材101を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗体103がCr(クロム)を含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層102が抵抗体103の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0029】
機能層102の材料は、少なくとも上層である抵抗体103の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0030】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si、TiO、Ta、SiO等が挙げられる。
【0031】
抵抗体103は、機能層102の上面に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。
【0032】
抵抗体103は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体103は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu−Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni−Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0033】
以降は、抵抗体103がCr混相膜である場合を例にして説明する。ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、CrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。又、Cr混相膜に、機能層102を構成する材料の一部が拡散されてもよい。この場合、機能層102を構成する材料と窒素とが化合物を形成する場合もある。例えば、機能層102がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0034】
抵抗体103の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm〜2μm程度とすることができる。特に、抵抗体103の厚さが0.1μm以上であると抵抗体103を構成する結晶の結晶性(例えば、α−Crの結晶性)が向上する点で好ましく、1μm以下であると抵抗体103を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材101からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0035】
機能層102上に抵抗体103を形成することで、安定な結晶相により抵抗体103a及び103bを形成できるため、ゲージ特性(ゲージ率、ゲージ率温度係数TCS、及び抵抗温度係数TCR)の安定性を向上できる。
【0036】
例えば、抵抗体103がCr混相膜である場合、機能層102を設けることで、α−Cr(アルファクロム)を主成分とする抵抗体103を形成できる。α−Crは安定な結晶相であるため、ゲージ特性の安定性を向上できる。
【0037】
ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味する。抵抗体103がCr混相膜である場合、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体103はα−Crを80重量%以上含むことが好ましい。なお、α−Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0038】
又、機能層102を構成する金属(例えば、Ti)がCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性を向上できる。具体的には、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
【0039】
端子部105aは、配線104を介して抵抗体103aの両端部から延在しており、平面視において、抵抗体103a及び配線104よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部105aは、ひずみにより生じる抵抗体103aの抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体103aは、例えば、端子部105a及び配線104の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の配線104及び端子部105aに接続されている。端子部105aの上面を、端子部105aよりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。
【0040】
端子部105bは、配線104を介して抵抗体103bの両端部から延在しており、平面視において、抵抗体103b及び配線104よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部105bは、ひずみにより生じる抵抗体103bの抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体103bは、例えば、端子部105b及び配線104の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の配線104及び端子部105bに接続されている。端子部105bの上面を、端子部105bよりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。
【0041】
なお、抵抗体103a及び103bと配線104と端子部105a及び105bとは便宜上別符号としているが、これらは同一工程において同一材料により一体に形成できる。以降、特に区別する必要がない場合は、端子部105a及び105bを端子部105と総称する場合がある。
【0042】
抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように基材101の上面101aにカバー層106(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層106を設けることで、抵抗体103及び配線104に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層106を設けることで、抵抗体103及び配線104を湿気等から保護できる。なお、カバー層106は、端子部105を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0043】
カバー層106は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成できる。カバー層106は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層106の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm〜30μm程度とすることができる。
【0044】
ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材101を準備し、基材101の上面101aに機能層102を形成する。基材101及び機能層102の材料や厚さは、前述の通りである。但し、機能層102は、必要に応じて設ければよい。
【0045】
機能層102は、例えば、機能層102を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材101の上面101aをArでエッチングしながら機能層102が成膜されるため、機能層102の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0046】
但し、これは、機能層102の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層102を成膜してもよい。例えば、機能層102の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材101の上面101aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層102を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0047】
次に、機能層102の上面全体に抵抗体103、配線104、及び端子部105となる金属層を形成後、フォトリソグラフィによって機能層102並びに抵抗体103、配線104、及び端子部105を図3に示す平面形状にパターニングする。抵抗体103、配線104、及び端子部105の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、同一材料により一体に形成できる。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、例えば、抵抗体103、配線104、及び端子部105を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0048】
機能層102の材料と抵抗体103、配線104、及び端子部105の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層102としてTiを用い、抵抗体103、配線104、及び端子部105としてα−Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0049】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗体103、配線104、及び端子部105を成膜できる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗体103、配線104、及び端子部105を成膜してもよい。
【0050】
これらの方法では、Tiからなる機能層102がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα−Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層102を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
【0051】
なお、抵抗体103がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層102は、抵抗体103の結晶成長を促進する機能、基材101に含まれる酸素や水分による抵抗体103の酸化を防止する機能、及び基材101と抵抗体103との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層102として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0052】
その後、必要に応じ、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するカバー層106を設けることで、ひずみゲージ100が完成する。カバー層106は、例えば、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層106は、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0053】
このように、抵抗体103の下層に機能層102を設けることにより、抵抗体103の結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる抵抗体103を作製できる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、機能層102を構成する材料が抵抗体103に拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性を向上できる。
【0054】
[軸受監視装置]
図5は、第1実施形態に係る軸受監視装置を例示するブロック図である。図5を参照すると、軸受監視装置200は、転がり軸受1と、アナログフロントエンド部210a及び210bと、演算部220とを有する。
【0055】
軸受監視装置200において、転がり軸受1のひずみゲージ100の1対の端子部105aは、例えば、フレキシブル基板やリード線等を用いて、アナログフロントエンド部210aに接続されている。
【0056】
アナログフロントエンド部210aは、例えば、ブリッジ回路211、増幅回路212、A/D変換回路(アナログ/デジタル変換回路)213、インターフェイス214等を備えており、抵抗体103aの出力に基づいて、第1ひずみ波形を生成する。アナログフロントエンド部210aは、温度補償回路を備えていてもよい。アナログフロントエンド部210aは、IC化されていてもよいし、個別部品により構成されていてもよい。
【0057】
アナログフロントエンド部210aでは、例えば、ひずみゲージ100の1対の端子部105aは、ブリッジ回路211に接続される。すなわち、ブリッジ回路211の1辺が一対の端子部105a間の抵抗体103aで構成され、他の3辺が固定抵抗で構成される。これにより、ブリッジ回路211の出力として、抵抗体103aの抵抗値に対応した第1ひずみ波形(アナログ信号)を得ることができる。なお、アナログフロントエンド部210aは、本発明に係る波形生成部の代表的な一例である。
【0058】
アナログフロントエンド部210aにおいて、ブリッジ回路211から出力された第1ひずみ波形は、増幅回路212で増幅された後、A/D変換回路213によりデジタル信号に変換され、インターフェイス214を介して、例えばIC等のシリアル通信により演算部220に出力される。アナログフロントエンド部210aが温度補償回路を備えている場合には、温度補償されたデジタル信号が演算部220に送られる。
【0059】
転がり軸受1のひずみゲージ100の1対の端子部105bは、例えば、フレキシブル基板やリード線等を用いて、アナログフロントエンド部210bに接続されている。
【0060】
アナログフロントエンド部210bは、アナログフロントエンド部210aと同様の機能を備えており、抵抗体103bの出力に基づいて、第2ひずみ波形を生成する。アナログフロントエンド部210bは、アナログフロントエンド部210aと合わせて1つのICとしてもよい。
【0061】
アナログフロントエンド部210bでは、例えば、ひずみゲージ100の1対の端子部105bは、ブリッジ回路211に接続される。すなわち、ブリッジ回路211の1辺が一対の端子部105b間の抵抗体103bで構成され、他の3辺が固定抵抗で構成される。これにより、ブリッジ回路211の出力として、抵抗体103bの抵抗値に対応した第2ひずみ波形(アナログ信号)を得ることができる。なお、アナログフロントエンド部210bは、本発明に係る波形生成部の代表的な一例である。
【0062】
アナログフロントエンド部210bにおいて、ブリッジ回路211から出力された第2ひずみ波形は、増幅回路212で増幅された後、A/D変換回路213によりデジタル信号に変換され、インターフェイス214を介して、例えばIC等のシリアル通信により演算部220に出力される。アナログフロントエンド部210bが温度補償回路を備えている場合には、温度補償されたデジタル信号が演算部220に送られる。
【0063】
演算部220は、アナログフロントエンド部210a及び210bから送られたデジタル化された第1及び第2ひずみ波形に演算処理を行い、転がり軸受1の摩耗状態を監視する。演算部220は、例えば、デジタル化されたひずみ波形の振幅又は周期に基づいて、転がり軸受1の摩耗状態を監視する。演算処理は、例えば、第1ひずみ波形から第2ひずみ波形を減算して差分波形を生成したり、差分波形を基準値と比較したりすることを含む。
【0064】
図6は、第1実施形態に係る演算部のハードウェアブロック図の例である。図6に示すように、演算部220は、主要な構成要素として、CPU(Central Processing Unit)221と、ROM(Read Only Memory)222と、RAM(Random Access Memory)223と、I/F(Interface)224と、バスライン225とを有している。CPU221、ROM222、RAM223、及びI/F224は、バスライン225を介して相互に接続されている。演算部220は、必要に応じ、他のハードウェアブロックを有しても構わない。
【0065】
CPU221は、演算部220の各機能を制御する。記憶手段であるROM222は、CPU221が演算部220の各機能を制御するために実行するプログラムや、各種情報を記憶している。記憶手段であるRAM223は、CPU221のワークエリア等として使用される。又、RAM223は、所定の情報を一時的に記憶できる。I/F224は、他の機器等と接続するためのインターフェイスであり、例えば、アナログフロントエンド部210a及び210bや外部ネットワーク等と接続される。
【0066】
演算部220は、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、所定の機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System On a Chip)、又はGPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。又、演算部220は、回路モジュール等であってもよい。
【0067】
図7は、第1実施形態に係る演算部の機能ブロック図の例である。図7に示すように、演算部220は、主要な機能ブロックとして、減算部2201と、比較部2202とを備えている。演算部220は、必要に応じ、他の機能ブロックを有しても構わない。
【0068】
減算部2201は、デジタル化された第1ひずみ波形から第2ひずみ波形を減算し、第1ひずみ波形と第2ひずみ波形の差分波形を生成する機能を有する。比較部2202は、減算部2201が生成した差分波形を所定の基準値と比較する機能を有する。演算部220は、必要に応じ、その他の機能を有してもよい。
【0069】
図8は、アナログフロントエンド部で生成された初期のひずみ波形を例示する図であり、第1ひずみ波形(A1)、第2ひずみ波形(B1)、及び差分波形(C1)を示している。
【0070】
一般に、ひずみ波形は、ピークとボトムを繰り返す周期的な波形になる。ひずみゲージ100の抵抗体103a及び103bの直下を転動体30が通過したときに、ひずみ量(出力強度)はピークとなり、隣接する転動体30の中間点でボトムとなる。なお、一定時間に現れるひずみ量のピークの個数を検出することで、転がり軸受1の回転数を求めることができる。
【0071】
図8に示すように、初期では、隣接する転動体30の通過位置における振幅や周期のばらつきが小さい。
【0072】
すなわち、抵抗体103aの検出値に基づいて生成された第1ひずみ波形(A1)と、抵抗体103bの検出値に基づいて生成された第2ひずみ波形(B1)とは、振幅と周期が略一致する。その結果、第1ひずみ波形(A1)から第2ひずみ波形(B1)を減算した差分波形(C1)の出力は、略ゼロとなる。
【0073】
図9は、アナログフロントエンド部で生成された一定時間経過後のひずみ波形を例示する図であり、第1ひずみ波形(A2)、第2ひずみ波形(B2)、及び差分波形(C2)を示している。
【0074】
図9に示すように、所定時間動作後は、軌道面や転動体の摩耗により転動体30が滑るため、隣接する転動体30の通過位置における振幅や周期のばらつきが大きくなる。例えば、転がり軸受1の軌道面が摩耗するとひずみ波形の周期が変化し、転動体30が摩耗すると出力強度が変化する。
【0075】
すなわち、抵抗体103aの検出値に基づいて生成された第1ひずみ波形(A2)と、抵抗体103bの検出値に基づいて生成された第2ひずみ波形(B2)との間で、振幅と周期にずれが発生する。その結果、第1ひずみ波形(A2)から第2ひずみ波形(B2)を減算した差分波形(C2)の出力は略ゼロとはならず、出力強度が大きく変動した波形となる。
【0076】
このように、軌道面や転動体の摩耗によりひずみ波形の振幅及び周期のばらつきが変わるため、演算部220は、差分波形に基づいて、転がり軸受1の摩耗状態を監視できる。
【0077】
図10は、第1実施形態に係る軸受監視装置の軸受監視方法を例示するフローチャートである。図10に示すステップS1では、減算部2201は、アナログフロントエンド部210a及び210bから初期の第1ひずみ波形及び第2ひずみ波形のデータを取得し、第1ひずみ波形から第2ひずみ波形を減算し、初期の差分波形を生成する。
【0078】
次に、ステップS2では、比較部2202は、初期の差分波形を閾値Th1及びTh2と比較し、転がり軸受1の摩耗状態を検出する。閾値Th1及びTh2は、検知したい摩耗状態に応じて設定され、予めRAM等に記憶されている。
【0079】
ステップS2で、差分波形が閾値Th1及びTh2の少なくとも一方を超えていれば(NOの場合)、ステップS5に移行し、比較部2202は、初期不良であることを外部に出力(データ出力、警告音の発生、警告灯の点灯等)する。ステップS2で、差分波形が閾値Th1及びTh2以下であれば(YESの場合)、ステップS3に移行する。
【0080】
例えば、ステップS2で図8の波形が得られた場合には、差分波形(C1)は閾値Th1及びTh2以下であるため、初期状態では転がり軸受1の摩耗状態に異常はなく、転がり軸受1が正常に運転されていることが確認できる。この場合は、ステップS3に移行する。
【0081】
次に、ステップS3では、減算部2201は、所定時間経過後の第1ひずみ波形及び第2ひずみ波形のデータを取得し、第1ひずみ波形から第2ひずみ波形を減算し、所定時間経過後の差分波形を生成する。
【0082】
次に、ステップS4では、比較部2202は、所定時間経過後の差分波形を閾値Th1及びTh2と比較し、転がり軸受1の摩耗状態を検出する。ステップS4で、差分波形が閾値Th1及びTh2の少なくとも一方を超えていれば(NOの場合)、ステップS5に移行し、比較部2202は、転がり軸受1が予め設定された摩耗状態に達したことを外部に出力(データ出力、警告音の発生、警告灯の点灯等)する。ステップS4で、差分波形が閾値Th1及びTh2以下であれば(YESの場合)、再びステップS3に移行し、減算部2201及び比較部2202は、所定時間経過毎に、上記の動作を繰り返す。
【0083】
例えば、ステップS4で図9の波形が得られた場合には、差分波形(C2)が閾値Th1を超えているため、このタイミングで、転がり軸受1は予め設定された摩耗状態に達したことになる。この場合、ステップS5に移行し、比較部2202は、転がり軸受1が予め設定された摩耗状態に達したことを外部に出力(データ出力、警告音の発生、警告灯の点灯等)する。
【0084】
なお、上記の摩耗の判断基準は一例であり、これには限定されない。例えば、差分波形が閾値Th1及びTh2の両方を1回以上超えたときに、転がり軸受1が所定の摩耗状態に達したと判断してもよいし、差分波形が閾値Th1及びTh2の両方を所定回以上超えたときに、転がり軸受1が所定の摩耗状態に達したと判断してもよいし、その他の判断基準としてもよい。
【0085】
又、閾値Th1及びTh2は、所定時間経過後の差分波形と比較する基準値の一例であり、これには限定されない。例えば、初期の差分波形を基準値とし、所定時間経過後の差分波形が初期の差分波形に対して一定以上変化した場合に、所定の摩耗状態に達したと判断してもよい。
【0086】
なお、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は、高感度化(従来比500%以上)かつ、小型化(従来比1/10以下)を実現している。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、ひずみゲージ100では0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。又、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、ひずみゲージ100の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化できる。
【0087】
このように、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は小型であるため、転がり軸受1の所望の個所に容易に貼り付け可能である。又、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は高感度であり、小さい変位を検出できるため、従来は検出が困難であった微小なひずみを検出可能である。すなわち、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100を有することにより、ひずみを精度よく検出する機能を備えた転がり軸受1を実現できる。その結果、転がり軸受1の摩耗状態を検出可能な軸受監視装置200を実現できる。
【0088】
なお、転がり軸受1では、外輪10が回転する場合と、内輪20が回転する場合がある。外輪10が回転する場合は、ひずみゲージ100は内輪20の内周面又は端面に配置し、内輪20が回転する場合は、ひずみゲージ100は外輪10の外周面又は端面に配置する。
【0089】
つまり、以上の説明は、外輪10にひずみゲージ100を貼り付ける例であり、内輪20が回転する場合である。転がり軸受1において、外輪10が回転する場合は、ひずみゲージ100を内輪20に貼り付けることで、上記と同様の効果を奏する。以降の実施形態についても同様である。
【0090】
〈第1実施形態の変形例〉
第1実施形態の変形例では、第1実施形態とは異なるひずみゲージを備えた転がり軸受の例を示す。なお、第1実施形態の変形例において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0091】
図11は、第1実施形態の変形例1に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。図11を参照すると、転がり軸受1Aは、ひずみゲージ100がひずみゲージ100Aに置換された点が、転がり軸受1(図2等参照)と相違する。ひずみゲージ100が外輪10の外周面に配置されていたのとは異なり、ひずみゲージ100Aは外輪10の一方の端面に沿って周方向に配列されている。
【0092】
ひずみゲージ100Aは、ひずみゲージ100と同様の構成であるが、外輪10の端面に貼り付け可能な形状に形成されている。ひずみゲージ100Aにおいて、抵抗体103a及び103bは、隣接する転動体30の間隔に合わせて、転動体30の配列方向と同一方向に配列されている。
【0093】
このように、受感部となる抵抗体は、外輪10の外周面ではなく外輪10の端面に配置してもよい。図5に示した軸受監視装置200において、ひずみゲージ100に代えてひずみゲージ100Aを用いることで、転がり軸受1の場合と同様に、転がり軸受1Aの摩耗状態を監視できる。
【0094】
図12は、第1実施形態の変形例2に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。図12を参照すると、転がり軸受1Bは、ひずみゲージ100がひずみゲージ100Bに置換された点が、転がり軸受1(図2等参照)と相違する。ひずみゲージ100が外輪10の外周面に配置されていたのとは異なり、ひずみゲージ100Bは内輪20の内周面に沿って周方向に配列されている。
【0095】
ひずみゲージ100Bは、ひずみゲージ100と同様の構成であるが、内輪20の内周面に貼り付け可能な形状に形成されている。ひずみゲージ100Bにおいて、抵抗体103a及び103bは、隣接する転動体30の間隔に合わせて、転動体30の配列方向と同一方向に配列されている。
【0096】
このように、受感部となる抵抗体は、外輪10の外周面ではなく内輪20の内周面に配置してもよい。図5に示した軸受監視装置200において、ひずみゲージ100に代えてひずみゲージ100Bを用いることで、転がり軸受1の場合と同様に、転がり軸受1Bの摩耗状態を監視できる。
【0097】
図13は、第1実施形態の変形例3に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。図13を参照すると、転がり軸受1Cは、ひずみゲージ100がひずみゲージ100Cに置換された点が、転がり軸受1(図2等参照)と相違する。ひずみゲージ100が外輪10の外周面に配置されていたのとは異なり、ひずみゲージ100Bは内輪20の一方の端面に沿って周方向に配列されている。
【0098】
ひずみゲージ100Cは、ひずみゲージ100と同様の構成であるが、内輪20の一方の端面に貼り付け可能な形状に形成されている。ひずみゲージ100Cにおいて、抵抗体103a及び103bは、隣接する転動体30の間隔に合わせて、転動体30の配列方向と同一方向に配列されている。
【0099】
このように、受感部となる抵抗体は、外輪10の外周面ではなく内輪20の端面に配置してもよい。図5に示した軸受監視装置200において、ひずみゲージ100に代えてひずみゲージ100Cを用いることで、転がり軸受1の場合と同様に、転がり軸受1Cの摩耗状態を監視できる。
【0100】
なお、前述のように、転がり軸受では、外輪10が回転する場合と、内輪20が回転する場合がある。図12図13のように内輪20にひずみゲージを貼り付ける場合は、外輪10が回転する場合である。
【0101】
図14は、第1実施形態の変形例4に係る転がり軸受を例示する斜視図である。図15は、第1実施形態の変形例4に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。図14及び図15を参照すると、転がり軸受1Dは、ひずみゲージ100がひずみゲージ100Dに置換された点が、転がり軸受1(図2等参照)と相違する。転がり軸受1Dには、軸と平行な矢印方向に予圧Fが与えられている。
【0102】
ひずみゲージ100が外輪10の外周面の幅方向全体に配置されていたのとは異なり、ひずみゲージ100Dは外輪10の外周面の反予圧側に配置されている。ひずみゲージ100Dにおいて、抵抗体103a及び103bは、隣接する転動体30の間隔に合わせて、転動体30の配列方向と同一方向に配列されている。
【0103】
転がり軸受1Dが回転装置に使用される場合、転がり軸受1Dの外周面はハウジング(筐体)の内周面と接して押さえられるが、ひずみゲージ100Dを配置した部分はひずみゲージ100Dがハウジングと接しないようにハウジング側に逃げが設けられる。
【0104】
ハウジング側に逃げが設けられた部分では、転がり軸受1Dの外周面がハウジングの内周面と接して押さえられない。特に、大きな力が加わる転動体30の直上にハウジング側の逃げが位置する場合には、転動体30の直上の外周面が大きくひずむことになる。外周面の特定部分が大きくひずむと、それが要因となって転がり軸受1Dの寿命が短くなる場合があるため、転動体30の直上に位置する外輪10の外周面は、全周に亘ってハウジングの内周面と接して押さえられることが好ましい。
【0105】
転がり軸受1Dでは、予圧Fが与えられているため、転動体30は、外輪10の厚さ方向の中央よりも矢印の逆方向に偏在している。そこで、抵抗体103a及び103bを外輪10の外周面の反予圧側に配置すれば、抵抗体103a及び103bの部分のみにハウジングの逃げを設ければよく、転動体30の直上に位置する外輪10の外周面は、全周に亘ってハウジングの内周面と接して押さえることができる。
【0106】
なお、ハウジング側の逃げを設ける代わりに外輪10や内輪20にひずみゲージを配置する凹部を設けることも考えられる。
【0107】
ひずみゲージ100Dの検出対象となるひずみは、転動体30の直上に位置する外輪10の外周面で最も大きく、外輪10の外周面の反予圧側では転動体30の直上よりも小さくなる。そのため、従来のひずみゲージを外輪10の外周面の反予圧側に配置してもひずみ波形を得ることは困難であった。これに対して、抵抗体にCr混相膜を用いたひずみゲージ100Bは高感度であり、小さい変位を検出できるため、外輪10の外周面の反予圧側に配置してもひずみ波形を精度よく得ることができる。
【0108】
なお、図11の形態でも、転動体30の直上に位置する外輪10の外周面は、全周に亘ってハウジングの内周面と接して押さえることができる。しかし、図14及び図15の形態の方が、外輪10の端面よりもひずみゲージの貼り付けが容易である点、外輪10の端面よりも大きなひずみ波形が得られる点で、図11の形態よりも有利である。
【0109】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、外輪の外側にハウジングを有する転がり軸受の例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0110】
図16は、第2実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。図17は、第2実施形態に係る転がり軸受を例示する部分正面図である。図16及び図17を参照すると、転がり軸受1Eは、外輪10の外周側に配置されたハウジング60を有し、ひずみゲージ100は、ハウジング60の外周面に配置されている。ハウジング60は、外輪10の外周面を全周に亘って押さえている。ハウジング60は、例えば、真鍮等により形成できる。
【0111】
例えば、外輪10が小径(例えば、直径20mm程度)であって、外輪10にひずみゲージ100を配置することが困難な場合がある。このような場合、転がり軸受1Eのように、外輪10の外周側にハウジング60を配置し、ハウジング60の外周面にひずみゲージ100を配置すればよい。或いは、ハウジング60の端面にひずみゲージ100を配置してもよい。これにより、ひずみゲージ100を容易に配置できる。外輪10のひずみは、ハウジング60を介してひずみゲージ100に伝わり、ひずみゲージ100で検出可能である。
【0112】
前述のように、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は高感度であり、小さい変位を検出できるため、従来は検出が困難であった微小なひずみを検出可能である。すなわち、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100を有することにより、ひずみを精度よく検出する機能を備えた転がり軸受1Eを実現できる。その結果、ハウジング60にひずみゲージ100を配置しても、転がり軸受1Eの摩耗状態を検出可能な軸受監視装置200を実現できる。
【0113】
なお、ハウジングの形状は円環状には限定されず、任意の形状として構わない。或いは、転がり軸受1Eがファンモータ等の回転装置に使用される場合、ハウジング60は回転装置のハウジングを兼ねてもよい。すなわち、転がり軸受を有する回転装置において、回転装置のハウジングの外周面や端面にひずみゲージを配置してもよい。
【0114】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0115】
1、1A、1B、1C、1D、1E 転がり軸受、10 外輪、11、21、41 凹部、20 内輪、30 転動体、40 保持器、42 背面部、51、52 シール、60 ハウジング、70 軌道、100、100A、100B、100C、100D ひずみゲージ、101 基材、101a 上面、102 機能層、103a、103b 抵抗体、104 配線、105a、105b 端子部、106 カバー層、200 軸受監視装置、210a、210b アナログフロントエンド部、211 ブリッジ回路、212 増幅回路、213 A/D変換回路、214 インターフェイス、220 演算部、2201 減算部、2202 比較部
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