【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー ・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低 減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池 の技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許 出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エピタキシャル結晶シリコン基板の、多孔質層からの分離面である第一主面側に、第一導電型シリコン系半導体層、薄膜光電変換ユニット、および受光面透明電極層が形成される、請求項2に記載の積層型光電変換装置の製造方法。
前記エピタキシャル結晶シリコン基板のエピタキシャル成長面である第二主面の全面に、テクスチャ構造が形成され、テクスチャ構造が形成された第二主面上に、第二導電型シリコン系半導体層、および裏面電極が形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層型光電変換装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1で提案されているような鏡面研磨されたシリコン基板は、非常に高価であり量産性も乏しいため、工業的な実用化が困難である。本発明は、工業的に作製可能な、変換効率に優れる積層型光電変換装置の作製方法を提供する。また、ペロブスカイト太陽電池は、溶液法にて作製されているため、剥がれが生じやすいといった問題もある。本発明は、信頼性の高い積層型光電変換装置および積層型光電変換装置モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
平坦面を有するエピタキシャル結晶シリコン基板を用いることにより、変換効率に優れる積層型光電変換装置を作製可能である。また、エピタキシャル基板の突起を用いることにより、高信頼性の積層型光電変換装置および積層型光電変換装置モジュールを作製可能である。
【0010】
本発明は、結晶シリコン基板を含む結晶シリコン系光電変換ユニットの受光面側に薄膜光電変換ユニットを備える積層型光電変換装置の製造方法であって、積層型光電変換装置は、結晶シリコン基板の第一主面側に、第一導電型シリコン系半導体層、薄膜光電変換ユニット、および受光面透明電極層を順に備え;前記結晶シリコン基板の第二主面側に、第二導電型シリコン系半導体層、および裏面電極を順に備え;前記薄膜光電変換ユニットは、前記結晶シリコン基板側から、第二半導体層、光吸収層、および第一半導体層を備え、前記結晶シリコン基板は、多孔質層を有する下地結晶シリコン基板の多孔質層上にシリコンをエピタキシャル製膜した後、前記下地結晶シリコン基板から分離することにより得られたエピタキシャル結晶シリコン基板であり、第二主面上に、局所的に、結晶シリコン基板の厚み以上の高さを有する凸部が設けられており、前記薄膜光電変換ユニットの少なくとも一部が溶液法により形成され
る。
【0011】
一実施形態では、多孔質層を有する下地結晶シリコン基板の多孔質層上にシリコンをエピタキシャル製膜した後
、多孔質層から分離することにより
、エピタキシャル結晶シリコン基板が得られ
る。一実施形態では、エピタキシャル結晶シリコン基板の、多孔質層からの分離面である第一主面側に、第一導電型シリコン系半導体層、薄膜光電変換ユニット、および受光面透明電極層が形成される。
【0012】
一実施形態では、エピタキシャル結晶シリコン基板のエピタキシャル成長面である第二主面の全面に、テクスチャ構造が形成され、テクスチャ構造が形成された第二主面上に、第二導電型シリコン系半導体層、および裏面電極が形成される。
【0013】
本発明は、また、上記の積層型光電変換装置を封止材で挟み、封止材を溶融させることで凸部を封止材内に埋没させる工程を備える、積層型光電変換装置モジュールの製造方法に関する。
【0014】
エピタキシャル結晶シリコン基板は、多孔質層からの分離面である第一主面側が高い平滑性を有する。エピタキシャル結晶シリコン基板は、エピタキシャル成長面である第二主面に、局所的に凸部を有
する。エピタキシャル成長面の凸部の高さは、エピタキシャル結晶シリコン基板の厚み以上で
ある。凸部のあるエピタキシャル結晶シリコン基板を用いることによって、性能の高い積層型光電変換装置を実現できる。エピタキシャル結晶シリコン基板の平坦な面を用いることで薄膜光電変換ユニットを溶液法によって製膜しても短絡が生じない。また、凸部があることによって、溶液法で薄膜光電変換ユニットを形成する際も、製膜装置とエピタキシャル結晶シリコン基板が直接触れることがないため、こすれなどによる性能低下を防止できる。
【0015】
薄膜光電変換ユニットは、エピタキシャル結晶シリコン基板の多孔質層からの分離面である第一主面側に形成されることが好ましい。薄膜光電変換ユニットの光吸収層は、例えばペロブスカイト型結晶材料を含有する。薄膜光電変換ユニットの少なくとも一部は溶液法により形成されてもよい。エピタキシャル結晶シリコン基板の平坦な面を用いることによって、短絡がなく性能の高い積層型光電変換装置の作製を実現できる。
【0016】
エピタキシャル結晶シリコン基板の第二主面には、異方性エッチング等により全面にテクスチャ構造が形成されてもよい。積層型光電変換装置の裏面側にテクスチャを設けることによって、光の取り込み量が増え性能の高い積層型光電変換装置の作製が可能となる。これはテクスチャによる多重散乱を用いた光取り込み効果による。
【0017】
積層型光電変換装置モジュールは、電気的につながった複数の積層型光電変換装置を封止材で挟み込むことで作製され、
封止材を溶融させること
で凸部を封止材内に埋没させ
る。凸部を封止材内に埋没させることによって、信頼性の高い積層型光電変換装置モジュールを実現できる。つまり、凸部
を封止材に埋没させることによって積層型光電変換装置と封止材との間の密着性が高くなり、寒暖差にて起こる薄膜光電変換ユニットと結晶シリコン系光電変換ユニット、薄膜光電変換ユニットと配線材の剥がれを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態の積層型光電変換装置の模式的断面図であり、図の上側が受光面側、図の下側が裏面側である。
【0025】
光電変換装置は、結晶シリコン系光電変換ユニット2の第一主面上(受光面側)に薄膜光電変換ユニット1を備える。薄膜光電変換ユニット1の第一主面上には、受光面透明電極層41およびパターン状の受光面グリッド電極42が設けられている。結晶シリコン系光電変換ユニット2の第二主面上(裏面側)には、裏面透明電極層51、裏面金属電極52が設けられている。
【0026】
結晶シリコン系光電変換ユニット2は、結晶シリコン基板を備える。結晶シリコン系光電変換ユニット2に用いられる結晶シリコン基板21は、エピタキシャル結晶シリコン基板である。
図2は、エピタキシャル結晶シリコン基板の作製手順を示す概念図である。
【0027】
まず、結晶シリコン基板31を準備する(
図2A)。下地結晶シリコン基板31の表面の凹凸が少ないほど、その上エピタキシャル結晶シリコンを平坦に成長させることができる。陽極酸化等により結晶シリコン基板31の表面を酸化して、多孔質シリコン層32を形成し(
図2B)、多孔質シリコン層32上でシリコンをエピタキシャル製膜することにより、エピタキシャル結晶シリコン層21が形成される(
図2C)。
【0028】
エピタキシャル結晶シリコン基板の厚みは、例えば100〜300μm程度である。厚みを100μm以上とすることにより、積層型光電変換装置の結晶シリコン系光電変換ユニットにおいて、長波長光の吸収量を高め、変換特性を向上できる。エピタキシャル結晶シリコン基板の厚みが300μm以下であれば、エピタキシャル製膜の時間を短縮できる。エピタキシャル結晶シリコン基板の厚みは、120〜280μmがより好ましく、150〜250μmがさらに好ましい。
【0029】
結晶シリコンのエピタキシャル成長面には、局所的に、ピラミッド形状の凸部215が形成され
る。この凸部は、エピタキシャル結晶シリコン基板の厚み以上であ
る。例えば、エピタキシャル結晶シリコンを200μm程度の厚みで成長させた場合、200〜800μm程度の高さを有する凸部205が形成される(
図6参照)。エピタキシャル成長面は第二主面として使われ
る。積層型光電変換装置
の製造では、エピタキシャル基板上に複数の膜を形成していくため、こすれなどによって性能を落としやすい。凸部が第二主面にあることでエピタキシャル結晶シリコン基板そのものが工程中に別のものと触れることを防止することができ、性能低下を防止することができる。
【0030】
多孔質層32およびエピタキシャル結晶シリコン基板21を下地結晶シリコン基板31から分離し(
図2D)、多孔質シリコン層32を除去することにより(
図2E)、エピタキシャル結晶シリコン基板21として活用できる。エピタキシャル結晶シリコン基板21の導電型は、n型でもp型でもよい。エピタキシャル結晶シリコン基板21は、多孔質シリコン層32からの分離面である第一主面21aが平坦性に優れている。
【0031】
結晶シリコン系光電変換ユニットは、エピタキシャル結晶シリコン基板21上の受光面側および裏面側のそれぞれに、導電型シリコン系半導体層24,25を有する。受光面側の第一導電型シリコン系半導体層24は第一導電型を有し、裏面側の第二導電型シリコン系半導体層25は第二導電型を有する。第一導電型と第二導電型は異なる導電型であり、一方がp型、他方がn型である。
【0032】
エピタキシャル結晶シリコン基板21の表面にp層およびn層を有する結晶シリコン系光電変換ユニットとしては、拡散型シリコン光電変換ユニットやヘテロ接合シリコン光電変換ユニットが挙げられる。拡散型シリコン系光電変換ユニットでは、結晶シリコン基板の表面にホウ素やリン等のドープ不純物を拡散させることにより、導電型シリコン系半導体層24,25が形成される。
【0033】
ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットでは、導電型シリコン系半導体層24,25として、非晶質シリコンや微結晶シリコン等の導電型シリコン系薄膜が設けられ、エピタキシャル結晶シリコン基板21と導電型シリコン系薄膜24,25との間でヘテロ接合が形成されている。ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットは、エピタキシャル結晶シリコン基板21と導電型シリコン系薄膜24,25との間に、真性シリコン系薄膜22,23を有することが好ましい。エピタキシャル結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、エピタキシャル結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。
【0034】
結晶シリコン系光電変換ユニット2の受光面側には、薄膜光電変換ユニット1が設けられる。薄膜光電変換ユニット1は、エピタキシャル結晶シリコン基板21側(結晶シリコン系光電変換ユニット2側)から、裏面側半導体層11、光吸収層12、および受光面側半導体層13を順に備える。光吸収層12は、太陽光を吸収して光励起キャリアを生成する層であり、結晶シリコンよりもバンドギャップの広い材料からなる。結晶シリコンよりも広バンドギャップの薄膜材料としては、非晶質シリコンや非晶質シリコンカーバイド等の非晶質シリコン系材料、ポリマー材料、ペロブスカイト型結晶材料等が挙げられる。
【0035】
薄膜光電変換ユニット1の受光面側の第一半導体層13は、結晶シリコン系光電変換ユニット2の第一導電型シリコン系半導体層24と同一の導電型を有する。薄膜光電変換ユニット1の裏面側の第二半導体層11は、結晶シリコン系光電変換ユニット2の第二導電型シリコン系半導体層25と同一の導電型を有する。例えば、第一導電型シリコン系半導体層24がp型、第二導電型シリコン系半導体層25がn型の場合、薄膜光電変換ユニット1は、受光面側半導体層13がp型、裏面側半導体層11がn型である。したがって、薄膜光電変換ユニット1と結晶シリコン系光電変換ユニット2とは、直列接続されており、両者は同一方向の整流性を有する。
【0036】
なお、受光面側半導体層13および裏面側半導体層11が有機半導体や酸化物である場合、電子輸送性であればn型、正孔輸送性であればp型とみなす。例えば、結晶シリコン系光電変換ユニット2の第一導電型シリコン系半導体層24がp型、第二導電型シリコン系半導体層25がn型であり、薄膜光電変換ユニット1が光吸収層12としてペロブスカイト型結晶材料を用いたペロブスカイト光電変換ユニットである場合、受光面側半導体層13がp型(正孔輸送層)、裏面側半導体層11がn型(電子輸送層)であればよい。
【0037】
薄膜光電変換ユニット1の受光面側には受光面グリッド電極42、受光面透明電極層41が設けられ、結晶シリコン系光電変換ユニット2の裏面側には裏面透明電極層51および裏面金属電極52からなる裏面電極が設けられている。
【0038】
以下では、結晶シリコン系光電変換ユニットとしてヘテロ接合シリコン光電変換ユニット2を用い、その上に薄膜光電変換ユニットしてとしてペロブスカイト光電変換ユニット1を備えた、積層型光電変換装置を例として、本発明の実施形態をより詳細に説明する。この実施形態では、第一導電型シリコン系半導体層がp型、第二導電型シリコン系半導体層がn型、受光面側半導体層が正孔輸送層、裏面側半導体層が電子輸送層である。
【0039】
本実施形態では、エピタキシャル結晶シリコン基板21として、n型エピタキシャル結晶シリコン基板を用いる。n型エピタキシャル結晶シリコン基板21の第一主面上に真性シリコン系薄膜22および第一導電型シリコン系半導体層としてp型シリコン系薄膜24が形成され、n型エピタキシャル結晶シリコン基板21の第二主面上に真性シリコン系薄膜23および第二導電型シリコン系半導体層としてn型シリコン系薄膜25が形成される。前述のように、エピタキシャル結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、エピタキシャル結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。
【0040】
表面パッシベーションを有効に行うために、エピタキシャル結晶シリコン基板21の表面に、真性シリコン系薄膜22,23として真性非晶質シリコン薄膜を製膜することが好ましい。真性シリコン系薄膜23,24の膜厚は、それぞれ、2〜15nm程度が好ましい。エピタキシャル結晶シリコン基板が第二主面にテクスチャ構造を有している場合、テクスチャ斜面の法線方向を膜厚方向とする。
【0041】
導電型シリコン系薄膜24,25としては、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンを含む材料)や、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金等が用いられる。シリコン合金としては、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、導電型シリコン系半薄膜は、非晶質シリコン薄膜であることが好ましい。導電型シリコン系薄膜24,25の膜厚は、3〜30nm程度が好ましい。
【0042】
シリコン系薄膜22、23、24,25はプラズマCVD(化学気相蒸着)法により製膜されることが好ましい。エピタキシャル結晶シリコン基板21の第二主面に局所的な凸部215が形成されている場合や、全面にテクスチャが形成されている場合でも、プラズマCVD等のドライプロセスによりシリコン系薄膜23,25を製膜すれば、全面を均一に被覆できる。
【0043】
結晶シリコン系光電変換ユニット2のp型シリコン系薄膜24上に、裏面側半導体層である電子輸送層11、光吸収層12および受光面側半導体層である正孔輸送層13が順に製膜され、薄膜光電変換ユニット1が形成される。薄膜光電変換ユニット1と結晶シリコン系光電変換ユニット2との間には、薄膜光電変換ユニットと結晶シリコン系光電変換ユニットとの電気的な接続や、電流マッチングのための入射光量の調整等を目的として中間層(不図示)が設けられていてもよい。
【0044】
電子輸送層11としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の無機材料が好ましく用いられる。PCBMをはじめとするフラーレン系材料や、ペリレン系材料等の有機材料を、電子輸送層の材料として用いることもできる。電子輸送層には、ドナーが添加されていてもよい。例えば、電子輸送層として酸化チタンが用いられる場合、ドナーとしては、イットリウム、ユウロピウム、テルビウム等が挙げられる。
【0045】
光吸収層12は、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料(ペロブスカイト型結晶材料)を含有する。ペロブスカイト型結晶材料を構成する化合物は、一般式RNH
3MX
3またはHC(NH
2)
2MX
3で表される。式中、Rはアルキル基であり、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。Mは2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲンが混在していてもよい。ハロゲンXの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。
【0046】
光吸収層12が吸収する光の波長範囲は、ペロブスカイト型結晶材料のバンドギャップで決まる。薄膜光電変換ユニットと結晶シリコン系光電変換ユニットとの電流マッチングを取る観点から、ペロブスカイト光吸収層12のバンドギャップは、1.55〜1.75eVであることが好ましく、1.6〜1.65eVであることがより好ましい。例えば、ペロブスカイト型結晶材料が式CH
3NH
3PbI
3-yBr
yで表される場合、バンドギャップを1.55〜1.75eVにするためにはy=0〜0.85程度が好ましく、バンドギャップを1.60〜1.65eVにするためにはy=0.15〜0.55程度が好ましい。
【0047】
正孔輸送層13としては、有機材料が好ましく用いられ、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ[ビス(4−フェニル)(2,4,6−トリフェニルメチル)アミン](PTAA)等のトリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポルフィリン、フタロシアニン等の錯体が挙げられる。MoO
3、WO
3、NiO、CuO等の無機酸化物も正孔輸送層の材料として用いることができ、有機材料と積層してもよい。
【0048】
ペロブスカイト光電変換ユニットの電子輸送層11、光吸収層12および正孔輸送層13の製膜方法は特に限定されず、材料の特定等に応じて、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等の乾式法や、スピンコート法、スプレー法、バーコート法等の溶液法を採用できる。結晶シリコン系光電変換ユニット2にエピタキシャル結晶シリコン基板21を用いることによって、その上に均一性の高い薄膜を溶液法により製膜可能である。特に、エピタキシャル結晶シリコン基板21の第一主面21a(多孔質シリコン層からの分離面)はシリコンのエピタキシャル成長に起因する凸部を有しておらず平坦性に優れるため、第一主面上に、溶液法により薄膜を形成した場合は、表面を均一に被覆することが可能であり、短絡を防止できる。
【0049】
例えば、光吸収層12としてCH
3NH
3PbI
3を製膜する場合、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中に、ヨウ化鉛とヨウ化メチルアンモニウムを混合した溶液をスピンコート法にて塗布し、塗膜を加熱することにより、CH
3NH
3PbI
3結晶を成長させることができる。塗膜の表面に貧溶媒を接触させることにより、結晶性を向上させることもできる。
【0050】
光吸収層は、乾式法と溶液法との組み合わせにより作製することもできる。例えば、真空蒸着法によりヨウ化鉛の薄膜を形成し、その表面にヨウ化メチルアンモニウムのイソプロピルアルコール溶液を接触させることにより、CH
3NH
3PbI
3の結晶が得られる。蒸着膜の表面に溶液を接触させる方法としては、スピンコート等により溶液を塗布する方法や、溶液中に基板を浸漬する方法が挙げられる。
【0051】
ヘテロ接合シリコン光電変換ユニット2の裏面には裏面透明電極層51が形成され、ペロブスカイト光電変換ユニット1の受光面には受光面透明電極層41が形成される。透明電極層の材料としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)等の酸化物や、酸化インジウム錫(ITO)等の複合酸化物等を用いることが好ましい。また、In
2O
3やSnO
2にWやTi等をドープした材料を用いてもよい。このような透明導電性酸化物は、透明性を有しかつ低抵抗であるため、光励起キャリアを効率よく収集できる。透明電極層の製膜方法は、スパッタ法やMOCVD法等が好ましい。透明電極層として、酸化物以外に、Agナノワイヤ等の金属細線や、PEDOT−PSS等の有機材料を用いることもできる。
【0052】
受光面透明電極層41上に受光面グリッド電極42が設けられる。受光面グリッド電極42のパターン形状は、例えば、平行に並んだ複数のフィンガー電極と、フィンガー電極と直交方向に延在するバスバー電極とからなるグリッド形状が挙げられる。
【0053】
受光面透明電極層41としてITO等の金属酸化物が用いられる場合、受光面の最表面には反射防止膜(不図示)を設けることが好ましい。MgF等の低屈折率材料からなる反射防止膜を最表面に設けることにより、空気界面での屈折率差を小さくして反射光を低減し、光電変換ユニットに取り込まれる光量を増大できる。
【0054】
裏面透明電極層51上には、裏面金属電極52が設けられる。裏面金属電極は、ベタ膜であっても、グリッド状であってもよい。裏面金属電極には、長波長光の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。裏面金属電極は、印刷法、各種物理気相蒸着法、めっき法等により形成できる。
【0055】
図3に示すように、積層型光電変換装置は、結晶シリコン系光電変換ユニット2の裏面側にテクスチャ構造を有していてもよい。裏面側にテクスチャ構造を有することにより、光取り込み効果が得られるため、積層型光電変換装置の変換特性を向上できる。例えば、エピタキシャル結晶シリコン基板21の第二主面にテクスチャ構造を設けることにより、テクスチャ構造を有する結晶シリコン系光電変換ユニットを作製できる。
【0056】
エピタキシャル結晶シリコン基板の第二主面へのテクスチャの形成方法は特に限定されない。例えば、一般的な単結晶シリコン基板表面へのテクスチャの形成と同様、アルカリ等を用いた異方性エッチングにより、表面にテクスチャを形成できる。エピタキシャル結晶シリコン基板の表面にテクスチャを形成する際、薄膜光電変換ユニット形成面である第一主面にはテクスチャを形成せずに、平坦性を維持することが好ましい。
【0057】
エピタキシャル結晶シリコン基板の第二主面に選択的にテクスチャを形成し、第一主面にはテクスチャが形成されないようにするためには、第一主面を保護した状態で異方性エッチングを行えばよい。例えば、
図4に示すように、下地結晶シリコン基板31からエピタキシャル結晶シリコン基板21を分離する前にテクスチャを形成し(
図4D)、その後、第二主面21bに第一主面から下地結晶シリコン基板31および多孔質層32を順次分離することにより、第二主面21bの全面にテクスチャを有し、第一主面21aが平坦なエピタキシャル結晶シリコン基板が得られる。また、
図5に示すように、下地結晶シリコン基板から分離後のエピタキシャル結晶シリコン基板21の第一主面上に保護層61を設け(
図5D)、第二主面のみを異方性エッチングしてもよい。下地結晶シリコン基板からの分離前にテクスチャを形成する方法は、保護層の形成が不要であるため、簡便にテクスチャを形成可能である。一方で、下地結晶シリコンから分離後のエピタキシャル結晶シリコン基板に保護層を設ける方法は、多孔質層の残余物等を気にせずにプロセスを行うことができる。
【0058】
積層型光電変換装置100は、実用化に当たり複数の積層型光電変換装置を電気的につなぎ、積層型光電変換装置モジュール700とすることが好ましい。積層型光電変換装置は、例えば、
図7に示すように、光受光面側から、透明基板71、封止材72A、配線材73で連結された積層型光電変換装置100、封止材72B、裏面側保護部材74の構造をしている。
【0059】
透明基板71は、ガラス板、樹脂板、樹脂フィルムなど、高い透過性を有する材料であれば何を用いてもよい。裏面側保護部材74は、裏面側から光を取り入れたい場合、受光面側の保護部材と同じものを用いることができる。一方で、特に裏面から光を取り入れない場合、裏面側保護部材74は不透明な板およびフィルムを使用できる。
【0060】
配線材73は、導電性を有していれば特に限定されない。高い導電性の観点から、Ag、Cuなどを主体とする金属を含むことが好ましい。配線材73は、受光面グリッド電極42上に配置、接続される。接続に関しては、ハンダを用いた接着であっても、熱硬化樹脂を用いてもよい。また、積層型光電変換装置との接続は並列であっても直列であってもよい。
【0061】
封止材72は、EVA、EEA、PVB、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等を用いることができる。裏面側封止材72Bは、裏面凸部に比べ厚い方がよく、複数枚の樹脂を重ねてもよい。厚くすることによって封止した後も、凸部が封止材から突き抜けることなく封止することができ、
図7Bに示すように凸部が封止材に埋没した構造を作ることができる。埋没させることで、積層型光電変換装置100が封止材72Bに固定され密着性があがる。さらに密着性の向上は、寒暖差などからモジュール内で生じる積層型光電変換装置への応力を緩和させることができる。この応力は、薄膜光電変換ユニット・結晶シリコン系光電変換ユニット界面、薄膜光電変換ユニット・配線材界面における剥がれが起きる原因となる。つまり、凸部の効果から積層型光電変換装置100と封止材72Bの密着性が上がることによって、モジュール内における積層型光電変換装置の信頼性を高めることができる。テクスチャ構造は数μmと非常に小さいため、十分な密着性を得ることができず、数百μmある凸部の方がより封止材と密着性を得ることができる。以上により、高い信頼性の積層型光電変換装置モジュール700を作製が可能となる。