特許第6986429号(P6986429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6986429流動性食品材料パルス処理装置用電源装置および流動性食品材料パルス処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986429
(24)【登録日】2021年12月1日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】流動性食品材料パルス処理装置用電源装置および流動性食品材料パルス処理装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20211213BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20211213BHJP
   A23L 3/005 20060101ALI20211213BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   H02M7/12 Z
   A23L3/005
   H05K3/46 Q
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-231741(P2017-231741)
(22)【出願日】2017年12月1日
(65)【公開番号】特開2019-103233(P2019-103233A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000136642
【氏名又は名称】株式会社フロンティアエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】星野 弘
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−092866(JP,A)
【文献】 特開2006−286894(JP,A)
【文献】 特開2010−135549(JP,A)
【文献】 特開昭62−264698(JP,A)
【文献】 特開2017−023004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
A23L 3/005
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性食品材料を連続的に通過させるための流路が電極間に形成されており、前記電極間にパルスを加えて流動性食品材料を処理するようにした流動性食品材料パルス処理装置に使用される電源装置であって、
商用交流を整流して直流としかつ出力電圧を可変とした、サイリスタを備えた整流器と、
前記サイリスタを制御するためのサイリスタ制御部と、
整流器によって得られた直流電流をチョッピングして、高周波矩形パルス電流を発生させるための、スイッチング素子を備えたインバータ回路と、
前記インバータ回路の動作を制御するため、前記スイッチング素子のゲート信号を発生するゲート制御回路と、
前記インバータ回路の出力の高周波矩形パルス電流の電圧を変圧して、前記電極間に加えるべき電圧のパルスを得るための出力トランスと
を有し、
前記サイリスタ制御部の回路がサイリスタ制御基板に形成され、前記インバータ回路がインバータ制御基板に形成され、
前記サイリスタ制御基板およびインバータ制御基板が、それぞれ導電層の層数として少なくとも4層を有しかつ各導電層の間に絶縁層が介在された多層プリント配線板で構成されており、
前記各多層プリント配線板は、その一方の板面を第1面、他方の板面を第2面とし、前記第1面および前記第2面にそれぞれ回路パターンの導電層が形成され
前記第1面と前記第2面との間に、良導電体からなるグラウンドライン用導電層および電源ライン用導電層が絶縁層を介して互いに対向して形成され
前記電源ライン用導電層および前記グラウンドライン用導電層は、当該電源ライン用導電層および当該グラウンドライン用導電層と電気的に接続されないそれぞれの貫通導電部から離隔した位置までの領域の全面に、それぞれ形成されており、
前記電極間に加えるパルスの周波数が50kHz以上である、流動性食品材料パルス処理装置用電源装置。
【請求項2】
記電極間に加えるパルスの周波数、外部からの操作によって調整される、請求項1に記載の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置と、
流動性食品材料を連続的に通過させるための前記流路に、間隔を置いて配設された一対以上の電極と、を備え、
一対以上の前記電極間に、前記電源装置の前記出力トランスからのパルスを印加する、流動性食品材料パルス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料や液体食品材料、あるいはゲル状食品材料、固液混合食品材料など、流動性を有する食品材料にパルスを加えることにより、殺菌等の処理を行うための流動性食品材料パルス処理装置に使用される電源装置、およびその電源装置を用いた流動性食品材料処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、ポンプなどによる加圧もしくは吸引によって流路内を連続的に移動させ得る程度の流動性食品材料、例えばジュースや乳飲料、あるいはスープ、その他、固体食品と液体とが混合した固液混合食品などを、流路内において電気的に殺菌するための方法が、種々提案、開発されている。この種の電気的殺菌方法としては、高電圧パルス殺菌方式が、例えば特許文献1、特許文献2などによって提案されている。
【0003】
高電圧パルス殺菌方式は、食品材料に高電圧の電気パルスを印加し、そのパルス電圧の急峻な立ち上がり、立下りによって菌の細胞膜を穿孔して細胞を効果的に破壊して、菌を死滅させようとするものであり、断続的に電圧を印加するため、小さい電力投入量で殺菌可能であり、殺菌効果も高いことが知られている。
【0004】
ところで、これまでに提案されている高電圧パルス殺菌装置の電源装置としては、食品材料に印加するパルスを発生するために大容量のコンデンサ(キャパシタンス)を用い、コンデンサに電荷をチャージして、放電する過程を繰り返すことによってパルスを得ることが考えられている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、コンデンサを使用した電源装置は、実際上は実験室的な規模での実施に限られ、飲料メーカ、食品メーカなどにおいて産業用量産規模で、実際に大量の流動性食品材料を効率的に処理することは困難であり、また電気伝導度や熱容量、粘度、あるいは含まれると予想される菌種などが異なる種々の食品材料を処理するラインには適していない。
その理由は次のとおりである。
【0006】
すなわち、コンデンサによってパルスを発生する場合、コンデンサに対するチャージ時間によってパルスの周波数が決まってしまうから、パルス周波数を自由にコントロールすることができない。
【0007】
またコンデンサに対するチャージ時間によってコンデンサに蓄えられる電力量も決まってしまい、放電時に出力される電圧も決まってしまうため、殺菌のために与える電力量、電圧を自由に調整することができない。
【0008】
さらにコンデンサの容量によって取り出せる最大の電力量が決まってしまい、実際上は量産的規模での効率的な殺菌に必要な程度の電力量を確保することは困難である。
【0009】
また、菌の細胞膜を穿孔してパルス殺菌を効果的に行うためには、いわゆる矩形波状のパルスが最適と考えられているが、コンデンサのチャージ・放電によって生成されるパルス波形は、一般には立ち上がりは急峻であるが立下りが緩やかな鋸歯状波となるのが通常であって、必ずしも菌の細胞膜の穿孔に最適とは言えない。
【0010】
これらの問題から、コンデンサを用いた電源装置による高電圧パルス殺菌は、実験室的には行われていても、実際の産業用量産規模での実施には至っていなかったのが実情である。
【0011】
さらに、高電圧パルス殺菌においては、殺菌効果を確実なものとするため、菌細胞に高電圧を繰り返し印加することが望ましく、そのためには、対象となる食品材料の種類や導電率などの性状、殺菌すべき菌種、あるいは食品材料の処理速度(流量)などに応じて、一つの高電圧パルス(1サイクルの単位パルス)を加えてから、次の一つの高電圧パルス(1サイクルの単位パルス)を加えるまでの期間(パルス休止期間)、すなわち一つの単位パルスの立ち下がってから、次の単位パルスが立ち上がるまでの休止期間を、適切に調整することが望まれる。
【0012】
しかしながら前述のようなコンデンサを用いた電源装置では、このような休止期間は、コンデンサのチャージ期間に相当するから、休止期間を調整しようとすれば、コンデンサから取り出せる電力量、電圧に直接影響を及ぼしてしまう。そのため、休止期間を単独で自由に調整することは困難である。
【0013】
以上のように、コンデンサを用いた電源装置は、高電圧パルス殺菌装置用の電源としては種々の欠点があり、実際に産業用量産規模での実施に適用することは困難であった。したがって新たに産業用量産規模での実施に適した高電圧パルス殺菌用の電源装置の開発が望まれていた。
【0014】
そこで本発明者等は、上記のような問題を解決し得る高電圧パルス殺菌装置用の電源装置として、既に特許文献4に示す電源装置を開発している。
【0015】
特許文献4で提案している電源装置は、基本的には、流動性食品材料を連続的に通過させるための隙間からなる流路が、一対の電極間に形成されており、前記電極間に高電圧パルスを加えることによって流動性食品材料を殺菌するようにした高電圧パルス殺菌装置に使用される電源装置において、基準となる高周波信号を発生する高周波発振器と、商用交流を整流して直流とするための整流器と、整流器によって得られた直流電流をチョッピングして、高周波矩形パルス電流を発生させるインバータ回路と、前記発振器からの基準高周波信号が加えられてその基準高周波信号をベースとして前記インバータ回路の動作を制御するためのインバータ制御信号を発生するインバータ制御信号発生回路と、前記インバータ回路の出力の高周波矩形パルス電流の電圧を変圧して、前記電極間に加える高電圧パルスを得るための出力トランスとを有し、前記インバータ回路が、前記基準高周波信号の1サイクルに対応する1サイクルの矩形パルスに引き続き、所定の休止期間を置いてから次の1サイクルの矩形パルスが発生するという断続パルス電流を出力するように、前記インバータ制御信号発生回路によって制御されるように構成されたことを特徴とするものである。
【0016】
このような特許文献4の提案の高電圧パルス殺菌装置用電源装置においては、高周波発振器からの高周波信号によって整流回路からの直流をインバータ回路によってそのままチョッピングして(すなわち高周波発振器からの高周波信号の周期にしたがってそのままチョッピングして)、高周波信号の周波数、周期のままの矩形波交流を得るのではなく、数パルスずつ間引いた矩形波パルス、すなわち単位パルス間にパルス幅よりも格段に長い休止期間を設けた断続パルスを生成させることによって、同じ電力量でも高いパルス電圧を容易に設定することができ、パルス殺菌の効果を確実に得ることが可能となる。またその場合、従来の提案によるコンデンサのチャージ・放電による場合と比較すれば、一つの単位パルスによって与えられる電力量も格段に大きく設定し得ること、また電力量、電圧、周波数の調整が容易となること、さらに波形もパルス殺菌に適したものとなる。
さらに特許文献4では、前記インバータ回路が、前記休止期間の長さが調整可能となるように、前記インバータ制御信号発生回路によって制御される構成とすることも提案している。この場合、処理すべき流動性食品材料の種類や、温度、流速などに応じて、断続パルスの休止期間を適切に制御することが可能となる。
【0017】
ここで、特許文献4に示されるような電源装置を、実際の装置として組み立てるにあたっては、回路の配線パターンを銅などの導体層によって形成したプリント基板を用い、それに回路構成部品(ICやパワートランジスタ、抵抗器、コンデンサ等)を搭載した回路基板を、複数個組み合わせて、全体として一つの電源装置を構成するのが通常である。
またその際、プリント基板としては、絶縁材からなる基材の表側の面、および裏側の面にそれぞれ回路の配線パターンを銅などの導体層によって形成した、2層構造(導体層の層数として2層の構造)の基板、すなわちいわゆる両面プリント配線板を使用するのが一般的である。
【0018】
なお、特許文献4においては、流動性食品材料を殺菌するための装置に電源装置として記載されているが、殺菌の目的に限らず、調理等を目的とした加熱にも利用することができる。すなわち、電極間を連続的に流通する食品材料にパルス電圧を印加すれば、電極間の食品材料に電流が流れて、食品材料自体の電気抵抗による発熱が生じるから、いわゆるジュール加熱(通電加熱)による加熱効果も期待することができる。そしてこのようなジュール加熱は、殺菌のみならず、食品材料の調理等のための加熱にも利用することができる。そこで、以下では、殺菌以外の目的の加熱も含めて、流動性食品材料にパルスを加える処理を、パルス処理と称することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第2964037号公報
【特許文献2】特開2007−229319号公報
【特許文献3】特開2009−142768号公報
【特許文献4】特開2015−92866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
高電圧パルス殺菌装置などのパルス処理装置においては、長時間連続して運転しているうちに、電極表面にスケールが生成、付着していくことがあり、またスケールの生成に伴って、電極表面の腐食が進行することがある。特に牛乳や乳飲料、豆乳など、温度上昇によって変性しやすい成分や酸化しやすい成分を含む食品材料に適用した場合に、スケールや電極の腐食が発生しやすい。
【0021】
このようなスケールは、牛乳や乳飲料、豆乳などの食品材料に含まれるCaなどの成分の酸化物や、変性して凝固した蛋白質等に由来するものと思われるが、電極表面のスケールが成長すれば、その箇所で電極間の間隔が狭くなって、電極間でスパーク(短絡)が生じやすくなる。そして電極間の短絡が発生すれば、電源装置の回路素子、例えばIGBT素子等に急激に過大な電流が流れるため、回路素子を破壊してしまうおそれがある。また短絡によって激しいスパークが発生すれば、電極表面に焼き付きが発生して、安定して電流を流すことができなくなり、操業が不安定となる。またスパークの発生には至らない場合でも、スケールの発生、付着によって流路が狭くなって、流路内を流れる食品材料の流速が大きくなったり、偏流が生じたりして、運転状態が不安定となり、食品材料を目標通りの温度まで安定して加熱することが困難となる。すなわち、投入電力に見合った温度上昇量を安定して得ることが困難となる。
【0022】
したがって、牛乳などのスケールが発生しやすい流動性食品材料を対象とする場合は、長時間にわたって安定して連続運転することは困難であった。そこで、この種の流動性食品材料を対象とする場合、短時間で運転を停止して、電極表面の清掃(スケール除去)を頻繁に行ったり、また焼き付きが発生した電極を頻繁に交換したりすることが必要となったりするが、その場合には、処理能率の低下やコスト上昇を招く等の問題が生じる。そのため従来は、牛乳などのスケールが発生しやすい流動性食品材料については、高電圧パルス殺菌等のパルス処理を適用することは、ためらわれていたのが実情である。
【0023】
一方、本発明者等の実験によれば、食品材料に印加するパルスの周波数を高くすること(したがって矩形波パルスにおけるパルス幅を小さくすること)が、電極表面でのスケールの発生・付着の防止、さらには電極表面の腐食防止に有効であることを知見している。
具体的には、従来の高電圧パルス殺菌処理における周波数は20kHz程度が一般的であったが、50kHz程度以上、望ましくは60kHz程度以上に印加周波数を高くすることによって、スケールの発生・付着、腐食の進行を抑えることが可能となる。しかしながら、50kHz程度以上に印加周波数を高くした場合、新たに別の問題が発生する。
【0024】
すなわち、前述のような2層構造のプリント配線板を用いて特許文献4に示される電源装置を構成した場合、周波数が高いほど、ノイズの影響を受けやすくなり、特に50kHz程度以上となれば、ノイズにより回路に誤動作が生じたり、暴走したりして、安定した制御を行えなくなり、その結果、食品材料に安定した電圧のパルスを印加し得なくなる事態が発生する。そのため、50kHz程度以上の高い周波数のパルスを印加してのパルス処理は、スケールや腐食の防止の観点からは有利であるにも拘わらず、安定した操業の点では不利となってしまうという問題がある。
【0025】
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、流動性食品材料にパルスを加えて殺菌等の処理を行うためのパルス処理装置に使用される電源装置として、高いパルス周波数でもノイズの影響を受けにくい電源装置を提供することを基本的な課題としている。
さらに本発明では、流動性食品材料について殺菌等のパルス処理を連続的に行うための処理装置として、上述のような電源装置を使用することによって、ノイズの影響を最小限に抑えながらパルス周波数を高くすることにより、スケールや電極の腐食を防止しうるようにした流動性食品材料パルス処理装置を提供することをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
具体的には、本発明の基本的な態様(第1の態様)の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置は、
流動性食品材料を連続的に通過させるための流路が電極間に形成されており、前記電極間にパルスを加えて流動性食品材料を処理するようにした流動性食品材料パルス処理装置に使用される電源装置であって、
商用交流を整流して直流としかつ出力電圧を可変とした、サイリスタを備えた整流器と、
前記サイリスタを制御するためのサイリスタ制御部と、
整流器によって得られた直流電流をチョッピングして、高周波矩形パルス電流を発生させるための、スイッチング素子を備えたインバータ回路と、
前記インバータ回路の動作を制御するため、前記スイッチング素子のゲート信号を発生するゲート制御回路と、
前記インバータ回路の出力の高周波矩形パルス電流の電圧を変圧して、前記電極間に加えるべき電圧のパルスを得るための出力トランスと
を有し、
前記サイリスタ制御部の回路がサイリスタ制御基板に形成され、前記インバータ制御回路がインバータ制御基板に形成され、
前記サイリスタ制御基板およびインバータ制御基板が、それぞれ導電層数として少なくとも4層を有しかつ各導電層の間に絶縁層が介在された多層プリント配線板で構成されており、
前記各多層プリント配線板は、その一方の板面を第1面、他方の板面を第2面とし、第1面および第2面にそれぞれ回路パターンの導電層が形成され、第1面と第2面との間に、絶縁層を隔ててグラウンドライン用導電層および電源ライン用導電層が形成されていることを特徴とする。
【0027】
このような第1の態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置においては、サイリスタ制御基板およびインバータ制御基板における電源ラインおよびグラウンドラインが、それぞれの基板の回路パターンの導電層から離隔しているため、ゲート制御回路もしくはサイリスタ制御部50の回路がノイズの影響を受けることが少なくなる。そのためイズの影響によって回路に誤動作が生じたり、暴走したりして、安定した制御を行えなくなり、その結果、食品材料に安定した電圧のパルスを印加し得なくなる事態が発生するおそれを少なくすることができる。
【0028】
また第2の態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置は、第1の態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置において、前記電極間に加えるパルスの周波数が50kHz以上であることを特徴とする。
【0029】
ここで、ノイズによる影響は、特に50kHz以上の高い周波数で顕著となるが、サイリスタ制御基板およびインバータ制御基板の構造を第1の態様で規定した構造とすることにより、50kHz以上の高い周波数でもノイズの影響を軽減し、これによって50kHz以上の高い周波数でのパルス処理装置の運転を実際的に可能とすることができる。またその結果、50kHz以上の高い周波数での運転により、電極でのスケールの発生・付着。電極の腐食を抑制することができる。
【0030】
また第3の態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置は、第1もしくは唾2の態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置において、前記電極間に加えるパルスの周波数を、外部からの操作によって調整し得るように構成したことを特徴とする。
【0031】
さらに第4の態様の流動性食品材料パルス処理装置は、前記第1〜第3のいずれかの態様の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置を用い、
流動性食品材料を連続的に通過させるための流路に、間隔を置いて配設された一対以上の電極間に、前記電源装置の出力トランスからのパルスを印加するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明のパルス処理装置用電源装置によれば、流動性食品材料にパルスを加えて殺菌等の処理を行うためのパルス処理装置に使用される電源装置として、高いパルス周波数でもノイズの影響を受けにくく、またそのため、流動性食品材料について殺菌等のパルス処理を連続的に行うための処理装置として、ノイズの影響を最小限に抑えながらパルス周波数を高くすることにより、スケールの発生。付着や電極の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の電源装置が適用される流動性食品材料パルス処理装置の全体構成の一例を概略的に示す略解的な縦断面図である。
図2】本発明の電源装置が適用される流動性食品材料パルス処理装置の全体構成の別の例を概略的に示す略解的な縦断面図である。
図3】本発明の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置の一実施例の回路構成を示すブロック図である。
図4図3に示される流動性食品材料パルス処理装置用電源装置における駆動用高周波信号及び出力電圧の一例を模式的に示す波形図である。
図5図3に示される流動性食品材料パルス処理装置用電源装置におけるゲート制御回路(インバータ制御信号発生回路)の一例を示すブロック図である。
図6】本発明の流動性食品材料パルス処理装置用電源装置の一実施例に使用されるプリント配線板の一例を示す略解的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0035】
図1には、本発明の電源装置が適用される流動性食品材料パルス処理装置20の全体構成の一例を概略的に示す。
【0036】
図1において、チタンなどの耐食性、耐熱性が優れた導電性の金属からなる一対の平板状の電極21A、21Bが、間隔を置いて平行に対向するように配設されている。これらの電極21A、21Bの相互間の周辺部分には、樹脂などの絶縁材料からなるスペーサ23が介在され、このスペーサ23によって電極21A、21B間の隙間の流路25が区画されている。一方の電極21Aにおける流路25の一端部に相当する箇所には、流入口27Aが形成され、他方の電極21Bにおける流路25の他端部に相当する箇所には、流出口27Bが形成されている。流入口27Aには、外部から流動性食品材料を供給するための供給管29Aが接続され、流出口27Bには、外部へ流動性食品材料を導くための排出管29Bが接続されている。
供給管29Aには、図示しない流動性食品材料供給源から、ポンプなどの加圧手段によって、ジュースなどの流動性食品材料が連続的に供給されるようになっている。
一方、電極21A、21Bは、電源装置33に接続されており、この電源装置33から1kV程度以上、望ましくは数kV以上の高電圧のパルスが印加されるようになっている。
【0037】
図1に示す流動性食品材料パルス処理装置20において、電極21A、21B間の隙間の流路25を流動性食品材料が通過する際には、電極21A、21B間で食品材料に高電圧のパルスが加えられ、その高電圧パルスによって殺菌や加熱がなされる。
【0038】
なお図1に示す例では、電極としては、互いに対向する一対の電極21A、21Bのみが設けられているが、実際の流動性食品材料パルス処理装置では、二対以上の電極を直列状に配列して、流動性食品材料が順次各対の電極間を通過するようにしてもよいことはもちろんである。
【0039】
また図1に示す例では、流動性食品材料パルス処理装置20における平板状の電極21A、21Bを、流路25の流れの方向に対して直交する方向に対向するように配設しているが、場合によっては一対以上の電極を、流路25の流れの方向に沿って間隔を置いて配設してもよい。このような場合の一例として、電極として一対のリング状電極(環状電極)22A、22Bを用いた例を図2に示す。
【0040】
図2において、流路25が、全体として円筒状(チューブ状)をなす中空管体10によって形成されており、この中空管体10の一端には流入口11Aを有する入り口部材11が設けられ、他端には流出口12Aを有する出口部材12が設けられている。そして中空管体10は、流路25の長さ方向(流れの方向)に所定間隔Gを置いて配設された一対のリング状電極22A、22Bと、これらのリング状電極22A、22B間に介在する絶縁管体からなる中間絶縁管(スペーサ管体)13Aと、リング状電極22A、22Bと入り口部材11、出口部材12のそれぞれの間に介在する端部側絶縁管13B、13Cとによって構成されている。
【0041】
流入口11Aには、外部から流動性食品材料を供給するための供給管29Aが接続され、流出口12Aには、外部へ流動性食品材料を導くための排出管29Bが接続されている。
供給管29Aには、図示しない流動性食品材料供給源から、ポンプなどの加圧手段によって、流動性食品材料が連続的に供給されるようになっている。また排出管29Bは、流動性食品材料を冷却するための冷却管や熱交換器などからなる図示しない冷却部に接続されている。
そして、交流パルスの電圧、電流が、電源装置33から電極22A、22Bに給電される構成とされる。
【0042】
図3には、電源装置33の回路構成の一例を示す。
図3において、電源装置33は、外部の商用交流から、図1に示したパルス処理装置(もしくは図2に示したパルス処理装置)20における電極21A、21B(もしくは電極22A、22B)間に印加するための高周波パルス電圧を発生するための電源ユニット35と、その電源ユニット35を制御するための制御ユニット37と、その制御ユニット37を外部から操作するための操作ユニット39とからなる構成とされている。
【0043】
そこでまず前記電源ユニット35について説明すれば、電源ユニット35は、商用交流電流を整流するための整流器として、例えば複数のサイリスタ(SCR)を有するサイリスタスタック43を備えている。このサイリスタスタック43の入力側には、商用交流電源端子41が、メインブレーカ45及びコンダクタ(電磁接触器)47を介して接続されている。コンダクタ47は、制御ユニット37内の後述するプログラマブルコントローラ49からの開閉信号S1にしたがって開閉されるように構成されている。
【0044】
サイリスタスタック43は、制御ユニット37内の後述するサイリスタ制御部50からのサイリスタ制御信号S2によって、その出力電圧(整流器としてのサイリスタスタック43によって整流された直流出力電圧)が制御されるようになっている。またサイリスタスタック43の出力側には、直流電流をチョッピングし、高周波パルス電流(高周波パルス電圧)を生起させるためのインバータユニット51内のインバータ回路53が接続されている。
【0045】
インバータ回路53は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)で代表される、高速で直流大電流をチョッピング可能なスイッチング素子を備えたものである。このインバータ回路53は、IGBTなどのスイッチング素子のゲートに加えられる電圧(ゲート電圧)が、ゲート駆動回路55によって制御されて、直流電流入力に対するスイッチング(チョッピング)が制御される。そして、後述するような休止期間可変の断続パルスもしくは連続パルスの高周波矩形波パルス電流を発生する。
ゲート駆動回路55は、制御ユニット37内の後述するインバータ制御部57のゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58からのゲート制御信号(インバータ制御信号)S3によって制御される。
【0046】
さらにインバータユニット51内のインバータ回路53の出力側は、出力トランス59の一次側巻線59Aに接続されている。またインバータ回路53と出力トランス59の一次側巻線59Aとの間の電流経路には、その間を流れる電流を検出するための電流センサ60が介挿されている。そして出力トランス59の二次側巻線59Bは、高電圧パルス殺菌装置20における電極21A、21Bに接続されている。
【0047】
次に制御ユニット37及び操作ユニット39について説明する。
制御ユニット37は、基本的には、プログラマブルコントローラ49と、サイリスタ制御部50と、インバータ制御部57を有している。また操作ユニット39は、主操作部61と、パルス制御操作部63を有している。
【0048】
操作ユニット39の主操作部61は、ダイヤルやテンキー、押しボタンスイッチなどの入力手段やタイマー、更には各種表示手段、警報手段などを備えたものであって、電源装置33全体のON/OFFや、出力電流及び/または出力などの設定、あるいはそれらの表示などを行うものである。また操作ユニット39のパルス制御操作部63は、電源装置33から出力される高電圧矩形パルスの状態の設定(パルス周波数の調整、連続パルス/断続パルスの切り替え、および断続パルスの場合の休止期間の長さの調整)を行うためのものである。
【0049】
制御ユニット37のプログラマブルコントローラ49は、主操作部61からの信号を受けて、主として、サイリスタ制御部50の動作を制御してサイリスタスタック43の出力電流値(直流)を制御するとともに、電源ユニット35のコンダクタ47をON/OFF制御するためのものである。なおこのプログラマブルコントローラ49には、外部センサ75、例えば流動性食品材料パルス処理装置の本体における食品材料流路の出側温度を検出するための温度センサ75なども接続されており、このような温度センサからの信号によっても、サイリスタスタック43の出力電流値を制御し得るように構成されている。
【0050】
一方、インバータ制御部57は、高周波発振器65と、インバータ制御信号発生回路としてのゲート制御回路58と、過電流検出器67と、インターロック回路69とを有している。
高周波発振器65は、例えば60kHz程度以上、700kHz程度以下の高周波信号を発生するためのものであり、水晶振動子などを用いた他励発振器等を使用することができる。
【0051】
ゲート制御回路(インバータ制御信号発生回路)58は、高周波発振器65からの高周波信号を用いて、IGBTなどのスイッチング素子のスイッチング動作を制御するためのインバータ制御信号としてのゲート制御信号S3を発生するためのものである。ここで、ゲート制御回路58は、後に改めて図5を参照して詳細に説明するように、高周波発振器65からの高周波信号の周波数を変換するための周波数変換回路78、およびその周波数変換回路78を制御するための周波数変換制御回路74を備えていて、外部からの操作によってゲート制御信号S3の周波数を調整可能としている。またゲート制御回路(インバータ制御信号発生回路)58は、調整された周波数で連続するゲート制御信号を発生する第1の状態と、その調整された周波数の信号を間引きして休止期間を設けた断続的なゲート制御信号を発生する第2の状態とに切り替えられるように構成されている。さらに、休止期間を設けた断続的ゲート制御信号を発生する第2の状態において、その休止期間の長さを調整可能に構成されている。
【0052】
そしてゲート制御回路58からは、上記のように周波数を調整するための周波数調整操作手段として、例えば可変抵抗器72が引き出されて、その可変抵抗器72が、前述の操作ユニット39内のパルス制御操作部63に配設されている。なおここでは周波数調整操作手段を可変抵抗器72としているが、ゲート制御回路58の回路構成によっては、可変インダクタンス、あるいは可変キャパシタンスなどを用いることもある。またここでは、周波数を連続的に変化させるものとしているが、段階的に変化させる構成としてもよいことはもちろんである。
【0053】
さらに、ゲート制御回路58からは、上記の第1の状態と第2の状態に切り替えるための切り替え操作手段として、例えばON/OFFスイッチ71が引き出されて、そのON/OFFスイッチ71が、前述の操作ユニット39内のパルス制御操作部63に配設されている。ここで、ON/OFFスイッチ71は、例えばON状態では、休止期間を設ける第2の状態(断続パルス状態)となり、OFF状態では休止期間を設けない第1の状態(連続パルス状態)となるように設定される。
【0054】
また同じくゲート制御回路58からは、上記の第2の状態における休止期間の長さを調整するための休止期間調整操作手段として、例えば可変抵抗器73が引き出されて、その可変抵抗器73が、前述の操作ユニット39内のパルス制御操作部63に配設されている。なおここでは休止期間調整操作手段を可変抵抗器73としているが、ゲート制御回路58の回路構成によっては、可変インダクタンス、あるいは可変キャパシタンスなどを用いることもある。またここでは、休止期間を連続的に変化させるものとしているが、段階的に変化させる構成としてもよいことはもちろんである。
【0055】
過電流検出器67は、前述の電源ユニット35における電流センサ60で検出したインバータ回路53の出力電流が、予め定めたレベルを超える過電流となった時にこれを検出するためのものである。インターロック回路69は、インバータ回路53の動作を停止させて、矩形パルスを発生しない状態に制御するためのもので、過電流検出器67によって過電流が検出されたときに、停止信号S4をゲート制御回路58に送り、ゲート信号を発生させない状態となるように制御して、インバータ回路53の動作を停止させるように構成されている。
【0056】
以上のような図3に示される流動性パルス処理装置用電源装置33において、主操作部61の図示しない電源スイッチをON状態とすれば、プログラマブルコントローラ49からコンダクタ(電磁接触器)47に電源ON信号(S1)が与えられ、コンダクタ47がON状態となり、商用交流電源端子41からの例えば3相200Vの商用交流電流が、メインブレーカ45およびコンダクタ47を経て、サイリスタスタック43に与えられる。
【0057】
サイリスタスタック43では、商用交流電流を整流して直流電流とする。ここで、サイリスタスタック43は、その出力電圧が、主操作部61において設定した値に制御される。すなわち、主操作部61に設定した電圧値にしたがってプログラマブルコントローラ49からサイリスタ制御部50に電圧設定値信号が送られ、その電圧設定値信号によってサイリスタ制御部50がサイリスタスタック43を制御する。
【0058】
サイリスタスタック43から出力された直流電流は、インバータユニット51のインバータ回路53に供給される。このインバータ回路53では、IGBTなどのスイッチング素子に、ゲート駆動回路55からゲート電圧が与えられ、そのゲート電圧に応じてサイリスタスタック43からの直流電流をスイッチング(チョッピング)し、これによって矩形波パルス出力が得られる。インバータ回路53からの矩形波パルス出力は、電流センサ60を経て出力トランス59の一次側巻線59Aに与えられる。そしてこの出力トランス59において昇圧されて、二次側巻線59Bから、所要の高電圧の矩形波パルス出力が得られ、その高電圧矩形波パルスが、パルス処理装置20の電極21A、21B間に与えられる。
【0059】
ここで、インバータユニット51のゲート駆動回路55は、インバータ制御部57のゲート制御回路58からのゲート信号によって制御されて、IGBTなどのスイッチング素子に対するゲート電圧を発生する。ゲート制御回路58は、基本的には、高周波発振器65からの高周波信号を後述する周波数変換回路74(図5参照)によって変換調整した高周波信号(以下これを駆動周波数信号と称する)によって制御されるが、それだけではなく、操作ユニット71のパルス制御操作部63に設定したパルス状態制御(連続パルス発生の第1の状態と断続パルス発生の第2の状態との切り替え、及び断続パルス発生の第2の状態における休止期間の設定)に応じて、ゲート信号発生状態が制御される。
【0060】
例えばパルス制御操作部63のON/OFFスイッチ71がOFF状態では、ゲート制御回路58は、休止期間を設けない連続パルスのゲート信号を発生する第1の状態となる。この場合は、ゲート駆動回路55は、周波数変換回路74からの駆動周波数信号に従った周波数、周期で連続的に変化するゲート電圧を発生し、これによって、インバータユニット51のIGBTなどのスイッチング素子は、サイリスタスタック43からの直流電流を、周波数変換回路74からの駆動周波数信号に従った周波数、周期で連続的にスイッチングし、連続矩形波電流(矩形波交流)を出力させる。そしてこの連続矩形波電流が出力トランス59によって昇圧されて、出力トランス59から、所定の周波数、周期の高電圧矩形波交流が出力される。
【0061】
例えば周波数変換回路74からの駆動周波数信号SAを、図4の(a)に示し、上述のような第1の状態における出力トランス59からの出力SBを、図4の(b)に示す。この場合、出力トランス59からの出力SBは、駆動周波数信号SAと同一の周波数で連続的に変化する矩形波となる。なお、このような連続矩形波(矩形波交流)を発生する状態(第1の状態)は、高電圧パルス殺菌装置ではなく、ジュール加熱装置に好適である。
【0062】
一方、例えばパルス制御操作部63のON/OFFスイッチ71がON状態では、ゲート制御回路58は、休止期間を設けた断続パルスのゲート信号を発生する第2の状態となる。すなわち、周波数変換回路74から与えられる駆動周波数信号SAを間引きして、例えば駆動周波数信号SAの1サイクルのパルス発生期間の後、数サイクル分の休止期間が続き、その後に再び1サイクル分のパルス発生期間が続き、さらに数サイクル分の休止期間が続く、という断続パルスのゲート信号を発生する状態となる。これによって、インバータユニット51のIGBTなどのスイッチング素子は、サイリスタスタック43からの直流電流を、断続パルスのゲート信号に従ってスイッチングし、断続矩形波パルス電流を出力させる。そしてこの断続矩形波パルス電流が出力トランス59によって昇圧されて、出力トランス59から、高電圧断続矩形波パルスが出力される。
【0063】
上述のような第2の状態における出力トランス59からの出力SCを、図4の(c)に示す。この場合、出力トランス59からの出力SCは、図4の(a)に示される駆動周波数信号SAの周波数、周期のままではなく、例えば駆動周波数信号SAの1サイクルのパルス発生期間TAの後、数サイクル分(図示の例では2パルス分)の休止期間TBが続き、その後に再び1サイクル分のパルス発生期間TAが続き、さらに数サイクル分の休止期間TBが続く、という断続パルスとなる。言い換えれば、図4の(b)に示される連続矩形波SBの単位パルスを、数パルス分(数サイクル分)間引きした断続パルスとなる。
このような断続パルスを発生する状態(第2の状態)は、高電圧パルス殺菌装置に好適である。
【0064】
ここで、上記のような第2の状態(断続パルス出力状態)では、パルス制御操作部63の休止期間調整操作手段、例えば可変抵抗器73を調整することによって、休止期間TBの長さを調整することができる。したがって、例えば、パルス処理装置の電極間を流れる流動性食品材料の種類やその流動性食品材料に含まれると予想される菌の種類、更には流速、あるいは流動性食品材料の初期温度(電極間への入り口温度)などに応じて、適切な休止期間TBの長さを設定することができる。
【0065】
なおこのように休止期間を設けた断続パルスを発生する場合(第2の状態)、サイリスタスタック43へ供給される直流電流の実効値を小さくしても、サイリスタスタック43の出力としては、休止期間を設けない連続パルス出力状態(第1の状態)と比較して、高い電圧値(パルス電圧高さ;パルス電圧波高値)を設定することができる。そのため、出力トランス59からの出力SCとしても、そのパルス電圧高さを高くすることができる。
そしてまた、休止期間TBの長さの調整によって、出力トランス59からの出力SCのパルス電圧高さを調整することができる。
【0066】
なお、周波数変換回路78によって図4の(a)に示される駆動周波数信号SAの周波数を変換調整することによって、図4の(c)に示されるパルス発生期間TAの幅を調整することができる。
【0067】
なおまた、上記の第1の状態、第2の状態のいずれの場合においても、電流センサ60によってインバータ回路53の出力電流が検出され、その出力電流値が異常に大きくなった場合、すなわち過電流となった場合には、過電流検出器67からの過電流検出信号がインターロック回路69に加えられる。そしてインターロック回路69からゲート信号発生回路58にゲート信号停止信号S4が送られ、ゲート信号発生回路58がゲート信号を発生しない状態となり、インバータ駆動回路55も動作しなくなる。その結果、インバータ回路53のIGBTなどのスイッチング素子にゲート電圧が与えられなくなり、インバータ回路53の出力が停止される。
【0068】
図5にはインバータ制御部57のゲート信号発生回路58をより具体化した例を示す。
図5において、ゲート信号発生回路58は、高周波発振器65からの基準高周波信号を波形整形して、高周波パルス信号とするための波形整形回路77と、その波形整形回路77から出力される高周波パルス信号の周波数を変換して駆動用周波数信号とするための周波数変換回路78と、その周波数変換回路78によって変換調整された周波数のパルス(駆動用周波数信号)を間引くための間引き回路79とを備えている。そして周波数変換回路78には、その出力周波数を制御するための周波数変換制御回路74が接続されており、この周波数変換制御回路74には、パルス制御操作部63の周波数調整手段としての可変抵抗器72が接続されている。また間引き回路79には、その間引き動作をON/OFF制御するためのON/OFF制御回路81と、間引き動作の間引き間隔(間引き幅)を制御するための間引き幅制御回路83とが接続されている。上記のON/OFF制御回路81には、パルス制御操作部63のON/OFFスイッチ71が接続され、また間引き幅制御回路83には、パルス制御操作部63の休止期間調整操作手段としての可変抵抗器73が接続されている。
【0069】
図5に示すゲート信号発生回路58においては、高周波発振器65からの高周波信号が、波形整形回路77によって波形整形されて矩形波状のパルス信号とされ、そのパルス信号の周波数が、周波数調整手段としての可変抵抗器72で設定した周波数に、周波数変換回路78により変換され、駆動用周波数信号SAが生成される。そしてON/OFFスイッチ71のOFF時においては、その調整した周波数の駆動用周波数信号SAのパルス(連続パルス)がそのまま間引き回路79を通過して、ゲート信号S3としてゲート駆動回路55に送られる。
【0070】
一方、ON/OFFスイッチ71のON時においては、調整した周波数の駆動用周波数信号SAのパルス(連続パルス)が、間引き回路79によって間引きされて、断続パルス信号となり、その断続パルス信号がゲート信号S3としてゲート駆動回路55に送られる。このとき、休止期間調整操作手段としての可変抵抗器73によって間引き幅制御回路83に設定した間引き幅でパルスの間引き幅が制御される。
【0071】
以上のように構成された実施例の電源装置33は、既に述べたように、パルス制御操作部63のON/OFFスイッチ71をONとした状態では、産業用量産的規模の高電圧パルス殺菌装置等の電源として好適に使用することができ、一方、パルス制御操作部63のON/OFFスイッチ71をOFFとした状態では、比較的低電圧のジュール加熱装置の電源として好適に使用することができる。
【0072】
なお、図3図5に示した例においては、本発明のパルス処理用電源装置を、高電圧パルス殺菌装置と、ジュール加熱殺菌装置のいずれにも使用可能となるように、パルス制御操作部63にON/OFFスイッチ71を設けて、ゲート制御回路58を、連続パルス発生状態(第1の状態)と断続パルス発生状態(第2の状態)とに切り替える構成としている。しかしながら、ジュール加熱殺菌装置に使用することは想定せず、高電圧パルス殺菌装置の専用の電源とする場合には、パルス制御操作部63にON/OFFスイッチ71を設けなくてもよい。すなわちその場合には、ゲート制御回路58を、上記のON/OFFスイッチ71が常にON状態となっている場合と等価的な回路構成(すなわち断続パルス発生の第2の状態を維持する回路構成)として、ON/OFFスイッチ71を省くことができる。
【0073】
なおまた、図3に示した電源装置33では、図1に示したような平板状電極21A、21Bを用いたパルス処理装置に適用しているが、図2に示したようなリング状電極22A、22Bを用いたパルス処理装置に適用してもよいことはもちろんである。
【0074】
ここで、実施例の電源装置の各回路は、大型の部品、例えば出力トランス等を除き、プリント配線板に電子部品を搭載してなるプリント回路によって構成されている。そして、特に制御ユニット37のインバータ制御部57におけるゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58に使用されるプリント配線板101、およびサイリスタ制御部50に使用されるプリント配線板102としては、それぞれ導電層の層数として少なくとも4層を有し、各導電層の間に絶縁層が介在された多層構造のプリント配線板(多層プリント配線板)が使用される。なお以下では、ゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58に使用されるプリント配線板101をゲート制御基板101と称し、サイリスタ制御部50に使用されるプリント配線板102をサイリスタ制御基板102と称する。
このようなゲート制御基板101もしくはサイリスタ制御基板102の一例を図6に示す。
【0075】
なおゲート制御基板101、サイリスタ制御基板102は、基本的には、いずれも導電層の層数として少なくとも4層を有する多層構造であればよく、図6に示す例では、導電層が4層構造のプリント配線板としている。4層の導電層のそれぞれの間には絶縁層が介在するから、絶縁層は3層以上であれば良い。
【0076】
図6において、ゲート制御基板101もしくはサイリスタ制御基板102の一方の板面を第1面103、他方の板面を第2面104とすることとする。
第1面103および第2面104と第2面との間には、電気絶縁材からなる第1面側絶縁層105A、コア絶縁層105B、第2面側絶縁層105Cが介在している。第1面側絶縁層105A、第2面側絶縁層105C、およびコア絶縁層105Bは、それぞれ例えばガラスエポキシなどからなる。
【0077】
第1面側絶縁層105Aにおける第1面側の表面には、回路パターンを構成する銅などの良導電体からなる導電層(第1面側導電層)106が形成され、第2面側絶縁層105Cにおける第2面側の表面には、回路パターンを構成する銅などの良導電体からなる導電層(第2面側導電層)107が形成されている。なお第1面側導電層106および第2面側導電層107の少なくとも一方(本例では第1面側導電層106のみ)の導電層の一部は、半導体素子やICチップ等の回路素子108Aを接続するための接続部109Aとされている。また同じくなお第1面側導電層106および第2面側導電層107の少なくとも一方(本例では第1面側導電層106のみ)の導電層の一部は、抵抗器やキャパシタンス等の回路部品108Bを接続するための接続部109Bとされている。
【0078】
さらに第1面側絶縁層105Aとコア絶縁層105Bとの間には、銅などの良導電体からなる電源ライン用導電層110が形成され、コア絶縁層105Bと第2面側絶縁層105Cとの間には、同じく銅などの良導電体からなるグラウンドライン用導電層111が形成されている。電源ライン用導電層110は、前述のゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58もしくはサイリスタ制御部50の回路の電源ラインを構成している。またグラウンドライン用導電層111は、前述のゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58もしくはサイリスタ制御部50の回路のグラウンドライン(アースライン)を構成している。
【0079】
なお電源ライン用導電層110およびグラウンドライン用導電層111は、できるだけ広い面積で形成することが望ましい。すなわち、後述するように、貫通導電層と導通させないことが必要な部位を除いた、絶縁層間の全面に電源ライン用導電層110およびグラウンドライン用導電層111を形成することが望ましい。
【0080】
さらに、電源ライン用導電層110と第1面側導電層106とを電気的に接続するための、銅などの良導電体からなる電源用貫通導電部112が、第1面側絶縁層105Aを貫通して形成されている。またグラウンドライン用導電層111と第1面側導電層106とを電気的に接続するための、銅などの良導電体からなるグラウンド用貫通導電部113が、第1面側絶縁層105Aおよびコア絶縁層105Bを貫通して形成されている。また第1面側導電層106と第2面側導電層107とを電気的に接続するための、銅などの良導電体からなる回路間貫通導電部114が、第1面側絶縁層105A、コア絶縁層105B、および第2面側絶縁層105Cを貫通して形成されている。
【0081】
なお電源用貫通導電部112は、電源ライン用導電層110と第1面側導電層106には接続されているが、それ以外の導電層には非接続となっている。またグラウンド用貫通導電部113は、グラウンドライン用導電層111と第1面側導電層106には接続されているが、それ以外の導電層には非接続となっている。さらに、回路用貫通導電部114は、第1面側導電層106と第2面側導電層107には接続されているが、それ以外の導電層には非接続となっている。そしてこのような非接続状態を確保するため、電源ライン用導電層110およびグラウンドライン用導電層111は、それぞれ一部の貫通導電部から離隔した位置までの領域に形成されている。
【0082】
また図6に示す例では、第1面側絶縁層105Aを貫通する貫通孔115Aが形成され、第1面側絶縁層105Aから第2面側絶縁層105Cまでを貫通する貫通孔115Bが形成されている。これらの貫通孔115A、115Bには、抵抗器やキャパシタンス等の回路部品108Bの接続用ピン108Baが挿入されている。
【0083】
上記のようなゲート制御基板101もしくはサイリスタ制御基板102においては、それぞれ導電層数として少なくとも4層を有しかつ各導電層の間に絶縁層が介在された多層プリント配線板で構成されていて、ゲート制御回路58もしくはサイリスタ制御部50の回路を構成する回路パターンの導電層(第1面側導電層106および第2面側導電層107)とは別の層として、第1面と第2面との間に絶縁層を介して電源ライン用導電層110およびグラウンドライン用導電層11が形成されている。したがって回路パターンの導電層に対して電源ラインが離れていること、およびグラウンドラインがノイズに対してシールド効果を発揮することで、ゲート制御回路58もしくはサイリスタ制御部50の回路がノイズを拾うことが抑制される。特に、50kHz程度以上の高いパルス周波数、例えば60kHzでは、従来はノイズの影響のために回路に誤動作が生じたり、暴走したりして、安定した制御を行えなくなり、その結果、食品材料に安定した電圧のパルスを印加し得なくなる事態が発生することから、実用化は困難と思われていたが、本発明の場合は、50kHz程度以上の高いパルス周波数でもノイズの影響を受けにくく、そのため50kHz程度以上の高いパルス周波数での実用化が可能となった。
【0084】
また、このように実際にパルス周波数を高めることが実際的に可能となるため、例えばパルス周波数を50kHz程度以上とすることにより、流路の電極におけるスケールの発生・付着や、電極の腐食の進行を抑えることが可能となる。
【0085】
なお以上では、ゲート制御基板101およびサイリスタ制御基板102について、図6に示したような導電層の層数として4層構造のプリント配線板を用いることとしているが、場合によっては、電源装置33を構成する基板のうち、ゲート制御基板101およびサイリスタ制御基板102以外の基板にも、同様な4層構造を適用してもよい。ただし、電源装置33の全体のうちでも、特にIGBT等のスイッチング素子に対する入力側であるサイリスタ制御部50とIGBT等のスイッチング素子の出力制御側であるゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58はノイズの影響を受けやすい。そこで、サイリスタ制御部50を構成するサイリスタ制御基板102、およびゲート制御回路(ゲート信号発生回路)58を構成するゲート制御基板101に、上記のような4層構造を適用することによって、従来の2層構造のプリント配線板を用いた場合よりも格段にノイズの影響を受けにくくなるのである。
【0086】
また図6に示した例では、電源ライン用導電層110を第1面側絶縁層105Aとコア絶縁層105Bとの間に設け、グラウンドライン用導電層111をコア絶縁層105Bと第2面側絶縁層105Cとの間に設けているが、逆にグラウンドライン用導電層111を第1面側絶縁層105Aとコア絶縁層105Bとの間に設け、電源ライン用導電層110をコア絶縁層105Bと第2面側絶縁層105Cとの間に設けてもよい。
【0087】
さらに図6に示した例では、ゲート制御基板101およびサイリスタ制御基板102について、導電層の層数として4層構造のプリント配線板としているが、導電層の層数として5層以上の多層構造としてもよい。もちろんその場合でも、電源ライン用導電層およびグラウンドライン用導電層は、回路パターンの導電層とは別の導電層(回路パターンの導電層との間に絶縁層を介在させた導電層)として形成する。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、前述の実施例は、あくまで本発明の要旨の範囲内の一つの例に過ぎず、本発明の要旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。すなわち本発明は、前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲内で適宜変更可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0089】
20・・・パルス処理装置
21A、21B・・・電極(平板状電極)
22A、22B・・・電極(リング状電極)
25・・・流路
33…電源装置
43・・・サイリスタスタック(整流器)
53・・・インバータ回路
58・・・ゲート制御回路(インバータ制御信号発生回路)
59・・・出力トランス
65・・・高周波発振器
101・・・ゲート制御基板
102・・・サイリスタ制御基板
103・・・第1面
104・・・第2面
105A・・・第1面側絶縁層
105B・・・コア絶縁層、
105C・・・第2面側絶縁層
106・・・第1面側導電層
107・・・第2面側導電層
110・・・電源ライン用導電層110
111・・・グラウンドライン用導電層
図1
図2
図3
図4
図5
図6