【実施例】
【0042】
(実施例1)
前記複合材の製造方法の実施例を、
図1〜
図4を用いて説明する。本例の製造方法においては、
図1に示すように、金属マトリクス2となるマトリクス塊20をコンテナ41内に配置した後、コンテナ41内に複動式ツール42を挿入する。複動式ツール42は、柱状を呈するショルダー43と、ショルダー43の中心軸を貫通するプローブ44と、を有しており、ショルダー43とプローブ44とは別々に駆動できるよう構成されている。
【0043】
次いで、ショルダー43をマトリクス塊20に当接させるとともに、プローブ44をマトリクス塊20内に挿入する。そして、
図2に示すように、ショルダー43によってマトリクス塊20の変形を拘束しつつ、マトリクス塊20と分散質3となる分散予定材30とが接触した状態でプローブ44を回転させる(矢印441)。これにより、プローブ44の回転によってマトリクス塊20を塑性流動させ、分散予定材30をマトリクス塊20中に分散させる。以上により、金属マトリクス2と、金属マトリクス2中に分散した分散質3とを有する複合材1を作製することができる。
【0044】
以下、本例の製造方法をより詳細に説明する。本例のマトリクス塊20は、Al:0.30質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu基合金の小片である。マトリクス塊20は、直径19mm、長さ30mmの丸棒状を呈しており、溶製法によって作製した鋳塊に押出加工等を行うことにより作製することができる。
【0045】
本例においては、マトリクス塊20を大気雰囲気中で800℃の温度に2時間保持して予熱を行った。この予熱により、
図1に示すように、マトリクス塊20の表面に分散予定材30としてのCu酸化物31の皮膜が形成された。Cu酸化物31の皮膜の厚みは約100μmであり、質量は、マトリクス塊20中のAlの質量の3.5〜9.5倍であった。
【0046】
このようにして得られたマトリクス塊20を用い、以下の方法により複合材1を作製した。本例において複合材1の作製に使用した製造装置4の要部を
図1に示す。製造装置4は、マトリクス塊20を保持するためのコンテナ41と、ショルダー43とプローブ44とを備えた複動式ツール42と、を有している。
【0047】
複動式ツール42は、コンテナ41の後方に配置されている。複動式ツール42のショルダー43は、前後方向、つまり、コンテナ41に近づく方向及びコンテナ41から遠ざかる方向の両方向へ移動可能に構成されている。本例のショルダー43は外径19mmの円柱状を呈している。
【0048】
複動式ツール42のプローブ44は、矢印441(
図2参照)に示すように、その中心軸を回転中心として回転することができるように構成されている。また、プローブ44は、ショルダー43とは独立して前後方向へ移動可能に構成されている。本例のプローブ44は外径10mmの円柱状を呈しており、外表面にマトリクス塊20を攪拌するためのらせん溝(図示略)を有している。
【0049】
本例の製造方法では、まず、マトリクス塊20を製造装置4のコンテナ41内に配置した。次いで、
図1に示すように、複動式ツール42を前方に移動させ、ショルダー43をマトリクス塊20に当接させるとともに、プローブ44の先端442を分散予定材30に押し付けた。
【0050】
プローブ44の先端442を分散予定材30に接触させた後、矢印441に示すようにプローブ44を回転させながら更に前方に押し込むことにより、
図2に示すようにマトリクス塊20の内部までプローブ44の先端442を挿入した。この際、プローブ44によって押し出されたマトリクス塊20の体積に釣り合うようにショルダー43を後退させ(矢印431)、プローブ44を挿入するための空間を確保した。なお、プローブ44の回転速度は、例えば500〜5000rpmの範囲内から適宜設定することができる。本例のプローブの回転速度は1500rpmとした。
【0051】
本例においては、プローブ44の回転によってマトリクス塊20全体が攪拌され、塑性流動が生じた。このとき、分散予定材30としてのCu酸化物31の皮膜がプローブ44の回転及びマトリクス塊20の塑性流動によって破砕され、Cu酸化物31の粒子310が形成された。また、マトリクス塊20におけるプローブ44と接触している部分の周囲にはショルダー43が当接している。そのため、マトリクス塊20は、複動式ツール42とコンテナ41とによって囲まれた空間内に拘束され、当該空間の外部への材料の漏出は起こらなかった。
【0052】
以上の結果、プローブ44の前進に伴って、マトリクス塊20中に分散予定材30としてのCu酸化物31の粒子310が分散された。
【0053】
プローブ44の先端442がマトリクス塊20の後端から20mmの深さに到達した時点でプローブ44の前方への移動を停止した。この状態でプローブ44をしばらく回転させ、マトリクス塊20全体を十分に攪拌した。その後、
図3に示すように複動式ツール42全体を後退させ、プローブ44をマトリクス塊20から抜き取った。
【0054】
以上により得られた複合材1は丸棒状を呈しており、
図3に示すように、その中心軸上にプローブ44の形状に対応した凹部11を有している。また、複合材1は、金属マトリクス2としてのCu基合金全体に、分散質3としてのCu酸化物31の粒子310が分散した構造を有している。
【0055】
本例の複合材1は、アルミナ分散強化銅のプリフォームとして使用することができる。複合材1をアルミナ分散強化銅とする場合には、複合材1を700〜1050℃に加熱すればよい。これにより、Cu酸化物中の酸素を拡散させ、金属マトリクス2中のAlを内部酸化させることができる。その結果、
図4に示すように、金属マトリクス2としてのCu基合金中に分散質3としてのアルミナ32が分散されたアルミナ分散強化銅を作製することができる。
【0056】
本例においては、複合材1を真空中で850℃の温度に1時間保持し、金属マトリクス2中のAlを内部酸化させてアルミナ分散強化銅とした。アルミナ分散強化銅の化学成分を分析したところ、アルミナ32の含有量は0.60質量%であり、金属マトリクス2中の金属Alの量は0.01質量%であった。
【0057】
内部酸化処理を行った後、複合材1の先端部に切削加工を施して、
図4に示す抵抗スポット電極用の電極チップ12を作製した。電極チップ12の先端部は、直径6mmの円形を呈する先端面13と、先端面13と側周面14とを接続するドーム面15と、を備えた、いわゆるドームラジアス型を呈している。ドーム面15は、電極チップ12の長手方向の断面において円弧状の輪郭を有している。また、当該断面におけるドーム面15の曲率半径は40mmである。
【0058】
この電極チップ12をスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極チップ12が使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極チップ12は、約4000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0059】
本例の作用効果を説明する。本例の製造方法は、プローブ44の回転によってマトリクス塊20を機械的に攪拌することにより、マトリクス塊20中に分散予定材30を分散させることができる。そのため、比較的高価な金属マトリクス2の粉末の使用を回避し、粉末冶金法に比べて材料コストを低減することができる。また、マトリクス塊20の攪拌を行った後、従来の粉末冶金法のような、焼結体内部の空隙を押し潰すための加工を省略することができるため、粉末冶金法に比べて工程数を削減し、製造コストを低減することができる。
【0060】
更に、本例の製造方法は、マトリクス塊20中と分散予定材30とを機械的に攪拌することによって分散予定材30をマトリクス塊20中に分散させることができるため、金属マトリクス2中の分散質3の材質や量、存在形態を自由に選択することができる。それ故、本例の製造方法によれば、優れた性能を有する複合材1を作製することができる。
【0061】
以上のように、本例の製造方法によれば、優れた性能を有する複合材1を安価に作製することができる。
【0062】
また、本例の製造方法は、複合材1の形状を、最終製品である抵抗スポット溶接用の電極チップ12に近い形状とすることができる。即ち、本例の製造方法は、いわゆるニアネットシェイプ成形を行うことができる。そのため、複合材1の先端部などに切削加工を施すことにより、容易に電極チップ12を作製することができる。それ故、本例の製造方法は、複合材を最終製品の形状に成形するための加工を大幅に短縮し、複合材から最終製品を作製する際の加工コストをより低減することができる。
【0063】
(実施例2)
本例は、マトリクス塊20に形成される凹部を埋め戻しながらプローブ44をマトリクス塊20から抜き取る方法の例である。なお、本実施例以降の例において使用する符号のうち、既出の例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の例における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0064】
本例においては、実施例1と同様の方法によりマトリクス塊20を作製した後、マトリクス塊20の一方の端面21をガスバーナーで加熱し、
図5に示すように、当該端面21に分散予定材30としてのCu酸化物31の皮膜を形成した。Cu酸化物31の皮膜の厚さは100μmであった。
【0065】
このマトリクス塊20を、Cu酸化物31の皮膜を備えた端面21が後方、つまり、プローブ44が挿入される側を向くようにしてコンテナ41内に配置した。その後は、プローブ44の挿入深さを15mmに変更した以外は、実施例1と同様にしてマトリクス塊20の攪拌を行った。
【0066】
本例においては、
図6に示すように、マトリクス塊20における、プローブ44の周辺部分のみが攪拌され、マトリクス塊20の前方部分、つまり、プローブ44が挿入されていない部分には塑性流動が生じなかった。そのため、Cu酸化物31の粒子310は、マトリクス塊20の後方部分、つまり、プローブ44の周辺部分のみに分散された。
【0067】
マトリクス塊20の攪拌が完了した後、プローブ44をマトリクス塊20から抜き取った(矢印443)。この際、
図7に示すように、マトリクス塊20から抜き取られたプローブ44の体積に釣り合う分だけショルダー43を前進させた(矢印432)。これにより、プローブ44によって形成される凹部11を埋め戻しながらプローブ44を抜き取った。
【0068】
以上により、円柱状を呈する複合材102を得た。本例の複合材102は、
図8に示すように、金属マトリクス2としてのCu基合金と、分散質3としてのCu酸化物31の粒子310とを含む攪拌部16と、金属マトリクス2からなり攪拌部16に連なる非攪拌部17とを有している。攪拌部16は、具体的には、長手方向における複合材102の一端側に形成されており、非攪拌部17は他端側に形成されている。
【0069】
その後、実施例1と同様の方法により複合材102に内部酸化処理を施し、攪拌部16をアルミナ分散強化銅とした。内部酸化処理後の攪拌部16の化学成分を分析したところ、攪拌部16中のアルミナの含有量は0.60質量%であり、金属Alの含有量は0.01質量%であった。
【0070】
図には示さないが、複合材102の攪拌部16に切削加工を施し、攪拌部16を実施例1の電極チップ12の先端部と同様の形状に成形した。これにより、凹部11を有さない以外は実施例1と同様の形状を有する抵抗スポット溶接用の電極チップを作製した。この電極チップをスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極チップが使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極チップは、約4000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0071】
本例に示したように、本発明に係る製造方法は、マトリクス塊20の一部を攪拌することにより、複合材102における所望する部分のみに分散質3を分散させることができる。それ故、分散予定材30の使用量を低減し、材料コストをより低減することができる。その他、本例の方法は、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0072】
(実施例3)
本例は、前記製造方法によって複合材103を形成した後に、複合材103に押出加工を施した例である。
【0073】
本例のマトリクス塊22は、Al:0.30質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu基合金のビレットである。本例においては、Cu基合金からなり、直径90mm、長さ100mmの円柱状を呈するマトリクス塊22を作製した後、マトリクス塊22を大気雰囲気中で800℃の温度に2時間保持して予熱を行った。この予熱により、マトリクス塊22の表面に分散予定材30としてのCu酸化物31の皮膜が形成された。Cu酸化物31の皮膜の厚みは約100μmであり、質量は、マトリクス塊20中のAlの質量の3.5〜9.5倍であった。
【0074】
また、本例においては、
図9に示すように、ダイス451を取り付けるためのダイス取り付け口452を備えたコンテナ45を使用した。ダイス取り付け口452を閉塞部材453によって閉塞した状態で、コンテナ45内にマトリクス塊22を配置した。
【0075】
表面にCu酸化物31の皮膜を有するマトリクス塊22をコンテナ45に挿入した後、実施例1と同様の方法によりプローブ47をマトリクス塊22内に挿入した。そして、プローブ47の回転(矢印471)によってマトリクス塊22全体を攪拌し、分散予定材30としてのCu酸化物31の粒子310をマトリクス塊22全体に分散させた。なお、本例においては、直径90mmの円柱状を呈するショルダー46と、外表面にらせん溝を備えた直径40mmのプローブ47とを使用した。
【0076】
マトリクス塊22を十分に攪拌した後、コンテナ45の閉塞部材453を取り外し、
図10に示すように、ダイス取り付け口452にダイス451を取り付けた。本例のダイス451は、直径19mmの円形を呈する開口454を有している。ダイス451をコンテナ45に取り付けた後、ショルダー46とプローブ47との両方を前進させることによりマトリクス塊22をダイス451から押し出した。以上により、直径19mmの円柱状を呈し、金属マトリクス2としてのCu基合金全体に、分散質3としてのCu酸化物31の粒子310が分散した構造を有する複合材103を得た。
【0077】
このようにして得られた複合材103を窒素雰囲気中で850℃の温度に1時間保持し、金属マトリクス中のAlを内部酸化させてアルミナ分散強化銅とした。その後、アルミナ分散強化銅に引き抜き加工を施し、直径19mmの丸棒状とした。得られたアルミナ分散強化銅中のアルミナの含有量は0.60質量%であり、金属マトリクス2中の金属Alの含有量は0.01質量%であった。
【0078】
得られたアルミナ分散強化銅の丸棒を適当な長さに切断した後、鍛造加工を施すことにより、凹部11を有しない以外は実施例1の電極チップ12と同様の形状を備えた抵抗スポット溶接用の電極チップを作製した。この電極チップをスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極チップが使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極チップは、約4000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0079】
本例のように、マトリクス塊22の攪拌を行った後、マトリクス塊22に押出加工を施してもよい。この場合には、ニアネットシェイプ成形ではなくなる点を除き、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
(比較例1)
本例は、従来の粉末冶金法によって作製された抵抗スポット溶接用の電極チップの耐久性を評価した例である。本例においては、粉末冶金法によって作製されたアルミナ分散強化銅に鍛造加工を施すことにより、抵抗スポット溶接用の電極チップを作製した。なお、アルミナ分散強化銅中に含まれるアルミナの質量は約0.6質量%であり、金属Alの質量は約0.04質量%であった。
【0081】
得られた電極チップをスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極チップが使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極チップは、約2000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0082】
実施例1〜3と比較例1との比較から、実施例1〜3の製造方法により作製された複合材をスポット溶接用の電極チップとすることにより、従来の粉末冶金法により作製された電極チップに比べてスポット溶接における耐久性を向上可能であることが理解できる。更に、実施例1〜3の製造方法によれば、複合材を安価に作製可能であることが容易に理解できる。
【0083】
また、実施例1〜3の製造方法により得られたアルミナ分散強化銅は、比較例1、つまり、従来の粉末冶金法によるアルミナ分散強化銅に比べて金属Alの含有量が少なくなっている。かかる結果から、実施例2の製造方法によれば、従来の粉末冶金法によるアルミナ分散強化銅に比べて高い導電率を備えたアルミナ分散強化銅を作製可能であることが容易に理解できる。
【0084】
本発明に係る複合材及びその製造方法の態様は、上述した実施例の態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0085】
金属マトリクスと分散質との組み合わせは、実施例1〜3に記載した組み合わせに限らず、所望する特性に応じて適宜変更することができる。例えば、実施例1〜3においては金属マトリクス2がCu基合金であり、分散質3がCu酸化物31の粒子310である複合材1、102、103の例を示したが、例えば、金属マトリクス2を純銅とし、分散質をアルミナに変更してもよい。この場合には、純銅からなるマトリクス塊とアルミナかrなる分散予定材とを攪拌することにより、内部酸化処理を行うことなくアルミナ分散強化銅を作製することができる。また、金属マトリクスを純アルミニウムまたはアルミニウム合金とし、分散質をFe、Si、セラミクスなどに変更してもよい。
【0086】
また、実施例1〜3においては、予めマトリクス塊20、22の表面に分散予定材30としてのCu酸化物31の皮膜を形成した例を示したが、マトリクス塊の攪拌と同時にマトリクス塊内に分散予定材を供給することもできる。この場合には、例えば、コンテナの壁面や複動式ツールの先端等に分散予定材を供給する供給口を設け、供給口から分散予定材を供給しながらマトリクス塊の攪拌を行う方法を採用することができる。
【0087】
実施例1〜3には、マトリクス塊20、22を攪拌する前に余熱を行う例を示したが、予熱を行わずにマトリクス塊を攪拌することも可能である。予熱を行わない場合においても、プローブの回転によって摩擦熱が生じるため、予熱を行う場合と同様にマトリクス塊を塑性流動させることができる。