特許第6986440号(P6986440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986440
(24)【登録日】2021年12月1日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】膜エレメントおよび膜分離機器
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20211213BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20211213BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20211213BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B01D63/00 510
   B01D63/08
   B01D71/36
   C02F1/44 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-252740(P2017-252740)
(22)【出願日】2017年12月28日
(65)【公開番号】特開2019-118840(P2019-118840A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 茂之
(72)【発明者】
【氏名】松崎 好男
(72)【発明者】
【氏名】前田 潤
(72)【発明者】
【氏名】大川 泰弘
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/004743(WO,A1)
【文献】 特開2000−042322(JP,A)
【文献】 特開2011−005455(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 63/00
B01D 63/08
B01D 71/36
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜と流路材とが接合された膜エレメントであって、
流路材は、糸を三次元構造に編んだ編物から成り、その内部に、ろ過膜を透過した透過液が流れる空隙を有すると共に、外表面に、ろ過膜との接合面を有し、且つ、接合面を連結するとともに空隙を形成する連結糸を有し、
接合面を形成する糸の少なくとも一部が、ろ過膜を構成する材料の軟化点よりも低い軟化点を有する低融点糸であり、
連結糸の軟化点は接合面の低融点糸の軟化点よりも高いことを特徴とする膜エレメント。
【請求項2】
ろ過膜と流路材とが接合された膜エレメントであって、
流路材は、糸を三次元構造に編んだ編物から成り、その内部に、ろ過膜を透過した透過液が流れる空隙を有すると共に、外表面に、ろ過膜との接合面を有し、且つ、接合面を連結するとともに空隙を形成する連結糸を有し、
接合面を形成する糸は複数の構成糸を撚ることにより形成され、
構成糸の1本以上が、ろ過膜を構成する材料の軟化点よりも低い軟化点を有する低融点糸であり、
連結糸の軟化点は接合面の低融点糸の軟化点よりも高いことを特徴とする膜エレメント。
【請求項3】
低融点糸は、芯材と、芯材を覆う鞘材とで形成され、
鞘材はろ過膜の軟化点よりも低い軟化点を有し、
芯材は鞘材の軟化点よりも高い軟化点を有することを特徴とする請求項1又は請求項2 に記載の膜エレメント。
【請求項4】
低融点糸の材質がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の膜エレメント。
【請求項5】
鞘材の材質がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項3記載の膜エレメント。
【請求項6】
連結糸の材質がポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の膜エレメント。
【請求項7】
ろ過膜はPTFEを材質とする多孔膜を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の膜エレメント。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の膜エレメントを備えた膜分離機器であって、
複数の膜エレメントを支持する支持部材を備え、
支持部材は内部に集水空間を有し、
各膜エレメントの端部が集水空間に挿入され、
透過液が流路材内の空隙を通って支持部材の集水空間に流れ込むことを特徴とする膜分離機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば膜分離活性汚泥法(MBR)と称される分野で汚泥と処理水との分離のために用いられる膜エレメントおよび膜エレメントを備えた浸漬型の膜分離機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の膜エレメントとしては、例えば図9に示すように、樹脂製のろ板101の両面にろ過膜102を接合したものがあり、ろ過膜102の周縁部102aが熱溶着又は超音波溶着によってろ板101に固着されている。ろ板101とろ過膜102との間およびろ板101の内部には透過液流路(図示省略)が形成され、透過液流路に連通する透過液取出口103がろ板101の上端縁に設けられている。
【0003】
図10の実線で示すように、上記のような膜エレメント104は、膜ケース(図示省略)内に、所定間隔おきに複数配列されている。
【0004】
これによると、ろ過運転を行っている際、被処理液は、ろ過膜102を一次側から二次側へ通過してろ過され、その後、透過液105として透過液流路を流れ、透過液取出口103から外部へ取り出される。また、ろ過運転を停止し、膜エレメント104を逆洗する際、逆洗用水を透過液取出口103から透過液流路に注入する。これにより、逆洗用水がろ過膜102を二次側から一次側へ通過し、ろ過膜102が逆洗される。
【0005】
このような膜エレメント104では、ろ過膜102の全体がろ板101に固着しているのではなく、ろ過膜102の周縁部102aのみがろ板101に溶着されているため、ろ過膜102を逆洗している際、図10の仮想線で示すように、ろ過膜102が外向き(一次側)に膨出し、隣の膜エレメント104のろ過膜102と接触することがあった。このように、隣り同士の膜エレメント104のろ過膜102が膨出して接触してしまうと、逆洗の効果が低下するといった虞があった。また、長期にわたり二次側へ逆洗用水を導入することで、ろ過膜102が外向きに膨出し、ろ過膜102の周縁部102aの溶着部分が開口する虞があった。
【0006】
このような問題を解決するために、図11に示すように、第一ろ過膜111と、第二ろ過膜112と、これら両ろ過膜111,112の間に設けられた排液織布113と、第一ろ過膜111と排液織布113とを接着する接着性ネット114と、第二ろ過膜112と排液織布113とを接着する接着性ネット115とを有する膜エレメント116がある。尚、排液織布113は、ループを形成するように編んだ三次元構造のスペーサ布地(スペーサーファブリック)である。
【0007】
第一ろ過膜111と第二ろ過膜112との間に排液織布113と接着性ネット114,115とを積層して、加熱ロールで圧延することにより、接着性ネット114,115が一時的に融解し、第一接着性ネット114を介して第一ろ過膜111と排液織布113とが接着されるとともに、第二接着性ネット115を介して第二ろ過膜112と排液織布113とが接着され、膜エレメント116が完成する。
【0008】
尚、上記のような膜エレメント116は例えば下記特許文献1に記載されている。
【0009】
また、下記特許文献2には、溶剤に溶かした液状の膜材料樹脂(以下「ドープ」と言う)を、スペーサーファブリックの片側又は両側の面(フェース)に、直接塗布し、相分離法によってスペーサーファブリックのフェース上にろ過膜層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2011−519716
【特許文献2】WO 2006/015461 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら上記特許文献1に挙げた従来形式では、図11に示したように、膜エレメント116を製作するには、排液織布113とろ過膜111,112とは別に、接着性ネット114,115が必要になるため、膜エレメント116を構成する部品の種類が増えるといった問題がある。
【0012】
また、上記特許文献2については、スペーサーファブリックの内部空間はろ過膜層を透過した透過液の通り道となるのであるが、ドープをスペーサーファブリックのフェースに直接塗布した際、ドープの粘性が低いと、ドープがスペーサーファブリックの内部空間に侵入して固化し、スペーサーファブリックの内部における透過液の流れが妨げられる虞がある。
【0013】
本発明は、構成部品の種類を減らすことが可能な膜エレメントおよび膜分離機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本第1発明は、ろ過膜と流路材とが接合された膜エレメントであって、
流路材は、糸を三次元構造に編んだ編物から成り、その内部に、ろ過膜を透過した透過液が流れる空隙を有すると共に、外表面に、ろ過膜との接合面を有し、且つ、接合面を連結するとともに空隙を形成する連結糸を有し、
接合面を形成する糸の少なくとも一部が、ろ過膜を構成する材料の軟化点よりも低い軟化点を有する低融点糸であり、
連結糸の軟化点は接合面の低融点糸の軟化点よりも高いものである。
【0015】
これによると、流路材の接合面にろ過膜を配置し、流路材とろ過膜を、接合面を形成している低融点糸の軟化点の温度に加熱する。これにより、接合面の低融点糸が軟化して、低融点糸の樹脂がろ過膜に絡み付くため、ろ過膜が流路材の接合面に接合される。このように、流路材とろ過膜とで膜エレメントを製作することができるため、接着性ネット等の接着専用の部材が不要になり、膜エレメントを構成する部品の種類を減らすことができる。
また、上記のように流路材とろ過膜を加熱した際、流路材の連結糸が軟化するのを防止することができる。これにより、連結糸間に空隙が確実に形成され、ろ過膜を透過した透過液は流路材の内部の空隙を流れることができる。
【0016】
また、上記のように加熱温度を、ろ過膜の軟化点の温度よりも低く、且つ接合面を形成している低融点糸の軟化点以上の温度にしているため、ろ過膜が軟化してろ過膜の孔径分布が変化してしまうのを防止することができる。
【0017】
本第2発明は、ろ過膜と流路材とが接合された膜エレメントであって、
ろ過膜と流路材とが接合された膜エレメントであって、
流路材は、糸を三次元構造に編んだ編物から成り、その内部に、ろ過膜を透過した透過液が流れる空隙を有すると共に、外表面に、ろ過膜との接合面を有し、且つ、接合面を連結するとともに空隙を形成する連結糸を有し、
接合面を形成する糸は複数の構成糸を撚ることにより形成され、
構成糸の1本以上が、ろ過膜を構成する材料の軟化点よりも低い軟化点を有する低融点糸であり、
連結糸の軟化点は接合面の低融点糸の軟化点よりも高いものである。
【0018】
これによると、流路材の接合面にろ過膜を配置し、流路材とろ過膜を、接合面を形成している低融点糸の軟化点の温度に加熱する。これにより、接合面の低融点糸が軟化して、低融点糸の樹脂がろ過膜に絡み付くため、ろ過膜が流路材の接合面に接合される。このように、流路材とろ過膜とで膜エレメントを製作することができるため、接着性ネット等の接着専用の部材が不要になり、膜エレメントを構成する部品の種類を減らすことができる。
また、上記のように流路材とろ過膜を加熱した際、流路材の連結糸が軟化するのを防止することができる。これにより、連結糸間に空隙が確実に形成され、ろ過膜を透過した透過液は流路材の内部の空隙を流れることができる。
【0019】
また、上記のように加熱温度を、ろ過膜の軟化点の温度よりも低く、且つ接合面を形成している低融点糸の軟化点以上の温度にしているため、ろ過膜が軟化してろ過膜の孔径分布が変化してしまうのを防止することができる。
【0020】
本第3発明における膜エレメントは、低融点糸は、芯材と、芯材を覆う鞘材とで形成され、
鞘材はろ過膜の軟化点よりも低い軟化点を有し、
芯材は鞘材の軟化点よりも高い軟化点を有するものである。
【0021】
これによると、流路材の接合面にろ過膜を配置し、流路材とろ過膜を、接合面を形成している低融点糸の鞘材の軟化点以上の温度に加熱する。これにより、低融点糸の鞘材が軟化して、鞘材の樹脂がろ過膜に絡み付くため、ろ過膜が流路材の接合面に接合される。この際、低融点糸の芯材は鞘材の軟化点よりも高い軟化点を有するため、芯材が軟化するのを防止することができる。
【0022】
これにより、鞘材の糸よりも高強度の樹脂を用いて芯材を構成することにより、接合面の強度が向上し、流路材の剛性が高くなる。
【0023】
本第4発明における膜エレメントは、低融点糸の材質がポリオレフィン系樹脂であるものである。
【0024】
本第5発明における膜エレメントは、鞘材の材質がポリオレフィン系樹脂であるものである。
【0027】
本第発明における膜エレメントは、連結糸の材質がポリエステル系樹脂であるものである。
【0028】
本第発明における膜エレメントは、ろ過膜はPTFEを材質とする多孔膜を有するものである。
【0029】
本第発明は、第1発明から第発明のいずれか1項に記載の膜エレメントを備えた膜分離機器であって、
複数の膜エレメントを支持する支持部材を備え、
支持部材は内部に集水空間を有し、
各膜エレメントの端部が集水空間に挿入され、
透過液が流路材内の空隙を通って支持部材の集水空間に流れ込むものである。
【0030】
これによると、膜分離機器を被処理液中に浸漬させた状態で、ろ過運転を行うことにより、被処理液は、膜エレメントのろ過膜を一次側から二次側へ通過してろ過され、その後、透過液として、流路材の接合面を通って流路材の内部の空隙に流れ込み、流路材内の空隙を通って、支持部材の集水空間に流出する。
【発明の効果】
【0031】
以上のように本発明によると、流路材とろ過膜とで膜エレメントを製作することができるため、接着性ネット等の接着専用の部材が不要になり、膜エレメントを構成する部品の種類を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1の実施の形態における複数台の膜分離機器を用いた膜分離装置の正面図である。
図2】同、膜分離機器の斜視図である。
図3】同、膜分離機器の断面図である。
図4】同、膜分離機器の膜エレメントの構成を示す一部切欠き斜視図である。
図5】同、膜エレメントの断面を拡大した模式図である。
図6】同、膜エレメントの流路材の断面を拡大した模式図である。
図7図6におけるX−X矢視図であり、流路材の接合面を拡大した模式図である。
図8】本発明の第2の実施の形態における膜エレメントの断面を拡大した模式図である。
図9】従来の膜エレメントの正面図である。
図10】同、膜エレメントの側面図であり、複数の膜エレメントを所定間隔おきに配置した状態を示す。
図11】別の従来の膜エレメントの構成を示す一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0034】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、図1に示すように、1は膜ろ過を行う浸漬型の膜分離装置であり、有機性排水等の被処理液2中に浸漬されて処理槽3内に設置されている。膜分離装置1は、上下方向に積み重ねられた複数台の膜分離機器5(膜ろ過モジュールとも言う)と、最下段に設けられた散気装置6とを有している。
【0035】
図2図3に示すように、膜分離機器5は、左右一対の集水ケース11(支持部材の一例)と、これら両集水ケース11間に支持されている複数の膜エレメント12と、前後一対の連結板13とを有している。集水ケース11は内部に集水空間15を有する中空状の部材である。また、連結板13は両集水ケース11の前端部間および後端部間にそれぞれ設けられている。
【0036】
尚、下位の膜分離機器5の集水ケース11内の集水空間15と上位の膜分離機器5の集水ケース11内の集水空間15とは連通口16によって連通している。
【0037】
集水ケース11の内側壁17には、上下方向に細長い複数の貫通孔が形成され、各膜エレメント12の左右両端部が各貫通孔に挿入されて集水空間15内に突入している。
【0038】
膜エレメント12は、例えば四角形のシート状の部材であり、流路材21と、流路材21の表裏両面に接合されたろ過膜22とを有している。
【0039】
図4図7に示すように、流路材21は、三次元構造の編物からなるスペーサーファブリックであり、ろ過膜22と接合する一対の接合面25(フェース)と、一対の接合面25をつなぐ多数本のパイル糸27(連結糸の一例)とを有している。尚、接合面25は多数本の互いに交差する縦糸29と横糸30とを有する編物である。これらの縦糸29と横糸30には、ろ過膜22の軟化点T1よりも低い軟化点T2を有する低融点糸が使用されている。尚、軟化点とは、樹脂等が軟化して変形するときの温度であり、例えば、縦糸29と横糸30には、約80℃〜120℃の軟化点T2を有するポリエチレン(PE)製の糸が用いられている。
【0040】
尚、これら縦糸29と横糸30はそれぞれ、さらに細い複数本の構成糸を撚って一本の縦糸29又は横糸30にしてもよい。
【0041】
また、パイル糸27には、縦糸29と横糸30(接合面25を形成する低融点糸の一例)の軟化点T2よりも高い軟化点T3を有する高融点糸が使用されている。例えば、パイル糸27には、260℃以上の軟化点T3を有するポリエチレンテレフタラート(PET)製の糸が用いられている。また、パイル糸27間には、ろ過膜22を透過した透過液33が流れる微小な空隙32が形成されている。
【0042】
上記のようなスペーサーファブリックからなる流路材21の糸使いは、例えば、接合面25(フェース)がSD84T24、パイル糸27がSD55T1、パイル糸27の密度が約380本/cmである。また、膜エレメント12を製作する前の流路材21の単体での厚さAは例えば約2mm〜5mmである。尚、上記SD84T24とは、撚り合わせた糸の太さが84dtex、撚り糸数が24本であることを表しており、SD55T1とは、撚り合わせた糸の太さが55dtex、撚り糸数が1本であることを表している。
【0043】
ろ過膜22は、多数の微細孔を有する多孔質の樹脂層22a(多孔膜)を外面側に有するとともに、この樹脂層22aを支持する不織布等の樹脂層支持体22bを内面側に有している。上記多孔質の樹脂層22aの材質には、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられている。また、樹脂層支持体22bの材質には、例えば、260℃〜280℃の軟化点T1(ろ過膜22の軟化点T1)を有するポリエチレンテレフタラート(PET)が用いられている。
【0044】
以下、上記構成における作用を説明する。
【0045】
膜エレメント12を製作する際、一対のろ過膜22間に流路材21を挟んで配置し、これら流路材21と両ろ過膜22との3つの部材を、上下一対の加熱ロール間に挿通して、圧縮しながら加熱する。
【0046】
この際、流路材21の接合面25を形成している縦糸29と横糸30の温度が軟化点T2(すなわち80℃〜120℃)に到達するように加熱することによって、縦糸29および横糸30が軟化し、縦糸29および横糸30の樹脂がろ過膜22の樹脂層支持体22bに絡み付くため、ろ過膜22が流路材21の接合面25に接合される。尚、実際には、圧延時に、熱は上下の加熱ロールからろ過膜22を介して縦糸29および横糸30に伝わるため、加熱温度はT2よりも高い120℃〜170℃が用いられる。
【0047】
この時、ろ過膜22は、縦糸29と横糸30との交点である多数の接触点において接合される。また、上記のように加熱温度を、ろ過膜22の樹脂層支持体22bの軟化点T1と縦糸29および横糸30の軟化点T2(すなわち80℃〜120℃)との間にしているため、ろ過膜22が軟化するのを防止することができる。これにより、ろ過膜22の孔径分布が変化したり、ろ過膜22に皺が生じるのを防ぐことができる。
このように、流路材21とろ過膜22とで膜エレメント12を製作することができるため、接着性ネット等の接着専用の部材が不要になり、膜エレメント12を構成する部品の種類を減らすことができる。このようにして製作された膜エレメント12の厚さは、例えば1〜3mmである。
【0048】
また、パイル糸27の軟化点T3は縦糸29および横糸30の軟化点T2よりも高い温度であるため、上記のように加熱ロールで加熱した際、パイル糸27が軟化するのを防止することができ、これにより、パイル糸27間に微小な空隙32が確実に形成される。
【0049】
また、本発明の膜エレメント12は加熱することによってろ過膜22を流路材21(スペーサーファブリック)に融着しており、従来のように溶剤に溶かしたドープをスペーサーファブリックのフェースに直接塗布してろ過膜層を形成するものではないため、透過液33の通り道となる流路材21(スペーサーファブリック)内の微小な空隙32(内部空間)に、ドープが侵入して固化することはない。
【0050】
このようにして製作された可撓性を有する膜エレメント12が備えられた膜分離機器5を、図1図3に示すように、被処理液2中に浸漬した状態で、ろ過運転を行う。これにより、被処理液2は、膜エレメント12のろ過膜22を一次側から二次側へ通過してろ過され、その後、透過液33として、流路材21の接合面25の縦糸29と横糸30との各目開き31(図7参照)を通って流路材21の内部の微小な空隙32に流れ込み、流路材21内の微小な空隙32を通って集水ケース11内の集水空間15に流出し、連通孔16を通って最上位の膜分離機器5の集水ケース11内から処理槽3の外部へ取り出される。
【0051】
上記実施の形態では、縦糸29および横糸30として、ろ過膜22の樹脂層支持体22bの軟化点T1よりも低い軟化点T2を有する低融点糸を使用しているが、縦糸29および横糸30の全てをこのような低融点糸にする代わりに、何本かおきに低融点糸が現れるように接合面25を編み上げてもよく、縦糸29および横糸30の一部に低融点糸を用いてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態において、複数本の構成糸を撚ることによって縦糸29および横糸30を形成し、これら縦糸29および横糸30の構成糸の1本以上に低融点糸を用いてもよい。
【0053】
さらに、縦糸29および横糸30として、低融点糸と、複数本の構成糸を撚ることによって形成するとともに構成糸の1本以上に低融点糸を用いたものとを、いずれも含むように用いてもよい。
【0054】
上記実施の形態では、縦糸29と横糸30の材質にポリエチレンを用いているが、これに限定されるものではなく、ポリエチレン以外のポリオレフィン系樹脂を用いてもよい。また、パイル糸27の材質にポリエチレンテレフタラートを用いているが、これに限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタラート以外のポリエステル系樹脂を用いてもよい。
【0055】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、図8に示すように、流路材21の接合面25は多数本の互いに交差する縦糸29と横糸30とを有する編物であり、これらの縦糸29と横糸30には、芯材45と芯材45の外周を覆う鞘材46とを有する複合糸を複数本撚り合わせた糸が使用されている。
【0056】
鞘材46はろ過膜22の樹脂層支持体22bの軟化点T1よりも低い軟化点T4を有している。鞘材46は、例えば、約80℃〜120℃の軟化点T4を有するポリエチレン(PE)製である。
【0057】
また、芯材45は鞘材46の軟化点T4よりも高い軟化点T5を有している。芯材45は、例えば、260℃以上の軟化点T5を有するポリエチレンテレフタラート(PET)製である。
【0058】
これによると、一対のろ過膜22間に流路材21を挟んで配置し、これら流路材21と両ろ過膜22との3つの部材を、上下一対の加熱ロール間に挿通して、圧縮しながら加熱する。
【0059】
この際、流路材21の接合面25を形成している縦糸29と横糸30とを、鞘材46の軟化点T4の温度(すなわち80℃〜120℃)に達するように加熱することによって、縦糸29および横糸30の鞘材46が軟化し、縦糸29および横糸30の鞘材46の樹脂がろ過膜22の樹脂層支持体22bに絡み付くため、ろ過膜22が流路材21の接合面25に接合される。
【0060】
この時、ろ過膜22は、縦糸29と横糸30との交点である多数の接触点において、接合される。また、上記のように加熱温度を、ろ過膜22の樹脂層支持体22bの軟化点T1(すなわち260℃〜280℃)と鞘材46の軟化点T4(すなわち80℃〜120℃)との間の温度にしているため、ろ過膜22が軟化するのを防止することができる。
【0061】
さらに、縦糸29および横糸30の芯材45の軟化点T5は鞘材46の軟化点T4よりも高い温度であるため、芯材45が軟化するのを防止することができる。これにより、鞘材46よりも高強度の樹脂を用いて芯材45を構成することにより、接合面25の強度を向上させて、流路材21の剛性を高くすることができる。
【0062】
上記実施の形態では、鞘材46の材質にポリエチレンを用いているが、これに限定されるものではなく、ポリエチレン以外のポリオレフィン系樹脂を用いてもよい。
【0063】
上記各実施の形態では、ろ過膜22は樹脂層22aと樹脂層支持体22bとを有するが、多孔膜を作成する際に樹脂層支持体22bが不要な場合は、ろ過膜22を樹脂層22aのみで構成してもよい。
【0064】
上記各実施の形態では、流路材21の表裏両面にそれぞれろ過膜22を接合しているが、ろ過膜22を流路材21の表裏いずれか一面に接合し、他面側を水密にしてもよい。
【0065】
上記各実施の形態では、流路材21の接合面25は多数本の互いに交差する縦糸29と横糸30とを有する編物であるが、このような多数本の糸29,30が縦横に交差した微細な格子形状の編物のみに限定されるものではなく、他の形状の編物であってもよい。
【0066】
上記各実施の形態では、各軟化点T1〜T5を指標にしているが、軟化点T1〜T5の代わりに融点を指標にしてもよい。尚、融点を指標にする場合であっても、軟化点T1〜T5と同様の温度の高低関係が成立する。
【0067】
また、上記各実施の形態において示したポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン等の材質および数値は、一例であって、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
5 膜分離機器
11 集水ケース(支持部材)
12 膜エレメント
15 集水空間
21 流路材
22 ろ過膜
25 接合面
27 パイル糸(連結糸)
32 微小な空隙
33 透過液
45 芯材
46 鞘材
T1 ろ過膜の樹脂層支持体の軟化点
T2 縦糸および横糸の軟化点(接合面の軟化点)
T3 パイル糸の軟化点(連結糸の軟化点)
T4 鞘材の軟化点
T5 芯材の軟化点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11