特許第6986463号(P6986463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6986463運転支援装置、運転支援方法及び運転支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986463
(24)【登録日】2021年12月1日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法及び運転支援システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20211213BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20211213BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20211213BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20211213BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20211213BHJP
【FI】
   B60T8/17 DZYW
   B60T8/1755 A
   B60R21/00 991
   B60W30/10
   B60W30/02
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-23315(P2018-23315)
(22)【出願日】2018年2月13日
(65)【公開番号】特開2019-137283(P2019-137283A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】西浦 力
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−118556(JP,A)
【文献】 特開2004−168154(JP,A)
【文献】 特開平09−086365(JP,A)
【文献】 特開2004−284485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60R 21/00
B60W 30/10
B60W 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界認識部より取得された自車の外界情報に基づいて求められた前記自車の走行経路に関する情報と、車両運動状態検出センサより入力された前記自車の運動状態に関する第1物理量と、前記自車の諸元と、に基づいて前記自車が前記走行経路に追従するために必要なモーメントである第1モーメントを求め、
路面状態取得部より取得された前記自車の車輪の接地路面の摩擦係数と、前記車両運動状態検出センサより入力された前記自車の運動状態に関する第2物理量と、に基づいて前記自車に発生させることが可能なモーメントである第2モーメントを求め、
前記第1モーメントより前記第2モーメントが小さい場合、前記車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記外界情報に基づいて求められた前記自車が走行する走行幅からの逸脱リスクが所定値を超える場合、前記車輪の全輪に制動力を付与する指令を前記制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記外界情報に基づいて求められた前記自車の現在位置と前記現在位置に基づいて求められた所定時間後の前記自車の位置を示す前方位置とを結ぶ第1直線と、前記現在位置と前記走行経路に位置する目標位置とを結ぶ第2直線と、のなす角である偏差角度が所定角度を超える場合、前記車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の運転支援装置において、
前記偏差角度が小さくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力が前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力より大きくなる指令を前記制動制御装置へ出力し、
前記偏差角度が大きくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力と前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力との差が小さくなる指令を前記制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
請求項3に記載の運転支援装置において、
前記逸脱リスクが小さくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力が前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力より大きくなる指令を前記制動制御装置へ出力し、
前記逸脱リスクが大きくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力と前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力との差が小さくなる指令を前記制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記第2モーメント前記第1モーメント以上となる場合、前記車輪のうち旋回内輪に制動力を発生させる指令を制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記外界情報に基づいて求められた前記自車の現在位置と前記現在位置に基づいて求められた所定時間後の前記自車の位置を示す前方位置とを結ぶ第1直線と、前記現在位置と前記走行経路に位置する目標位置とを結ぶ第2直線と、のなす角である偏差角度が所定角度を超える場合、
前記車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力し、かつ、
前記偏差角度が小さくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力が前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力より大きくなる指令を前記制動制御装置へ出力し、
前記偏差角度が大きくなるにしたがって、前記後輪の旋回内輪に発生させる制動力と前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力との差が小さくなる指令を前記制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項8】
外界認識部により取得された自車の外界情報に基づいて求められた前記自車の走行経路に対するアンダーステアの傾向が大きくなるにしたがって、前記自車の車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力し、
前記自車が走行する走行幅の端に近づくにしたがって、前記前輪に対して前記後輪に発生させる制動力が大きくなる指令から、前記車輪の全輪に制動力を付与する指令に切り替えて前記制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援装置。
【請求項9】
外界認識部より取得された自車の外界情報に基づいて求められた前記自車の走行経路に関する情報と、車両運動状態検出センサより入力された前記自車の運動状態に関する第1物理量と、前記自車の諸元と、に基づいて前記自車が前記走行経路に追従するために必要なモーメントである第1モーメントを求め、
路面状態取得部より取得された前記自車の車輪の接地路面の摩擦係数と、前記車両運動状態検出センサより入力された前記自車の運動状態に関する第2物理量と、に基づいて前記自車に発生させることが可能なモーメントである第2モーメントを求め、
前記第1モーメントより前記第2モーメントが小さい場合、前記車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力することを特徴とする運転支援方法。
【請求項10】
車両の前方の外界情報を取得する外界認識部と、
前記外界認識部より取得された前記車両の前方の外界情報に基づいて前記車両の走行経路に関する情報を求める走行経路演算部と、
前記車両の運動状態に関する物理量を検出する車両運動状態検出センサと、
前記車両の諸元に関する情報が入力される車両諸元入力部と、
前記走行経路演算部により求められた前記車両の走行経路に関する情報と、前記車両運動状態検出センサにより検出された前記車両の運動状態に関する第1の物理量と、前記車両諸元入力部により入力された前記車両の諸元と、に基づいて前記車両が前記走行経路に追従するために必要なモーメントである第1モーメントを求める第1モーメント演算部と、
前記車両の車輪の接地路面の摩擦係数を取得する路面摩擦係数取得部と、
前記路面摩擦係数取得部により取得された前記車両の車輪の接地路面の摩擦係数と、前記車両運動状態検出センサにより検出された前記車両の運動状態に関する第2の物理量と、に基づいて前記車両に発生させることが可能なモーメントである第2モーメントを求める第2モーメント演算部と、
前記第1モーメント演算部により求められた前記第1モーメントと、前記第2モーメント演算部により求められた前記第2モーメントと、を比較し、前記第1モーメントより前記第2モーメントが小さい場合、前記車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力する制動力出力部と、
を備えることを特徴とする運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置、運転支援方法及び運転支援システムに関し、詳しくは、自車が走行経路に追従するために必要なモーメントを制動力の制御によって発生させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自車両が走行車線から逸脱しそうになることを判断する逸脱判断手段と、該逸脱判断手段により自車両が走行車線から逸脱しそうであることが判断された場合には、逸脱を回避する方向のヨーモーメントを左右輪の制動力差により発生させる制駆動力制御手段とを備えた車線逸脱防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の車線逸脱防止装置は、車輪の接地路面の摩擦係数を考慮せずに制動力を制御するため、雪道などの摩擦係数が小さい条件では、車線逸脱の抑制に必要なヨーモーメントを発生させることができず、自車が走行経路を逸脱してしまう可能性があった。
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車輪の接地路面の摩擦係数が低い場合であっても車両姿勢を適正化することが可能な、運転支援装置、運転支援方法及び運転支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、その1つの態様において、自車の走行経路に関する情報と、自車の運動状態に関する第1物理量と、自車の諸元と、に基づいて自車が走行経路に追従するために必要なモーメントである第1モーメントを求め、自車の車輪の接地路面の摩擦係数と、自車の運動状態に関する第2物理量と、に基づいて自車に発生させることが可能なモーメントである第2モーメントを求め、前記第1モーメントより前記第2モーメントが小さい場合、車輪のうち前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる指令を制動制御装置へ出力する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車輪の接地路面の摩擦係数が低い場合であっても車両姿勢を適正化することが可能になり、車線逸脱を安定して抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】運転支援システムのハードウェア構成の一態様を示すブロック図である。
図2】運転支援システムの機能ブロック図である。
図3】運転支援システムによる制動制御の手順を示すフローチャートである。
図4】車線逸脱リスクのマップの一態様を示す線図である。
図5】車両の旋回時における車両挙動と車線逸脱リスクCORとの相関の一態様を示す図である。
図6】後輪に付与する制動力のゲインと、偏差角度θsp及び車線逸脱リスクCORとの相関の一態様を示す図である。
図7】後輪の左右輪に対する制動力の配分と、偏差角度θsp及び車線逸脱リスクCORとの相関の一態様を示す図である。
図8】右旋回時における、要求ヨーモーメントMreq、各輪への液圧操作量、及び偏差角度θspの変化の一態様を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る運転支援装置、運転支援方法及び運転支援システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る運転支援システムのハードウェア構成の一態様を示すブロック図である。
なお、本実施形態の車両は、その一態様として、カメラやGPS(Global Positioning System)と地図情報とを併用するなどして車両前方の道路情報を読み取る装置、自律的に操舵可能なステアリング装置、車両の走行速度の情報や車両の走行状態,走行路面の摩擦係数μを推定するための情報などが集まる横滑り防止装置などを有する車両である。
【0009】
車両1は、左前輪2,右前輪3,左後輪4,右後輪5を有した4輪車両であり、各車輪2−5は、液圧式ブレーキシステムを構成するホイルシリンダ6−9を具備する。
各ホイルシリンダ6−9の液圧は、横滑り防止装置に代表されるホイルシリンダ液圧制御装置(制動制御装置)10によって調整される。
但し、車両1の制動装置は、液圧式の摩擦ブレーキに限定されず、電動式の摩擦ブレーキとすることができる。
【0010】
エンジン11は、電子制御スロットルを具備するなどして出力トルクが電子制御される内燃機関である。
ステアリング装置12は、操舵アシスト力を発生するモータを備える電動パワーステアリング装置に代表される、操舵に関するアクチュエータを備えた自動操舵可能なステアリング装置である。
【0011】
外界認識コントロールユニット13は、地図情報やカメラによる撮像情報を処理して、自車前方の外界情報を取得する外界認識部である。
行動戦略コントローラ14は、外界認識コントロールユニット13により得られた外界情報に基づいて、路端情報、目標の走行経路(目標軌跡)などを演算するとともに、自車の車線逸脱リスク、車線逸脱を抑止するためのヨーモーメントなどを演算する。
【0012】
また、運動戦略コントローラ15は、行動戦略コントローラ14で演算された目標軌跡、車線逸脱リスク、ヨーモーメントなどに基づき、目標軌跡に追従するためのブレーキ操作量を決定し、ブレーキ操作量の指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力する。
なお、外界認識コントロールユニット13、行動戦略コントローラ14、及び、運動戦略コントローラ15は、それぞれマイクロコンピュータを備えるとともに車載ネットワークを介して他のユニットと通信可能に構成される。
【0013】
図2は、運転支援システムの機能ブロック図である。
路面摩擦係数取得部(路面状態取得部)101は、車両1の車輪の接地路面の摩擦係数μに関する情報を取得する。
車両運転状態検出センサ102は、車両の運転状態に関する各種物理量を検出するセンサであり、車両1のヨーレートγ(旋回方向への回転角の変化速度)を検出するヨーレートセンサや、車両1の走行速度Vを検出する車速センサや、ブレーキ液圧を検出するセンサなどを含む。
【0014】
車両諸元入力部103は、車両質量、輪荷重、重心点と前軸との距離、重心点と後軸との距離、トレッドなどの車両1の各種諸元に関する情報を入力する。
外界認識部104は、図1の外界認識コントロールユニット13が有する機能部であり、地図情報やカメラによる撮像情報を処理して、自車前方の外界情報を取得する。
【0015】
目標軌跡演算部105は、外界認識部104によって取得された自車前方の外界情報に基づいて目標軌跡(目標の走行経路)を演算する。
自車位置演算部106は、外界認識部104によって取得された自車前方の外界情報に基づいて自車の現在位置を演算する。
【0016】
そして、前方注視点演算部107は、自車位置演算部106が演算した現在位置に基づき、現時点から所定時間後における自車の位置を示す前方注視点を演算する。
なお、目標軌跡、現在位置、及び前方注視点は、自車の走行経路に関する状態であり、目標軌跡演算部105、自車位置演算部106、及び、前方注視点演算部107は、走行経路演算部を構成する。
【0017】
路端情報演算部108は、外界認識部104によって取得された自車前方の外界情報に基づいて、自車が走行する車線の路端(走行幅)を演算する。
目標点座標演算部109は、目標軌跡演算部105で演算された目標軌跡と、前方注視点演算部107で演算された前方注視点とに基づいて、前方注視点から最近傍の目標軌跡上の点を目標点座標として演算する。
【0018】
限界モーメント演算部(第2モーメント演算部)110は、路面摩擦係数取得部101で取得された車両1の車輪の接地路面の摩擦係数μ、車両諸元入力部103によって入力されたトレッド、輪荷重などの車両1の諸元、車両運転状態検出センサ102で検出された自車の運転状態に関する物理量(第2物理量)である各輪のブレーキ液圧(制動力)に基づいて、そのときの摩擦係数μ及びブレーキ液圧(制動力)の条件下で自車に発生させることが可能な最大ヨーモーメントMmyu(第2モーメント)を演算する。
【0019】
ブレーキモーメント演算部(第1モーメント演算部)111は、目標点座標、前方注視点、現在位置などの自車の走行経路に関する情報、車両運転状態検出センサ102で検出された走行速度やヨーレートなどの自車の運転状態に関する物理量(第1物理量)、車両諸元入力部103によって入力された車両質量、重心点と前軸との距離、重心点と後軸との距離などの車両1の諸元に基づいて、自車が目標軌跡に追従するために必要な要求ヨーモーメントMreq(第1モーメント)を演算する。
【0020】
偏差角度演算部112は、自車の現在位置と前方注視点(所定時間後の自車位置を示す前方位置)とを結ぶ第1直線と、自車の現在位置と目標点座標(走行経路上に位置する目標位置)とを結ぶ第2直線と、のなす角である偏差角度θspを演算する。
車線逸脱リスク演算部113は、自車が走行する走行幅から逸脱するリスクである車線逸脱リスクCORを、路端情報演算部108で演算された路端情報、前方注視点演算部107で演算された前方注視点に基づいて演算する。
【0021】
なお、本願において、走行幅とは、車線幅(路端)や障害物などを考慮した、車両が走行可能な道路幅を示し、車線逸脱リスクCORは、その値が大きいほど走行幅からの逸脱する可能性が高いことを示す。
車線逸脱リスク演算部113は、走行幅RW内の目標軌跡上の位置(目標点座標)を基準位置とし、この基準位置から左右方向に離れるにしたがって車線逸脱リスクCORがより大きくなるように分布されるリスクマップを作成し、このリスクマップを参照して前方注視点での車線逸脱リスクCORを演算する。
【0022】
行動戦略コントローラ14は、前述した、目標軌跡演算部105、自車位置演算部106、前方注視点演算部107、路端情報演算部108、目標点座標演算部109、限界モーメント演算部110、ブレーキモーメント演算部111、偏差角度演算部112、車線逸脱リスク演算部113としての機能をソフトウェアとして備える。
そして、行動戦略コントローラ14は、最大ヨーモーメントMmyu、要求ヨーモーメントMreq、偏差角度θsp、車線逸脱リスクCORの情報を、運動戦略コントローラ15に出力する。
【0023】
運動戦略コントローラ15は、最大ヨーモーメントMmyu、要求ヨーモーメントMreq、偏差角度θsp、車線逸脱リスクCORに基づき、自車を目標軌跡に追従させるための制動力制御における4輪への制動力配分を決定し、ホイルシリンダ液圧制御装置10に出力する。
図3のフローチャートは、行動戦略コントローラ14及び運動戦略コントローラ15による制動力制御の流れを示す。
【0024】
行動戦略コントローラ14は、ステップS301で、外界認識部104によって取得された自車前方の外界情報に基づき、自車の現在位置を表す現在位置座標(Xv,Yv)を演算するとともに前方の道路形状や障害物などを加味して目標軌跡を演算する。
更に、行動戦略コントローラ14は、ステップS301で、現在位置座標(Xv,Yv)に基づき、現在から所定時間後の自車位置を示す前方注視点(Xs,Ys)を演算する。
【0025】
次いで、行動戦略コントローラ14は、ステップS302で、前方注視点(Xs,Ys)から最も近い目標軌跡上の点を目標点座標(Xp,Yp)として演算し、目標点座標(Xp,Yp)、前方注視点(Xs,Ys)、及び現在位置座標(Xv,Yv)に基づき、自車が目標軌跡上を走行し続けるための要求ヨーモーメントMreqを演算する。
【0026】
行動戦略コントローラ14は、要求ヨーモーメントMreqを演算するために、まず、外界認識部104で得られた外界情報に基づき求めた目標軌跡に沿って車両1を走行させるために必要なヨーレートである経路規範ヨーレートγcoを、走行速度Vや旋回支援角αから演算する。
γco=V×Kco
なお、Kcoは、旋回支援角αを変数とする関数値である。
【0027】
次いで、行動戦略コントローラ14は、車両1に発生している実ヨーレートγcaを、車両運転状態検出センサ102(ヨーレートセンサ)の出力に基づいて検出し、経路規範ヨーレートγcoと実ヨーレートγcaとの偏差であるヨーレート偏差Δγ(Δγ=γco−γca)を演算する。
上記のヨーレート偏差Δγは、自車が目標軌跡に留まるために必要なヨーレートである。
【0028】
更に、行動戦略コントローラ14は、ヨーレート偏差Δγなどに基づいて、数1にしたがって要求ヨーモーメントMreqを演算する。
なお、正の要求ヨーモーメントMreqは右旋回モーメントを表し、負の要求ヨーモーメントMreqは左旋回モーメントを表すものとする。
【数1】
数1において、mは車両質量、Vは走行速度、Kfは前輪のコーナリングパワー、Krは後輪のコーナリングパワー、lfは車両1の重心点と前軸との距離、lrは車両1の重心点と後前軸との距離、lは車両1のホイルベースである。
【0029】
上記のようにして、行動戦略コントローラ14は、ステップS302で要求ヨーモーメントMreqを演算すると、次のステップS303で、現在位置座標(Xv,Yv)と前方注視点(Xs,Ys)とを結ぶ第1直線と、現在位置座標(Xv,Yv)と目標点座標(Xp,Yp)とを結ぶ第2直線と、のなす角である偏差角度θspを演算する。
ここで、行動戦略コントローラ14は、現在位置座標(Xv,Yv)から前方注視点(Xs,Ys)までの距離Gvs、前方注視点(Xs,Ys)から目標点座標(Xp,Yp)までの距離Gps、及び、目標点座標(Xp,Yp)から現在位置座標(Xv,Yv)までの距離Gpvを演算する。そして、行動戦略コントローラ14は、距離Gvs、Gps、Gpvのデータに基づき余弦定理によって偏差角度θspを演算する。
【0030】
次いで、行動戦略コントローラ14は、ステップS304で、走行路面の摩擦係数μに基づき、現在の制動力によって発生させることが可能な最大ヨーモーメントMmyuを演算する。
例えば、自車が左へ旋回する場合は旋回内輪が左輪となるため、行動戦略コントローラ14は、達成可能な最大ヨーモーメントMmyuを数2にしたがって演算する。
【数2】
但し、数2において、maxF(x)FLは左前輪制動力、maxF(x)RLは左後輪制動力、WFFLは左前輪荷重、WFRLは左後輪荷重、μは路面摩擦係数、Tredは車両1のトレッド(左右輪の中心間距離)である。
【0031】
次いで、行動戦略コントローラ14は、ステップS305で、前方注視点(Xs,Ys)での車線逸脱リスクCORを演算する。
なお、車線逸脱リスクCORは、その値が大きいほど自車が走行幅RWから逸脱(コースアウト)する確率が高いことを示す。
行動戦略コントローラ14は、前方注視点(Xs,Ys)における走行幅RW内での車線逸脱リスクCORの分布を示すリスクマップを作成し、このリスクマップを参照して前方注視点(Xs,Ys)での車線逸脱リスクCORを演算する。
【0032】
以下では、行動戦略コントローラ14(車線逸脱リスク演算部113)によるリスクマップの作成手順の一態様を説明する。
行動戦略コントローラ14は、図4に示すように、走行幅RWの左端から目標点座標(Xp,Yp)までの距離DL、走行幅RWの右端から目標点座標(Xp,Yp)までの距離DRに応じて、車線逸脱リスクCORを指数関数的に増大させる領域、車線逸脱リスクCORを零とする領域を設定する。
【0033】
例えば、行動戦略コントローラ14は、走行幅RWの左端から距離DLの所定割合R(0<R<1.0)だけ離れた走行幅RW内の位置を第1起点とし、当該第1起点から走行幅RWの左端に近づくにしたがって車線逸脱リスクCORを指数関数的に増加させるとともに、走行幅RWの右端から距離DRの所定割合R(0<R<1.0)だけ離れた走行幅RW内の位置を第2起点とし、当該第2起点から走行幅RWの左端に近づくにしたがって車線逸脱リスクCORを指数関数的に増加させ、更に、第1起点と第2起点とで挟まれる領域での車線逸脱リスクCORを零に設定する。
【0034】
行動戦略コントローラ14は、前述のようにして、要求ヨーモーメントMreq、最大ヨーモーメントMmyu、偏差角度θsp、及び車線逸脱リスクCORを演算し、これらの演算結果を運動戦略コントローラ15に出力する。
そして、運動戦略コントローラ15は、ステップS306で、要求ヨーモーメントMreqと最大ヨーモーメントMmyuとを比較する。
なお、本願で、正のヨーモーメントは右旋回モーメントを表し、負のヨーモーメントは左旋回モーメントを表すので、運動戦略コントローラ15は、ステップS306で、要求ヨーモーメントMreqの絶対値と、最大ヨーモーメントMmyuの絶対値とを比較する。
【0035】
ここで、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyu以下である(Mmyu≧Mreq)とき、は、現在の摩擦係数μの条件下で要求ヨーモーメントMreqを発生させることができることになる。
この場合、運動戦略コントローラ15は、ステップS307に進み、前後の旋回内輪に制動力を発生させる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力して、車両1を減速させつつ要求ヨーモーメントMreqを車両1に付与する。
【0036】
つまり、運動戦略コントローラ15は、ステップS307において、前後輪において旋回外輪の制動力より旋回内輪の制動力を大きくして左右輪で制動力差を発生させる制動制御を行って、自車を目標軌跡に追従させるためのヨーモーメントを発生させる。
そして、車両1を減速させつつ要求ヨーモーメントMreqを車両1に付与することで、車両の走行状態が安定化する。
【0037】
一方、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyuより大きい(Mmyu<Mreq)とき、つまり、自車が目標軌跡に追従するために必要なモーメントより自車に発生させることが可能なモーメントが小さい場合、前後の旋回内輪に制動を掛ける制御では現在の摩擦係数μの条件下で要求ヨーモーメントMreqを発生させることができないことになる。
この場合、運動戦略コントローラ15は、前後の旋回内輪に制動を掛ける制動制御から、前輪に発生させる制動力よりも後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御に切り替える。
【0038】
一般に、車両1に発生するヨーモーメントMveは、数3で表される。
【数3】
数3において、FYfは前輪2輪の横力合力、FYrは後輪2輪の横力合力、lfは車両1の重心点と前軸との距離、lrは車両1の重心点と後前軸との距離である。
【0039】
数3から、車両1に発生するヨーモーメントMveは、後輪2輪の横力合力FYrが零に近くなるほど大きくなることが分かる。また、制駆動力が大きくなると横力は小さくなる。
そこで、運動戦略コントローラ15は、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyuより大きいときは、前後の旋回内輪に制動を掛ける制動制御に代えて、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする、換言すれば、前輪への制動力分配を低くする一方で後輪への制動力分配を大きくする制動制御を実施する。
【0040】
ここで、運動戦略コントローラ15は、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御の一態様として、前輪の制動を止め後輪のみへ制動力を付与する制動制御を実施する。
後輪の制動力が大きくなると、後輪2輪の横力合力FYrが零に近づくことで、車両1に発生するヨーモーメントMveが大きくなり、要求ヨーモーメントMreqを発生させることが可能になる。
つまり、路面の摩擦係数μが低く最大ヨーモーメントMmyuが要求ヨーモーメントMreqよりも小さくなっても、前輪の制動を止め後輪のみへ制動力を付与する制動制御によって要求ヨーモーメントMreqを発生させ、自車の車線逸脱を抑制できる。
【0041】
以下、Mmyu<Mreqであるときの運動戦略コントローラ15による制動力制御を詳細に説明する。
まず、運動戦略コントローラ15は、制動制御の切り替えを実施する前に、ステップS308で、行動戦略コントローラ14(車線逸脱リスク演算部113)によって演算された車線逸脱リスクCORが閾値THRよりも高いか否かを判断することで、車両1が走行幅RWから逸脱する可能性が設定よりも高いか否かを判断する。
【0042】
そして、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが閾値THRよりも高く、自車が走行する走行幅RWから逸脱する可能性が設定値を超える場合、ステップS309で、全輪(4輪)にフル制動を掛ける指令(全輪に制動力を付与する指令)を、ホイルシリンダ液圧制御装置10に出力する。
つまり、車線逸脱リスクCORが閾値THRよりも高く、車両1が走行幅RWから逸脱する可能性が設定よりも高い場合、運動戦略コントローラ15は、目標軌跡の追従よりも減速を優先して全輪フル制動の指令を出力することで、逸脱時の運動エネルギー(壁面衝突エネルギー)を軽減する。
【0043】
図5は、車両1の旋回時における車両挙動と車線逸脱リスクCORとの相関の一態様を示す。
車線逸脱リスクCORは、走行幅RWの端(路端)に近づくほどより大きな値に設定され、図5のAのように車両1が路端に極端に近づくと車線逸脱リスクCORが閾値THRを超えることになる。
このとき、運動戦略コントローラ15は、全輪フル制動を指令し、車線逸脱の抑制や逸脱時の走行速度(運動エネルギー)の低下を図る。
【0044】
なお、フル制動とは、車両1を急減速させるときの制動状態を示し、運動戦略コントローラ15は、最大液圧若しくは最大液圧近傍の液圧を全輪(4輪)それぞれに与える指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力する。
運動戦略コントローラ15が、前後の旋回内輪に制動力を付与する指令から全輪フル制動の指令に切り替えると、前後の旋回外輪に発生する制動力が増大し、また、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする指令から全輪フル制動の指令に切り替えると、前輪に発生する制動力が増大することになる。
【0045】
一方、運動戦略コントローラ15は、行動戦略コントローラ14(車線逸脱リスク演算部113)によって演算された車線逸脱リスクCORが閾値THR以下である場合、換言すれば、全輪フル制動が要求される状態でない場合、ステップS308からステップS310に進み、偏差角度θspが設定角度THθ以下であるか否かを判断する。
例えば、図5のBのように、自車から走行幅RWの端(路端)までの距離が確保されていて車線逸脱リスクCORが閾値THRを下回るものの、自車がアンダーステア傾向を示して偏差角度θspが大きくなっている場合は、今後、自車が走行幅RWの端(路端)に近づいて車線逸脱リスクCORが高まる可能性があって、制動によってヨーモーメントを速やかに付与することが望まれる。
【0046】
一方、図5のCのように、自車から走行幅RWの端(路端)までの距離が確保されていて車線逸脱リスクCORが閾値THRを下回り、かつ、自車のアンダーステア傾向が小さく偏差角度θspが小さい場合は、車線逸脱リスクCORは比較的低い値で推移すると想定される。
ここで、後輪の制動力が高める制動制御は、ヨーモーメントが急峻に発生することで、車両1の走行安定性を損なう場合があり、車線逸脱リスクCORが比較的低い値で推移すると想定されるときに、走行安定性を損なう可能性がある制動制御を行うことは得策ではない。
【0047】
そこで、運動戦略コントローラ15は、偏差角度θspが設定角度THθ以下であって、車線逸脱に至るまで比較的余裕があり、車線逸脱を抑制するための制動制御の緊急性が低い場合、ステップS311に進んで、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御をキャンセルする指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力する。
前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御がキャンセルされることで、後輪の制動力を下がって後輪の横力が速やかに回復し、旋回状態での車両1の走行安定性が向上する。換言すれば、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御は、偏差角度θspが設定角度THθを超えるときに実施されることが好ましい。
【0048】
一方、運動戦略コントローラ15は、ステップS310で、偏差角度θspが設定角度THθよりも大きいと判断すると、ステップS312に進み、前輪に対して後輪に発生させる制動力が大きくなる制動指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力することで、車両1が車線逸脱に至ることを抑止する。
つまり、偏差角度θspが設定角度THθを超えている場合、設定角度THθ以下である場合よりも車線逸脱に至る可能性が高く、車線逸脱を抑制するための制動制御の緊急性が高いので、運動戦略コントローラ15は、前輪に対して後輪に発生させる制動力(液圧)を大きくする制動制御の実施を指令する。
【0049】
車両1に発生するヨーモーメントMveは前述の数3で表され、後輪の横力合力FYrが零に近くなるほどヨーモーメントMveは大きくなり、後輪の制動力を増やすことで後輪の横力合力FYrは零に近づく。
このため、運動戦略コントローラ15は、前輪に発生させる制動力を零とし後輪のみに制動力を発生させる制動指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力することで、要求ヨーモーメントMreqを達成する。
但し、運動戦略コントローラ15は、前輪に制動力を発生させつつ(前輪制動力≠零としつつ)後輪に発生させる制動力を前輪よりも大きくする指令を出力することができる。
【0050】
運動戦略コントローラ15は、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくすることで、車両1をスピンターンのような旋回状態としてヨーモーメントを発生させる。
これにより、摩擦係数μが低い路面で旋回時にアンダーステア状態になった場合でも、車線逸脱を抑制し、目標軌跡に追従させることができる。
【0051】
なお、アンダーステア状態になった場合、ステアリング操作で車両1を旋回させることは難しいため、仮にステアリング制御が介入したとしても、運動戦略コントローラ15が制動力制御を実施することで、車線逸脱を抑止できることになる。
また、運動戦略コントローラ15が上記の制動力制御の機能を有する場合、路面の摩擦係数μが低くアンダーステアが発生する状況において、前輪に対して後輪に発生する制動力(液圧)が大きくなる。そして、前輪に対して後輪に発生する制動力(液圧)が大きい状態で自車が路端に極端に近づくと、フル制動に切り替えられることになる。
【0052】
ここで、運動戦略コントローラ15は、後輪の液圧操作量(後輪の制動力)の指令値を、車線逸脱リスクCOR及び偏差角度θspに応じて変更する。
詳細には、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCOR及び偏差角度θspを変数としてゲインGB(GB≧1.0)を記憶するゲインマップを参照し、そのときの車線逸脱リスクCOR及び偏差角度θspに対応するゲインGBを検索し、検索したゲインGBに基づき後輪の液圧操作量の指令値を決定する。
【0053】
ここで、車線逸脱リスクCORが高いほど車線逸脱の可能性が高いことを示し、また、偏差角度θspが大きいほど車線逸脱の可能性が高いことを示す。そこで、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが高いほど後輪の液圧操作量のゲインGBを大きくし、また、偏差角度θspが大きいほど後輪の液圧操作量のゲインGBを大きくする。
【0054】
つまり、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが高いほど後輪に発生させる制動力を大きくし、また、偏差角度θspが大きいほど後輪に発生させる制動力を大きくして、要求ヨーモーメントMreqを速やかに達成させる。
換言すれば、車線逸脱リスクCORが高いほど、また、偏差角度θspが大きいほど、車線逸脱に至る可能性が高く、このとき、運動戦略コントローラ15は、ゲインGBを大きくして要求ヨーモーメントMreqを速やかに達成させることで、車線逸脱を応答よく抑制できる。
【0055】
図6は、ゲインマップの一態様を示す。
図6は、車線逸脱リスクCORの最大値が1.0になるように正規化される場合であって、ゲインGBが1から最大値である1.4までの間で可変に設定される場合を例示する。
図6では、偏差角度θspが小さくかつ車線逸脱リスクCORが低い領域では、ゲインGBは1.0に設定され、後輪の液圧操作量(制動力)は基本値に設定される。
【0056】
一方、偏差角度θspが大きくなるにしたがってゲインGBはより大きな値に変更され、また、車線逸脱リスクCORが高くなるにしたがってゲインGBはより大きな値に変更され、ゲインGBが大きくなるほど後輪の液圧操作量(制動力)はより大きな値に変更される。
つまり、自車の走行経路に対するアンダーステアの傾向が大きくなるにしたがって偏差角度θspが大きくなり、運動戦略コントローラ(制動力出力部)15は、偏差角度θspが大きくなるにしたがって前輪に対して後輪に発生させる制動力がより大きくなる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10に出力し、要求ヨーモーメントMreqを速やかに達成させる。
【0057】
そして、偏差角度θspが小さくなると、運動戦略コントローラ15は、後輪に発生させる制動力を下げることで、後輪の横力を速やかに回復させ、車両1を安定化させる。
また、運動戦略コントローラ15は、前輪に対して後輪に発生させる制動力を大きくする制動制御において、後輪の左右輪への液圧配分(制動力配分)を、車線逸脱リスクCOR及び偏差角度θspに応じて変更する。
ここで、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが低くかつ偏差角度θspが小さい場合、後輪のうちの旋回外輪よりも旋回内輪により大きな制動力を付与することで、走行安定性と旋回性とを両立させる。
【0058】
一方、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが高い場合、又は、偏差角度θspが大きい場合、後輪の左右輪における制動力差を小さくして後輪の左右輪に制動を掛けることで後輪2輪の横力合力FYr(数3参照)を零に近づけて要求ヨーモーメントMreqを発生させる。
つまり、運動戦略コントローラ15は、偏差角度θspが小さくなるにしたがって、後輪の旋回内輪に発生させる制動力が後輪の旋回外輪に発生させる制動力より大きくなる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10へ出力し、偏差角度θspが大きくなるにしたがって、後輪の旋回内輪に発生させる制動力と前記後輪の旋回外輪に発生させる制動力との差が小さくなる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10へ出力する。
【0059】
更に、運動戦略コントローラ15は、車線逸脱リスクCORが小さくなるにしたがって、後輪の旋回内輪に発生させる制動力が後輪の旋回外輪に発生させる制動力より大きくなる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10へ出力し、車線逸脱リスクCORが大きくなるにしたがって、後輪の旋回内輪に発生させる制動力と後輪の旋回外輪に発生させる制動力との差が小さくなる指令をホイルシリンダ液圧制御装置10へ出力する。
【0060】
図7は、後輪のうちの旋回内輪への液圧配分FPD(%)と、車線逸脱リスクCOR及び偏差角度θspとの相関の一態様を示す。
図7は、車線逸脱リスクCORの最大値が1.0になるように正規化される場合であって、液圧配分FPDが50%から100%までの間で可変に設定される場合の液圧配分マップを例示する。
【0061】
運動戦略コントローラ15は、図7のマップを参照して液圧配分FPDを決定することで、車線逸脱リスクCORが低くかつ偏差角度θspが小さい領域では液圧配分FPDを100%に設定する。これによって、後輪のうち旋回外輪に付与する制動力が零となり、後輪のうち旋回内輪のみに制動力が付与され、走行安定性と旋回性とが両立される。
一方、運動戦略コントローラ15は、図7のマップを参照して液圧配分FPDを決定することで、車線逸脱リスクCORが高くなるほど後輪のうち旋回外輪に付与する制動力を増やし、相対的に旋回内輪に付与する制動力を減らして、旋回外輪と旋回内輪との制動力差を小さくすることで、後輪2輪の横力合力FYrを零に近づけ、要求ヨーモーメントMreqを発生させる。
【0062】
また、運動戦略コントローラ15は、図7のマップを参照して液圧配分FPDを決定することで、偏差角度θspが大きくなるほど、後輪のうち旋回外輪に付与する制動力を増やし、相対的に旋回内輪に付与する制動力を減らして、旋回外輪と旋回内輪との制動力差を小さくすることで、後輪2輪の横力合力FYrを零に近づけ、要求ヨーモーメントMreqを発生させる。
【0063】
図8は、図3のフローチャートにしたがって行動戦略コントローラ14及び運動戦略コントローラ15が制動制御を行ったときの右旋回時における要求ヨーモーメントMreq、各輪への液圧操作量、偏差角度θspの変化の一態様を示すタイムチャートである。
図8の時刻t1から時刻t2までの間は、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyu以下であり(Mmyu≧Mreq)、このとき、運動戦略コントローラ15は、前輪の旋回内輪(右前輪FR)及び後輪の旋回内輪(右後輪RR)に液圧を付与して要求ヨーモーメントMreqを発生させる。
【0064】
また、時刻t2以降で、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyuより大きくなると(Mmyu<Mreq)、運動戦略コントローラ15は、前輪に付与する液圧を下げ後輪に付与する液圧を上げることで後輪2輪の横力合力FYrを零に近づけ、車両1に発生するヨーモーメントMve(右旋回モーメント)を大きくする。
後輪に付与する液圧を上げることで大きなヨーモーメントMve(右旋回モーメント)が発生すると、偏差角度θspは減少変化し、運動戦略コントローラ15は、時刻t3において偏差角度θspが所定値にまで低下すると、自車を目標軌跡に追従させる(車線逸脱を抑制する)ための制動制御を終了させる。
【0065】
また、時刻t4から時刻t5までの間は、要求ヨーモーメントMreqが最大ヨーモーメントMmyu以下であり(Mmyu≧Mreq)、このとき、運動戦略コントローラ15は、前輪の旋回内輪(右前輪FR)及び後輪の旋回内輪(右後輪RR)に液圧を付与して要求ヨーモーメントMreqを発生させる。
【0066】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0067】
例えば、行動戦略コントローラ14(車線逸脱リスク演算部113)は、道路曲率、車両速度、路面摩擦係数、オーバーステア傾向/アンダーステア傾向などの走行条件のいずれかに応じて、リスクマップのリスク分布を変更することができる。
また、運動戦略コントローラ15は、前輪に対して後輪に発生する制動力(液圧)を大きくする制動制御において、要求ヨーモーメントMreqと最大ヨーモーメントMmyuとの偏差、偏差角度θsp、車線逸脱リスクCORのうちの少なくとも1つに応じて、前輪に発生させる制動力と後輪に発生させる制動力との差を変更することができる。
【0068】
また、図1の運転支援システムは、要求ヨーモーメントMreq、最大ヨーモーメントMmyuなどを演算する行動戦略コントローラ14と、要求ヨーモーメントMreq、最大ヨーモーメントMmyuなどに基づき制動力配分を決定する運動戦略コントローラ15とを備えるが、要求ヨーモーメントMreq、最大ヨーモーメントMmyuなどの演算処理と制動力配分の演算処理とを1つのコントローラで行わせることができ、また、3つ以上のコントローラで演算処理機能を分担することができる。
更に、行動戦略コントローラ14において、目標点座標、前方注視点、路端情報、自車位置などの演算を行い、運動戦略コントローラ15において、要求ヨーモーメントMreq、最大ヨーモーメントMmyuの演算、制動力配分の演算などを行う構成とすることができ、行動戦略コントローラ14での演算処理機能と運動戦略コントローラ15での演算処理機能とを、図2の態様に限定するものではない。
【符号の説明】
【0069】
1…車両、6−9…ホイルシリンダ、10…ホイルシリンダ液圧制御装置(制動制御装置)12…ステアリング装置、13…外界認識コントロールユニット、14…行動戦略コントローラ、15…運動戦略コントローラ、101…路面摩擦係数取得部(路面状態取得部)、102…車両運転状態検出センサ、103…車両諸元入力部、104…外界認識部、105…目標軌跡演算部、106…自車位置演算部、107…前方注視点演算部、108…路端情報演算部、109…目標点座標演算部、110…限界モーメント演算部、111…ブレーキモーメント演算部、112…偏差角度演算部、113…車線逸脱リスク演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8