(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が0.50未満であることを特徴とする、請求項1に記載の固体電解質材料。
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=17.90°±0.20°、29.0°±0.50°、29.75°±0.25°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=18.50°±0.20°の位置にピークを有しないか、前記2θ=18.50°±0.20°の位置にピークを有する場合、前記2θ=17.90°±0.20°のピークの回折強度をICとし、前記2θ=18.50°±0.20°のピークの回折強度をIDとした場合に、ID/ICの値が0.50未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の固体電解質材料。
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=18.0°±0.1°、19.4°±0.1°、21.9°±0.1°、24.0°±0.1°、31.3°±0.1°の位置にピークを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=17.8°±0.1°、19.1°±0.1°、21.7°±0.1°、23.8°±0.1°、30.85°±0.1°の位置にピークを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、タブレットパソコンなどの情報電子機器の高性能化に伴い、1回の充電でこれらの情報電子機器を長時間駆動させるための高性能な蓄電池が望まれている。また、温室効果ガスの削減、ガソリン価格の高騰などのために、ハイブリッド自動車や電気自動車が急速に普及し、これらに搭載されたモーターを駆動させるための高出力かつ高容量の蓄電池が望まれている。このような要求を満たす電池として、現在、リチウム電池が主に使用されている。
【0003】
現在、リチウム電池の電解質として、イオン伝導性が高いこと、電位窓が広いこと、安価なことなどを理由に、可燃性の有機溶媒が使用されている。しかし、リチウム電池のエネルギー密度は非常に高いため、可燃性の有機溶媒は安全性の観点から好ましくない。リチウム電池の安全性をより高めるために、難燃性の材料をリチウム電池の電解質として使用することが望ましい。このような難燃性の材料として無機固体電解質が注目されている。
【0004】
無機固体電解質として、窒化物、酸化物、硫化物などの非晶質、または結晶質の無機系電解質がある。硫化物系ガラス固体電解質として、硫化リチウム、二硫化ゲルマニウム、およびヨウ化リチウムの3成分系ガラス状固体電解質(特許文献1)や、一般式Li
2−Xで表されるリチウムイオン伝導性硫化物ガラスに、リン酸リチウムを存在させた固体電解質(特許文献2)が知られている。これらのイオン伝導度は10
-4S/cmレベルである。さらに、非晶質ではなく、結晶質として高いイオン伝導性を目指してSiS
4やPO
4、PS
4、PN
4四面体を基本構造とする結晶物質が探索され、Li
2S−GeS
2−Ga
2S
3系固体電解質でイオン伝導度10
-5〜10
-4S/cmが報告されている(特許文献3)。
【0005】
固体電解質の中で、リチウムイオン伝導度が非常に高い固体電解質として、硫化物系チオリシコン(thio-LISICON : LIthium SuperIonic CONductor)と呼ばれる硫化物系固体電解質が知られている。その中でもLi
3.25Ge
0.25P
0.75S
4のイオン伝導度は、2.2×10
-3S/cmであり、硫化物系チオリシコンの中でも最も高い(たとえば、非特許文献1参照)。また、電解質の安定性を向上させるためにリチウム以外の金属元素を含まない硫化物系チオリシコンとして、Li−P−S系およびLi−P−S−O系の硫化物系固体電解質が報告されている(たとえば、非特許文献2および3参照)。
【0006】
特許文献4は、Li−P−S−O系の硫化物系固体電解質を含む導電率の高い固体電解質として、組成式Li
3+5xP
1−xS
4−zO
z(0.01≦x≦0.105、かつ0.01≦z≦1.55)で示される硫化物系固体電解質を提案している。また、特許文献5は、Li
5x+2y+3P
(III)yP
(V)1−x−yS
4(0≦x≦0.2、0<y≦0.3)の組成を含む硫化物固体電解質材料を提案している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、組成式Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z(Li
4−4y−xP
1+yS
4-zO
z)で示される硫化物系組成物を含み、0.6≦x<1,0≦z≦0.2,−0.025≦y≦0.1である固体電解質材料のイオン伝導度及び化学的安定性が高く、且つ容易に製造できることを見出し、本発明に想到した。以下、本発明の詳細について説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(硫化物系固体電解質)
図1のLi
2S−PS
2−P
2S
5−Li
2O−PO
2−P
2O
5系の三角柱形状の組成図を参照して本発明における硫化物系固体電解質(硫化物系組成物)を説明する。この三角柱状の組成図は、底面が硫化物系の三元図であり、上面が酸化物系の三元図であって、三角柱の下方ほど硫化物系の成分が多く、三角柱の上方ほど酸化物系の成分が多くなる。より詳しくは、底面の硫化物系三元図はLi
2S−P
(4+)S
2−P
(5+)2S
5の三元図であり(
図1の左下のLi−P−S system)、上面の酸化物系三元図はLi
2O−P
(4+)O
2−P
(5+)2O
5 の三元図である。本発明における硫化物系固体電解質は、三角柱の内部(側面を含まない)にプロットされる組成を有し、その組成式は、Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z(=Li
4−4y−xP
1+yS
4−zO
z)と表現することができる。ここで、zはSとOの比率に関する係数であって、z=0の場合が底面(硫化物系三元図)に相当し、z=1の場合が上面(酸化物系三元図)に相当し、zが0から大きくなるにつれて、組成物は酸素を多く含み、三角柱では上面側に移動することになる。x、yの係数について、
図1の左上のLi−P−S−O systemの三元図を用いて、説明する。この三元図は、0<z<1の範囲で選択されたzで三角柱から切り出した面であって、三角形の頂点が1/2Li
2A、P
4+A
2、1/2P
5+2A
5である。なお、Aは、SとOを混合したものであって、A=S
4−z/4O
z/4である。この三元図において、xは、5価のP(P
5+)の比率に関する係数であって、xが大きいほど、頂点1/2P
5+2A
5(三元図の右下)の近くにプロットされる。yは、4価のP(P
4+)の比率に関する係数であって、yが大きいほど、頂点P
4+A
2(三元図の左下)の近くにプロットされる。xと、yとの関係で、Liの組成比(4−4y-x)が決定される。
本発明における硫化物系固体電解質は、上記の組成式Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z(=Li
4−4y−xP
1+yS
4−zO
z)で示され、0.6≦x<1,0≦z≦0.2,−0.025≦y≦0.1である。言い換えると、本発明における硫化物系固体電解質は、4価のPを含むことを特徴の1つとする。参考までに、特許文献4は、組成式Li
3+5x’P
1−x’S
4−z’O
z’を有する硫化物系固体電解質を開示しているが、これは、Li
2S、Li
2S
5、P
2O
5を頂点とする三元図にプロットされるものであり、5価のPを含むものであって、4価のPを含んでいない。
図1の三角柱にプロットしようとする場合、三角柱の右側の側面にプロットされるものであって、三角柱の内部の組成ではない。つまり、本発明における硫化物系固体電解質は、特許文献4等とは異なる組成を有するものである。
【0015】
また、本発明における硫化物系固体電解質は、酸素(O)を含んでいることを特徴の1つとしており、つまり、酸化物を含んでいる。酸化物は、一般に、化学安定性に優れており、本発明における硫化物系固体電解質の化学的安定性を向上させる。また、硫化物系固体電解質は、特異な結晶構造を有しており、その特異な結晶構造、例えばイオンの通り抜けられるトンネル構造等、により高いイオン伝導性が得られると考えられている。その結晶構造内のSの一部が酸素(O)で置換される場合、イオン伝導に寄与するトンネルの形状が変化し、イオン伝導性が向上する効果も期待できる。酸素含有量に関する係数zの範囲は、0≦z≦0.2である。ただし、一般に、酸素(O)の含有量が多いほど、上記の効果は高くなるが、酸素(O)の含有量が多すぎると、所望の結晶構造が得られないことがある。したがって、酸素(O)含有量に関する係数zの下限は、好ましくは0より大きく、より好ましくは1以上、さらに好ましくは1超であってもよい。係数zの上限は、好ましくは2未満、より好ましくは1.8以下または未満、さらに好ましくは1.5以下または未満であってもよい。
【0016】
本発明における硫化物系固体電解質は、上記の組成式Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z(=Li
4−4y−xP
1+yS
4−zO
z)で示され、0.6≦x<1,0≦z≦0.2,−0.025≦y≦0.1である。この組成範囲において、様々な結晶構造を有する硫化物系固体電解質が確認され、それぞれの結晶構造に起因して、優れたイオン伝導性も有している。本発明における硫化物系固体電解質は、LGPS型結晶構造、α型結晶構造(Li
3PS
4のα相で見られる結晶構造)、β型結晶構造(Li
3PS
4のβ相で見られる結晶構造)を含むことがある。これらの結晶構造は、従来からイオン伝導性を有することが知られており、その結晶構造を有する硫化物系固体電解質もイオン伝導性を有することが期待される。さらに、本発明の上記の組成範囲内では、驚くべきことに、これまで知られていた結晶構造とは異なる、新規の結晶構造も見出され、そのイオン伝導性も確認された。以下で、結晶構造ごとに説明する。なお、それぞれの結晶構造は、CuKα線を用いたX線回折測定におけるピーク位置によって、識別可能である。本発明における硫化物系固体電解質は、複数の結晶構造が併存する、混相状態となることもある。例えば、本発明の上記の組成物が、LGPS型結晶構造と、α型結晶構造を含み、それらのピークが重なりあったものがX線回折測定で観測されることもありえる。
【0017】
本発明における硫化物系固体電解質は、LGPS型硫化物系固体電解質の結晶構造を有するものであってもよく、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、上記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、上記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をI
Aとし、上記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をI
Bとした際に、I
B/I
Aの値が0.50未満であってもよい。このピークは、LGPS型硫化物系固体電解質の結晶構造で見られるものであり、良好なイオン伝導性を有する。
【0018】
I
B/I
Aの規定について説明する。LGPS型硫化物系固体電解質は、イオン伝導性の高いLGPS型の結晶構造以外のものを含むことがあり、例えば、2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相を含むことがある。2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相は、イオン伝導性が高くない。そのため、本発明における硫化物系固体電解質では、イオン伝導性が低い硫化物系固体電解質と区別するため、2θ=29.58°付近のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=27.33°付近のピークの回折強度をI
Bとし、I
B/I
Aの値を0.50未満に規定している。イオン伝導性の観点からは、本発明における硫化物系固体電解質は、イオン伝導性の高い結晶相(ピーク位置が2θ=29.58°のもの)の割合が高いことが好ましい。そのため、I
B/I
Aの値はより小さいことが好ましく、具体的には、0.45以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましく、0.07以下であることが特に好ましい。また、I
B/I
Aの値は0であることが好ましい。言い換えると、本発明における硫化物系固体電解質は、2θ=27.33°付近のピークを有しないことが好ましい。本発明における硫化物系固体電解質では、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い場合に、イオン伝導性が良好な固体電解質とすることができる。
【0019】
ここで、ピーク位置2θ=29.58°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=29.58°から多少前後する場合がある。そのため、上記ピークを、29.58°±0.50°の位置のピークとして定義する。イオン伝導性の高いLGPS型硫化物系固体電解質は、通常、2θ=17.38°、20.18°、20.44°、23.56°、23.96°、24.93°、26.96°、29.07°、29.58°、31.71°、32.66°、33.39°のピークを有すると考えられるため、本発明における硫化物系固体電解質でもこれらのピークを有し得る。なお、これらのピーク位置も、±0.50°の範囲で前後する場合がある。
【0020】
一方、2θ=27.33°付近のピークは、上述したように、イオン伝導性の低い結晶相のピークの一つである。ここで、2θ=27.33°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=27.33°から多少前後する場合がある。そのため、イオン伝導性の低い結晶相の上記ピークを、27.33°±0.50°の位置のピークとして定義する。イオン伝導性の低い結晶相は、通常、2θ=17.46°、18.12°、19.99°、22.73°、25.72°、27.33°、29.16°、29.78°のピークを有すると考えられる。なお、これらのピーク位置も、±0.50°の範囲で前後する場合がある。
【0021】
本発明における硫化物系固体電解質は、α型結晶構造(Li
3PS
4のα相で見られる結晶構造)を有するものであってもよく、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=17.90°±0.20°、29.0°±0.5°、29.75°±0.25°の位置にピークを有し、上記2θ=17.90°±0.20°のピークの回折強度をI
Cとし、2θ=18.50°±0.20°のピークの回折強度をI
Dとした場合に、I
D/I
Cの値が0.50未満であってもよい。このピークは、α型結晶構造(Li
3PS
4のα相で見られる結晶構造)で見られるものであり、良好なイオン伝導性および電気化学的安定性を有する。
【0022】
α型結晶構造に関する、I
D/I
Cの規定について説明する。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、I
Cのピークは、α型結晶構造を有する固体電解質の特徴的なピークの一要素であり、このピークI
Cを生じる結晶構造がイオン伝導性、化学的安定性と関係すると考えられる。言い換えると、I
Cのピークが明確であるほど、イオン伝導性、電気化学的安定性に優れる結晶構造が形成されていると考えられる。I
Cの比較的近傍に、I
Dのピーク(2θ=18.50°±0.20°の範囲)が存在すると、I
Dのピークを生じる結晶構造が形成され、相対的にI
Cのピークを生じる結晶構造が形成されにくくなり、イオン伝導性、電気化学的安定性が低下すると考えられる。
したがって、イオン伝導性および電気化学的安定性の観点からは、本発明における硫化物系固体電解質は、I
D/I
Cの値はより小さいことが好ましく、具体的には0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。また、I
D/I
Cの値は0であることが好ましい。言い換えると、このα型結晶構造を有する硫化物系固体電解質は、I
Dのピーク位置である2θ=18.50°±0.20°の範囲にピークを有しないことが好ましい。
【0023】
本発明における硫化物系固体電解質は、これまで知られていた結晶構造とは異なる、新規の結晶構造Aを有するものであってもよい。その新規な結晶構造Aとは、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=18.0°±0.1°、19.4°±0.1°、21.9°±0.1°、24.0°±0.1°、31.3°±0.1°の位置にピークを有するものである。これは、前述のLGPS型結晶構造、α型結晶構造(Li
3PS
4のα相で見られる結晶構造)、β型結晶構造(Li
3PS
4のβ相で見られる結晶構造)とは異なっている。
図2Aに、新規な結晶構造Aで見られるX線回折ピークと、結晶構造を有することが従来知られていたLi−P−S系固体電解質で見られるX線回折ピークとの比較を示す。この比較から、新規な結晶構造Aは、従来知られていた結晶構造とは異なるものであることが明らかである。新規な結晶構造Aは、特に19.4°±0.1°の位置のピークが大きく、それ以外のピークは相対的に小さい。新規な結晶構造Aが他の結晶構造との混相になり、新規相Aの小さいピークが他の結晶構造のピークに埋没する場合であっても、19.4°±0.1°のピークが明確に突出していれば、新規相が存在することが示唆される。
【0024】
また、本発明における硫化物系固体電解質は、これまで知られていた結晶構造とは異なる、新規の結晶構造Bを有するものであってもよい。その新規な結晶構造Bとは、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=17.8°±0.1°、19.1°±0.1°、21.7°±0.1°、23.8°±0.1°、30.85°±0.1°の位置にピークを有するものである。これは、前述のLGPS型結晶構造、α型結晶構造(Li
3PS
4のα相で見られる結晶構造)、β型結晶構造(Li
3PS
4のβ相で見られる結晶構造)、新規な結晶構造Aとは異なっている。
図2Bに、新規な結晶構造Bで見られるX線回折ピークと、結晶構造を有することが従来知られていたLi−P−S系固体電解質で見られるX線回折ピークとの比較を示す。この比較から、新規な結晶構造Bは、従来知られていた結晶構造とは異なるものであることが明らかである。新規な結晶構造Bは、特に19.1°±0.1°の位置のピークが大きく、それ以外のピークは相対的に小さい。新規な結晶構造Bが他の結晶構造との混相になり、新規相Bの小さいピークが他の結晶構造のピークに埋没する場合であっても、19.1°±0.1°のピークが明確に突出していれば、新規相が存在することが示唆される。
【0025】
本発明における硫化物系固体電解質は、種々の結晶構造を有することができ、イオン伝導性が高いことが期待できる。本発明における硫化物系固体電解質のイオン伝導度は、0.4mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは0.6mS/cm以上、より好ましくは0.7mS/cm以上、より好ましくは0.8mS/cm以上、さらに好ましくは0.9mS/cm以上、より好ましくは1.0mS/cm以上であってもよい。
【0026】
イオン伝導度の測定は以下の要領で行うことができる。
粉砕した試料を焼結ペレット用セルに入れた後、約169MPaの圧力を常温用セルに適用してペレットを作製する。その後、550℃で12時間の焼結を行って、種々の組成の固体電解質材料よりなる焼結ペレットを得る。ペレットの径はおよそ10mmであり、厚さは1〜2mmとして測定用試料を作製する。電極はAuを用いて、これを測定用試料に貼り合わせ、Au/測定用試料/Auの電池とする。測定用試料のイオン伝導度の測定には、NF社製 Frequency Response Analyzerを使用した。15MHz〜100Hzの測定範囲、26℃〜127℃の測定温度、50〜100mVの交流電圧および2秒の積算時間の条件で交流インピーダンス測定を行い、試料のイオン伝導度を測定する。
【0027】
本発明の固体電解質材料は、高いイオン伝導性及び化学的安定性を有するものであるので、イオン伝導性及び化学的安定性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本発明の固体電解質材料は、電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。また、本発明の固体電解質材料は、少なくとも硫化物系組成物(硫化物系固体電解質)を含有する材料であり、硫化物系組成物(硫化物系固体電解質)のみを含有していてもよく、さらに他の化合物(例えばバインダー)を含有していてもよい。
【0028】
本発明の固体電解質材料の製造方法を説明する。本発明の固体電解質材料の製造方法は、上記の本発明に係る固体電解質材料の製造方法であって、
硫化物系組成物の構成成分を含有する原料として、Pの単体及び化合物、S化合物、Li化合物およびO化合物を用いて、イオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
上記イオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物系組成物を得る加熱工程と、を有する。
【0029】
本発明における原料として、Pの単体及び化合物、S化合物、Li化合物およびO化合物を用いる。Pの単体は純リンであり、ここでのPの価数は0価である(P
0)。Pの化合物は、酸化物(P
2O
5等)、硫化物(P
2S
5等)、リン酸化物(Li
3PO
4、H
3PO
4等)であり、ここでのPの価数は5価である(P
5+)。S化合物は、硫化物であって、他の原料元素の硫化物または硫酸塩であってもよく、P
2S
5,Li
2S,Li
2SO
4等であってもよい。Li化合物は、他の原料元素の酸化物、硫化物またはリン酸塩であってもよく、Li
2O、Li
2S、Li
2SO
4、Li
3P
5+O
4等であってもよい。O化合物は、他の原料元素の酸化物であってもよく、Li
2O、Li
2SO
4、Li
3P
5+O
4、P
5+2O
5等であってもよい。
ここで、本発明における原料として、価数が0価のリン(P)と、5価のリン(P)とを用いる。イオン伝導性材料合成工程および加熱工程において、5価のPと0価のPとの間で酸化還元反応を生じ(5価のPが酸化され、0価のPは還元される)、その結果4価のP(P
4+)が生成する。これにより、本発明における硫化物系固体電解質(硫化物系組成物)は、4価のPを含む。
硫化物系固体電解質が所望の組成式を有するように、組成比に応じて各原料を用いることが好ましい。
【0030】
イオン伝導性材料合成工程について説明する。イオン伝導性材料合成工程では、まず、メカニカルミリングにより、上記原料を微細化して、原料の結晶性を低下させる。結晶質の原料の結晶性を一度低くすることで、電気化学的安定性およびイオン伝導性の高い、結晶構造を有する、硫化物系固体電解質が析出しやすい環境にすることができる。微細化は、最終目的物である硫化物系固体電解質において、所望のピークを有する結晶相が析出しやすい環境となるように、原料では所望のピークが十分にブロードになる程度まで、微細化することが望ましい。原料はすべて微細化してもよく、その一部のみを微細化してもよい。特に、Li元素を含有する化合物(Li
2S等)を微細化するのが好ましい。Li元素を含有する化合物は、結晶性が高いことが多く、そのような結晶性のLi化合物が残っていると、最終目的物である硫化物系固体電解質の析出を抑制することが考えられる。
【0031】
メカニカルミリングは、原料を、機械的エネルギーを付与しながら粉砕する方法である。原料に対して機械的エネルギーを付与することで、原料を微細化してその結晶性を低下させる。このようなメカニカルミリングとしては、例えば、振動ミル、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルおよび振動ミルが好ましい。
【0032】
ボールミルの条件は、微細化した原料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。一般的に、回転数が大きいほど、微細化速度は速くなり、処理時間が長いほど、微細化は進む。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm〜700rpmの範囲内、中でも250rpm〜600rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間〜100時間の範囲内、中でも1時間〜70時間の範囲内であることが好ましい。特に、Li元素を含有する化合物(Li
2S等)を十分に微細化するために、10〜40時間、ボールミルで微細化することが好ましい。
【0033】
振動ミルの条件は、微細化した原料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。振動ミルの振動振幅は、例えば5mm〜15mmの範囲内、中でも6mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの振動周波数は、例えば500rpm〜2000rpmの範囲内、中でも1000rpm〜1800rpmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの試料の充填率は、例えば1体積%〜80体積%の範囲内、中でも5体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、振動ミルには、振動子(例えばアルミナ製振動子)を用いることが好ましい。一般的に、振動ミルは、ボールミルより粉砕効率が劣るが、P元素を含有する化合物(P
2O
5,P
2S
5等)は、Li元素を含有する化合物(Li
2S等)より容易に微細化されるので、振動ミルでの微細化が適している。P元素を含有する化合物(P
2O
5,P
2S
5等)は、30分程度、振動ミルで処理しても、十分に微細化することができる。
また、Pの単体(純リン)については、さらに容易に微細化されるので、5分程度の手混ぜであってもよい。
【0034】
次に、微細化した原料を混合して、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。
イオン伝導性材料は、その組成が上述の好ましい組成範囲になるように、原料を秤量して混合される。
まず、微細化した各原料を手混ぜして混合してもよく、さらにボールミル等の機械的混合で、十分に混合して、非晶質化したイオン伝導性材料を合成することができる。機械的混合法として、上記微細化で用いた種々のメカニカルミリングを同様の条件で利用することができる。微細化に加えて、合成においてもメカニカルミリングを利用することにより、原料の結晶性をさらに低下させ、原料どうしを均一に混合して、非晶質化したイオン伝導性材料を合成できる。十分に混合するために、10〜40時間、ボールミルで微細化することが好ましい。
【0035】
加熱工程について説明する。加熱工程は、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、本発明における硫化物系固体電解質を得る工程である。非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、結晶性の向上を図る。
【0036】
加熱温度は、所望の硫化物系固体電解質を得ることができる温度であれば特に限定されるものではないが、硫化物系固体電解質が結晶化する温度以上の温度であることが好ましい。具体的には、上記加熱温度が230℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく、260℃以上であることがさらにより好ましい。一方、上記加熱温度は、作業性や安全性の観点から低いほど好ましく、具体的には500℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、350℃以下であることがさらに好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。なお、特許文献4、5に酸素(O)を含むLi−P−S系硫化物固体電解質材料が開示されているが、これらでは615℃以上(特許文献4)や550℃(特許文献5)以上の溶融工程を加えており、これらに比べて本発明の製造方法では容易に硫化物系固体電解質を得ることができる。
また、加熱時間は、所望の硫化物系固体電解質が得られるように適宜調整することが好ましい。本発明における硫化物系固体電解質を得るための加熱時間は、4時間程度であってもよく、容易に硫化物系固体電解質を得ることができる。さらに、加熱後に、室温まで冷却される際には、所望の硫化物系固体電解質が得られるように、自然冷却を採用してもよいし、またはアニーリングをおこなってもよい。
【0037】
固体電解質材料を製造する一連の工程は、空気中の水分によって原料、得られた固体電解質材料が劣化することを防止するために、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で作業することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0039】
(Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z系試料の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内に、出発原料のLi
2S、P
2S
5、P
2O
5、およびP(純リン)を用意した。Li
2Sをボールミルで380rpm、10〜40時間微細化し、P
2S
5、P
2O
5をそれぞれ振動ミルで30分微細化し、P(純リン)を手で5分粉砕(微細化)して秤量した。微細化した原料を手で5分混合し、さらにボールミルで380rpm、40時間混合して混合試料を調製した。その混合試料をペレッターに入れ、一軸プレス機を用いてそのペレッターに20MPaの圧力を印加して、φ13mmのペレットを成形した。カーボンコートした石英管にこのペレットを10Paの略真空で封入した。そして、ペレットを入れた石英管を2時間で260℃まで昇温させた後、4時間保持し、その後自然冷却した。さらに、その後の評価のために、粉砕を行った。
【0040】
合成した試料の組成を、
図3〜5の三元図にXの記号でプロットする。
図3〜5の三元図はそれぞれ、
図1の三角柱形状の組成図から、z=0(
図3)、z=0.1(
図4)、z=0.2(
図5)で切り出して、拡大したものである。プロットしたXの近傍に、サンプル番号(S01等)、主たる結晶構造、イオン伝導度σ(mS/cm)を併記した。また、
図3〜5の各図では、組成式Li
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
zにおける組成比に関するx、yのガイドラインも併記した。
【0041】
得られた試料について、下記の測定および評価を行った。
【0042】
(粉末X線回折測定)
作製した試料に含まれる結晶を同定するために、粉末X線回折装置Ultima-IV(株式会社リガク製)およびSmart Lab(株式会社リガク製)を使用して、粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定には、X線波長1.5418オングストロームのCu−Kα線を使用した。10〜35°の範囲で0.01°ステップで回折角(2θ)で粉末X線回折測定を行った。
【0043】
(焼結ペレットのイオン伝導度の測定)
粉砕した試料を焼結ペレット用セルに入れた後、169MPaの圧力を常温用セルに適用してペレットを作製した。その後、550℃で12時間の焼結を行って、種々の組成の固体電解質材料(硫化物系固体電解質)よりなる焼結ペレットを得た。ペレットの径はおよそ10mmであり、厚さは1〜2mmとして測定用試料を作製した。電極はAuを用いて、これを測定様試料に貼り合わせ、Au/測定用試料/Auの電池とした。測定用試料のイオン伝導度の測定には、NF社製 Frequency Response Analyzerを使用した。15MHz〜100Hzの測定範囲、26℃〜127℃の測定温度、50〜100mVの交流電圧および2秒の積算時間の条件で交流インピーダンス測定を行い、試料のイオン伝導度を測定した。また、比較例として、本発明の固体電解質材料とは異なる固体電解質材料を用いた場合のイオン伝導度についても調査を行った。
【0044】
[評価]
(粉末X線回折)
図3〜5の三元図中にプロットされた固体電解質材料を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。その結果の一部を
図6〜8に示す。
図6〜8はそれぞれz=0、z=0.1、z=0.2の組成のX線回折である。いずれの組成の固体電解質材料でもピークが確認され、結晶構造を有することが示唆された。zを0から大きくするにつれて、つまり酸素(O)量を多くするにつれて、結晶構造がβ型結晶構造からα型結晶構造へ変化し、さらにLGPS型結晶構造へ変化する傾向が確認された。
図9は、Li
3PS
4−zO
zの組成において、zを0から0.5まで変化させたときの、各組成のX線回折ピークを並べたものであり、z=0、0.1ではβ型結晶構造のピークが見られ、z=0.2でα型結晶構造のピークが見られ、z=0.5でLGPS型構造のピークが見られた。
図10は、Li
3.2P
0.96S
4−zO
zの組成において、zを0から0.2まで変化させたときの、各組成のX線回折ピークを並べたものであり、z=0ではβ型結晶構造であるが、z=0.2ではLGPS型構造のピークが確認された。
【0045】
また、これまで知られていた結晶構造とは異なる、新規の結晶構造Aも見出された。
図11は、新規相AのX線回折ピーク結果を、既知の結晶構造のピークと並べて表示したものである。新規相Aの特徴的なピークは、2θ=18.0°±0.1°、19.4°±0.1°、21.9°±0.1°、24.0°±0.1°、31.3°±0.1°の位置に見られた。特に、最も大きいピークは、19.4°±0.1°に位置しており、後述するイオン伝導性の結果等とも照らし合わせて、硫化物系固体電解質の新規な結晶構造によるピークであることを確認した。
【0046】
図12Aは、新規相A確認の再現試験のために、追加で試料を合成し、それらのX線回折測定を行った結果である。なお、追加実施例1および2は、Li
3.2P
0.975S
3.9O
0.1の組成を有し、追加実施例番号2で加熱温度を260℃としたことを除けば、上述の試料作製と同じ手順で作製した。追加実施例1および2のX線回折チャートは、いずれも5本の特徴的回折ピークを有しており、新規相Aの発現が再確認できた。
【表1】
【0047】
さらに、下記の組成、製造条件で、追加実施例3〜5の試料を合成し、それらのX線回折測定を行った。その結果を
図12Bに示す。追加実施例3〜5のX線回折チャートは、いずれも5本の特徴的回折ピークを有しており、新規相Bの発現が確認された。
【表2】
【0048】
(焼結ペレットのイオン伝導度)
図13は、得られたLi
4−4y−xP
4+1+y−xP
5+xS
4−zO
z系試料の粉末を焼結ペレットにしたもので、26〜127℃におけるイオン伝導度を測定し、それらのX線回折チャートに併記したものである。これより求められるイオン伝導度σは、β相のものが0.1〜0.4mS/cmであり(ただし、σ=0.1のものはBrを含有する組成であり、本願の組成範囲外の参考データである)、α相のものが0.6〜1.3mS/cmであり、LGPS相のものが0.6〜1.3mS/cmであり、新規相Aのものが0.8〜0.9mS/cmであった。なお、
図2Bに記載された新規相Bのものについても、イオン伝導度を測定し、1.2〜1.3mSであった。これらは従来のLGPS型固体電解質で報告されているイオン伝導度に匹敵する。