(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の回転電機用のコイルによれば、コイルアセンブリをステータに装着する際、これを縮径した後に拡径する必要があるので、径方向の押圧力が各コイル部材に対して縮径側と拡径側に繰り返し作用することになる。その際、コイルの平角導線は、腕部をエッジワイズ方向に弾性/塑性変形させる必要があるとともに、径方向に互いに接した姿勢で多数、積み重なっているので、その押圧力が増大することなる。それに伴い、コイルへの負担も増大するとともに、ガイド治具などの加工装置の大型化及び高価格化を招くことで、製造コストの増大を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、コイルをステータに装着する際の押圧力を低減でき、コイルへの負担及び製造コストを低減することができる回転電機用のコイル及びその挿入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、複数のコイル部材10で環状に形成され、回転電機の環状のステータ2のスロット2aに挿入される回転電機用のコイル1において、複数のコイル部材10の各々は、複数のコイル要素10A〜10Dで構成され、複数のコイル要素10A〜10Dは、スロット2a内に挿入され、コイル1の軸線方向に延びるとともにコイル1の周方向に間隔を存する第1基部11及び第2基部11と、第1基部11の一端部と第2基部11の一端部との間を接続する第1接続部(腕部12,カール部13)と、第2基部11の他端部から延びる第2接続部(腕部12,カール部13)とを1組のコイル要素構造として複数組のコイル要素構造を一体に備えており、複数組のコイル要素構造における隣り合う各2組のコイル要素構造の一方の第1基部11の他端部が、第2接続部を介して他方のコイル要素構造の第1基部11の他端部に接続されていることによって、複数組のコイル要素構造は環状に構成されており、複数のコイル要素10A〜10Dは、第1基部11及び第2基部11の各々においてコイル1の径方向に互いに重なるように配置されているとともに、複数のコイル要素10A〜10Dのうちの少なくとも1つのコイル要素の各々は、複数の導線10a〜10dで構成されており、複数の導線10a〜10dは、第1基部11及び第2基部11の各々においてコイル1の周方向に沿って並ぶように配置されて
おり、第1接続部及び第2接続部の各々は、第1基部11及び第2基部11からコイル1の周方向側に折れ曲がりながら、互いに近づくように延びる2つの腕部12と、2つの腕部12の一方からねじれながら1回転して2つの腕部12の他方に連続するカール部13とを備えており、2つの腕部12の一方は、他方の腕部12に対してコイル1の径方向に腕部12の径方向の長さ分ずれた状態で設けられていることを特徴とする。
【0008】
この回転電機用のコイルによれば、コイルが複数のコイル部材で環状に形成され、回転電機の環状のステータのスロットに挿入される。その場合、複数のコイル部材の各々が、複数のコイル要素で構成され、複数のコイル要素は、スロット内に挿入され、コイルの軸線方向に延びるとともにコイルの周方向に間隔を存する第1基部及び第2基部と、第1基部の一端部と第2基部の一端部との間を接続する第1接続部と、第2基部の他端部から延びる第2接続部とを1組のコイル要素構造として複数組のコイル要素構造を一体に備えており、複数組のコイル要素構造における隣り合う各2組のコイル要素構造の一方の第1基部の他端部が、第2接続部を介して他方のコイル要素構造の第1基部の他端部に接続されていることによって、複数組のコイル要素構造が環状に構成されている。さらに、複数のコイル要素は、第1基部及び第2基部の各々においてコイルの径方向に互いに重なるように配置されているとともに、複数のコイル要素のうちの少なくとも1つのコイル要素の各々は、複数の導線で構成されており、複数の導線は、第1基部及び第2基部の各々においてコイルの周方向に沿って並ぶように配置されているので、特許文献1のような、1本の導線が径方向に多数、積み重なっている構成と比べて、環状のコイルをステータに装着する際、縮径時及び拡径時の押圧力を低減することができる。それにより、コイルをステータに装着する際、コイルへの負担を低減できるとともに、加工装置の小型化及び低価格化を図ることができ、製造コストを低減することができる。
【0010】
この回転電機用のコイルによれば、第1接続部及び第2接続部の各々が、第1基部及び第2基部からコイルの周方向側に折れ曲がりながら、互いに近づくように延びる2つの腕部と、2つの腕部の一方からねじれながら1回転して2つの腕部の他方に連続するカール部とを備えているので、結束具などを用いることなく、複数のコイル要素を一体化でき、その分、製造コストを削減することができる。さらに、2つの腕部の一方は、他方の腕部に対してコイルの径方向に腕部の径方向の長さ分ずれた状態で設けられているので、2つの腕部及びカール部がスロットの外方に突出する寸法を低減することができ、コイルエンド高さを低減することができる。これに加えて、カール部が、2つの腕部の一方からねじれながら1回転して2つの腕部の他方に連続しているので、前述したように、環状のコイルをステータに装着する際、縮径時には、カール部をねじりコイルばねのように弾性変形させながら縮径することができるとともに、拡径時には、その復元力を利用しながら拡径することができる。それにより、縮径時及び拡径時の押圧力をさらに低減することができ、絶縁品質を向上させることができる。
【0011】
本発明において、複数のコイル要素10A〜10Dの両端部は、結線部14になっており、結線部14では、複数のコイル要素10A〜10Dのうちのコイルの径方向に重なり合う各2つのコイル要素において、各2つのコイル要素の一方の一端部と各2つのコイル要素の他方の一端部とが一体に結線され、複数のコイル要素のうちの、コイル1の径方向の最も外側に配置された1つのコイル要素10Dの他端部が一体に結線され、コイル1の径方向の最も内側に配置された1つのコイル要素10Aの他端部が一体に結線されていることが好ましい。
【0012】
この回転電機用のコイルによれば、複数のコイル要素の両端部が結線部になっており、結線部では、複数のコイル要素のうちのコイルの径方向に重なり合う各2つのコイル要素において、各2つのコイル要素の一方の一端部と、各2つのコイル要素の他方の一端部とが一体に結線され、複数のコイル要素のうちの、コイルの径方向の最も外側に配置された1つのコイル要素の他端部が一体に結線され、コイルの径方向の最も内側に配置された1つのコイル要素の他端部が一体に結線されているので、複数の導線を、コイル要素数分の巻き数で、ステータに巻き付けることができる。
【0013】
本発明において、複数のコイル要素10A〜10Dの各々は、互いに同数の複数の導線10a〜10dで構成されており、複数の導線10a〜10dは、コイル1の径方向の内側に配置されているものほど、断面積がより小さくなるように構成されているとともに、断面積は、各コイル要素におけるコイル1の軸心からの径方向の距離に応じて設定されていることが好ましい。
【0014】
この回転電機用のコイルによれば、複数のコイル要素の各々は、互いに同数の複数の導線で構成されている。この場合、コイルの径方向の内側に配置された導線は、径方向の外側に配置されたものよりも周長が短くなるので、複数の導線が同じ断面積の場合には、径方向の外側に配置されたものよりも抵抗が小さくなる。これに対して、この回転電機用のコイルによれば、複数の導線は、コイルの径方向の内側に配置されているものほど、断面積がより小さくなるように構成されているとともに、断面積は、各コイル要素におけるコイルの軸心からの径方向の距離に応じて設定されているので、コイルの径方向の内側に配置された導線と径方向の外側に配置された導線との間で抵抗を同一又はほぼ同一に揃えることができる。それにより、複数のコイル要素間で、同一又はほぼ同一の大きさの電流を流すことができ、回転電機の効率を向上させることができる。
【0015】
本発明において、複数のコイル要素10A〜10Dの各々は、互いに同数の複数の平角導線で構成されており、複数の平角導線は、第1〜第2基部11,11及び第1〜第2接続部(腕部12,カール部13)において、複数の平角導線の各々の断面における短辺側が径方向に互いに重なる状態で配置されていることが好ましい。
【0016】
この回転電機用のコイルによれば、複数のコイル要素の各々が、互いに同数の複数の平角導線で構成されており、複数の平角導線は、第1〜第2基部及び第1〜第2接続部において、複数の平角導線の各々の断面における短辺側が径方向に互いに重なる状態で配置されているので、複数の平角導線をフラットワイズ曲げ加工することによって、第1〜第2基部及び第1〜第2接続部を形成することができる。それにより、コイル製作時において、加工が容易になるとともに、絶縁被膜が導線から剥離するのを抑制でき、絶縁品質を向上させることができる。
【0017】
さらに、上記目的を達成するために、他の本発明は、複数のコイル部材10で環状に形成されたコイル1を回転電機の環状のステータ2のスロット2aに挿入する回転電機用のコイル1の挿入方法において、複数のコイル部材10の各々を、複数のコイル要素10A〜10Dで構成し、複数のコイル要素10A〜10Dを、コイル1の軸線方向に延びるとともにコイル1の周方向に間隔を存する第1基部11及び第2基部11と、第1基部11の一端部と第2基部11の一端部との間を接続する第1接続部(腕部12,カール部13)と、第2基部11の他端部から延びる第2接続部(腕部12,カール部13)とを1組のコイル要素構造として複数組のコイル要素構造を一体に備えるように構成し、複数組のコイル要素構造における隣り合う各2組のコイル要素構造の一方の第1基部11の他端部を、第2接続部を介して他方のコイル要素構造の第1基部11の他端部に接続することによって、複数組のコイル要素構造を環状に構成し、複数のコイル要素10A〜10Dを、第1基部11及び第2基部11の各々においてコイル1の径方向に互いに重なるように配置するとともに、複数のコイル要素10A〜10Dのうちの少なくとも1つのコイル要素の各々を、複数の導線10a〜10dで構成し、複数の導線10a〜10dを、第1基部11及び第2基部11の各々においてコイル1の周方向に沿って並ぶように配置し、複数組のコイル要素構造における第1基部11及び第2基部11をスロット2a内に挿入
し、第1接続部及び第2接続部の各々は、第1基部11及び第2基部11からコイル1の周方向側に折れ曲がりながら、互いに近づくように延びる2つの腕部12と、2つの腕部12の一方からねじれながら1回転して2つの腕部12の他方に連続するカール部13とを備えており、2つの腕部12の一方は、他方の腕部12に対してコイル1の径方向に腕部12の径方向の長さ分ずれた状態で設けられていることを特徴とする。
【0018】
この回転電機用のコイルの挿入方法によれば、複数のコイル部材で環状に形成されたコイルを回転電機の環状のステータのスロットに挿入する。その場合、複数のコイル部材の各々を、複数のコイル要素で構成し、複数のコイル要素を、コイルの軸線方向に延びるとともにコイルの周方向に間隔を存する第1基部及び第2基部と、第1基部の一端部と第2基部の一端部との間を接続する第1接続部と、第2基部の他端部から延びる第2接続部とを1組のコイル要素構造として複数組のコイル要素構造を一体に備えるように構成するとともに、複数組のコイル要素構造における隣り合う各2組のコイル要素構造の一方の第1基部の他端部を、第2接続部を介して他方のコイル要素構造の第1基部の他端部に接続することによって、複数組のコイル要素構造を環状に構成する。さらに、複数のコイル要素を、第1基部及び第2基部の各々においてコイルの径方向に互いに重なるように配置するとともに、複数のコイル要素のうちの少なくとも1つのコイル要素の各々を、複数の導線で構成し、複数の導線を、第1基部及び第2基部の各々においてコイルの周方向に沿って並ぶように配置する。そして、複数組のコイル要素構造における第1基部及び第2基部をスロット内に挿入するので、特許文献1のような、複数のコイル要素の各々が1つの部材又は導線で構成されたものをスロットに挿入する場合と比べて、環状のコイルをステータに装着する際、縮径時及び拡径時の押圧力を低減することができる。それにより、コイルへの負担を低減できるとともに、加工装置の小型化及び低価格化を図ることができ、製造コストを低減することができる。
さらに、第1接続部及び第2接続部の各々が、第1基部及び第2基部からコイルの周方向側に折れ曲がりながら、互いに近づくように延びる2つの腕部と、2つの腕部の一方からねじれながら1回転して2つの腕部の他方に連続するカール部とを備えているので、結束具などを用いることなく、複数のコイル要素を一体化でき、その分、製造コストを削減することができる。さらに、2つの腕部の一方は、他方の腕部に対してコイルの径方向に腕部の径方向の長さ分ずれた状態で設けられているので、2つの腕部及びカール部がスロットの外方に突出する寸法を低減することができ、コイルエンド高さを低減することができる。これに加えて、カール部が、2つの腕部の一方からねじれながら1回転して2つの腕部の他方に連続しているので、前述したように、環状のコイルをステータに装着する際、縮径時には、カール部をねじりコイルばねのように弾性変形させながら縮径することができるとともに、拡径時には、その復元力を利用しながら拡径することができる。それにより、縮径時及び拡径時の押圧力をさらに低減することができ、絶縁品質を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る回転電機用のコイルについて説明する。
図1に示すように、本実施形態のコイル1は、回転電機用のステータ2に装着されるものである。
【0021】
このコイル1の場合、
図2A,2Bに示すコイル部材10を計12個組み合わせて、
図3に示すコイルアセンブリ1Aを作製する。そして、このコイルアセンブリ1Aを円環状(円筒状)に成形した後、これを後述する手法でステータ2のスロット2a(
図4参照)に挿入することによって、
図1Aに示すようにステータ2に装着される。
【0022】
まず、コイル部材10について説明する。このコイル部材10は、
図2Cに示すように、4つのコイル要素10A〜10Dを一体に組み合わせたものであり、4つのコイル要素10A〜10Dの各々は、3本の導線で構成されている。
【0023】
具体的には、コイル要素10Aは3本の導線10aで構成されており、これらの3本の導線10aは、互いに同じ断面積に設定され、その長辺側が互いに接する状態で並んでいる。また、コイル要素10Bは3本の導線10bで構成されており、これらの3本の導線10bも、互いに同じ断面積に設定され、その長辺側が互いに接する状態で並んでいる。
【0024】
さらに、コイル要素10Cは3本の導線10cで構成されており、これらの3本の導線10cも、互いに同じ断面積に設定され、その長辺側が互いに接する状態で並んでいる。また、コイル要素10Dは3本の導線10dで構成されており、これらの3本の導線10dも、互いに同じ断面積に設定され、その長辺側が互いに接する状態で並んでいる。
【0025】
以上の12本の導線10a〜10dはいずれも、平角導線タイプのものであり、導電性の高い金属(例えばアルミニウム合金)の表面に、絶縁材をコーティングしたもので構成されている。なお、
図2A〜2Cにおいては、理解の容易化のために、導線10a〜10dの各々を示すラインが適宜、省略されている。
【0026】
また、4つのコイル要素10A〜10Dにおいては、コイルアセンブリ1Aがスロット2aに挿入されたときに、最も内径側に位置するコイル要素10Aの導線10aの断面積が最も小さく、それよりも外径側に位置するものほど、断面積が大きくなるように構成されている。すなわち、最も外径側に位置するコイル要素10Dの導線10dの断面積が最も大きく設定されている。この理由については後述する。
【0027】
コイル部材10は、
図2A,2Bに示すように、基部11、腕部12、カール部13及び結線部14を備えており、これらの要素11〜14は、4つのコイル要素10A〜10Dをフラットワイズ曲げ加工することによって一体に形成されている。すなわち、4つのコイル要素10A〜10Dにおいて、3本の導線の長辺側が互いに接している方向に曲げ加工することにより、上記の要素11〜14が一体に形成されている。なお、以下の各構成の説明では、コイル1の径方向及び周方向を適宜「径方向」及び「周方向」という。
【0028】
各基部11は、コイル1の軸線方向に沿って延びており、コイルアセンブリ1Aがステータ2に装着されるときに、ステータ2のスロット2aに挿入される。この基部11は、その両端部間の長さがスロット2aの軸線方向のサイズよりも若干、長くなっており、スロット2aに挿入されるときに、
図2Bに示す長さLの部位で、スロット2aに嵌合する。
【0029】
さらに、一対の腕部12,12は、一対の基部11,11からコイル1の周方向側に折れ曲がりながら、互いに近づくようにカール部13まで延びており、カール部13は、一方の腕部12の一端からねじれながら1回転して他方の腕部12の一端に連続している。
【0030】
このカール部13の構成により、カール部13の両側の一対の腕部12,12は、腕部12の径方向のサイズ分、すなわち4本の導線10a〜10dの径方向の厚さ分、互いに径方向にずれるように構成されている。それに伴い、一対の基部11,11も、4本の導線10a〜10dの径方向の厚さ分、互いに径方向にずれるように構成されている。
【0031】
さらに、隣り合う2つのカール部13,13は、コイル1の径方向に対して、互いに逆方向に1回転しながらねじれており、それにより、基部11は、径方向の内側に位置するものと、それに対して4本の導線10a〜10dの径方向の厚さ分、径方向の外側に位置するものとが周方向に交互に配置されている。
【0032】
なお、本実施形態では、隣り合う一対の基部11,11が第1基部及び第2基部に相当し、一対の基部11,11の間に設けられた一対の腕部12,12及びカール部13が第1接続部及び第2接続部に相当する。さらに、コイル1は、第1基部及び第2基部、第1接続部及び第2接続部を1組のコイル要素構造として、5組のコイル要素構造を一体に備えている。
【0033】
一方、コイル部材10の両端部は、2つの腕部12,12にそれぞれ連続する2つの結線部14,14になっており、これらの結線部14,14では、12本の導線10a〜10dが後述するように結線される。
【0034】
また、本実施形態の場合、
図3に示すように、計12個のコイル部材10を、各々の基部11、腕部12、カール部13及び結線部14が
図3中の左右方向に所定間隔で並ぶように組み合わせることにより、コイルアセンブリ1Aが組み立てられる。このようにコイルアセンブリ1Aが組み立てられた状態では、各コイル部材10の左端側の結線部14が、コイルアセンブリ1Aの左端側に所定間隔で隣接するように並ぶとともに、各コイル部材10の右端側の結線部14が、コイルアセンブリ1Aの右端側に所定間隔で隣接するように並んだ状態になる(
図3参照)。
【0035】
さらに、コイルアセンブリ1Aは、以上のようにコイル部材10を組み合わせた後、図示しない治具により円環状に成形される。その際、各コイル部材10の両端部の結線部14は、図示しないが周方向の所定範囲内に所定間隔で互いに隣接した状態となる。そして、コイルアセンブリ1Aをステータ2に装着する際には、まず、コイルアセンブリ1Aを、図示しない治具によって、
図4に2点鎖線で示すように、その外径がステータ2の内径よりも小さい状態まで縮径した後、加工装置で拡径する。
【0036】
それにより、コイルアセンブリ1Aの各コイル部材10の基部11がステータ2のスロット2aに挿入されることによって、コイルアセンブリ1Aがステータ2に装着される。このように、コイルアセンブリ1Aがステータ2に装着された場合、
図3の右側の結線部14aがステータ2の内径側に位置し、
図3の左側の結線部14bがステータ2の外径側に位置することになる(
図1A参照)。なお、以下の説明では、ステータ2の内径側に位置する結線部14aを「内径側結線部14a」といい、ステータ2の外径側に位置する結線部14bを「外径側結線部14b」という。
【0037】
そして、コイルアセンブリ1Aをステータ2に装着した状態から、図示しない治具によって、各コイル部材10の内径側結線部14a及び外径側結線部14bは、いずれも外径側に折り曲げられ、
図1A及び
図1Bに示すように成形される。この成形により、1つのコイル部材10における内径側結線部14a及び外径側結線部14bは、
図1Bに示すように、一方が他方に対して径方向の長さ分、径方向にずれるとともに、一方が他方に対して周方向の厚さ分、周方向にずれた状態となるように構成される。これに加えて、隣り合うコイル部材10間の内径側結線部14a及び外径側結線部14bは互いに等間隔で周方向に並ぶ状態となるように構成される。
【0038】
ステータ2の内周には、所定数(本実施形態では72個)のスロット2aが周方向に並んでおり、各スロット2aは、隣り合う2つのコア歯2b,2b間に形成されている。コイルアセンブリ1Aがステータ2に装着された状態では、1つのコイル部材10は、
図5に示すように円環状になっているとともに、
図6に示すように、1つのコイル部材10の隣り合う2つの基部11,11(太線で示すもの)は、5つのスロット2aを間にして配置された2つのスロット2a,2aにそれぞれ挿入された状態となる。すなわち、1つのコイル部材10において、基部11は5つ置きに並ぶスロット2aに挿入される。なお、
図6においては、理解の容易化のために、ステータ2及び基部11の断面を示すハッチングが省略されている。
【0039】
また、隣り合う2つの基部11,11は、前述したように、4本の導線10a〜10dの径方向の厚さ分、互いに径方向にずれるように構成されている関係上、一方の基部11は内径側に、他方の基部11は外径側にそれぞれ隙間が存在するとともに、それらの隙間には、他のコイル部材10の基部11が配置されている状態となる(
図6参照)。
【0040】
次に、コイル1の結線手法について説明する。このコイル1では、コイルアセンブリ1Aをステータ2に装着した後、一本のコイル部材10において、その両端の結線部14,14が
図7に示すように結線される。まず、同図の左側の結線部14を入力側として、同図の右側の結線部14をコモン側としたときに、入力側の結線部14における3本の導線10dを一体に結線し、入力側の結線部14における3本の導線10cと、コモン側の結線部14における3本の導線10dとを一体に結線する。
【0041】
さらに、入力側の結線部14における3本の導線10bと、コモン側の結線部14における3本の導線10cとを一体に結線し、入力側の結線部14における3本の導線10aと、コモン側の結線部14における3本の導線10bとを一体に結線するとともに、コモン側の結線部14における3本の導線10aを一体に結線する。
【0042】
以上のように結線した場合、一本のコイル部材10において、入力側とコモン側との間に延びる3本の導線10aを1巻きとして、計4巻き分の導線10a〜10dがステータ2に巻かれている状態になる。この構成を等価回路で表すと、
図8に示すものとなる。
【0043】
同図において、Ra〜Rdは、導線10a〜10dの抵抗をそれぞれ表しており、Pa〜Pcは、電流の流れる経路を示している。ここで、例えば、導線10a〜10dとして、互いに同一断面積のものを用いた場合、内径側のものほど、その両端間の長さが短くなることで、抵抗がより小さくなる関係上、Ra≦Rb≦Rc≦Rdが成立することになる。その結果、通電時、3つの経路Pa〜Pcには同じ電流が流れるものの、内径側の導線ほど、発熱量がより大きくなることで、銅損が発生してしまうことになる。
【0044】
本実施形態のコイル1の場合、この問題の発生を回避すべく、Ra=Rb=Rc=Rd又はRa≒Rb≒Rc≒Rdを成立させるために、前述したように、最も内径側に配置された導線10aの断面積が最も小さく、外径側に配置されたものほど、断面積がより大きくなるように構成されているとともに、各導線の断面積は、各コイル要素の導線におけるコイル1の軸心からの径方向の距離に応じて設定されている。これは、導線のコイル1の軸心からの径方向の距離の長さに応じて、導線の両端間の長さが決まることによる。
【0045】
以上のように、本実施形態のコイル1によれば、コイルアセンブリ1Aは、12個のコイル部材10を組み合わせて環状に形成され、その外径がステータ2の内径よりも小さい状態まで縮径された後、拡径されることで、ステータ2のスロット2aに挿入される。その場合、基部11における4つのコイル要素10A〜10Dの各々は、コイル1の周方向に並んだ3本の導線で構成されているので、縮径時及び拡径時に必要な押圧力を、1本の平角導線が径方向に多数積み重なっている特許文献1の場合と比べて、低減することができる。
【0046】
例えば、1つのスロット2a内に径方向に積み重なっているコイル要素の数を本実施形態のコイル1と特許文献1のコイルとで同一に設定した場合、本実施形態のコイル1では、各コイル要素が3本の導線で構成されていることによって、縮径時及び拡径時に必要な押圧力を、特許文献1のコイルと比べて、(1/3)×(1/3)×(1/3)×3=1/9まで低減させることができる。以上により、コイル1をステータ2に装着する際、コイル1への負担を低減できるとともに、加工装置の小型化及び低価格化を図ることができ、製造コストを低減することができる。
【0047】
さらに、コイル部材10では、平角導線10a〜10dが、基部11、腕部12及びカール部13において、各平角導線の断面における短辺側が径方向に互いに重なる状態で配置されているので、12本の導線10a〜10dをフラットワイズ曲げ加工することによって、基部11、腕部12、カール部13及び結線部14を一体に形成することができる。それにより、コイル製作時において、結束具などを用いることなく、12本の導線10a〜10dを一体化でき、その分、製造コストを削減することができる。同じ理由により、コイル製作時において、絶縁被膜が導線10a〜10dから剥離するのを抑制でき、製造コストをさらに削減することができる。
【0048】
これに加えて、前述した一対の腕部12,12とカール部13の構成により、カール部13の両側の一対の腕部12,12は、腕部12の径方向のサイズ分、すなわち4本の導線10a〜10dの径方向の厚さ分、互いに径方向にずれるように構成されているので、腕部12及びカール部13がスロット2aの外方に突出する寸法を低減することができ、コイルエンド高さを低減することができる。
【0049】
また、
図7に示すように結線したときの
図8の等価回路において、Ra=Rb=Rc=Rd又はRa≒Rb≒Rc≒Rdを成立させるために、導線10a〜10dにおいて、最も内径側に配置された導線10aの断面積が最も小さく、外径側に配置されたものほど、断面積がより大きくなるように構成されている。それにより、導線10a〜10dにおける抵抗を揃えることができ、銅損の発生を抑制できることで、回転電機の効率を向上させることができる。
【0050】
さらに、本実施形態のコイル1の挿入方法によれば、以上の作用効果を得ることができる。
【0051】
なお、実施形態は、コイル部材10の両端の結線部14,14を
図7に示すように結線した例であるが、これに代えて、
図9に示すように結線してもよい。同図に示す結線例は、入力側の12本の導線10a〜10dを一体に結線するとともに、コモン側の12本の導線10a〜10dを一体に結線したものである。
【0052】
このように結線した際、その等価回路は
図10に示すものとなる。同図において、12本の導線10a〜10dの断面積が同一の場合には、前述したように、Ra≦Rb≦Rc≦Rdが成立する関係上、最も外径側の3本の導線3aを通る経路が最も抵抗が大きくなる一方、より内径側の導線を通る経路ほど、抵抗が小さくなる。その結果、3本の導線3dを通る経路には、小電流しか流れず、3本の導線3aを通る経路には、大電流が流れてしまうことになる。
【0053】
これに対して、本実施形態の12本の導線10a〜10dの場合、前述したように、最も内径側に配置された導線10aの断面積が最も小さく、外径側に配置されたものほど、断面積がより大きくなるように構成されているとともに、各導線の断面積は、各コイル要素の導線におけるコイル1の軸心からの径方向の距離に応じて設定されているので、4つの経路における抵抗を同じ値に揃えることが可能になる。それにより、
図9に示すように結線した場合でも、導線10a〜10dにおける抵抗を揃えることができ、特定導線の発熱による銅損の発生を抑制できることで、回転電機の効率を向上させることができる。
【0054】
また、実施形態は、複数のコイル部材として、12個のコイル部材10を用いた例であるが、本発明の複数のコイル部材の数はこれに限らず、回転電機の極数や相数などに応じて適宜設定すればよい。例えば、複数のコイル部材として、6×n(nは整数)個のコイル部材を用いてもよい。
【0055】
さらに、実施形態は、複数組のコイル要素構造として、6組相当のコイル要素構造を用いた例であるが、本発明のコイル要素構造の組数はこれに限らず、複数組であればよい。例えば、5組相当以下や7組相当以上のコイル要素構造を用いてもよい。
【0056】
一方、実施形態は、複数のコイル要素として、4つのコイル要素10A〜10Dを用いた例であるが、これに代えて、複数のコイル要素として、2〜3又は5つ以上のコイル要素を用いてもよい。また、コイル部材として、実施形態のコイル部材10を、2つのコイル要素10A,10Bで構成したコイル部材と、2つのコイル要素10C,10Dで構成したコイル部材とに2分割したものを用いてもよい。このように構成した場合には、1つのスロット2a内に、4つのコイル部材の基部が挿入された状態となる。
【0057】
また、実施形態は、4つのコイル要素10A〜10Dの各々を3本の導線で構成した例であるが、本発明のコイル要素はこれに限らず、複数のコイル要素のうちの少なくとも1つのコイル要素の各々が複数の導線で構成されていればよい。例えば、4つのコイル要素10A〜10Dのうちのいずれか1つを3本の導線で構成し(例えば、コイル要素10Aを3本の導線10aで構成し)、それ以外のコイル要素を1本の導線で構成してもよい。また、2つのコイル要素10A,10Dの各々を3本の導線で構成し、残り2つのコイル要素B,10Cの各々を1本又は2本の導線で構成してもよく、これらを逆の関係に構成してもよい。また、複数のコイル要素を互いに異なる数の導線で構成してもよい。
【0058】
さらに、実施形態は、コイル1の導線10a〜10dにおいて、最も内径側に配置された導線10aの断面積が最も小さく、外径側に配置されたものほど、断面積がより大きくなるように構成した例であるが、これらに代えて、導線10a〜10dとして、互いに同一の断面積のものを用いてもよい。
【0059】
一方、実施形態は、コイル1をステータ2に装着する際、1つのコイル部材10において、基部11が5つ置きに並ぶスロット2aに挿入されるように構成した例であるが、基部11が挿入されるスロット2aの間隔はこれに限らず、回転電機の極数や相数などに応じて適宜設定可能である。例えば、コイル部材の基部を、6×n−1(nは整数)置きにスロットに挿入するように構成してもよい。