特許第6986479号(P6986479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986479
(24)【登録日】2021年12月1日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】解体性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/14 20060101AFI20211213BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C09J175/14
   C09J11/04
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-72758(P2018-72758)
(22)【出願日】2018年4月4日
(65)【公開番号】特開2019-182948(P2019-182948A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2021年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】池田 将啓
(72)【発明者】
【氏名】西田 聖二
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−196793(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/083566(WO,A1)
【文献】 特開2011−042705(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165201(WO,A1)
【文献】 特開2004−210879(JP,A)
【文献】 特開2001−019911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤成分、及び(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物を含み、
前記無機オニウムイオンが窒素の水素化物であり、
前記ハロゲンイオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記過ハロゲン酸イオンが、過塩素酸イオン、過ヨウ素酸イオン及び過臭素酸イオンから成る群から選択される少なくとも一つであり、かつ
前記無機酸イオンが、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン及びヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つである、解体性接着剤組成物。
【請求項2】
前記窒素の水素化物がアンモニウムイオンである、請求項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項3】
前記(B)化合物が無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含み、前記ハロゲンイオンが塩化物イオンである、請求項1又は2に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項4】
前記(B)化合物が無機オニウムイオンと過ハロゲン酸イオンとの化合物を含み、前記過ハロゲン酸イオンが過塩素酸イオンである、請求項1又は2に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項5】
前記(B)化合物が無機オニウムイオンと無機酸イオンとの化合物を含み、前記無機酸イオンが硝酸イオンである、請求項1又は2に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項6】
前記(A)有機系接着剤成分がウレタンアクリレート樹脂である、請求項1〜のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項7】
被接着体を接合する際に用いられ、解体の際、外的刺激によって接着強度を消失する、請求項1〜のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤によって組み立てられた構造体又は物品をその接着接合部において容易に解体させることを可能にする解体性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、構造用接着剤をはじめとして、より接着力が強く、より耐久性が長く、さらには、耐熱性、温度環境の変動にも強いものが求められ、開発が進められてきた。しかしながら、限り有る資源を有効に使用しようとするリサイクルの面では、アセンブリーされた部品を再利用するために、解体可能な接着剤の開発が必須である。解体性接着剤とは、使用期間後に何らかの処置により接合部をはがしうるものである。このような接着剤として、熱可塑性接着剤は、加熱により接合部の解体が可能であるが、いったん冷却すると再び接着力が復元する。解体する場合は、接着剤だけを加熱することは困難であるため、高い雰囲気温度下で解体する必要があるが、高温となった接合物の解体は、危険性の高いものであった。
【0003】
この問題を解決するため、熱可塑性よりもより高強度の接着力が要求される熱硬化性接着剤にも適用可能な解体性接着剤として、接着剤成分にバーミキュライトや熱膨張性黒鉛等の熱膨張性無機物を添加した解体性接着剤の開発が進められている。しかしながら、これらの解体性接着剤は、加熱後に接着強度が低下するものの完全に強度がゼロにはならないという問題があった(特許文献1参照)。また、解体温度は400℃以上という高温を想定しているため、多大な熱エネルギーが必要であることに加え、被着体が樹脂材料の場合、加熱時に被着体自身が熱劣化するため再利用が困難であるという問題があった(特許文献2参照)。
【0004】
接着剤成分に熱膨張性樹脂バルーンや化学発泡剤を添加した解体性接着剤の開発も進められている。しかしながら、これらの解体性接着剤は、高強度の接着剤は解体できず、10MPa以下の接着強度を有する接着剤の解体に留まっていた(特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
高接着強度を有する接着剤を解体するため、接着剤成分に有機ポリマーを添加した解体性接着剤の開発が進められているが、200℃以上という高温条件下でのみ接着強度がゼロとなるため、熱可塑性接着剤同様に、高温となった接合物の解体は、危険性が高いという問題があった(特許文献5参照)。
【0006】
また、熱硬化性接着剤に適用可能な酸化剤混入接着剤の開発も進められているものの、一部では酸化剤と硬化剤の反応により発泡し、初期強度が低下してしまうという問題があった(特許文献6参照)。この問題を回避するために、接着剤との混合前に、酸化性陰イオンを含有するオニウム塩とアミン系化合物とを反応させる方法が検討されているが、接着剤製造工程を増やす必要があった(特許文献7参照)。
【0007】
さらに、有機カチオンのハロゲン化物を添加した解体性接着剤の開発も進められているが、一部では潮解性が高いために接着剤製造時、及び接着剤塗布、貼り付け時に大がかりな調湿設備や窒素雰囲気下での作業が必要であった(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−204332号公報
【特許文献2】特願2004−189856号公報
【特許文献3】特開2002−187973号公報
【特許文献4】特開2003−171648号公報
【特許文献5】特開2004−231808号公報
【特許文献6】国際公開第2007/083566号
【特許文献7】国際公開第2009/011421号
【特許文献8】特開2011−42705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、簡便な製造方法により、高強度の接着剤を用いて接合された構造体又は物品を、必要な場合に外的刺激によって、比較的低温で接着接合部を解体可能な接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤成分、及び無機オニウムイオンと特定の陰イオンとの化合物を含む解体性接着剤組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]
(A)ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤成分、及び(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物を含む、解体性接着剤組成物。
[2]
上記無機オニウムイオンが窒素の水素化物である、項目[1]に記載の解体性接着剤組成物。
[3]
上記窒素の水素化物がアンモニウムイオンである、項目[2]に記載の解体性接着剤組成物。
[4]
上記(B)化合物が無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含み、上記ハロゲンイオンが塩化物イオンである、項目[1]〜[3]のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
[5]
上記(B)化合物が無機オニウムイオンと過ハロゲン酸イオンとの化合物を含み、上記過ハロゲン酸イオンが過塩素酸イオンである、項目[1]〜[3]のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
[6]
上記(B)化合物が無機オニウムイオンと無機酸イオンとの化合物を含み、上記無機酸イオンが硝酸イオンである、項目[1]〜[3]のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
[7]
上記(A)有機系接着剤成分がウレタンアクリレート樹脂である、項目[1]〜[6]のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
[8]
被接着体を接合する際に用いられ、解体の際、外的刺激によって接着強度を消失する、項目[1]〜[7]のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無機オニウムイオンと特定の陰イオンとの化合物は、ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤との反応性もなく、潮解性もないため、高強度の接着剤を用いて接合された構造体又は物品を、必要な場合に外的刺激によって、比較的低温で接着接合部を解体可能な接着剤を簡便に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態におけるUA樹脂の引張剪断試験の結果を示すグラフである。
図2図2は、EA樹脂の引張剪断試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、本実施形態におけるUA樹脂のIRスペクトルの結果を示すグラフである。
図4図4は、EA樹脂のIRスペクトルの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施態様を詳細に説明する。
本発明において利用できる有機系接着剤成分は、ウレタンアクリレート樹脂(UA樹脂)を含む限り、何ら限定されるものではない。有機系接着剤成分中、ウレタンアクリレート樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよく、ウレタンアクリレート樹脂からなることが好ましい。有機系接着剤成分がウレタンアクリレート樹脂以外の他の有機系接着剤成分を含有する場合、本発明の主旨が、解体しにくいものを解体することにあるから、有機系接着剤成分としては、構造用の接着剤を用いること好ましい。構造用接着剤とは、「長期間破壊することなく、その最大破壊荷重に比較的近い応力を加えることのできる信頼性の保証された接着剤」(接着応用技術 日経技術図書株式会社発行 1991年 P93 接着剤の分類参照)であり、化学組成による分類によれば、(同上図書 P99)熱硬化性、アロイがよい。
【0014】
本発明の解体性接着剤に用いることができる、UA樹脂以外の有機系接着剤成分を例示すれば、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、レゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール、アクリル(SGA)、アクリル酸ジエステル、シリコーンゴム系などを主成分とする接着剤を挙げることができる。アロイとしては、エポキシフェノリック、エポキシポリサルファイド、エポキシナイロン、二トリルフェノリック、クロロプレンフェノリックビニルフェノリック等、または上記物質を変性させた樹脂、上記物質を2種類以上混合した樹脂が使用できる。
【0015】
ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤成分の硬化剤は有機化酸化物であることが好ましい。硬化剤として好ましい有機化酸化物は、ジアシルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、ヒドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類及びパーオキシカーボネート類等が挙げられ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等が挙げられる。最も一般的にはベンゾイルパーオキサイドが用いられる。また、これらの有機化酸化物は一般的に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機物、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーンオイル、流動パラフィン、重合性モノマー、水などの希釈剤で希釈して用いられる。
【0016】
本明細書中、無機オニウムイオンとは、無機水素化物のプロトン化によって生じたイオンのことであり、例えば、アンモニウムイオン、ヒドロキシルアンモニウムイオン、ヒドラジニウムイオン、ホスホニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、ジアゼニウムイオン、ジアゾニウムイオン等が挙げられ、これらを2種類以上混合したものも使用できる。特に、人体への有害性が比較的低く、接着剤の解体性に優れることから無機オニウムイオンは、窒素の水素化物が好ましく、更にアンモニウムイオンが好ましい。
【0017】
本実施形態において、無機オニウムイオンとともに(B)化合物を構成する陰イオンは、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される。ハロゲンとは、周期表17族に記されるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のことであり、これらを2種類以上混合したものも使用できる。ハロゲンイオンとしては、特に、接着剤の解体性に優れることから塩素イオンが好ましい。過ハロゲン酸イオンとしては、過塩素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、及び過臭素酸イオン等が挙げられ、特に、接着剤の解体性に優れることから過塩素酸イオンが好ましい。無機酸イオンとしては、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、ヨウ素酸イオン等が挙げられ、特に、接着剤の解体性に優れることから硝酸イオンが好ましい。
【0018】
無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物として、具体的には、塩化アンモニウム(NHCl)、硝酸アンモニウム(NHNO)、過塩素酸アンモニウム(NHClO)、及びヨウ素酸アンモニウム(NHIO)が好ましく、塩化アンモニウム(NHCl)、硝酸アンモニウム(NHNO)、及び過塩素酸アンモニウム(NHClO)がより好ましい。
【0019】
無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物の含有量は、有機系接着剤成分100重量部に対して、1重量部以上100重量部以下が好ましい。この範囲であれば、無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物の含有量が少なすぎることによる解体性の低下がなく、逆に含有量が多すぎることによる接着剤の著しい粘度上昇はない。より好ましい無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物の含有量は、接着剤成分100重量部に対して、2重量部以上50重量部以下であり、さらに好ましくは3重量部以上20重量部以下である。
【0020】
無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物の粒径については、一般的に接着剤の厚みが最大でも1mm程度であることから、1mm以下が好ましい。接着剤の塗工作業性が向上し、接着剤成分中における分散性も向上することから、400μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。尚、本発明における粒径とは、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定したメジアン径をいう。
【0021】
本発明においては、接着剤の流動性調整のため、非反応性希釈剤や反応性希釈剤、炭酸カルシウムやタルク、アルミナ等のフィラーを添加することができる。
また、可とう性付与のため、モノエポキサイド、ジエポキサイド、ポリチオールなどの可塑剤や、液状ゴムを添加してもよい。
解体性を向上させるために、熱膨張性黒鉛や熱膨張性樹脂バルーン、アゾジカルボンアミド等の化学発泡剤を添加することもできる。
【0022】
接着剤成分と無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物、その他流動性調整成分、可とう性付与成分等の混合順は、接着剤の接着強度、解体性等を損なわなければ、どの順序で混合してもよい。また、塗布直前に混合してもよいし、予め一部の成分を混合しておいてもよい。
本発明の接着剤は、液状で用いてもよいし、テープ状で用いるために、フィルム基材に塗布して用いてもよい。
【0023】
本発明の接着剤は外的刺激によって接着性が低下又は消失するため、該接着剤を用いて接着した接着構造体を容易に解体することが可能となる。
本明細書中、「外的刺激」とは、熱、火等の物理的な刺激をいい、より具体的には、熱風加熱、赤外線照射、高周波加熱、マイクロ波加熱、化学反応熱、摩擦熱等、ガスバーナーなどの火による加熱が挙げられる。本発明の接着剤によって接着された接着構造体に上記外的刺激が与えられると、接着剤の温度が上昇し、接着剤成分自身の凝集力や被着体との接着力が低下するという現象に加え、外的刺激を受けることで、その際、無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物が、有機系接着剤の熱分解を促進し、接着力を大きく低減、あるいは、消失させることができる。
【0024】
大型の接着された構造体を均一加熱するという点では、電気炉、ガス炉等の内部構造に加熱部を有し、外部が断熱材で構成されたものの内部空間で構造体を加熱する方法がより好ましい。また、解体時の温度としては、金属/FRP接合体、FRP/FRP接合体などは、FRPのマトリックス樹脂の融点以下で短時間での解体を可能とすることは極めて重要な課題である。例えば、複合材料に使用される樹脂PPS(ポリフェニレンサルファイド、融点:280℃)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、融点:335℃)などの接着構造体の解体においては、リユースを考慮した場合に、樹脂に対して融点以上の温度での加熱を長時間行わないことは樹脂の変質を招かないために重要であり、加熱温度は350℃以下が好ましく、より好ましくは、300℃以下である。
【0025】
加熱解体時の昇温速度については、被接着体の熱劣化を抑制すること、また、高い解体性を付与する場合があることから、高い昇温速度で接着剤を加熱することが好ましく、具体的には5℃/min以上、より好ましくは10℃/min以上の昇温速度で昇温することが好ましい。
また、被接着体のリサイクル等を考慮すると、リサイクル等したい側の被接着体界面で剥離させることが望ましい。このため、リサイクル等したい被接着体側から加熱することで、解体面を選択することができる。
本発明の接着剤の使用箇所は、特に制限されるものではないが、リサイクル、リユース、リワーク用途に使用することが可能であり、金属−FRPや、金属−ガラスのような異材質の接着に好適に用いることができる。また、異種の金属−金属、FRP−FRPの接着に用いることも可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
構造用接着剤として、ウレタンアクリレート樹脂、及びエポキシアクリレート樹脂を用いた。を使用した。
無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物として、塩化アンモニウム(NHCl、和光純薬工業株式会社製)、硝酸アンモニウム(NHNO、和光純薬工業株式会社製)、過塩素酸アンモニウム(NHClO、和光純薬工業株式会社製)、及びヨウ素酸アンモニウム(NHIO、和光純薬工業株式会社製)を使用した。
各実施例、各比較例について、以下に示す方法で、接着接合体を作成し、引張剪断試験で加熱解体性を評価した。
【0027】
<接着接合体の作製>
[実施例]
UA樹脂(旭化成社製、AK−001UA)、重合開始剤(化薬アクゾ社製、パーカドックスCH−50L)、及び粘度調整剤(日本アエロジル社製,アエロジル300)を重量比100:3:3で混合した。混合物に、無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物として、塩化アンモニウム(NHCl、和光純薬工業株式会社製)、硝酸アンモニウム(NHNO、和光純薬工業株式会社製)、過塩素酸アンモニウム(NHClO、和光純薬工業株式会社製)、又は過ヨウ素酸アンモニウム(NHIO、和光純薬工業株式会社製)を10wt%添加し、接着剤を作成した。表面処理(K.Katoh, N.Saeki, E.Higashi, K.Nakano, and M.Sugimoto, Science and Technology of Energetic Materials, 75(3), 86-90 (2014))をしたアルミ板(25mm×100mm×3mm)の端部25mm×12.5mmの範囲に、上記で得た接着剤を塗布した。接着剤を塗布したアルミ板の上に他のアルミ板を貼り合わせ、減圧下で一昼夜静置して接着剤を硬化させることにより供試体を作製した。
【0028】
[比較例]
EA樹脂(共栄社化学社製、ライトエステル2EG)、及び重合開始剤(化薬アクゾ社製、パーカドックスCH−50L)を重量比100:5で混合した。混合物に、無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物として、塩化アンモニウム(NHCl、和光純薬工業株式会社製)、硝酸アンモニウム(NHNO、和光純薬工業株式会社製)、過塩素酸アンモニウム(NHClO、和光純薬工業株式会社製)、又は過ヨウ素酸アンモニウム(NHIO、和光純薬工業株式会社製)を10wt%添加し、上記と同じようにして供試体を作製した。
【0029】
<引張剪断試験>
これらの供試体を加熱炉内270℃で30分加熱した後、引張試験装置(島津製作所社製 RH−10)により、引張りせん断強度(接着強度)を測定し、解体性を評価した。結果を図1及び2に示す。
【0030】
<赤外吸収スペクトル(IR)測定>
また、各樹脂の加熱による化学的変化を観察するため、引張試験後の供試体の接合面から樹脂を採取し、IR測定(Perkin Elmer製、Frontier IR、ATR法)により吸収スペクトルを観察した。結果を図3及び4に示す。
【0031】
<評価結果>
図1より、無機塩を添加したUA樹脂の加熱前の強度は無添加の場合とほぼ同じか、あるいは、NHClO添加系に関しては無機塩添加によって若干接着強度が向上している傾向が見られた。加熱後の接着強度に関しては、NHIOよりも他の無機塩添加系の方が、無添加の場合と比べて強度がより低下し、より優れた加熱解体性を付与することができた。特に、NHNOおよびNHClO添加系では、引張試験機に設置する際の僅かな振動で試験片が剥離する程の接着強度の低下が見られた。図2に示すEA樹脂の場合では、加熱前後において無機塩無添加の場合と比較して接着強度の低下が小さく、加熱解体性に劣った。
【0032】
加熱により接着強度が大きく低下したNHClO添加系の加熱前後における差スペクトル(図3、(3))を参照すれば、C−O伸縮(1225cm−1)、ウレタンN−H変角(1535cm−1)、ウレタンC=O伸縮(1730cm−1)と思われる三つのピークが無添加の場合(図3、(6))よりも加熱後に減少していることが分かった。したがって、加熱によりウレタン結合(−COONH−)の分解が促進され、接着強度が大きく低下したと考えられる。一方、EA樹脂の場合では,無機塩添加の有無による差スペクトル(図4、(3)及び(6))の変化は小さく、無機塩添加による影響が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の解体性接着剤を使用すれば高強度の接着剤を容易に解体することができる。従って、本発明の接着剤は、リサイクル、リユース、リワーク用途に有用であり、金属−FRPや、金属−ガラスのような異材質の接着に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4