【文献】
近藤 稔、ほか3名,振動による状態監視法を用いたディーゼル機関異物混入時の異常振動検知,鉄道総研報告,2016年,Vol.30, No.4,p.47-52
【文献】
近藤 稔、ほか1名,振動のオクターブバンド分析と機械学習を用いた車両機器の異常検知,日本機械学会関東支部総会講演会講演論文集,日本,2017年03月15日,第23期
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記異常判定手段は、前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合する度合を算出することで、当該周波数帯の異常度を算出する手段を有し、
前記異常度を履歴的に表示する制御を行う第2の履歴表示制御手段を更に備えた、
請求項1〜5の何れか一項に記載の異常診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検査対象となる機器のうち、鉄道車両において特に重点的に検査される機器は駆動用機器である。鉄道車両の駆動用機器としては、電気車の場合には、主電動機と減速機、気動車の場合には、ディーゼルエンジンや変速機、減速機、推進軸といった回転機械が用いられている。これらの駆動用機器は、故障を起こすと列車の安全で正常な運行を妨げることになる重要な機器であるため、その異常を早期に検知して、故障や破損を未然に防ぐことが重要である。また、駆動用機器に発生し得る故障には様々な種類があるが、疑わしい異常が発生した場合には、故障に至る前に、見逃すこと無く確実に検知することが望まれる。
【0005】
さらには、単に異常の発生を検知するだけでなく、異常原因を特定し、或いは異常原因を絞り込む、異常原因の判別が求められる。異常の発生が検知できても、その異常原因がわからなければ整備や修理等が必要な箇所の手がかりとならず、発生した異常に対して適切に対処するのは難しいからである。また、異常原因となっている事象が進行/悪化しているのかどうかが分かれば、故障に至るまでの時間的な猶予を大まかに知ることができ、有用である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄道車両の駆動用機器に生じた異常を検知してその異常原因を判別することができる技術の提供を第1の目的とする。また、異常原因となっている事象が進行/悪化しているのかどうかを判断できる技術の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
鉄道車両に設置された振動センサによって検知された振動データをオクターブバンド分析する分析手段(例えば、
図11のオクターブバンド分析部531)と、
前記分析手段の分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の少なくとも3つの周波数帯の周波数帯別データに分類する分類手段(例えば、
図11の周波数帯分類部535)と、
前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合するか否かを判定することで、当該周波数帯の異常の有無を判定する異常判定手段(例えば、
図11の異常判定部541)と、
前記異常判定手段により判定された前記周波数帯それぞれの異常の有無に基づいて定められた異常原因を判別する異常原因判別手段(例えば、
図11の異常原因判別部547)と、
を備えた異常診断装置である。
【0008】
第2の発明は、
鉄道車両に設置された振動センサによって検知された振動データをオクターブバンド分析する分析手段(例えば、
図11のオクターブバンド分析部531)と、
前記分析手段の分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の少なくとも3つの周波数帯の周波数帯別データに分類する分類手段(例えば、
図11の周波数帯分類部535)と、
所定周期で前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合するか否かを判定することで、当該周波数帯の異常の有無を判定する異常判定手段(例えば、
図11の異常判定部541)と、
前記周波数帯それぞれについて、前記所定周期よりも長い所定の単位時間或いは所定の走行単位の間に前記異常判定手段により異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示する制御を行う第1の履歴表示制御手段(例えば、
図11に示す異常度履歴表示制御部549)と、
を備えた異常診断装置である。
【0009】
また、他の発明として、
コンピュータを、
鉄道車両に設置された振動センサによって検知された振動データをオクターブバンド分析する分析手段、
前記分析手段の分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の少なくとも3つの周波数帯の周波数帯別データに分類する分類手段、
前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合するか否かを判定することで、当該周波数帯の異常の有無を判定する異常判定手段、
前記異常判定手段により判定された前記周波数帯それぞれの異常の有無に基づいて定められた異常原因を判別する異常原因判別手段、
として機能させるためのプログラムを構成してもよい。
【0010】
また、他の発明として、
コンピュータを、
鉄道車両に設置された振動センサによって検知された振動データをオクターブバンド分析する分析手段、
前記分析手段の分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の少なくとも3つの周波数帯の周波数帯別データに分類する分類手段、
所定周期で前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合するか否かを判定することで、当該周波数帯の異常の有無を判定する異常判定手段、
前記周波数帯それぞれについて、前記所定周期よりも長い所定の単位時間或いは所定の走行単位の間に前記異常判定手段により異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示する制御を行う第1の履歴表示制御手段、
として機能させるためのプログラムを構成してもよい。
【0011】
鉄道車両に機械的な異常があると、それに起因して異常な振動が発生する。そして、このような異常振動は、異常原因が同じであれば同じような周波数帯に現れる。第1の発明及び第2の発明等によれば、振動データのオクターブバンド分析結果を低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の少なくとも3つの周波数帯の周波数帯別データに分類し、分類した周波数帯別データの各々が対応する周波数帯の所定基準データに適合するか否かを判定することで、各周波数帯における異常の有無を判定することができる。そして、第1の発明であれば、判定した各周波数帯の異常の有無に基づいて、発生した異常の異常原因を判別することができる。また、第2の発明であれば、所定の単位時間或いは所定の走行単位の間に異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示させることができる。これにより、異常原因となっている事象が進行/悪化しているのかどうか、どの程度進行/悪化しているかを判断できる。
【0012】
また、上記の第1の発明に対しては、第2の発明と同様に、
前記異常判定手段は、所定周期で前記周波数帯別データそれぞれについての有無を判定し、
前記周波数帯それぞれについて、前記所定周期よりも長い所定の単位時間或いは所定の走行単位の間に前記異常判定手段により異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示する制御を行う第1の履歴表示制御手段、
を更に備えた、第3の発明としての異常診断装置を構成することができる。
【0013】
また、第4の発明として、
前記分類手段は、前記低周波数帯の上限閾値を50〜100Hzの間の周波数として前記分類を行う、
第1〜第3の何れかの発明の異常診断装置を構成してもよい。
【0014】
第4の発明によれば、オクターブバンド分析結果を周波数帯別データに分類する際の低周波数帯の上限閾値を、50〜100Hzの間の周波数とすることができる。
【0015】
また、第5の発明として、
前記分類手段は、低周波数帯、中周波数帯および高周波数帯の3つの周波数帯の周波数帯別データに分類し、前記高周波数帯の下限閾値を1kHzとする、
第1〜第4の何れかの発明の異常診断装置を構成してもよい。
【0016】
第5の発明によれば、オクターブバンド分析結果を周波数帯別データに分類する際の高周波数帯の下限閾値を、1kHzとすることができる。
【0017】
また、第6の発明として、
前記異常判定手段は、前記周波数帯別データそれぞれについて、対応する周波数帯の所定基準データに適合する度合を算出することで、当該周波数帯の異常度を算出する手段を有し、
前記異常度を履歴的に表示する制御を行う第2の履歴表示制御手段(例えば、
図11に示す異常度履歴表示制御部549)を更に備えた、
第1〜第5の何れかの発明の異常診断装置を構成してもよい。
【0018】
第6の発明によれば、各周波数帯の周波数帯別データのそれぞれについて対応する所定基準データに適合する度合を当該周波数帯の異常度として算出し、異常度の履歴を表示することができる。
【0019】
また、第7の発明として、
前記第2の履歴表示制御手段は、前記履歴の表示において前記異常度の高低を識別表示する、
第6の発明の異常診断装置を構成してもよい。
【0020】
第7の発明によれば、異常度の高低を識別表示して異常度の履歴を表示することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0023】
図1は、本実施形態の状態診断システム1の全体構成例を示す模式図である。
図1に示すように、状態診断システム1は、振動センサ3と、異常診断装置5とを備えて構成され、鉄道車両9に搭載されて使用される。振動センサ3は、鉄道車両9の駆動用機器の近傍に設置され、駆動用機器の動作によって生じる振動を検知する。
図1では、台車に設置する例を示している。そして、異常診断装置5は、振動センサ3によって検知された振動データをもとに、駆動用機器の状態を診断する。例えば、鉄道車両9が電気車の場合は、主電動機(モータ)、変速機、歯車装置等の駆動装置、これらに用いられる軸受等を含む駆動用機器が状態診断の対象となる。気動車(ディーゼル車)であれば、ディーゼル機関(エンジン)、変速機、減速機、補機駆動装置、これらの周辺部品等の駆動用機器が状態診断の対象となる。なお、振動センサ3は、駆動用機器を構成する主要機器毎に設置することができるため、例えば、気動車(ディーゼル車)の場合、エンジン、変速機、補機駆動装置、ラジエータ等(或いはその近傍)に振動センサ3を設置することができる。
【0024】
〔原理〕
図2は、異常診断装置5による状態診断を説明する図である。異常診断装置5は、振動データを処理し、振動データが異常振動を含むか否かを異常の有無として判定する。そして、判定した異常の有無を用いた異常原因の判別(異常原因の特定或いは絞り込み)を行って、駆動用機器の状態診断を実施する。振動センサ3を複数設置する場合は、設置箇所毎に振動データを処理し、当該状態診断を実施する。
【0025】
本実施形態では、異常診断装置5は、鉄道車両9の走行中に振動センサ3からの振動データを入力して、オクターブバンド分析を行う(A1)。そして、所定の単位期間(例えば1秒)毎のオクターブバンド分析結果を用いた状態診断(即時診断)をリアルタイムで行い、単位期間毎に即時診断結果707を得る(A3)。
【0026】
また、1回の走行を終えた後、当該1走行分の即時診断結果に基づく状態診断(1走行分診断)を行い、1回の走行毎に1走行分診断結果717を得る(A5)。ここで、1回の走行(1走行)とは、ある程度の長さに亘る期間での走行であり、例えば、始発駅から終着駅までの走行や、1日の走行とすることができる。車両運用の観点から定義するとすれば、1つの行路や仕業を1回の走行としてもよいし、当該車両が充当される列車1本分の運用を1回の走行としてもよい。
【0027】
また、所定の表示指示操作を受け付けて、即時診断結果や1走行診断結果を異常診断装置5の表示部55(
図11を参照)等に表示する制御を行う(A7)。
【0028】
(1)オクターブバンド分析
図3は、振動データのオクターブバンド分析を説明する図である。オクターブバンド分析では、振動データD11に対する所定のフィルタ処理が連続的に行われ、オクターブバンド分析結果が単位期間Δt毎に記録される。これにより、各単位期間Δtにおけるオクターブバンド分析結果D13として、各周波数帯域(オクターブバンド)に対する振動の大きさ(振動実効値)が得られる。本実施形態では、当該オクターブバンド分析を行った単位期間Δtにおける鉄道車両9の走行速度の平均値(平均速度)を、そのオクターブバンド分析結果D13に対応する走行速度として算出する。また、当該単位期間Δtにおける動力源(モータやエンジン)の回転数と動作モードとを取得し、算出した走行速度とともにオクターブバンド分析結果D13と対応付けて記録しておく。動作モードとは、力行、惰行及びブレーキの運転操作と、そのノッチ数との組み合わせであり、例えば、力行5ノッチ、・・、力行1ノッチ、惰行、ブレーキ1ノッチ、・・、ブレーキ5ノッチといったように設定される。
【0029】
なお、データ量削減の観点から、本実施形態のように走行中にリアルタイムでオクターブバンド分析を行うが、振動データは記録せずに、単位期間Δt毎のオクターブバンド分析結果のみを記録する方法を採用すると好適である。ただし、1回の走行に係る振動データを記録しておき、事後的に単位期間Δt毎にオクターブバンド分析を行うとしてもよい。
【0030】
(2)即時診断
図4は、即時診断の大まかな流れを示す図である。即時診断では先ず、診断対象の単位期間(対象単位期間)のオクターブバンド分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の3つの周波数帯の周波数帯別データに分類する(ステップA31)。具体的には、
図3に示すように、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯にオクターブバンドを振り分け、各周波数帯に属するオクターブバンドの振動実効値を対応する周波数帯の周波数帯別データとして分類する。そして、分類した振動実効値を要素とする特徴ベクトルを、対応する周波数帯に係る特徴ベクトルとして得る。或いは、周波数帯別データの主成分分析と白色化を行って主成分を求め、求めた主成分を特徴ベクトルとして用いてもよい。主成分の数は、その寄与率に応じて定めることができる。なお、各周波数帯の具体的な範囲については
図6を参照して後述するが、それよりも細かく4つ以上の周波数帯に分類するとしてもよい。
【0031】
続いて、
図4に示すように、分類した低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯の周波数帯別データそれぞれについて、予め所定基準データとして周波数帯毎に用意される学習データ63(631,633,635)のうちの対応する周波数帯の学習データ63に適合するか否かを判定することで、各周波数帯における異常の有無を判定する(ステップA33)。
【0032】
先ず、学習データ[低周波数帯(正常)]631は、事前に収集した正常時の振動データに対するオクターブバンド分析結果であって、そのうちの低周波数帯の周波数帯別データに基づく特徴ベクトルの集合である。同様に、学習データ[中周波数帯(正常)]633は、正常時の振動データに対するオクターブバンド分析結果であって、中周波数帯の周波数帯別データに基づく特徴ベクトルの集合である。学習データ[高周波数帯(正常)]635は、正常時の振動データに対するオクターブバンド分析結果であって、高周波数帯の周波数帯別データに基づく特徴ベクトルの集合である。
【0033】
また、判定には、例えば、近傍法の一種であるNNDD(Nearest Neighbor Data Description)や、1クラスサポートベクターマシンを利用することができる。
図5は、近傍法(NNDD)による異常度算出の原理を説明する図である。
図5に示すように、NNDDでは、周波数帯別データ(より詳細には、当該周波数帯別データから得た特徴ベクトル)を多次元空間上の1点と考える。そして、当該多次元空間において、学習データ(正常時の振動データに基づく特徴ベクトル)の集合Gの中から、振動データを表すテストデータX(判定対象の特徴ベクトル)に最も近い学習データAを探し、テストデータXと学習データAとの距離d1を基準距離で除した比を求めてテストデータXが正常なのか異常なのかを判定する。テストデータXが異常である場合、学習データAとテストデータXとの距離が大きくなると考えられ、求まる比は異常の度合(異常度)を表すといえる。
【0034】
実際の処理では、前段のステップA31で周波数毎に得た特徴ベクトルの各々を順次処理対象とする。そして、最近傍の学習データだけでなくk番目(k=1〜k
NN)に近い学習データも用い、判定対象の特徴ベクトルを、対応する学習データ63、つまり、対応する周波数帯に係る正常時の振動データに基づく特徴ベクトルと比較して、各周波数帯の特徴ベクトルが正常なのか異常なのかをそれぞれ判定する。
【0035】
具体的には、次式(1)に示す異常度算出関数g(x)に従い、判定対象の特徴ベクトルxの異常度gを求める。式(1)において、d
kは基準距離を表す。基準距離d
kは、次のように定められる。すなわち、学習データ63の各特徴ベクトルについて、k番目に近い特徴ベクトルとの距離を算出する。そして、算出した距離を小さい順に並べて99%の順位に位置する特徴ベクトルとの距離を特定し、これを当該k番目に近い特徴ベクトルに係る基準距離d
kとする。
【数1】
ここで、NN
k(x)は、データxにk番目に近い学習データを表している。
【0036】
そして、式(1)の異常度算出関数g(x)で求めた異常度が正値であれば判定対象の特徴ベクトルを異常と判定し、異常度が負値であれば判定対象の特徴ベクトルを正常と判定する。そして、特徴ベクトルを異常と判定した場合は、その周波数帯の振動データが異常振動を含むとして「異常有り」と判定する。一方、特徴ベクトルを正常と判定した場合には、その周波数帯の振動データが異常振動を含まないとして「異常無し」と判定する。
【0037】
次に、1クラスサポートベクターマシンを利用する場合を簡単に説明する。1クラスサポートベクターマシンは、特徴ベクトルを2つのクラス(集団)に分類する学習モデルであるサポートベクターマシンを応用した手法である。サポートベクターマシンは、2クラスのデータ間の距離(マージン)が最大となるようにクラスが定められた学習データを分類する超平面を求め、この超平面に従い判定対象の特徴ベクトルをどちらかのクラスに分類する。そして、1クラスサポートベクターマシンは、学習データとして正常データの1クラスのみを用いて学習データのクラスとそれ以外とを分類する超平面を求め、求めた超平面に従い判定対象の特徴ベクトルを正常か異常のどちらかに分類する。
【0038】
1クラスサポートベクターマシンにおいて、判定対象の特徴ベクトルxの正常/異常の判定に用いる判別関数f(x)は、次式(2)で定められる。判別関数f(x)が正値の場合には、判定対象の特徴ベクトルxは学習データである正常データのクラスに分類されない、すなわち異常であることを表す。一方、判別関数f(x)が負値の場合には、判定対象の特徴ベクトルxは学習データである正常データのクラスに分類される、すなわち正常であることを表す。「l」は、学習データを構成する特徴ベクトルの数である。
【数2】
【0039】
式(2)において、関数k(x,y)はカーネル関数であり、ガウシアンカーネルを用いると、次式(3)で定められる。式(3)において、パラメータσは、例えば、特徴ベクトル間の距離の最大値として定められる。
【数3】
【0040】
また、式(2)において、ベクトルx
iは、サポートベクターである。サポートベクターとは、正常データの特徴ベクトルxのうち、対応する係数αが「0」でない特徴ベクトルのことである。サポートベクターx
iの係数α
iは、次式(4)の最小化問題の解として算出される。式(4)において、パラメータνは、例えば「0.1」に設定される。
【数4】
【0041】
また、式(2)のパラメータρは、サポートベクターx
iの係数α
iが上限値でも下限値でもない場合に、次式(5)で与えられる。
【数5】
【0042】
このような1クラスサポートベクターマシンの手法を利用する場合も、前段のステップA31で周波数帯毎に得た特徴ベクトルの各々を順次判定対象とする。そして、判定対象の特徴ベクトルを対応する学習データ63と比較して、各周波数帯の特徴ベクトルが正常なのか異常なのかをそれぞれ判定する。
【0043】
具体的には、判別関数f(x)を用いて次式(6)に示す異常度算出関数g(x)を定め、この異常度算出関数g(x)に従って、判定対象の特徴ベクトルxの異常度gを求める。
【数6】
【0044】
式(6)の異常度算出関数g(x)は、判別関数f(x)で求めた値をパラメータρで正規化した値となる。1クラスサポートベクターマシンによる評価値の正規化ともいえる。したがって、異常度が正値であれば判定対象の特徴ベクトルを異常と判定し、異常度が負値であれば判定対象の特徴ベクトルを正常と判定する。そして、特徴ベクトルを異常と判定した場合は、その周波数帯の振動データが異常振動を含むとして「異常有り」と判定する。一方、特徴ベクトルを正常と判定した場合には、その周波数帯の振動データが異常振動を含まないとして「異常無し」と判定する。
【0045】
続いて、判定した各周波数帯の異常の有無に基づいて、異常原因を判別する(ステップA35)。
図6は、異常原因の判別に用いる異常原因判別テーブルを示す図である。本実施形態の異常原因の判別は、異常が生じた部品を正確に特定するものではなく、その異常の起因となっている事象を推定的に特定し、又は絞り込むものである。異常の起因となっている事象が特定できれば、異常が発生している可能性のある部品を絞り込むことができ、検査の対象が明確となって、最終的な異常部品の特定や整備・修理をするまでの作業効率化やスケジュール策定に役立たせることができる。
【0046】
具体的には、
図6に示すように、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の何れかの周波数帯で異常有りと判定された場合に、各周波数帯における異常の有無の組み合わせに従って、異常原因を、駆動用機器を構成する回転機械のアンバランス又はミスアライメント(芯ずれ)、駆動用機器を構成する部品間の締結部材の締め付け不良等に起因するゆるみ、軸受や歯車の潤滑不良等に起因する異常摩耗、およびモータ異常のうちの該当する異常原因を判別する。
【0047】
ここで、
図6に示すように、アンバランス又はミスアライメントは、低周波数帯について異常有りと判定された場合に判別される異常原因の1つである。アンバランスやミスアライメントに起因する異常振動は、回転機械の回転数に応じて低周波数側で変動する。例えば電気車の場合、モータの最大回転数は6000回転/min(最高回転周波数100Hz)程度であり、ディーゼル車の場合であれば、エンジンの最大回転数は2000回転/min(最高回転周波数33.3Hz)程度である。アンバランスではこの回転周波数に応じた振動が発生する。また、ディーゼル車のように動力伝達軸がユニバーサルジョイントを用いたカルダンシャフトでありミスアライメントがある場合には、回転周波数の2倍の振動が発生する。そこで、前段の周波数別データの分類ステップA31では、低周波数帯の上限閾値を50Hz〜100Hzの間の周波数として低周波数帯の分類を行う。本実施形態では、例えば、上限閾値を100Hzとする。また、高周波数帯の下限閾値については1kHzとし、中周波数帯および高周波数帯の分類を行う。
【0048】
即時診断の結果は、即時診断結果707(
図2を参照)として記録しておく。この即時診断結果707には、判定された各周波数帯の異常の有無および当該判定にあたり算出した異常度と、判別された異常原因とが設定される。
【0049】
以上説明した即時診断によれば、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯における異常の有無を判定し、その異常原因を判別することができる。これによれば、判別された異常原因を手がかりに駆動用機器を構成する該当部品の中から異常が発生している可能性のある部品を絞り込み、検査を行うことができる。具体的には、
図6に示すように、判別された異常原因が「アンバランス又はミスアライメント」を含む場合、外観検査や寸法検査を行う。また、「ゆるみ」を含む場合は打音検査を行い、「異常摩耗」を含む場合は摩耗粉分析を行い、「モータ異常」を含む場合はモータの調査を行う。そして、これら検査の結果をもとに、必要に応じた整備や修理を行うことができるので、発生した異常に対して適切かつ効率的に対処することが可能となる。
【0050】
なお、ここで説明した即時診断は、駆動用機器が定常状態であるときの振動データに基づくオクターブバンド分析結果のみを対象に行い、駆動用機器の動作が切り替わる過渡状態であるときのオクターブバンド分析結果については行わない構成としてもよい。
【0051】
例えば、時間的に前後のオクターブバンド分析結果を比較し、定常状態であるか否かを判断する。具体的には、あるオクターブバンド分析結果と、時間的に直前のオクターブバンド分析結果との差分を求め、その差分が所定の閾値以下であれば定常状態、閾値を超えるのであれば過渡状態と判断する。ここで、オクターブバンド分析結果同士の差分とは、オクターブバンド毎の振動実効値の差である。例えば、各オクターブバンドの振動実効値の差の二乗和の平方根が閾値を超える場合に、過渡状態と判断する。
【0052】
また、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の周波数帯毎の学習データを動作モード毎に用意しておくとしてもよい。そして、対象単位期間における動作モードに応じた学習データを参照し、各周波数帯における異常の有無を判定するとしてもよい。
【0053】
(3)1走行分診断
1走行分診断では、1回の走行を終えた後の適宜のタイミングにおいて、当該走行中の即時診断で算出した周波数帯毎の異常度を平均し、1走行分の平均異常度を周波数帯毎に算出する。そして、算出した平均異常度に従って各周波数帯における異常の有無を判定し、判定した各周波数帯の異常の有無に基づき異常原因を判別する。異常の有無の判定および異常原因の判別は、即時診断と同様に行うことができる。すなわち、平均異常度が正値であれば「異常有り」、負値であれば「異常無し」と判定する。そして、
図6に示した異常原因判別テーブルを用い、各周波数帯の異常の有無に基づいて異常原因を判別する。
【0054】
1走行分診断の結果は、1走行分診断結果717(
図2を参照)として記録しておく。この1走行分診断結果717には、判定された各周波数帯の異常の有無および当該判定にあたり算出した平均異常度と、判別された異常原因とが設定される。
【0055】
(4)診断結果の表示制御
異常診断装置5は、以上説明した即時診断および1走行分診断の各診断結果を表示部55等に表示する制御を行い、ユーザに提示する。また、即時診断や1走行分診断で算出した異常度の履歴を振動センサ3の設置箇所別に表示する制御を行う。
【0056】
図7は、設置箇所別異常度履歴画面W1の一例を示す図である。
図7に示すように、設置箇所別異常度履歴画面W1には、表示対象の振動センサ3の設置箇所について算出した異常度の履歴が、例えば日毎、週毎、および月毎の何れかを表示単位とする表形式で表示される。
図7では、表示単位として日毎を選択した場合の画面例を示している。
【0057】
この設置箇所別異常度履歴画面W1を表示するにあたっては、例えば日毎に異常度履歴を表示する場合であれば、先ず、表示対象の振動センサ3の設置箇所に係る即時診断結果をもとに各単位期間における異常度を低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の周波数帯毎に日単位で集計した平均値を算出し、周波数帯毎の各日付の日平均異常度とする。なお、1回の走行を1日の走行として診断を行っている場合には、当該設置箇所に係る1走行分診断で算出した平均異常度を日平均異常度として用いることができる。また、週毎や月毎の表示単位が選択された場合は、当該設置箇所に係る即時診断結果の週単位又は月単位の平均値を算出すればよい。
【0058】
続いて、算出した日平均異常度を閾値判定し、異常度の高低を例えば「異常無し」「異常度レベル低」「異常度レベル中」「異常度レベル高」の4段階で判別する。具体的には、日平均異常度が負値であれば「異常無し」とする。一方、日平均異常度が正値の場合については、例えば、予め異常度の取り得る値の範囲を3段階に分ける閾値を定めておく。ただし、3段階に限らず、2段階に分けるのでもよいし、4段階以上に分けるとしてもよい。そして、当該閾値を用いて日平均異常度を閾値判定し、その異常度の高低(「異常度レベル低」「異常度レベル中」および「異常度レベル高」の何れか)を判別する。
【0059】
日毎の異常度の高低を判別したら、設置箇所別異常度履歴画面W1において、各周波数帯の日平均異常度を該当する日付の表示欄に表示する。そしてその際に、表示欄の背景色を、当該日付の日平均異常度について判別した異常度の高低に応じた背景色とすることで、当該異常度の高低を識別表示する。
【0060】
この設置箇所別異常度履歴画面W1の表示によれば、各周波数帯における日毎等の異常度履歴を表示し、当該異常度履歴の表示において各異常度の高低を識別表示することができる。これによれば、ユーザは、日毎等の異常度と併せてその高低の変化を容易に把握することができる。また、各異常度がだんだんと高くなっていれば、その異常原因の事象が進行/悪化していると考えられることから、当該異常度履歴の表示から故障に至るまでの時間的な猶予を大まかに知ることができる。したがって、その鉄道車両9の整備や修理の時期を調整する等、生じている異常に対する対処を故障に至る前に確実に行うことができる。
【0061】
なお、異常度履歴の表示態様は、
図7に示した日毎や週毎、月毎等の平均値を表形式で表示する態様に限らず、例えば、日毎等の平均値を折れ線グラフにする等、グラフ化して表示するとしてもよい。
【0062】
また、即時診断で単位期間毎に算出した異常度の履歴を設置箇所別に表示することもできる。
図8は、各周波数帯における単位期間毎の異常度履歴の表示を含むランカーブ画面W2の一例を示す図である。
図8に示すように、ランカーブ画面W2は、異常度表示部W21と、ノッチ表示部W22と、回転数表示部W23と、走行速度表示部W24とを縦に並べて配置して構成され、当該1走行分の各周波数帯の異常度履歴を、ノッチ、回転数、および走行速度とともに同一の走行位置座標軸或いは同一の時間軸上に表示する。また、ランカーブ画面W2は、左右の走行位置座標軸方向に沿ってスライド自在なスライダーS2を有しており、当該スライダーS2上でその指し示す走行位置を走行したタイミングにおける各周波数帯の異常度、ノッチ、回転数、および走行速度の各値を表示する。なお、
図8では、スライダーS2上の表示を省略している。また、
図8は、鉄道車両9が気動車である場合のランカーブ画面W2を例示しており、回転数表示部W23には、エンジンの回転速度を示す機関回転数(実線)と、変速機の出力軸の回転数を示す軸回転数(破線)とが表示される。電気車の場合は、回転数表示部W23には、モータの回転数が表示される。
【0063】
また、異常度履歴の表示は、次のようにしてもよい。すなわち、周波数帯それぞれについて、1日や1週間といった所定の単位時間、或いは、1回の走行や1回の車両運用といった所定の走行単位の間に、即時診断において異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示する。
【0064】
異常振動検知の検証のために実施したエンジンの異常摩耗試験における異常発生率を履歴的に示した図を
図9に示す。この異常摩耗試験は、エンジンの潤滑油にセラミック粉末(SiC:炭化ケイ素)を段階的に混入して、異常摩耗が進行/悪化していく過程を模擬した試験である。SiC粉末を段階的に混入していくことは、SiC粉末の濃度が時間経過とともに増大していくこと、つまりは異常摩耗が進行/悪化していく時間経過を意味する。また、SiC粉末の濃度が0.5%の段階に達した後、エンジンを分解調査したところ、エンジンの継続使用が許容されない、故障した状態であることが確認された。
【0065】
異常発生率とは、上述した実施形態の即時診断と同じ診断を行って異常有り(=異常度が正値)と判定された回数の割合である。異常度の数値的な大きさは不問である。SiC粉末の濃度が同じ各段階において、即時診断を行ったうちの異常有りと判定された回数の割合が、異常発生率である。低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の3つの周波数帯別に異常発生率を算出した。
【0066】
この結果、
図9に示す通り、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の何れにおいても、概ね、SiC粉末の濃度が高くなるに従って異常発生率が上昇していく傾向があることが分かった。例えば、回転機械等においては、ある瞬間に異常有りと判定されたとしても、次の瞬間には異常振動が収まって異常無しと判定される場合がある。しかし、SiC粉末の濃度が高くなると、すなわち異常摩耗が進行/悪化していくと、異常振動の発生頻度が上昇し、最終的に異常振動が収まることなく発生し続ける(=異常発生率100%になる)ことが分かった。異常摩耗が進行/悪化していくことを示す指標として、上述した平均異常度や日平均異常度も有用であるが、この異常発生率も有用であると言える。
【0067】
また、周波数帯に応じて、異常有りと判定され始めた早期に異常発生率が上昇し易い周波数帯か、故障に近づいた終期に異常発生率が上昇し易い周波数帯かといった、異常発生率の上昇傾向に違いがあることも分かった。但し、振動センサ3の設置箇所や、診断対象の機器によっては、この上昇傾向に違いが生じ得る。
【0068】
異常発生率の表示方法は適宜考えられるが、履歴的な表示であることが重要である。例えば、
図9の横軸は、そのまま時間経過と読み替えることができるため、
図10に示す異常発生率表示画面W3のように表示することができる。横軸は、1日や1週間といった所定の単位時間、或いは、1回の走行や1回の車両運用といった所定の走行単位を1目盛りとした時間軸とすることができる。この異常発生率表示画面W3は、異常度履歴表示の一例である。
【0069】
各周波数帯の異常発生率を履歴的に表示することで、異常発生率がだんだんと高くなっていれば、その異常原因の事象が進行/悪化していると考えられることから、故障に至るまでの時間的な猶予を大まかに知ることができる。したがって、その鉄道車両9の整備や修理の時期を調整する等、生じている異常に対する対処を故障に至る前に確実に行うことができる。
【0070】
なお、
図10では異常発生率の表示態様を棒グラフとしたが、折れ線グラフで表示するとしてもよい。また、振動センサ3の設置箇所や、診断対象の機器が複数ある場合には、切り替えて表示することとすると好適である。また、異常発生率に閾値を設けて、異常発生率がこの閾値以上となった場合に、警告や注意を促す表示や音を報知出力するようにしてもよい。この場合、どの周波数帯の異常発生率が閾値条件を満たしたかを併せて報知すると好適である。
【0071】
また、異常発生率を算出する際に、所定の単位時間あるいは所定の単位走行の全てのデータを対象とするのではなく、所定の動作モードで機器が動作していた際のデータのみを対象として異常発生率を算出してもよい。異常の種類によっては、所定の動作モードで機器が動作している場合のみ異常振動が発生する場合がある。そのような場合には、その所定の動作モードで機器が動作していた際のデータのみを対象として異常発生率を算出することが好適である。
【0072】
〔機能構成〕
図11は、異常診断装置5の機能構成例を示すブロック図である。
図11に示すように、異常診断装置5は、操作入力部51と、処理部53と、表示部55と、音出力部57と、通信部59と、記憶部60とを備え、一種のコンピュータとして構成される。
【0073】
操作入力部51は、必要な各種操作を入力するためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現できる。
【0074】
処理部53は、例えばCPU等の演算装置で実現され、操作入力部51や記憶部60を含む装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、処理部53は、記憶部60に格納されたプログラムやデータ、操作入力部51からの操作入力信号、通信部59を介して外部から受信したデータ等に基づいて各種の演算処理を行い、異常診断装置5を構成する各部への指示やデータ転送を行って異常診断装置5を統括的に制御する。
【0075】
また、処理部53は、オクターブバンド分析部531と、周波数帯分類部535と、異常判定部541と、異常原因判別部547と、異常度履歴表示制御部549とを含む。
【0076】
オクターブバンド分析部531は、振動センサ3によって検知された振動データに対して所定のフィルタ処理を行うことでオクターブバンド分析を行い、所定の単位期間毎にオクターブバンド毎の振動実効値を算出する。
【0077】
周波数帯分類部535は、即時診断の実施に当たり、オクターブバンド分析部531による単位期間毎のオクターブバンド分析結果を、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯の周波数帯別データに分類する。
【0078】
異常判定部541は、即時診断時判定部543と、1走行分診断時判定部545とを備える。即時診断時判定部543は、対象単位期間における振動データが正常なのか異常なのかを周波数帯毎に判定する。具体的には、即時診断時分類部537によって分類された周波数帯別データのそれぞれについて対応する周波数帯の学習データ63(631,633,635)に適合するか否かを判定し、各周波数帯における異常の有無を判定する。また、1走行分診断時判定部545は、1回の走行中の即時診断で算出した周波数帯毎の異常度を平均し、当該1走行分の平均異常度の符号の正負に応じて各周波数帯における異常の有無を判定する。
【0079】
異常原因判別部547は、即時診断の実施に当たり、即時診断時判定部543によって判定された周波数帯それぞれの異常の有無に基づいて、異常原因判別テーブル65に従って異常原因を判別する。また、1走行分診断の実施にあたり、1走行分診断時判定部545によって判定された周波数帯それぞれの異常の有無に基づいて、異常原因判別テーブル65に従って異常原因を判別する。
【0080】
異常度履歴表示制御部549は、即時診断で算出した各周波数帯の異常度を日毎等の表示単位に従って平均して用い、異常度を履歴的に表示する制御を行う。またその際、異常度の高低を判別し、当該異常度履歴の表示において、判別した異常度の高低を識別表示する。
【0081】
また、異常度履歴表示制御部549は、
図10を参照して説明したように、周波数帯それぞれについて、即時診断の周期よりも時間的に長い、1日や1週間といった所定の単位時間、或いは、1回の走行や1回の車両運用といった所定の走行単位の間に、即時診断において異常有りと判定された回数の割合を履歴的に表示する制御を行うこととしてもよい。
【0082】
表示部55は、処理部53からの表示信号に基づく各種表示を行う。例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等で実現できる。音出力部57は、処理部53からの音信号に基づく各種音出力を行う。例えば、スピーカ等で実現できる。
【0083】
通信部59は、外部装置との間でデータ通信を行う。例えば、無線通信機、モデム、TA(ターミナルアダプタ)、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等によって実現できる。
【0084】
記憶部60には、異常診断装置5を動作させ、異常診断装置5が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め格納され、或いは処理の都度一時的に格納される。例えば、RAMやROM等のICメモリ、メモリカードやUSBメモリ、ハードディスク等の磁気ディスク、CD−ROMやDVD等の光学ディスク等によって実現できる。この記憶部60には、診断プログラム61と、学習データ63と、異常原因判別テーブル65と、1走行分データ66と、診断結果データ69とが格納される。
【0085】
診断プログラム61は、処理部53をオクターブバンド分析部531、周波数帯分類部535、異常判定部541、異常原因判別部547、および異常度履歴表示制御部549として機能させるためのプログラムである。
【0086】
学習データ63は、学習データ[低周波数帯(正常)]631と、学習データ[中周波数帯(正常)]633と、学習データ[高周波数帯(正常)]635とを含む。
【0087】
異常原因判別テーブル65は、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯における異常有無の組み合わせに対応する異常原因を定めたデータテーブルである(
図6を参照)。
【0088】
1走行分データ66には、1回の走行中においてオクターブバンド分析部531が単位期間毎に生成した分析結果データ68が当該1回の走行毎に蓄積される。1走行分データ66には、その走行日時661と、振動センサ3の設置箇所662と、当該1走行分データ66を識別する1走行分データ番号663とが併せて設定される。また、蓄積される分析結果データ68の各々は、単位期間681と、オクターブバンド分析結果682と、走行速度683と、回転数685と、動作モード686とを含む。なお、走行中にオクターブバンド分析は行わず、振動データの記録のみを行う場合には、オクターブバンド分析結果682にかえて、対応する単位期間681における振動データを記録しておく。
【0089】
診断結果データ69は、1回の走行中に得た単位期間毎の即時診断結果707(
図2を参照)を走行日時701や振動センサ3の設置箇所703、1走行分データ番号705と対応付けて時系列順に蓄積した即時結果群70と、1回の走行毎の1走行分診断結果717(
図2を参照)を走行日時711や振動センサ3の設置箇所713、1走行分データ番号715と対応付けて格納した1走行分結果群71とを記憶する。
【0090】
〔処理の流れ〕
異常診断装置5は、単位期間毎に即時診断に係る処理(即時診断処理)を実行するとともに、1回の走行を終えた後、1走行分診断に係る処理(1走行分診断処理)を実行する。また、所定の表示指示操作を受け付けて、異常度履歴の表示制御を含む診断結果の表示制御に係る処理(診断結果表示制御処理)を実行する。なお、これらの処理は、処理部53が診断プログラム61を読み出して実行することによって実現される。
【0091】
(1)即時診断処理
図12は、即時診断処理の流れを示すフローチャートである。即時診断処理では、所定の診断開始タイミングとなった場合に(ステップS1:YES)、オクターブバンド分析部531が振動センサ3からの振動データを用いたオクターブバンド分析を開始する(ステップS3)。ここでの処理により、単位期間毎にオクターブバンド分析結果682が得られ、当該単位期間681における走行速度683、回転数685、および動作モード686と対応付けた分析結果データ68が生成されて今回の走行に係る1走行分データ66に蓄積されていく。
【0092】
ここで、診断開始タイミングは、例えば、停車駅から出発進行した後、所定時間(例えば5秒)が経過したタイミングとすることができる。ただし、これに限らず、ノッチ(力行ノッチおよび/又はブレーキノッチ)が所定ノッチとなった時や、だ行走行時であるといった、運転操作が所定の運転操作条件を満たしたタイミングとしてもよい。また、別途走行位置を算出する算出装置を車上に設置し、所定の位置条件(例えば予め定められたキロ程位置)を満たす位置を通過したタイミングを診断開始タイミングとすることもできる。
【0093】
オクターブバンド分析を開始したならば、当該オクターブバンド分析の単位期間毎にループLの処理を行う(ステップS5〜ステップS17)。すなわち、ループLでは先ず、即時診断時分類部537が、対象単位期間のオクターブバンド分析結果682を、低周波数帯、中周波数帯、および高周波数帯の各周波数帯の周波数帯別データに分類する(ステップS9)。そして、周波数帯別データのそれぞれを表す各周波数帯の特徴ベクトル、例えば、周波数帯別データとして分類されたオクターブバンドの振動実効値を要素とする特徴ベクトルを、対応する周波数帯に係る特徴ベクトルとして得る(ステップS11)。
【0094】
続いて、即時診断時判定部543が、各周波数帯の特徴ベクトルのそれぞれについて対応する周波数帯の学習データ63に適合するか否かを判定し、各周波数帯における異常の有無を判定する(ステップS13)。具体的には、上記式(1)や式(6)に従って周波数帯毎の異常度を算出し、その符号の正負に応じて各周波数帯の異常の有無を判定する。
【0095】
そして、異常原因判別部547が、ステップS13で判定した各周波数帯の異常の有無の組み合わせに従い、当該組み合わせに該当する異常原因を、異常原因判別テーブル65を参照して判別する(ステップS15)。
【0096】
(2)1走行分診断処理
図13は、1走行分診断処理の流れを示すフローチャートである。1走行分診断処理では、先ず、1走行分診断時判定部545が、診断対象の1回の走行分の即時診断結果707に設定されている各周波数帯の異常度を周波数帯毎に平均し、各周波数帯の平均異常度を算出する(ステップS21)。そして、算出した平均異常度の符号の正負に応じて各周波数帯における異常の有無を判定する(ステップS23)。その後、異常原因判別部547が、ステップS23で判定した各周波数帯の異常の有無の組み合わせに従い、当該組み合わせに該当する異常原因を、異常原因判別テーブル65を参照して判別する(ステップS25)。
【0097】
(3)診断結果表示制御処理
診断結果表示制御処理では、異常度履歴表示制御部549が、即時診断処理において算出した周波数帯毎の異常度の履歴を振動センサ3の設置箇所別に表示する制御を行う。具体的には、
図12のステップS13で算出した各単位期間における周波数帯毎の異常度を例えば日毎に平均して日平均異常度を算出し、算出した日平均異常度を日付順に並べて表示することで日毎の異常度履歴を表示制御する。また、異常度履歴表示制御部549は、算出した日平均異常度を閾値判定し、その異常度の高低を判別する。そして、異常度履歴の表示において、判別した異常度の高低を識別表示する。
【0098】
また、診断結果表示制御処理では、その他にも、即時診断処理において
図12のステップS15で判別された異常原因を、ステップS13で判定された異常の有無と併せて表示部55に表示する制御を行う。また、1走行分診断処理において
図1のステップS25で判別された異常原因を、ステップS23で判定された異常の有無と併せて表示部55に表示する制御を行う。その際、別途音出力部57から所定の報知音を音出力する構成としてもよい。
【0099】
以上説明したように、本実施形態によれば、鉄道車両に生じた異常を検知してその異常原因を判別することができる。
【0100】
なお、上記実施形態では、
図1において1台の台車に振動センサ3を設置した例を示したが、振動センサ3を、全ての台車に設置する等、駆動用機器単位で設置するとしてよい。またその場合、異常診断装置5の装置構成は、
図1に示した単体の構成に限らず、機能を分担する複数台のコンピュータで実現するとしてもよい。例えば、オクターブバンド分析に係る処理を行う端末装置を振動センサ毎に設置するとともに、各端末装置におけるオクターブバンド分析結果に基づいて、振動センサ3が設置された台車別に、即時診断や1走行分診断、時系列診断を行う中央装置を別途設置する構成としてもよい。その場合、中央装置は、車庫等の地上に配置することとして、鉄道車両9が、中央装置が配置された車庫等に位置した場合に、鉄道車両9に設置された端末装置と通信を行って、オクターブバンド分析結果を取得する構成とすることができる。また、保守員が、メモリカード等の記憶媒体を介して、端末装置から中央装置へ、オクターブバンド分析結果のデータを手動で移動させることとしてもよい。
【0101】
また、走行中に振動データの記録のみを行う場合は、鉄道車両9に搭載された異常診断装置5が、夜間等の運行終了後においてオクターブバンド分析や即時診断に相当する状態診断、1走行分診断、時系列診断に係る処理を行うのでもよいし、記録した振動データを地上(車外)に設置された異常診断装置が処理し、オクターブバンド分析や各種診断に係る処理を行う構成でもよい。