(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電極触媒が、酸素発生反応(OER)触媒、酸素還元反応(ORR)触媒、水素発生反応(HER)触媒、及び/又はエレクトロクロリネーション触媒である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
電極触媒及びガラスフリットを含有する電極調製物を基材に塗布すること、並びに電極調製物を焼成することを含む、電気化学セルのための電極の製造方法であって、電極調製物が、少なくとも10重量%のガラスフリットを含み、ガラスフリットが実質的に鉛を含まず、電極上のガラスの担持量が少なくとも0.2mg/cm2であり、焼成工程が、ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を120℃超えない温度まで加熱することを含む、方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴を、これより示す。本発明のあらゆる態様は、文脈上他のことが要求されていない限り、本発明のあらゆるその他の態様と組み合わせることができる。文脈上他のことが要求されていない限り、ある態様の好適な及び/又は任意選択的な特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせで、本発明の任意の態様と組み合わせることができる。
【0018】
本発明の電極材料は、ガラス及び電極触媒を有する。ガラスは通常、電極触媒を基材に結合させる固体ガラス相を形成する。固体ガラス相は通常、電極触媒の少なくとも一部を取り囲んで、電極触媒を基材に結合させる。例えば、固体ガラス相は、実質的に連続相であってよい(エマルションの連続相と同様)。しかしながら本発明者らは、電極触媒が、ガラス内に完全には包み込まれていないことが重要であると考える。言い換えると、本発明の電極材料は、露出した電極触媒を有する。「露出した電極触媒」という用語は、ガラス内に完全には包み込まれていない電極触媒を含むことが意図されている。それは例えば、電極材料の電解質側表面であってよく、かつ/又は細孔が存在する場合には、電極材料の細孔内であり得る。「電解質側表面」とは、電気化学セルにおいて電極を通常使用する間、電解質に対して露出している電極材料の外部表面を指すことが意図されている。
【0019】
電極触媒及びガラスを含有する電極材料は、多孔質であるか、又は実質的に細孔を含まないことがある。幾つかの実施態様では、電極材料が実質的に細孔を含まないことが、好ましいこともある。固体ガラス相のバルク内に小さな溝又は細孔が存在することがあり、これらは例えば、焼成工程の間にガラスフリットが完全に融着していない場合に存在し得ることが、当業者であれば理解できるだろう。
【0020】
固体ガラス相は通常、基材上のガラスを加熱することによって形成され、これによってガラスフリットが融着し、電極触媒が基材に結合される。本発明者らは、加熱処理工程の間に、ガラスが電極触媒の表面を完全には濡らさないことが有利であると考える。これによって電極触媒材料が、露出した電極触媒を含むことが保証される。さらに、不完全な濡れによって、露出した(電解質側)表面にピット又は細孔を有する材料につながると考えられる。これによって、露出電極触媒の表面積を増加させることができ、これにより平滑な表面と比べて、活性を強化することができる。電極の露出表面にある細孔/ピットはSEMにより、例えば
図5のように観察できる。
【0021】
電極触媒を基材に効果的に結合させるため、ガラスは通常、電極触媒と接触していることが、当業者には分かるだろう。しかしながら、加熱の間に電極触媒の表面を、ガラスが完全には濡らさない場合、ガラスが電極触媒から離れている領域が、(電極材料の表面、又は電極材料内部に)存在し得る。電極材料が、基材上に層を形成することが好ましい。電極材料の層(例えば電極材料の連続層)が、電気化学セルにおいて電極を通常使用する際に、基材と電解質とが直接接触することを妨げるためのバリアを形成することが好ましい。
【0022】
本発明による1つ又は複数の焼成工程では通常、ガラスが焼結から巨視的な流動性へと移行を始める温度をやや超える温度に、例えばガラスが巨視的な流動性を示し始める温度をやや上回る温度に、ガラスを加熱する。このような温度では、溶融ガラスは粘稠度が高く、ゆっくりと流れる。何らかの理論に結びつけるつもりはないが、このようにゆっくりとした流動性、粘稠状態では、溶融ガラスが電極触媒の表面を完全に濡らさないのだろうと、本発明者らは考えている。
【0023】
本発明による方法では通常、焼成は適切な温度で、ガラスフリットが融着して固体ガラス相を形成可能ではあるが、電極触媒が完全には包み込まれない適切な時間にわたって、焼成を行う。この条件は、使用するガラスの溶融性に従って異なる。通常は、ガラスが焼結から巨視的な流動性へと移行を始める温度をやや超える温度に、例えば巨視的な流動性を示し始める温度をやや上回る温度に、ガラスを加熱する。当業者であれば、例えばホットステージ顕微鏡試験を用いて、ガラスが焼結し始める温度、焼結から巨視的な流動性への移行、及びガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を直ちに観察することができる。ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度は、ガラスが溶融状になり、流動化を始める最低温度である。
【0024】
ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度は、ホットステージ顕微鏡試験を用いて、例えばガラスフリットのペレットを徐々に加熱して、加熱した際のその溶融特性を観察すると、観察できる。このような実験からの例示的なプロットが、
図1に示されている(以下の実施例で使用したフリット1についての図)。加熱プロフィールは、
図1に示したように4つのゾーンに分けることができる。ゾーン1では、ペレットを加熱するにつれて、三次元的な変化は観察されない。ゾーン2では、ガラスは焼結を始め、ガラスフリットのペレット高さが減少する。ゾーン3は、焼結から巨視的な流動性への移行部である。ゾーン4が始まると、ガラスは巨視的な流動性を示し始める。
図2は、焼結の終了時のペレットのイメージを示し、右側にある第二のイメージは、巨視的な流動性の開始時を示す。巨視的な流動化が起こると、ペレットの角が丸くなる。巨視的な流動化が進行するにつれて、溶融ガラスだまりの形成が、ペレットの底部で始まる。
【0025】
電極の焼成は通常、ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を120℃超えない温度で行う。この焼成は、ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を100℃超えない温度、又はガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を75℃で超えない温度で、行うことができる。この焼成は通常、ガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を200℃下回る温度よりも高い温度で、例えばガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を25℃下回る温度よりも高い温度で、又はガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度よりも高い温度で、行うことができる。
【0026】
例えば、特定のガラスについては、加熱を約600℃〜約830℃の範囲にある温度で行うことができる。焼成温度は例えば、少なくとも600、650、680、又は700℃であり得る。この温度は、850℃以下、820℃以下、800℃以下、又は780℃以下であり得る。しかしながら当業者であれば、選択された温度は、ガラスフリットの溶融特性によることを理解できるだろう。
【0027】
焼成工程についてここに挙げた温度は、焼成工程の間にガラスが到達する温度である。
【0028】
例えば加熱時間が非常に短い場合(例えば1分以下、例えば30秒以下)、及び/又は焼成工程を不活性雰囲気で行う場合には、より高い温度、例えばガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を最大300℃又は400℃超える温度を用いることが可能だとも考えられる。加熱時間が非常に短い場合、電極触媒が完全に包み込まれることなくガラスが融着して、固体のガラス相を形成すると本発明者らは考えている。
【0029】
焼成工程は通常、空気中で行う。しかしながら、基材を酸化させる能力を低下させた雰囲気において、例えば窒素又はアルゴン中で酸素を10体積%未満含有する雰囲気で、焼成工程を行うのが好ましいこともある。あるいは、焼成工程を非酸化性雰囲気、例えば不活性雰囲気中で行うこともできる。これは、焼成温度が800℃を超える場合に、特に好ましいことがある。
【0030】
焼成工程は通常、約2分〜約10分にわたって続く。焼成工程は、少なくとも2分、少なくとも5分、又は少なくとも10分であり得る。焼成工程は、10時間以下、8時間以下、5時間以下、3時間以下、2時間以下、又は1時間以下であり得る。より多くのガラスが存在する場合、通常はより長い焼成時間が必要になる。例えば、ガラスが30重量%以上存在する場合、焼成時間は、少なくとも10分、少なくとも15分、又は少なくとも20分であり得る。
【0031】
ここで論じるように、DSAを製造するための従来の方法とは対照的に、電極材料の各層を塗布する間に、電極を焼成する必要はない。従って本方法は、3回若しくはそれより少ない、又は2回若しくはそれより少ない焼成工程を含むのが、好ましいこともある。好ましい実施態様において、電極の製造方法は、1回の焼成工程を含む。1回より多い焼成工程を含む場合、ここに論じた焼成工程の好ましい特徴は、各工程について独立して当てはまる。
【0032】
高温及び/又は長い加熱時間によって、基材の表面における酸化物の形成が著しく増加し、これによって電極材料と基材との間の接触抵抗が著しく増大し、電極の性能に不利な影響をもたらす。これは、基材を酸化させる能力を減少させた雰囲気において、例えば窒素又はアルゴン中で酸素を10体積%未満含有する雰囲気で、又は非酸化性雰囲気、例えば不活性雰囲気で加熱工程を行うことにより、回避できる。
【0033】
焼成温度が低すぎる場合、ガラスフリットは充分に融着しないため、基材に対する付着性及び接着性が不充分になる。こうした状況において電極材料の層は通常、高度に多孔質である。このように電極材料層の融着度が不充分であることにより、使用時に電解質が基材と接触してしまい、これによって基材の腐食及び/又は基材の陽極処理につながり、抵抗が増加し得る。これらの要因はともに、電極の耐久性及び活性に対して不利な影響をもたらし得る。よって、電極材料が基材の表面にバリアを形成し、これによって、電気化学セルにおいて電極を通常使用する際に、電解質と基材との接触が妨げられることが好ましい。
【0034】
幾つかの実施態様では電極が、ここに記載した、又はここに規定した方法により得られたもの、又は得ることができるものであり得る。電極は特に、電極触媒及びガラスフリット(及び任意選択的に液状媒体)を含有する電極調製物を焼成することによって得られたもの、又は得ることができるものであり得る。焼成は通常、ここに記載又は規定したように行う。
【0035】
電極は通常、基材の表面にある電極材料の層又はコーティングの形態である。電極材料の厚さは通常、1μm〜100μmの範囲にある。例えば、電極材料の層は、少なくとも1、2、5又は10μmの厚さを有することができる。この層は、200μm以下、150μm以下、100μm以下、又は70μm以下、又は50μm以下であり得る。この層は通常、基材の表面にバリアを形成するために充分な厚さであり、これによって電気化学セルにおいて電極を通常使用する際に、電解質と基材との接触が妨げられる。
【0036】
電極におけるガラスの担持量は通常、少なくとも0.2mg/cm
2である。この担持量は、少なくとも0.3、0.5、0.6、0.8、1、2、又は3mg/cm
2であり得る。ガラス担持量について特に上限はないが、20mg/cm
2以下、例えば15mg/cm
2以下、10mg/cm
2以下、6mg/cm
2以下、又は5mg/cm
2以下であり得る。ガラスの担持量は、電極触媒担持量から、ガラスの、基材に塗布する電極触媒に対する比率を基準にして、計算することができる。
【0037】
基材の性質は、本発明では特に限定されない。基材は、導電性である。基材は、それ自体の表面に酸化物コーティングを有することができるが、このコーティングは導電性であり得る。幾つかの実施態様では、基材が酸化物層を有さないこと、例えば基材が、意図的に加えられた酸化物層を有さないこと、及び/又は自然の酸化物層のみを有することが好ましいこともある。別の場合、予備成形された酸化物層、例えば熱により成長させた酸化物層、又は堆積させた酸化物層を有することが好ましいこともある。意図的に加えられた酸化物層はいずれも、導電性であり得る。基材は通常、金属である。基材は通常、電気化学セルで用いられる条件、例えば水性NaClの存在下で、すぐには腐食されない。基材は好ましくは、チタンである。その他の適切な基材材料には、ステンレス鋼、ジルコニウム、ニオブ、及びタンタルが含まれる。
【0038】
電極触媒の性質は、本発明では特に限定されない。電極触媒は通常、導電性である。電極触媒は通常、酸素発生反応(OER)触媒、酸素還元反応(ORR)触媒、水素発生反応(HER)触媒、及びその他の電気分解触媒、例えばエレクトロクロリネーション触媒(これは塩素発生反応(CER)触媒と考えることもできる)のうち1つ以上として、活性である。電極触媒は通常、金属酸化物(例えば単独の金属酸化物、又は混合金属酸化物)であり得る。例えば、電極触媒は、1種又は複数の白金族金属の酸化物を含有することができ、例えばルテニウム、イリジウム、パラジウム及び白金の酸化物から成る群から選択される1種又は複数のものを含有することができる。その他の適切な材料には、白金族金属(例えば金属粉末)及び酸化スズが含まれる。電極触媒は、1種又は複数のさらなる成分、例えば金属又は金属酸化物によってドープされていてよい。電極触媒は、2種又はそれより多い異なる電極触媒の混合物を含有することができる。
【0039】
エレクトロクロリネーションのために特に適したアノード触媒には、金属イリジウム、イリジウム酸化物、金属パラジウム、金属ルテニウム、及びルテニウム酸化物、及びこれらの混合物(混合酸化物含む)が含まれる。エレクトロクロリネーションのために特に適したカソード材料には、金属白金、金属ルテニウム、金属ロジウム、金属イリジウム、及び金属パラジウム、並びにこれらの混合物が含まれる。
【0040】
電極触媒は通常、予備成形された触媒、例えば電極触媒材料の粒子として、電極調製物中で提供される。これは、電極触媒前駆体が提供され、電極触媒を前述のようにその場で(in situ)形成する従来のDSA型電極とは、対照的である。このことによって、電極触媒特性(例えば組成及び形状)についてより高度な制御が可能になり、これによって電気化学的な性能を調整及び最適化することができるので、このことは本発明の大きな利点である。
【0041】
電極触媒は通常、電極材料調製物中で粒子の形態で提供される。粒子は通常、約50nm〜約20μm(例えば約10μmまで)の範囲にある一次粒径D50を有するが、このことは本発明において特に制限されない。D50粒径は、レーザ光散乱式粒径分析によって、例えばMalvern Instruments Ltdの装置Mastersizer 3000(登録商標)を用いて、特定することができる。
【0042】
電極材料は通常、電極触媒を少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、又は少なくとも35重量%、含有する。電極材料は通常、電極触媒を90重量%以下、例えば85重量%以下、含有する。幾つかの実施態様(例えばガラスフリットを高い水準で含む場合)において、電極材料は80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、又は40重量%以下、電極触媒を含有することができる。
【0043】
電極材料における電極触媒の含有量は、電極材料を製造するために使用される電極調製物の固形分における電極触媒の含有量に等しいと想定することができる。電極における電極触媒の担持量は通常、少なくとも0.1mg/cm
2である。この担持量は、少なくとも0.2、0.3、0.4又は0.5mg/cm
2であり得る。幾つかの実施態様において、電極における電極触媒の担持量が通常、少なくとも0.6、0.7、0.8、0.9又は1mg/cm
2であることが好ましいこともある。電極触媒担持量について特に上限はないが、20mg/cm
2以下、例えば10mg/cm
2以下、5mg/cm
2以下、又は3mg/cm
2以下であり得る。
【0044】
電極触媒の担持量は、X線蛍光分析(XRF)によって特定でき、当業者であればこれに馴染んでいるだろう。XRFが、高エネルギーX線にさらされた材料から放射される特徴的な二次蛍光X線に関連するものであることは、当業者であれば分かるだろう。各元素は、蛍光線について特徴的なエネルギーを有する。特定の元素について、この元素について特徴的なエネルギーにおけるX線シグナル強度により、既知の基準と比較することで、存在する原子の量を定量的に特定することができる。XRF用相装置のうち適切なものの1つが、Fischerscope(登録商標)X−ray XDV(登録商標)−SDD装置である。触媒の担持量は、装置のソフトウェア内に搭載されたstandardless ファンダメンタル・パラメータ(FP)法により、定量的に特定することができる。使用するX線の励起強度によって、電極材料の層の全体の厚さから、また基材から、シグナルを記録することができる。
【0045】
前述のように、電極触媒は通常、電極材料を通じた電極触媒の相互接続ネットワークを形成する。言い換えると、電極触媒は、電極材料全体に行き渡っている。通常、電極触媒の相互接続ネットワークは、電極材料層の電解質側表面から、基材と電極材料との間にある界面へと延びる。このことは、使用時に電解質から基材への電気的な接続をもたらすために重要である。相互接続ネットワークは、電極材料における電極触媒の粒子同士の物理的な接触から単純に生じ得るか、又は電極製造の間(例えば焼成工程の間)に、電極触媒材料が融合又は焼結することから生じ得る。
【0046】
ガラスの化学的な性質は、本発明では特に限定されない。何らかの理論に結び付けるつもりはないが、ガラスは、電極を製造又は使用するに際して用いられる条件下で、電極触媒と実質的に反応しないことが通常は好ましいと、本発明者らは考えている。通常、ガラスは電解質に(例えば塩水に)実質的に不溶性であることが、好ましい。ガラス自体は実質的に電解質に溶解しないことが好ましく、ガラス成分が電解質中にごく僅かしか溶出しないことが好ましい。
【0047】
ガラスは、毒性があると考えられる成分を含まないことが好ましいこともある。例えば、ガラスは実質的に鉛を含まないことが、好ましいこともある。例えば、ガラスは実質的にクロムを含まないことが、好ましいこともある。これは特に、電気化学セルが、(例えばエレクトロクロリネーションにより)水の浄化又は殺菌で使用するためのものである場合に、好ましいことがある。
【0048】
ここで使用するように、「実質的にXを含まない」とは、ガラスが、意図的に添加されたX(例えば鉛又はクロム)を含まないことを意図している。例えば、ガラスはXを0.1重量%未満、例えば0.05重量%未満、0.01重量%未満、又はXを0.005重量%未満、含有することができる。
【0049】
本発明で使用するガラス系は、特に限定されない。ガラス系は、ケイ酸塩ガラス(この中にはガラス形成剤として二酸化ケイ素が存在する)に、又はホウケイ酸塩ガラス(この中にはガラス形成剤として二酸化ケイ素及び三酸化ホウ素が存在する)に基づくものであってよく、これらは化学的な腐食に対して耐性がある。ガラスは好ましくは、二酸化ケイ素を少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも50重量%、含有する。ガラス組成物は、金属酸化物のあらゆる適切な組み合わせを含有することができる。典型的な酸化物は例えば、亜鉛、鉛、ビスマス、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、ホウ素、リチウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、スズ、マグネシウム、リン、セリウム、ストロンチウムの酸化物から選択することができる。ガラスは任意選択的に、遷移金属酸化物、例えば銅、コバルト、マンガン、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、及び鉄の酸化物を含有することができる。ガラスは、流動性を最適化するために、フッ化物を含有することができる。
【0050】
純粋なフリット/フリット混合物に加えて、電極材料/電極調製物は任意選択的に、充填材を含有することができる。充填材は好ましくは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、コーディエライト、ケイ酸亜鉛のうち少なくとも1つのものであり、充填材はしばしば、ガラスの熱膨張性を調整して基材の熱膨張性に近づけ適合させるために適した材料であるように、選択される。充填材は任意選択的に、ガラス材料に対して0〜40体積%の量で添加する。
【0051】
以下の実施例で示すように、幾つかの実施態様では、ガラスが耐酸性を有することが好ましい。これは、電極がアノードである場合に、特に好ましいことがある。ガラス(例えば電極を作製するために使用されるようなガラスフリットの形態のもの)は、以下のような耐酸性を有するのが好ましい:1MのHClに12時間(例えば25℃で)さらした場合、フリット質量の50%未満、好ましくはフリット質量の25%未満、フリット質量の20%未満、フリット質量の15%未満、フリット質量の10%未満、又はフリット質量の5%未満しか、フリットが失われない耐酸性。これは、以下の実施例に示す耐酸性試験によって特定できる。
【0052】
ガラスフリットの粒子は通常、約50nm〜約20μm(例えば約10μmまで)の範囲にある一次粒径D50を有するが、このことは本発明において特に制限されない。D50粒径は、レーザ光散乱式粒径分析によって、例えばMalvern Instruments Ltdの装置Mastersizer 3000(登録商標)を用いて、特定することができる。
【0053】
幾つかの実施態様では、例えばカソード電極として使用する場合、ガラスが耐アルカリ性であることが好ましいこともある。
【0054】
ガラスは、基材の熱膨張係数(CTE)に適合した熱膨張係数(CTE)を有するのが好ましい。例えばチタン基材について、ガラスの好ましいCTEは、70×10
−7/℃〜100×10
−7/℃、例えば80×10
−7/℃〜90×10
−7/℃である。ガラスのCTEは通常、基材のCTEと±20%以下、例えば±10%以下、異なる。
【0055】
電極材料は通常、ガラスを少なくとも10重量%、例えば少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%、含有する。幾つかの実施態様では、電極材料が、ガラスを少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、又は少なくとも50重量%、含有することが好ましいこともある。通常、電極材料はガラスを、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、又は65重量%以下、含有する。幾つかの実施態様では、電極材料はガラスを60重量%以下、55重量%以下、又は50重量%以下、含有することができる。電極材料におけるガラスの含有量は、電極材料を製造するために使用される電極調製物の固形分におけるガラスフリットの含有量に等しいと想定することができる。
【0056】
本発明による電気化学セルのための電極の製造方法では、電極触媒及びガラスフリットを含有する電極調製物を、基材に塗布する。この調製物は通常、さらなる媒体、例えば液状媒体を含有する。よってこの調製物は通常、ペースト又はインクの形態である。媒体の性質は特に制限されない。媒体は例えば、水性又は有機の媒体であり得る。媒体は通常、適切な分散性とともに、基材に塗布する電極調製物に応じたチキソトロピー特性をもたらすために選択される。例えば当業者であれば、ペースト及びインクを印刷(例えばスクリーン印刷)するための適切な媒体について、分かっている。電極調製物は、添加剤、例えば結合剤、分散剤、及びレオロジー調整剤を含有することができる。
【0057】
基材に調製物を塗布するやり方は、本発明では特に制限されない。例えば調製物は、印刷によって、例えばスクリーン印刷(回転式スクリーン印刷含む)又はインクジェット印刷によって、基材に塗布することができる。スクリーン印刷は、電極層について均一な厚さと既定の形状をすぐにもたらすことができるため、特に好ましいことがある。その他の適切な方法には、バーコーティング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、吹き付け、ペイント、バーコーティング、パッドコーティング、ギャップコーティング技術、例えばナイフ若しくはドクターブレードによる塗り、及びミータリングロッド適用が含まれる。
【0058】
電極調製物は、電極材料について所望の厚さ、所望の電気触媒担持量、及び/又は所望のガラス担持量をもたらすために、基材上の1つ、2つ、又はそれより多い層に塗布することができる。次の層を塗布する前に各層を乾燥させることが、有利であり得る。通常は、40以下、例えば20以下、または10以下の層を塗布する。
【0059】
電気化学セルは通常、アノード及びカソードを有する。通常、このセルはまた、電解質又は電解質収容ゾーンを備え、このゾーンは例えば、電解質を保持するためのチャンバ、又は電解質を流す流路であり得る。電気化学セルは、エレクトロクロリネーションセルであり得る。
【実施例】
【0060】
フリット1
電極調製物ペースト
フリット1は、以下の表1に示す組成を有するホウケイ酸塩ガラスである:
【0061】
ガラスの理論組成は、ガラスを製造するために使用した出発材料に基づき計算した組成(酸化物基準)である。
【0062】
ガラスは、基材として使用される金属チタンのCTEに近づけて適合されたCTEを有する(82〜87×10
−7/℃)。このことは、焼成工程における加熱及び冷却の間に、熱によって引き起こされる応力(この応力は、電極材料層のクラッキングにつながりかねない)の防止に役立つからである。
【0063】
電極調製物ペーストは、RuO
2とフリット1とを混合し、この混合物を有機媒体中に懸濁させることによって製造した。使用した媒体は、ドイツのZimmer&Schwarzから得られる733−63媒体である。それからこの混合物をSynergy Devices Ltd.のSpeedmixer(登録商標)でジルコニアミリングビーズを用いて混合し、コーティングに適したインクを形成した。
【0064】
チタンペーストの調製
各チタン基材(厚さ25mm×25mm×1mm、グレード1、チタンプレート)をまずグリットブラストし、基材に対する電極材料の接着性を改善するために粗い表面を形成した。それからこの表面について、酸化チタンコーティングと、グリットブラスト工程の間に生じた金属微粒子とを除去するために、6MのHCl中で90℃で5分間、酸エッチング処理をした。酸から取り出した後、吸い取り紙を用いて、プレートから余剰な酸を取り除き、それから直ちにコーティングした。
【0065】
コーティング技術
製造したチタンプレートを電極材料ペーストによりコーティングして均一なコーティングを形成するために、スクリーン印刷を使用した。印刷された電極を、100℃のホットプレートで乾燥させた。所望のコーティング担持量に達するまで、コーティング手順を繰り返した。それから、乾燥した電極を炉内で、以下に述べる回数及び温度で焼成した。ここに述べる温度は炉温であるが、電極のサイズが小さいため、またチタン基材の熱伝導性が高いため、ガラスの温度は、炉温と実質的に等しいと想定される。
【0066】
試験した電極
23種類の様々な電極コーティングを試験した。これらの電極は、ガラスフリットの比率、ルテニウム担持量、焼結時間、及び焼結温度において異なる。3つの異なる電極ペーストを、以下の表4に述べる配合で製造した。
【0067】
フリットの重量%は、ペーストの固形分であるガラス含有量に対するものである。
【0068】
以下の表5は、ペースト1、2及び3を用いて製造した電極の詳細を示す。電極は、前述のチタンプレート製造法及びコーティング技術を用いて、製造した。
【0069】
Ru担持量(mg/cm
2)は、X線蛍光分析を用いて特定した。ガラス担持量は、測定されたRu担持量と、ガラス:RuO
2の比率から計算した。
【0070】
電気化学フローセル
試験実験で使用したフローセルは、作用電極(試験アノード)、対極(白金でコーティングされたチタンプレートのカソード)、及びAg/AgCl参照電極を有する、3極式電気化学セルである。水性のNaCl電解質は、作用電極と対極との間に、また参照電極にわたってセルへと流れ、その後セルから出る。
【0071】
電極ストレス試験
前掲の電極を、フローセルにおいて以下の条件下で試験した。
1.NaCl電解質(28g/L)
2.流量:30ml/分
3.電極の間隔:1mm(作用電極と対極)
4.一定の電流密度:200mA/cm
2
【0072】
ストレス試験では、60秒ごとに、電極にわたる電圧極性を反転させた。電圧を反転させると、その後、アノード電極はカソードになり、水素発生反応によって支持され、これによって水素の気泡が生じ、電極表面近くの電解質におけるpH上昇につながる。電圧反転ストレス試験によって電極表面は急速に老化し、敏感な電極材料の溶解又は分解につながり得る。
【0073】
実施例によるストレス試験のグラフが、
図3に示されている(この図は、例22についての結果を示す)。電圧が5Vを超えると、もはや使用不能とみなされる(
図3における電極については約32時間)。許容可能な耐久性水準を得るためには、5Vへの目標時間が、5時間以上である。表5で特定した電極についての結果は、以下の表6に示されている。
【0074】
例えば例1、2及び3について耐久性が低いのは、ガラス担持量が不充分で層厚が非常に薄いためと考えられる。ペーストはガラス含有量が非常に少なく、ペーストは一層だけしか塗布されていなかったからである。これは電極層が、電解質と基材との間にバリアを形成しなかったことを意味する。例3では高温焼成により、基材の著しい熱分解も発生した。
【0075】
例5、9及び19で観察された相対的に低い(ただし許容可能)耐久性は、高温で焼成された例と比べてガラスフリットの融着度が低いこと、及び/又は電解質とチタン基材とがある程度接触していることに起因すると考えられる。
【0076】
例7、12、14、17及び21で結果が良くないのは、高すぎる温度でガラスフリットを焼成したため、電極の活性が減少したからだと考えられる。これは前述のように、電極触媒がガラスによって包み込まれたこと、及び/又は基材の酸化が原因であり得る。
【0077】
表4で報告した結果は、ガラスフリットを最大60重量%添加しても、電極の活性は阻害されないことを示している。この種類のガラスについて好ましい焼成温度は、約750℃であると思われ、これはガラスが巨視的なガラス流動性を示し始める温度を約50℃超える温度である(
図1参照)。
【0078】
実験の結果からは、例18、20、22及び23により、60重量%のフリット及び750℃の焼成温度を用いると、より良好な耐久性が得られることが分かる。表4における例22では、焼成時間を750℃で1時間に増やしたところ、耐久試験時間が32時間に増加した。例22の電圧トレースが、
図3に示されている。
【0079】
フリット2
エレクトロクロリネーションセルの通常稼働条件の間、アノードにおける環境は、前述のように酸性になるが、その原因は例えば酸素の発生、さらには以下の塩素平衡反応である:
【0080】
そこで本発明者らは、電極で耐酸性フリットを使用してみた。フリット2は、以下の表7に示す組成を有する、耐酸性シリカ及びジルコニアに基づくフリットである:
【0081】
ホットステージ顕微鏡試験におけるフリット2のプロフィールは、
図4に示されている。
【0082】
粒径分布(光散乱法粒径により特定)を、以下の表8に示す。
【0083】
フリット1を含有する電極について先に述べた方法により、電極を製造した。この電極を、同じ電極ストレス試験で試験した。2つの電極を試験した。これらはともに先のペースト3と同様の調製物によるペーストだが、フリット1をフリット2に置き換えたものである。
【0084】
図5は、例24について作製された電極の反射型SEMイメージを示す。このイメージは、電極材料の層にわたる電極触媒の相互接続ネットワークを示している。
【0085】
耐酸性試験
フリットの耐酸性を試験するために、フリット1の試料2.0gを参照試験として脱イオン水中で撹拌し、別の2.0gの試料を1MのHCl中で12時間、撹拌した。これら2つのフリット懸濁液を遠心分離によって単離し、乾燥させて、重量損失を特定した。水で洗浄した試料は、無視できる程度の質量損失であったのに対し、酸で洗浄した試料は、質量損失が0.87gであった(44%損失)。
【0086】
同じ手順によりフリット2を試験したところ、脱イオン水では無視できる程度の質量損失であり、酸洗浄処理では、0.2gの重量損失しか生じなかった(2%損失)。
【0087】
電極製造条件の変法、及びフリット2の性能試験(フリット60重量%)
電極調製物ペーストは、RuO
2とフリット2とを混合し、この混合物を733−63媒体中に、0.4:0.6:0.8(RuO
2:フリット2:733−63)の比率で懸濁させることにより製造した。それからこの混合物をSynergy Devices Ltd.のSpeedmixer(登録商標)で混合し、コーティングに適したインクを形成した。
【0088】
チタン基材(グレード1、厚さ1mm)をまずグリットブラストし、それから超純水中で超音波処理し(10分)、その後、10重量%の水酸化ナトリウム中で超音波処理した(10分)。超音波処理した後、6MのHCl中、80℃で5分間、電極を酸エッチングし、それから直ちにガラスフリット及び触媒を含有するインクを基材にスクリーン印刷して、2つのコーティングにより目標とする1.2mgcm
−2の酸化ルテニウム担持量にする。最初にコーティングした後、電極を5分間、炉内で140℃で乾燥させ、第二のコーティングの後、電極をさらに40分間、炉内で140℃で乾燥させた。
【0089】
それからこれらの電極を、管型炉を用いて炉温(炉T)で時間tにわたって焼成した。電極のピーク温度(Tピーク)、及び焼成工程の間に電極が500℃を超える(>500℃)時間の量も記録した(表11参照)。電極は、ガルバノスタット矩形波を適用して、その分解性について試験した(Biologic VSPポテンシオスタットを用いて、1分ごとに±200mAcm
−2GEOの間で極性を反転)。1時間での稼働電圧、3Vまでの稼働時間(h)、及び5Vまでの稼働時間(h)を記録した(表11)。
【0090】
例26で形成された電極は基材上に、粉末として容易に擦り取れる表面コーティングを有しており、このことは、T(ピーク)が低いため固体ガラス相が形成されていないことを示している。この電極は、性能試験の間、耐久性が悪かった。その他の例ではそれぞれ、電極は耐久性の要求を満たしている。この種のガラスに好ましい焼成温度(T(ピーク))は、フリット2についてゾーン3領域での約700〜760℃、すなわち、焼結から巨視的な流動性への移行温度であると思われる(
図4参照)。
【0091】
参考文献
1.S. Trasatti, Electrocatalysis: understanding the success of DSA, Electrochimica Acta 45 (2000) 2377-2385
2.Chandler et al., Electrodes based on no
ble metals, Platinum Metals Rev., 1997, 41, (2), 54-63
3.Song et al., Effect of glass frit addition on corrosion resistance of Ti/TiO2/IrO2-RuO2 films, Materials Letters 58 (2004) 817-823