【実施例1】
【0020】
図1から
図5を参照して、本発明の実施例1の摩擦攪拌接合装置の構成とその制御について説明する。
【0021】
図1は、本実施例に係るロボット型摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
図2Aは、
図1の摩擦攪拌接合ユニット18の側面図であり、
図2Bは、
図1の摩擦攪拌接合ユニット18の正面図である。
図3は、主軸モータ負荷率とツール挿入動作の関係を概念的に示す図である。
図4Aは、
図2A,
図2Bのガイド受け部材24の上面図であり、
図4Bは、
図4Aの側面図である。
図4Cは、
図4Aの変形例(変形例1)であり、
図4Dは、
図4Bの変形例(変形例2)である。
図5は、ガイド部材23とガイド受け部材24の位置関係の例を示す図である。
【0022】
本実施例のロボット型摩擦攪拌接合装置1は、
図1に示すように、主要な構成として、多関節ロボットアーム2と、多関節ロボットアーム2の先端に取り付けられた摩擦攪拌接合ユニット18を備えている。
【0023】
多関節ロボットアーム2は、一般的に「ロボットアーム」と呼ばれる垂直多関節ロボットであり、多関節構造とサーボモーターによって三次元空間を自在に動作(移動)することができる。関節の数(軸数)によって可動範囲が変化するが、ここでは台座部2a上に脚部2b、下腕部2c、上腕部2d、手首部2e,2f,2gを有する多軸タイプの多関節ロボットアームの例を示す。
【0024】
多関節ロボットアーム2の手首部2gの先端には、摩擦攪拌接合ユニット18が接続されている。
【0025】
摩擦攪拌接合ユニット18は、
図2Aに示すように、Z軸上下動駆動モータ16を有するZ軸上下動駆動機構部3と、主軸支持部4を介してZ軸上下動駆動モータ16(Z軸上下動駆動機構部3)に取り付けられた主軸15及び主軸ハウジング17と、主軸ハウジング17の内部に配置されたツールホルダ(接合ヘッド)5と、ツールホルダ(接合ヘッド)5に支持された接合ツール6と、接合ツール6に間接的に連結されて接合ツール6を所定の回転数で回転させる主軸モータ14とを有して構成されている。
【0026】
主軸モータ14を所定の回転速度で回転させて回動力を発生させ、主軸モータ14の回転軸に取り付けられた駆動側回転体(プーリー等)20と、接合ツール6に取り付けられた従動側回転体(プーリー等)19と、駆動側回転体20と従動側回転体19とを接続する接合手段(ベルト等)21とを含んで構成する回動力伝達機構を介して主軸モータ14の回動力を間接的に接合ツール6に伝達する。
【0027】
Z軸上下動駆動機構部3には、
図2Aに例示するように、例えばボールスクリューやリニアガイドなどが用いられ、Z軸上下動駆モータ16により多関節ロボットアーム2の手首部2g(主軸支持部4)に対して主軸15をZ軸方向(上下方向)に駆動させることができる。
【0028】
接合ツール6はショルダ部7及びプローブ部(接合ピン)8で構成され、従動側回転体19、駆動側回転体20、接合手段21を介して、主軸モータ14と間接的に連結されている。主軸モータ14は、接合ツール6を所定方向に回転させる。
【0029】
多関節ロボットアーム2は、Z軸上下動駆動機構部3を介して主軸支持部4及び主軸15、主軸ハウジング17を支持し、多関節ロボットアーム2に搭載(付属)された制御部(制御装置)11からZ軸上下駆動モータ16と主軸モータ14に駆動信号を付与して主軸15をZ軸方向(上下方向)に駆動および接合ツール6を回転させながら接合線に沿って進行させる。つまり、多関節ロボットアーム2は、主軸支持部4と、主軸15と、ツールホルダ(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール6を回転させると共に、接合ツール6を
図1のX軸方向に移動させる。
【0030】
接合ツール6を所定の回転数で回転させながら、載置台10上に載置された被接合部材9(9a,9b)表面の接合線上にショルダ部7とプローブ部8とを押し付けることにより摩擦熱を発生させて被接合部材9を軟化させ、ショルダ部7とプローブ部8とを被接合部材9に必要量挿入し、当該回転数を保持することで塑性流動が生じ、挿入部が攪拌される。接合ツール6を引き抜く、又は移動することで攪拌部(接合部)が冷却され、被接合部材9は接合される。
【0031】
なお、ショルダ部7とプローブ部(接合ピン)8とが同一である接合ツール(つまりプローブを有さず、ショルダのみ)であっても良く、また、ショルダ部7が回転しない構造であっても良い。
【0032】
また、
図1では、多関節ロボットアーム2と載置台10が同じ架台12及び架台の脚部13上に設置されている例を示しているが、多関節ロボットアーム2と載置台10を別々に設置しても良い。
【0033】
ロボット型摩擦攪拌接合装置1は、モータコントローラーやCPUユニットなどが収納された制御部(制御装置)11を備えており、この制御部(制御装置)11からの指令(プログラム信号)により多関節ロボットアーム2の動きと摩擦攪拌接合ユニットの接合条件を総合的にコントロールする。
【0034】
制御部(制御装置)11は、接合ツール6による接合条件を決定する接合条件信号やZ軸上下動駆動機構部3による接合ツール6の鉛直方向(Z方向)の保持位置(接合ピン8の挿入量)を決定する保持位置決定信号などの接合パラメータ(FSW接合条件)を記憶する記憶部(図示せず)を備えている。
【0035】
なお、制御部11は、例えば多関節ロボットアーム2の台座部2a等に内蔵しても良く、
図1のように制御装置として多関節ロボットアーム2とは別に構成しても良い。また、摩擦攪拌接合ユニットの制御部は、多関節ロボットアーム2の制御部とは共用してもよいし、別に構成しても良い。
【0036】
ここで、本実施例のロボット型摩擦攪拌接合装置1は、回転振動抑制機構を備えて構成されている。回転振動抑制機構により、接合ツール6が被接合部材9の固相接合を開始してから固相接合を終了するまで、接合方向に対して接合ツール6の横方向の動作範囲を制限することにより、接合ツール6の回転ブレによる蛇行を抑制する。
【0037】
図2A及び
図2Bに、回転振動抑制機構の概略構成を示す。
【0038】
回転振動抑制機構は、接合ツール6を回転させる主軸15を収納する主軸ハウジング17に取り付けたガイド受け部材24と、被接合部材9を載置する載置台10の載置面に接合ツール6の接合方向に直交する方向に対向して配置された一対のガイド支持部材22と、ガイド支持部材22に支持されて目標深度において少なくともガイド受け部材24の側面の一部と載置面からの垂直方向の位置が同じである係合状態となるようにガイド受け部材24の両側に配された一対のガイド部材23と、を含んで構成されている。
【0039】
なお、目標深度は、被接合部材9の接合条件(被接合部材9の材質及び厚さ)によって定めるものであり、目標深度まで接合ツール6を被接合部材9に挿入して固相接合することで高品質の接合精度を得ることが可能となる。
【0040】
回転ブレは、接合ツール6、主軸15、主軸ハウジング17に同様に生じることとなる。従って、主軸ハウジング17の回転ブレを抑制することで主軸15及び接合ツール6の回転ブレも抑制することが可能となる。
【0041】
回転振動抑制機構では、接合ツール6を挿入ステップにより挿入した位置、すなわち接合開始位置である接合ステップの開始位置から接合ステップの終了位置まで、主軸ハウジング17に取り付けたガイド受け部材24と、接合ツール6を目標深度に挿入してガイド受け部材24と係合状態となる一対のガイド部材23とにより、主軸ハウジング17を挟持することにより主軸ハウジング17の横方向の動作範囲を制限して回転ブレを抑制する。
【0042】
ガイド受け部材24は、
図4Aに示すように、主軸15を収納する主軸ハウジング17に、例えば、スベリ加工部材26を取り付けて構成する。
【0043】
なお、ガイド受け部材24は、
図4Aに示すように、ガイド部材23と係合する位置において主軸ハウジング17の外周全体に配置してもよいし、
図4Cに示すように、ガイド部材23と接触する一部分だけに配置してもよい。
【0044】
また、
図5に示すように、接合ツール6(接合ピン8)の偏心力のより大きいRS(Retreating Side:リトリーティングサイド)においては、ガイド受け部材24とガイド部材23とが常に接触するように、接合ツール6(接合ピン8)を目標深度に挿入した時点においてガイド受け部材24と対応するガイド部材23とを接触させる。
【0045】
一方、AS(Advancing Side:アドバンシングサイド)においては、挿入ステップにおいて接合ツール6(接合ピン8)をスムーズに挿入するために、接合ツール6(接合ピン8)を目標深度に挿入した時点において、ガイド受け部材24と対応するガイド部材23との間に若干のクリアランス(G:ギャップ)を設ける。
【0046】
ガイド受け部材24とガイド部材23とは、接触しても接合ツール6の進行の妨げとならないように、接触部を次のように構成する。
【0047】
ガイド受け部材24とガイド部材23との接触する部分において、ガイド受け部材24またはガイド部材23の何れか一方に、接合ツール6の進行を補助する進行補助部材を取り付ける。進行補助部材は、ガイド受け部材24とガイド部材23との接触部に摩擦係数を小さくしてスリップさせるようにスリップ加工したる摺動体を取り付けるか、回転自在な回転体を取り付ける。
【0048】
本実施例では、
図4A及び
図4Bに示すように、進行補助部材として、主軸ハウジング17の外周部にスベリ加工部材26を取り付けている。回転自在な回転体等、他の構成例については、実施例2以降で後述する。
【0049】
ガイド受け部材24は、RSガイド部材23及びASガイド部材23に接触したときにスリップするように外側面部をスリップ加工した摺動面を有する摺動体を主軸ハウジング17の外周部の一部にまたは全周を囲むように取り付けて進行補助部材を構成する。ガイド受け部材24及びガイド部材23は、それぞれ接触する部分を平坦加工または曲面加工する。
【0050】
なお、
図4Dに示すように、主軸ハウジング17に段加工を施し、その段差部分にスベリ加工部材26を取り付けることも可能である。
【0051】
また、スベリ加工部材26を張り付けずに、主軸ハウジング17に直接スベリ加工を施してもよい。
【0052】
また、主軸ハウジング17側にスベリ加工部材26を取り付けるのに替えて、ガイド部材23側にスベリ加工部材26またはスベリ加工を設けることも可能である。RSガイド部材23及びASガイド部材23は、ガイド受け部材24に接触したときにスリップするように、RSガイド部材23及びASガイド部材23のガイド受け部材側側面部を少なくとも接合ツール6の接合開始位置から接合終了位置までスリップ加工した摺動面を有する摺動体を取り付けて進行補助部材を構成する。
【0053】
ガイド受け部材24のRSガイド部材23及びASガイド部材23に接触する部分は、平坦加工または曲面加工する。
【0054】
次に、
図3を用いて、主軸モータ負荷率とツール挿入動作の関係について説明する。
図3に示すように、接合ツール位置は主軸モータ14の負荷率と関係がある。
【0055】
プローブ部(接合ピン)8を被接合部材9に接触させて接合ツール6の挿入を開始すると、接合ツール位置が深くなるに従い主軸モータ14の負荷率は上昇する。
【0056】
接合ツール6の挿入中にショルダ部7が被接合部材9に接触すると、主軸モータ14の負荷率の上昇率は一時的に低下するが、接合ツール6の挿入がさらに進むと、主軸モータ14の負荷率の上昇率は再び上昇する。
【0057】
接合ツール6の挿入時の目標負荷率又は目標接合ツール位置に到達した時点で、接合ツール6の挿入処理を終了し、接合ツール位置を固定した状態で、接合ツール6を一定の時間回転させて被接合部材9への入熱処理を行う。
【0058】
その後、被接合部材9の摩擦攪拌接合処理を行う。摩擦攪拌接合処理の間は、主軸モータ負荷率と接合ツール位置をともに一定の値(目標値)を保持するように、主軸モータ14及びZ軸上下動駆動モータ16の駆動を制御する。
【0059】
摩擦攪拌接合処理が終了した時点で、接合ツール6の引き抜きを開始すると、接合ツール位置が浅くなるに従い主軸モータ14の負荷率は低下する。
【0060】
ここで、
図3及び
図5を参照しながら、上記で説明した本実施例の回転振動抑制機構を備えた摩擦攪拌接合装置の動作を説明する。
【0061】
先ず、挿入ステップにおいては、次のように接合ツール6を挿入する。
【0062】
主軸15を目標回転速度で回転させながら、ASガイド部材23とRSガイド部材23の中央を狙いASガイド及びRSガイドの両ガイドに干渉しないように下降移動し、被接合部材9の接合開始位置に挿入していく。接合ツール6が目標深度に到達するまで主軸15を下降移動して接合ツール6を挿入する。接合ツール6が被接合部材9に目標深度に到達したら主軸15の下降移動を停止する。
【0063】
この時点において、被接合部材9に変形抵抗による反力が生じていると、偏心力によりRSにおいてガイド受け部材24と対応するガイド部材23とが接触することとなる。一方、ASにおいてはガイド受け部材24と対応するガイド部材23との間に所定のクリアランス(G:ギャップ)を確保した状態である。
【0064】
なお、接合ツール6が被接合部材9の表面に接触する前段階において主軸15をRS方向に移動してRSのガイド受け部材24と対応するガイド部材23とが接触する位置にポジショニングしても良い。
【0065】
また、クリアランス(G:ギャップ)の大きさについては、摩擦攪拌接合装置の実運用を開始する前段階において、試験接合などを行い設定すればよい。
【0066】
入熱ステップにおいては、挿入ステップにおいて接合ツール6を挿入した位置において、接合部が所望の入熱状態となるまで目標回転速度で接合ツール6を回転する。
【0067】
接合ステップにおいては、次のように接合ツール6を進行して接合する。
【0068】
ガイド受け部材24がRSガイド部材23と接触し、ASガイド部材23との間に所定のクリアランス(G:ギャップ)を有する形でRSガイド部材23とASガイド部材23によりガイド受け部材24を挟持しながら、目標回転速度で回転しながら接合方向に進行する。
【0069】
偏心力はRSガイド部材方向により大きくなるので、通常はこの状態が保持してRSガイド部材側の回転ブレを抑制し、偏心力がASガイド部材方向に大きくなっても設定したクリアランス(G:ギャップ)に到達した時点で横方向の回転ブレを抑制することとなる。
【0070】
つまり、RSガイド部材方向に偏心力が大きいときはRSガイド部材23で主軸15の横方向の回転ブレを抑制し、ASガイド部材方向に偏心力が大きいときはASガイド部材23で主軸15の横方向の回転ブレを抑制することで接合ツール6の蛇行を抑制する。この状態を接合ツール6の接合開始位置から接合終了位置まで継続して、接合ステップにおいて回転ブレによる接合ツールの蛇行を抑制する。
【0071】
抜去(引抜)ステップにおいては、接合ステップが終了したら接合ツール6を被接合部材9から引き抜く。
【0072】
以上により、回転ブレによる接合ツール6の蛇行を抑制し、高精度の接合品質を確保することが可能となる。
【0073】
なお、
図2Bに示すように、被接合部材9を部材クランプ25により載置台10に固定することにより、摩擦攪拌接合時の被接合部材9のズレを防止し、より高精度な摩擦攪拌接合を行うことができる。