【文献】
XIAO, Z. et al.,Efficient DTI Artifact Correction via Spatial and Temporal Encoding ,Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med.,2010年,Vol.18,3998
【文献】
ZUR, Yuval,Two-Dimensional Phase Correction Method for Single and Multi-Shot Echo Planar Imaging,Magnetic Resonance in Medicine,2011年,Vol.66,1616-1626
【文献】
XIE, Victor B et al.,Robust EPI Nyquist Ghost Removal By Incorporating Phase Error Correction With Sensitivity Encoding(PEC-SENSE),Magnetic Resonance in Medicine,2017年06月07日,Vol.79,943-951
【文献】
CHEN, Nan-kuei,Removal of EPI Nyquist Ghost Artifacts With Two-Dimensional Phase Correction,Magnetic Resonance in Medicine,2004年,Vol.51,1247-1253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<MRI装置の実施形態>
最初に、MRI装置の全体構成を、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0016】
MRI装置100は、
図1に示すように、被検体からの核磁気共鳴(NMR)信号を収集し、被検体の画像を作成するためのデータを取得する計測部10、計測部10が取得したデータに対し、補正や画像再構成等の演算を行う演算部20、計測部10及び演算部20の動作を制御する制御部30、演算部20や制御部30の動作に必要な条件や数値をユーザーが入力する入力デバイスや撮像画像などを表示するディスプレイなどを備えたユーザーインターフェイス(UI)装置40、及び記憶部50を備えている。
【0017】
計測部10は、静磁場及び傾斜磁場を発生する磁場発生部11、被検体を構成する組織の原子核の核スピンを励起する高周波信号を発生するRF信号発生部12、被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部13、及び計測を制御する計測制御部14を備えている。具体的には、
図2に示すように、磁場発生部11として、静磁場発生磁石102、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109、RF信号発生部12として、RF送信コイル104及びRF送信部110、RF受信部として、RF受信コイル105及び信号処理部107、計測制御部14としてシーケンサ111を備え、さらに、被検体101を搭載する天板を静磁場発生磁石102が形成する静磁場空間内に出し入れするベッド106を備えている。
【0018】
静磁場発生磁石102は、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生装置から構成され、発生する磁場の方向により垂直磁場方式や水平磁場方式がある。垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させる。
【0019】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれシーケンサ111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場
Gx、Gy、Gzが発生し、これら3軸方向の傾斜磁場の組み合わせによって任意の方向に傾斜磁場を形成する。例えば、2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(読み出し)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号ともいう)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0020】
RF送信コイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子のスピン、典型的にはプロトン、にNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、シーケンサ111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスを振幅変調し、増幅した後に被検体101に近接して配置されたRF送信コイル104に供給することにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0021】
RF受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成するスピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号処理部107に接続されて受信したエコー信号が信号処理部107に送られる。
【0022】
信号処理部107は、RF受信コイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、シーケンサ111からの命令に従って、信号処理部107が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換する。従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、k空間データという)として得られる。
【0023】
シーケンサ111は、所定のパルスシーケンスの制御データに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号処理部107を制御して、被検体101へのRFパルスの照射及び傾斜磁場パルスの印加と、被検体101からのエコー信号の検出と、を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。
【0024】
本実施形態のMRI装置では、計測制御部14(シーケンサ111)は、所定のパルスシーケンスとしてEPIシーケンスに基づく制御を行う。EPIシーケンスは前述のとおり、1回のRF励起パルス印加後に読み出し傾斜磁場の極性を反転しながら、各極性の読み出し傾斜磁場の印加中にエコー信号をサンプリングして、複数のエコー信号を収集するシーケンスであり、RFパルスとして励起パルスと反転パルスを含むSE−EPIも本実施形態に適用される。
【0025】
SE−EPIシーケンスの一例を
図3に示す。EPIシーケンスでは、まずスライス選択傾斜磁場303とともに励起用RFパルス301を印加した後、反転RFパルス302をスライス選択傾斜磁場304とともに印加し、所望のスライスを励起する。次いで位相エンコード傾斜磁場305を印加した後、ブリップ状の位相エンコード傾斜磁場306と極性を反転させるリードアウト傾斜磁場307とを連続して印加し、反転するリードアウト傾斜磁場307の印加中にエコー信号308を収集する。シングルショットEPIであれば1回の励起で、画像再構成に必要な数のすべてのエコー信号を計測する。
【0026】
このようなパルスシーケンスは、エコー時間(TE)や繰り返し時間(TR)、FOV(Field of View)などの撮像条件とともに、例えばUI装置40を介して計測制御部14に設定される。
【0027】
演算部20は、計測部10が収集したk空間データの画像再構成や補正等の演算を行い、そこでの処理結果である被検体101の画像を、UI装置40の表示部41に表示させたり、内部記憶部51や外部記憶部52等の記憶部50に記録させたり、ネットワークIF(インターフェイス)60を介して外部装置に転送したりする。
【0028】
制御部30は、計測制御部14、演算部20、UI部40など装置全体の制御を行う。
図2に示す実施形態では、CPU31とメモリ32を備えた計算機300が演算部20及び制御部30の機能を実現する。演算や制御のプログラムは、予め記憶装置に格納しておいてもよいし、外部から取り込みCPUがアップロードして実行することもできる。なお、演算部20の機能の一部は、ASIC(Application Speciric Integrated Circuit)やFPGA(Field Programable Gate Array)等のハードウェアで実現することも可能である。
【0029】
本実施形態のMRI装置は、演算部20の機能として、EPIシーケンスで得られた画像のナイキストゴーストを補正するための補正部を備えることが特徴であり、具体的には、
図1に示すように、計測部10が収集したk空間データに対しフーリエ変換を施し画像を再構成したり、再構成画像を用いて合成画像や計算画像などを作成する画像作成部21、画像に対し位相補正等の補正を行う補正部23、及び、補正部23による位相補正に必要な補正用データ、ここでは2D位相マップを生成する位相マップ生成部25を備える。
図1には示していないが、演算部20は、画像作成部が作成成した画像を用いて被検体の特性を表す諸量などを算出する機能を備える場合もある。
【0030】
次に、上述した演算部20の構成を踏まえ、MRI装置の動作、主として2次元位相補正の処理の実施形態を説明する。
【0031】
<<第一実施形態>>
本実施形態では、EPI法により複数の画像データを取得する撮像として、DWI撮像を行う。またDWI撮像においてMPGパルスを印加しない撮像(b値=ゼロ)の画像データを用いて2D位相マップを作成し、それを用いてb値=ゼロ以外のDWI画像のナイキストゴースト補正を行う。
【0032】
まず、本実施形態によるDWI撮像の手順を説明する。
図4に示すように、本実施形態のDWI撮像は、複数の方向で、それぞれMPGパルスの強度を異ならせて、画像生成用の信号を収集する計測ステップS41、計測後の画像用データのうちMPGパルスを印加せずに取得した画像用データを用いた位相マップ作成ステップS42、ステップS42で作成した位相マップを用いてステップS41で取得した画像用データを補正するステップS43、及び、補正後の画像用データを用いて拡散強調画像(拡散トレース画像)や、見かけの拡散係数ADC(Apparent Diffusion Coefficient)を画素値とするADCマップなどを作成するステップS44からなる。以下では、拡散トレース画像やADCマップなどをまとめて拡散画像或いはDWI画像ともいう。なお従来のDWI撮像では、画像生成用の信号を収集する計測ステップS41に先立って、ナイキストゴースト補正に用いるリフェレンス画像用信号を収集するプリスキャンが行われる。このリファレンス画像は、取得すべき画像に対し位相エンコード方向のFOVを2倍にしたパルスシーケンスで行う必要があるが、本実施形態では計測ステップS41で取得した画像用データを用いて位相マップを作成するので、このようなプリスキャンは不要であり、行わない。
【0033】
以下、各ステップの詳細を説明する。
[計測ステップS41]
計測ステップS41では、計測制御部14の制御のもと、計測部10が例えば
図3に示すようなSE−EPIシーケンスを基本としたDWIシーケンスを実行する。
図5にDWIシーケンスの一例を示す。
図5において
図3と同じ要素は同じ符号で示し、説明は省略する。
図5に示すように、DWIシーケンスでは、反転RFパルス302の前後に強度の大きいMPGパルス311、312を印加する。
図5では、MPGパルスをスライス傾斜磁場Gsの軸で印加した場合を示しているが、DWIでは、通常、MPGパルスを印加する軸(方向)を異ならせて、複数回の撮像を行う。また各方向についてMPGパルスの強度(b値)を変化させて、撮像を繰り返す。強度の変化には、b値=0すなわち
図3に示したMPGパルスを印加しない場合も含むが、b値=0の撮像は各方向に共通であり、1度行えばよい。
【0034】
図6(A)に計測ステップS41の一例を示す。
図6(A)に示す手順では、1回のb値=0の撮像(S411)のほかに、AP方向(前後方向)、RL方向(左右方向)、及びHF(体軸方向)方向の3方向についてMPGパルスを印加するパルスシーケンスを行う例を示している(S412〜S414)。MPGパルスはb値=1000の場合を一例として示すが、それ以外のb値でもよいし、複数のb値で撮像してもよい。また各撮像の加算回数は任意であるが、b値=0の撮像(S411)は、次のステップにおける位相マップ作成のために、リードアウト傾斜磁場の印加極性を反転させた2回の撮像を行う。なお印加極性を反転させる方法は、リードアウト傾斜磁場自体を反転させる方法の他に、
図3の位相エンコード傾斜磁場305の面積をブリップ306一つ分または奇数個分、増減させることでも可能である。
【0035】
[位相マップ作成ステップS42]
位相マップ作成ステップS42は、位相マップ生成部25が、
図6(B)に示すように、実空間にする前のデータに対し低次の位相補正を行った後(S421)、実空間後のデータを用いて高次の位相誤差等の残留する位相誤差を示す位相マップ(2D位相マップ)を作成する(S425)。低次の位相補正は、例えば、計測ステップS41のb値=0の撮像で得た一対の計測データ(リードアウト傾斜磁場の印加極性を反転させた計測データの対)に対し用いて、k空間(kxky空間)データ或いはそれを読み出し方向にフーリエ変換したxky空間データに対し行い(S421)、奇数ラインと偶数ラインの組み換えを行い、リードアウト傾斜磁場を正極に印加して収集したエコーと負極に印加して収集したエコーとを分離する(S422)。低次の位相補正は、xky空間で奇数エコーと偶数エコー間の誤差(一次の傾斜)を補正する処理(xky補正)を含んでもよく、それによりその後に算出する位相マップの精度を向上することができる。
【0036】
位相マップは、低次補正後の一対の実空間データ、正極画像と負極画像、を複素除算(S423、S424)することで取得する。この際、被検体領域以外の位相情報を除去するためのマスク処理や平滑化処理などを行うことができる(S425)。
【0037】
ステップS42の具体例を、
図7を用いてさらに説明する。
まず、計測ステップS41(S411)において、b値=0でリードアウト傾斜磁場極性を反転させて撮像したb0データ(+)701、b0データ(−)702を、それぞれリードアウト方向にフーリエ変換し、xky空間データを得る(S71)。これらxky空間データに対し、xky補正を行う(S72)。xky補正は、前述したように、xky空間のリードアウト方向に現れる位相プロファイルの傾斜を補正する処理(低次の補正)であり、事前に取得したxky補正用のデータ720を用いて補正してもよい。なお、xky補正は、エコー毎の誤差が大きい場合など必要に応じて適用すればよく、省略することも可能である。
【0038】
次いで、xky補正後のデータについて、奇数ラインと偶数ラインの組み換えを行う(S73、
図6のS422)。具体的には、b0データ(+)のxky空間データの奇数ラインと、b0データ(−)のxky空間データの偶数ラインとを用いて一つのxky空間データを作成し、b0データ(+)のxky空間データの偶数ラインと、b0データ(−)のxky空間データの奇数ラインとを用いてもう一つのxky空間データを作成する。なおxky補正を省略する場合には、kxky空間データであるb0データ(+)701の奇数/偶数ラインとb0データ(−)702の奇数/偶数ラインとの組み換えを行う。
【0039】
その後、xky空間データを位相エンコード方向にフーリエ変換し、或いは、xky補正を省略する場合はk空間データを二次元フーリエ変換し(S74)、低次の位相誤差が補正された正極と負極の画像711、712を得る。次いで、正極画像711と負極画像712とを複素除算(S75)することで、正極と負極の誤差を表す位相マップを得る。位相マップは、低次の位相誤差を含まない画像から作成するため、高次の位相誤差を表す。
【0040】
複素除算により得た位相マップにおいて、被検体領域以外の位相情報は不要なため、被検体領域以外の情報を除くマスク処理を行う(S
76)。マスク処理は、例えば正極の絶対値画像から判別分析法などにより閾値を算出して二値化するなどの一般的な方法でマスクを作成し、複素除算後の位相マップにマスクを乗算すれば良い。また、ノイズや局所的なエラー(マスクの失敗など)の影響を低減する目的で位相を平滑化してもよい。平滑化には、メディアンやハミングフィルタを適用するなど一般的な方法を採用することができるが、マスク境界の急激な位相変化を抑えるために適応型のローパスフィルタや多項式近似を用いることが望ましい。これらの処理により偶奇エコー間の誤差(高次の誤差)を表した2D位相マップ715が生成される。
【0041】
[補正ステップS43]
本ステップでは、補正部23が、上記ステップS42により、位相マップ生成部25が生成した2D位相マップ715を用いて、DWI撮像で取得した画像用データを補正する。
【0042】
補正ステップS43は、
図6(C)に示すように、計測ステップのS412〜S414(図
6(A))で取得したDWI撮像データに対し、低次の位相補正するステップS431、奇数ラインと偶数ラインとを組み換えるステップS432、フーリエ変換により奇数ライン画像及び偶数ライン画像を取得するステップS433、奇数ライン画像及び偶数ライン画像に対し、上記ステップS42で得た位相マップ715を用いて2D位相補正を行うステップS434、位相補正後の奇数ライン画像と偶数ライン画像を複素加算するステップS435、絶対値を求めて補正後の画像を取得するステップS436を含む。
【0043】
本ステップの具体例を、
図8を用いてさらに説明する。
まずDWI撮像S412〜S414により取得したDWI画像用データ801に対して、低次の位相補正を行う(S431)。具体的には、DWI画像用データ801をリードアウト方向にフーリエ変換し、xky空間データとする(S81)。このxky空間データについて、xky位相補正データ720を用いてxky位相補正を適用する(S82)。xky位相補正データ720は、位相マップ作成ステップS42のxky位相補正で用いたデータと同じく、事前撮像で取得したデータを用いることができる。この場合にも、エコー毎の誤差が小さい場合は、xky位相補正は不要である。
【0044】
次いでDWI画像用データ801の奇数ラインと偶数ラインを分離する(S83)。奇数ラインを分離する際は、偶数ラインをゼロ埋めし、偶数ラインを分離する際は奇数ラインをゼロ埋めすればよい。それぞれのデータに位相エンコード方向のフーリエ変換を適用し、奇数ライン画像811と偶数ライン画像812を生成する(S84)。奇数ラインと偶数ラインとを分離して作成した画像811、812では、低次の奇/偶間誤差は低減されているが、リードアウト方向の高次の誤差や位相エンコード方向の誤差は残っている。
【0045】
このような高次の誤差が残る奇数ライン画像811と偶数ライン画像812に対して、ステップS42で算出した2D位相マップ715を用いて2次元の位相誤差を補正する(S85)。2D位相マップ715を用いた2次元位相補正では、
図8に示すように、2D位相マップ715を位相エンコード方向に1/2シフトした後、奇数ライン画像811と偶数ライン画像812に適用する。ここで2D位相マップ715は、
図7のリードアウトを反転したデータ701、702のうち、どちらを基準にした位相差分マップであるかに応じて、位相補正における演算を逆にする必要がある。例えば奇数ラインを基準にした位相差を表すものである場合には、奇数ライン画像811に対し、位相マップの位相補正値を差し引くため除算処理を行い、偶数ライン画像812に対し、位相マップの位相補正値を加えるため乗算処理を行う。
【0046】
2次元位相補正後の奇数ライン画像811と偶数ライン画像812とを複素加算し(S86)、絶対値化し(S87)、高次の位相誤差も含めて位相補正された画像815が得られる。
【0047】
上述した補正ステップS43の処理は、計測ステップのS412〜S413で得られた全ての画像データに対し、適用される。また加算数が2以上の場合には、撮像画像毎に二次元位相補正処理を適用した後、絶対値画像を加算することが望ましい。
【0048】
[拡散画像作成ステップS44]
画像作成部21が、MPGパルスの印加方向ごとに得られた補正後画像と位相マップ作成に用いたb値=0の画像とを用いて、拡散トレース画像やADCマップなどの拡散画像を作成する。これら拡散画像の作成手法は公知の手法と同じであり、詳しい説明を省略するが、拡散トレース画像の場合には、例えばAP方向、RL方向及びHF方向の補正後画像を合成し、拡散の強さを表す画像を作成する。またADCマップは、b値=0の画像を用いて、b値に対する信号値(対数)の傾きから、画素毎にみかけの拡散係数(ADC)を算出し、ADCの値を画素値とする画像すなわちADCマップを得る。
【0049】
ここでb値=0の画像については、位相マップ作成に用いた一対の画像用データ(
図7、701,702)を用い、他のDWI画像用データと同様にxky位相補正を適用した後、そのまま複素加算することで生成することができる。もしくは、位相マップ作成時に生成した正極画像711と負極画像712の絶対値画像を加算して生成しても良い。
【0050】
以上、説明したように、本実施形態によれば、画像用データの低次の位相誤差を補正して二次元位相補正用の位相マップを作成して用いるので、高次且つ精度のよい位相補正を行うことができる。また本実施形態によれば、DWI撮像において拡散画像作成用に取得するb値=0の画像用データを用いて2次元位相補正を行うための2D位相マップを作成するので、追加のリファレンス撮像を必要とせず、ナイキストゴーストを低減したDWI画像を得ることができる。
【0051】
<<第一実施形態の変形例>>
第一実施形態では、DWI撮像においてb値がゼロの画像用データを用いて位相マップを作成し、その他のb値の画像を補正した場合を説明したが、2D位相マップを作成したb値ゼロの画像についても、同じ2D位相マップを用いて補正してもよい(自己補正という)。この場合、b値=0の画像は、他のb値画像と同じフロー(
図8の手順)で補正してもよいし、位相マップ作成中に取得した画像(
図7の画像711、712)を利用してもよい。
【0052】
一般に、画像が局所的な誤差を含んでいる場合、複素加算により僅かにシェーディングや歪みが生じる。従って、一対のb値=0の画像を複素加算して拡散画像の作成に用いる場合、シェーディング等が生じる可能性がある。しかし本変形例のように、2次元位相補正を、補正用位相マップを作成した画像自身に適用することで誤差が低減されるため、ナイキストゴーストだけでなく、局所的なシェーディングや歪みが低減された画像が得られる。
【0053】
さらにMPGパルスを印加しない撮像(b値=0の撮像)を加算数2以上で繰り返す場合は、撮像毎に位相マップを生成し、自己補正しても良い。また、撮像毎に生成した位相マップを比較することで、突発的に生じたエラー箇所(局所)を同定することが可能である。その場合、エラー箇所を正常なマップに置換することで、位相補正による画質劣化を防ぐことができる。この場合の手順(S91〜S96)の一例を
図9に示す。
【0054】
正常なマップか否かの判断(S93)は、後述する第二実施形態の手法(不正箇所の検出)で行ってもよいし、それ以外の方法を用いてもよい。また置換すべき正常なマップがない場合には、第二実施形態の手法で補正量を調整した調整後位相マップを用いてもよい。
【0055】
<<第二実施形態>>
本実施形態は、第一実施形態において位相マップ生成部が取得した位相マップの不正箇所を検出し、不正箇所を補正した調整後位相マップを作成することが特徴である。
【0056】
位相マップ作成に用いた画像(第一実施形態ではb値=0の画像、以下、マップ用画像という)のナイキストゴーストが十分に低減できていれば、生成された位相マップは偶奇エコー間の誤差を適切に現している。一方、撮像時に面内オブリークした際など、ハードウェア制御による誤差が大きく生じる条件下では、偶奇エコー間の誤差を補正しきれず、マップ用画像にナイキストゴーストなどのアーチファクトが残るケースがある。この状態で生成された位相マップは、偶奇エコー間の誤差を適切に現しておらず、これをDWI画像に適用すると信号欠損などの画質劣化を引き起こす。このため本実施形態では、位相マップから不正な箇所を検出し、位相補正量を調整することでDWI画像の信号欠損等の画質劣化を低減する。
【0057】
本実施形態における演算部20の構成を
図10に示す。
図10において、
図1に示す要素はと同じ符号で示し重複する説明は省略する。
図10に示すように、本実施形態の演算部20は、位相マップ生成部25が作成した2D位相マップの不正箇所を補正する位相マップ調整部27を備える。演算部20における2D位相マップの作成及び調整後位相マップを用いた位相補正の手順は、第一実施形態と同様であるので、以下異なる点を中心に本実施形態を説明する。
【0058】
図11に本実施形態の位相マップ調整部27が行う処理手順を示す。図中、点線で囲って示すように、位相マップ調整部27は、作成した2D位相マップ(
図7:715)を用いて信号強度変化を表すマップ(信号強度変化マップ)を作成する処理S1101、信号強度変化マップの信号強度変化に基づいて、補正量調整値を決定し、補正量調整マップを生成する処理S1102、を行う。
【0059】
以下、
図11を参照して、各処理を具体的に説明する。
【0060】
信号強度変化マップ作成処理S1101では、まず位相マップ生成部25が作成した位相マップ715と、それを位相エンコード方向に1/2シフトした位相マップ716から(S111)、それぞれ絶対値が1の複素数データ715A、715B(Exp(iθ))を生成する。これら複素データを複素加算し(S112)、絶対値化したものを2で割り(S113、S114)、信号強度変化マップ717を得る。このマップ717は、2次元位相補正処理を適用した際の信号値の変化量を示している。
図11の信号強度変化マップ717において、中央の円は被検体部分と、
上下の半円はゴーストの部分を示している。
【0061】
通常、ゴースト量(ゴーストによって生じる信号値の変化量)は画像の信号値の半分程度であるため、被検体とゴーストが重なっている部分(マップ717の中央円と上下半円とが重なる部分)においては2次元位相補正処理により信号値が半分以下になることは稀である。従って、信号強度変化マップ717の数値(もとの信号強度に対する変化後の信号強度の割合:信号強度変化率)は0.5〜1.0の範囲で分布することが期待される。つまり、期待される数値が上記範囲から外れる箇所は、強度変化が不正である蓋然性が極めて高い。例えば、変化率が0.1のような箇所は、信号値が消失することになるが、被写体が重なる部分において信号値が消失するのは明らかなエラーである。そういったエラー箇所に対しては正確な補正が期待できない。
【0062】
そこで補正量調整マップを生成する処理S1102では、信号強度変化マップ717の数値が所定の範囲(例えば0.5〜1.0、或いは)から外れる箇所(不正箇所)について、2D位相マップ715上の対応する箇所の補正値を調整するための調整値を、予め設定された信号値と調整値との関係に基づき決定する。信号強度変化率と補正量調整値との関係を示すグラフの一例を
図12に示す。このグラフは、数値が所定範囲から離れるほどエラーである確率が高まるとの知見をもとに、統計的にエラーである確率を加味して作成したLUT(Look−Up Table)の一例であり、信号強度変化率に対し、位相マップの補正量に乗ずる調整値をプロットしたものである。
【0063】
次いで信号強度変化マップ717を補正量調整値に置換し(S115)、マスク処理により被検体領域を抜き出し(S116)、補正量調整マップ719を得る。信号強度変化マップにおける同位置の強度変化率を0.5とすると、LUTより、その補正量調整量は約0.8となる。補正量調整マップ719は、2D位相マップ715とともにDWI画像の2次元位相補正に用いられる。
【0064】
本実施形態におけるDWI画像の2次元位相補正の方法は、第一実施形態の方法とほぼ同じであるが、
図13に点線で囲って示すように、2D位相マップ715を用いた2次元位相補正の前に、上述の補正量調整マップ719を用いて2D位相マップ715の補正量を調整する処理が加わる。すなわち、2D位相マップ715に補正量調整マップ719を乗算(S1103)したもの(調整後位相マップ)を用いて、xky補正や低次位相補正を行った後のDWI画像データ(奇数ライン画像及び偶数ライン画像)を2次元位相補正し、複素加算、絶対値化して補正画像を得る。
【0065】
本実施形態によれば、位相マップ生成部25が作成した2D位相マップのエラー箇所(不正箇所)を検出し、その値を置き換えて2次元位相補正を行うことにより、位相マップ作成時のエラーによる信号損失を低減し、より精度の高い位相補正を行うことができる。これにより、診断に使用するb値=0の画像にアーチファクトが生じている場合にも、信号欠損等の画質劣化が低減したDWI画像が得られる。
【0066】
なお上記説明では、位相マップ調整部27の機能として、不正箇所の検出から補正量調整値マップ作成までの処理を行うことを説明したが、位相マップ715に補正量調整値マップに乗算して調整後位相マップを生成する処理までを位相マップ調整部27の機能としてもよいことは言うまでもない。この場合、
図13に示す補正部23の処理は、位相マップ715が調整後位相マップに置き換わる以外は、
図8に示すものと同様になる。
【0067】
また本実施形態においても、第一実施形態と同様の変形例を採用することも可能である。
【0068】
<<第三実施形態>>
第一実施形態及び第二実施形態で生成した位相マップ及び補正量調整マップは、撮像条件と被検体によって変化するものの、その特性自体は概ね同じ傾向である。本実施形態では、そのことを利用し、ファントムなどを用いて予め位相マップを取得・保持しておき、その情報をリファレンスとして使用することが特徴である。なお、このリファレンスは、撮像時に取得する従来のリファレンス画像とは異なり、装置の据付時など実際の撮像とは異なる場面で取得するものである。
【0069】
本実施形態における演算部20の構成を
図14に示す。
図14において、
図1に示す要素と同じ符号で示し重複する説明は省略する。
図14に示すように、本実施形態の演算部20は、位相マップ生成部25が作成した位相マップ(本撮像位相マップという)と、予め記憶部50に格納された位相マップ(据付時位相マップという)とを比較し、本撮像位相マップに合わせて据付時位相マップを変形し、変形後位相マップを生成する位相マップ変形部29を備える。
【0070】
据付時位相マップは、例えば、MRI装置の据付時などのファントムを用いて複数の撮像条件でEPI撮像を行い、得られた画像を用いて、例えば第一実施形態で説明した方法と同様の方法或いはFOVを2倍にしてデータを取得する従来法の手法で2次元位相補正用の位相マップを生成し、記憶部50に格納しておく。
【0071】
以下、
図15に示すフローを参照して、本実施形態における演算部20の動作を説明する。演算部20における処理は、位相マップ変形部29が変形後位相マップを生成すること(S153、S154)、及び補正部
23が2次元位相補正において変形後位相マップを用いること(S155)を除いて第一実施形態と同様である。第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0072】
位相マップ生成部25は、本撮像によって得た画像用データから第一実施形態と同様の方法で2D位相マップ(本撮像位相マップ)を作成する(S151、S152)。例えば、
図16(a)に示すような2D位相マップ1601が得られたものとする。図では、位相マップをリードアウト方向のラインプロファイルで示しているが、2D位相マップは位相エンコード方向も含む2次元マップである。この例では点線で囲った部分1602に局所エラーが発生している。
【0073】
位相マップ変形部29は、この2D位相マップ1601から、多項式近似等により、リードアウト方向及び位相エンコード方向それぞれの一次の傾きと位相変化量を算出する(S153−1)。一方、ファントム等で撮像した画像用データから作成した位相マップ(据付時位相マップ)のうち、本撮像と同じ撮像条件で取得した位相マップ1603(
図16(b))を記憶部50から読み出し、この据付時位相マップ1603を、ステップS153−1で求めた一次の傾きと位相変化量を用いて変形する(S153−2)。変形は、据付時データの位相に対してリードアウト方向・位相エンコード方向それぞれに一次の傾きを加えたり一定値を乗算したりするなどすれば良い。これにより、変形後の位相マップ1605(
図16(c))を得る(S153、S154)。
【0074】
補正部
23は、こうして得た変形後位相マップ1605を用いて、本撮像で得た画像(位相マップ1601の作成に用いた画像を含んでも含まなくてもよい)の2次元位相補正を行う。この処理は、
図8に示す第一実施形態の補正処理と同じである。変形後位相マップ1605は、本撮像時に混入する局所的なエラー(1602)を含んでいないため、これを2次元位相補正に用いることで最終的に得られる画像の画質劣化が低減される。
【0075】
なお、
図16に示す処理では、本撮像の2D位相マップ1601から傾き及び位相変化量を求めて、これに合わせて据付時位相マップ1603を変形させたが、据付時位相マップ1603における一次の傾きと位相の変化量を逐次変形しながら本撮像位相マップ1601と比較し、両者間の誤差が最小となるものを最適な変化量としてもよい。
【0076】
本実施形態によれば、予め撮像条件毎に取得しておいた据付時位相マップを、本撮像で得た2D位相マップに合わせて変形して、2次元位相補正に適用することにより、補正の精度を高めることができる。また、本実施形態によれば、変形後の据付時データと本撮像位相マップを比較することで、本撮像位相マップの不正箇所とその程度がわかるので、第二実施形態と同様に、補正量調整マップを生成し、適用することも可能であり、これによりさらに2次元位相補正による画質劣化を低減することができる。
【0077】
<<第四実施形態>>
第一実施形態では、DWI撮像を行う場合を説明したが、本発明はナイキストゴースト補正に用いる位相マップを被検体の撮像で得た画像用データから作成することが特徴であり、DWI撮像に限らず、被検体の時系列画像を取得する機能撮像(f−MRI)などEPIシーケンスを繰り返し動作させる撮像であれば、全て適用することができる。その場合、
図17に示すように、例えば時系列画像A1、A2・・・のうち最初に取得した画像A1から2D位相マップを作成し、以降の画像データを補正すればよい。また第一実施形態の変形例(
図9)で説明したように、1ないし複数の撮像毎に2D位相マップを作成し、それらを比較することで2D位相マップのエラーの検出や正常な位相マップによる置換などを行ってもよい。
【0078】
以上、本発明のMRI装置及びナイキスト補正の各実施形態と変形例を説明したが、これら実施形態で説明した処理の一部を省略したり、公知の処理を追加したりすることも本発明に包含される。