特許第6986674号(P6986674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986674
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】プラズマスパッタリング成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20211213BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20211213BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20211213BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20211213BHJP
   H05H 1/48 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C23C14/34 T
   C23C14/32 H
   C23C14/24 F
   H05H1/46 A
   H05H1/48
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-202864(P2017-202864)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-73788(P2019-73788A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】高井 健志
(72)【発明者】
【氏名】山口 淳一
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−064676(JP,A)
【文献】 特開2008−038203(JP,A)
【文献】 特開2013−023744(JP,A)
【文献】 特開平02−073967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/32
C23C 14/24
H05H 1/46
H05H 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に設置された基材に対して成膜を行う成膜室と、前記成膜室外の上方に隣接して設置される複数のホロカソードプラズマガンと、前記成膜室内の底面に設置される複数のホロカソードプラズマガン用アノードと、前記成膜室内の対向する側面に設置される複数の蒸着材料と、前記複数のホロカソードプラズマガンと前記成膜室の間に設置される複数の第1コイルと、前記成膜室外の下方で前記複数のホロカソードプラズマガン用アノードの鉛直直下に設置される複数の第2コイルと、を備えており、前記ホロカソードプラズマガンから発生するプラズマは、前記ホロカソードプラズマガン用アノードへ向けて鉛直下方に収束し、かつ前記成膜室内の中央に設置された前記基材の外方に位置することを特徴とするプラズマスパッタリング成膜装置。
【請求項2】
前記複数のホロカソードプラズマガンから発生するプラズマの中心と前記蒸着材料の表面との距離は5〜15mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマスパッタリング成膜装置。
【請求項3】
前記成膜室内は横断面視で八角形の形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマスパッタリング成膜装置。
【請求項4】
前記成膜室には、前記成膜室内の対向する側面に設置される複数のアーク放電用電極と、前記複数のアーク放電用電極に隣接して設置される複数の第2蒸着材料と、をさらに備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプラズマスパッタリング成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に鋼製の基材に対して硬質皮膜の成膜を行う成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鋼製の基材(基板)の表面にTiN(窒化チタン)膜やダイヤモンド膜を被覆するには、減圧雰囲気にした空間(成膜室)にて被覆すべき皮膜の成分から形成される蒸着材料を蒸発、イオン化することで基材の表面に皮膜を被覆する。このような成膜室を備えた装置(成膜装置)は、被覆すべき蒸着材料をイオン化することで成膜することからイオンプレーティング装置とも呼ばれている。
【0003】
このイオンプレーティング装置としては、例えば、特許文献1および2に開示されているようにアーク放電を利用して成膜する方式(アーク方式)やスパッタリング現象により成膜を行う方式(スパッタ方式)による装置がそれぞれ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−213664号公報
【特許文献2】特開平6−25846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に開示されているアーク方式による成膜装置では、ドロップレットと呼ばれる溶融粒子が皮膜を被覆する部材に付着するという問題があった。このドロップレットは、蒸着材料の物性に関わらずアーク方式という成膜方式に起因して発生する。
【0006】
アーク方式はターゲットの表面に電極を用いてアーク放電を発生させて、ターゲットを瞬間的に加熱、蒸発させる方式であるため、加熱されるターゲットの部位は局所的となる。そのため、均一に加熱されたターゲットの部位は蒸発するが、その周辺部の加熱状態は蒸発される領域が限定されるので、結果として液状の塊が発生し、その塊がドロップレットとなる。また、アーク方式による成膜ではW、Mo、Ta等の高融点の金属やSi、SiO、Al等の絶縁性の蒸着材料(ターゲット)を用いた成膜は困難であった。
【0007】
一方、スパッタリング方式による成膜は、上述した高融点の金属や絶縁性の蒸着材料を用いた成膜は比較的に容易に行うことができる。しかし、スパッタリング方式はアーク方式に比べて蒸着材料のイオン化率が低いので、良好な膜質が得られ難く、成膜速度も遅かった。それらの問題を解決する手段として、蒸着材料の周辺に磁石やコイルを設置する対策(いわゆるマグネトロンスパッタリング方式)が講じられてきた。
【0008】
ところが、蒸着材料の周辺に磁石やコイルを設置することで蒸着材料の周辺に特定の磁場が発生し、その磁場によって周囲から引き寄せられる電子は蒸着材料の同じ場所に集中するため、蒸着材料の同じ箇所のみから蒸発する結果、蒸着材料の歩留まりが低下するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明においては高融点の金属や絶縁物から形成された蒸着材料であってもイオン化率を向上できるプラズマスパッタリング成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するために、
本発明は基材に対して成膜を行う成膜室と、
成膜室外の上方に隣接して設置される複数のホロカソードプラズマガンと、
成膜室内の底面に設置される複数のホロカソードプラズマガン用アノードと、
成膜室内の対向する側面に設置される複数の蒸着材料と、
複数のホロカソードプラズマガンと成膜室の間に設置される複数の第1コイルと、
成膜室外の下方で複数のホロカソードプラズマガン用アノードの鉛直直下に設置される複数の第2コイルと、を備えるプラズマスパッタリング成膜装置とした。
【0011】
また、この成膜装置は、複数のホロカソードプラズマガンから発生するプラズマの中心と蒸着材料の表面との距離を5〜15mmの範囲とすることもできる。さらに、成膜室内は横断面視で八角形の形状とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプラズマスパッタリング成膜装置を用いることにより、高融点の金属や絶縁物から形成された蒸着材料であっても1台の成膜装置で成膜が可能であり、かつ蒸着材料のイオン化率を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の一例であるプラズマスパッタリング成膜装置10の正面図である。
図2】同成膜装置10の平面図である。
図3図1に示すX−X断面図である。
図4図2に示すY−Y断面図である。
図5】同成膜装置10内にて発生するプラズマ20と蒸着材料4Bの配置関係を表す模式横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の一例について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態の一例を示すプラズマスパッタリング成膜装置10の正面図、図2図1に示す同成膜装置10の平面図(上面図)を示す。また、図3図1に示すプラズマスパッタリング成膜装置10のX−X断面図、図4図2に示すプラズマスパッタリング成膜装置10のY−Y断面図を示す。
【0015】
本発明に係るプラズマスパッタリング成膜装置10は、図1に示すように内部を減圧の雰囲気下にして成膜を行う成膜室(チャンバ)1を架台Gの上部に配置した構成である。そして、成膜室1の側面に設けられた2ヶ所のレバー7、17を用いてハッチ8を開閉して、後述する成膜室1内の中央に設置されたテーブルTにワークWを置くことで成膜を行う。
【0016】
この成膜室1は、図1および図2に示すように成膜室1外部の上方には2台のホロカソードプラズマガン(HCDガン)2、12が成膜室1の中心位置を対称として(正面視で)左右両側にそれぞれ配置されている。同様に、成膜室1外部の上方には2台のホロカソードプラズマガン(HCDガン)2、12と成膜室1の境界部分の周囲を取り囲む様に2個の第1コイル5、15が取り付けられている。
【0017】
成膜室1外部の上方に取り付けられた2台のホロカソードプラズマガン2、12は、図3および図4に示すように成膜室1内部の底部に設置された専用のアノード3、13に向けてプラズマを発生させることができる。また、成膜室1外部の下方には専用のアノード3、13の鉛直直下の位置に第2コイル6、16が架台G内に設置されている。これらの第2コイル6、16に通電することでアノード3、13の周辺に磁場が発生し、2台のホロカソードプラズマガン2、12から発生するプラズマを専用のアノード(ホロカソードプラズマガン用アノード)3、13に収束させることができる。
【0018】
2台のホロカソードプラズマガン2、12から発生するプラズマは、図3および図4に示すように成膜室1の側面に互いに対向する形態で設置された蒸着材料(ターゲット)4A、4B、14A、14Bをスパッタリングすることで、成膜室1内の中央に設置されたテーブルT上のワークWに対して成膜を行うことができる。
【0019】
図5は、ホロカソードプラズマガン12から発生するプラズマ20と成膜室1内に設置された蒸着材料4Bの位置関係を示す(蒸着材料4B周辺の)模式横断面図である。成膜時におけるプラズマ20の中心20Cと蒸着材料4Bの表面4Sの距離dは、図5に示すようにd=5mm〜15mmの範囲とすることが望ましい(なお、図4に示すプラズマ20の中心20Cは仮想線として図示している)。
【0020】
この距離dが5mm未満の場合、プラズマ20の熱により過剰に蒸着材料4が蒸発するので成膜速度を制御することが困難になる。また、距離dが15mmを越えると、プラズマ20のイオンが蒸着材料4Bの表面4Sに届き難く、蒸着材料の蒸発量が減少し、成膜速度が低下する。
【0021】
プラズマ20と蒸着材料4Bを上記のような位置関係とすることで、蒸着材料4Bの表面4Sには高密度のプラズマが存在し、スパッタリングにより蒸発した粒子のイオン化率が向上する。また、スパッタリング方式による成膜であるため、高融点の金属や絶縁物から形成された蒸着材料であっても成膜が可能である。
【0022】
なお、本実施形態で示す成膜装置10の成膜室1内には、図1および図3に示すようにHCD方式にて使用する4個の蒸着材料(ターゲット)4A、4B、14A、14Bとは別個にさらに4個のアーク方式用蒸着材料50、51、60、61も互いに対向するように設置することができる。また、アーク方式用蒸着材料に隣接して図示しないアーク放電用電極を設けることもできる。そのような構成とすることで、成膜装置10はホロカソードプラズマガン2、12を用いる成膜方式とは別個にアーク方式による成膜も行うことができる。
【符号の説明】
【0023】
1 成膜室
2、12 ホロカソードプラズマガン
3、13 ホロカソードプラズマガン用アノード
4A、4B 蒸着材料
4S 蒸着材料4Bの表面
5、15 第1コイル
6、16 第2コイル
10 プラズマスパッタリング成膜装置
14A、14B 蒸着材料
20 プラズマ
20C プラズマ20の中心
d プラズマ20の中心20Cから蒸着材料4Bの表面4Sまでの距離
図1
図2
図3
図4
図5