(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986729
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】単結晶磁気抵抗素子、及びこれを用いたデバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 43/10 20060101AFI20211213BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20211213BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20211213BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20211213BHJP
G11B 5/39 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
H01L43/10
H01L43/08 Z
H01L43/08 M
H01F10/16
H01F10/32
G11B5/39
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-41147(P2017-41147)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-148006(P2018-148006A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉民
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】
加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−502522(JP,A)
【文献】
特開2010−212631(JP,A)
【文献】
米国特許第06503405(US,B1)
【文献】
特表2006−505891(JP,A)
【文献】
特開2010−073960(JP,A)
【文献】
特開2016−134520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/10
H01L 43/08
H01F 10/16
H01F 10/32
G11B 5/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si(001)単結晶基板であるシリコン基板と、
このシリコン基板に積層されたB2構造の下地層であって、前記B2構造の下地層はNiAl、CoAl、FeAlからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
当該B2構造の下地層に積層された拡散防止層であって、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、
この拡散防止層に積層された第1の非磁性層であって、Ag、V、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、Ta、Ru、Re、Rh、NiO、CoO、TiN、CuNからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
下部強磁性層及び上部強磁性層、並びに当該下部強磁性層と当該上部強磁性層の間に設けられた第2の非磁性層を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層とを備え、
前記下部強磁性層は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、
前記第2の非磁性層はAg、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、TaおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、
前記上部強磁性層は、Co基ホイスラー合金、FeおよびCoFeの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる
ことを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記Co基ホイスラー合金は、式Co2YZで表されると共に、
式中、YはTi、V、Cr、MnおよびFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、ZはAl、Si、Ga、GeおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記B2構造の下地層は、膜厚が10nm以上200nm未満であり、
前記拡散防止層は、膜厚が1nm以上30nm未満であり、
前記第1の非磁性層は、膜厚が0.5nm以上100nm未満であり、
前記下部強磁性層は、膜厚が1nm以上10nm未満であり、
前記第2の非磁性層は、膜厚が1nm以上20nm未満であり、
前記上部強磁性層は、膜厚が1nm以上10nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
磁気抵抗比は20%以上であり、
抵抗変化面積積(ΔRA)は5mΩμm2以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気抵抗素子を用いたデバイス。
【請求項6】
前記デバイスは、記憶素子上で使用される読み出しヘッド、磁界センサ、スピン電子回路、およびトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスの何れか一つであることを特徴とする請求項5に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面直電流巨大磁気抵抗素子等の電極材料として用いて好適な強磁性薄膜を有する磁気抵抗素子に関し、特に大口径のSi単結晶基板上へ強磁性薄膜の(001)面をエピタキシャル成長させた単結晶磁気抵抗素子に関する。
また、本発明は、上記の単結晶磁気抵抗素子
及びこれを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
FeやFeCoなどの強磁性薄膜は、トンネル磁気抵抗(TMR)素子や面直電流巨大磁気抵抗素子の電極材料として多用されている。これら強磁性材料の多くは体心立方(bcc;body-centered cubic lattice)構造を持つ。これらの磁気抵抗素子はハードディスクドライブ(HDD)の再生ヘッドや磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)の記録素子に使われている。また高いスピン分極率を持つCo基ホイスラー合金を強磁性層とした面直電流巨大磁気抵抗(CPP−GMR)素子は、次世代の高密度HDD用磁気ヘッドとしての応用が強く期待されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
ところが、実用化されているこれらの磁気抵抗素子はすべて多結晶構造を持っている。例えば、CoFeB強磁性材料を電極として酸化マグネシウム(MgO)をトンネルバリアとするトンネル磁気抵抗素子は、次の製造工程を有する。
(i)Cu電極の上に成膜したアモルファスTa上にアモルファスCoFeBを成膜する。
(ii)上記(i)のアモルファスCoFeBの上に、強い(001)配向で成長するMgOトンネルバリアを成膜する。
(iii)上記(ii)のMgOトンネルバリアの上に、さらにアモルファスCoFeBを成膜する。
(iv)上記の成膜された多層膜を熱処理して、アモルファスCoFeBが体心立方構造のCoFeに結晶化する。
(v)このとき、多結晶の個々の結晶がミラー指数を用いて(001)[001]CoFe//(001)[011]MgOの整合関係になり、そのためにトンネル電子が高くスピン分極する。
そして、上記(i)〜(v)により高いトンネル磁気抵抗が発現する。
【0004】
アモルファスFeCoBから結晶化した多結晶の個々の結晶がMgOやMgAlO等の酸化物バリアと(001)[001]CoFe//(001)[011]MgOの整合関係になることが高いトンネル磁気抵抗を得るために必要で、最近ではMgOのほか、MgAl
2O
4や非化学量論のMgAlOなどのトンネルバリアも使われている。いずれも高いトンネル磁気抵抗を発現するためにはFe、Coとその合金、Co基ホイスラー合金などのbccを基本構造とする強磁性体がミラー指数の(001)方向に配向する必要がある。
【0005】
一方、面直電流巨大磁気抵抗(CPP−GMR;current perpendicular to plane−Giant magneto resistance)素子は強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層膜をサブμm以下のサイズのピラー化させた構造を持つ。ピラーに対して電流を流した際、2つ強磁性層の磁化の相対角度によって電気抵抗が変化するため、磁場を電気的に検出することができる。しかしながら、CoFeなど一般的な強磁性体を利用した場合においては磁気抵抗(MR;magnetoresistance)比が3%程度であり(非特許文献1参照)、磁気センサとしての感度が低いことが課題であった。ところが近年、MgO基板に高いスピン分極率を有するCo基ホイスラー合金(Co
2MnSi、Co
2(Fe
0.4Mn
0.6)Si、Co
2Fe(Ga
0.5Ge
0.5)など)を強磁性層として成長させたホイスラー合金層/非磁性層/ホイスラー合金層のエピタキシャルCPP−GMR素子で、30−60%もの磁気抵抗比が実現された(非特許文献2−4参照)。このような低抵抗・高磁気抵抗比を有する磁気抵抗素子は他に例がなく、2Tbit/inch
2以上の面記録密度を有する次世代のハードディスクドライブ(HDD)用のリードヘッドなど様々なデバイスへ応用が大きな期待を集めている。
【0006】
しかしながら、ホイスラー合金電極を利用した素子は、高価な(001)−MgO基板上に作製した(001)配向単結晶薄膜を500℃以上で熱処理しないとMR比30%を超えるような高い特性が得られないという重大な課題がある。一般的に用いられる熱酸化膜付きSi基板上に多結晶素子を作製した場合、その特性は単結晶素子よりも遥かに劣ることが分かっている(非特許文献5参照)。また、ホイスラー合金を強磁性層、Agをスペーサ層とした単結晶CPP−GMR素子ではMR比が結晶方位に大きく依存し、強磁性層が(001)面に配向する場合に最も高いMR出力が出ることも報告されている(非特許文献6参照)。このような背景から(001)面に配向させた多結晶磁気抵抗素子も提案されている(特許文献3)。現在使われており、HDD用リードヘッド応用のためには、磁気シールドとして電着成膜させたパーマロイ層の上に磁気抵抗素子を作製する必要があるが、その場合、強磁性層は(011)に配向した多結晶となる。また350℃以上で熱処理をするとパーマロイ層の拡散や再結晶化などの問題が生じる。これらのことから、強磁性層が(001)に配向した単結晶素子を安価なSiウェーファーに成長させることができれば、大きなMR比の磁気抵抗素子を達成できると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5245179号公報
【特許文献2】WO2012/093587A1
【特許文献3】WO2014/163121A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yuasa et al., J. Appl. Phys. 92, 2646 (2002)
【非特許文献2】Y. Sakuraba, et al., Appl. Phys. Lett. 101, 252408 (2012)
【非特許文献3】Li et al., Appl. Phys. Lett. 103, 042405 (2013)
【非特許文献4】Du et al., Appl. Phys. Lett. 107, 112405 (2015).
【非特許文献5】Du et al., Appl. Phys. Lett. 103, 202401 (2013).
【非特許文献6】J. Chen et al. J. Appl. Phys. 115, 233905 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するもので、高い磁気抵抗比を実現するために必要な強磁性層を(001)に配向させた単結晶磁気抵抗素子を提供することを目的とする。
さらに本発明は、大口径のSi基板上に、MgO基板上と同様の(001)配向を有する単結晶素子を有する単結晶磁気抵抗素子を提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記の単結晶磁気抵抗素子を用いたデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の単結晶磁気抵抗素子は、例えば
図1に示すように、シリコン基板11と、このシリコン基板11に積層されたB2構造の下地層12と、当該B2構造のNiAlの下地層12に積層された拡散防止層12Aと、この拡散防止層12Aに積層された第1の非磁性層13と、下部強磁性層14及び上部強磁性層16、並びに当該下部強磁性層14と当該上部強磁性層16の間に設けられた第2の非磁性層15を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層17とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の単結晶磁気抵抗素子において、好ましくは、シリコン基板11はSi(001)単結晶基板であるとよい。また、B2構造の下地層12は NiAl、CoAl、FeAlからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。拡散防止層12Aは、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1の非磁性層13はAg、V、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、Ta、Ru、Re、Rh、NiO、CoO、TiN、CuNからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。下部強磁性層14は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2の非磁性層15はAg、Cr、Fe、W、Mo、Au、Pt、PdおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。上部強磁性層16は、Co基ホイスラー合金、FeおよびCoFeの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
【0012】
本発明の単結晶磁気抵抗素子において、好ましくは、Co基ホイスラー合金は、式Co
2YZで表されると共に、式中、YはTi、V、Cr、MnおよびFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、ZはAl、Si、Ga、GeおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
【0013】
本発明の単結晶磁気抵抗素子において、好ましくは、B2構造の下地層12は、膜厚が10nm以上200nm未満であり、拡散防止層12Aは、膜厚が1nm以上30nm未満であり、第1の非磁性層13は、膜厚が0.5nm以上100nm未満であり、下部強磁性層14は、膜厚が1nm以上10nm未満であり、第2の非磁性層15は、膜厚が1nm以上20nm未満であり、上部強磁性層16は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。
【0014】
ここで、B2構造の下地層12の膜厚が200nm以上の場合、表面ラフネスが悪化し、また10nm未満の場合、Si基板とB2構造の下地層12との拡散の影響が支配的となり本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
拡散防止層12Aは、膜厚が30nmである場合、表面ラフネスが悪化し、また1nm未満の場合、連続的な膜を成さず拡散防止層としての効果が得られない。
第1の非磁性層13が100nm以上である場合、表面ラフネスが悪化し、また0.5nm未満の場合、連続的な膜を成さず下地層としての効果が得られず、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【0015】
下部強磁性層14及び上部強磁性層16が10nm以上の場合、強磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm未満の場合、強磁性層中でのスピン非対称散乱の効果が小さく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
第2の非磁性層15の膜厚が20nm以上の場合、非磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm以下の場合、上部強磁性層16と下部強磁性層14の磁気的な結合が生まれ磁化相対角度が小さくなり、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【0016】
本発明の単結晶磁気抵抗素子において、好ましくは、磁気抵抗比は20%以上であり、抵抗変化面積積(ΔRA)は5mΩμm
2以上であるとよい。
【0017】
本発明の単結晶磁気抵抗素子の製造方法は、例えば
図2に示すように、シリコン基板11の自然酸化膜を除去する工程と(S100)、シリコン基板11の基板温度を300℃以上600℃以下とする工程と(S102)、自然酸化膜を除去したシリコン基板11上に、B2構造を有する下地層12を上記基板温度で成膜する工程と(S104)、下地層12を成膜したシリコン基板上に、拡散防止材料を上記基板温度で成膜する工程と(S106A)、拡散防止材料を成膜したシリコン基板上に、第1の非強磁性材料を上記基板温度で成膜する工程と(S106B)、第1の非強磁性材料を成膜したシリコン基板に、下部強磁性材料の層、第2の非強磁性材料の層及び上部強磁性材料の層を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層を成膜する工程と(S108)、上記巨大磁気抵抗効果層を成膜した前記シリコン基板を200℃以上600℃以下で熱処理する工程(S110)を有することを特徴とする。
【0018】
ここで、下地層12の成膜する工程での基板温度が300℃未満の場合、下地層12が単結晶成長せず、また600℃より大きい場合下地層12の表面ラフネスの悪化により本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。また巨大磁気抵抗効果層を成膜したシリコン基板の熱処理温度が200℃未満の場合、下部強磁性層と上部強磁性層での原子規則化が生じず、また600℃より大きい場合、巨大磁気抵抗効果層の拡散により、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【0019】
本発明のデバイスは、上記の単結晶磁気抵抗素子を用いたことを特徴とする。
上記の前記デバイスは、記憶素子上で使用される読み出しヘッド、磁界センサ、スピン電子回路、およびトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスの何れか一つであるとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の単結晶磁気抵抗素子によれば、大口径のSi基板上に、MgO基板上と同様の、(001)配向を有する単結晶素子を有する単結晶磁気抵抗素子を提供できると共に、ホイスラー合金を用いた単結晶巨大磁気抵抗素子を実デバイスへ応用するための量産性と低価格化を実現するのに必要とされる基幹的な単結晶磁気抵抗素子を提供できる。
【0021】
また、本発明の単結晶磁気抵抗素子によれば、B2構造を有する層を下地とすることによってSi基板界面に安定なシリサイドが形成され、500℃以上の熱処理耐性と高い界面平坦性を有する単結晶巨大磁気抵抗素子を作製することができ、MgO基板上の素子と同等の特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子の構成断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例と比較例を示す巨大磁気抵抗素子の磁気抵抗効果の熱処理温度依存性を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例を示す薄膜断面の透過型電子顕微鏡像と各組成元素のエネルギー分散スペクトル元素マッピング像である。
【
図5】
図5は、本発明の比較例を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子の構成断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の比較例を示す薄膜断面の透過型電子顕微鏡像と各組成元素のエネルギー分散スペクトル元素マッピング像である。
【
図7】
図7は、本発明の比較例を示すSi(001)基板上に基板温度300、400、500及び600℃で成長させたNiAl薄膜のXRDパターンとRHEED像を示してある。
【
図8】
図8は、本発明の比較例を示すSi(001)基板上に基板温度300、400、500及び600℃で成長させたNiAl薄膜のAFM像である。
【
図9】
図9は、本発明の比較例を示すSi(001)基板/NiAl(50nm)上に成長させたAg層のRHEED像とポストアニール後のAFM像である。
【
図10】
図10は、本発明の比較例を示すSi(001)/NiAl/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ru薄膜の断面電子顕微鏡像とナノビームを使った各層からの回折像である。
【
図11】
図11は、本発明の比較例を示すMgO基板上に成長させたCr/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ru単結晶薄膜の断面電子顕微鏡像とCFGG層からの回折像である。
【
図12】
図12は、本発明の比較例を示すSi(001)/NiAl/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ru単結晶巨大磁気抵抗素子(熱処理温度400℃)の磁気抵抗効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子の構成断面図である。図において、本実施形態の巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子10は、シリコン基板11、このシリコン基板11に積層されたB2構造の下地層12、当該B2構造の下地層12に積層された拡散防止層12A、この拡散防止層12Aに積層された第1の非磁性層13、巨大磁気抵抗効果層17及びキャップ層18を有している。巨大磁気抵抗効果層17は、下部強磁性層14及び上部強磁性層16、並びに当該下部強磁性層14と当該上部強磁性層16の間に設けられた第2の非磁性層15を有する積層体層からなるものであるが、これらの積層体層を複数積層しても良い。巨大磁気抵抗効果層17は、第1の非磁性層13とキャップ層18の間に位置している。なお、必要に応じてキャップ層18の上に、上部電極層を設けても良い。
【0024】
シリコン基板11は、Si(001)単結晶基板であり、汎用の8インチのような大口径のSi基板を用いることができる。B2構造の下地層12は、B2構造のNiAl、CoAl、FeAlの格子定数がそれぞれ0.288nm、0.286nm、0.295nmとSi(001)面との格子不整合が10%未満と比較的良好であるとともに、1300℃を超える高い融点を持つ化学的に安定な材料である。B2構造の下地層12は、膜厚が10nm以上200nm未満がよい。本発明ではB2構造の下地層12に採用することで、Si(001)基板上に体心立方格子(bcc)を基本構造とする強磁性層をミラー指数で(001)方向で単結晶薄膜として成膜できる。拡散防止層12Aは、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。拡散防止層12Aは、膜厚が1nm以上30nm未満であるとよい。
【0025】
第1の非磁性層13はAg、V、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、Ta、Ru、Re、Rh、NiO、CoO、TiN、CuNからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1の非磁性層13は、膜厚が0.5nm以上100nm未満であるとよい。
下部強磁性層14は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。下部強磁性層14は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。
【0026】
第2の非磁性層15はAg、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、TaおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2の非磁性層15は、膜厚が1nm以上20nm未満であるとよい。
上部強磁性層16は、Co基ホイスラー合金、FeおよびCoFeの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。上部強磁性層16は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。
【0027】
上記のCo基ホイスラー合金は、式Co
2YZで表されると共に、式中、YはTi、V、Cr、MnおよびFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、ZはAl、Si、Ga、GeおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
キャップ層18は、Ag、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、TaおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。キャップ層18は、膜厚が1nm以上100nm未満であるとよい。上部電極層を設ける場合には、電極用材料として多用されているCu、Al等を用いると良い。
【0028】
次に、このように構成された装置の製造工程について説明する。
図2は、本発明の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子10の製造方法を説明するフローチャートである。図において、まず最初の工程では、シリコン基板11の自然酸化膜を除去し(S100)、続いてシリコン基板11の基板温度を300℃以上600℃以下に保持する(S102)。そして、自然酸化膜を除去したシリコン基板11上に、B2構造を有する下地層を上記基板温度で成膜して、下地層12を成膜する(S104)。次に、下地層12を成膜したシリコン基板上に、拡散防止材料を上記基板温度で成膜する(S106A)。続いて、拡散防止材料を成膜したシリコン基板上に、第1の非強磁性材料を上記基板温度で成膜する(S106B)。この拡散防止材料で成膜された層は拡散防止層12Aに対応し、第1の非強磁性材料で成膜された層は、第1の非磁性層13に対応している。
【0029】
続いて、第1の非強磁性材料を成膜したシリコン基板11に、下部強磁性材料の層、第2の非強磁性材料の層及び上部強磁性材料の層を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層17を成膜する(S108)。ここで、下部強磁性材料、第2の非強磁性材料及び上部強磁性材料で成膜された各々の層は、下部強磁性層14、第2の非磁性層15及び上部強磁性層16に対応している。次に、巨大磁気抵抗効果層17を成膜したシリコン基板の上にキャップ層18を成膜する。最後に、巨大磁気抵抗効果層17とキャップ層18を成膜したシリコン基板を200℃以上600℃以下でポストアニールとして熱処理する(S110)。
【0030】
上述し実施形態で説明した本発明は、(001)Co基ホイスラー合金単結晶膜を強磁性層とする面直電流巨大磁気抵抗素子に使用することができる。そこで、この実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0031】
最初の実施例では、希釈したフッ酸によって表面の自然酸化膜を除去したSi(001)単結晶基板上に、B2構造を有するNiAl(厚さ50nm)を基板温度300℃乃至600℃で成膜した。
【0032】
図3は、本発明の実施例と比較例を示す巨大磁気抵抗素子の磁気抵抗効果の熱処理温度依存性を説明する図で、横軸はアニール処理温度で、縦軸は抵抗変化面積積(ΔRA)を示している。
【0033】
本発明の実施例は、Si(001)/NiAl/CoFe/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ruと積層させた単結晶となるエピ型巨大磁気抵抗素子膜で、図中白抜きの星印☆で示してある。
比較例1は、Si(001)/NiAl/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ruと積層させた単結晶となるエピ型巨大磁気抵抗素子膜で、図中黒塗りの星印★で示してある。比較例2は、MgO(001)/NiAl/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ruと積層させた単結晶となるエピ型巨大磁気抵抗素子膜で、図中黒塗りの四角印■で示してある。比較例3は、insituでアニール処理された多結晶巨大磁気抵抗素子膜で、図中黒塗りの三画印▲で示してある。比較例4は、exsituでアニール処理された多結晶巨大磁気抵抗素子膜で、図中黒塗りの丸印●で示してある。比較例5は、結晶成長が(011)配向膜の場合の多結晶巨大磁気抵抗素子膜で、図中黒塗りの菱形印◆で示してある。
【0034】
本発明の実施例によれば、拡散防止層12AとしてのCoFe層をB2構造の下地層12と第1の非磁性層13との間に設けることで、アニール処理温度が400℃よりも高温となる450℃から550℃の範囲であっても、抵抗変化面積積(ΔRA)がアニール処理温度が400℃の場合に比較して同等かやや優れた特性に保持される。
【0035】
これに対して、比較例1では、拡散防止層12Aがない点を除いて、本発明の実施例と同等の積層構造であるにも関わらず、アニール処理温度が400℃よりも高温となる450℃から550℃の範囲では、抵抗変化面積積(ΔRA)がアニール処理温度が400℃の場合に比較して劣化する。比較例2では、基板としてシリコン(001)に代えて高価なMgO(001)を用いているが、抵抗変化面積積(ΔRA)のアニール処理温度の依存性は本発明の実施例と同等である。
比較例3−5は多結晶巨大磁気抵抗素子膜であるため、本発明の実施例と比較して、抵抗変化面積積(ΔRA)がかなり低い。
【0036】
図4は、本発明の実施例を示す薄膜断面図で、(A)は透過型電子顕微鏡像、(B)は各組成元素のエネルギー分散スペクトル元素マッピング像を示している。各組成元素としては、左上段から右上段に向かって、Ru、Ag、Co、左中段から右中段に向かって、Fe、Ga、Ge、左下段から右下段に向かって、Ni、Al、Siを示している。
拡散防止層12AとしてのCoFe層が存在することで、B2構造の下地層12であるNiAl層から第1の非磁性層13であるAg層へのAlの拡散が防止されている。
【0037】
図5は、本発明の比較例を示す巨大磁気抵抗効果層を有する単結晶磁気抵抗素子の構成断面図である。比較例では、拡散防止層12Aがない点を除いて、本発明の実施例(
図1参照)と同等の積層構造である
図6は、本発明の比較例を示す薄膜断面図で、(A)は透過型電子顕微鏡像、(B)は各組成元素のエネルギー分散スペクトル元素マッピング像を示している。なお
図6(B)において、各組成元素の配置関係は
図4(B)の配置と同様である。拡散防止層12AとしてのCoFe層が存在しないため、アニール処理温度が400℃の場合と高温の場合には、B2構造の下地層12であるNiAl層から第1の非磁性層13であるAg層へのAlの拡散が生じている。
【0038】
図7は、本発明の比較例を示すSi(001)基板上に基板温度300、400、500及び600℃で成長させたNiAl薄膜のXRDパターンとRHEED像を示すもので、縦軸は強度(カウント)、横軸は2θを示してある。
図7に示す通り、基板温度が400℃乃至600℃においてはNiAlが(001)方向に単結晶成長していることを示すX線回折パターンと反射高速電子回折(RHEED)像のストリークが観測された。他方、基板温度が300℃の場合は、NiAlの(001)方向に単結晶成長していることを示すX線回折パターンは得られず、(110)方向のピークが得られている。
【0039】
図8は、本発明の比較例を示すSi(001)基板上に所定の基板温度で成長させたNiAl薄膜のAFM像で、(A)は基板温度300℃、(B)は基板温度400℃、(C)は基板温度500℃、(D)は基板温度600℃の場合を示している。NiAl薄膜表面のラフネスを原子間力顕微鏡(AFM)で観測した結果、熱処理温度の増大に伴い平均表面ラフネス(Ra)は大きくなる。即ち、
図8(A)〜(D)に示す通り、基板温度300℃で平均表面ラフネス0.66nm、基板温度400℃で平均表面ラフネス1.17nm、基板温度500℃で平均表面ラフネス2.19nm、基板温度600℃で平均表面ラフネス3.47nmが得られた。そこで、NiAlが(001)方向に単結晶成長することを前提条件とすると、単結晶膜では400℃で成膜したNiAl層で最も小さい平均表面ラフネス1.17nmが得られる。即ち、Si(001)基板上に基板温度400℃乃至600℃で成長させたNiAl薄膜では、NiAl薄膜表面の平均表面ラフネスは1乃至4nmの範囲となっている。なお、
図6(A)〜(D)中、P−VはSi(001)基板の計測範囲5x5μm
2での最大膜厚値を示している。
【0040】
図9は、本発明の比較例を示すSi(001)基板/NiAl(50nm)上に成長させたAg層のRHEED像とポストアニール後のAFM像で、(A)は基板での積層状態を簡潔に説明する断面構成図、(B1)〜(B3)は各層の反射高速電子回折(RHEED)像、(C1)〜(C5)は所定の熱処理温度でポストアニールしたAg層表面のAFM像である。ここでは、基板温度500℃でNiAl層の成膜を行っており、Ag層は室温で成膜し、その後300℃乃至600℃でポストアニールを行っている。また、
図9(B1)はAg層のミラー指数[100]方向、
図9(B2)はNiAl層のミラー指数[110]方向、
図9(B3)はSi基板のミラー指数[110]方向のRHEED像を示している。AgはNiAl上に(001)配向単結晶成長していることが確認された。
【0041】
さらに、
図9のAFM像において、(C1)は成膜したままでの平均表面ラフネスを示しており、計測範囲が1x1μm
2の場合には0.94nm、計測範囲が5x5μm
2の場合には1.15nmが得られている。(C2)はポストアニール温度300℃で平均表面ラフネスは0.41nm、(C3)はポストアニール温度400℃で平均表面ラフネスは0.33nm、(C4)はポストアニール温度500℃で平均表面ラフネスは0.29nm、(C5)はポストアニール温度600℃で平均表面ラフネスは0.39nmが得られている。Ag層により表面の平坦性が大幅に改善し、500℃のポストアニールを行うことで平均表面ラフネスRaは0.29nmまで改善した。従って、ポストアニール温度範囲は、300℃から600℃が好ましい。
【0042】
図10に磁気抵抗素子の一例としてSi基板/NiAl/Ag/Co
2FeGa
0.5Ge
0.5(CFGG)/Ag/CFGG/Ag/Ruと積層させた巨大磁気抵抗素子膜の断面電子顕微鏡像と各層の回折像を示すものである。
図10において、(A)は断面電子顕微鏡像、(B1)はAg層のミラー指数[100]方向の回折像、(B2)はCFGG層のミラー指数[110]方向の回折像、(B3)はAg層のミラー指数[100]方向の回折像、(B4)はCFGG層のミラー指数[110]方向の回折像、(B5)はAg層のミラー指数[100]方向の回折像、(B6)はNiAl層のミラー指数[110]方向の回折像、(B7)はSi基板とNiAl層界面の回折像、(B8)はNiSi
2(CaF
2、空間群がFm−3m)のミラー指数[110]方向の回折像、(B9)はSi基板のミラー指数[110]方向の回折像である。
【0043】
図11は、本発明の比較例を示すMgO基板上に成長させたCr/Ag/CFGG/Ag/CFGG/Ag/Ru単結晶薄膜の断面電子顕微鏡像とCFGG層からの回折像で、(a)は断面電子顕微鏡像、(b)は上部CFGG層の回折像、(c)は下部CFGG層の回折像である。
図10(A)と
図11(a)とを比較すると、両者はほぼ同等の界面平坦性を有する積層膜が作製できていることが分かる。また各層から回折像より、全ての層が単結晶成長した(001)配向膜となっていることが確認される。
図10(B7)に示すように、Si基板/NiAl層の界面層においてはNiがSi基板側に拡散し、NiSi
2が形成されていることが分かった。このNiSi
2層はNiAl層を基板温度500℃でSi基板上に成膜した際に形成されているため、CFGG/Ag/CFGGに対する熱処理温度が500℃でも安定であり、NiAlとSi基板の拡散防止層として働くと考えられる。
【0044】
図12にSi基板上に成長させた単結晶CFGG/Ag/CFGG CPP−GMR素子のMR測定を行った結果を示すもので、(A)は縦軸が磁気抵抗MR比、横軸がSi基板の熱処理温度を示しており、(B)は縦軸が抵抗(Ω)、横軸が磁界(Oe)を示している。CFGG/Ag/CFGGに対する熱処理温度400℃において得られたMR比はおよそ28%、抵抗変化面積積(ΔRA)は8.7mΩμm
2であり、MgO基板上に作製した単結晶素子とほぼ同等の特性を得ることができた。
【0045】
本発明により作製されるSi基板上での(001)配向単結晶磁気抵抗素子は、NiAl下地層/Ag下地層/磁気抵抗素子膜/キャップ層で形成されるが、以下の通りの各層を代替できる可能性を有する。
Ag下地層はNiAl上に(001)配向した単結晶成長可能な材料であれば代替が可能である。例えば、Cr、Fe、W、Moなどbcc系材料やAu、Pt、Pd、Rhなどfcc系材料など、NiAlと格子不整合が10%未満の材料単体であれば単結晶成長が期待されるため、単体かあるいはそれらの積層構造を代替して利用することは可能である。
【0046】
磁気抵抗素子は下地層と同様の格子定数を持つ強磁性体と非磁性体又は絶縁体との組み合わせを持つ全てに応用することが可能である。強磁性体としてはCo
2MnSi、Co
2FeAlなどCFGG以外のホイスラー合金やFe、CoFeなどbcc構造を有する一般的な強磁性体を用いることも可能である。非磁性体中間層としてはAg以外にもNiAl、AgZn、CuZn、Ag
3Mgなど格子整合成の良いその他のスペーサの全てに応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の単結晶磁気抵抗素子は、大口径のSi単結晶基板上へ体心立方の強磁性層を(001)面にエピタキシャル成長させたものであり、安価で大量供給するのに適しているため、面直電流巨大磁気抵抗素子を用いた磁気ヘッド、磁界センサ、及びスピン電子回路のような実用デバイスに用いて好適である。
【符号の説明】
【0048】
11、21 シリコン基板
12、22 B2構造のNiAlの下地層
12A 拡散防止層
13 第1の非磁性層
14、24 下部強磁性層
15 第2の非磁性層
16、26 上部強磁性層
17 巨大磁気抵抗効果層
18、28 キャップ層
25 絶縁体層
27 トンネル磁気抵抗効果層