特許第6986737号(P6986737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6986737新規イソニコチノニトリル誘導体、及びそれを用いた有機EL素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986737
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】新規イソニコチノニトリル誘導体、及びそれを用いた有機EL素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/10 20060101AFI20211213BHJP
   C07D 413/14 20060101ALI20211213BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C07D401/10CSP
   C07D413/14
   H05B33/14 B
【請求項の数】2
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-121023(P2017-121023)
(22)【出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2018-35135(P2018-35135A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2020年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-167453(P2016-167453)
(32)【優先日】2016年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】大沼 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】永井 勇次
【審査官】 安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第105037247(CN,A)
【文献】 特開2015−172166(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/017684(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/116529(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/175678(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104725298(CN,A)
【文献】 特表2016−526025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で表されるイソニコチノニトリル誘導体。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のイソニコチノニトリル誘導体を用いた有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発光効率を有する新規イソニコチノニトリル誘導体、及びそれを用いた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロニクス)素子では、一対の電極間に電圧を印加することにより、陽極から正孔が、陰極から電子が、発光材料として有機化合物を含む発光層にそれぞれ注入され、注入された電子及び正孔が再結合することによって、発光性の有機化合物中に励起子が形成され、励起された有機化合物から発光を得ることができる。
【0003】
このような有機EL素子の実用性を向上させる手段の一つは、発光効率を上げることにある。有機化合物が形成する励起子には、一重項励起子(ES1)及び三重項励起子(ET1)があり、一重項励起子(ES1)からの蛍光発光と、三重項励起子(ET1)からのリン光発光とがあるが、素子におけるこれらの統計的な生成比率は、ES1:ET1=1:3であり、蛍光発光を用いる有機EL素子では内部量子効率25%が限界といわれる。そのため、電子からフォトンへの変換効率(内部量子効率)を向上させるべく、三重項励起状態を発光に変換することが可能なリン光発光材料が開発され、最近、このリン光発光を利用した有機EL素子が報告されている。
【0004】
また、このような発光材料を有機EL素子のなかで利用するにあたっては、ホスト材料にドーパント材料をドーピングする方法が知られている。ドーピング法で形成された発光層では、ホストに注入された電荷から効率良く励起子を生成することができる。そして、生成された励起子の励起子エネルギーをドーパントに移動させ、ドーパントから高効率の発光を得ることができる。
【0005】
ここで、ホストからリン光発光性のリン光ドーパントに分子間エネルギー移動を行うためには、ホストの三重項エネルギーEgHが、リン光ドーパントの三重項エネルギーEgDよりも大きいことが必要である。
【0006】
三重項エネルギーEgHが有効に大きい材料としては、例えば、CBP(4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル)等が知られている。このような材料をホストとすれば、所定の発光波長(例えば、赤、緑)を有するリン光ドーパントに三重項励起子間でエネルギー移動させることで、高効率の発光素子が得られる。
【0007】
ところで、非特許文献1に記載された熱活性化遅延蛍光(TADF;thermally activated delayed fluorescence)材料は蛍光材料でありながら、リン光材料と同様、理論上100%の励起子生成確率を実現することが可能であり、高効率化に有用である。さらにレアメタルフリーの分子設計につき、低コスト化が可能である。したがって、このTADFを利用した発光材料を開発することにより、低コストでかつ、高効率の発光素子が得られると考えられる。
【0008】
特許文献1では、有機EL素子に用いる発光材料として、カルバゾール構造を含むピリジンカルボニトリル化合物がTADF材料になりうることが報告されている。
【0009】
さらに、非特許文献3では、TADF材料として、カルバゾール/ピリジンジカルボニトリル誘導体を用いた青色の有機EL素子が記載され、外部量子効率21.2%と発光効率を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−172166号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. Uoyama, K. Goushi, K. Shizu, H. Nomura, C. Adachi, Nature 2012,492, 234.
【非特許文献2】Wei Liu, Cai-Jun Zheng, Kai Wang, Zhan Chen, Dong-Yang Chen, Fan Li, Xue-Mei Ou, Yu-Ping Dong, and Xiao-Hong Zhang, Applied Materials & Interfaces 2015, 7, 18930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、水色〜緑色に発光を示し、かつ、高効率に発光する新規イソニコチノニトリル誘導体、及びこれを用いた有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の事項からなる。
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】
(一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、アリール基、又はアミノ基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、又はフェニル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
【0014】
前記一般式(1)中、nは1又は2であることが好ましい。
上記イソニコチノニトリル誘導体は、下記構造式で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0015】
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、下記構造式で表されることを特徴とする。
【化3】
【0016】
本発明の有機EL素子は、上記イソニコチノニトリル誘導体を用いたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、熱活性化遅延蛍光(TADF)を示し、かつ、高効率に水色〜緑色に発光するため、有機EL素子に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)はPXZINNの単膜、及び10wt%CBPドープ共蒸着膜のUV−vis吸収スペクトルを表し、図1(b)はPXZINNの単膜、及び10wt%CBPドープ共蒸着膜のPLスペクトルを表す図である。
図2図2(a)はPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜のPLスペクトルを表し、図2(b)はPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜の300K及び5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図3図3は、デバイス1又は2において、発光層をPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜(デバイス1)、及びPXZINNの10wt%TCTAドープ共蒸着膜(デバイス2)としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図4図4(a)は、デバイス1又は2の電流密度−電圧特性の関係を表し、図4(b)は、デバイス1又は2の輝度−電圧特性の関係を表し、図4(c)は、デバイス1又は2の外部量子効率−輝度特性の関係を表し、図4(d)は、デバイス1又は2の外部量子効率−電流密度の関係を表し、図4(e)は、デバイス1又は2の電流密度−輝度特性の関係を表し、図4(f)は、デバイス1又は2の電力効率−輝度特性の関係を表す図である。
図5図5(a)はデバイス1又は2に電流1mAを流したときのELスペクトルを表し、図5(b)は、発光層が、TCTAのみ、B3PyPBのみ、又は、TCTA及びB3PyPBのエキサイプレックス(B3PyPB:TCTA)のそれぞれの場合のデバイスと、デバイス2とについて、ELスペクトルを比較した図である。
図6図6は、デバイス1又は3において、発光層をPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜とし、電子輸送層をB3PyPB(デバイス1)、又はB4PyPB(デバイス3)としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図7図7(a)は、デバイス1又は3の電流密度−電圧特性の関係を表し、図7(b)は、デバイス1又は3の輝度−電圧特性の関係を表し、図7(c)は、デバイス1又は3の外部量子効率−輝度特性の関係を表し、図7(d)は、デバイス1又は3の外部量子効率−電流密度の関係を表し、図7(e)は、デバイス1又は3の電流密度−輝度特性の関係を表し、図7(f)は、デバイス1又は3の電力効率−輝度特性の関係を表す図である。
図8図8は、デバイス1又は3に電流1mAを流したときのELスペクトルを表す図である。
図9図9は、デバイス3又は4において、発光層をPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜(10nm厚)(デバイス3)、及び、PXZINNの10wt%TCTAドープ共蒸着膜(5nm厚)、及び、PXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜(5nm厚)(デバイス4)としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図10図10(a)は、デバイス3又は4の電流密度−電圧特性の関係を表し、図10(b)は、デバイス3又は4の輝度−電圧特性の関係を表し、図10(c)は、デバイス3又は4の電流密度−輝度特性の関係を表し、図10(d)は、デバイス3又は4の電力効率−輝度特性の関係を表し、図10(e)は、デバイス3又は4の外部量子効率−輝度特性の関係を表し、図10(f)は、デバイス3又は4の外部量子効率−電流密度の関係を表す図である。
【0019】
図11図11は、デバイス3又は4に電流1mAを流したときのELスペクトルを表す図である。
図12図12は、デバイス5〜7において、正孔輸送層をTAPC(25nm厚)及びTCTA(5nm厚)とし、発光層をPXZINNの10wt%CBPドープ共蒸着膜としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図13図13(a)は、デバイス5〜7の電流密度−電圧特性の関係を表し、図13(b)は、デバイス5〜7の輝度−電圧特性の関係を表し、図13(c)は、デバイス5〜7の電流密度−輝度特性の関係を表し、図13(d)は、デバイス5〜7の電力効率−輝度特性の関係を表し、図13(e)は、デバイス5〜7の外部量子効率−輝度特性の関係を表し、図13(f)は、デバイス5〜7の外部量子効率−電流密度の関係を表す図である。
図14図14は、デバイス5〜7に電流1mAを流したときのELスペクトルを表す図である。
図15図15は、デバイス8において、発光層をACINNの10wt%DPEPOドープ共蒸着膜としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図16図16(a)は、デバイス8の電流密度−電圧特性の関係を表し、図16(b)は、デバイス8の輝度−電圧特性の関係を表し、図16(c)は、デバイス8の電流密度−輝度特性の関係を表し、図16(d)は、デバイス8の電力効率−輝度特性の関係を表し、図16(e)は、デバイス8の外部量子効率−輝度特性の関係を表し、図16(f)は、デバイス8の外部量子効率−電流密度の関係を表す図である。
図17図17は、デバイス8に電流1mAを流したときのELスペクトルを表す図である。
図18図18は、2AcINN、3AcINN、2AcNN及び5AcNNの(a):トルエン溶液(10-5M)、(b):単膜、(c):10wt%DPEPOドープ共蒸着膜のUV−vis吸収スペクトルを表す図である。
図19図19は、2AcINN、3AcINN、2AcNN及び5AcNNの(a):トルエン溶液(10-5M)、(b):単膜、(c):10wt%DPEPOドープ共蒸着膜のPLスペクトルを表す図である。
図20図20は、5AcNNの10wt%PyCN誘導体:30wt%DPEPOドープ共蒸着膜の300K及び5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
【0020】
図21図21は、2AcNNの10wt%PyCN誘導体:30wt%DPEPOドープ共蒸着膜の300K及び5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図22図22は、3AcINNの10wt%PyCN誘導体:30wt%DPEPOドープ共蒸着膜の300K及び5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図23図23は、5AcNNの5wt%Ir(ppz)3:PyCN誘導体(30nm)ドープ共蒸着膜の5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図24図24は、2AcNNの5wt%Ir(ppz)3:PyCN誘導体(30nm)ドープ共蒸着膜の5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図25図25は、3AcINNの5wt%Ir(ppz)3:PyCN誘導体(30nm)ドープ共蒸着膜の5Kにおける過渡PLスペクトルを表す図である。
図26図26は、実施例10のデバイスにおいて、正孔輸送層をTAPC(25nm厚)及びmCP(5nm厚)とし、発光層を各ドーパントの10wt%CBPドープ共蒸着膜としたときの正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギーダイアグラムである。
図27図27は、実施例10のデバイスの電流密度−電圧特性の関係(a)、輝度−電圧特性の関係(b)、電流効率−輝度特性の関係(c)、電力効率−輝度特性の関係(d)、外部量子効率−電流密度特性の関係(e)、外部量子効率−輝度特性の関係(f)を表す図である。
図28図28は、実施例10のデバイスに電流1mAを流したときのELスペクトルである。
図29図29は有機EL素子の典型的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、詳細に説明する。
[イソニコチノニトリル誘導体]
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、下記一般式(1)で表される。
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、又はアミノ基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、又はメトキシ基を表し、nは1〜4の整数を表す。
【0024】
上記イソニコチノニトリル誘導体はπ共役系を有する。π共役系を持つ分子は可視領域に光吸収帯を有し、その多くが色素として機能しうることが知られている。さらに、このような分子に官能基を適宜付加して電子的性質を変えることで、エネルギーギャップを調節することができる。すなわち、本発明では、イソニコチノニトリル誘導体における、一重項励起状態(ES1)と三重項励起状態(ET1)とのエネルギーギャップをできるだけ小さくするよう分子設計することで、いったん三重項励起状態に移ったエネルギーを、再び一重項励起状態に戻すことが可能となり、効率の高い蛍光を取り出すことができる。
【0025】
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、熱活性化遅延蛍光(TADF)分子であり、かつ、水色〜緑色(480〜530nm)で発光する化合物である。
さらに、前記一般式(1)中、nが1又は2であるとき、上記イソニコチノニトリル誘導体は、安定的にπ共役系を維持できるため、長寿命の水色〜緑色発光を示すことができる。
【0026】
具体的には、上記一般式(1)で表されるイソニコチノニトリル誘導体は、以下の構造式で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化5】
【0028】
また、上記一般式(1)で表されるイソニコチノニトリル誘導体は、以下の構造式で表される化合物である。
【化6】
【0029】
[イソニコチノニトリル誘導体の製造方法]
本発明のイソニコチノニトリル誘導体は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。PXZINNの製造方法を一例に示す。
【0030】
【化7】
【0031】
2,6−ジクロロイソニコチノニトリルと、該2,6−ジクロロイソニコチノニトリルに対して2倍モル量の4−クロロフェニルボロン酸と、炭酸ナトリウムとを水に溶解させ、さらにアセトニトリルを添加して、窒素雰囲気下、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(PPh32)の存在下に加熱することにより、2ClPhINNを得る。次いで、2ClPhINNと、該2ClPhINNに対して2倍モル量のフェノキサジンと、炭酸カリウム(K2CO3)とをトルエンに溶解させて、窒素雰囲気下、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)及びトリt−ブチルホスフィン(P(tBu)3)の存在下に加熱することにより、収率96%でPXZINNを得る。
【0032】
ただし、上記一般式(1)で表されるイソニコチノニトリル誘導体は、上記した方法に限られず、種々の公知の方法で製造することができる。
【0033】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、上記イソニコチノニトリル誘導体を用いたものである。
ここで、図29に上記有機EL素子の典型的な層構造を示す。
上記有機EL素子は、典型的には、基板1上に陽極2として、例えば、ITO等を成膜し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極がこの順に積層されてなる。
【0034】
基板1には、透明かつ平滑であって、少なくとも70%以上の全光線透過率を有するものが用いられ、具体的には、フレキシブルな透明基板である、数μm厚のガラス基板や特殊な透明プラスチック等が用いられる。
【0035】
基板上に形成される、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8といった薄膜は、真空蒸着法又は塗布法で積層される。真空蒸着法を用いる場合、通常10-3Pa以下に減圧した雰囲気で、蒸着物を加熱して行う。各層の膜厚は、層の種類や使用する材料によって異なるが、通常、陽極2及び陰極8は100nm程度、発光層5を含む他の層は50nm未満である。なお、電子注入層7等は、例えば1nm以下の厚みで形成されることもある。
【0036】
陽極2には、仕事関数が大きく、また全光線透過率は通常80%以上であるものが用いられる。具体的には、陽極2から発光した光を透過させるため、ITOやZnO等の透明導電性セラミックス、PEDOT/PSSやポリアニリン等の透明導電性高分子、その他の透明導電性材料が用いられる。陽極2の膜厚は、通常10〜200nmである。
【0037】
発光層5には、有機EL素子で用いられる他の発光層と同様に、本発明の発光材料であるイソニコチノニトリル誘導体と共にホスト化合物を併用することが好ましい。ホスト化合物としては、蛍光及びTADFに基づく発光特性を損なわないものであれば、制限されないが、例えば、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルオキシド(DPEPO)、PO9、4,4’−ビス(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル(CBP)、トリス(4−カルバゾイル−9−イルフェニル)アミン(TCTA)、2,8−ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾチオフェン(PPT)、アダマンタン・アントラセン(Ad−Ant)、ルブレン、及び2,2’−ビ(9,10−ジフェニルアントラセン)(TPBA)等が挙げられる。発光層5を構成する成分中、本発明の発光材料(イソニコチノニトリル誘導体)及びホスト化合物の含有率は、1〜50wt%、好ましくは5〜10wt%である。
【0038】
陽極2から正孔を効率良く発光層に輸送するために陽極2と発光層5の間に正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料には、例えば、TAPC、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、1,3−ジ(カルバゾリル−9−イル)ベンゼン)(mCP)及び4,4’,4’’−トリス[フェニル(m−トリル)アミノ]トリフェニルアミン等が挙げられる。
【0039】
陰極から電子を効率良く発光層に輸送するために陰極8と発光層5の間に電子輸送層6が設けられる。電子輸送層6を形成する電子輸送材料には、例えば、B3PymPm、B4PyPPm、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、1,3−ビス[5−(4−t−ブチルフェニル)−2−[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD−7)、3−(ビフェニル−4−イル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBi)等が挙げられる。
【0040】
陰極8には、仕事関数が低く(4eV以下)、かつ、化学的に安定なものが用いられる。
具体的には、Al、MgAg合金、又は、AlLiやAlCa等のAlとアルカリ金属との合金等の陰極材料が用いられる。これらの陰極材料は、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法により成膜される。陰極の厚さは、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜500nmである。
【0041】
上記正孔輸送層4又は電子輸送層6のうち、それぞれ、陽極2又は陰極8からの電荷注入効率を改善する機能を有し、有機EL素子の駆動電圧を下げる効果を発揮させる層として、正孔注入層3及び電子注入層7を設けてもよい。さらに、正孔阻止層、電子阻止層及び励起子阻止層等の層が必要に応じて形成される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0043】
[一般式(1)で表されるイソニコチノニトリル誘導体の合成]
合成物の同定に使用した機器及び測定条件は以下のとおりである。
(1)1H核磁気共鳴(NMR)装置
日本電子(株)製(400MHz)JNM−EX270FT−NMR型
(2)質量分析(MS)装置
日本電子(株)製JMS−K9[卓上GCQMS]及びWaters(株)製Zspray(SQ検出器2)
(3)昇華精製装置
温度斜傾型電気炉、形式:NPF80−500型、会社名:コスモ・テック(株)
サーマル定流量装置、形式:MC−1A、会社名:コフロック(株)
ロータリーポンプ、形式:GLD−136C、会社名:アルバック機工(株)
(4)元素分析装置
Perkin Elmer 2400II CHNS/O アナライザー
測定モード:CHNモード
【0044】
[実施例1]PXZINNの合成
【化8】
【0045】
(i)2ClPhINNの合成
窒素置換した100mL四口フラスコに、2,6−ジクロロイソニコチノニトリルを0.69g(4.0mmol)、4−クロロフェニルボロン酸を1.37g(8.8mmol)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)2.2gを水20mLに溶解させた1MNa2CO3水溶液を加え、アセトニトリルを56mL入れて、1時間窒素バブリングを行った。その後、PdCl2(PPh2を0.14g(0.2mmol)加えて、80℃、窒素雰囲気下に加熱した。1時間後、TLCにより原料が消費されたのを確認し、反応を停止した。吸引ろ過を行い、ろ物をクロロホルム150mLに溶解させ、分液ロートにて水100mLで2回、飽和食塩水で1回洗浄した。硫酸マグネシウムにて脱水後、濃縮した。さらに、トルエンにて熱ろ過し、白色固体0.84g(収率65%)を得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ8.46(dd;J=12.9、9.3Hz;2H)、8.31(dt;J=9.2、 2.3Hz;4H)、7.73−7.52(m;4H)ppm
MS:[m/z]325
【0046】
(ii)PXZINNの合成
窒素置換した50mL四口フラスコに、2ClPh−INNを0.54g(1.6mmol)、フェノキサジンを0.67g(3.6mmol)、炭酸カリウムを1.52g(11mmol)、トルエン50mLを入れ、1時間窒素バブリングを行った。その後、Pd(OAc)2を25.0mg(0.1mmol)とP(tBu)3 を0.097mL(0.4mmol)を加え、110℃、窒素雰囲気下に加熱還流を行った。25時間後、TLC(展開溶媒ジクロロメタン:ヘキサン=1:1)により原料の消費を確認し、反応を停止した。MSにて目的物の分子量があることを確認し、クロロホルムに溶解させ、水100mLで2回、飽和食塩水100mLで分液を行い、硫酸マグネシウムにて脱水し、濃縮した。その後、トルエンで熱ろ過を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ジクロロメタン:ヘキサン=1:2→1:1)により精製し、黄色固体の目的物を0.99g(収率96%)を得た。
PXZINNについて、1H−NMR、MS、元素分析、熱重量測定(TGA)、及び真空TGAの結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ8.60(d;J=10.0Hz;6H)、7.63(d;J=8.2Hz;4H)、6.85−6.61(m;12H)、6.08−5.88(m;4H)ppm
MS:[m/z]618
元素分析:組成式 C422642
理論値:C,81.54%;H,4.24%;N,9.06%;O,5.17%
実測値:C,81.51%;H,4.25%;N,9.05%
5%重量減衰温度:463℃
昇華温度(10-4Torr):277℃
【0047】
[実施例2]2AcINNの合成
【化9】
【0048】
(i)ClPhINNの合成
窒素置換した200mL四口フラスコに、2−クロロイソニコチノニトリルを1.38g(8.0mmol)、4−クロロフェニルボロン酸を1.37g(8.8mmol)、炭酸ナトリウム4.4gを水40mLに溶解させた1M炭酸ナトリウム水溶液を加え、アセトニトリルを112mL入れて、1時間窒素バブリングを行った。その後、PdCl2(PPh2を0.14g(0.2mmol)加えて、80℃、窒素雰囲気下で加熱を行い、反応を開始させた。TLCにて原料が消費されたのを確認して反応を停止した。分液ロートにて水50mLで2回、飽和食塩水50mLで1回洗浄した。硫酸マグネシウムにて脱水後、濃縮した。分液ロートに移し、ろ過するときにトルエンを少量使用したため、濃縮をアセトニトリルのみ飛ばした後、少量のトルエン溶液のみ残した。この溶液12mLをインジェクションとし、カラム精製を行った。Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを高さ10cmまで充填した。展開溶媒をトルエンとした(Rf値:0.20)。100mLずつ回収し目的物を単離したフラクションを回収し、濃縮した。得られた無色粘体を減圧乾燥した後、白色固体1.68g(収率98%)を得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ8.91(d;J=5.0Hz;1H)、8.53(s;1H)、8.19(dt;J=8.9、 2.3Hz;2H)、7.84(dd;J=5.0、 1.4Hz;1H)、7.60(dt;J=9.2、 2.3Hz;2H)ppm
MS:[m/z]214
【0049】
(ii)2AcINNの合成
窒素置換した50mL四つ口フラスコに、ClPhINNを1.49g(6.96mmol)、9,10−ジヒドロ−9,9−ジメチルアクリジンを1.60g(7.66mmol)、炭酸カリウムを1.92g(13.9mmol)、トルエン35mLを入れ、1時間窒素バブリングを行った。その後、Pd(OAc)2を79.0mg(0.35mmol)と[(tBu)3PH]BF4を308mg(1.05mmol)加え、110℃、窒素雰囲気下に加熱還流を行った。TLC(展開溶媒ジクロロメタン)により原料の消費を確認し、反応を停止した。吸引ろ過をしてから、水50mLで2回と飽和食塩水50mLにて分液を行い、硫酸マグネシウムにて脱水し、濃縮した。Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを高さ15cmまで充填し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒トルエン)により目的物を単離した(Rf値:0.2)。これを回収し、濃縮し、減圧乾燥し、白色〜薄黄色固体2.09g(収率77%)を得た。
2AcINNについて、1H−NMR、MS、元素分析、熱重量測定(TGA)、及び真空TGAの結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ8.97(dd;J=5.0、0.9Hz;1H)、8.63(s;1H)、8.47(dd;J=6.8、 1.8Hz;2H)、7.88(dd;J=5.0、1.4Hz;1H)、7.52(td;J=8.4、 2.0Hz;4H)、6.95(dtd;J=27.6、 7.5、1.4Hz;4H)、6.22(dd;J=7.9、1.1Hz;2H)、1.63(s;6H)ppm
MS:[m/z]214
元素分析:C27213
理論値:C,83.69%;H,5.46%;N,10.84%
実測値:C,83.69%;H,5.34%;N,10.84%
5%重量減衰温度:312℃
昇華温度(10-4Torr):156℃
【0050】
[実施例3]PXZINN−MPAの合成
【化10】
【0051】
(i)ClPhPXZの合成
窒素置換した50mL四口フラスコに、フェノキサジンを1.83g(10mmol)、1−ブロモ−4−クロロベンゼンを1.92g(10mmol)、炭酸カリウムを2.76g(20mmol)、及びトルエンを50mL入れて、窒素バブリングを1時間行った。その後、[(tBu)3PH]BF4を0.44g(1.5mmol)、Pd(OAc)2を0.11g(0.5mmol)加えて、110℃、窒素雰囲気下に加熱撹拌を行い、反応を開始した。3.5時間後にTLCにより原料のフェノキサジンがほぼ消費されたのを確認し、さらに1時間後に反応を停止した。MSにより目的物由来のピークが観測された。その後、吸引ろ過により塩などを除去し、分液ロートにて水50mLで2回、飽和食塩水50mLにて1回洗浄を行った。硫酸ナトリウムにて脱水し、除去してから濃縮を行った。黄色〜灰色固体2.9gを得た。次にカラムクロマトグラフィーにより精製を行った。TLC上で1スポットであったため、抜きカラム程度であった。Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを140cc(高さ約10cm)相当を充填し、展開溶媒(トルエン:ヘキサン=1:4)にて行った。目的物のスポットを回収し、濃縮して白色固体3.0gを得た。減圧乾燥器で乾燥した後、白色固体は2.51g(収率85%)であった。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ7.72(dt;J=9.4、 2.6Hz;2H)、7.47(dt;J=9.2、2.5Hz;2H)、6.85−6.56(m;6H)、5.96−5.76(m;2H)ppm
MS:[m/z]293
【0052】
(ii)ClPhPXZ−Brの合成
窒素置換した四口フラスコに、ClPhPXZ 3.12g(1.06mmol)、塩化メチレンを20〜30mL入れて、0℃以下にして窒素フローを行った。その後、残りの塩化メチレン90〜100mLにN−ブロモスクシンイミド(NBS)1.88g(1.06mmol)を溶解させて滴下ロートに入れた。系全体をアルミホイルにて遮光し、滴下を開始し、反応を開始させた。全て滴下した後、一置換体のスポットが濃く、原料が薄くほとんどないと判断し反応を終了させた。MSにより目的物由来のピークが観測された。その後、分液ロートにて水50mLで2回、飽和食塩水50mLにて1回洗浄を行った。硫酸マグネシウムにて脱水し、シリカゲルにて原点抜きを行った。色の抜けた溶液を濃縮・減圧乾燥し、白〜薄い黄色固体3.90g(収率98%)を得た。
同じ操作を行い、目的物であるClPhPXZ−Brを合計5.91g得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ7.70(dd;J=6.3、 2.3Hz;2H)、7.48−7.40(m;2H)、6.92(t;J=2.0Hz;1H)、6.82(td;J=9.3、2.3Hz;1H)、6.75−6.61(m;3H)、5.84(td;J=3.5、2.1Hz;1H)、5.76(dd;J=8.6、 2.7Hz;1H)ppm
MS:[m/z]373
【0053】
(iii)ClPhPXZ−MPAの合成
窒素置換した四口フラスコに、3−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)フェノキサジン(ClPhPXZ−Br)1.00g(2.68mmol)、炭酸カリウム0.74g(5.36mmol)、及びトルエン20mLを入れて、窒素バブリングを1時間行った。その後、N−メチルアニリン0.29mL(2.68mmol)、[(tBu)3PH]BF4 0.11g(0.40mmol)、及びPd(OAc)2 0.03g(0.13mmol)を加えて、110℃、窒素雰囲気下に加熱しながら撹拌を行った。途中で、上記と同量の触媒及び配位子を追加し、追加から24時間後にTLCにて原料が消費されたのを確認し、反応を停止した。室温に冷却後、吸引ろ過を行い、ろ液を水50mLにて2回、飽和食塩水50mLで1回分液ロートにて洗浄した。さらに水層をトルエン20mLにて抽出した。硫酸マグネシウムにて脱水し、ろ過で除去してから濃縮した。黄色粘体を得た。カラム管にシリカゲル高さ約15cmまでヘキサンにて充填した。展開溶媒をジクロロメタン:ヘキサン=1:3に設定(目的物:Rf値0.25)した。黄色粘体をトルエン少量で薄めてインジェクションを作成した。スポットが現れてから50mLずつ回収を行った。2本目のフラクションまではゴミのスポットが薄く混ざってしまったが、その後は目的物のみを単離した。フラクション6本目までで目的物が含まれていたためこれを濃縮した。黄色粘体0.85g(収率79%)を得た。
同じ操作を行い、目的物であるClPhPXZ−MPAを合計3.65g得た。
MS:[m/z]399
【0054】
(iv)BPinPhPXZ−MPAの合成
窒素置換した25mL四口フラスコに、ClPhPXZ−MPA 2.80g(7.02mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン3.55g(8.42mmol)、KOAc2.08g(21.2mmol)、及び1,4−ジオキサン66mLを入れて、窒素バブリングを1時間行った。その後、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)148mg(0.33mmol)、及びPd(OAc)279mg(0.33mmol)を加えて、100℃、窒素雰囲気下に加熱撹拌を行い、反応を開始した。翌日TLCにて原料の消費を確認後、反応を停止した。室温に戻した後、吸引ろ過を行い、ろ液を水50mLにて2回、飽和食塩水50mLで1回分液ロートにて洗浄した。さらに水層をトルエンにて抽出した。硫酸マグネシウムにて脱水し、濃縮し、黄色粘体を得た。
カラム管にシリカゲルを高さ約20cmまで充填した。展開溶媒をジクロロメタン:ヘキサン=1:2に設定(目的物:Rf値0.25)した。シリカガルカラムクロマトグラフィーにより回収したフラクションの溶液を濃縮し、減圧乾燥を行い、黄色固体2.62g(収率:72%)を得た。
同じ操作を行い、目的物であるBPinPhPXZ−MPAを合計3.14g得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−D6):δ7.94(dd;J=8.2、2.7Hz;2H)、7.45−7.38(m;2H)、7.25−7.13(m;2H)、6.88−6.79(m;2H)、6.77−6.56(m;4H)、6.49(d;J=2.7Hz;1H)、6.39(dd;J=8.6、 2.3Hz;1H)、5.91−5.81(m;2H)、3.12(d;J=13.1Hz;3H)、1.31(d;J=12.7Hz;12H)ppm
MS:[m/z]490
【0055】
(v)PXZINN−MPAの合成
窒素置換した四口フラスコに、BPinPhPXZ−MPA 2.62g(5.34mmol)、2,6−ジクロロイソニコチノニトリル 440mg(2.54mmol)、1,4−ジオキサン31.7mL、及び、K3PO4 1.61gを水6.6mLに溶解させた水溶液を加えて、窒素バブリングを1時間行った。その後、Pd2(dba)3209mg(0.51mmol)、及びSPhos 476mg(0.51mmol)を加えて、100℃、窒素雰囲気下に加熱撹拌を行った。22時間後、TLCによりBPinPhPXZ−MPAが消費されたのを確認し、反応を停止した。室温に戻した後、吸引ろ過を行い、ろ液を水にて2回、飽和食塩水で1回分液ロートにて洗浄した。硫酸マグネシウムにて脱水し、ろ過で除去してから濃縮した。オレンジ色固体0.7gを得た。カラム管Φ4.2cmにシリカゲル(高さ約20cm)をヘキサンにて充填した。インジェクションをトルエンに溶解させ作成した。展開溶媒はトルエン:ヘキサン=3:1(Rf:2.0)に設定した。50mLずつ回収して7本目から単離した。これをスポットがなくなるまで流し、回収を行い、濃縮した。オレンジ色固体1.32g(収率63%)を得た。
同じ操作を行い、目的物であるPXZINN−MPAを合計1.54g得た。
PXZINN−MPAについて、1H−NMR、MS、熱重量測定(TGA)、及び真空TGAの結果を以下に示す。
1H−NMR(400 MHz、DMSO−D6):δ8.70−8.50(m;6H)、7.64(d;J=8.2Hz;4H)、7.27−7.15(m;4H)、6.96−6.62(m;12H)、6.59−6.36(m;4H)、6.09−5.89(m;4H)、3.17(d;J=15.4Hz;6H)ppm
MS:[m/z]829
5%重量減衰温度:435℃
昇華温度(×10-4Torr):333℃
【0056】
[実施例4]3AcINNの合成
【化11】
【0057】
窒素置換した50mLの四口フラスコに、4−(ジオキサボロラン)フェニル−9,9−ジメチルアクリジンを1.16g(2.83mmol)、3−クロロ−4−シアノピリジンを0.39g(2.83mmol)、1,4−ジオキサンを35.4mL、K3PO4を1.81g入れ、水7.4mLを加えて溶解させ、窒素バブリングを1時間行った。その後、Pd2(dba)3を0.13g(0.14mmol)、SPhosを0.057g(0.14mmol)加えて、100℃にて加熱攪拌を行った。1時間後サンプリングを行い、TLCにて新たなスポットが生成していることを確認した。Massにより目的物由来のピークを確認した。14時間後、TLCにて原料が消費されたことを確認し、反応を停止した。その後、Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを10cm充填し、展開溶媒をジクロロメタンとするカラムクロマトグラフィーにより、目的物を単離した(Rf値:0.1)。濃縮、減圧乾燥後、白色〜薄黄色固体0.7gを得た。収率77%。
1H−NMR(400MHz,DMSO−D6)δ9.08(s,1H),8.88(d,J=5.4Hz,1H),8.12−7.91(m,3H),7.68−7.43(m,4H),7.11−6.84(m,4H),6.22(dd,J=8.2,1.4Hz,2H),1.64(s,6H)ppm
MS:[m/z]388
5%重量減衰温度:300.7℃
元素分析:組成式 C27213
理論値:C,83.69%;H,5.46%;N,10.84%
実測値:C,83.83%;H,5.62%;N,10.91%
【0058】
[実施例5]2AcNNの合成
【化12】
【0059】
窒素置換した50mLの四口フラスコに、4−(ジオキサボロラン)フェニル−9,9−ジメチルアクリジンを1.16g(2.83mmol)、2−クロロ−3−シアノピリジンを0.39g(2.83mmol)、1,4−ジオキサンを35.4mL、K3PO4を1.81g入れ、水7.4mLを加えて溶解させ窒素バブリングを1時間行った。その後、Pd2(dba)3を0.13g(0.14mmol)、SPhosを0.057g(0.14mmol)加えて、100℃にて加熱攪拌を行った。1時間後サンプリングを行い、TLCにて新たなスポットが生成していることを確認した。Massにより目的物由来のピークを確認した。14時間後にTLCにて原料が消費されたことを確認し、反応を停止した。その後、Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを10cm充填し、展開溶媒をジクロロメタンとするカラムクロマトグラフィーにより、目的物を単離した(Rf値:0.1)。濃縮、減圧乾燥後、白色〜薄黄色固体0.74gを得た。収率67%。
1H−NMR(400MHz,DMSO−D6)δ9.08(s,1H),8.88(d,J=5.4Hz,1H),8.12−7.91(m,3H),7.68−7.43(m,4H),7.11−6.84(m,4H),6.22(dd,J=8.2,1.4Hz,2H),1.64(s,6H)ppm
MS:[m/z]388
5%重量減衰温度:303.9℃
元素分析:組成式 C27213
理論値:C,83.69%;H,5.46%;N,10.84%
実測値:C,83.82%;H,5.39%;N,10.81%
【0060】
[実施例6]5AcNNの合成
【化13】
【0061】
窒素置換した50mLの四口フラスコ(50mL)に、4−(ジオキサボロラン)フェニル−9,9−ジメチルアクリジンを0.89g(2.18mmol)、5−ブロモ−3−ピリジンカルボニトリルを0.40g(2.18mmol)、1,4−ジオキサンを27.3mL、K3PO4を1.39g入れ、水5.7mLを加えて溶解させて、窒素バブリングを1時間行った。その後、Pd2(dba)3を0.20g(0.22mmol)、SPhosを0.09g(0.22mmol)加えて、100℃にて加熱撹拌を行った。1時間後サンプリングを行い、TLCにて新たなスポットが生成していることを確認した。Massにより目的物由来のピークを確認した。41時間後にTLCにて原料が消費されたのを確認し、反応を停止した。カラム精製を行った。インジェクションをジクロロメタンにより20mLで調製した。その後、Φ4.2cmカラム管にシリカゲルを10cm充填し、展開溶媒をジクロロメタンとするカラムクロマトグラフィーにより、目的物を単離した(Rf値:0.1)。濃縮、減圧乾燥後、白色〜薄黄色固体0.7gを得た。収率83%。
1H−NMR(400MHz,DMSO−D6)δ9.34(d,J=2.3Hz,1H),9.07(d,J=1.8Hz,1H),8.80(t,J=2.0Hz,1H),8.16(d,J=8.2Hz,2H),7.59−7.44(m,4H),7.03−6.82(m,4H),6.21(d,J=8.2Hz,2H),1.60(d,J=27.2Hz,6H)ppm
MS:[m/z]388
5%重量減衰温度:306.8℃
元素分析:組成式 C27213
理論値:C,83.69%;H,5.46%;N,10.84%
実測値:C,83.78%;H,5.39%;N,10.82%
【0062】
[光学特性評価]
光学特性評価に用いた機器及び測定条件は以下のとおりである。
(1)紫外・可視(UV−vis)分光光度計
(株)島津製作所製 UV−3150
測定条件;スキャンスピード 中速、測定範囲 200〜800nm サンプリングピッチ 0.5nm、スリット幅 0.5nm
(2)フォトルミネッセンス(PL)測定装置
(株)堀場製作所製Fluoro MAX−2
常温及び低温において、PLスペクトル、及び、ストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334)を用いた時間分解PLスペクトル(過渡PLスペクトル)を測定した。
(3)光電子収量分光(PYS)装置
住友重機械工業(株)製イオン化ポテンシャル測定装置
イオン化ポテンシャル測定装置を用いて、真空中でイオン化ポテンシャル(Ip)の測定を行った。
なお、電子親和力(E)は、UV−vis吸収スペクトルの吸収端よりエネルギーギャップ(E)を見積もることによって算出した。
【0063】
[実施例7]光学特性評価
実施例1で合成したPXZINNの膜状態での光学特性評価を行った。PXZINNの単膜、PXZINNをCBPに10wt%ドープした膜を、それぞれ蛍光ガラスチャンバーを用いて作製し、評価した。
また、実施例2及び4〜6で合成した2AcINN、3AcINN、2AcNN、及び5AcNNのトルエン希釈溶液(10-5M)、及び、薄膜での光学特性評価を行った。薄膜は、2AcINN、3AcINN、2AcNN、及び5AcNNの単膜と、これらとDPEPOとの共蒸着膜(10wt%in DPEPO)を、それぞれ蛍光ガラスチャンバーを用いて作製し、評価した。
【0064】
(1)UV−vis吸収スペクトル、PLスペクトル、及びPLQY測定
PXZINNの光学特性評価
UV−vis吸収スペクトル測定の結果から、ドープ膜でPXZINNとCBPの吸収由来のピークが観測された。
PLスペクトル測定では、単膜では発光波長がλmax=560nmの黄色発光を示した。CBPへのドープ膜では、PXZINNが分散しているため、凝集によるレッドシフトがみられず、λmax=520nmの緑色発光を示した。
さらに、それぞれのPLQYを測定したところ、単膜では約32%、ドープ膜では約79%となり、ドープ膜で高い量子収率を得られた。
結果を図1(a)及び(b)に示す。
【0065】
2AcINN、3AcINN、2AcNN、5AcNNの光学特性評価
UV−vis吸収スペクトルを測定した結果、これらドーパント由来のCT吸収(360〜390nm付近)はどの分子でも強い吸収を示さず、かつ大幅にシフトしない結果となった。後述するPLスペクトルでは5AcNNだけ大きく短波長化を示しているため、CT吸収が他に比べて弱いと考えていたが大きな差は見られなかった。そのため、5AcNNはこの誘導体の中で最もストークスシフトの小さな分子であると言える。
PLスペクトルの測定結果、450〜510nmの純青色から青緑色の発光が観測された。共蒸着膜では5AcNNが純青色発光を示し、その他が同等の水色発光を示した。シアノ基の置換位置とピリジンのN原子の位置による特性の変化を検証した結果、N原子に対してシアノ基がパラ位に修飾しているものがより強いCT性を示すことがわかった。その中でもピリジンよりも電子供与性の強いシアノ基がドナー部位側に修飾しているものの方が、よりCT性が強くなり長波長シフトを起こしている。さらに、N原子とシアノ基がメタ位に修飾しているものでも、パラ位のものと同様にドナー部位側に近いもののほうが、CT性が強くより長波長にシフトしていると考えられる。
【0066】
(2)PYS及び過渡PL測定
PXZINNの光学特性評価
PYS用にはPXZINNの単膜、過渡PL測定用にはPXZINNをCBPに10wt%ドープした膜を用いた。
PYS測定の結果、イオン化ポテンシャル(Ip)は約5.63eVとなり、膜の状態では計算値の5.16eVよりも非常に深い値であることがわかった。UV−visスペクトルから見積もったエネルギーギャップ(Eg)から電子親和力(Ea)を算出した。
過渡PL測定はストリークカメラを用いて、ΔESTの実測値及び温度可変での発光寿命を測定した。この結果、ΔESTは0.06eVと見積もられた。この値は、計算値の0.004eVに比べて大きいが0.1eV以下と、比較的小さいΔESTを有していることがわかった。しかし、遅延成分の発光寿命は26.9μsと、やや長かった。
【0067】
測定結果及び光学特性を表1及び図2(a)及び(b)に示す。
【表1】
【0068】
2AcINN、3AcINN、2AcNN、5AcNNの光学特性評価
イソニコチノニトリル誘導体がTADF特性を有した発光材料であるのか、及びその発光寿命がどの程度のものなのかを検証するために、3AcINN、2AcNN、5AcNNについて、時間分解過渡PL減衰スペクトルの測定を行った。測定は、10wt%PyCN(4−シアノピリジン)誘導体:DPEPO(30nm)の膜を作製し、300Kと5Kの温度条件にて行った。
図20〜22に示すように、いずれの誘導体においても、遅延成分の発光強度が5Kより300Kの条件のほうが増加していたため、温度依存性により熱活性化遅延蛍光由来の発光であることが示唆された。しかし、300K条件下での発光寿命が250〜460μsと非常に長い発光寿命を有していることがわかった。2AcINNの発光寿命も450μs程度と非常に長かったことを加味すると、このピリジンカルボニトリル誘導体は通常のTADF材料と比較して、発光寿命が長くなる傾向にあると考えられる。その原因としては、CN基同士の凝集等が考えられる。
続いて、低温リン光スペクトルの測定を行い、蛍光成分及びリン光成分の立ち上がりからそれぞれS1、T1を見積もり、TADF材料に重要なパラメータであるDESTの大きさを算出した。温度条件は時間分解過渡PL減衰スペクトルと同様に行ったが、上述の共蒸着膜ではリン光成分が観測されなかったため、5wt%Ir(ppz)3:PyCN誘導体(30nm)にて測定を行った。
図23〜25に示すように、2AcINN(S1 2.97eV/T1 2.67eV/DEST0.30eV)と比べて、3AcINN、2AcNN、及び5AcNNのいずれも、T1のエネルギー準位が向上し、DESTも小さくなっていることがわかる。これは、2AcINNがドナー基側にN原子が存在し、かつCN基がドナー基側に向いていないことで最もプラナーな構造を有しているためT1のエネルギー準位が低かったと考えられる。しかし、これらの誘導体では、ドナー基側に嵩高いCN基を導入したものや、どちらもドナー基側に向いていない分子を設計したことで、ねじれた構造を有しているためにT1のエネルギー準位が向上したと考えられる。これにより通常であれば、より効率的なTADF特性を期待できるが先の実験により遅延成分の発光寿命が長いためにTADF特性は2AcINNと同等であると考えられる。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
[有機EL素子の作製及び評価]
有機EL素子の評価に用いた機器は以下のとおりである。
EL(エレクトロルミネッセンス)スペクトル
装置;(株)浜松ホトニクス製 PHOTONIC MULTI−CHANNEL ANALYZER PMA−1
【0071】
[実施例8]PXZINNの素子評価
(1)ホスト材料の検証
実施例1で合成したPXZINNを用いて、以下に示す素子構造(Device 1及び2)を作製した。
【0072】
(i)Device 1
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:CBP(10nm)/B3PyPB(50nm)/LiF/Al]
(ii)Device 2
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:TCTA(10nm)/B3PyPB(50nm)/LiF/Al]
【化14】
【0073】
すなわち、Device 1では、ホスト材料にCBPを、Device 2では、ホスト材料に、CBPよりも低電圧駆動を期待できるTCTAを用いた素子構造とした。これらの素子構造のエネルギーダイアグラム及び初期状態のエネルギー値を図3に示す。
Device 1及び2の特性を図4及び5に示す。また、表3に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2である場合のDevice 1及び2の電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
ホスト材料にCBPとTCTAを使用した結果、CBPの方が100cd/m2時で外部量子効率が約22%と、高い効率を示した。しかし、電流密度−電圧特性を見ると、高電流密度領域で低電圧化している(図4(a))。これは、TCTAの方がIpのエネルギー準位が低いので、効率的にホールが輸送されたために起こったと考えられる。
【0076】
さらに、ELスペクトルを比較すると、TCTAを使用したDevice 2では、400nm付近にドーパント由来ではない発光が弱く観測された(図5(a))。この検証のために、周辺材料であるTCTA及びB3PyPBと、TCTA及びB3PyPBがエキサイプレックス(B3PyPB:TCTA)を形成する場合とで、発光スペクトルとの比較を行ったところ(図5(b))、TCTAとB3PyPB:TCTAとでは、発光スペクトルがほぼ重なっているが、B3PyPB:TCTA由来の発光の方が、Device 2のELスペクトルとのピークトップの重なりがやや近かった。そのため、TCTAとB3PyPBとの界面で励起子が再結合し、エキサイプレックス由来の発光が見られたと考えられる。これは、効率低下の要因にも繋がる。よって、効率ではCBPを用いた方が優れるものの、TCTAを用いた方が低電圧で駆動することから、最適化するには、これらを両方用いてダブル発光層とすることが望ましいと考えられる。
【0077】
(2)電子輸送材料の検証
以下に示す素子構造(Device 1及び3)を作製し、電子輸送材料の検討を行った。
(i)Device 1
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:CBP(10nm)/B3PyPB(50nm)/LiF/Al]
(ii)Device 3
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:CBP(10nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
【0078】
すなわち、電子輸送材料をB3PyPBからより深いLUMO準位を有するB4PyPPMに変更することにより、低電圧化及び高電力効率化を行った。ホスト材料は「(1)ホスト材料の検証」において、高効率を示したCBPを使用した。これらの素子構造のエネルギーダイアグラム及び初期状態のエネルギー値を図6に示す。
Device 1及び3の特性を図7及び8に示す。また、表4に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2である場合のDevice 1及び3の電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0079】
【表4】
【0080】
B4PyPPMを使用したDevice 3では、外部量子効率が低下し、最大でも20%程度となった。これはB3PyPBを使用した時よりもキャリアバランスが崩れたからであると考えられる。しかし、1cd/m2時の発光開始電圧が、Device 1と比べて、2.8Vから2.3Vと0.5V低下したため、最大電力効率は89lm/Wと、このドーパントを使用した素子で最も高い値を示した(図7(f))。よって、さらなる素子の最適化には、電子輸送材料にB4PyPPMを使用し、TCTA及びCBPの両方を用いたダブル発光層とし、これらのホスト材料の界面で励起子生成を起こさせることでキャリアバランスの調整を行うことが考えられる。さらに、TCTAを挟むことで、正孔輸送性を上げ、低電圧・高電力効率化が期待できると考えられる。
【0081】
(3)ダブル発光層の検証
TCTA及びCBPの両方をホストに用いたダブル発光層を有する素子構造(Device 4)を作製し、Device 3との対比において、さらなる高効率化を検討した。すなわち、TCTAを用いることで、ホールがより効率的に輸送されて低電圧化するとともに、TCTAとCBPとの界面での励起子生成を誘導し、キャリアバランスが改善されることを期待した。
【0082】
(i)Device 3
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:CBP(10nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
(ii)Device 4
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(30nm)/10wt%PXZINN:TCTA(5nm)/10wt%PXZINN:CBP(5nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
【0083】
これらの素子構造のエネルギーダイアグラム及び初期状態のエネルギー値を図9に示す。
Device 3及び4の特性を図10及び11に示す。また、表5に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2である場合のDevice 3及び4の電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0084】
【表5】
【0085】
Device 4では、ホスト材料にCBPのみを用いたDevice 3よりも低電圧化し、1000cd/m2時には0.3V低下した。一方で、外部量子効率(EQE)と電力効率(PE)が伸び悩む結果となった。TCTAを使用した部分でのPLQYがCBPに比べて低いために効率が下がったものと考えられる。ただし、TCTAとの共蒸着膜でのPLQYを測定し、検証する余地はある。
表4及び図10、11の結果から、TCTAとCBPとのダブル発光層では、TCTA側の効率が下がるため、ホストはCBPのみにした方が良いと考えられる。
【0086】
(4)TCTA挿入素子及びドープ濃度の検証
「(3)ダブル発光層の検証」において、Device 4では、TCTAホストのPLQYが低いためか、効率が低下した。しかし、駆動電圧の低下がみられたことから、TAPCからCBPへの正孔輸送性は向上したと考えられる。そこで、TCTAを発光層のホスト材料として用いるのではなく、正孔輸送層と発光層との間に挿入することで、効率維持及び低電圧化を検討した。
【0087】
さらに、Device 5(ドープ濃度:10wt%)において、ドープ濃度を20wt%及び30wt%と変更した素子を作製し、ドープ濃度の最適化を行った。
(i)Device 5
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(25nm)/TCTA(5nm)/10wt%PXZINN:CBP(10nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
(ii)Device 6
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(25nm)/TCTA(5nm)/20wt%PXZINN:CBP(10nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
(iii)Device 7
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(25nm)/TCTA(5nm)/30wt%PXZINN:CBP(10nm)/B4PyPPM(50nm)/LiF/Al]
【0088】
これらの素子構造のエネルギーダイアグラム及び初期状態のエネルギー値を図10に示す。
Device 5〜7の特性を図13及び14に示す。また、表6に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2である場合のDevice 5〜7の電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0089】
【表6】
【0090】
ダブル発光層とはせず、ホスト材料にはCBPのみ用い、TCTAは、正孔輸送層(TAPC)と発光層(PXZINN:CBP)との間に挿入することで、高い効率を維持しつつ、低電圧化することができた。また、ドープ濃度が10wt%であるDevice 5では、駆動電圧2.3V、最大外部量子効率21.0%、及び最大電力効率89.2lm/Wであった(表5及び図13(d)、(e))。ドープ濃度を20wt%にすると、駆動電圧2.2V、最大外部量子効率22.2%、及び最大電力効率99.0lm/Wと、PXZINNを用いた素子で最も高い効率を達成した(Device6)(表5及び図13(d)、(e))。ドープ濃度をさらに30wt%に上げると、バイポーラ分子であるドーパントの良好な電荷輸送性により、駆動電圧の低下がみられた。ただし、効率が下がったために電力効率も伸びなかった(表5及び図13(d))。これは、ドープ濃度30wt%では、ドーパントの濃度消光が起きたためと考えられる。
【0091】
[実施例9]2AcINNの素子評価
実施例2で合成した2AcINNを用いて、以下に示す素子構造(Device 8)を作製し、素子評価を行った。
Device 8
[ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(25nm)/mCP(5nm)/10wt%2AcINN:DPEPO(10nm)/B3PyPB(50nm)/LiF/Al]
【化15】
すなわち、発光層のホスト材料にDPEPOを使用し、正孔輸送層にTAPC、励起子ブロック層にmCP、電子輸送層にB3PyPBを使用した。この素子構造のエネルギーダイアグラム及び初期状態のエネルギー値を図15に示す。
Device 8の特性を図16及び17に示す。また、表7に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2である場合のDevice 8の電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0092】
【表7】
λEL=486nmとドーパント由来の発光が確認された(図17)。0.1cd/m2時に最大外部量子効率(EQE)15.2%を示した(図16(e))。しかし、100cd/m2時では6.9%、1000cd/m2時では2.9%と、非常にロールオフが大きい結果となった(図16(e))。キャリアバランスの調整によってロールオフを抑制できる可能性がある。
【0093】
[実施例10]2AcINN、3AcINN、2AcNN、5AcNNの素子評価
実施例2、4〜6で合成した2AcINN、3AcINN、2AcNN、5AcNNを用いて、以下に示す素子構造のデバイスを4種類作製した。
【0094】
ITO/KLHIP:PPBI(20nm)/TAPC(25nm)/mCP(5nm)/10wt% dopant:DPEPO(20nm)/B3PyPB(50nm)/LiF(0.5nm)/Al(100nm)
なお、dopantは、2AcINN、3AcINN、2AcNN、又は5AcNNを表す。
【0095】
上記デバイスの特性を図27及び28に示す。また、表8に、輝度が1cd/m2、100cd/m2及び1000cd/m2、及び、最大輝度である場合の上記デバイスの電圧(V)、電力効率(PE)、電流効率(CE)、及び外部量子効率(EQE)を示す。
【0096】
素子評価の結果、ELスペクトルからはドーパント由来の発光のみが得られた。そのため、ホスト材料からのエネルギー移動は効率的に行われていると考えられる。最も短波長で発光した5AcNNはλEL=454nm、CIE(0.16,0.19)の純青色発光を示したが、EQEは最大6.7%であり、蛍光の理論限界を超えなかった。これはそもそもドーパントのPLQYが約35%程度と発光特性が弱まっていることに起因すると考えられる。しかし、PLQYから見積もるEQEは蛍光の場合で考えると2.6%になるので、TADFもしくは他のプロセスにより三重項励起子が発光に寄与していると考えられる。これは他のドーパントも同様である。4種類のデバイスのうち、青緑色に発光を示した3AcINNが最も効率が高い値を示した。ここで効率全般のグラフに注目すると、どれも同様に激しくロールオフを示している。2AcNN及び3AcINNはフェニル基側にシアノ基を導入していることで、立体障害のよるねじれを誘発させることで共役を切り、三重項状態のエネルギー準位が高くなっていると考えられる。しかし、ロールオフが同様な低下傾向を示していることから、DESTの大小は議論できないが発光寿命は同程度であると考えられる。ストリーク測定の結果を踏まえないと正しい議論はできないが、ホスト材料のDPEPOではこの誘導体の発光寿命を短くすることは困難ではないかと考えられる。
【0097】
【表8】
【符号の説明】
【0098】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図24
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図29