【文献】
草津舞, 外4名,高分子学会予稿集,2014年,63巻, 1号,pp. 3021-3022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
薬剤と遺伝子を対象に共送達することによりエピジェネティクス制御するための複合体であって、当該複合体は脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびプラスミドDNAを含み、
ここで、当該脂質単層被覆型ナノ粒子は、生分解性ポリマーを含むコア及び当該コアをコートする脂質単分子層を含み、
当該薬剤は生分解性ポリマーを含むコア中に存在し、そして、
当該プラスミドDNAは、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に吸着または結合している、前記複合体。
生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、請求項1に記載の複合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、脳神経細胞内への薬剤の送達や、エピジェネティックな異常に対する治療のための、新しいドラッグデザインの開発が求められている。本出願は、生分解性ポリマーおよび脂質を含むナノ粒子について、これらのドラッグデザイン開発の観点から適したキャリアを提供する。すなわち、本出願は、生分解性ポリマー及び薬剤を含むコア、及び当該コアを被覆する脂質単分子層を含む、単層被覆型ナノ粒子複合体を提供する。当該複合体は、その表面にターゲッティング分子を結合しているものであってもよい。あるいは、当該複合体は、その表面にプラスミドDNAが吸着または結合しているものであってもよい。本出願はさらに、当該複合体を含む医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上に鑑み、本件の発明者は、生分解性ポリマーおよび脂質を含むナノ粒子キャリアに注目し、研究を開始した。鋭意検討の結果、経鼻投与による神経保護のための複合体およびエピジェネティクス制御するための複合体として適したキャリアの構成を見いだした。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0010】
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
【0011】
[1]経鼻投与による神経保護のための複合体であって、単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびターゲッティング分子を含み、
ここで、当該脂質単層被覆型ナノ粒子は、生分解性ポリマーを含むコア及び当該コアをコートする脂質単分子層を含み、
当該薬剤は、生分解性ポリマーを含むコア中に存在し、そして
当該ターゲッティング分子は、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に結合している、前記複合体。
【0012】
[2]生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、上記[1]に記載の複合体。
【0013】
[3]脂質が、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンである、
ここで、当該アシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基であり;そして、
当該ポリエチレングリコールは、分子量2,000〜100,000であり、一方の末端はジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に連結しており、および、他方の末端においてタンパク質と連結可能な基を有するものである;
上記[1]又は[2]に記載の複合体。
【0014】
[4]ターゲッティング分子が、ラクトフェリンまたはコムギ胚芽凝集素であり、そして当該ターゲッティング分子は、当該脂質と共有結合することにより、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に結合している、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の複合体。
【0015】
[5]薬剤が、抗酸化剤であり、当該抗酸化剤は以下:ポルフィリン系抗酸化剤、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテノイド、キサントフィル類、ポリフェノール、フラボノイド類、からなる群より選択される、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の複合体。
【0016】
[6]抗酸化剤が、ポルフィリン系抗酸化剤であり、当該ポルフィリン系抗酸化剤は、
下記式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体:
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
Ar
1、Ar
2、Ar
3、およびAr
4、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、そしてAr
1、Ar
2、Ar
3、およびAr
4、の少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基である);および
下記式(II)で表されるカチオン性金属ポルフィリンダイマー:
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
Ar
1およびAr
1’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフ
ィリンにそれぞれ結合しており、
Ar
2、Ar
3、およびAr
4、並びに、Ar
2’、Ar
3’、およびAr
4’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、
Xは、−CH
2−フェニル−CH
2−であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
−C
2H
4−(NH−CH
2CH
2)
a− ・・・・ (III)
(式中、aは、1〜10の整数を示す)
−C
2H
4−(NH−CH
2CH
2CH
2)b−NH−CH
2CH
2− ・・・ (IV)
−C
3H
6−(NH−CH
2CH
2CH
2)b−NH−CH
2CH
2CH
2− ・・・(V)
(式中、bは3〜5の整数を示す))
からなる群より選択される、上記[5]に記載の複合体。
【0021】
[7]上記[1]ないし[6]のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【0022】
[8]脳疾患を治療するための、上記[1]ないし[6]のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【0023】
[9]薬剤と遺伝子を対象に共送達することによりエピジェネティクス制御するための複合体であって、当該複合体は脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびプラスミドDNAを含み、
ここで、当該脂質単層被覆型ナノ粒子は、生分解性ポリマーを含むコア及び当該コアをコートする脂質単分子層を含み、
当該薬剤は生分解性ポリマーを含むコア中に存在し、そして、
当該プラスミドDNAは、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に吸着または結合している、前記複合体。
【0024】
[10]生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、上記[9]に記載の複合体。
【0025】
[11]脂質が、以下:
ステアリルアミン;
1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE);
オレイルアミン;および
1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
からなる群より選択される、上記[9]又は[10]に記載の複合体。
【0026】
[12]ジアシルホスファチジルエタノールアミンが、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンであり、
ここで、当該アシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基であり;そして、
当該ポリエチレングリコールは、分子量2,000〜100,000であり、一方の末端
はジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に連結しており、および、他方の末端においてリガンドと結合している;
上記[11]に記載の複合体。
【0027】
[13]薬剤が、以下:
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤;
ヒストンメチル化酵素阻害剤;および
ヒストン脱メチル化酵素阻害剤;からなる群より選択される、上記[9]〜[12]のいずれか1項に記載の複合体。
【0028】
[14]プラスミドDNAが、以下:
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質をコードするDNA;
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;および
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;
からなる群より選択されるDNAを含む、上記[9]〜[13]のいずれか1項に記載の複合体。
【0029】
[15]上記[9]〜[15]のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0030】
本発明の複合体は、生分解性ポリマーのコアを脂質単層で被覆した構造を有することにより、安定性が向上しており、薬剤および/またはプラスミドDNAを目的の組織に送達するためのキャリアとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0033】
経鼻投与による神経保護のための複合体
一態様において、本出願は、経鼻投与による神経保護のための複合体であって、脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびターゲッティング分子を含む、前記複合体に関する。当該脂質単層被覆型ナノ粒子は生分解性ポリマーを含むコア及び当該コアをコートする脂質単分子層を含み、当該薬剤は生分解性ポリマーを含むコア中に存在し、そして、当該ターゲッティング分子は当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に結合している。
【0034】
脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびターゲッティング分子で構成される複合体を調製する手順は、
図1の模式図に示される構造が調製される限りにおいて特に制限はない。例えば、生分解性ポリマーおよび薬剤の溶液を、脂質溶液中に滴下し、合わせた溶液を超音波処理により粒子を形成することで、薬剤を含む脂質単層被覆型ナノ粒子を形成することができる。ターゲッティング分子を、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に共有結合させることで、脂質単層被覆型ナノ粒子をターゲティング分子で修飾することができる。複
合体を形成する条件は、当業者が適宜選択することができる。
【0035】
単層被覆型ナノ粒子のコアとなる生分解性ポリマー、単層被覆型ナノ粒子のコアをコートする脂質、薬剤、およびターゲッティング分子としては、以下に詳述するものを用いることができる。
【0036】
生分解性ポリマーは、特に限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される生分解性ポリマーである。
【0037】
経鼻投与による神経保護のための複合体について用いられる脂質は、ポリエチレングリコールで修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンであり、当該アシル基は、炭素数が12〜20、好ましくは炭素数が16〜20、さらに好ましくは炭素数が18の飽和または不飽和アシル基であり、そして、当該ポリエチレングリコールは分子量(Mw)2,000〜100,000、好ましくは5,000〜80,000、5,000〜50,000、または8,000〜30,000、であり、一方の末端はジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に連結しており、および、他方の末端においてタンパク質と連結可能な基を有する。
【0038】
上記のような脂質の具体例としては、以下の構造を有する脂質が挙げられる。
【0040】
[式中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、C
13−19アルキルまたはC
13−19アルケニル、好ましくはC
15−19アルキルまたはC
15−19アルケニル、さらに好ましくはC
17アルキルであり;
R
3は、タンパク質と連結可能な基であり;
nは、50〜2200の間の整数、好ましくは100〜1800、100〜1000、150〜700、または150〜400の間の整数である]
「タンパク質と連結可能な基」は、タンパク質のアミノ基、カルボキシル基またはチオール基と共有結合可能な基であれば特に限定されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、マレイミド基、アルデヒド基、が挙げられる。
【0041】
経鼻投与による神経保護のための複合体について用いられるターゲッティング分子は、鼻腔内の細胞に存在するレセプターに対するリガンドであれば特に限定されないが、例えば、ラクトフェリン、コムギ胚芽凝集素が挙げられる。ターゲッティング分子は、上記脂質におけるタンパク質と連結可能な基と共有結合を形成することで、脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に提示される。
【0042】
経鼻投与による神経保護のための複合体について用いられる薬剤は、特に限定されないが、抗酸化剤がこれに含まれる。抗酸化剤の例として、例えば、ポルフィリン系抗酸化剤
、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテノイド、キサントフィル類、ポリフェノール、フラボノイド類、が挙げられる。
【0043】
ポルフィリン系抗酸化剤として、例えば、カチオン性金属ポルフィリン錯体またはカチオン性金属ポルフィリンダイマーが挙げられる。
【0044】
カチオン性金属ポルフィリン錯体は、下記の式(I):
【0047】
前記式(I)における中心金属Mは、特に制限はないが、好ましくは遷移金属である。例えば、中心金属Mは、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子、および亜鉛原子からなる群より選択することができる。さらに好ましい中心金属はマンガン原子である。
【0048】
前記式(I)におけるAr
1、Ar
2、Ar
3、およびAr
4、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基である。当該芳香族基は、単環式のものでも、多環式のものでも、あるいは、縮合環式のものであってもよい。炭素環式の芳香族基としては例えば、炭素数6〜36、好ましくは6〜20の単環式、多環式、または縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。これには例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などから誘導される基が挙げられる。複素環式の芳香族基としては、1個または2個以上の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する5〜10員の単環式、多環式、または縮合環式の複素環から誘導される基である。これには例えば、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、アゾール環などから誘導される基である。好ましい芳香族基としては、フェニル基や2−イミダゾリル基などが挙げられる。
【0049】
前記式(I)のAr
1、Ar
2、Ar
3、およびAr
4の少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基である。芳香族基が有するカチオン性の基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜5程度の直鎖状または分枝状のアルキル基などによりカチオン化されたアンモニウム基やスルホニウム基などが挙げられるが、第四級アンモニウム基が好ましい。これらのカチオン性の基は芳香族基に直接結合していてもよいが、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜5程度の直鎖状または分枝状のアルキレン基を解して結合していてもよい、また、カチオン性の基は芳香族基の置換基として有していてもよいが、芳香族基の異種原子、好ましくは窒素原子が炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは
1〜5程度の直鎖状または分枝状のアルキル基などによりカチオン化されたものであってもよい。このような芳香族基としては、例えば、4−N,N,N−トリメチルアミノフェニル基、4−N,N,N−トリエチルアミノフェニル基などの4−N,N,N−トリ低級アルキルアミノフェニル基、N−メチル−4−ピリジル基、N−エチル−4−ピリジル基などのN−低級アルキル−4−ピジリル基、N,N’−ジ置換イミダゾール基などが挙げられる。また、これらのカチオン性の基を有する芳香族基が、フェニル基やナフチル基などの炭素環式芳香族基に直接またはアルキレン基、アミド基、またはエステル基などを解して結合した基となっていてもよい。
【0050】
これらの芳香族基は、置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基、アミノ基、前記したアルキル基で置換されているアミノ基、前記したアルキル基を含むアルコキシ基などが挙げられる。
【0051】
カチオン性金属ポルフィリンダイマーは、下記の式(II):
【0054】
前記式(II)における中心金属Mは、特に制限はないが、好ましくは遷移金属である。例えば、中心金属Mは、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子、および亜鉛原子からなる群より選択することができる。さらに好ましい中心金属はマンガン原子である。
【0055】
前記式(II)におけるAr
1およびAr
1’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフィリンにそれぞれ結合している。
【0056】
前記式(II)におけるr
2、Ar
3、およびAr
4、並びに、Ar
2’、Ar
3’、およびAr
4’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基である。当該芳香族基は、単環式のものでも、多環式のものでも、あるいは、縮合環式のものであってもよい。炭素環式の芳香族基としては例えば、炭素数6〜36、好ましくは6〜20の単環式、多環式、または縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。これには例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などから誘導される基が挙げられる。複素環式の芳香族基としては、1個または2個異常の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する5〜10員の単環式、多環式、または縮合環式の複素環から誘導される基である。これには例えば、ピリジン環、ピリミジン環、アゾール環などおから誘導される基である。好ましい芳香族基としては、フェニル基や4−ピリジル基などが挙げられる。
【0057】
これらの芳香族基は、置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基、アミノ基、前記したアルキル基で置換されているアミノ基、前記したアルキル基を含むアルコキシ基などが挙げられる。
【0058】
前記式(II)において、Xは、−CH
2−フェニル−CH
2−であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
−C
2H
4−(NH−CH
2CH
2)
a− ・・・・ (III)
(式中、aは、1〜10の整数を示す)
−C
2H
4−(NH−CH
2CH
2CH
2)b−NH−CH
2CH
2− ・・・ (IV)
−C
3H
6−(NH−CH
2CH
2CH
2)b−NH−CH
2CH
2CH
2− ・・・(V)
(式中、bは3〜5の整数を示す)
好ましくは、Xは−CH
2−フェニル−CH
2−である。
【0059】
経鼻投与による神経保護のための複合体を含む医薬組成物
別の態様において、本出願は、上記の経鼻投与による神経保護のための複合体を含む医薬組成物に関する。
【0060】
経鼻投与は、鼻腔内への噴霧または吸引により行うことができる。鼻腔内への噴霧は、所定の容量の複合体を、空気又は人体に悪影響のないガス(窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、代替フロンガス等)とともに鼻腔内へ噴霧することにより達成できる。噴霧は、当該技術分野において通常用いられている経鼻投与用器具を使用することができる。吸引による経鼻投与は、本発明の組成物の一定量をカプセルまたはブリスターパック等に充填し、これを吸引器具に装着して吸引することにより行うことができる。
【0061】
経鼻投与のための医薬組成物は、本発明の複合体の他、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、保存剤、防腐剤等を含んでいてもよい。
【0062】
経鼻投与による神経保護のための複合体を含む医薬組成物の有効投与量は病態や患者により相違するが、一般には、薬剤がポルフィリン系抗酸化剤である場合、1日あたり抗酸化剤が1μg〜1gになるように投与することができる。本発明の医薬組成物は、1回で投与する、1日数回にわけて投与する、あるいは、連続的に投与する。医師をはじめとする医療従事者は、患者の属性および/または病態等に応じて、本発明の医薬組成物の投与量、投与間隔、投与時間、投与手順、投与部位等の用法または用量を適宜決定することができる。そのようにして適宜決定される用法または用量で投与される本発明の医薬組成物もまた、本発明の範囲内である。
【0063】
本発明の、経鼻投与による神経保護のための複合体を含む医薬組成物による予防や治療に適する疾患としては、脳への薬剤送達が治療のために好ましい疾患が挙げられる。このような疾患の例としては、特に限定されるものではないが、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの脳疾患が挙げられる。
【0064】
エピジェネティクス制御するための複合体
一態様において、本出願は、薬剤と遺伝子を対象に共送達することによりエピジェネティクス制御するための複合体であって、脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびプラスミドDNAを含む、前記複合体に関する。当該脂質単層被覆型ナノ粒子は生分解性ポリマーを含むコア及び当該コアをコートする脂質単分子層を含み、当該薬剤は生分解性ポリマーを含むコア中に存在し、そして、当該プラスミドDNAは当該脂質単層被覆型ナノ粒子の
表面に吸着または結合している。
【0065】
脂質単層被覆型ナノ粒子、薬剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を調製する手順は、
図2の模式図に示される構造が調製される限りにおいて特に制限はない。例えば、生分解性ポリマー、薬剤および脂質の溶液に貧溶媒を添加した後、撹拌して粒子を形成することで、薬剤を含む脂質単層被覆型ナノ粒子を形成することができる。プラスミドDNAと脂質単層被覆型ナノ粒子とを混合して、当該脂質単層被覆型ナノ粒子の表面に吸着または結合させることで、プラスミドDNAと脂質単層被覆型ナノ粒子を複合化することができる。複合体を形成する条件は、当業者が適宜選択することができる。
【0066】
単層被覆型ナノ粒子のコアとなる生分解性ポリマー、単層被覆型ナノ粒子のコアをコートする脂質、薬剤、およびターゲッティング分子としては、以下に詳述するものを用いることができる。
【0067】
生分解性ポリマーは、特に限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される生分解性ポリマーである。
【0068】
エピジェネティクス制御するための複合体について用いられる脂質は、生分解性ポリマー粒子の表面上で単分子層を形成可能な脂質であれば、特に限定されないが、例えば、以下:
ステアリルアミン;
1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE);
オレイルアミン;
1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
が挙げられる。
【0069】
ジアシルホスファチジルエタノールアミンは、上記「経鼻投与による神経保護のための複合体」の項目において記載した、ポリエチレングリコールで修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンであってもよい。この場合において、ポリエチレングリコールの一方の末端はジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に連結しており、および、他方の末端においてリガンドと結合している。リガンドは、特に限定されないが、本発明の複合体を送達することが好ましい細胞、組織等に存在するリガンドであってよい。一態様において、リガンドと結合しているポリエチレングリコールで修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンは、以下の構造を有する脂質であってよい。
【0071】
[式中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、C
13−19アルキルまたはC
13−19アルケニル、好ましくはC
15−19アルキルまたはC
15−19アルケニル、さらに好ましくはC
17アルキルであり;
R
3は、リガンドである;
nは、50〜2200の間の整数、好ましくは100〜1800、100〜1000、150〜700、または150〜400の間の整数である]
エピジェネティクス制御するための複合体について用いられる薬剤は、特に限定されないが、例えば、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(例えば、トリコスタチンA(TSA)、スラミン(Suramin))、ヒストンメチル化酵素阻害剤(例えば、EZH2の阻害剤で
あるEPZ005687(1−シクロペンチル−N−[(1,2−ジヒドロ−4,6−ジメチル−
2−オキソ−3−ピリジニル)メチル]−6−[4−(4−モルホリニルメチル)フェニ
ル]−1H−インダゾール−4−カルボキサミド))、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤(例えば、アデノシン−2’,3’−ジアルデヒド(Adox))が挙げられる。
【0072】
プラスミドDNAは、本願の複合体に含まれるプラスミドDNAは、特に限定されないが、本願の複合体を適用する対象において、酵素またはタンパク質の発現量または活性を変調することができるものである。このようなプラスミドDNAとして、例えば、酵素またはタンパク質をコードするDNA;対象において酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;あるいは、酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;を含むプラスミドDNAが挙げられる。
【0073】
酵素またはタンパク質をコードするDNAを含むプラスミドDNAは、本願の複合体が適用された対象において当該酵素またはタンパク質を発現する。それにより、当該酵素またはタンパク質の発現量を増加させることができる。
【0074】
対象において酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNAを含むプラスミドDNAは、本願の複合体が適用された対象においてアンチセンス核酸または二本鎖RNAを発現する。それにより、アンチセンス核酸の作用またはRNA干渉の作用に基づいて、当該酵素またはタンパク質の発現を抑制することができる。
【0075】
酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNAは、本願の複合体が適用された対象において当該酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントを発現する。それにより、当該酵素またはタンパク質の活性が抑制または亢進する。特定の酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントは当業者に周知の方法により作製することができ、またそれらをコードするDNAも当業者は適宜同定することができる。抗体のフラグメントは、特に限定されないが、Fab、F(ab’)
2、Fab’、Fv、scFvが含まれる。
【0076】
エピジェネティクス制御するための複合体を含む医薬組成物
別の態様において、本出願は、上記のエピジェネティクス制御するための複合体を含む医薬組成物に関する。
【0077】
本発明の医薬組成物は、経口投与、または、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、もしくは経直腸投与などの非経口投与により投与することができる。経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、シロップ剤などが挙げられる。非経口投与に適した製剤として、本発明の医薬組成物を無菌溶液または坐剤として調
製してもよい。本発明の医薬組成物は公知の方法により製剤化することができ、投与方法や患者により適宜製剤することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を有効成分として含有し、これに製薬上許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香料、着色剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などと共に公知の方法により製剤化することができる。
【0078】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、病態や患者により相違するが、一般的には、1日あたり抗酸化剤が1μg〜1g、プラスミドDNAが0.6mg〜600mgになるように投与することができる。本発明の医薬組成物は、1回で投与する、1日数回にわけて投与する。あるいは、連続的に投与する。医師をはじめとする医療従事者は、患者の属性および/または病態等に応じて、本発明の医薬組成物の投与量、投与間隔、投与時間、投与手順、投与部位等の用法または用量を適宜決定することができる。そのようにして適宜決定される用法または用量で投与される本発明の医薬組成物もまた、本発明の範囲内である。
【0079】
本発明の抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を有効成分とする医薬組成物による予防や治療に適する疾患としては、エピジェネティクスの異常で引き起こされる疾患が挙げられる。このような疾患の例としては、特に限定されるものではないが、例えば炎症性肺疾患(COPD)などの炎症性疾患、大腸がん、乳がん、糖尿病、アルツハイマー型認知症等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に本発明の具体例を示す。これらの具体例は、本発明を理解するための説明を提供することを目的とするものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0081】
実施例1:MndMImP3Pの製造
(1)
H2MImP3P(5−(1−メチルイミダゾール−2−イル)−10,15,20−トリフェニル−21H,23H−ポルフィリン)の合成
500mlの三つ口フラスコにプロピオン酸300mlを加え、170℃にて30分間攪拌・還流した。温度一定後、ベンズアルデヒド7.86ml、1−メチル−2−イミダゾールカルボキシアルデヒド4.0gを加え、続いて精製したピロールを8ml加えた。1時間加熱攪拌後、90℃まで放冷し、エチレングリコール200mlを滴下した。室温まで放冷した後、冷蔵庫で一晩静置した。冷却後の溶液を吸引濾過し、冷やしたメタノール洗浄した後に紫粉末の6種類のポルフィリンからなる混合物を回収した。得られたポルフィリンの混合物を、シリカゲルクロマトグラフィーによりメタノール:クロロホルム=1:20の溶媒で溶出させ、2番目に溶出してきたH
2MImP
3Pを回収した。ロータリーエバポレーターで分画の溶媒を留去し、目的のポルフィリンを得た。
(2)
H2dMImP3P(5−(1,3−ジメチルイミダゾリウム−2−イル)−10,15,20−トリフェニル−21H,23H−ポルフィリン)の合成
前記(1)で得たポルフィリンH
2MImP
3Pをクロロホルム10mlに溶解させ、100ml三つ口フラスコに加え、続いてヨードメタン10mlを加え、40℃で18時間還流した。ロータリーエバポレーターにより、反応混合物の溶媒を留去し、目的物となるH
2dMImP
3Pを回収した。合成の確認は、
1H−NMRとUV−visスペクトルで行った。
【0082】
H
2dMImP
3Pの極大吸収波長:λmax 463nm(soret帯)
H
2dMImP
3Pの
1H−NMR:9.10(2H)(ジメチルイミダゾリウムの4,5位の水素原子)8.90(4H)(ピロールのβ位の水素原子)8.76(4H)(ピロールのβ位水素原子)8.21(6H)(フェニル基のオルト位の水素原子)7.8
1(9H)(フェニル基のメタ、パラ位の水素原子)−2.63(2H)(環内部の水素原子)
(3)
H2dMImP3PへのMn導入
100mlの三つ口フラスコに前記(2)で得られたH
2dMImP3Pを加えて、メタノールに溶解させた後、10当量の酢酸マンガン4水和物を加え、50℃で加熱還流し、UV−可視スペクトルを用いてポルフィリンのソーレー帯のシフトおよび吸光度変化から金属導入の確認ができるまで反応を行った。反応終了後、エバポレートすることで溶媒を留去した。得られた固体を水に再溶解させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムを適量加え、吸引濾過し、濾紙上の緑色固体を回収した。ろ物を適量のメタノールに溶解させ、イオン交換樹脂(Cl
−)を用いたカラムを行い、MnポルフィリンのカウンターイオンをCl
−に交換した。合成の確認はUVスペクトル測定およびFAB−MASSで行った。結果を次に示す。
【0083】
H
2dMImP
3Pの極大吸収波長:467nm(soret帯)FAB−MASS測定において、目的物の分子量である686にピークが観測された。
【0084】
MndMImP
3Pの構造式:
【0085】
【化7】
【0086】
なお、実施例2以降は、“MndMImP
3P”を単に“MnP”と記載することがある。
【0087】
実施例2:ラクトフェリン(Lf)修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の合成
(1)
MnP含有脂質単層被覆型粒子の調製
次式:
【0088】
【化8】
【0089】
で表されるDSPE−PEG2000−Mal 3.75mgと、4wt%エタノール3.75mlを10mlバイアル瓶に加え、65℃で加熱することで完全に溶解させた。溶解後、100mlビーカー中で、蒸留水(DW)で100mlまでメスアップした(a)。PLGA(ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体/Mw 10000) 25mgとM
nP 0.5mgをアセトニトリル10mlに加え、スターラー攪拌している上記(a)にピペッターで滴下した。滴下後、5分間超音波処理し、粒子を形成した。形成した粒子の含まれる溶液を50ml遠沈管2本に移し入れ、遠心分離(12500rpm,20分×2回)により粒子の精製を行うことでMnP含有脂質単層被覆型粒子分散液を得た。粒径は111±25nm、ゼータ電位は−64mVの値を示した。
(2)
Lfのチオール化
Lf 31.2mgをホウ酸バッファー(BB:0.1M,pH8.5)1mlに加え、冷蔵庫内で3時間攪拌した。2−イミノチオラン1mgをBB 2mlに溶解し、上記のLfを含む溶液に100μl添加し、N
2フロー下で1時間反応させた。反応終了後、BB 4mlを追加し、100μlサンプリングした。その後、リン酸バッファー(PB:50mM,pH7.4)100mlを加えた200mlビーカーで分画分子量10kDaの透析膜を用い、3日間透析を行った。反応後溶液を遠心分離(14500rpm,4℃,20分×2回)し、上澄を回収することで凝集体を除去した。また、反応後溶液として100μlサンプリングした。
【0090】
反応前後のサンプリングした溶液でアミノ基定量及びチオール基定量を行い、チオール化率を次式:
【0091】
【数1】
【0092】
により算出した。反応後のLfのチオール化率は56%と算出された。
(3)
Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の合成
チオール化したLfとMnP含有脂質単層被覆型粒子の表面に存在するマレイミド基のモル比が2:1になるように、チオール化したLf溶液30μlとMnP含有脂質単層被覆型粒子分散液1.8mlを10mlバイアル瓶中で、室温で10時間攪拌させた。反応後、フリーのLfを除くために遠心分離(12500rpm,20分間,4℃×2回)で精製を行うことでLf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子分散液を得た。上澄溶液を分注しておき、上澄溶液中に含まれるタンパク量を定量することで、MnP含有脂質単層被覆型粒子へのLf修飾量を算出した。粒子1つあたり、144個のLfが修飾されている結果となった。粒径は171±48nm、ゼータ電位は−15mVの値を示した。
【0093】
実施例3:Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の細胞表面への結合評価
細胞表面への結合評価は、PC12細胞(ラット副腎髄質由来細胞)を用いて行った。PC12細胞の培養は、10%HS、5%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO
2、4℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、2×10
4細胞/ウェルの細胞密度で48ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。MnP含有脂質単層被覆型粒子、Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子を各種濃度が10μMになるように添加し、4時間培養後、培地を除去し、3度の培地洗浄により細胞膜にリガンドとレセプターの相互作用以外で付着している各種粒子を除去した。洗浄後、100μl/ウェルのcell lysisで細胞を溶解させ、細胞溶解液をサンプル管に回収した。細胞溶解液の上清をサンプルとし、細胞表面に結合した金属ポルフィリンを、UV−visスペクトルによって定量した。
【0094】
Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の細胞膜表面への結合量は、0.16±0.04μg/mgタンパク質となった。これは、MnP含有脂質単層被覆型粒子の0.03±0.005μg/mgタンパク質と比較して5倍程度増加した。
【0095】
実施例4:Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の細胞膜内への取り込み評価
細胞膜内への取り込み評価は、PC12細胞(ラット副腎髄質由来細胞)を用いて行った。PC12細胞の培養は10%HS、5%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO
2、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、2×10
4細胞/ウェルの細胞密度で48ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。MnP含有脂質単層被覆型粒子、Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子を各種濃度が10μMになるように添加し、4時間培養後、培地を除去し、PBS(−)洗浄により細胞膜に付着している各種粒子を除去した。洗浄後、100μl/ウェルのcell lysisで細胞を溶解させ、細胞溶解液をサンプル管に回収した。細胞溶解液の上清をサンプルとし、細胞内に取り込まれている金属ポルフィリンを、UV−visスペクトルによって定量した。
【0096】
Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の細胞膜内への取り込み量は、0.26±0.07μg/mgタンパク質となった。これは、MnP含有脂質単層被覆型粒子の0.04±0.02μg/mgタンパク質と比較して、7倍程度増加した。
【0097】
実施例5:Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子のトランスサイトーシス評価
トランスサイトーシス評価は、BEAS−2B細胞(ヒト気道上皮細胞)を用いて行った。BEAS−2B細胞の培養は5%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO
2、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、2×10
4c細胞/ウェルの細胞密度でトランスウェルプレートの上層に播種し、下層には、蒸留水を100μl添加し、24時間インキュベーター内で培養した。MnP含有脂質単層被覆型粒子、Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子を各種濃度が10μMになるように添加し、4時間培養後、上層に播種した細胞内をトランスサイトーシスし、下層に送達された各種粒子中に含まれる金属ポルフィリンを、UV−visスペクトルによって定量した。
【0098】
Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子のトランスサイトーシスにより、下層に送達された粒子中のMnP量は、0.4±0.03μg/mgタンパク質となった。これは、MnP含有脂質単層被覆型粒子の0.07±0.01μg/mgタンパク質と比較して、6倍程度増加した。
【0099】
実施例6:Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子の神経細胞保護効果
神経細胞保護効果の評価は、PC12細胞(ラット副腎髄質由来細胞)を用いて行った。PC12細胞の培養は10%HS、5%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO
2、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10
4細胞/ウェルの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。MnP含有脂質単層被覆型粒子、Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子を各種濃度が10μMになるように添加し、4時間培養後、培地を除去し、パラコート(1,1’−ジメチル−4,4’−ジピリジニウムジクロリド)を培地中濃度が300μMになるように添加した。24時間インキュベート後、培地を交換し、アラマーブルーを10μl/ウェルで加え、4時間インキュベートした。インキュベート後、プレートリーダーを用いて、波長570nm及び590nmの吸光度を測定することで細胞生存率を算出した。
パラコートを添加した細胞群では、細胞生存率は、89±3%まで低下し、Lf修飾MnP含有脂質単層被覆型粒子を前添加した細胞群においては、細胞生存率が103±1%まで向上し、神経細胞保護効果が示された。
【0100】
実施例7:脂質単層被覆型粒子の調製
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)(2.5mg)、PLGA(25mg)及びステアリルアミン(3.75mg)はアセトン(2500μL)に溶解し、15分静置した。この溶液に対し、エタノール/蒸留水(50/50%,v
/v)混合溶媒1200μLを2mL/分で滴下し、400rpmで5分間撹拌した。本溶液は蒸留水10mLに滴下し、目的の粒子懸濁液を得、粒子懸濁液は13000rpm/20minの遠心分離により精製した。脂質単層被覆型粒子へのTSA封入はUV−visスペクトルにより評価し、3.5μg/1mg NPsの封入量となった。最後に、脂質単層被覆型粒子はプラスミドDNA(pDNA)と複合化した。脂質単層被覆型粒子へのpDNAの複合化は、アガロースゲル電気泳動により評価し、電荷比(+/−)が2以降でpDNAのバンドの完全な消失が認められ、脂質単層被覆型粒子との複合化が確認された。
【0101】
実施例8:脂質単層被覆型粒子の機能評価
実施例7において調製した脂質単層被覆型粒子及びpDNAと複合化した脂質単層被覆型粒子の粒径・ゼータ電位を、動的光散乱法(DLS)により測定した。また、pDNAと複合化していない脂質単層被覆型粒子単体の粒径の経時変化もDLSにより評価した。脂質単層被覆型粒子の粒径は83.4±20.8nm、ゼータ電位は54.70mVの値を示した。pDNAと複合化した脂質単層被覆型粒子の粒径は115.9±22.0nm、ゼータ電位は18.08mVの値を示した。調製から一か月経過した粒子の粒径は85.6±22.5nm、ゼータ電位は52.34mVの値を示した。
【0102】
実施例9:脂質単層被覆型粒子の遺伝子発現
脂質単層被覆型粒子を、pDNAとしてpGL3(プロメガ)を用いて、実施例7と同様の方法で調製した。
【0103】
HeLa細胞は1×10
4細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。一晩のインキュベート後、培地交換を行い、ルシフェラーゼをコードしたpDNAであるpGL3(プロメガ)と複合化した脂質単層被覆型粒子を添加した。サンプル添加から24時間後、培地除去後にPBS(+)により細胞を洗浄し、新鮮な培地を添加し、48時間インキュベートした。インキュベート後、培地を除去し、細胞はPBS(+)により洗浄した。その後、細胞は5×cell lysis(20μL)を添加することにより溶解させた。各種サンプルの化学発光は、ルシフェラーゼ基質(100μL)を各wellに添加し、ルミノメーターにより測定した。pGL3と複合化した脂質単層被覆型粒子を添加した細胞において遺伝子発現が示された。
【0104】
実施例10:脂質単層被覆型粒子の細胞毒性評価
脂質単層被覆型粒子を、pDNAとしてヒストンアセチル化酵素をコードしたpDNAを用い、TSAを含めずに、実施例7と同様の方法で調製した。
【0105】
HeLa細胞は1×10
4細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。一晩のインキュベート後、培地交換を行い、ヒストンアセチル化酵素をコードしたpDNAと複合化した薬剤を含まない脂質単層被覆型粒子を添加した。サンプル添加から24時間後、培地除去後にPBS(+)により細胞を洗浄し、新鮮な培地を添加し、48時間インキュベートした。インキュベート後、培地交換を行い、各ウェルにアラマーブルー(10μL)を添加し添加し4時間インキュベートした。インキュベート後、吸光度(570nm/600nm)はプレートリーダーにより測定し、細胞生存率は未処理の細胞の吸光度(570nm/600nm)の相対比として算出した。pDNAと複合化した薬剤を含まない脂質単層被覆型粒子を添加した細胞において、電荷比(+/−)が4まで全くの毒性を示さなかった。
【0106】
実施例11:細胞内エピジェネティクス評価
脂質単層被覆型粒子を、pDNAとしてヒストンアセチル化酵素をコードしたpDNAを用いて、実施例7と同様の方法で調製した。
【0107】
HeLa細胞は1×10
5細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種した。一晩のインキュベート後、培地交換を行い、ヒストンアセチル化酵素をコードしたpDNAと複合化したTSA脂質単層被覆型粒子を添加した。サンプル添加から24時間後、培地除去後にPBS(+)により細胞を洗浄し、新鮮な培地を添加し、48時間インキュベートした。インキュベート後、細胞は5×cell lysis(200μL)を添加することにより溶解させた。2×サンプルバッファー(メルカプトエタノールを含まない)は各ウェルに等量添加し、最終濃度が10%となる様にメルカプトエタノールを添加した。その後、ウェスタンブロットに用いるサンプルは、95℃で5分間、熱処理することにより得た。脂質単層被覆型粒子を添加した細胞におけるヒストンアセチル化量はウェスタンブロット法により評価した。ヒストンアセチル化(Ac−H3K9)量はヒストンアセチル化酵素をコードしたpDNAと複合化したTSA含有脂質単層被覆型粒子を添加した細胞において、未処理の細胞と比較して1.75倍となった。