【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0031】
まず、従来のサクシノグリカンに加熱処理を施して改質し、水溶液の粘度を調べた。従来のサクシノグリカンとしては、市販品(デュポン社製)を用意し、粉末状態で加熱処理した。具体的には、100℃の恒温槽で360分の加熱処理を施して、改質サクシノグリカンを得た。ここで用いた改質前のサクシノグリカンの含水量は、10%程度である。
【0032】
改質サクシノグリカンは、それぞれ1質量%の濃度でイオン交換水に加えて、サクシノグリカン水溶液を調製した。得られたサクシノグリカン水溶液について、25〜80℃の粘度を測定した。水溶液の温度は、恒温水槽により調整し、B型粘度計を用いて粘度を測定した。その結果を
図1に示す。比較のために、同様のサクシノグリカンを未処理の状態で同様の水溶液とし、25〜80℃の粘度を測定した。その結果を
図2に示す。
【0033】
図1,2には、サクシノグリカンの粘度低下温度(60〜70℃)近傍で、粘度が低下することが示されている。未処理の従来のサクシノグリカン(
図2)と比較して、本発明の改質サクシノグリカン(
図1)の場合には、粘度低下の程度が低減されている。粉末状のサクシノグリカンに加熱処理を施したことによって、高温下での高次構造変化が抑制されたものと推測される。
【0034】
<加熱処理温度の影響>
次に、加熱処理の時間の影響を調べた。100℃の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末300gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱時間は、3時間、6時間、および15時間とした。加熱時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、それぞれイオン交換水に溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0035】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定して、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて1晩静置した後の粘度とした。なお、未処理のサクシノグリカンについても、同様に粘度を測定した。
その結果を、下記表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1に示されるように、従来のサクシノグリカンは、粘度比(μ(20)/μ(85))が14.9と大きく、高温での粘度安定性が乏しいことがわかる。これに対し、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が5.8以下であり、高温での粘度安定性に優れている。特に、加熱処理時間が長くなると、粘度比(μ(20)/μ(85))がさらに低下して、高温での粘度安定性がよりいっそう向上する。
【0038】
<分散時のダマ防止効果>
前述と同様のサクシノグリカン粉末5kgを、エクストルーダー(日本製鋼所)を使用して加熱処理した。サクシノグリカンに水計100gを添加しながら、品温230℃になるように設定温度および設定圧力を調整した。加熱処理時間は5分であった。ハンマーミルで粉砕し60メッシュで篩分けを行い通過した粉末を、改質サクシノグリカンとした。
【0039】
得られた改質サクシノグリカンを、1質量%で精製水(20℃)に分散してダマの様子を目視により確認した。さらに、精製水に分散後95℃で2分間加熱溶解した後、85℃に降温した時の粘度(μ(85))、および95℃で2分間加熱溶解した後、恒温槽(20℃)にて1晩静置した後の粘度(μ(20))を測定した。未処理のサクシノグリカンについても、同様に分散後の状態を調べた。その結果を、下記表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
上記表2に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンは、水に分散した際にダマの発生がなく、加熱溶解後の粘度低下も抑制されている。
【0042】
<他の糊料との相乗効果>
まず、前述と同様のサクシノグリカン粉末500gを、100℃の恒温層で270分間処理して、改質サクシノグリカンを得た。改質サクシノグリカンを、各種糊料と所定の濃度で混合し、精製水に分散後、加熱溶解して溶液を調製した。得られた溶液について、85℃の粘度(μ(85))と20℃の粘度(μ(20))を測定し、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。
【0043】
用いた糊料は、以下のとおりである。
プルラン:「プルラン」((株)林原)
タピオカ澱粉:「TK−200」(三和澱粉工業(株))
グァーガム:「GR−10」伊那食品工業(株)
【0044】
プルランは5.0質量%の溶液とし、そこに0.5質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびプルランのみの溶液も調製した。
タピオカ澱粉は3.0質量%の溶液とし、そこに0.5質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびタピオカ澱粉のみの溶液も調製した。
グァーガムは0.25質量%の溶液とし、そこに0.25質量%の改質サクシノグリカンを加えた。比較のために、改質サクシノグリカンを未処理のサクシノグリカンに変更した以外は同様の溶液、およびグァーガムのみの溶液も調製した。
【0045】
各糊料を用いた場合の3種類の溶液について、85℃の粘度(μ(85))、20℃の粘度(μ(20))、および粘度比(μ(20)/μ(85))を、下記表3にまとめる。
【0046】
【表3】
【0047】
加熱処理して得られた本発明の改質サクシノグリカンは、各種糊料と組み合わせることで高い増粘効果を得ることができる。
【0048】
<加熱処理温度毎の影響1>
次に、加熱処理温度と時間の影響を調べた。60〜250℃の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末200gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱温度および時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、イオン交換水にそれぞれ溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0049】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定し、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて20℃で1晩静置した後の粘度とした。その結果を、加熱温度および加熱時間とともに下記表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
上記表4に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が12以下であり、高温での粘度安定性に優れている。
【0052】
<加熱処理温度毎の影響2>
加熱温度と時間の影響を調べた。所定温度の恒温槽内で、前述と同様のサクシノグリカン粉末500gを所定時間加熱して、改質サクシノグリカンを得た。加熱温度は、60℃、80℃、120℃、150℃、170℃とした。加熱温度および時間の異なる改質サクシノグリカン粉末を、それぞれイオン交換水に溶解して、1質量%の濃度のサクシノグリカン水溶液を調製した。
【0053】
サクシノグリカン水溶液95℃以上で2分間加熱溶解した後、85℃の粘度(μ(85))および20℃の粘度(μ(20))を測定して、粘度比(μ(20)/μ(85))を求めた。85℃の粘度(μ(85))は加熱溶解直後の粘度であり、20℃の粘度(μ(20))は恒温槽にて1晩静置した後の粘度とした。その結果を、加熱温度および加熱時間とともに下記表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
上記表5に示されるように、本発明の改質サクシノグリカンでは、粘度比(μ(20)/μ(85))が12以下であり、高温での粘度安定性に優れている。
【0056】
<とろみスープへの応用>
下記表6および表7に示した処方で、とろみスープを作製した(作製量500g。)
具体的には、水に乾燥スープ、食塩、改質サクシノグルカンまたはサクシノグリカンを加え、95℃にて加熱溶解した。85℃における粘度、および20℃に冷却した時の粘度を測定した。
【0057】
85℃および20℃における食感を、下記の指標で評価した。評価は10名のパネラーで行い、最も人数が多かった評価を記載した。なお、サクシノグルカンの替わりにキサンタンガム(イナゲルV−10、伊那食品工業社製)を使用したものも作製し、比較例25とした。
◎:適度なとろみがあり、糊状感がなく美味しい
〇:◎程ではないが美味しい
△:とろみが若干ある程度である
×:とろみを感じない
××:とろみはあるが糊状感があり美味しさに欠ける
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
以上のように、本発明の改質サクシノグリカンを使用してとろみを付与したスープは、85℃および20℃のいずれの温度においても、糊状感のない適度なとろみを有しており、美味しいスープを作製することができた。これに対し、キサンタンガムを用いた場合は糊状感があり、美味しさの面で劣るものとなった。