(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986787
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】レーザー溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20211213BHJP
B23K 26/044 20140101ALI20211213BHJP
B23K 26/242 20140101ALI20211213BHJP
B23K 26/244 20140101ALI20211213BHJP
【FI】
B23K26/21 Z
B23K26/044
B23K26/242
B23K26/244
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-520166(P2020-520166)
(86)(22)【出願日】2019年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2019044918
(87)【国際公開番号】WO2021095247
(87)【国際公開日】20210520
【審査請求日】2020年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】392028321
【氏名又は名称】株式会社小林製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖典
【審査官】
山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−057480(JP,A)
【文献】
特開平10−006062(JP,A)
【文献】
特開2002−079391(JP,A)
【文献】
特開2004−042113(JP,A)
【文献】
特開2015−217408(JP,A)
【文献】
特開2009−184013(JP,A)
【文献】
特開2017−060982(JP,A)
【文献】
特開2017−006953(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2019/0061052(US,A1)
【文献】
特開平04−351273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象物とレーザー光を照射するノズルとを相対的に移動させることにより、前記溶接対象物の溶接部位に沿って溶接を行うレーザー溶接部と、
前記ノズルが前記溶接対象物に接することで前記レーザー光が前記溶接部位を照射するように、前記ノズルに前記溶接部位方向に付勢力を与えながら、前記ノズルを移動可能に保持する保持部とを備え、
前記保持部は、前記付勢力によって前記溶接対象物に含まれる二つの部材が接合される前記溶接部位に前記ノズルを導く
レーザー溶接システム。
【請求項2】
溶接対象物とレーザー光を照射するノズルとを相対的に移動させることにより、前記溶接対象物の溶接部位に沿って溶接を行うレーザー溶接部と、
前記溶接対象物に含まれる二つの部材が接合される前記溶接部位に前記ノズルが導かれ、前記ノズルが前記溶接対象物に接することで前記レーザー光が前記溶接部位を照射するように、前記ノズルに前記溶接部位方向に付勢力を与えながら、前記ノズルを移動可能に保持する保持部とを備え、
前記保持部は、前記レーザー溶接部の後端部を回転可能に保持し、
前記レーザー溶接部の先端部と前記保持部とは弾性部材を介して接続されている
レーザー溶接システム。
【請求項3】
溶接対象物とレーザー光を照射するノズルとを相対的に移動させることにより、前記溶接対象物の溶接部位に沿って溶接を行うレーザー溶接部と、
前記溶接対象物に含まれる二つの部材が接合される前記溶接部位に前記ノズルが導かれ、前記ノズルが前記溶接対象物に接することで前記レーザー光が前記溶接部位を照射するように、前記ノズルに前記溶接部位方向に付勢力を与えながら、前記ノズルを移動可能に保持する保持部とを備え、
前記保持部は、前記レーザー光の照射方向と交わる方向に移動可能に前記ノズルを保持する
レーザー溶接システム。
【請求項4】
前記溶接部位と対応する位置に角が形成され、
前記溶接部位を前記角の内側から溶接する場合、前記ノズルは前記角の内側に嵌る形状を有する
請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザー溶接システム。
【請求項5】
前記レーザー溶接部は、さらに前記ノズルから前記溶接部位にシールドガスを噴出し、
前記形状は、先の窄まった形状である
請求項4に記載のレーザー溶接システム。
【請求項6】
前記溶接対象物が突合せ継手により接合される第1板状部材と第2板状部材とである場合、前記第1板状部材上に設けられ、前記第1板状部材及び前記第2板状部材のうち少なくとも一方との間で前記角を形成する治具をさらに備える
請求項4又は5に記載のレーザー溶接システム。
【請求項7】
前記溶接部位と対応する位置に角が形成され、
前記溶接部位を前記角の外側から溶接する場合、前記ノズルは前記角の外側に嵌る形状を有する
請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザー溶接システム。
【請求項8】
前記角の形状を認識する認識部と、
互いに形状の異なる複数のノズルの中から、前記認識された形状に対応する形状のノズルを選択する選択部と、
前記選択されたノズルを前記レーザー溶接部に取り付ける取り付け部と
を備える請求項4から7のいずれか1項に記載のレーザー溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光により溶接対象物を溶接する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光により溶接対象物を溶接する技術がある。例えば特許文献1には、蓋体とケース体とを溶接するレーザー溶接装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−84536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、製造誤差、固定誤差、温度誤差等の原因により、溶接対象物の寸法に誤差が生じる場合がある。特に、複数の溶接対象物を同じ寸法で製造する場合には、これらの溶接対象物の間で寸法のばらつきが発生する場合がある。これらの溶接対象物を順番にレーザー光で溶接する場合、一の溶接対象物に対してレーザー光の位置決めをしても、他の溶接対象物に入れ替えるとレーザー光の位置がずれてしまう場合がある。このような位置のずれを補正するために、例えばこれらの溶接対象物の一つひとつについてレーザー光の位置決めをすることも考えられるが、そうすると位置決めの作業に時間と手間がかかる。
本発明は、溶接対象物の溶接に用いられるレーザー光の位置のずれを作業者の手を介さずに補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、溶接対象物とレーザー光を照射するノズルとを相対的に移動させることにより、前記溶接対象物の溶接部位に沿って溶接を行うレーザー溶接部と、前記ノズルが前記溶接対象物に接することで前記レーザー光が前記溶接部位を照射するように、前記ノズルに前記溶接部位方向に付勢力を与えながら、前記ノズルを移動可能に保持する保持部とを備えるレーザー溶接システムを提供する。
【0006】
前記保持部は、前記レーザー溶接部の後端部を回転可能に保持し、前記レーザー溶接部の先端部と前記保持部とは弾性部材を介して接続されていてもよい。
【0007】
前記溶接部位と対応する位置に角が形成され、前記溶接部位を前記角の内側から溶接する場合、前記ノズルは前記角の内側に嵌る形状を有してもよい。
【0008】
前記レーザー溶接部は、さらに前記ノズルから前記溶接部位にシールドガスを噴出し、前記形状は、先の窄まった形状であってもよい。
【0009】
前記レーザー溶接システムは、前記溶接対象物が突合せ継手により接合される第1板状部材と第2板状部材とである場合、前記第1板状部材上に設けられ、前記第1板状部材及び前記第2板状部材のうち少なくとも一方との間で前記角を形成する治具をさらに備えてもよい。
【0010】
前記溶接部位と対応する位置に角が形成され、前記溶接部位を前記角の外側から溶接する場合、前記ノズルは前記角の外側に嵌る形状を有してもよい。
【0011】
前記レーザー溶接システムは、前記角の形状を認識する認識部と、互いに形状の異なる複数のノズルの中から、前記認識された形状に対応する形状のノズルを選択する選択部と、前記選択されたノズルを前記レーザー溶接部に取り付ける取り付け部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接対象物の溶接に用いられるレーザー光の位置のずれを作業者の手を介さずに補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係るレーザー溶接システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】照射器12及びアーム装置20の拡大図である。
【
図3】
図2に示すアーム装置20を
図2中の矢印で示す方向から見たI−I断面図である。
【
図4】レーザー溶接システム1の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】アーム装置20の作用の一例を示す図である。
【
図6】アーム装置20の作用の一例を示す図である。
【
図7】変形例に係る溶接対象物60の構成の一例を示す側面図である。
【
図8】変形例に係る溶接対象物60の構成の一例を示す平面図である。
【
図9】変形例に係るノズル14Aの形状の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。なお、図面においては、発明を理解し易いように、実際の寸法、形状、それらの比率とは異なる場合がある。図面に示すX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は、互いに直交する方向である。−X軸方向、−Y軸方向、及び−Z軸方向は、それぞれX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向と反対の方向である。鉛直方向を−Z軸方向としてもよい。
【0015】
図1は、本実施形態に係るレーザー溶接システム1の構成の一例を示す図である。レーザー溶接システム1は、レーザー光により溶接対象物60を溶接する。レーザー溶接システム1においては、操作者が常時操作しなくても溶接が進行する。レーザー溶接システム1は、レーザー溶接機10と、アーム装置20(保持部の一例)と、ターンテーブル30(移動装置の一例)と、制御装置40とを備える。
【0016】
溶接対象物60は、例えば中空の筒状部材61及び円盤状のフランジ62である。筒状部材61の一端には、フランジ62が半径方向に突出するように接合される。筒状部材61の外周面とフランジ62の表面とは、横断面がL字の形状を形成する。このL字の角の内側が、筒状部材61とフランジ62との接合部63(溶接部位の一例)となる。この接合部63は、筒状部材61の外周方向に沿って隅肉溶接される。
【0017】
レーザー溶接機10は、レーザー光により溶接対象物60を溶接する。レーザー溶接機10は、発振器11と、照射器12(レーザー溶接部の一例)とを備える。発振器11と照射器12とは、ケーブル13を介して接続されている。発振器11は、レーザー光を発生させる。発振器11にて発生したレーザー光は、ケーブル13を介して照射器12に供給される。照射器12は、レーザー光を照射して接合部63を溶接する。このとき、レーザー光は光学系により集光されて照射される。照射器12の先端には、ノズル14が取り付けられている。レーザー光は、ノズル14から接合部63に照射される。また、照射器12は、接合部63の酸化を防止するために、ノズル14から接合部63にシールドガスを噴出する。このシールドガスには、例えばアルゴン、ヘリウム、又は窒素が用いられてもよい。
【0018】
図1に示されるように、ノズル14は、溶接対象物60の接合部63に形成された角に嵌る形状を有する。ここでいう「嵌る形状」とは、ノズル14の少なくとも一部が角に接触し、ノズル14が止まるような形状をいう。ノズル14の形状と角の形状とは、少なくとも一部が合わさればよく、完全に合致していなくてもよい。溶接対象物60の接合部63が角の内側から溶接される場合、ノズル14は角の内側に嵌る形状を有する。また、接合部63にシールドガスを十分に供給するには、ノズル14の形状は、先の窄まった形状であるのが好ましい。例えばノズル14の形状は、中空の円筒を底面に対して斜めに切断した形状であってもよい。
【0019】
アーム装置20は、コイルばね28(弾性部材の一例)の弾性力を利用してノズル14が接合部63の角に嵌る位置に移動可能に照射器12を保持する。アーム装置20は、固定部21と、アーム22と、ホルダー23とを備える。固定部21は、発振器11に固定される。固定部21には、例えばクランプが用いられてもよい。アーム22は、ホルダー23の位置及び角度を変更する。アーム22の一端は、固定部21に接続されている。アーム22の他端は、ホルダー23に接続されている。アーム22は、回転又は移動する複数の関節を有する。アーム22の関節を回転させ又は移動させると、ホルダー23の位置又は角度が変更される。アーム22の関節を固定すると、ホルダー23の位置又は角度が維持される。
【0020】
図2は、照射器12及びアーム装置20の拡大図である。
図3は、
図2に示すアーム装置20を
図2中の矢印で示す方向から見たI−I断面図である。ホルダー23は、照射器12の中央部をZ軸方向に移動可能に−Z軸方向から支持する。ホルダー23は、板状の基部24と支持部材25とを有する。基部24は、照射器12から見て−Z軸方向に延びる。
図3に示すように、支持部材25は、第1部分25Aと、第2部分25Bと、第3部分25Cとを有する。第1部分25Aは、Z軸方向に延びる。第2部分25Bは、−X軸方向に延びる。第3部分25Cは、Z軸方向に延びる。第1部分25AのZ軸方向の端と第2部分25BのX軸方向の端とは、略直角に交わる。第2部分25Bの−X軸方向の端と第3部分25Cの−Z軸方向の端とは、略直角に交わる。第1部分25Aは、基部24の−Z軸方向の端部に固定されている。第2部分25Bと第3部分25Cとは、L字を形成する。基部24と第2部分25Bと第3部分25Cとの間には、照射器12の中央部が収容される空間が形成される。この空間は、Z軸方向に開口する。
【0021】
また、ホルダー23は、照射器12の後端部を回転可能に支持する。
図2に示すように、照射器12において支持部材25により支持される位置と後端との間には、−Z軸方向に突出する固定部材27が固定されている。固定部材27の突出した部分は、支点部材29により基部24の−Z軸方向の端部に回転可能に取り付けられる。すなわち、基部24は、支点部材29により固定部材27を回転可能に保持する。支点部材29には、例えば支点用段付ねじが用いられてもよい。
【0022】
さらに、ホルダー23と照射器12の先端部とは、コイルばね28を介して接続されている。照射器12において支持部材25により支持される位置と先端との間には、−Z軸方向に突出する固定部材26が固定されている。固定部材26の突出した部分と基部24とは、コイルばね28で接続されている。このコイルばね28により、ノズル14に接合部63方向への付勢力が与えられる。
【0023】
図1に戻り、ターンテーブル30は、その上に置かれた溶接対象物60を回転させる。例えば溶接方向が反時計回りである場合、ターンテーブル30は時計回りに溶接対象物60を回転させる。
【0024】
制御装置40は、レーザー溶接機10及びターンテーブル30の動作を制御する。制御装置40は、通信線50を介してレーザー溶接機10及びターンテーブル30に接続されている。制御装置40には、フットペダル41が接続されている。フットペダル41は、レーザー溶接機10及びターンテーブル30の動作を制御する操作に用いられる。例えば作業者がフットペダル41を踏むと、制御装置40は、ターンテーブル30を回転させ、照射器12からレーザー光を照射させる。作業者がフットペダル41から足を離すと、制御装置40は、ターンテーブル30の回転を停止させ、レーザー光の照射も停止させる。レーザー光の照射の開始又は停止は、それぞれターンテーブル30の回転の開始又は停止と同期して行われてもよい。これらの制御は、例えば制御信号を送信することにより実現される。
【0025】
図4は、レーザー溶接システム1の動作の一例を示すフローチャートである。ここでは、同じ寸法で製造された溶接対象物60A〜60Cを順番に溶接する例について説明する。ステップS1において、作業者は、溶接対象物60Aをターンテーブル30の上に置く。ステップS2において、溶接対象物60Aに対するレーザー光の位置決めが行われる。この位置決めには、例えば通常よりも弱いレーザー光を利用する方法やカメラを用いる方法等、既知の方法を用いて行われる。レーザー光の位置決めが行われると、レーザー光が接合部63に照射されるように、例えば作業者がアーム装置20のアーム22を動かして照射器12の位置及び角度を変更した後、アーム22を固定する。これにより、レーザー光が接合部63に照射される位置で照射器12が保持される。また、照射器12が保持される位置は、ノズル14が溶接対象物60Aの接合部63Aに接する位置であって、ノズル14に接合部63A方向への付勢力を与えるような位置である。ステップS3において、作業者がフットペダル41を踏むと、ターンテーブル30が回転し、照射器12からレーザー光が照射される。これにより、溶接方向に沿って溶接対象物60Aの接合部63にレーザー光が照射され、接合部63の溶接が開始される。ステップS4において、ターンテーブル30が一回転すると、溶接対象物60Aの接合部63Aに対してレーザー光が溶接方向に沿って一周照射され、溶接が終了する。溶接が終了すると、作業者がフットペダル41から足を離す。これにより、ターンテーブル30が停止し、レーザー光の照射も停止される。次の溶接対象物60Bがある場合(ステップS5の判定がYES)、ステップS6において、作業者は次の溶接対象物60Bをターンテーブル30の上に置く。
【0026】
図5及び
図6は、アーム装置20の作用の一例を示す図である。上述したように、溶接対象物60Aと溶接対象物60Bとは同じ寸法で製造されているが、製造誤差等の原因により寸法に誤差が生じる場合がある。特にレーザー光は細いため、溶接対象物60Aと溶接対象物60Bとの間で寸法の誤差があると、レーザー光が照射される位置が接合部63からずれてしまう。レーザー光の位置のずれを補正せずに溶接を行うと、接合部63が十分に溶接されない場合がある。このような溶接の不良を防止するために、溶接対象物60Aと溶接対象物60Bの誤差に追従して照射器12のノズル14が移動する。
【0027】
図5に示す例では、溶接対象物60Bのフランジ62Bは、溶接対象物60Aのフランジ62Aよりも、Z軸方向の長さが大きい。この場合、溶接対象物60Aが溶接対象物60Bに入れ替えられると、照射器12のノズル14は、溶接対象物60Bのフランジ62Bの表面によりZ軸方向に持ち上げられる。すると、
図6に示すように、コイルばね28が伸張し、照射器12は支点部材29を中心に時計回りに回転する。これにより、照射器12のノズル14は、Z軸方向に移動する。また、上述したように、照射器12のノズル14は、溶接対象物60の接合部63に形成された角の内側に嵌る形状を有する。そのため、
図5に示すように、溶接対象物60Aが溶接対象物60Bに入れ替えられると、照射器12のノズル14は、接合部63Bの角の内側に嵌る位置で停止する。ノズル14が接合部63Bの角の内側に嵌る位置は、レーザー光の中心が接合部63に当たるような位置に予め設定されている。
【0028】
図4に戻り、ステップS6の後、上述したステップS3以降の動作が行われる。このとき、上述したステップS2のレーザー光の位置決めは行わなくてもよい。このようにして溶接対象物60Bの溶接が終了した後、次の溶接対象物60Cがある場合(ステップS5の判定がYES)、ステップS6において、作業者は次の溶接対象物60Cをターンテーブル30の上に置く。
【0029】
図5に示す例では、溶接対象物60Cのフランジ62Cは、溶接対象物60Bのフランジ62Bよりも、Z軸方向の長さが小さい。この場合、溶接対象物60Bが溶接対象物60Cに入れ替えられると、照射器12のノズル14をZ軸方向に持ち上げる力が失われる。すると、
図6に示すように、コイルばね28が圧縮し、照射器12が支点部材29を中心に反時計回りに回転する。これにより、照射器12のノズル14は、−Z軸方向に移動する。また、上述したように、照射器12のノズル14は、溶接対象物60の接合部63に形成された角の内側に嵌る形状を有する。そのため、
図5に示すように、溶接対象物60Bが溶接対象物60Cに入れ替えられると、照射器12のノズル14は、接合部63Cの角の内側に嵌る位置で停止する。ノズル14が接合部63Cの角の内側に嵌る位置は、レーザー光の中心が接合部63に当たるような位置に予め設定されている。
【0030】
また、溶接対象物60の寸法に誤差がある場合には、接合部63の位置がZ軸方向又は−Z軸方向にずれる場合がある。例えばフランジ62のZ軸方向の長さに誤差があり、フランジ62の表面が平らではない場合には、接合部63の位置がZ軸方向又は−Z軸方向にずれる。このような場合にも、溶接対象物60を入れ替えた場合と同様に、溶接対象物60における寸法の誤差に追従して照射器12のノズル14が移動するため、溶接対象物60の溶接が開始されてから終了するまでの間に、レーザー光の位置がずれるのを防ぐことができる。
【0031】
上述した実施形態によれば、同じ寸法で製造された複数の溶接対象物60の寸法に誤差があったとしても、溶接対象物60を入れ替えたときに、照射器12のノズル14が溶接対象物60の接合部63の角の内側に嵌る位置にノズル14が移動する。そのため、接合部63に対するレーザー光の位置のずれを作業者の手を介さずに補正することができる。また、個々の溶接対象物60についてレーザー光の位置決めを行わなくてもよいため、作業者の手間が軽減され、作業にかかる時間も短くなる。また、複雑な構成を必要としないため、簡易な構成で接合部63に対するレーザー光の位置のずれを補正することができる。さらに、ノズル14が先の窄まった形状を有しているため、シールドガスが接合部63に十分に供給され、接合部63の酸化を防止することができる。
【0032】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。また、上述した実施形態が以下の例のように変形して実施されてもよい。このとき、以下の2以上の変形例が組み合わせて用いられてもよい。
【0033】
上述した実施形態において、溶接対象物60は
図1に示す筒状部材61及びフランジ62に限定されない。溶接対象物60はどのような形状の部材であってもよい。例えば溶接対象物60は2つの板状部材であってもよい。また、これらの板状部材が直線に沿って溶接される場合、ターンテーブル30に代えて、溶接対象物60を直線に沿って移動させる移動装置が用いられてもよい。さらに、
図7及び
図8に示すように、第1板状部材64と第2板状部材65とが突合せ継手により接合される場合、第1板状部材64上に治具66が設けられてもよい。治具66は、例えば所定の高さを有し、溶接方向に沿って延びる。治具66の側面と第1板状部材64と第2板状部材65との表面とは、横断面がL字の形状を形成する。このL字の角は、第1板状部材64と第2板状部材65との接合部67の近傍に形成される。すなわち、この角は、接合部67と対応する位置に形成される。ノズル14が接合部67に対応する角の内側に嵌る位置は、レーザー光の中心が接合部67に当たるような位置に予め設定されている。この構成によれば、第1板状部材64と第2板状部材65とが突合せ継手により接合される場合であっても、レーザー光の位置のずれを作業者の手を介さずに補正することができる。
【0034】
上述した実施形態において、ノズル14の形状は実施形態で説明した例に限定されない。ノズル14の形状は、溶接対象物60の接合部63に形成された角に嵌る形状であれば、どのような形状であってもよい。例えばノズル14の形状は、先が尖った形状であってもよいし、先の丸い形状であってもよい。また、接合部63を角の外側から溶接する場合、ノズル14の形状は、この角の外側に嵌る形状であってもよい。例えば
図9に示すように、溶接対象物60が角組手により接合される2つの板状部材68である場合において、その接合部69の近傍、すなわち接合部69と対応する位置に形成された角が外側から隅肉溶接されるときは、ノズル14Aの形状は、角に対応する形状の切り欠きを有する形状であってもよい。ノズル14が接合部69に対応する角の外側に嵌る位置は、レーザー光の中心が接合部69に当たるような位置に予め設定されている。
【0035】
上述した実施形態において、溶接対象物60が移動されてもよいし、アーム装置20が移動されてもよいし、溶接対象物60とアーム装置20とが両方とも移動されてもよい。すなわち、溶接対象物60とレーザー光を照射するノズル14とが相対的に移動されればよい。溶接対象物60を移動させる場合、移動装置は、溶接方向と反対方向に沿って溶接対象物60を移動させる。一方、アーム装置20を移動させる場合、移動装置は、溶接方向に沿ってアーム装置20を移動させる。要するに、溶接対象物60とレーザー光を照射するノズル14とを相対的に移動させることにより、溶接対象物60の溶接部位に沿って溶接するように構成されていればよい。
【0036】
上述した実施形態において、アーム装置20を動かす主体は作業者に限定されない。作業者に代えてロボットがアーム装置20を動かしてもよい。この場合、ロボットは、例えばプロセッサとメモリと駆動部とを備える。メモリには、プログラムが記憶されている。ロボットは、これらのハードウェア構成及びソフトウェア構成の協働により、駆動部によりアーム装置20を動かして、レーザー光が接合部63に照射されるように照射器12のノズル14の位置及び角度を変更する。
【0037】
上述した実施形態において、ノズル14は溶接対象物60の接合部63に形成された角の形状に応じて交換されてもよい。この場合、予め互いに異なる形状の複数のノズル14が用意され、作業者がこれらのノズル14の中から溶接対象物60の接合部63に形成された角の形状に対応する形状のノズル14を選択し、選択したノズル14を照射器12に取り付けてもよい。また、作業者に代えて、ロボットがこの作業を行ってもよい。この場合、ロボットは、カメラとプロセッサとメモリと駆動部とを備える。メモリには、プログラムが記憶されている。ロボットは、これらのハードウェア構成及びソフトウェア構成の協働により、認識部と、選択部と、取り付け部という機能を実現してもよい。具体的には、ロボットは、カメラで溶接対象物60の接合部63の画像を撮影する。認識部は、撮影された画像から画像認識技術を用いて接合部63に形成された角の形状を認識する。選択部は、認識された形状に対応する形状のノズル14を選択する。取り付け部は、駆動部によりアーム装置20を動かすことにより、選択したノズル14を照射器12に取り付ける。この構成によれば、作業者の手を介さずに、溶接対象物60の溶接に適したノズル14が照射器12に取り付けられる。
【0038】
上述した実施形態において、ノズル14に付勢力を与える手段は、コイルばね28に限定されない。この手段には、コイルばね28以外のばね、ゴム、アクチュエーター等の押圧手段、電磁的手段、空圧を利用した手段、又は自重を利用した手段が用いられてもよい。
【0039】
上述した実施形態において、ノズル14の移動方向は、Z軸方向に限定されない。ノズル14の移動方向は、X軸方向であってもよいし、Y軸方向であってもよい。すなわち、アーム装置20は、ノズル14がX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のうち少なくとも一の方向に移動可能に照射器12を保持してもよい。これにより、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のいずれの方向に溶接対象物60の寸法の誤差が生じても、その誤差に追従してノズル14が移動する。
【0040】
上述した実施形態において、「略」という用語は、製造誤差や寸法公差等の誤差を含むことを意味してもよい。
【0041】
本発明は、溶接対象物60の溶接方法として提供されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1:レーザー溶接システム、10:レーザー溶接機、11:発振器、12:照射器、14:ノズル、20:アーム装置、21:固定部、22:アーム、23:ホルダー、24:基部、25:支持部材、26:固定部材、27:固定部材、28:コイルばね、29:支点部材、30:ターンテーブル、40:制御装置、41:フットペダル、60:溶接対象物